エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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時系列は若干前後しています


かじばどろぼう

 

 

 

「かつてのリーグを想う会」、ひいてはティータニック号の警備部門は混乱の渦中にあった。

 

「カジノでイカサマ騒ぎ?」

 

スマホロトム圏外でも使える無線機に新たなる連絡が入る。警備部門のリーダーは報告を聞きながら、苛立った様子でトントンと指が机を叩いていた。

 

()()()()()どうだっていいだろ!例の牢屋にでも拘置して戻って来い!」

 

怒鳴るように指示を返し、無線機をソファーに叩きつける。

「くっそ…近くにブルンゲルが浮いてたりしないだろうな」

 

ブルンゲルは海中で暮らす大きな浮きのようなポケモンだ。彼らは沈没船を棲みかにすることを好んでおり、これから沈む船に近づいてくると船乗り達の間で噂されている。

 

ティータニック号はガラル最大級の豪華客船だ。そう簡単に沈むわけがない。

が、何かよくない流れを警備部門のリーダーは感じ始めていた。

 

 

 

先ほど、甲板で警備員二名が昏睡状態で発見された。

 

彼らは身ぐるみを剥がされて、《クモのす》で縛られた姿でぐっすり眠っていた。

戦闘の跡すらないので、《ねむりごな》等のポケモンの技で鮮やかに眠らされてしまったのだろう。

急ぎ船内の警備員達に連絡を取り、警戒態勢を敷こうとした。

 

そこで、船内の警備員とも何名か連絡が取れない事が判明。

 

戦慄した。

侵入者だ。

しかも手口はかなり巧妙でイヤらしい。

 

広大な船内をカバーするため、どうしてもスタッフ同士はバラバラに配置せざるを得ない。

 

つまり、連絡が取れなくなった場合、事態の把握のために他のスタッフを送り込む必要があるのだが、これに人手を奪われてしまえば人員の配置は更に厳しくなる。

 

元々「かつてのリーグを想う会」はトレーナー不足に悩まされていた。

警備部門の主なメンバーははがねジムのジムトレーナー達。皆、力量は申し分ないのだが、他ジムと比べて多いとは言え数十人程度では限界がある。

 

侵入者はその弱点を的確に突いてきている。

 

後手に回り続け、侵入者の本格的な捜索すら始められていない。

一応リアンへと報告はしたが、正体不明の何者か、としか言えなかった。

叱責はなかったが、なかった事の方がむしろ惨めさを痛感させられてしまう。

 

「今日はピオニー様もいらっしゃっているんだぞ!」

 

頭を抱えると、自分の手持ちであるドーミラーが心配そうに顔を覗き込んでくる。

今すぐ自分も事態の確認と侵入者の捜索に加わりたいが、リーダーである自分が軽率には動けない。

 

今、警備部門のリーダーが居る部屋は船内で使っている無線機の中継局であり、報告は全てここに集まるようになっている。

ティータニック号は広大すぎるため、無線機同士の通信では届かない範囲が存在してしまうのだ。

 

もどかしいが、自分以外の待機要員は全員動かしてしまった。

何か有益な報告を待つ以外、出来ることがない。

 

 

「どーもー。お邪魔するーよ」

 

ガチャリと無遠慮に部屋のドアが開かれる。

姿を現したのは所々に泥のついた薄汚い白衣の女性だった。

顔は知っている。『計画』の最重要協力者として、リアンからは聞いていた。

例の最終手段の準備には化石復元の技術を持つ彼女の協力が欠かせないらしい。

見るからに人間的に問題がありそうなので、個人的な付き合いはない。

 

「ウカッツ博士?何故ここに…」

 

疑問を投げかけようとして、思い出して顔をしかめる。

そういえば下層で研究をしている科学者達から「実験ポケモンの脱走」について報告されていた。

確か偽造…いや代替メタルコートの実験に使用したポケモンだったか。

 

それを捜索するように警備部門へと通達が来ていた。

残念ながら特に進展は起きていない。

その後、侵入者が発覚して手一杯になっていたのだ。

 

ウカッツは、進捗の確認と催促に来たのだろう。

 

「申し訳ない。スタッフも尽力していますが、例の実験体はまだ見つかっていません」

 

