Don't Think. Feel ~史上最強の赤龍帝~   作:70-90

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OP: Ending Story?? / ONE OK ROCK

テストが終わり、春休みに入り…。

というわけで、第2章開幕です。


Just Do It: 戦闘校舎のL
赤龍帝が叩く!


 先月は非日常な出来事が色々と発生していたと、一誠は回顧する。

 理不尽な理由で堕天使に殺されかけたり―言葉通りなのは流子やアーシアの方だが―、アーシアの神器が禁手化に至ったり、言伝でしか聞かされていないが、とある生徒会長にリアスが撃破されたり…。ちなみに生徒会長の件については、リアスは休日の間に暫く部屋に引きこもっていたそうだ。彼女の凶変ぶりに、サーゼクスはどうしたことかと酷く狼狽していた。

 彼女の矜持(きょうじ)というものは意外にも脆かったというのが、一誠の感想である。だが、世間の広さを若干知ったという点では、良い薬になったのは確かだ。終わりよければ全てよしと気持ちを切り替え、一誠は普段通りの生活を満喫していた。

 あの事件から数日後、ホームステイという名目で公立の輪廻堂学園に転入したアーシア。マコと同じクラスであり、日本語が話せるということで早速クラスメート達とうまく取り合っている。駒王学園にいるよりかはマシであろう。その点については、一誠も流子も安堵していた。

 だが、1つ気がかりなことがあった。駒王学園の校門に、見慣れない青年がごく頻繁に現れるようになったのだ。

 

「なんで女子がこんなに群がってんだ?」

「さあな…」

 

 一誠達4人で登校した時のことである。何やら女子達が校門の前で群がっては歓声を上げていた。まだ朝だというのに。教員達が駆けつけては注意を歓喜しているが、誰も耳に留めようとはしない。

 流子が遠目で凝視し、さっぱりと首を傾げる一誠。

 

「どうせイケメンか…!? どうせイケメンに決まってんだろ…!!」

「お前ら…」

 

 全体が女子でしか構成されていない。しかも中心に向かって黄色い声援を送っている。このため松田と元浜は、下手なバイオリンに匹敵するほどの雑音を出しては歯軋りしており、流子はそんな2人を引くような目線で睨んでいた。

 学ランを着る青年が校門の前に立っては、じっと新校舎の方を見つめていた。そしてその時の笑顔は、何やら粋な子供のように期待を寄せているかのようであった。普段は不審に思うのだろうが、駒王学園の女子は間逆である。『~にそっくり…!!』、『どこの高校の人なんだろう…!?』などと容姿もしくは彼の表情に心を撃ち抜かれ、周りを囲んでは幸悦に浸っていた。だが、神聖な場所に入ってはいけないと言わんばかりに、1メートル程の距離が置かれていた。

 

「一体どこの高校なんだ?」

「チッ…! やっぱりな…! やっぱりそうだ…! なんで俺は駄目なんだ…!! 俺のどこが悪いってんだ…!!」

 

 一誠の問を無視するように、松田と元浜はその青年が忌々しい者であるかのように睨んでいた。

 

「ただてめぇらの素行が悪いだけだろうが?」

「纏さんに同感」

「一誠おま―」

 

 流子の痛烈な一言、そして一誠の共感に対して松田が反論しかけたその時である。歓喜か恐怖か、女子の悲鳴が響き、その彼女の拳が松田の顔面に直撃したのだった。「ぐふっ…!?」と声を漏らして派手に仰け反った。

 

「松田ァァ!! お前大丈夫か!? 今拳が埋まり込んでなかったか!?」

「ちょっ、なんで…!? なんで俺殴られた…!?」

 

 元浜が驚愕して声をかける。鼻血を出した状態で、松田はただ呆然としては答えを求めて見回していた。流子の言葉を借りるならば、普段の素行が悪いという事実に尽きる。だが、自制する気は見られない。

 『ん?』と音をあげては、その青年の背中に注目した。何やら棒状の代物を背負っているようであり、革製の袋に覆われている。だが、その口からは金色に輝く柱が出ていた。剣道にしては派手すぎる。フェンシングにしても太すぎる。いや、金属製の武器を担いでいるならば、警察に呼ばれて没収されるに違いない。

 

『おい、相棒』

 

 突如、ドライグが念話で話しかけてきた。

 

『どうした?』

『こいつだ。僅かにしか感じられぬが、聖堂で感じた闘気と似ている』

『マジで…?』

 

 一誠は思わず二度見をした。彼こそが、レイナーレの部下3名を殱滅した張本人だという。そこまでの実力を持つ男が、悪魔の巣窟である駒王学園にのうのうと足を運んでも大丈夫なのだろうか。

