エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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こだいかっせい①

 

『たった今、この船は私、化石研究者ウカッツが乗っ取りもうした!』

 

 

ハッサムを探して船内をうろうろしていると、唐突に変なアナウンスが流れた。

何かのイベントか?案内状には書いてなかったけど。

脱出ゲーム的な…。

 

ん?今、ウカッツって言ったか?化石研究がどうとか?

 

 

『ワケを話そう!あれは今から数年前、自分は初めて化石を…いや、十数年前…?数十年前…ちょっと待ちたまえ!思い出すから!』

 

 

何かグダグダしている自分語りを聞き流しながら、頭の隅に引っかかったものを拾い上げる。ウカッツと言う名前に俺は心当たりがあった。

 

「ウカッツって『あの』ウカッツ博士か?」

 

「アベリ、このヒト知ってんの?」

隣のギャル、シャクヤの問いかけに頷く。

アナウンスの奇天烈さの印象からも人違いじゃないと思う。

思い出したのは、一冊の本だ。

 

「あの人が出した本、読んだことあるんだよ」

 

 

『カセキ達はどう生きるか~古代ポケモンの生態系が現代の都市部に与える影響~』

 

数年前に出た話題作だ。

正確には著者はウカッツ博士じゃないんだが。

実験、研究自体はウカッツ博士が行っており、それが読み物として大変面白かった。

 

主題となるのは化石から復元した古代ポケモンが現代の人間が住む新たな環境でどのような生態系を構築するのか、という面白い着眼点で始まる実験だ。

実際にカブト数匹をしっかりとした監視下で都市部に解き放ち、経過を観察していくという形式になっている。

 

ただ、正直この本を抜群に面白くしているのは実験を管理しているウカッツ博士の奇行だ。

例えば実験当初、慣れない都市部で餌を見つける事が出来ないカブト達のためにゴミ箱をひっくり返して残飯を漁り始めたり。

カブト達のすみかを作らせるために許可を得ずに下水道に侵入したり。

 

 

最終的には大学からの実験の停止命令を拒否して、カブト共々野生化したところをポケモンレンジャーに捕獲されたオチまでついている。

この本自体はウカッツ博士のレポートを引き継ぐ形で別の博士が完成させて公開されたのだが、〆の文に『古代ポケモンと現代の共存の前にウカッツ博士自身が現代と共存を始めなくてはならないだろう』と書かれていたのは忘れられそうにない。

 

 

「って感じで色々とやばい本なんだけど、実際にカブト達の暮らしを解明するって意味じゃ結構な学術的価値があってさ…」

 

特に食性と群れ単位での行動パターンなんかは他の論文だと堅苦しすぎるから、子供でも分かる論調と生活に身近な着眼点のお陰で凄い為になった。

ウカッツ博士の立ち振る舞いがやばいから子供には絶対読ませられないけど。

 

「ふーん。凄い先生ってこと?」

「まぁ、ある意味では。ただ、学会追放されたって聞いてたんだけど」

 

確か『カセキ達はどう生きるか』を出版した後に、『カブトの繁殖実験』に失敗して大量のカブトを野生に解き放ってしまったとか何とか。

二冊目、かなり楽しみにしてたんだけどなぁ。

 

現在のウカッツ博士は興奮した様子でよく分からない事を喋り続けている。

 

 

 

『…なので!カセキの!カセキによる!カセキのために!お金なんかでかわいいカセキ達は売れないゾ!では!バイビー!』

 

 

 

ぶつっと言う音と共にアナウンスは切れた。

やっべえ。ほとんど話聞いてなかった。

 

「何か、オークションに反対…ってことか?」

 

そもそも何でこの船乗って…。

あ、もしかしてオークションで販売する化石ポケモン復元したのあの人なのか。

いや、それなのに反対してんの?え?何で?何してんのあの人…。

「テンション高過ぎて、チョー何言ってるか分かんなかったし」

見ろよ、ギャルも引いてる。

奇人変人だとは聞いてたけど、実際遭遇するとインパクトが強烈過ぎて何一つ頭に入ってこなかった。対面してないのにこの衝撃。直接遭遇してしまったら、どうなってしまうのか。

