Don't Think. Feel ~史上最強の赤龍帝~ 作:70-90
リアスの
教室で自席に座っていると上着のポケットに入れた携帯が震えた。一誠が取り出すと、電話先は『サーゼクス・ルシファー』と書かれてある。席を離れてから受信ボタンを押し、耳に当てた。
「もしもし…、サーゼクスさん?」
『やあ一誠君…。昨晩はすまなかったね…』
サーゼクスの声色がか細い。これから察して、過度の心労が溜まっているようだった。
「あの…、大丈夫ですか…? 随分と声がやせ細ったような…」
思わぬ衰弱の程度に、一誠は調子を窺った。『なぁに、心配することはないよ…』とサーゼクスは笑うも、空元気だとは既に見抜かれている。
『リーアたんがまさか君の実家に忍び込んで大胆な真似をするとは、私は暫く落ち込んだよ。きっちりと叱ったが、やはり辛いものだね…』
「いや、その意気ですよ。事実、部長は線を踏み越える手前の状態だったんですから」
ちなみに『リーアたん』とは、サーゼクスがつけたリアスの愛称である。
どうやらリアスがああいう行為に走ったこと、そして彼女を叱咤したことに疲労しきっているようだが、一誠は励ましたのであった。
グレモリー家の長女だから補正か何かで御都合主義が成立するだろうとは、なんとめでたいものだろうか。サーゼクスはあの後、シスコンを封印した。実は彼も母の書斎におり、リアスに対して実兄の威厳を発揮し激怒したのだった。一体どんな勘違いをすればこのような事態を起こす意気が生まれるというのだ、グレモリー家一同の顔に泥を塗るつもりなのかと。最悪な場合、彼の実子に当たるミリキャスに次期当主の肩書きを明け渡すことなどを含む禊を考慮しているという旨を明かしたのだった。
無論、母の書斎を出た後に湯水の如く、後悔が心を満たしていったのだった。もしもこの件でリアスに嫌われたらどうしようか。ただ何時もは窘めるはずのグレイフィアは、説教の後に夫を大層褒め称えたのだった。彼女自身、サーゼクスのシスコンの克服への向上、及び魔王としての威厳の成長を喜んでいたのである。
「それから妹さんのご結婚、おめでとうございます。どなたと結婚するんですか?」
『フェニックス一族の三男、ライザー・フェニックス君さ』
ライザー・フェニックス――フェニックス家の三男に当たる。
まずフェニックス家はその名の通り不死身の体を持ち、1万度の炎を纏ってはあらゆる者を焼き尽くす上級悪魔の一種である。また、元七十二柱の爵位としてはグレモリー家よりも上。56位に対して、37位であった。
元の約束より、結婚はリアスが大学を卒業するまでのまだ先の話。だが、悪魔の間でも人間界で言う少子化が深刻であり、悪化の一途を辿っている。悪魔の寿命は長いがその反面、繁殖能力が低い。また以前の大戦以降、数々の一族が跡継ぎ争いや内部対立などで滅亡し、72種が存在したはずが39種まで半分程度に減少していたことも事実。このため、予定が前倒しになったのである。
『私達も色々と候補を挙げてきたよ。だが、その中でライザー君が必死に自分を押してきたのさ』
その候補の中で突出して自己推薦し始めたのは、ライザーであった。その時の彼はまさに己が一番というほど。グレモリー家についてフェニックス家とは親交が深いらしく、話が進んだ。一誠がどんな方かと聞けば、サーゼクスが言うようには『外見に囚われるな』とのことである。
「それで、部長には知らせたのですか?」
『それは勿論。あれからいつもライザー君が私の屋敷に来るようになったが、リアスは相当嫌がっているよ。まあライザー君のアプローチがやや横暴なのは同情できるけどね。ただ、彼女にはわかって欲しい。悪魔社会の深刻さの次に、身内以外の人達の奥深さというものをね』
