エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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イカサマ

 

黄金の山を前に不敵に笑うアベリに、サイトウは改めて敬意を覚えていた。

 

 

ニヤリと口角だけをあげた挑戦的な笑み。

先輩があの笑い方をしている時は本当に無策な時だと知っている。

だが、同時に自分はディーラーの表情からも敗北を読み取っていた。

 

つまり、先輩は敗北必至の窮地でありながら、まだ相手を追い詰める一手を打ち続けているという事になる。

そして、その一手がディーラーを確かに追い詰めているようだ。

 

 

ゲームの趨勢は理解出来ていない。

こういったギャンブルにはまるで明るくない故だ。

コインの山が立ち並ぶテーブルは一見すると先輩の優勢のように見えるが、戦っている二人から感じ取れる雰囲気は全くの別物だ。

感じ取れるものだけを信じるならば、勝負は全くの互角。

恐らく自分には理解出来ない駆け引きがあるのだろう。

 

もっとこのゲームに詳しければ駆け引きの内容も理解出来たに違いないと思うと、見識の浅さに歯がゆくなった。

こういった遊びの中からもポケモンしょうぶに活かせるものがあるに違いない。

 

今は少しでも目の前の戦いから学ぶべきものを吸収してみせよう、と分からないなりにテーブルの状況へと集中する。

その時、先輩を挟んで向こう側に座っている少女が手元の何かを見ている事に気付いた。

 

恐らく同年代くらいのココドラの仮面をつけた少女…仮面パーティーでは名を明かさないのもマナーらしいので、ココドラさんと呼んでいる…はコインの山と見比べるようにそれを見ているようだった。

お面越しだが、こちらが見ている事に気付いたのだろう。

可愛らしく笑いかけ、見ていたものを見せてくれた。

 

「ねっ!チョーやばいよこれ。「ぎんのおうかん」とかあんだけど」

 

ゲーム中の先輩の邪魔にならないように見せてくれたのはタブレットのような機器だ。

機械類は苦手だが、彼女が見せてくれたのは分かりやすいものだった。

 

このカジノの景品カタログだ。

 

コイン数千枚で交換できるわざマシンや貴重な石。

数万枚から上はもう聞いたことがないような品も多い。

「これは、凄いですね」

だが、分かる景品だけでも高級品であることは窺える。

テーブルのコインを確認すれば、もう先輩のコインはそれら高級品を軽く交換出来る量にまで達していた。

「これとか見てよ。『メタルコート一年分』、だってさ!チョー贅沢じゃない?セレブって感じ!」

ココドラさんが明るく笑う。

確かに書いてある。

メタルコートは一部のポケモンに特殊な進化をもたらす金属として有名だ。

はがねポケモンの瑕の補修やコーティング剤としても使われると聞くが、貴重であるため滅多に使うものでもない。

一年分、と言うのが具体的にどのくらいの量なのか想像も出来ない。

確かに、と笑い返そうとして、鍛えられた五感が不思議な違和感を捉えた。

 

 

テーブルの周囲にある人混みの中から近づく気配。

ふらりと人混みを自然体で潜り抜けた誰かが無造作にテーブルに近づいてくるのだ。

余りに無造作。余りに自然体。

そんな立ち振る舞いが違和感としてサイトウの五感を刺激している。

 

現れたのはツチニンの仮面を着けた老人だった。

服装は特に特徴のないすらっとしたシルエットのスーツ。

皺の刻まれた手や真っ白に染まった髪なのに、立ち振る舞いにはエネルギッシュなものを感じさせる。

 

警戒すべきかどうか逡巡している間に老人はそのまま先輩の背後で立ち止まった。

先輩はどうやら気付いていない。

そして、後ろからテーブルをジロジロと眺めている。

 

(この人、ただものじゃない…)

 

少なくとも数えきれない修羅場を潜り抜けている。

鍛え上げたトレーナーとしての感覚が目の前の老人への警戒レベルを上げていく。

だが、サイトウの目が老人を測り切るより先に、動いたのは老人の方だった。

 

 

「何してんだジャリガキ」

 

老人が、座っている先輩へとぼそりと声をかける。

声は小さく、先輩と隣に座っている私達くらいにしか聞こえなかっただろう。

だが、低く響いた声に先輩は数秒固まってから振り向いた。

 

「‥‥‥は?」

信じられないものを見る目。

受け入れがたいものを聞いた声。

震えながら振り返る先輩の姿はサイトウにとって初めて見るものだ。

 

だから、判断が遅れた。

目の前の人物が何者なのか、先輩との関係は何なのか。

そんな事に意識が向いて。

 

 

 

そこから先の出来事は、本当に一瞬だった。

 

老人は素早い動きで振り返った先輩の腕を掴む。

そのまま掴んだ腕を観衆によく見えるように上へと掲げた。

痛みに顔を顰めるその顔へ一瞬だけニヤリと笑い、すぐに真剣な顔に戻して声をあげた。

皆に言いふらすように、見せつけるように。

 

 

 

 

「こいつ、イカサマしてるぞ!!」

 

そして、掴まれた先輩の袖口からカードが落ちる。

 

その姿はまるで手品師がタネを暴かれたかのようだった。

 

 

 

先程までざわめいていたテーブルの周囲。

それが一瞬、嘘のように静まり返り。

 

「‥‥はぁぁぁぁぁ!?」

 

ざわざわざわっ!

