エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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ばけのかわ

「この前の公演、拝見いたしました!素晴らしい演技と斬新な舞台演出で!まだまだポプラさんの劇団は挑戦的だなと…」

 

「嬉しいね。本題を言いな」

 

「はい!この度、私共のプロダクションから新人アイドルトレーナーを…」

 

 

目の前でペラペラと口と手を忙しく動かす芸能プロダクションの社長の話を聞きながら、ポプラは会場へと油断なく目を動かした。

ここはカジノエリア内に用意された休息所。

机の上にはカードやらダイスが転がっているが、遊んでいる者は少ない。

ここに居るのは娯楽にさえ飢えていない一段上の富豪達。

仮面こそ着けているが、あちらこちらに知った顔が見える。

 

だが、探している顔は中々見つからない。

 

(来るかと思ったんだがね)

 

ポプラの知るあの男。

性根の腐ったイカサマジジイならば、このパーティーを狙うだろうと予想を立てていた。

「かつてのリーグを想う会」の隆盛は今かなり高まっている。

危険な匂いのする集団だが、奴が見ればブクブク太った食い時に見えているはず。

 

そんな稼ぎ時をあのタラクサなら見逃すまい、と思っていたのだが。

 

 

「こりゃ本格的に尻尾巻いて逃げ出したかね」

 

だとすれば、戻ってくる事はあるまい。

あの『ふしぎなおくりもの』は、あいつなりの別れの挨拶だったのかもしれない。

 

逃亡からもう数年。生きているかも怪しい。

どこかの路地裏で転がっていても、それが相応しい末路の男だ。

「…ですので、是非ポプラさんの公演にも…どうかされましたか?」

思わず漏らした独り言に芸能プロダクションの社長が怪訝な顔をする。

「いや、何でもないよ。今日は久しぶりにワインでも飲もうかと思ってね…」

 

もしあの男が死んでいたら、彼に憧れてジムの門を叩いた青年は悲しむだろう。

だけど、きっとそれを誰かに明かす事も分かち合う事もなく過ごす。

そう思うと少し、ワインでも入れたい気分になった。

 

「でしたら。先程ボーイがパルデア産の良いワインを…」

 

その時である。

ワァッ!と大きな歓声が上がった。

まるでリーグの試合で大技が決まったような興奮。

観客が何か一つのものに夢中になっている時の声だ。

どこかのテーブルに多くの人が群がっており、そこで何かが起きたのだと察せられる。

「珍しいですね。誰か有名人が遊んでるのでしょうか」

 

「ある意味では、そうだね」

 

「え?」

すぐに立ち上がり、騒動の起こったテーブルへと向かう。

何が起きたのかは知らない。

しかし、何かが起こったのなら、そこには恐らくアベリが居て、タラクサも来ているはず。

アベリと言う見え見えの餌でも、あえて食いつくのがあの男だ。

 

 

 

 

「おや、急いでどちらに行かれるのですか?ご婦人」

 

その行方を阻むかのように立ち塞がるものが居た。

煌びやかな貴族風の衣装を着たメタングの仮面の青年。

カジノに来る前、船上デッキで見たばかりの顔である。

 

「これはこれは。本日はお招き頂いて感謝申し上げるよ」

軽く頭を下げてやると青年はわざとらしい仕草でそれを止める。

「ご婦人、今日は無礼講です。そのための仮面ですので」

ニコニコとした人当たりの良い笑みでそう囁く。

 

(うちのオーディションなら、残念ながら失格だね)

見所はあるが、演技に幅がない。

お堅く気取っただけの典型的な貴族の顔。

もっと硬軟入り混じり多面性のある方がポプラの好みだ。

「無礼講ですので、私が無礼を働いてもどうか「なみのり」のように流していただきたく」

 

 

「ん?あんた、もしかしてポプラばあさんか!」

 

 

メタングの青年の言葉を遮って、背後の男が前に出る。

余りにも大柄なので、腰の曲がったポプラは見上げるようにその顔を見やった。

肉体をギリギリ収めたであろうピチピチのスーツを着た大男は、ボスゴドラの仮面だ。

 

「あー名乗っちゃアレだったな!オレだよオレ!覚えてっか!昔何度も会ってるんだけどよ!」

 

隠し事に向かな過ぎる大声で話しかけてくる。

内容はまるで特殊詐欺の電話口だが、彼に悪意はない事もよく知っている。

 

「忘れたくても難しいよ。相変わらず背も声も大きい男だね」

「ばあさんこそ相変わらずの減らず口!元気そうでよかったぜ!」

 

懐かしい再会に楽しそうな大男。

その背後のざわつきが気になるが、動きづらい。

さりげなく進路を防ごうとしたリアンは元より、ピオニーがこうも騒いでは姿を隠すことは難しい。

 

(…まぁいいさ。船は出航したばかりだしね)

