Don't Think. Feel ~史上最強の赤龍帝~ 作:70-90
あけましておめでとうございます。
かなりスパンが長くなってしまいましたが、第一章最終回です。
「あ~食った食った」
アーシアを満艦飾一家の元に残し、一誠と流子は2人で家路を渡っていた。一誠は多良福とコロッケを食べたらしく、腹を叩いては満足していた。それでもまだ食べるそうなので、流子は「マジか」とやや引いていた。
赤龍帝になってから大食漢への傾向が高い。というのは、倍加するほど体力を消耗するからだ。何せ彼自身の数倍ものの力を発揮するためである。その分空腹になり、食欲が溢れるばかりに湧き出るのである。この時もまた、一誠は家に帰ったらメシでも食うかと思っていた。
一誠はいきなり、『マンションまで送るか』と提案してきた。流子は耳まで真っ赤に染めて断ろうとしたが、結局は押しに負けて彼も同行することになった。
そしてマンションに辿り着く。地元でも有数な高層マンションの一件として有名であり、階数は20以上もある。金銭的に考えても高校生1人が住めるような場所ではない。流子にどつかれるまで、一誠はただ呆然としていた。
「上がりなよ」
「えっ、いいのか?」
「さっきのお礼だ。今日は特別だからな…」
「おう」と一誠は彼女に言われるままに、マンションに入り、エレベーターで高層階にまで上った。流子が自室で部屋着に着替えてから、一誠は部屋の一室に入り込んだ。「お邪魔します…」と、恐れ多きに思うも、その一言は忘れなかった。「私しかいないのに律儀なやつだなぁ」と流子には笑われたが。
さすがはマンションである。リビングやらキッチンやら寝室やらと幾つかの部屋に分割され、どこも1人では尺が合わないほどの広さである。一誠はリビングでちゃぶ台の側に座り込み、辺りを見回す。意外とシックな感じであった。家具もテレビも設備は十分に整っており、本棚もきちんと綺麗に整っていた。
「どっかに『夜露死苦』って書かれたポスターがあるんじゃ…」
「どこぞのヤンキーなんだよ私は!?」
という風に、散らかっていたり、俗語がでかでかと書かれた紙が辺り中の壁に貼りつくされたりなど、『やっぱりスケバンぽさがにじみ出た部屋では?』と一誠に思われていたそうだ。流子はザクッと突き刺されたような思いを抱いていた。
「でも、いいよなぁ…。1人でこの部屋自由に使えるなんてさ。それに綺麗だし」
「最初からそう言えってぇの…」と影で拗ねながら小言を言う。一誠にはこれはこれでと満足していたのだった。その一方で、「何ともいい部屋だ」と言わんばかりに一誠は背伸びをしていた。暫くしてお茶を持ってくると共に、着ていた一誠の上着を返す流子。シャツの替えはあるらしく、血痕が残る方は落としてから処分するそうだ。
「ありがとな…」
「気にするな。友人だしよ」
「おう…」
一誠は、余裕気な笑顔を見せて流子を微かに笑わせた。
一誠の隣に座った流子が今日の事を思い返してみる。何とも訳の分からない一日だった。アーシアと付き合っていたかと思えば、堕天使の天野に殺されかけ、アーシアのおかげなのだろう、いつの間にかその傷は治されていた。アーシアが天野に連れ去られ助けに来たと思えば、急にアーシアも一誠も見慣れぬコスチュームを身に纏っては、種も仕掛けもないイリュージョンを使っては化物を圧倒していた。事態が収拾したかと思えば、実は悪魔も存在していたりとか、一誠にそのような化物達と仲が良かったりとか。1枚の紙には描ききれない。
ただ共通していたのは、一誠の様子である。実際初めて目にしたのは流子自身だけであり、一誠は見慣れているかのように、時には冷静に、時には歓喜に、時には友好的にああいう連中と接触していたからだ。彼女が目にしない影で、一誠はどのように過ごしていたのか…。何やら自己鍛錬を行っていると、女子達が顔を赤く染めながら話しているのを何度も耳にしてきた。興味など微塵たりともなかったが、今回の件でどうも気になって仕方がなかった。
「あのさ、兵藤」
「ん?」
コップに入った緑茶を口にしている時のことである。不意に流子に呼ばれたが、一誠は気にすることもなく応えた。
「さっき聞きそびれたけどさ、お前いつもああいう化物らに遭遇してんのか?」