先輩の困惑した叫びと共に爆発するかのように観衆からも声があがった。

「なっ!」

サイトウの動体視力はしっかりと事態を把握していた。

あの老人は先輩の腕を掴みながら、袖口の中にカードを仕込んだのだ。

 

 

そして、腕を掲げながら、さも先輩の袖口からカードが出てきたかのように観衆に見せつけた。

 

 

ゲームの趨勢は分からなかったが、勝負に置いて「イカサマ」が重罪であることはアスリートであるサイトウには痛いほど分かる。

 

先程まで先輩の勝負を応援していた観衆達が一転、責めるように囲い始めた。

「おい俺はイカサマなんて!」

当然先輩だって反論しようとするが、周囲のざわめきに掻き消されてしまう。

サイトウは真犯人である老人を捕まえようとするが、気付けば既に人混みの中へするりと姿が埋没している。

 

追うべきだ、と思うが、老人と入れ替わる様に人混みをかき分けてモンスターボールを腰に付けたトレーナーがやってきている。

恐らく、会場の警備をしているスタッフだ。

元々このテーブルはカジノでもかなり注目されていた。それでスタッフの動きも早かったのだろう。

 

「騒ぐな!大人しくしろ!」

スタッフの横には既に臨戦態勢になったコイルが控えている。

バチバチと流れる電流は、抵抗の意思を見せれば即座にこちらに襲い来るだろう。

それでも、サイトウ達の実力ならば一旦退けるくらいは可能だが―――

 

「くっそ。分かったよ。暴れないから、話を聞いてくれよ」

 

先輩が両手を上げながらそう言う。

その判断は正しい。

悔しいが、確かに抵抗したところで弁明は更に難しくなるばかりだ。

 

混乱する状況に落ち着かなければと気を静めようとするが、上手く行かない。

「いいか!大人しくするんだ!」

「おい!暴れてないってば!」

乱暴に先輩を抑え捕らえようとするスタッフに思わず間に入ろうとする。

 

見た所警備員はトレーナーではあるが、体は鍛えられていない。

自分ならば先輩への手出しを止めながら、安全に同行出来るはずだ。

 

 

 

「おい、待ちな」

 

背後から声がして、その足が止まった。

先程聞いたばかりの声。

だが、振り返ってもそこに老人の姿はない。

「くっ…!」

追うべきか。追わないべきか。

咄嗟の判断が求められたサイトウは、もう一人へと声をかけた。

「ココドラさん。先輩のことをお願いします!」

「え!えー!どどどーすんのこれ!」

困惑しながらも連行されていく先輩を追いかけてくれている。

 

(先輩は落ち着いていたし、いざとなればジムリーダーであることを明かせば問題ないはず)

 

後ろ髪を引かれながらも連行されていく先輩に背を向けた。

自分に言い聞かせるようにして、人混みの中へと突撃していく。

 

滅多にない「大事件」に色めき立ちながらどんどん集まって来るカジノエリアのセレブ達。

その流れに逆らうように歩く。

日々しっかりと鍛錬している強靭な体幹ならば全く苦ではない。

 

 

歩いて抜けた先で、キョロキョロと見渡せば。

探していた老人は呆気なく見つかった。

 

騒動のせいでディーラーまで席を離れているテーブル。

ツチニンの仮面を着けた老人はそこで悠々と我が物顔で座り込んでいる。

手に握ったコインケースを見つめており、こちらには見向きもしない。

 

「ご老人!先程のは…」

「お前、あいつの連れか?」

 

問い詰めようとした矢先、緊迫感のない問いかけで調子を外される。

 

「さっきの事なら気にすんな。すぐに出てくる。ここの運営には顔が利くからな」

 

言葉に詰まっている間に老人はテキパキとこちらの疑問を片付ける。

話しながら手元のコインケースを弄び、「ちっ、電子じゃ換金が面倒だな」とぼやく。

 

「…あなたは、先輩を陥れたのでは?」

 

頭の中を整理しながら、目の前の老人に確認すると、「はっ」と鼻で笑われた。

 

「ちょっと目立ちすぎてたから片しただけだ。注目は集めたが、あのまま勝ち続けるよりマシだったんでな」

老人はこちらの問いに即座に返してくる。

「お互い、目立たない方が身のためだろうが?」

 

だが、老人が話す度に一つずつ疑問点が増え、後手に回ってしまう。

「お互い、と言うのは?」

老人はもう一度鼻で笑う。

「おいおい、あのババア。何も説明しちゃいねえのか?」

その言葉にサイトウはカジノにポプラの姿を探してしまうが、見つからない。

「あの鼻の利くババアはな。この『かつてのリーグを想う会』を怪しんで調査に来てんのさ。それがお前らの目的だ」

「ポプラさんとお知り合いなのですか?」

「…昔ちょっとな」

老人は今度はふんと不機嫌そうな態度を取る。

その様はどこかサイトウも知るポプラに通じる所がある気がして、説得力があった。

 

「あなたは、一体何者なのですか」

 

ずっと思っていた問いをついに投げかける。

すると老人は先程テーブルに居た先輩と同じようにニヤリと笑い、懐から一枚のカードを取り出す。

老人の顔写真が貼られた身分証。

そこに書かれている驚きの内容に目を見開く。

 

 

 

 

 

「国際警察のタラクサだ。ガラルリーグから要請を受けてやってきた」

 

 





警察を詐称したり、警察手帳を偽造する事は立派な犯罪です


国際警察
地方を越えて活動してるっぽいポケモン世界の警察組織。
各地で悪の組織を追っている人達…ほとんど一人だけど。
簡単に言うとICPOだが、やってる事的にはジェー○ズ・ボ○ドが近いかもしれない。


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