エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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今回の連続更新はここまでです
なるべく早く戻ってきます


みらいよち

辿り着いた操舵室は、酷い有様になっていた。

機材はほとんどが滅茶苦茶に破壊されており、操舵室に居た数名のスタッフやポケモンが倒れている。

災害が通り過ぎたような有様。

 

すぐにボールを取り出し、放り投げる。

「メタグロス!キリキザン!」

鉄の身体を持つメタグロスは怪力とサイコパワーを併せ持ち、スパコン並の頭脳とされるポケモン。適切な判断力と重機のようなパワーが必要な救助の現場でも力になってくれる一匹だ。

キリキザンはコマタナの群れを率いる習性を持つ。混乱しているポケモン達へリーダーシップを発揮させ、円滑に協力するように促させる。

 

そして、自身もスタッフの一人に駆け寄り、声をかけた。

 

「どうしました?何があったんですか」

「突然、ウカッツ博士と…変なポケモンが…」

 

操舵室に居たスタッフは痛みに顔を顰めながら、必死に状況を伝える。

リアンはそれを聞きながら状況を整理する。

 

突然ウカッツ博士と凶悪なポケモンが警備を潜り抜けて操舵室を襲撃。

戦闘訓練などを受けていなかった操舵室のスタッフはすぐさま鎮圧され、占拠された。

 

そして、ウカッツが行ったことは大きく三つ。

①目標地設定の変更と速度上昇

②カセキポケモンを遠隔操作で開放

③船内アナウンスでの犯行声明

 

これらを終わらせた後、すぐさま操舵室の機材をポケモンに破壊させて脱出。

機材を破壊したのは設定した目的地を変更されないためだろう。

念入りに破壊されているものもあるが、アナウンス用の機材などはまだ生きている。

すぐに逃げるために壊し方も効率的に行った様子だ。

 

こんな時ばかり、いやに手際がいい。

 

「いえ、やはり迂闊な所もあるようですね…」

 

被害状況を確認していたメタグロスが、機材の近くにメモが落ちていたのを発見した。

書かれているのは地図の座標。恐らくウカッツの設定した目的地だ。

ガラルの南西部。ぐるりと南側から回りこまなければいけないような地点だ。

バウタウンの近海を遊覧するつもりだったティータニック号としては予定外の遠出になる。

ここは責任者に聞くべきだろう。声をかけただけですぐに起き上がったタフな船長へ声をかけた。

船長は自分のカモネギに支えられながらも、ハキハキと答える。

 

「船長。ティータニック号にこの地点への航行は可能ですか?」

「問題ありません。ティータニック号は元々地方間を移動する高速船です。燃料も常に余裕を持たせていましたし、夜明けまでには到着出来ます」

 

夜明けまで…もしもこの航海がそんなに続けば最悪だ。

出来ればそんな事になる前に事態を解決したい。

 

「ただ…」

「何か?」

「長距離航海が続くと、私は船酔いしてしまいます。今も…うっぷ…」

 

カモネギが慌てて船長の背中を摩る。

経験豊富な優秀な船長…だと聞いていたのだが。大丈夫なのだろうか。

 

「それから、機材がここまで破壊されては不測の事態への対処は難しくなるかと」

「不測の事態、と言うのは」

「主に海図に載っていない障害物です。流れてきた氷山やポケモンの群れ。局所的な悪天候や渦潮も」

「なるほど。やはりこの航行はすぐにでも停止しなければいけませんね。緊急用の停止手段などは?」

 

本来なら回避出来る障害物を回避出来ない。つまり、航海の危険度はかなり高くなっている。

すぐさま船を止めなければいけない。そう思って問いかけたのだが、船長は気まずそうに目を逸らした。

 

「勿論、安全の為操舵室以外でも緊急停止の手段が用意されています。船内に数か所…」

「素晴らしい備えですね」

「しかしその…それらの設備を把握しているのは当然我々操舵室のスタッフです。緊急時にそれらの使用を判断するのも、我々ですから」

 