「化物とか言うなって。中にはいい方々もいるんだぞ」
「知るかよ、今でも私は信じられないからな」
「まぁ、纏さんには奇想天外なことには変わりなかったから仕方ないけどさ」
一つの間を置いて、思い出そうと首を傾げている一誠。
「まあな。日常茶飯事に変わりないか」
「マジか…?」
「ああ。よく噂されてるけど、トレーニングしている時に会うことが殆どかな。たまに部長と違って、映画で見るようなえげつない格好の悪魔を見つけてはほとんど生かしたまま仕留めるし、たまにアザゼルさんとかああいう友人達と話すし」
「もういい…! お前がどんだけ物騒な経験をしてきたかよ~くわかった…!」
平然と話す一誠を見て、流子は想像するだけでも恐ろしいと見た。いくら数えきれぬほど喧嘩の経験のある流子でも、太刀打ちは出来ないだろう。流子の引いている表情を見て、一誠はムッとして言い返す。
「そういうお前だって、常に悪魔と接触してんだろうが」
「いやわかるか、んなもん。紛らわしい格好しやがって…」
「おいおい…」
流子は、やれやれと愚痴をこぼす。
特に上級であるほど魔力の貯蓄は豊かで、悪魔は常に人間の姿でいることができる。逆に言えばひょっとして正体は、B級映画に出てくるような化物なのだろうかと解釈されてしまうだろうが。
特にリアス達は学園内でも有名で、特に生徒達の前に出ることが多い。この時常に、一誠は悪魔の気配を感じ取っていた。勿論、他の生徒達には知ることはできない。またリアリズムの面もあってか、リアスもしくは小猫の髪の色に対して不思議に思っていたのは別の話である。
「ちなみにだけど、生徒会全員も悪魔だぜ? 最近わかったことだけど」
「…嘘だろ?」
「ある意味、駒王学園は悪魔が牛耳っていることに変わりはないさ。まっ、ああいう連中のことはなしにして、別に生活に関わりはないから、どうでもいいけどさ」
「カ~ッ」と無声音に近い声を立てて呆然とする流子。悪魔の気配を常に感じ取る一誠は、生徒会に関しては一切触れたことがなかった。オカルト研究部と名を語っては暗に参加していると思えば、まさか学園の治安を守る根源さえも悪魔に染まっていたとは予想の範囲外であった。だが、一誠は何も臆することも警戒することもなく、そこらの人達と同じように接している。もし悪魔として振る舞うように諭されれば、倍加の力を使って懲らしめるつもりなのだが。無論、悪魔や堕天使、天使といった存在を漏らすのはタブーであることを一誠は二重に理解している。
流子は、一誠の様子を見てどこか抜けていると感じていた。自分自身ならば、どうも居た堪れない心情で一杯だろう。自身の思考を無意識に優先したために、流子はこんなことを聞いた。
「お前さ、怖いと思ったこと一度もないだろ?」
レイナーレとの戦いでも果敢に立ち向かい、誘惑からの不意打ちに対しても戦きもしなかった。なんとも難攻不落に見えて仕方がなかった。その印象からこんな質問が口から出されたわけである。だが、一誠は暫く沈黙を置き、そしてやや重々しく口を開いた。
「……どうして、そう思う?」
一遍変わった一誠の様子に不審に思ったものの、参ったというような苦笑を浮かべて流子は話した。
「今日の兵藤を見りゃあ明らかじゃないか」
「……」
流子は言う。コップを握る手が震えていた。彼女の言葉を、何食わぬ顔でじっくりと聞いていた。
「いくら相手が化物ったって、私は悔しいんだよな…。あいつに一発仕返ししてやろうと自分で思っておいて、結局圧倒されて何もできなかった…。いくらそこらには絶対にないヤツだったにせよ、悔しくてたまんねぇよ…」
「…そうか」
素っ気なく、一誠は相槌を打った。
彼女は一度、九死に一生を得るような経験をした。確かに中学生の時は一誠も何度かチンピラ達と喧嘩をしてばかりの流子を何度か見てきた。だが、まさかあんなことに遭遇するとは予想もつかず、未知なる存在に恐れをなしていた。彼女なりに、彼に憧れている節は窺えられるだろう。だが、一誠はそれを由としないような顔を浮かべている。
「……バカ言え。俺だって怖いと思うときはあるさ。人間だからな」
「そっか?」
自分に合わせようと無理に同情しているのではないのかと、流子は思案する。ふと思考の海から抜け出すと、一誠が自分の顔を真剣に見つめてくることに気づく。