 

「貴方達、一体何をなさっているのですか!? 通行の邪魔ですよ!!」

「ああっ! あれは生徒会のナンバー2、椿姫先輩じゃん!」

 

 生徒会の人らしき長髪の女子が、後輩2人を連れて注意を喚起しに現れた。真羅椿姫は生徒会では副会長に当たる存在であり、蒼那の次に触りが冷たい。それを承知している生徒達は焦りだし、気まずい空気を漂わせては校舎内に駆け込み始める。一誠と流子はそんな彼女達を見つめ、一方で例の2人は怪しげな視線を椿姫に向けていた。

 

「貴方も通行に支障が出ますので、早く退いてもらえますか?」

「否だ。私は誰の指図も聞かん」

「何ですって…!?」

 

 いわば『俺様キャラ』というジャンルなのだろう。椿姫の顔を一瞥するだけで、再び校舎に視線を向けるばかりだった。だが飽き足りたのだろうか、身体を返して駒王学園を後にしようとする。女子が名残惜しい表情を浮かべる中、青年は一度立ち止まり椿姫の方に顔を向けた。

 

「確か、椿姫といったな。実に麗しいものだ」

「なっ…! 私をおちょくっているのですか…!?」

 

 野次馬達の台詞から彼女の名前をスキミングした青年。突如の口説き文句に、椿姫から素の表情が現れてしまう。不機嫌になる一方で、耳まで真っ赤になったのだ。

 一誠達はただ呆然とするばかりであった。一体どうしたものか。

 

「仕方があるまい。これ以上居座れば、そこらの花達の機嫌を損ねてしまうからな」

 

 花と形容されたことに女子達は呆然と立ち尽くし、悲鳴を上げては興奮してしまう。間接的であれ、自身に注目されたことに満足しきれない。中では同人誌の新しいネタとして取り上げようとする腐女子達もいる。

 「はぁっ!?」と呆れながらも、自身も頬を染める流子がいる。揃って血涙を流してハンカチを噛みしめる松田と元浜がいる。青年が過ぎ去っても、何やら興味を持つ一誠がいる。

 

***

 

 夜中。課題を一通り終えた一誠は照明を消す。ベッドの中に入り込み、目を伏せた。しかしこの状態にして数分後、窓側に寝返りを打ったときのことである。部屋の壁が突如赤く光りだし、円状の魔法陣が浮かび上がった。物音を耳にし、恨めしげに目を覚ます。

 一体どこの悪魔がお邪魔でもしているのだろうか。近くの知り合いといえば、1人しかいない。

 

「失礼するわ、イッセー」

 

 その声色は、どの男子であろうと魅せられてしまうだろう。さっと一誠は彼女のいる方に身体を向ける。何故か恍惚とした表情で一誠を見つめている。リアスはいきなり、制服に手を掛けボタンを外そうとする。何も言わず、ベッドから出た一誠はゆっくりと立ち上がってリアスに近づき―

 

「フンダラバァッ!!」

 

――どんな存在であれ辞書には掲載されていない言葉を放った後、リアスの額を躊躇なく、一発のデコピンが打ち抜く。

 

「~~~~~~~~~~~~!!」

 

 腕を一度後ろに大きく引き、パンチする勢いを付けて指一本に怒りの闘気を込めたのだ。言葉にならない声で呻きながら、額を抑えては屈んで悶えるリアス。額からは煙が出ている。しかし、前もって吸音結界を張っているので、親が起きることはないだろう。真白だったはずの額を押さえ恨めしげにリアスは一誠を見る。一誠はベッドの上に乗り両手を組み、胡座をかいてはジト目で見下ろしていた。

 

「冗談にしては許しがたい内容なんですが部長」

「イッセー、私は貴方の先輩よ!? それに、顔は命なのよ!?」

「正当防衛です。いくら先輩だからって、俺の人生を揺さぶってもいいわけではありませんよ? 部長、松田と元浜のバカ2人と同じ、カテゴリーHと認識しますわ」

「H…って変態って意味なのよね!? やめて!! 貴方にはあの2人と同じにしか見えないの!?」

「うん」

「即答!?」

 

 一誠の発言に動揺と落胆を隠せないリアス。あの二人組は悪名高く、リアス達の耳にも入っている。彼女は気にも止めなかったが、さすがに同列に並べられるのは論外だった。それにしても彼女に対し、冷たい視線を送る一誠である。リアスの行為は明らかに性犯罪の1つである。確かに美人だが、こんな形で貞操を奪われるなど痛恨の極まりである。ましてや深い関係を持たない女子に。