当然だろう。誰かが勝手に緊急停止を作動させてしまえば、混乱は避けられない。

プロが適した時に使ってこその緊急停止だ。

 

「そしてティータニック号は常時航海しているような船ではありません。そのためスタッフの移り変わりも激しく、船長である私以外は航海の度に募集をかけて運用されております」

「…結論からお聞きしても?」

 

 

「緊急停止用の設備についてのマニュアルを、ウカッツ博士が持って行ってしまいました…」

 

 

致命的。

今頃ウカッツは船内のそれらを壊して回っている事だろう。

 

思わず足元がふらついて、支えにやってきたメタグロスの頭部に座り込む。

座り込んで、考え込む。

 

今日の警備は謎の侵入者と脱走した実験体で既に手が回っていなかった。

そこにカセキポケモンの暴走も加われば、最早警備は機能していない。

今からウカッツ博士を追いかける余力など、ないだろう。

いや、あるいは他の騒動もウカッツ博士の仕込みだったのか。

 

(早期解決は不可能、ですね)

 

どう考えても手が足りていない。

次に考えるべきは、事態の解決ではなく収拾。

カセキポケモンの暴走も侵入者も実験体ですら船内のスタッフでは手に負えない。

 

ならば優先すべきは『貨物艙』の実験の成果、大量の『代替メタルコート』の隠蔽。

 

(いや、それも不可能でしょう…)

 

そもそも隠蔽が困難だったからこそ海上での研究、生産を行っていた。

今からティータニック号の代替となる運搬方法など用意できない。成果が出て、生産に移行したばかりなのが仇になった。せめてどこか別の場所に保管する体制が出来てからならば話は変わったはずだが、生産された『代替メタルコート』はほとんど全て、このティータニック号の貨物艙にある。

 

もしもティータニック号がこのままシージャック、あるいは難破してしまった場合、マクロコスモス相手に計画を隠しきることは出来なくなる。

そもそもこれだけの大規模な事件の救助を出来るのはマクロコスモスしかない。反マクロコスモスを掲げながら悔しい事に、このままではマクロコスモスに助けを求めなければいけない立場。

 

認めたくないが、マクロコスモスは今やガラルの正義だ。

現委員長の失墜を目指す我々はどう考えても障害。

 

代替メタルコートの存在が明らかになれば、当然『かつてのリーグを想う会』は破滅だ。

 

(ようやく計画の実現が見えてきたところだったのに)

 

材料は全て揃い、試作機も完成。後は量産だけだった。

あと少しで手が届きかけていた。

ガラル現体制への対抗、そして崩壊が。

 

 

「ふっ…直接フラれたばかりですが…」

 

気付けば握りしめていた拳を、ほどく。

リアン自身が叶えたかった目標は、既に失敗したばかりだ。

 

 

 

【オレがチャンピオンを辞めたのはな!ローズのせいじゃねえよ!】

 

【チャンピオンを続ける事よりも家族の方がド・大事だったからだ!】

 

【だからお前の話は受けられねえよ!悪いな!】

 

 

 

 

まだ諦めたつもりはなかった。

次はもっと説得の材料を揃えて再挑戦するつもりだった。

しかし、もうリアンに『次』はないようだ。

 

「……」

船長や操舵室のスタッフが心配そうに見ている。

彼らはかつてのリーグを想う会が雇ったスタッフだが、悪事には加担していない。

勿論、船内の不審なスペースや警備体制からある程度察しているものもいるだろうが。

 

(ああ、そうでした。まずは乗客の避難を始めなければ…)

 

船に乗っているのは、彼らのように計画に関わっていない者だって多い。

 

頭の整理はつかないままだが、時間は待ってくれない。

立ち上がり、指示を出さなければ。あの方もきっと、それを望んで私を送り出してくれたはずだ。

せめて最後まで、ピオニー様のために働こう。

 

幸い、船内アナウンスは生きている。まだ出来ることはあるはずだ。

 

プルルルルルル!