そろそろリアスの身勝手さが顕著になっている頃合いであるそうだ。その噂のためにグレモリー家の評判が芳しくない。リアスは次期当主としての自覚が備わっているのか、大いに疑うとの声もある。身内ばかりに目がないお陰で、礼儀がなっていない。それは自分自身に責任があると、サーゼクスは自覚していたのであった。リアスの幸福を願っているが、次期当主としての覚悟が足らねばそれ相応に非情な手段を講じるのも厭わない。自分で自分の首を締める行為だと、勿論理解していた。
***
次の日。一誠は日常通りに屋上で昼食を取った後、頭を両手で支えながらベンチに凭れかかっていた。極普通の生活の一部だが、昨日の顛末とサーゼクスとの話を機に恋愛について考えていた。
リアスの婚約話、だがそれは彼女本人の断りを得ない時。一誠でも意中にない女性と恋仲になるなど言語道断。ただ同情はしても止める気などなかった。難しい話である。だが判断材料としてはリアス達の心情だけでは足りない。ライザー・フェニックスという人物をよく知らないため、一方的な拒絶など感じが悪い。
…悪い癖が現れてしまった。
「ちょっと、いいかな?」
そんな中、誰かに声をかけられる。入口には祐斗と小猫がいた。一誠は何となしに「おう」と答えた。
「どうした、木場さんに塔城さん?」
祐斗と小猫は歩いて一誠に近づく。一誠はこの時、予見したかのような表情を浮かべていた。
「ひょっとして、グレモリー部長の結婚のことか?」
「えっ?」
祐斗は読まれていたことに驚く。
「そうなんだろ?」
「……はい。でも、どうして兵藤先輩がそのことを?」
小猫が疑心暗鬼で一誠に尋ねる。「まさかな」と思い、一誠はあのことを明かした。部員が知っているかどうかを確認するためだ。
「実はな部長のやつ、先日の夜中に寝とりに来やがった」
「ええっ!?」
祐斗が声を上げて驚いた。小猫も目を見開いては驚いていた。特に祐斗と小猫の方は信じられないと言わんばかりである。当然であろう、自分の部長が性犯罪で道を踏み外すところだったのだから。
「……部長がですか?」
「ああ。相当嫌がってるらしくてな。勿論丁寧に断って帰ってもらったよ、丁寧にな。グレイフィアさんに聞いたら話してくれると思うよ。その方も部長を帰しに来たからさ」
『丁寧』という言葉を強調するあまり、本当は丁寧ではなかったのだと祐斗は理解した。今朝リアスに会った際に一誠の名を口にした途端、どうも覚束ない様子を見せたからである。
「それでなんだ? 赤飯の準備でもするのか?」
シリアスのようなギャグを加味した話題を入れた途端、祐斗は思わず後ろに転びそうになった。
「いや、なんで赤飯…?」
「だって結婚するんだし、めでたいからに決まってるじゃないか。ほら、そこの塔城さん食べたそうな顔してるぞ?」
一誠の台詞に反応し、祐斗も小猫の表情を一瞥した。
「……そんな訳…、ないじゃないですか」
「今一瞬、間ができてたよ小猫ちゃん…」
小猫は小柄でありながら、食欲旺盛であった。それは彼女の戦闘スタイルによるものであろう。赤飯という言葉を聞いた途端、真顔でも本当に食べられるのではないのかと一度、赤飯を平らげる自分を思い浮かべては現実逃避をしていたのであった。祐斗の苦笑を他所に、小猫は本題に入った。祐斗達からして、赤飯を炊いている場合ではないのだ。
「……ですが、部長は今回の婚約に怒っています。あんな下賎な男に部長が嫁入りするなど言語道断です」
この時の小猫の口調からは、怒気が篭っているかのようだった。