「纏さん、あんたのことだよ」
「はっ?」と、流子は目を大きくした。そんな彼に流子は乙女らしく恥じらいを見せ、「なんだよ」と返してしまう。無論、流子は一誠に対してトラウマを植え付けるほどの何かをやらかしたわけではない。
だがその一言を言った時の一誠の口調は、怒っているのだろうか、悲しんでいるのか、これで一件落着とでは済まされないばかりの鹿爪らしい表情を見せている。
「ヤツに襲われたと聞いた時、正直俺はゾッとした。あんたの腹の傷を見た時も、俺はゾッとした――嫌なんだ、理不尽に傷ついたり死んだりするのを見るのがな。この怖さは、何度味わっても慣れはしないんだよ」
「むしろ慣れちゃいけないんじゃないか?」と一誠は付け足し、お茶を一口啜る。
流子には初めてだった、これほどにも感傷染みながら滲んだ表情を浮かべる一誠を見たのは。一誠と聞いて脳裏に浮かぶのは、文武両道だが無愛想な一面を見せ、だがどんなことにも責任を持つ、何とも頼りがいのある少年。
だが死角――流子の知らない境遇が、一誠の身にでもあるのだろう。一誠でも後ろめたい過去を引きずっているのかもしれない。すぐにそう悟ったがその領域に踏み入れることは出来なかった。いや、無意識にその部分に触れてしまったのかもしれない。
窓の向こうから通り過ぎて行く車の音が聞こえる。一誠の一言で静まり返る、広い空間。自ら肩身を狭くさせてしまったことに、一誠は思わず苦笑した。
「悪い、有耶無耶な答えになっちゃったな」
「いや私こそ…、不謹慎なこと聞いちまったみたいだな…」
申し訳ないと詫びを入れた流子だが、「気にすんな」と一誠は宥めた。
「今日のことは俺達だけの秘密にしてくれ。まぁ忘れろとか、今更纏さんに無理強いするつもりはないわな。見ちまったもんは見ちまったんだから仕方がない」
『二度と関わるな』という拒絶を言わない。一誠の言葉は、意外にも軽かった。
一誠の態度は、素っ気ないというよりも、適当というよりも、中途半端を見せない人情深さ。流子の印象は、出逢ったときから今でも変わらない。居場所を探し求めてもがいていた自分に、一誠は手を差し伸べてくれた。他の不良達と喧嘩をした際に、相手側の一方通行ならば迷わず加勢。流子の立場を松田や元浜に、その他の人物に置き換えても、ほぼ同様である。
逆に流子達の過失ならば、一切の干渉は行わない。ただ俯瞰的な立場を取り続ける。その頑なな態度が解消されるのは、彼女達が何かを掴んだ時のみ。要はこの場合でも見捨てないことに変わりはない。
友人だろうが誰とも助ける、だが中途半端はしない――それが一誠の本質。流子はそう考える。
だが一誠の闇を垣間見たことで、誰しも後ろめたい感情を抱くのだと目を覚ます。だから拒絶されても、一誠の幼馴染として無理にでも肩を貸すつもりだった。実際は一誠の一言により、流子の中で膨らんでいた、緊張という名の赤い風船が徐々に萎んでいく。彼の笑顔に釣られて、彼女自身も思わず笑ってしまう。
「何もかも単純だなぁ、お前…」
「それに、無理に悪魔とかに接しろとか言わない。そのときは、纏さんは俺が守るからさ」
流子はこれから、様々な人外達と過ごすことになるだろう。いくら喧嘩慣れしている彼女でも、万が一人外の誰かと喧嘩することなど酷なことであろう。流子は大事な人物の1人だ。盾になってまで守る義理は、一誠自身にはあるだろう。常に赤龍帝の力を使うわけではないが、今回のような出来事があるだろうと、そして友人を、家族を、やがては自分が愛すると決心させる伴侶を守るために。
友人として投げかけたつもりである。だが、一誠の言葉は足りなかったにすぎない。元から初心な彼女は別の意味で受け取り、笑顔を消しては顔を真赤にしてしまう。
「バババ、バッキャロッッ…! 兵藤ばかりなんかに守られる筋合いはねぇよ…! 私だってな、自分を守るイロハぐらいできるってぇの……」
「…纏さん? 友人だから助言しただけだぞ?」
「わーってるよんなこたぁよぉ!!」
慌てぶりに一誠は疑問を持ったが、すぐに理解した。林檎の状態で激高する流子だが、明らかに誤魔化しきれていない。それからは今回のこととは関係もなくも他愛もない話を行い、数分後に一誠はマンションを後にした。部屋の入口で流子はそんな彼を見送った。