 

立ち上がった瞬間、壁に備え付けられた内線が鳴り響いた。

スマホロトムも使えないような洋上を進むティータニック号では、警備の使う無線機と船内を通る内線電話だけが通信手段だ。

先程のアナウンスを聞いたスタッフの誰かだろう。

避難の指揮を執るためにもリアンは受話器を取った。

 

「こちら操舵室のリアンです」

 

『おお、リアン様。そちらにいらっしゃいましたか』

 

電話の先に居たのは元エスパージムの執事だ。

ほっと一息つく。船内のエスパーポケモン達を統率している彼とすぐに連絡が取れたのは僥倖だ。《テレポート》や《ねんりき》は速やかな船外への脱出にも使える。

 

「緊急事態です。現在この船はシージャックされていて、解決も収拾も困難。乗客の皆さんには速やかに避難していただかなければいけません」

 

焦り過ぎないように気を付けながら、端的に状況を説明する。

「《テレポート》や《ねんりき》は避難に有効だと考えています。エスパーポケモン達に期待したいのですが、今どの程度まで動けますか」

なるほど、と電話の向こうで執事が頷くのが分かった。この危機においてもとても落ち着いている。こればかりは年の功と言うべきか。

 

 

『ご安心ください。リアン様。エスパーポケモン達は既に乗客の避難のために動いております。乗客の皆様には後部デッキに集合していただき、そこからエスパーポケモン達総出で《サイコキネシス》を使い運搬する予定です』

 

 

 

「本当ですか!それはよかった!」

 

余りにも鮮やかな手並。ようやく訪れた朗報で明るくなったリアンの声に操舵室でも少しだけ安心のムードが流れる。

これからようやく立て直そうと考えていたリアンの一手先を行っていた。

エスパーの専門家だけあって運用も的確だ。

 

まるで何かが起きると『知っていた』かのような万全の‥‥

 

小さな違和感に、気付く。

 

 

『また機密に関しても最重要なものはこちらで確保、あるいは処分させていただきました。流石に偽造メタルコートは量が多すぎて回収出来ませんが…』

 

 

執事はさらさらと事態への対処法を言い連ねていく。

違和感は、更に大きくなった。

おかしい。

 

速過ぎる。

 

ティータニック号がここまでの事態に陥ることは想定していなかったので、マニュアルなどが用意されていたわけではない。

そもそもウカッツ博士のアナウンスからまだ数十分と言ったところなのだ。

どんなに優秀でも問題が起きてすぐ動き出さなければ、ここまで適切な対処は出来ない。

リアンが操舵室を確認してようやく事態を把握出来たというのに、執事の判断と行動は早すぎた。

 

『どうやら既に事態解決に動いて下さっている方もいらっしゃいます。カジノエリアではサイトウ様、オークションエリアではピオニー様が…』

 

「‥‥サイトウ君がこの船に?」

思い返されるのは出航してすぐ。

 

 

【招待したジムリーダー達はどうだ?】

 

【現役ジムリーダーで参加したのはやはりポプラ様とアベリ様のみです】

 

【ネズの参加には期待していたのだが…】

 

 

 

サイトウの乗船は、報告にはなかった。

 

『ああ、申し訳ありません。どうやら招待客の付き人として乗船されたようでして…』

 

「付き人に関しても仮面を渡す前に身分の確認があるはずですが」

 

 

『‥‥‥‥どうやらスタッフに落ち度があったようですね』

 

「まさか……」

 

『………』

 

電話先の僅かな沈黙が、全てを物語る。

突発的な裏切りではない。

今夜が始まった時、いや、それ以前から既に執事はリアンから離反していた。

 

「まさかあなたがウカッツ博士の手引きを…何故です?十分なメリットを提示してきたはずです!」

 

思わず問いかけが荒げた声になる。

今夜の騒動で失うものはあれど、得られるものなどほとんどない。

 

強いて言うならば『かつてのリーグを想う会』の壊滅かもしれないが、既にリアンは執事の事を信頼しかなりの裁量を与えていた。

こんな大事件を起こさずとも、彼の立場なら『かつてのリーグを想う会』を破滅させる方法はいくらでもあったはずだ。

 