昨日、オカルト研究部の部室にグレイフィア、そしてリアスの婚約者であるライザーが訪問した。彼はリアスを己の嫁と見なしており、スキンシップを掛けてきている。リアスは嫌がり、眷属に当たる彼らでさえも彼のことを嫌っていた。笑顔が素敵な朱乃でさえも、いつもの微笑みを浮かべていると見せかけで目だけは笑ってはいないのである。
リアスは断じて結婚したくはないとのこと。勿論一族の未来を保証するつもりだが、好きと思える男としか好きにはならない、結婚はしない。もはや一触即発の事態を巻き起こしかけたが、グレイフィアの一言で収まる。
両者の同意を得られなかったので、レーティング・ゲームで決着をつけることになった。だが、リアス及びライザー以外の両家の一同は既にこのことを予見していたのだった。
「レーティング・ゲーム? まさかR指定じゃなかろうな…」
「いやいやそんなわけないじゃないか」
「ジョークだよ」と一誠は答える。
ルールはいわば、チェスもしくは将棋と大体同じ。王に当たる上級悪魔が持つ駒――
規定では未成年の参加は禁止されているが、両家の会談で非公式の試合として執行うことになっていた。だがリアスはその経験はないため、10日間の猶予を与えられている。
だが、多勢に無勢とはこのことであろう。実のところ、ライザーの眷属は全て女子でありいわばハーレム。各々、特化した戦闘センスを持っている。またライザー本人も不死の体質を持つに加え、一家の血筋通り高熱の炎をあらゆる形で扱うこともできる。この体勢で幾度かのレーティング・ゲームを勝ち進めてきた経験もある。一方グレモリー陣営では強力なプレイヤーとしては“雷の巫女”こと姫島朱乃、“紅髪の滅殺姫”ことリアス・グレモリーぐらいでしか挙げられない。
ちなみにライザーがハーレム持ちの属性と聞いた途端、一誠は「マジか」と落胆していたのは別の話である。
「部長がこのままあいつと結婚するのは、何とかして阻止しなきゃならない。もし僕達の処遇が保証されたとしても、ライザーに良い様に使わされるのはごめんだ」
もはや小猫以外にも、猫の手も借りたい状態であった。祐斗は笑みを消し、真剣な表情で一誠を見ていた。この2人からして、一誠という存在は一縷の光明、逆転の鍵なのである。
「兵藤君、補欠部員として君も参加してくれないか?」
その後、沈黙が走る。一誠の表情が厳かになる。
「部長の眷属である以上、僕達にも主を守る使命がある。でもライザーの力が強大である以上、君の力が必要なんだ。だから頼む! 部長を救ってあげてくれないか?」
祐斗は頭を下げた。小猫も遅れて頭を下げる。
友人の頼みなら聞き入れただろう。
遊戯あたりならば、思慮の後でも受け入れただろう。
だが、今回はどうだ?
リアスの思い通りのままではないか。
冗談じゃない。これ以上リアスの我侭に振り回されるのは御免だ。
「悪いけど、俺は参加できない」
一誠は掌を見せて答えた。思わず顔を挙げてしまう。
リアスの眷属ではないからと言いたいところだが、非公式では通用しない。だが、それとは別の理由を彼は持っていたのだった。
「俺だって用事が結構あるし。こっちはこっちでトレーニングしたい、テスト勉強したい。そして何より、サーゼクスさんから参加を禁止されているんだ」
その一言で、祐斗と小猫は「えっ?」と何も理解できないように驚いている。
ライザーの眷属は15体、それに対しリアスは4体しか持っていない。更には
その為に両家の会談で一誠が話題に出され、彼の出場が禁じられた。元はと言えば赤龍帝という存在はグレモリー家の所有物ではなく、13種しかない神滅具の宿主を独占すれば魔王のサーゼクスでも非難に対応しきれないだろう。ところが、この条件に対しサーゼクスは了承した。兄の威厳がここでも働き、シスコンを封印したのだ。両親も同じ意見であった。次期当主ならばここで楽にさせるわけにはいかないと。