「とにかく、纏さんもアルジェントさんも無事でよかった。じゃあ、また明日な」
「ああ、また明日…」
「そんなこと言ってる場合か」と内心に留めておいた流子。肩に荷物を背負い、コツコツと歩いて去っていく一誠。背中が、先ほどの話を聞いた所為なのか重苦しいものを背負っているかのようだった。
一誠に対して感じた心の陰りというものは、一度風呂に入った後でも拭われるものではなかった。マコから貰った寝間着を来ては、既に敷いてある布団の上に寝転がった流子。ただ理由もなく天井を見やるが、未だに彼女の脳裏では、一誠のあの表情が一端に思い出されるばかりである。
「あ~っ、わかんねぇな」
一誠は、流子からして並外れた存在である。彼女では何も思いつかない。
だが、流子としては何かをすべきではないのかと1つの使命感を抱いていた。今日流子が味わった非日常というものは単なる一部に過ぎないのかもしれない。だから、こそである。一度その非日常に足を踏み入れてしまった自分、この陰りが拭えない限り一歩も引くつもりはない。一誠は口封じをする真似をしなかったので、己も一歩進むべきなのではないのかと思っている。一誠に追い付くために。
***
燃え盛る荒地。嘗てのこの地は緑の森林に満ち溢れ、草原に囲まれて1軒の家が立っていた。
しかし、木々は無様に折られ、当たりから焼き焦げる灰の臭いが達篭っている。あらゆる造物を飲み込まんとする炎が数カ所から立ち上がり、黒い狼煙を揚げている。
瓦礫は散らばり、炎に囲まれる中―
―***さん…!! しっかりして!!
1人の少年は横たわる1人の女性の手を握っていた。彼女は血に塗れ、虫の息に近い状態であった。もはや長くはない。
彼は彼女の状態を理解していた。だが目の前の現実に絶望し、真実よりも僅かなる奇跡を信じていた。溢れんばかりに涙を流しては、顔一面が煤や涙で汚れても慈悲を求めるかのような表情を向けていた。
それでも、彼女は痛みなど一切感じていないかのように―
―***くん…。
普段から見せる、いつもの笑顔を浮かべたまま言い遺した。
―世界で一番好きな人を見つけて、幸せになるんだよ…。
***
パッと一誠は目を覚ました。
時折この夢を見る。
生々しい感触を覚えたことがある。
何度心を折られてきたか。
何度目を伏せようとしたことか。
何度安息を求めてきたか。
だが、もう―。
一誠は澄んだ顔をしていた。
決意を秘めたかのような表情を浮かべていた。
「シッ!」
パチンと自ら頬を叩いて気合を入れる。勢い良くベッドから降りて部屋を後にした。
家族とともに朝食を済まし、制服に着替えて駒王学園へと赴く。コンクリートを堂々と踏みつけ、通学路を歩く。校門に辿り着き、一誠は流子を見かけると直ぐ様に声をかけた。
「おはよう、纏さん」
「…! おう、おはよ」
「腹の調子はどうだ?」
「ああ。もう大丈夫だ」
一誠に声をかけられたことに一度肩を震わせたが、何ともない様子で答えた。無論、腹の傷はアーシアによって完治されている。だが、何気なくも案じてくれることに流子は内心では感謝していた。
校舎に入り、自分の教室に入り込もうとすると―
「いっせぇぇぇ~~~~!!」
「何してくれとんじゃあああ~~~!!」
「ゲッ…! てめぇら…!!」
横槍を入れるようにして、松田と元浜が何れも片腕を横に伸ばして一誠に近づいてきた。流子も乙女だ、彼らを見るやいなやGを見た表情で睨みつける。だが、様子がおかしい。両者とも寝不足を超えるほどに、顔色が
だが、当たる直前でサッと回避する一誠。
「レバッ…!!」
「ニラッ…!!」
松田も元浜も互いにラリアットが首の根元に当たるという相打ちに終わり、意味の分からない声を上げる。慣性の働きによって勢い良く床に倒れ込んだ。呆然とした表情で天井を仰ぐようにして見つめていた。
一誠は何故彼らがこんなことをしてきたのか理解できない様子でもあった。
「どうしたんだお前ら?」
さりげなく、流子は2人に尋ねた。
「『どうしたんだ』じゃねぇよ…。一誠…、昨晩魔法少女にいるって言ってたとこに行ってきたがな…」
その問いに対し、細々とした声で松田が答えた。
