北セルフォード大陸には、様々な国家が存在する。
北セルフォード大陸北西端に位置し、冬は湿潤し夏は乾燥する海洋性温帯気候下の地域に国土を持ち、優れた指導者と魔導技術、精強なる軍隊、世界を牽引する圧倒的な経済力を誇る帝政国家アルザーノ帝国。
大陸中央北部に広大な国土を持ち、第一次産業と膨大な人口を誇る王政国家でありながら実態は聖エリサレス教会教皇庁が実権を握っている事実上の中央集権的宗教国家レザリア王国。
大陸南東部には、自治権を持つ様々な文化・政治形態の都市国家がひしめき合い、それらが『セリア同盟』と呼ばれる一つの連合国家を形成している。
魔術と科学が共に発展した世界、ルヴァフォースに存在する北セルフォード大陸の南東部を恐怖が包み込んでいた。
始まりは聖暦1780年。君主制を主幹としていたゲムル公国の公王による指名を受け、元老院議員ルフトズ=アドラーが首相に就任。わずか1年で指導者原理に基づく派閥と指導者による一極集中独裁指導体制を築いた。
首相就任後に元老院の政治的敵対勢力を弾圧し、アドラーを中心とする独裁体制を強固にした。
1781年、公王とその親族たちが謎の伝染病で急死。王族の血筋が絶えて窮地の事態に伴い、アドラーは公王の権能を個人として継承し、名実ともにゲムルの独裁者及び指導者になった。元老院も解散になり、国家元首となったアドラーの地位は総統と呼ばれる。
人種主義、優生学、ファシズムなどに影響された選民思想に基づき、南方人種が世界を指導するべき主たる人種と主張していたアドラーという人格がゲムル国の最高権力である三権を掌握し、国における全ての法源となる存在となり、アドラーという人格を介して選民思想運動が国家と同一のものになるという特異な支配体制を築いた。
そして1791年。軍備を大拡張したアドラーは周辺国に進軍を開始。人々は逆鉤十字の印が刻まれた赤い旗に恐怖した。
1792年。生き残った周辺国は連合を結成。ゲムルに対し徹底抗戦を開始する。連合軍の反攻によりゲムルの勢力圏は縮小の一途をたどる。それに対抗するため、アドラー総統は私兵の武装親衛隊大隊長に
最初の一歩として、武装親衛隊は人間を変異させた屍食鬼の兵士の製造に成功。これを投入してゲムルの苦境を転回させようとしたが、連合軍の殴り込みを食らって計画は壊滅。 総統が死去し、ゲムルは戦争に敗北した。
「が…………ハッ…………」
至る所で炎が上がるゲムルの首都ベリアル。
連合軍に拠点を制圧されていく中、多くの死体が転がる通りで武装親衛隊の大隊長制服を着た肥満体の男が血を流して倒れていた。脚や腹部、肩と身体の至る所に破片が刺さっており、血塗れのその姿はとても痛々しい。
身動きもできない男に近づく人影が一つ。
「惜しかったな」
男が目を動かして人影の姿を捉える。
灰色のローブで全身を包んでいる。そのローブは丈長で、フードから覗く部分が黒い影となっており、両目と胸の部分が赤く光った姿をしている。
まるで、影そのものがローブを纏い、人を形作った――そう思わせるモノだった。
「吸血鬼などとはとても呼べない出来損ないとはいえ、人間が密集する地域に投入すれば伝染病のごとく亡者の群れを増やしていく。奴らの横槍が入らなければ今頃連合軍に勝てていただろう。故に惜しい」
影は自らの手を男の前にかざす。すると、周囲の死体から流れ出ている血が生き物のごとく蠢き、男の方へと集まっていく。
「なん…………のッ…………つもり………だ…」
「偉大なる我が主はお前とお前の大隊を高く買っておられる。不死の軍隊はまだ未完成の段階だが、あと数年、数十年もすれば世界中の人間どもが恐れるほどの最強の軍団を創り上げるのも夢じゃないだろう。だからお前にチャンスをやる。その代償に、我らの軍門に入り戦え。偉大なる我が主、冥王様のために」
♢♦♢
日が完全に沈み、夜の闇に包まれた空を巨大な乗り物が移動していた。
その内部、その最奥。
そこには半楕円状の大広間で、黒い軍服を着た男たちが整列していた。
「諸君、私は戦争が好きだ」
その広間の最奥には壇上があり、そこに立つ白いスーツを着た肥満体の男が演説をしていた。
「諸君、私は戦争が好きだ。諸君、私は戦争が大好きだ」
彼の言葉は次第に熱を帯び始め、振り付けも大仰なものとなってゆく。その全ては兵隊たちへと向けられていた。
「殲滅戦が好きだ。
電撃戦が好きだ。
打撃戦が好きだ。
防衛戦が好きだ。
包囲戦が好きだ。
突破戦が好きだ。
退却戦が好きだ。
掃討戦が好きだ。
撤退戦が好きだ。
平原で
街道で
塹壕で
草原で
凍土で
砂漠で
海上で
空中で
泥中で
湿原で
この地上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ。
戦列をならべた砲兵の一斉発射が轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ。
空中高く放り上げられた敵兵が効力射でばらばらになった時など心がおどる。
悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵を斧でなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった。
銃剣先をそろえた歩兵の横隊が敵の戦列を蹂躙するのが好きだ
恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など感動すら覚える
敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などはもうたまらない
泣き叫ぶ捕虜達が私の振り下ろした手の平とともに金切り声を上げるシュマイザーにばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ。
哀れな抵抗者達が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのを大砲が都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える。
必死に守るはずだった村々が蹂躙され女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ。
物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ。
追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ。
諸君 私は戦争を地獄の様な戦争を望んでいる。
諸君 私に付き従う大隊戦友諸君
君達は一体何を望んでいる?
更なる戦争を望むか?
情け容赦のない糞の様な戦争を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様な闘争を望むか?」
「「「
指揮官からの問いに兵たちは声を揃えて広間で木霊すぐらいの大声で答えた。
「よろしい ならば戦争だ
我々は渾身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする握り拳だ
だがこの暗い闇の底で半世紀もの間堪え続けてきた我々にただの戦争ではもはや足りない!!
大戦争を!!
一心不乱の大戦争を!!
我らはわずかに一個大隊 千人に満たぬ敗残兵に過ぎない
だが諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰している
ならば我らは諸君と私で総力100万と1人の軍集団となる
我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう。
連中に恐怖の味を思い出させてやる
連中に、我々の軍靴の音を思い出させてやる
天と地のはざまには奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる
一千人の吸血鬼の
そこで広間の壁に、まるで窓のように写した外の映像が投射された。その映像には魔導大国と称されるアルザーノ帝国の帝都オルランドが。
「わたしは諸君らを約束通り連れて帰ったぞ。あの懐かしの戦場へ。あの懐かしの戦争へ」
「「「少佐殿!少佐!代行!代行殿!大体指揮官殿!少佐殿!少佐!代行!代行殿!大体指揮官殿!」」」
兵たちから広間全体を震わすほどの称賛の声が上がった。
「そして、ゼーレヴェは遂に大洋を渡り、丘へと登る。
ミレニアム大隊各員に伝達。大隊長命令である。
さあ諸君…………
地獄をつくるぞ」
まんまあのキャラクターです