「多分、部長はそのことを知っていると思うけど…」
「……いえ、元はといえばレーティング・ゲームで雌雄を決めることはあの時初めて聞かされました」
「何だって?」と一誠は耳を疑った。
「それだけじゃない。リアス部長が結婚することも、僕達は初めて聞いたんだ。小猫ちゃんも、朱乃さんも」
「……」
リアスは自身の結婚を眷属の誰とも話していない。一誠は彼女の管理能力に懐疑心を覚えるばかりであった。
そういえば、涙声でサーゼクスが話したことを思い出す。あれから暫くリアスは彼に対し、口を利いてくれなかったそうである。事実、リアスはライザーを度外視しており、眷属に限るが彼に関する情報など一握りも掴めていなかったに見える。リアスの態度に溜息を付く一誠であった。
だが一誠に拒否する動機があるとしても、祐斗は懲りなかった。
「……先輩が部長のことを快く思っていないことは、よく理解しています」
「でも、部長の婚約が望まれていないものだというのは事実だ! 君もそのぐらいわかっているだろう?」
必死の表情で祐斗は同情を求めてくる。だが、一誠の返答は冷たかった。
「俺がわかってたら『はい』と言って同情すると思うか?」
一誠の回答は拒絶。彼はその意志を決して曲げることはしなかった。
「…なんだって?」
「俺は部長の我侭のせいで貞操を奪われるところだったんだ。これだって望んでいないものなんだ」
リアスが結婚を望んでいないことと同じく、あの時一誠はリアスの心情を頑なに拒んだ。この時点で矛盾が生じているとは、彼女は気づいているのであろうか。
それでも、祐斗は反論する。だが、一誠にはもはや張りぼてにすぎなかった。
「でも、部長の気持ちぐらいは―」
「それでも部長の心情を汲んでやれっていうのか。だからって、ああいうことが許されるとでも思ってるのか? 所詮犯罪は犯罪だ」
表情からわかるように、祐斗は静かに怒りと悔しさを滲ませていた。この台詞からして小馬鹿にしているようだが、実のところ一誠は微かに切れかけていた。断るならばもっとマシな方法で断ってみたらどうなんだ。たかがこんなことで薄情者と罵られるならば黙っては置けない。
「それに、この婚約は悪魔の将来を保証するための大事な要件なんだろ? レーティング・ゲームで決めるだろうが俺は正直嫌なんだ、馬に蹴られるような真似をするなんてな」
何故第三者が口を挟む必要があるというのか、遠回しに一誠は問いかけていたのだった。ストーカーとか異質なものでなければ、別にその必要はない。
「……兵藤先輩、色々と私達のことを舐めていませんか?」
小猫も、徐々に一誠に反感を抱くようになった。眷属とは、結局はこういう存在なのだろうか。
***
放課後。流子が帰宅に誘おうとした時のことである。
職員室に向かい、ギリのところで数学の課題を提出した後に教室に戻ってきた。だが、一誠は既に祐斗に連れられてオカルト研究部に向かったことをクラスメートから聞かされた。
―全く、あいつもあいつだよな…。
乗り気ではないのは確かだが、一誠のことならばどうも気がかりで仕方がない。まさかと思い、流子は旧校舎へと駆け出した。旧校舎の中に入るが人気はない。外に出ると木々の間から人の姿が見られたのでその元に駆けつけた。
「兵藤!」
「……」
旧校舎よりもさらに奥の方にグラウンドが広がっている。だが普段の授業模様、もしくは体育系の部活では別の場所を用いられているので、使われる様子など誰も知らない。あの部以外は。
一誠は沈黙していた。実際、身内の出来事を垣間見た後のような焦りを見せながら立ち尽くしていた。
「おい兵藤、どうし――」
