エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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こだいかっせい②

 

カセキポケモン。

 

かつての時代。

今のポケモンが生まれるよりもずっとずっと前にこの星に暮らしていたという古代ポケモン。

それらの姿を化石から復元する超技術により、生態を再現したポケモン達である。

 

太古の厳しい世界を生き抜くために高い能力を持つ彼らは、今では復元例の増加もあってかなりの知名度を持っている。

 

ただし、数は非常に限られる。

これは化石の発見が稀であること、そして復元に必要な機械類に多大な資金が必要であるためだ。

当然、運営出来るのは公営かそれに準ずるような規模の研究所に限られており、一地方に一つあるかないかと言ったところだろう。

加えて、既に先行研究が進んでいる分野に今から予算をつぎ込んでくれる事例は少ない。新たな化石が発掘でもされない限り発展性はないという厳しい意見も聞こえてくる程だ。更に近年では復元による生態系への影響も危惧されており、化石復元は世界的に予算縮小化の傾向にある。

 

化石自体も収集家の存在から相場などない流動的な価格変動が多く、研究者の頭を悩ませる。

発掘された化石にロマンを感じる収集家からすれば復元は化石の喪失でもあるため、妨害される事もしばしばだ。

 

更に最後の問題としてカセキポケモン自体の取り扱いである。研究したいならば当然、飼育、そして育成が出来るトレーナーが必要となる。

凶悪な能力を持つ事も多いカセキポケモンの飼育は相応に難しい。

少数ならばともかく数が増えていけば飼育は困難になり、当然餌代等の費用も増えて、これも予算を圧迫する。

 

時折、それらの事情を知らない少年少女がどこかから化石を持ち込んで復元を希望する事例も噂されている。

その上彼らの多くが例外なく才能溢れるトレーナーであり、そのままカセキポケモンを引き取ってくれるんだとか。

余りに都合が良すぎるのと、彼らの多くがパタリと行方をくらませるため、予算を引き出すための作り話というのが通説だ。

 

 

閑話休題。

散々述べたように、化石復元の前に並ぶ大きな問題は予算である。

 

化石の買い取り、研究への投資、カセキポケモンの飼育。

 

逆に言えば全てお金さえあれば解決出来る事。更に言えば復元したカセキポケモンを高額で買い取ってくれる好事家へのコネクションがあれば、化石復元は十分に「リターン」が見込める事業に成り得る。

 

勿論、話はそう簡単には進まない。

お金が集まるということは柵が増えるということでもあるし、利益を求めるなら研究は二の次、三の次にならざるを得ない。

まともな研究者ならば、まずやらない。

 

だが、例えばそもそも復元する事が目的の研究者が居たならば。

 

与えられる環境は地方で大きな力を持つスポンサー。公認ジムが協力する飼育環境。

 

あらゆる金銭的問題を無視していいとして。

 

 

さて、どこまでやれるだろうか。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

揺れる。

 

 

 

豪華客船ティータニック号の一角。

赤い絨毯の床が、壁に掛けられた絵画が、天井の灯りが。

 

 

揺れる。

ガタガタと揺れている。

 

遠くから、笛のような音と共に地響きが近づいてくる。

 

 

やってくるのは『パレード』であった。

 

 

先導するのは陽気に笑う一匹。

鳥のような上半身にがっしりとした二足歩行の恐竜の下半身がついたようなポケモンだ。

首に下げられたホイッスルを小さな前脚で掴み、笛を鳴らしながら大きく足をあげて行進している。

 

笛を吹く彼が先導し、後に続くのは多種多様なポケモン達。

 

 

大きな翼を持つ翼竜のようなポケモンが天井スレスレをゆったりと滑空する。

 

多数の触手を生やしたウミユリのようなポケモンが絨毯の上を蠢きながら進んでいる。

 

小さな爪を生やした甲殻類に見えるポケモン達が集団の足元をカサカサと這いまわる。

 

オーロラのようなヒレを背負った長い首が特徴的なポケモンが冷気を纏いながら雄大に歩く。

 

 

先頭を進むポケモンが鳴らす笛の音に合わせるかのように時折響く鳴き声と足音が盛大な行進曲となって、ティータニック号に響き渡る。

 

 

彼らは古代のポケモンであった。

 

 

彼らは復元されたカセキ達であった。

 

 

彼らは甦った古代そのものであった。

 

 

 

 

古代のパレードが豪華客船の中を凱旋する。

 

 

 

まるでお祭りのようにはしゃぎながら、彼らの爪や触手が豪華な内装に傷をつける。

アマルス達の冷気が絨毯を凍らせて砕き、砕かれた絨毯の上をアーケオスが爪を立ててドタバタと駆ける。

壁に掛けてあった美しい絵画はいつしか床に落ち、行進に踏みにじられてぐちゃぐちゃになった。

 

縦横無尽、まさに自由。

時代そのものが蹂躙されているかのような錯覚は、しかし彼らの列の長大さを見れば然程的外れな感想でもない。

 

 

ウカッツ博士が『かつてのリーグを想う会』の支援を受けて復元し、現在船内に居るカセキポケモンの数は150。

 

 

ここにその全てが居るわけではないが、このパレードだけでも100は超えている。

 

 

彼らは目指す。

 

目指してパレードは進む。

暴虐をばら蒔きながら、人類の『価値』を踏みにじり、パレードは進む。

 

笛の音を楽しそうに響かせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過ぎ去った後には数多の足跡が残り、子供が散らかした後のような廊下だけが残った。

 

「何だ、ありゃ」

 

通気口から、老人が顔を覗かせた。

 

 

 

 

バチュルの糸を使い、通気口に隠れていたタラクサが降りてくる。

パレードの過ぎ去った方向を見ながら、眉をひそめた。

 