 

「だって明らかに不法侵入、プライバシーの侵害、しかも逆夜這いだなんて犯罪者に変わらないじゃないですか。しかもいきなり服を脱ごうとは部長、レイナーレと同じ痴女ですか? じゃあ松田か元浜のウチに行ってしてきてくださいよ! なんで俺なんだ! 俺は健全なる男子を目指す男だぞ! そんなんで俺を誘惑できると思ったら大間違いだ!」

 

 感情に任せている節は僅かに見られるが、一誠は論破した。しかし途中から敬語ではなくなっている。すなわち説教である。

 一誠からして、覗き見常習犯の松田と元浜、不法侵入かつ露出未遂のリアス、両者ともかなりの悪である。むしろ後者の方が余程酷い。前者も大抵の女子に偉く迷惑が掛かっているのだが。

 不法侵入、痴女…。多種に行き渡る毒が一誠の口から吐出され、リアスの身も心もじわじわと溶かされていくばかり。もはや堤防が崩れる寸前である。

 

「イッセー…、酷いわ…。私のことが嫌いなの…? 何もそこまで言うことないじゃないの!?」

「まぁ…、部長は理想のタイプじゃないということは認めます。それよりも、俺はこれでも事実言ってるつもりなんですけど? それなら松田と元浜を呼びますよ? 警察を呼びますよ? サーゼクスさんを呼びますよ? さぁ、どっち?」

「いやよ!! 逃げ道1つもないじゃないの!?」

 

 拳を出し、指を1本ずつ開いていき提案を述べ、選択を求めた一誠。だが、ゾッとした表情のリアスに即答された。どれも酷い目に遭うという事実こそは、リアスの目に見えていた。

 

「じゃあサーゼクスさんですな」

「早っ!? まだ選んでないわよ!! やめて!! お兄様を呼ぶだけは!!」

 

 勉強机の卓上に置かれている携帯電話を取ろうと、ベッドから降りる。だが、直ぐ様にリアスに左手首を掴まれた。

 

「とにかくお願い! 私の人生がかかってるの!」

「それはこっちも同じなんですけど? どういうことか顛末を俺に話してくれませんか?」

 

 冷静を取り戻し、一誠はリアスに動機を求めた。

 いかなることでも理由が知りたかった。勿論、それに乗じてリアスの言われたとおりに行うことはせず、むしろ止めるのだが。何故こんな真似をするのか。一体、彼女に何があったのか。

 

「説明している暇はないのよ! だから、お願い…」

 

 リアスはそう答えてはぐらかし、やるべきことを果たそうと色気を見せながら手を近づける。シャツの第一ボタンを外しては豊かな胸元を見せつけ、瞳も潤んでいる。

 しかし当然だが無慈悲にも、彼女の手がピシャリと(はた)かれた。一誠は惚けるどころか、全くの無表情のままだった。そうやって色仕掛けをすれば安々と受け入れるとでも思っているのか、この痴女は。

 

―やめて止して触らないでアカが付くから~♪

 

 小学校時代、誰かの男子がふざけてしていたものを、見様見真似で見せつけた。歌なしで、真顔で。歌わなかったのは、『知らないだろうし、知っても得しない』という一誠なりの配慮である。こういった人間の独特な文化は、別に冥界で広まっているわけではないのだろう。

 

「……グスン」

「いや知ってたんですか部長」

 

 だが、身振りだけでも堤防に罅が入ったようだ。リアスの脳内に自然と唄が流れ、そして自分が貶されたことを悟り、俯いては涙を流す。

 

「私…、毎日シャワー浴びてるのに…、汚いだなんて…」

 

 自身の身体に絶対的な自信を持っていたらしく、低評価を受けたのは初めてであった。誰もが美しい、魅力的、憧れると一点張りの高評価を与えている。ただ一誠には全てにおいて自己主張が強すぎるものは、理想のタイプではなかった。

 再び赤い魔法陣が現れては何者かが現れる。メイドの身であるがリアスと比べ、髪は純白であり彼女以上の魅力的な身体を見せている。だが、その彼女は荘厳な雰囲気を醸しながら、リアスを見る。

 

「このようなことをして、破談に持ち込むおつもりですか? リアス様」

「グレイフィア…」

 

 サッと涙を拭いては、嫌そうにグレイフィアという女性を見るリアス。彼女には悔しいだろうが、貞操が無事に守られたことに一誠は安堵していた。むしろ、自己防衛力の強い彼には軽いことなのだが。