嘘は言っていない。

実際に警備部門は船内を必死に捜索している。探しているのは侵入者の痕跡だが、その過程で実験体を発見したという報告も上がってきていないのだ。

 

申し訳ない気持ちも本当なので、素直に頭を下げた。

だが、ウカッツは何故か満足そうに自分の肩をポンポンと叩いてきた。

 

「いやーご苦労ご苦労。お疲れ様だね」

 

正直ウカッツは全体的に汚れているため、非常に不快なのだが、はね除ける訳にもいかない。

この人は問題児だが、今失態を晒しているのは警備部門だ。

 

しばらく黙って肩を叩かれていると、ウカッツはやはり満足そうな表情をして離れる。

 

「うんうんなるほど」

 

この人、何しに来たんだ?

まさか本当に労いに来ただけなのか?

今忙しいので早く帰って欲しいのだが。

 

そんな念が通じたのか、ウカッツは軽く部屋の中を見渡してから、すぐに踵を返した。

 

「それでは!精一杯頑張ってくれたまえよ!」

 

元気に挨拶をすると廊下へと子供みたいな走り方で出ていくウカッツ博士。

 

「あの人、暇なのか…?」

大変失礼な発言だが、偽らざる本心だった。

人が忙しいときに何をやってるんだ。

しかし、あの人に手伝って欲しいとはあまり思えない。もっと厄介ごとが増えそうな気がするからだ。

 

 

 

複数の通信機が一斉に鳴ったのは、ウカッツが出ていった数秒後のことだった。

 

 

 

 

『こちら第二発電室!バチュルだ!バチュルが電気を食い荒らしてる!何匹居るか解らん!応援を寄越してくれ!数が多すぎる!』

 

 

『カジノエリアでギャンブルに負けたサイキッカーが暴れて手がつけられない!持ち上げられたディーラーも何か様子がおかしい!至急応援求む!』

 

 

『Zzzzzzzzzzzzzzz…』

 

 

『見たことないポケモンに襲われたわ!わ、私のモグリューちゃんが一撃で!ア、アゴ…いや、エラ…?とにかく助けて!怪物よ!』

 

 

『聞こえるか?実験体の痕跡らしきものを見つけた。あいつ、排気口を使って移動してるみたいだ。うちのコドラじゃ追うのは難しい。誰か応援を回してくれ』

 

 

『あーもしもし?もうすぐオークションが始まるのに肝心の化石ポケモンが何匹か届いてないんだが…』

 

 

『あぁ!海に!海に!』

 

 

 

『Zzzzzzzzzzzzzzzzzzz…』

 

 

 

 

リーダーは船内の地図を引っ張り出して、慎重に確かめた。

 

脱出艇までの最短経路を、しっかりと思い出すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人工ポケモン、ですか?」

 

 

前をスタスタ歩いていく背中に、サイトウは今言われた言葉を聞き返す。

 

国際警察であるというタラクサに協力を要請されたサイトウは、捜査に協力するため警察が先んじて入手した組織の情報について聞かされていた。

 

 

「ああ。イッシュに昔、プラズマ団ってクソヤロウ共が居てな。そいつらが考案した『ポケモン兵器』って奴だ」

 

 

プラズマ団、という悪の組織自体には聞き覚えがある。

遠い地方の事だが、ガラルでも大々的にニュースにもなっていた。

表向きはポケモン解放を謳いながら、裏ではポケモンの強奪などを繰り返した非人道的犯罪集団だ。

 

「組織自体はマヌケなボスのお陰で壊滅したが、研究員やら研究資料は残ってた。それに高い金払うバカがガラルには居たわけだ」

 

「…リアンさん達、ですか?」

 

同じジムリーダーとして、信じがたい。

リアンはリーグと反目こそすれど、独立独歩の方針を進む尊敬出来る先達の一人だ。

 

「はっ。誰が話を持ち掛けたかまでは知らんがな」

 

老人は一度も振り返らずにスタスタと歩き続ける。

勝手知ったる道、そんな態度だ。

が、ここはスタッフ用の連絡通路であり、本来招待客が通っていい場所ではない。

既に『関係者以外立入禁止』と書かれたドアをいくつも通りすぎている。

 