「ああ…、十分楽しめただろ?」
「「んなわけねーだろぉぉぉぉぉっっ!!」」
笑顔で確認する一誠だが、両者ともダメージを無視して立ち上がり、床に頭を叩きつけた。顔を伏せたままで血涙を流している。早速流子はその様子を見て、大きく引いていた。無論、女子達も怪訝そうに見つめていた。
「てめぇら…、何しでかしたんだ…?」
「違う!! 違うぞ!! 一誠から魔法少女がいるって聞いて昨日その場所に来たかと思えば…!」
「いきなり世紀末覇者に出くわしたぞぉぉっ!!」
「世紀末覇者…? 何言ってんだこいつら…?」
「訳がわからん」と言わんばかりに困惑する表情を浮かべる流子。その彼女を他所に、松田と元浜が怒りを一誠にぶちまける。実は一誠から「とっておきの魔法少女がいる」と、珍しく情報を与えられていた。勿論それを聞いては有頂天になり、結局放課後までもそのテンションは持続した。だが、魔法少女がいるとされる部屋のドアを開けた途端、戦慄に満ちた。
『一誠から聞いてるにょ! 君たち、魔法少女の極意を教えるにょ!』
『にょおおお~~っっ……!?』
あの後、『パンドラの箱を開けてしまった』という後悔しかなかった。この時、元浜は眼鏡が外れた状態で何度も『キリングミーソフトリー…、キリングミーソフトリーィィィ…』と何度も呟き、暫く重症であった。
「どうしてくれんだよぉぉ――っ!! あの後、家で色んな魔法少女アニメを根こそぎ取り出して見たってぇのに、どのキャラクターもアイツの声が被るようになったじゃねぇかぁぁっっ!!」
「俺なんか…、写真集見てると、だんだんと顔が…、顔が…、うああ――!!」
「なんなんだ…、一体…?」
もはや精神崩壊してもおかしくはないのではないか? 絶望以上に満ちた表情を浮かべて松田は地面に正拳突きを行い、元浜は頭を抱えては絶叫していた。だが、一誠はこの様子を見て感心していた。
世紀末覇者の魔法少女もまた一誠が知る友人の1人であった。いや、友人というよりも恩師であろう。物心が付く以前からの付き合いであった。松田や元浜もいい薬になるだろうと、予め頼んでいたのだった。暫く、覗きとか犯罪じみた事は出来ないだろう。だが、なるべく警察を呼ばれるほどに落ちぶれてほしくはないという、彼なりの配慮であった。
「とりあえず、もうホームルームの時間だからいい加減入るぞ、二人共」
断末魔の叫びを挙げながら、一誠に引きずられていく。呆けていた流子もつられて一誠を追っていった。ちなみに、その世紀末覇者の魔法少女も同じマンションに住んでいるという事実を、流子が後日知ることになったのは別の話である。
とにかく、色々とカオスだろうが平凡だろうが、一誠は普段の生活を送りたいのであった。そのために、今日も一誠は普通の人間として、赤龍帝として今を生きるのである。
***
依然として、フリード・セルゼンは行方知らず。だが逃亡時の表情からして、レイナーレには仲間といった、意識の一欠片も感じられなかった。結局は自分の保身のためにしか利用していなかったということである。
数日後、堕天使陣営によってレイナーレへの尋問が行われた。彼女が“龍の手”を手に入れたのはフリードが一件の殺人事件を行った直後のことだった。何しろ、彼女達はその被害者が神器を秘めており、既に覚醒一歩手前の状態であると見込んでいたのだからだ。この時手の内にいたフリードに、悪魔に心酔しているとデマを吹き込んで送り込んだというわけだそうだ。数日して、一誠はアザゼルから知らされることになる。
アーシア・アルジェントは満艦飾一家の計らいで、マコと同じ公立高校に通うことになった。勿論、そのことにマコが大層喜んだのは言うまでもない。使い魔を放っていたリアスはその事実を耳に留め、神器を宿すアーシアを回収せんと部員の反対を押し切って公立高校に足を踏み入れた。ところが、とある生徒会長に阻まれ論理的、剰え物理的に一蹴された。しかも、そこらと変わらぬ、だが気迫を感じられる凛々しい女子高生だったという。
昼食の際に祐斗から聞かされ、一誠は「マジか」とその彼女の存在に対して半分驚くが、流子は何かと冷や汗を掻きながら、内心ではリアスに対して悪態をつくと並行して、同情の念を宿していたというのも別の話である。