 リアスを一瞥した後、一誠に身体を向けては深く一礼をした。

 

「一誠様、ご無沙汰しております」

「どうも…」

 

 リアスに対する態度とは異なり、一誠は律儀になり一礼で返した。

 

「夜分遅くにもかかわらず、お嬢様がご迷惑をかけてしまい申し訳ありません」

「グレイフィアさんが謝ることはありませんが全くだ」

 

 一誠はそう言うとジロリとリアスを睨んだ。彼女は上目遣いで交互に恨めしげな視線を見せているが、悔しさが感じられる。

 グレイフィア・ルキフグスという女性はメイドだが、サーゼクス・ルシファーの正妻である。彼女はサーゼクスの眷属でもあり、位は女王。だが、眷属とはいえどもサーゼクスは頭が上がらないという。

 無愛想な表情を常に浮かべているが、実際は家族思いである。冥界では、息子のミリキャスには深く愛情を注いでいる。サーゼクスにはシスコンには呆れながらも、それを除いては現魔王らしい威厳を保っていることには深く感心している。

 

「こうでもしなければ、お兄様もお父様にも分かってはくれないでしょう?」

「メイドの私が意見するのも難ですが、それは許しかねますリアス様。貴方はまもなく結婚なされる身、グレモリー家の次期当主としての立場を弁えてくださいませ」

 

 リアスの言葉を理解しているのかいないのか、明瞭にならないままでグレイフィアは事務的な態度を保っている。

 

「…グレイフィア。それは貴方の意思なのかしら? それともお兄様の? もしくは家の総意?」

「全部です」

「…そう。兄の“女王”が直々人間界に来たんだもの。そういうことよね。わかったわ」

 

 リアスは、自嘲を含めた笑みを浮かべる。だが、一誠は同情などしていなかった。一家の令嬢とメイドの会話から察して、一体どれだけ自己中心的な女子なのだと呆れを通り越していたのだ。剰え結婚が嫌だとか…。しかし、一誠の思考は結婚という言葉で止まった。結婚…? もしかして部長が結婚? また、先ほど破談という言葉も耳にしていた。

 確かにリアスは高校3年生であるために、年齢は16歳を超えている。日本の法律からして、女性には既に適齢期である。一誠は挙手して間に入ると断った上で、グレイフィアに話しかけた。

 

「えっ、ちょっと待ってください。グレイフィアさん、部長は結婚するんですか?」

「はい、間もなく」

 

 それを聞くとリアスの方に向く。

 

「ヘェ~オメデト~。明日皆デ赤飯炊カナキャナ〜」

「冗談じゃないわ! てか棒読み!?」

 

 リアスの台詞通り、ジト目の一誠は棒読みで祝辞を述べていた。棒読みなのは寝とりに来たことに切れているためであり、あまり祝福したくはないというのが正直な話である。まさか、結婚が嫌なためにこんな真似をしたというのか。スキャンダルを起こせば簡単に破談できると勘違いしているのか。自爆にするに決まっている。それどころか自身の家族を巻き込んで足枷を嵌めようというのか。

 悪魔の文化によれば、上級悪魔の婚約はなかなかシビアだ。話だけでは簡単に破談にすることはできない。上級悪魔の現状は深刻な状況に陥っているためである。だからといって、確実な証拠を作って破談に持ち込むために無理に一誠と肉体関係を結ばせようとは阿呆にも程があるだろう。一誠の、リアスに対する酷評はこのように酸が強かった。

 

「では屋敷に戻りましょう、リアス様」

「待ってグレイフィア、最後に1つイッセーに聞かせてもらえるかしら…?」

「わかりました、1つだけです」

 

 リアスの頼みにグレイフィアが、是ととれる返事をした。一誠もなんだと、半ば呆れた印象で彼女を見ていた。

 

「ねぇイッセー?」

「懲りていないようですね部長。また眷属募集ですか?」

 

 腕を組み、期待しないような表情と口調で一誠は話しかける。

 

「いいえ、もう無理と見たわ。でもねイッセー、何時になったら私のことをリアスって呼んでくれるのかしら?」

「…理由は?」

 

 リアスは納得できないような表情で尋ねる。それに対し一誠は声色を低くして、動機を求めてきた。当然と見た印象での問に対し、不機嫌な様子で答えた一誠。リアスにはどういう訳か理解できず、徐々に顔から困惑の色が見えてくるばかりであった。

 

「理由ってそれは…。イッセーと出会って、もう1ヶ月が経とうとしてるし…。それに、貴方はお兄様と知り合いだから…」

「ははっ、ご冗談はやめてくださいな。サーゼクスさんは切っても切れない友人の1人ですが、部長とは高校にいる時の間柄しかありませんし、むしろ大っ嫌いです。これからもずっと」