恐らく内部情報を詳細に熟知しているからこその動きだろうが、堂々としすぎていてヒヤヒヤしてしまう。

 

「とにかく、『かつてのリーグを想う会』は裏では人工ポケモンの研究、開発をしてやがる。狙いは…」

「ローズ委員長の打倒…」

 

信じたくはない。

信じたくはないが、はがねジムと現リーグの対立は広く知られている。

ジムリーダーがそんな暴力的な手段を取るなど考えがたい。しかし、リアンとマクロコスモスが十年以上断絶していることも確かだ。

深くなった溝を思えば、サイトウでさえも「あり得ない」とは言いきれなかった。

 

「…ふん。そういうことらしいな。あくまで交渉のカードか、それとも本気でガラルを焼き尽くすのか」

 

「そんなこと…!」

 

炎に飲まれたガラルをイメージし、義憤から拳を強く握る。

もしそうなら、いや、そうでないとしても、凶悪な計画はジムリーダーとして止めなければいけない。

 

「ま、儂ら国際警察はそれを止めるために来たってこった。協力してもらうぜ、ジムリーダー」

 

国際警察。

実のところ、実際に会うのはタラクサさんが初めてだ。

勿論、リーグからジムリーダーがこういった協力を要請されることもあると説明は受けていた。

正直今回一人では荷が重いと思い、ポプラさんにも声をかけたかった。

が、既に姿はなく、タラクサからも「あのババアは目立ちすぎる」と反対されてしまった。

 

国際警察とは地方を越えて犯罪を追う秘密のエージェントのような存在。

タラクサの立ち振舞いは想像していた国際警察とは違ったが、持っていた身分証はガラルリーグが緊急用に手配する正式なものだった。ジムリーダーの協力を得るためにリーグが発行したのだろう。

 

「ちっ、生意気に電子ロックか」

 

一際重厚そうな扉を前に舌打ちしている姿は、やはり警察とは思えないが。

 

行く手を阻む扉にはカードリーダーのようなものがついており、どうやらカードキーを持ったスタッフしかこの先に行けないらしい。

パーティー用ではない、組織の中核に近付いている…ということだろうか。

コンコンと叩いてみると厚みはそれなりのようだ。

これならば。

 

「ちと待ってろ、今…」

「やれます。蹴破りますか?」

 

うっかりタラクサの言葉を遮ってしまった。

呆れたように眉をひそめるタラクサにすみません、と頭を下げる。

 

「お前、かくとうジムか」

「?はい」

ガラルリーグから聞いていたから私に声をかけられたのでは?

老人はため息をついて「いい、下がってろ」と言った。何か考えがあるようだ。

 

「おい、仕事だ」

 

呟きに答えて、タラクサのスーツの袖から小さな影が飛び出す。カードリーダーへと張り付いたのは小さな黄色い毛玉。

 

バチュル。でんきタイプのむしポケモンだ。

張り付いたバチュルは忙しなく脚を動かしながらモゴモゴと口を動かし始めた。時折、バチバチと電気の流れる音がする。

詳細は解らないが、この子が開錠してくれるらしい。

 

「ちょっくらかかる。大人しくしてろ」

そう言うとタラクサは廊下の壁に背中を預けてしまう。

今、この場所へスタッフが来てしまったらと思うと凄い肝の据わり方だ。

この老人がただものではないことだけはやはり間違いない。

自分はそこまでには至れず、つい誰か来ていないかと廊下を警戒してしまう。

 

「おい、今のは『待て』って意味だ。変なことするんじゃあねえぞ」

 

落ち着きがないと思われてしまったらしい。

まだまだ精進が足りない…。

 

「ったく…どういう趣味してやがんだ、あのジャリガキ…」

 

老人はぼやくように呟いた。

意味はよくわからなかったが、ジャリガキという単語には聞き覚えがある。カジノでアベリ先輩に対してそう呼び掛けていたはずだ。

 

そして、先輩もタラクサの事を知っている様子だった。

「タラクサさんはアベリ先輩とも、お知り合いなんですか?」

あの時の先輩の態度は尋常ではなかったと思う。タラクサはポプラさんとも知り合いだと言っていた。昔、事件か何かで知り合ったのだろうか?