一誠に問いかけようとしたが、流子は目の前の光景に言葉を失った。それに瞬きも逸らしもさせず、一誠に並ぶように近づいていった。
あたりには4人の、いや4体の部員達が散らばるようにして、各々と変わり果てた姿を見せつけていた。共通する点としては、誰もが酷く息を切らしている。
祐斗は信じられんと思わぬばかりに呆然としていた。小猫は額を抑えながらしゃがみ込んでいた。その手の内はいつものポーカーフェイスだが涙を流していた。朱乃は膝をついて項垂れていた。リアスも地面に膝をつき、腕も付いては項垂れていた。
「兵藤、これって…」
そして、一誠が放った一言は―
「……鍛えすぎたわ」
「おいコラ、ドヤってごまかしてんじゃねぇ…!」
思わず苦笑してしまった一誠。呆れた表情を見せる流子。
「俺の相棒を責めるでない。喧嘩を売ったのはこいつらの方だ。それにしても、こんな程度でよくも不死鳥如きに喧嘩を売れたもんだ」
「不死鳥…?」
呆れ事を口にするドライグ。しかし、不死鳥という言葉に流子は引っかかった。
「部長の結婚相手」
「そうか…。……けっ、結婚!?」
そして考えこむ仕草を見せる一誠。馬鹿にしているのではない、かなり深刻な表情であった。
結婚という言葉を聞いて驚愕する流子。不死鳥が実在するか否かを他所に、あんな野郎を嫁として欲しがる男がいるのかと疑問を持っていた。
「それより、相当傷めつけただろ…?」
動揺した様子で流子は問い詰める。
「ああ心配ないよ。そこの塔城さんは2発だけど、あとの全員1発で仕留めただけだから」
「そういう問題じゃねぇよ!?」
デコピンの素振りを見せながら一誠は答えるが、流子が理解するには程遠いものであった。
この現状を一言で済ませるならば、誰もかも一誠に瞬殺されたのだ。倍加、むしろ赤龍帝の力など一切使ってはいなかった。
まずは騎士の駒を持つ祐斗。この駒を秘めることで俊敏性を増すことができる。また魔剣を創造する神器、“
次に戦車の駒を持つ小猫。小柄で痩せ身にしては強靭な怪力を秘めており、動きも素早い。一誠との一騎打ちの際、小猫の攻撃がなかなか当たらないことにむかつき始めたか、「……当たってください」と呟くようになっていた。だが一誠は容赦の意を見せず、彼女もデコピンで仕留めた。ところが『ゴシャッ』と、どう考えても有機物が成し得ない音が響き、一誠は呆気に取られた。まるで金属製のドラム缶を凹ませたかのようだった。小猫はその隙を突いたものの避けられ、2発目のデコピンを醸された際には『ガコンッ』とまた金属音が聞こえたのだった。この際、一誠は『
女王の駒を持つ朱乃。彼女は主に雷系の魔法に特化しており、実は『ドS』だった。この時、一誠の内心は半ば失望で満たされていたのは別の話である。一方で朱乃自身も、何故か『ドS』の態度であった。以前はその様子ではなかったため、だが不手際をした記憶などない。特に雷を発動することで、広範囲な攻撃を可能とした。流石に一誠は避けることで手がいっぱい、苦難を強いられたかと思いきや、一つの弱点を見抜いていた。攻撃中は一切の移動ができず、その為に
最後にリアス。滅びの魔力を持ち、この時も使ってきた。だがデコピンで無効化、もう片方のデコピンで仕留めた。4人の中では最短の時間。王が最弱だという、ここで思わぬ問題点が発見される。リアスは暫くそのことで、後に深く落ち込んでしまった。
「手で感じたけど困ったな…。これじゃあ勝負が見え見えじゃないか」
「実戦経験がないのだろう。あると仮定しても呑気に野良共を狩るだけ。これでは満足に強者に挑むこともできまい。……グレモリーの連中は甘すぎるな」
