ネーナタウンからいつものようにそらをとぶタクシーを呼んで揺られている。
いつも辺境まで申し訳ない。
俺もチャンピオンのダンデみたいに自分のポケモンに運んで貰おうか。
でも虫ポケって長距離移動は苦手な子が多いんだよな。バタフリーみたいに風に乗って「渡る」子はいるけど、俺を乗せて飛ぶとなると少し厳しい。
出来れば到着しないで欲しかったが、もう大きなタワーが見えている。
空を飛んで直線距離なら遠くないんだよな、ネーナタウンからシュートシティ。
そう、俺がやってきたのはシュートシティ。
ガラル最大の観光都市だ。
ジムリーダーの俺としてはシュートスタジアムの方が縁はあるが‥‥脳内でクソガキ共が「でもアベリ、ファイナルトーナメント出たことないじゃーん!」とか言ってきたが無視だ。セ、セミファイナルトーナメントには出たことあるし。
とにかく今日の用事はスタジアムではない。
遠くから見るとスタジアムよりも目立つ建物。
マクロコスモス本社、ローズタワーだ。
マクロコスモスはガラル最大の企業。
ガラル粒子によるエネルギー開発を主要事業としつつ、建設、メディア、運輸等のありとあらゆるインフラへと手広くやっており、ガラルのポケモンリーグの運営もほとんどこの企業が回していると言ってもいい。
そもそもガラルのポケモンリーグの華であるスタジアムでのダイマックス自体、マクロコスモスが提供する技術で成り立っているので、運営を主導してしまうのも当然だ。
ジムスタジアムを中心に都市計画まで進めているマクロコスモスの発展は、そのままガラル地方の発展と言っても全く過言ではないのだ。
ところで、俺自身時々忘れているけれど、俺には前世の記憶がある。
ポケットモンスターというゲームをプレイした経験があるのだ。
悲しい事にガラル地方は知らないから、あんまり役に立ったことはないけれど…。
とにかく、ポケモンの世界で世界的な大企業。
絶大な権力を持った大企業。
そして決め手にメチャクチャ目立つ建物を本拠地にしている。
絶対悪の組織でしょこれ。
実は裏でポケモン達を非道な実験で改造したり、ポケモンを悪事に使って暴れていたり、盗んだポケモンを売り捌いたり、伝説のポケモンを利用して天変地異を起こそうとしていたりするに違いない!
転生したばかりの俺はなるべくマクロコスモスに近づかないように生きよう!と考えたんだが。
無理なんだよねこれ。
マジでありとあらゆる産業にマクロコスモスが関わっているから。
マクロコスモスに関わらずに暮らせないんだよ。
ふと手に取った商品が実は…どころではない。生活必需品や公共交通機関、ガラルの社会的な地盤にマクロコスモスの手が入っている。
後で知ったがそもそも俺の両親もマクロコスモスの傘下で働いていた。
父親に至っては本社勤めのエリート。
そもそもマクロコスモス、何にも悪い事しないし。
むしろリーグの不正とかを正す立場だからね。
俺が子供の頃は特にリーグの改革の真っ最中で、大衆からしたら正義の味方って感じだった。
勿論、一見正義の組織が裏では…ってのもよくある話だけども。
正直もう陰謀論や他企業の嫉妬としか思えないくらい真っ白なんだよなぁ、マクロコスモス。これからシルフカンパニーみたいに乗っ取られたりするかもしれない方を心配したい。
今ではもう、俺はジムリーダーとしてポケモンリーグ、つまりは実質マクロコスモスからお給料も貰う立場だしな。
閑話休題。
何度も言うようにマクロコスモスは実質的にリーグの運営もしている企業だ。
特に10年前くらいからリーグへのイメージの正常化に力を入れていて、ジムリーダーへの注意や指導、懲罰も行っている。
キバナさんとかキバナさんとかがよくSNSでの炎上で怒られている事がジムリーダー内では有名だ。
そして、今回俺が呼びだされた訳だけど‥‥
いやぁ!心当たりがないなぁ!
最近新人相手に物議を醸すような盤外戦術を使ったり、手持ちのポケモンが暴れて事件を起こしたり、公式戦に遅刻してきたりした問題児はいるらしいとは聞いているけどねぇ!