 

「先輩?…はっ。あのジャリガキが先輩ね…」

老人はサイトウの問いには答えず、鼻で笑うとそっぽを向いてしまった。

 

仲は…よくなかったのだろうか?

 

それ以上踏み込むのもよくない気がして、サイトウも沈黙する。

バチュルが鳴らすバチバチという小さな作業音だけがしばらく続いた。

「なぁ」

顔はそっぽを向いたまま、タラクサが話しかけてきた。

 

「あいつ、最近どうなんだ」

 

 

「先輩…ですか」

仲が悪い…訳ではない…?

よく解らないが、問いには答えられる。

 

「日々精進しておられますよ。最近ではオープン戦を8位で終えて結果も出されています」

 

サイトウが知っているのは本当にごく最近のアベリだけだ。語れることは少ない。

だが、老人は「そうか」と返した。

 

「はっ。あんなのが8位とは、ガラルリーグもレベルが落ちたな」

 

常日頃であれば眉をひそめる発言だ。

きっとサイトウも訂正を求めていたに違いない。

しかし、不思議とそんなに嫌な気分にはならなかった。老人は顔を背けたまま、もう一度「そうか」と呟く。

 

扉から電子音と共にガチャリという音が鳴ったのはすぐだった。

そして、老人がドアノブを下ろすと扉は簡単に開いてしまう。

 

「凄いですが、恐ろしくもありますね。バチュルにここまでの事が出来るとは…」

 

バチュルは都市部にもよく現れるポケモンだ。

発電に被害が出る事はよく聞いていたが、電子機器に意図的な不具合を起こせる事までは知らなかった。

 

「ただのバチュルには出来ねえから安心しな。コイツは、国際警察の特殊な訓練って奴だ」

 

バチュルを仕舞いながら、そんな事を説明してくれる。

 

なるほど。

確かに今のように潜入をする際にあのバチュルは非常に頼りになるだろう。

流石国際警察。しっかりと備えている。

 

「おい、さっさと行くぞ」

 

感心している内にタラクサは電子ロックのかかっていたドアを通り、悠々とその先の階段を降りている。

潜入と言うのはもっと慎重に行うものと思っていたのだが…大胆さも大事らしい。

やはり実戦に勝る経験はないようだ。学びばかりである。

 

「さーて、こっからが本番だ。金目の‥‥悪事の証拠を総ざらいだ」

国際警察では悪事の証拠にも値段がつくのだろうか?

 

「私もお役に立てるよう尽力します」

 

「はっ、ボディーガード兼、旅先の新聞みたいなもんだ。気にするな」

 

「???」

 

サイトウも続いて階段を降りようとして

 

 

ぐらり。

 

大きな揺れを感じた。

幸い倒れるような事はなかったが、突然のタイミングだ。

更に、何か身体にかかる重圧に先程とは変化が起きている。

普段感じる事のない感覚だ。

 

「あぁ?」

踊り場で近くの壁を支えにしたタラクサも怪訝そうにしている。

「今の揺れ、何かあったのでしょうか」

少し変わった感覚はするが、行動に支障はない。

階段も問題なく降りる事が出来た。

 

「‥‥どっかのアホが船の速度を馬鹿みたいに上げやがったな」

 

ここには窓などはない。

海の様子やそこを走る船を見る事は出来ない。

だが、タラクサは思案しながらも確信を持った言い方をした。

言われてみれば、今も身体に感じる軽い圧は高速で移動する乗り物に乗った時のそれに近いかもしれない。

 

「馬鹿貴族共は遊覧船として使っちゃいるが、元々は地方間の大陸移動船だからな」

 

それなりに速度が出る、とタラクサ。

ティータニック号は確かシンオウで造船されたと言っていた。

元々各地を旅していた船だったのだろう。

「アホが何をやりたいのかは知らねえが…」

 

はっ。と老人は鼻で笑った。

 

 

 

 

 

「稼ぎ時だ」

 

 

 

 

(第二部のラスボス)だーれだ?

  • リアン
  • タラクサ
  • ウカッツ
  • アベリ
  • ハッサム
  • Its Pikachu!!!!!
  • その他
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