=ルリナ視点=
その日、私はイラついていた。
原因は色々な事の組み合わせ。
始まったばかりのリーグでキバナ相手に悔しい負け方をしたことだったり、先方が急にスケジュール変更をしてきたことでモデルの仕事の予定を狂わされたり。
こんな日は泳ぎにでも行きたいけれど、海は泳ぐには少し荒れ気味。今日は用事があるので遠出をするような時間もない。ソニアも忙しいみたいだし…。
仕方ないので私はバウスタジアム前の釣り堀で釣竿を垂らしていた。
ポケモン勝負の方が好きだけど、釣りも好き。
そういえば最近は忙くて、こうして静かに釣りをすることはなかったかも。
揺れる水面を見つめていると、自然と心が安らいでいくような気がする。
海は良いわね、許されるならずーっとこうして…いや、やっぱりポケモン勝負はしたいわ。
みんなが海に来てくれればずっと海上でバトルが出来るんじゃないかしら?
スタジアムも海上に作って…移動はそらをとぶタクシーを…
ぼんやりと泡のようにくだらないことを考える。
自然とイライラはなくなっていた。うん。こういう時間も大事ね。
スッキリし始めると今度はやっぱりポケモン勝負について考えてしまう。
キバナにはどうして負けたのか、どうしたら勝てるのか。
そして、今日の勝負ではどうするか…。
「どうよ、釣れてます?」
声をかけられてハッと顔をあげる。
いつの間にか私の隣には男が座っていた。
見覚えのある男だ。軽薄そうな態度をした胡散臭い男。
ネーナジムのジムリーダー、アベリ。
複眼を意識したらしいダサいサングラスに、触覚が伸びたみたいな前髪。
むしタイプのユニフォームの上に着た長めのコートはどこか翅を思わせる。
自分の担当タイプをここまでアピールする必要はないと思うのだけれど、本人に一度言ったら「年中水着の人に言われたくない」と言い返された。
私のは技の都合上濡れる事が多いから実用性で着ているの!
プライベートでも唐突に泳ぎたくなった時に困るから下に着ている事が多いってだけよ!
「ボチボチね」
嘘だ。釣竿の事なんかすっかり忘れていた。恐らく垂らしたきのみはポケモン達に食い散らかされているに違いない。
ちょっと考え込み過ぎたみたい。お父さんにも釣りは向いてないってよく言われたっけ。意識し過ぎている時は気配が強すぎてポケモンが寄ってこないし、考えごとを始めると釣竿の事を忘れてしまう。自分でも不器用な性格だとは思う。
それでも釣りをやめろとは言われなかった。おかげで釣り自体は好きなまま。
「それで、何の用?」
「えっ?用っていうか今日……あ、じゃあ聞くけど、アメタマって持ってたりしない?」
「アメタマ?何それ?」
「ホウエンのポケモンなんだけど、ガラルじゃ全然持ってる人居なくて…」
そう言いながらアメタマというポケモンの姿をスマホロトムで見せてくれる。
丸っこくて随分とかわいらしいポケモンだ。
横に書いてあるタイプはむし・みず。それで私に聞いたのね。
「ふーん。わざわざ探してるって事は結構強いの?この子」
「へ?めっちゃ可愛いから欲しくて」
キョトンとした顔をされてしまう。
「‥‥あなたって、そういうところあるわよね」
風貌や話し方は軽薄なのだが、単にむしタイプが好きなだけ。
今までは驚くほど何も考えてないと思っていた。
でも、ある意味釣りをしている私みたいに自由な発想が出来ているってこと?
変な戦法でも臆せず試してみたり…ヤロー君もアベリと戦うといい刺激になる、とか言ってたっけ。
「ホウエンのポケモンならカブさんに聞いてみたら?伝手で譲ってくれるかも」
「あー、確かに。今度聞いてみるか」
ポケモンが好きなだけ、か。今日は結構大事な事に気付けた気がする。
これなら今日の試合はいいメンタルで望める。
バウでの試合がある時はルーティンにしようかしら。
「さっ、スタジアムに行きましょう。今日の私は一味違うからね」
さぁ今日はどんなポケモンバトルをしましょうか。
何だか新しい戦法も試してみたいような気分だ。
「それなんだけど、もう開始予定時間過ぎてダンペイさん待ってるんで急いだほうが」
「早く言いなさいよ!!」
時間を忘れられるのはいいけれど、ルーティンには向いてないようだ。