カセキポケモン達を暴れさせ、乗客を危険に晒す様な危険な真似をする必要などない。

『…何か勘違いしていらっしゃるようですね』

「シラを切るつもりで…」

 

 

()()は何もしていません。ただあなたの破滅を『()()()()()』だけでございます』

 

 

「っ!?」

『どうか避難についてはご安心ください。それでは、失礼します』

ガチャリ、と音を最後に通話が切れた。

ツーツーと電子音が鳴る受話器を、リアンはしばらく手放す事が出来なかった。

執事の言い方は推測や仮定の話ではなかった。ただ来るべきだった予定が来ただけのような落ち着いた言葉。

 

元エスパージム所属、我々、ネイティオ気取り。

 

知識はあった。だが、どこかで迷信のように考え、真剣に捉えていなかった。

 

エスパージムの一族は代々特異な能力を受け継ぎ続けている。

サイコキネシス、テレポート、読心、そして…

 

 

「未来、予知」

 

 

エスパージムの一族は、リアンの破滅を予言したのだ。

 

リアンは知っている。彼らの予言の絶対性を。

エスパージムは常に予言の力を使うことで、勢威を保ってきたことは貴族ならば誰もが知る事だ。貴族が力を失っている今でなお、ジムリーダーの地位に居る事がそれを物語っている。

 

 

ガラガラと、崩れる音がする。

今まで積み上げてきたもの全てが。

破滅は決まっていた?ならば自分がしてきたことは全て無駄だった?

 

 

嫌悪する実家の伝手を使い、貴族達に頭を下げて資金を集めた事も。

 

違法な知識を得るために脛に傷を持つ科学者達を集めた事も。

 

野生ポケモンを使った様々な非人道的な実験も。

 

 

全ては目標のために積み上げた。

それなのに、そもそも破滅しか結末がなかったのなら自分のこれまでは何のために?

 

予知を否定しようにも、今のティータニック号の惨状が全てを物語っている。

リアンが今破滅の袋小路に居るという事実からは逃げられない。

事実として、『かつてのリーグを想う会』もリアンも、全てが終わるのだ。

 

「リ、リアン様…?」

誰かが心配そうに声をかけたが、今のリアンには届かない。

メタグロスやキリキザン達は既に作業の手を止めていた。

 

詰んでいる。とっくに詰んでいた。

それなのに、苦悩して自傷して毅然としていた自分の何と愚かなことか。

 

 

「わた、しは‥‥」

 

 

無意識に。

右手が縋るものを求めて、自分の胸元へと彷徨った。

手袋越しの指先が硬いものに触れる。

 

「わたしは…」

 

触れたのは襟元のバッジ。

『はがねジム』のジムリーダーの証として片時も外さない自分の誇り。

握りしめる。痛いほど。

 

 

(最初から、変わってなどいない)

 

 

いつか目に焼き付いた背中があった。

 

仮面が、崩れる。

スポンサーに媚びを売るのも、百年後のガラルと言う美麗美句も、もう必要ない。

『かつてのリーグを想う会』など、もうどうだっていい。

 

 

自分の目標は一つだけ。

 

我が身に破滅しか残っていないなら、破滅さえもあなたに捧げよう。

 

 

私の憧れ。

私の太陽。

私の英雄。

 

 

「ふふっ」

 

それだけでいい、と気付けば、むしろ口から笑みが零れた。

久々に笑った気がした。

 

栄光も未来も自分の破滅さえも。

全ては些末な事。

 

たいせつなものは、たった一つ。

かつて見たあなたに相応しいだけのものを。

 

 

 

「私があなたを『ガラルの英雄』にしてみせます‥‥!」

 

 

 

 

リアンは気付かない。

引き裂けたような笑みに、流れている涙に。

自分が胸元で握りしめているものは、決意ではなく狂気であることに。

 

リアンは、気付かなかった。

 

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