 

わざわざ現れたのなら早々に消える事もないだろう。

アベリの近くには護衛のサイトウを配置しているし、滅多な事にはならないはずだ。

 

「今日は素晴らしい夜です。ガラル最高のチャンピオンにガラル最高のジムリーダー。こちらが用意するガラル最高のパーティーがお二人に釣り合えばいいのですが」

 

「ダッハッハ!言いすぎだぜ!リアン!確かにパーティーはド・最高だけどな!」

 

 

滑るように軽い言葉を話すはがねジムの現ジムリーダー、リアン。

 

長年ジムリーダーをしているポプラは彼がジムチャレンジをしていた頃から知っている。

ガラル貴族の生まれだが、実家との折り合いが悪く、家から飛び出すようにジムチャレンジに参加していた。

 

(チャレンジ後すぐにはがねジムに入らなければ、声をかけていただろうね)

 

あのプライドの高さとひねくれ方は、かなりポプラも気に入っていた。

はがねジムに入ってしまった時は非常に悔しい想いもしたが、後に再会したリアンはあの頃の気骨など見る影もない典型的なガラル貴族となってしまっていた。

 

それから、実家のコネクションなどを全力で駆使して「かつてのリーグを想う会」を大きくしていったのだ。

 

 

(何を考えているのか…は何となくわかるね)

 

具体的な方法までは分からないが、彼の目的はピオニーを見上げる眼差しの輝きで分かる。

その辺りの事も探るつもりで来たのだ。

ちょうどいいのだから同行する事にした。

 

「それじゃあ、ガラル最高のエスコートを期待しようかね」

 

乗ってやるとリアンは一瞬だけ驚いた顔を見せたが

 

「ええ。最高の舞台と役者が整うのです。今夜こそがガラル最高の夜になるとお約束します」

 

 

すぐに表情を笑顔の仮面に戻して一礼をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

ドタドタドタ!

二匹のポケモンが廊下を走る音が廊下に響く。

 

ポケモンは二匹ともそれぞれが二足で走っているが、シルエットはまるで違う。

 

片方のポケモンは尾のように長い首の先に魚のような頭部が付いている。

もう片方のポケモンはずんぐりとした胴体へ小さな鳥を埋めたような姿をしていた。

 

 

まるで恐竜の下半身に魚や鳥が生えてきたかのような姿をした二匹は、楽しそうに廊下を走る。

 

「ガボボボ!ガボボボ!」

「クチュン!クチュン!」

 

速度の差は歴然である。

魚頭のポケモンの方が全身を振り回すかのようなダイナミックさで駆けていく。

不安定な頭がグワングワンと落っこちそうになっているが、動きに躊躇いはない。

 

対して鳥頭のポケモンは寒さに震えるようにしながら、えっちらおっちらと脚を動かしている。しかし鼻を垂らしながら楽しそうに前方を走る魚頭を追いかける。

 

二匹の競争は長い廊下のカーブに差し掛かる。

先を悠々と走る魚頭がまずコーナーに差し掛かり

 

「ガボガボボ!?」

 

足元にあった『おもちゃ』に脚を引っ掛けて転んでしまった。

全力で走っていたため、かなり勢いよく転び正面の壁へと激突。

魚頭の突撃を受けた壁が少し崩れた。

 

「クチュン!ズビズビ!」

 

無様なこけっぷりに後ろで見ていた鳥頭が笑う。

転んでしまった魚頭はぬぼーっとした顔で倒れたままだ。

その魚頭の顔を見て、鳥頭が更に笑い、鼻先で垂れる鼻水が大きく揺れる。

 

「ガボボボ!ガボガボ!」

数秒置いて魚頭も笑う。

特に理由はなく、楽しい気分になったので笑った。

 

 

ピーーーーー!

 

甲高い笛のような音が、二匹の耳に届いた。

 

教えてもらった集合の合図だ。

怒られない内に早くいかなくては。

 

慌てて駆けだそうとする魚頭を、鳥頭が呼び止める。

「クッチュン!」

足元に転がる『おもちゃ』が散らばったままだ。

常日頃からお片付けについてはうるさく言われている。

 

だけど、呼ばれたからには早く音のした方に向かわなくては。

 

二匹は頭を捻って考える。

「ガボボボ!ボボボボボ!」

そして、魚頭が名案を思い付いた。

 

またもう一度戻ってきて、その時に片付ければいい。

さっき転んだ時に壁を崩してしまったから、すぐに分かる。

 

素晴らしい案に鳥頭も賛成した。

 

 

「ガボボボ!ガボボボ!」

「クチュン!クチュン!」

 

そして、二匹のポケモンがどたばたと駆けていく。

 

 

 

 

 

 

二匹が遊んでいた廊下には、十数人のトレーナーとポケモン達が倒れていた。

 

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