って言うか最後のは俺じゃないし!スタジアムに入る時にスタジアム前で見かけたルリナが中々来ないから迎えに行っただけで俺は開始時間ちゃんとスタジアムに居たんだぜ?
何故か俺とルリナの試合が遅れただけでSNSでは俺のせいみたいになったけどな!
くっ、そういえばその後、イラっと来て『ガラルリーグの代表であるチャンピオンが一番遅刻してるんだから無罪』って言い返したら炎上したんだった。
結構盛大に燃えてしまったから、今日の呼び出しはそっちか。
でもあれはキバナさんが『俺様もそう思うぜー!』とか絡んできたのが良くないよ。あれで一気に燃え上ったもん。火事現場に燃料が歩いてくるな。
リーグスタッフに通された応接間で待ちながら(いや、怒られるとは限らない。逆に人気が出てマクワみたいにグッズ展開の打診が来たんじゃね?)と現実逃避をしていること数十分。扉がガチャリと開いた。
スラっとしたスーツ姿に白衣を重ねた胡乱気な目をした女性。
マクロコスモス副社長、オリーヴさんだ。
めっちゃ偉い人だ。
めっちゃ偉い人が出てきてしまった。
父さんからもローズ委員長が忙しい時は実質会社を取り仕切っていると聞いている。
勿論、俺もジムリーダーとして公の場で何度も会ったことはある。
マクロコスモスの副社長という事は実質、ガラルのナンバーツーということだ。
どうしてオリーヴさんがここに…?
「‥‥チッ」
オリーヴさんは向かい側に座ると、俺の顔を見て舌打ちをした。
めっちゃ偉い人に舌打ちをされてしまった…。
先に謝った方がいい気がしてきた。どの件で呼び出されているか分からないけど、とりあえず謝っといた方がいいんじゃないかこれ。
「す、すみません。反省してます」
「言葉だけの謝罪は要りません」
はい。駄目。だよね。解ってた。
『とりあえず』で謝るなんて最低だよね。
オリーヴさんは「それと」と言葉を続ける。
「私としてはあなたの素行には不満がありますが、委員長が問題ないと判断した以上責めるつもりはありません」
あれ?お説教じゃないのか?
「委員長はあなたの試合を高く評価されていました。『彼の戦い方は子供にも分かりやすいからね。こんな選手が一人くらい居てもいいでしょう?』とのありがたいお言葉も預かっています」
嬉しい伝言だが、伝えているオリーヴさんはすっごい嫌そうな顔だ。
オリーヴさんはローズ委員長が大好きだからなぁ。
俺が褒められているのが気に食わないんだろう。
でも分かっているぜ。これで喜ばないように気を付けていたら、『ローズ様のお褒めの言葉を伝えたのに喜ばない!?オリーヴ、キレそう!』ってなるのだ。
一回やったからな、それ。
だから大袈裟に喜んでおくことにしよう。
「えぇぇ!?ローズ委員長が俺をそんな風に!?やったああああああ!」
「チッ‥‥」
もしかして、この人俺の事嫌いなんじゃないか?
完璧な喜び方だったでしょ。
「今日呼び出したのは委員長からあなたへ『お願い』があったからです。委員長はお忙しい方なので今日は私に伝言を任せましたが、くれぐれも断ったりしないように」
「はあ」
気の抜けた返事になってしまい、また舌打ちをされる。
そんな風に念を押さなくてもローズ委員長からの頼み事なんて、断る気ないよ。
先代が失踪した後のごたごたでは色々とお世話になっている。
俺がジムリーダーになれたのはほとんどローズ委員長の厚意みたいなところが大きいのだ。
ただ、『あの』ローズ委員長からわざわざ俺を?っていう困惑が強いだけだ。
一番暇そうだからかな?もしくは俺、というかむしジムのイメージアップに繋がるような事をさせたいのか?
全く予想が出来ない。
そもそもジムリーダーとしての仕事ではなさそうな雰囲気だし…。
「その『お願い』というのが…」
机の上に写真が差し出される。
くるりとした髪が特徴的な生意気そうな表情を浮かべた少年。
撮影者を見下すような笑みと見せつけるような右腕がドヤ顔を強くしている。
じてんしゃで来た、って感じ。
「今年のジムチャレンジにローズ委員長が推薦する予定のトレーナー、その資質を見極めて欲しいのです」