「!!」

 

 乾いた笑いからのナイフ。当然である。リアスに会ってからまだ1ヶ月しか経っていない。また、毎日ではなく滅多に会わない。むしろオカルト研究部自体にニアミスすることもなく、部員の祐斗と話すだけである。なのに、たった1ヶ月でそこまで発展するものなのかと、一誠は呆れていた。親戚だからと誰もが優遇されると勘違いしているのだろうか。それに、なぜ絶望に満ちた顔を見せてくるのかが、一誠には理解に苦しむのであった。

 できれば『嫌い』という言葉を使いたくはなかったが、こうでもせねばいい加減に勧誘を諦めてくれないに違いない。

 

「さあ、屋敷に戻りましょうリアス様。では一誠様、おやすみなさいませ」

「おやすみなさい。ああ、それから部長! 今回のことについてサーゼクスさんか親からきっちりお灸を据えてもらってくださいよ!」

「後のことは私達グレモリー家が対処しますのでお任せを」

 

 こうしてグレイフィアによってリアスは冥界へと連れて帰られていく。逃げられぬように彼女の肩を掴み、生成した魔法陣の中に入っていく。この時のリアスは抵抗たりともせず、表情はまるで小売に出される時の仔牛のように切なかった。無意識にあの曲が脳裏で再生される。

 魔法陣が消えた途端、一誠はクローゼットから上着を取り出し、ポケットの中を(あさ)った。ポケットからは例の魔法陣が入ったティッシュが取り出された。レイナーレに出くわしたあの日に渡されたものだ。

 

―こいつ、まだ効力があったのか…!

 

 もうあんな目に遭遇するのは懲り懲りだと、何故か勉強机の棚に置かれてある十字架の下に載せる。悪魔による魔力の効力を掻き消すためである。「さ~て明日だ明日」と呟き、ベッドに潜り込んで眠りにつくのであった。

 

***

 

 一方でリアスは屋敷に入るや否や、母の書斎に連行された。静かにも怒る母親からの説教を受けたのだが、2時間にも及んだそうだ。

 

「リアス、一体どういうことなのですか。貴方も元七十二柱の現状を存じているのでしょう? なのに貴方という子は…。グレイフィアからきっちりと話を聞かせていただきました。一誠君の家に許可無く赴いて肉体関係を無理にせまろうとし、フェニックス家との婚約を破談に持ち込もうだなんて。私は貴方をそんな狡猾な子に育てた覚えはありません。やがてはグレモリーを継ぐことになる次期当主、わがまま娘のままで好き勝手にさせるわけにはいきません。大体―」

 

 亜麻色の長髪を靡かせる奥方――ヴェネラナ・グレモリーは側にグレイフィアを待機させては椅子に凭れている。そして彼女の目の前にはリアスが正座させられている。土足で屋内に入るようなものだが、説教という名の下に無効化されている。じわじわと麻痺していく両足の感覚とともに涙を浮かべる。それでも、ヴェネラナは慈悲を与えなかった。少しでも立ち上がろうとすれば言葉なしに目で威圧し、このまま説教を続けるのであった。とは言え、当然の報いである。

 

「うう…、リアスぅぅぅ…」

 

 部屋の外ではシスコンに当たるサーゼクスはドアに凭れ込み、子供のように泣き崩れていた。勿論、リアスのしたことはそう簡単には許しがたいと了承している。だが、罰を受ける身になると身の詰まる思いで押しつぶされそうである。

 

「お祖父様? なぜお父様は泣いておられるのですか?」

 

 サーゼクスと同じ赤髪の少年、ミリキャスが純粋にも子供らしい表情で祖父に尋ねる。

 

「別に大したことではないよ。さあさあ、私の書斎にでも見に来るか?」

「はい!」

 

―耐えろ…。耐えるのだ、我が息子よ…!

 

 無垢な笑顔を見せる孫には祖父らしく優しさを見せ、サーゼクスには厳格な表情を切り替える父、グレモリー卿。惨めな父親の姿を見せるわけにはいかんと、孫を誘っては書斎に招き入れたのだった。ちなみに厳格とは言ったが、実際はどうしようもないほどの同情を心に秘めていたのだった。

 説教の後リアスは自室のベッドに寝転び、枕を大粒の涙で濡らした。また、「これからもずっと」という魔の言葉が彼女の脳内で繰り返し再生していたらしく、一睡も出来なかったそうだ。

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