ちょっと怖い。

 

ウカッツ博士は乗っ取りとか物騒な事を言ってたけど、何がどうなってるのか近くに話を聞ける人が居ない。

ハッサムを追いかけて、結構走り回ってるんだが誰とも出会えてないのだ。

時折電子ロックのかかった扉は見つかるのだが、カードキーがないから通れないし。

シャクヤのココドラが涎を垂らしている気がするが、流石に精密機器はやばいでしょ。

 

 

「ビビ!」

 

 

うーん、それでもココドラに壊してもらうべきか?と頭を悩ませながら廊下の角を曲がろうとした時、腕の中の相棒が声をあげた。

慌てて立ち止まり、曲がり角をそっと覗き込む。

 

 

その先にはライトグリーンのあいつ。

ハッサムだ。

 

 

周囲を見渡しながら歩いているが、どうやら後方への警戒は薄いらしい。

敷き詰められた柔らかい絨毯が足音を消してくれるのもあり、こちらには気付いていない様子だ。

 

 

「サンキュー相棒」

イオルブのお陰でうっかり鉢合わせにならずに済んだ。

追いかけてきたのはいいものの、あのハッサムと今真正面から戦っても勝ち目は薄い。

遠巻きに見張りつつ、誰かと遭遇しそうになったら先に危険性を伝え、何とか警備員さんに連絡を取りたい所だ。

 

 

「何か…探してる感じ?」

 

シャクヤも同じように曲がり角を覗き込み、ハッサムの様子を伺う。

 

「探してるっつうか、あいつには物珍しいものばっかりなんじゃねえかな」

 

この辺りは来客用のエリアなのか、廊下に絵が飾ってあったり、高級そうな壺が置いてあったりする。

俺の推察だと野生っぽいハッサムには訳の分からないものばかりなのだと思う。

今も置いてある金属製の鎧に向かって警戒のポーズを取り、恐る恐る近づいているのが見える。多分それは飾りだぞ。

 

とりあえず、誰かと遭遇さえしなけりゃ問題はなさそうかな。

このまま距離を保って見張り続けてよう。

やっぱり早い所、警備員さんに何とかして伝えたい。

 

うーん、今ならハッサムに激しい動きはないし、見張りは一人にして片方が警備員を探しに行った方が良いか?

でもさっきのコマタナ達も気になるし…。

 

「ねぇ、ジムリーダーってやっぱり勉強出来ないと駄目だったりする?」

 

「どうした急に」

 

一緒に覗き込んでいるシャクヤが唐突に話を振ってきた。

聞き返すと、うぐっと低くうめいた。

何さ。

 

「その、知り合いに。元ジムリーダーって人が居るんだけどさ」

 

前髪を弄りながら、言いにくそーーに話し始めた。

知り合いに元ジムリーダー。

まぁギャルに見えても、これだけ立派なパーティーに招待されるセレブならありそうな話だ。

 

「あんまりその事を話してくれないっつーか。聞いちゃ駄目みたいな感じになってて。でも、隠されるから余計気になるっつーか。だから、現役の人に色々聞いてみたいなって」

 

「あー、なるほど。まぁ、俺でよければ全然答えるよ」

つまりは、『ジムリーダー』って仕事に興味があるらしい。

俺はちょっとまともじゃない経緯でジムリーダーになってしまっているが、まぁ参考程度にはなるだろう。

とりあえず、最初の問いに答えておく。

 

「資格試験に筆記はあるけど、そんな難しくはないから勉強出来なきゃなれないってわけじゃないぜ」

 

地方差や時代差も色々あるとは思うが、基本的には一般常識問題だけだ。

俺でさえ問題なかったし、学生のサイトウやそれより幼いオニオン君になれてるくらいだもん。

 

「あーそっか。そりゃそうだ…」

何故か納得したかの様子だ。目の前の俺を見ての納得じゃないと思いたい。

頭いいジムリーダーだって居るから。…ガラルだと誰だろう?