むしろ、何故一誠とオカルト研究部の連中が喧嘩したのか。祐斗が交渉模様を全て部長に話した所、リアスは激怒し一誠に勝負を挑んできたのだ。もし勝てば一誠を眷属に転生させてゲームに参加させるという算段だったのだろう。この際、一誠にはハンデが付けられており、赤龍帝の力は使わないということである。だがまさか、こんな事になるとは。オカルト研究部の皆、特にリアスには予想外であった。デコピン、たかがデコピン。デコピン如きに魔力を吹き飛ばされるとは。
リアスの与える飴は砂糖そのものだ。いや、これこそグレモリー家の特徴と言うべきだろう。ドライグの評価は辛口だった。甘すぎる故に、実戦への不慣れさが大きく目立ってしまっている。流石の一誠でも見過ごせなくなるほど深刻であった。
「でも、結婚とこれに何の関係があるんだよ…?」
「悪魔に限る話だけどな、結婚は来週のガチな殴り合いで決まるらしい、部長の結婚相手とのな。参加を断った途端、喧嘩を売ってきてこのザマだ」
流子の問に、一誠は研究部に呆れた表情で答えた。
「マジか…。でもよ、わざわざ殴りあってまでの結婚はどうかしてるだろ」
「悪魔の事情は色々と複雑なのさ」
流子に一言告げると、一誠は祐斗の元に歩いていく。彼は下を向いたままである。恨めしげに思っているのか、己の力不足を嘆いているのか、一誠には定かではない。
「木場さん。俺の力ありきで考えるのは、いや部長の思い通りになると思ったら大間違いだ。何度も言うが、俺は使い走りじゃない。部長の甘えに乗るわけにはいかないんだ。これは、サーゼクスさんとの約束だ」
あまりにも厳しい状況である。だが、喧嘩を売ったのは一誠からしてリアス側であろう。
相手が余りにも悪すぎた。ドライグの指摘通り、実力の差は歴然たるものであった。日頃から中級以下のはぐれ悪魔としか対戦の経験はなく、それによる実力不足の懸念は否めない。特に柱となる“王”が、グレモリー側で最弱なのは致命的なのは確かだ。サーゼクスの過剰なる愛情故とはいえ、重大なネックポイントである。
この場合、愛情を与えるリアスに問題があり、逆に眷属は気の毒であるに違いない。
「でも特訓に付き合うならば話は別だけどな」
一誠は微笑んでは助け船を寄越してきた。祐斗は思わず顔を上げる。
後で深く思考してみた結果、このまま戦わせるのは酷にも程がある。勿論学校には毎日通うが、その合間を縫ってトレーニングに付き合う事はできよう。自分もためになるし、一石二鳥とも言える。
「勘違いするなよ。俺はそっちの知識とかあんまり自信がないし、結局は部長を守るのはお前達だからな」
「ありがとう、兵藤君!」
希望が見えた。この形の協力でも問題はない。祐斗の顔にいつもの笑顔が戻り一誠の手を握った。一誠も微かに笑みを返しては握り返した。流子の方も、何かと理解はできていなかったが「よくわかんねぇ野郎だな」と苦笑していた。だが友人を思うことには感心しているようだった。
一誠は部員に一人一人謝った。小猫も謝り返しており、朱乃も『別に気にしていませんわ』と微笑んでくれた。リアスにも一言でも申したい所だが、もはや聞く耳を持ってはいなかった。「失礼します」とともに、流子を連れてこの場を後にしようとした。そんな時だった。
「待ちたまえ」
「?」
見知らぬ男が森の中から現れる。その男は何故か、一誠を見ると微笑んでいた。
「とうとう見つけたぞ。貴様が、私が求む強者か?」
「あんた…、あの時の…」
一誠には見覚えがある。流子も同じ反応を見せた。
森の中から現れた男、それは例の学ランを着こなす青年であった。
『ゴシャッ』という効果音のイメージは、クラッシュ・バンディクー(2か3)というPSソフトのプレイ中にブロック箱にスピンアタックしまくっている時のあの音です。