「カセキポケモン…のようでしたが」

 

その横に同じく通気口に隠れていたスーツ姿のサイトウが着地する。

カセキポケモンのパレードは奥部へと侵入中だった二人の目前を通過していった。廊下の震動から、即座に隠れることを選択したタラクサの機転が活きた形だ。

 

「奥の研究室で大量にカセキ復元をしてたとは聞いてたが、随分騒がしい散歩だな」

 

踏みにじられた絨毯を千切って確かめながら、タラクサがそんな事を呟く。

 

「カセキポケモンは凶暴なポケモンも多いと聞きます。特別なストレス発散が必要ということでしょうか」

「冗談に決まってんだろうが。どう見ても脱走だ」

 

先導していたのもポケモンで、廊下はこの荒れ様。

あのパレードはどう見ても、まともなトレーナーの制御下にあるとは思えない。

 

呆れたような視線を向けられてサイトウがちょっと不満そうにする。

 

タラクサは千切った絨毯を捨てながら、群れが過ぎ去った方を見やった。

古代パレードが向かった先は、タラクサ達が通って来た道だ。

カジノエリアなどに…招待客が居るようなゾーンに繋がっている事になる。

 

少しばかり考えてから、タラクサはそちらに背を向けた。

その姿にサイトウは慌て、困惑する。

 

「脱走ならば緊急事態です。救援に向かった方がいいのでは」

 

ポケモンの起こす緊急事態への対処はジムリーダーの責務の一つだ。

ターフタウンのヤローが脱走するウールーを追いかける事は最早日常風景になってしまっているが、やはりポケモンという危険と隣り合わせの世界で実力あるポケモントレーナーとして社会的地位を持つジムリーダーにかかる責任は大きい。

 

先程目にしたカセキポケモンのパレードは間違いなく脅威で、突発的な正面衝突を避けたタラクサの判断は間違いではなかっただろう。

あの大群と備えなしにぶつかれば、いかにジムリーダーと言えどもただではすまなかった。

 

だからこそ、ジムリーダーと国際警察である自分達が何かしら事態解決に向けて動かなければいけないはずだ、と。

市民を守るために。サイトウは素直にそう信じていた。

 

「いや、儂らはこのまま奥へ向かう」

 

だが、老人はばっさりと切り捨てる。

その手の中ではいつの間にか取り出したサイコロを転がしている。

 

「調査を優先するぞ。人工ポケモンの開発には化石復元も関わってんだ。脱走の原因もそこに行きゃ分かる」

 

絶句するサイトウに背を向けたまま、ペラペラとタラクサの口が回る。

 

「そもそもここの警備スタッフは元々こういう事態のために配備されてんだ。そのための備えがしっかりしてあんだよ」

 

断言する程自信満々にタラクサは船内の警備について語る。

侵入するにあたってしっかりと警備については下調べしていたらしい。

 

「はがねジムが優秀ってのもあるがな。逃げ出してるカセキポケモンは連中がレンタルやらオークションのために相応に鍛えただけ。その上、全部が育成出来てるわけでもねえ」

 

「なる…ほど」

 

「数の圧に圧倒されてるようだが、ほとんどが訓練されてないんじゃ烏合の衆。それなりのトレーナーで十分相手になるだろうよ」

 

言われてみれば確かに、行進に参加していたカセキポケモンには未進化のものが多かった。

進化していたのは全体の2割にも届いていなかった気がする。

優秀なジムトレーナーが数十人居り、回復手段なども潤沢ならば、鎮圧は不可能ではない‥‥かもしれない。

今の規模でさえ、単純計算で十人居れば十匹相手にするだけになる。

 

「ですが‥‥」

 

しかし、若きジムリーダーには直前に見た脅威に背を向ける事にどうしても抵抗がある。

彼女の中のジムリーダー像との間に食い違いが起きてしまう。

「ダメだ!勝負の最中に相手に背中はみせられない!」のようなものだ。

 

「‥‥いいか?恐らくこの先には奴らの後ろ暗い証拠がある。人工ポケモンやら何やらの核心的なヤツがな」

 

国際警察であるタラクサはその調査に来ている、という前提を改めて指折り確認し直す。

 

「化石どもがあれだけ好き勝手に暴れ回った後だ。今はまだ証拠が残ってるだろうぜ」

 

確認し直しながら、タラクサは奥に向かって勝手に歩き出した。

サイトウがついてきているかどうかは見もしない。

 

 

「だが、逆に。ここまで派手に荒らされた後だ。儂が奴らならすぐに証拠を隠蔽なり抹消なりに走るな」

 

 

「つまり、今を逃せばもうチャンスはない‥‥と言いたいのですか?」

 

問いに答えはない。

 

「‥‥‥‥‥」

 

タラクサは答えず、足も止めない。

遠ざかる背が、選択を強いる。

少女には、余りに酷な責任の重さ。

 

それでも、決断しようとした時。

 

 

 

 

「行っちまえ」

 

 

 

 

弾かれたように、サイトウが駆け出す。

 

タラクサに背を向け、化石のパレードを追いかける道へ。

パレードが踏み荒らした絨毯を超人的な脚力で抉りながら駆けていく。

彼女は自分に何が出来るかもわかっていないが、脚は止まらなかった。

 

大きな舌打ちが一つ。

そして、早くも小さくなりつつある背中に声をかける。

 

「どうしようもなくなったら、後部デッキに向かえ!」

 

 

手を振りながら「ありがとうございます!」と返って来る素直さに、老人はまた一つ舌打ちした。

 

「はっ。ちょうどいいさ。やり辛いと思っていた所だしな」

 

肩をすくめてからそんな独り言を呟いて、タラクサは一人で更に奥へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

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