あれ?皆体育会系というか脳筋ばっかりな気が…やめよっか、この話。

 

「じゃあ、じゃあ、もう一個聞くんだけどさ」

 

まだ話は続きそうだ。

 

廊下のハッサムはまだ動きそうにない。

鎧を軽く小突きながら、鎧の次の動きを見ている。

残念ながら、その鎧は特に反撃してこないと思う。

 

シャクヤの話を聞く時間くらいは、まだありそう。

そんな風に悠長に考えていた。

 

 

 

「アベリは、何でジムリーダーになったの?」

 

 

恐らく純粋な興味から、問いが投げかけられる。

その目にはあまりに他意がなくて。

いつもならテキトーに誤魔化す俺の心はつい、その問いを真剣に受け止めてしまった。

 

 

「‥‥‥‥」

 

 

 

思い出すのは当然、あの時の事だ。

 

 

夜逃げした先代と離散したジムトレーナー達。

何も知らない俺だけが残っていて、ローズさんがちょうどいいと目を付けた。

 

 

 

『どうでしょう?あなたならとっても楽しいジムリーダーになれると思いますよ』

 

 

 

そして最後に差し伸べられた手を、俺が取った。

 

あの時実際に選択肢があったかどうかは今ではもう分からない事だ。

だけど、俺には手を取る理由が確かにあった。

 

 

 

空っぽになっていたジム。

 

口々に先代を責め立てる人々の声。

 

思い当たる過去のいくつかのこと。

 

 

 

 

ジジイを擁護しようという気持ちは、なかったはずだ。

紛れもない犯罪者だと思っているし、碌な死に方をしないんだろうなと今も確信している。

栄光や名誉なんかの真逆。

後世の評価はボロクソになるだろうし、そうあるべきだと本人だって思っている事だろう。

 

 

ただ、俺にとってはそれだけじゃなかった。

これでおしまいにはしたくなかった。

 

 

だから、ジジイの『つづき』になった。

 

 

それだけの話だ。

 

 

 

「‥‥‥まあ、色々あって」

 

答えながら目を逸らす。

結局口から出たのはいつも答えている短く曖昧な答えだけだった。

一瞬マジに考えてしまったが、ジジイのアレコレは他人に話すような事じゃない。

 

っていうか、どっかで野垂れ死にしてるもんだと思ったのに普通に船乗ってるんだよなジジイ。

しかも、俺に冤罪を擦り付けて遊んでる始末。

野垂れ死にの方がまだ美談ってどうなってんだよ。

 

見つけたらどうしてくれようか‥‥。

 

‥‥‥。

 

「えーっと、他に質問とかはない感じ?」

 

空気悪くね?年下の質問を冷たく突き放した奴のせいらしいですよ。最低だな!

やっぱりもうちょっと話膨らませた方がいいか?

俺が最初の年は代理制度使ってたから資格なしでジムリーダーやってたって話とかなら…

 

「ガフゥ…」

 

背中に生暖かい風が、当たる。

ジャケットや髪が乱れる程度には強い風だ。

 

「ん?」

呆れたシャクヤのため息だろうか。

随分ダイナミックな、というか、脳のどこかが聞き覚えを感じるため息だ。

多分、今日会った誰かだわ。

 

何でだろう。すっげー振り向きたくない。

だが、隣からバシバシとシャクヤが俺の肩を叩く。

そう、彼女は隣だ。ハッサムを覗き込むに当たってその位置に移動していた。

じゃあ、真後ろから来た今の風はシャクヤのため息ではないって事。

 

俺の脳は俺より先に答えに辿り着いたらしく、「やべえ!」と警鐘を鳴らしている。

俺自身は答えに辿り着かないように必死に思考停止するが、しかし現実からは逃れられない。

出来た事は、大きなため息を吐く事だけだ。

 

「はぁーーーー…」

今日の運勢、最悪なんだろうな。

 

覚悟を決めて、振り返る。

 

 

 

 

 

 

「ガァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

古代の王者、ガチゴラスがそこにいた。

 

 

 

「きゃああああああああああ!」

 

 

俺は甲高い悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 

 

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