Don't Think. Feel ~史上最強の赤龍帝~   作:70-90

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お久しぶりです。

まさかの最長のブランク…。様々な事情があったとはいえ、長らく待たせてすいませんでした。

ただ、今回では一誠は登場しません。(本編では)


3匹が抗う!

 少し遡る。フェニックス家の屋敷。

 一つの書斎に一人、ルヴァル・フェニックスは腰掛けていた。左手で頬杖を付く次期当主の表情は、明らかに浮かないものだった。少しでも気を和らげるようにお気に入りの書籍を読んでみたが、なかなか解消されない。

 

―やれやれ、厄介なきょうだいを持つと困ったものだ…。

 

 ルヴァル・フェニックスは長男であるために次期当主としての役目を全うする一方で、両親とともに弟達の面倒を見なければならない。これは上級悪魔としての体裁を維持するためだ。ルヴァルの表情が浮かばれないのは主に後者。

 少し散歩でもしよう。散歩と言っても広大な敷地内を歩くだけだがその内、何か思いつくのかもしれない。

 重い腰を上げ、クローゼットから上着を取り出して身に纏う。ちなみに、フェニックス家は数千度以上の炎を扱うので、冥界での夏の熱さなど大したことではない。

 部屋を出て、赤絨毯の廊下を歩いていた。そんな時のこと。

 

「リアスお嬢様、今日もお顔を見せてくれなかったわね…。ライザー様とご結婚なされて、もう1週間じゃないの」

「しーっ、ライザー様に聞かれたらどうするの…!」

 

 通りすがる侍女の2人が愚痴を零している。ルヴァルの姿を一見した途端、「申し訳ありません!」と慌てた様子で畏まって一礼してきた。ルヴァルは気にしていないと微笑を返すも、2人は駆け足で去っていった。ルヴァルに複雑な心境を抱かせる光景であった。

 

―不味いな…。メイド達にも不穏が漂っている…。

 

 侍女としてフェニックス一族に尽くすも、同じ女として思う所があるのだろう。ライザーは短気であるので、それを耳にすれば業火で焼き尽くそうとするに違いない――だが、今は違う。

 リアスは披露宴の後、用意された部屋から一度も出ようとしない。ライザーのみならず、彼の親族達、眷属達にも、誰ともコミュニケーションを取ろうとしない。夕食の時は広間の団欒の輪に入らず、自室で寂しく済ませていた。将来を語ることなく、ただ窓の向こうを見つめるだけ。親睦を深めるどころか、徐々に疎外感を募らせているそうだ。

 ライザーは何度か接触を試みてきた。だが彼女は謝罪すらも耳に入れようとしない。この別居状態は1週間も続いたまま。それに連れてライザーが憂鬱になっていく様子を目の当たりにしてきた。弟の眷属達も心配している様子で、ルヴァル達に相談を持ちかけてくるのもほぼ毎日。

 

――これ以上あんな女のために、ライザー様に過多な心労を掛ける訳にはいかない!

 

 このようにリアスを悪役と見なし、過激な手段に取り掛かろうとした者もいる。ちなみに、ユーベルーナから無礼千万として、その者は厳しい説教を受けた。こんなことをすれば、グレモリー家との仲に亀裂が生じるのは明らかなこと。

 だが、ルヴァルにはその眷属の心情は十分に理解できるものだった。

 

「わかってんだよそんなことは!」

 

 叩きつけられた机の唸り声とライザーの怒号を耳にし、その元とも思われる入口に駆けつける。

 その側にユーベルーナが控えている。貞淑な服装でもグラマラスな姿は明らかだが、悲痛の表情を浮かべている。今にも涙を流しそうだ。

 

「リアスと結婚するのに手間取ったのも、わざわざレーティング・ゲームを開いたのも、リアスがあんなに暗くなっちまったのも、全部俺のせいだ! わかりきったことを何度も言うんじゃねぇよ…!」

 

 ルヴァルが恐る恐る、戸から首を少し出して覗く。

 ライザーはやりきれない表情で下を見つめていた。

 レイヴェル――フェニックス家の末っ子で、金髪を2つの巻き髪に分けている少女が見上げて睨みつけていた。

 

――明らかに、ライザーとレイヴェルは口喧嘩をしている。

 

 事の発端は、レイヴェル曰くライザーの煮え切らない態度。リアスの頑なな手段にライザーは心を痛めたまま何もせず、それに彼女が毒づいたのだ。

 彼女は末っ子ながらも口はライザーよりも強く、ハーレム状態となった三兄に普段から不満を抱いている。『だらしがない』、『女ったらし』と。

 だがルヴァルからして、これは今まで見た中で最も激烈なものであった。

 

「でしたらそろそろ、リアス様の元に伺っても宜しいんじゃないですの!? それなのにライザーお兄様ってば、まだユーベルーナ達に泣きついてばっかり! 最近の男性って本当に臆病者ばかりなのかしら?」

 

 日頃の鬱憤を晴らすためか、まるで害虫を睨むような冷たい視線をレイヴェルは向けており、それに留まらず容赦せんと切り捨てていた。また、性差別的な台詞をも含めている。

 

「何だと!? お前言っていいことと悪いことがあるぞ!? 俺だってな、リアスと少しでも気持ちを伝えようと必死なんだよ! どうしたら伝わるか何度も何度も考えてんだよ! 少しは慰めたらどうなんだ!」

(わたくし)はありのままの事実を伝えたまでですわ! それに開き直って自慢事のように話すなんて、努力していないと同然。剰え妹に情けを請うなんて、本当に情けないですわね。これが私の兄の一人とは、なんとお恥ずかしいかしら」

「てめぇ…!」

 

 嘲るように切り捨て、ライザーの心を(えぐ)る。

 ライザーの悪い癖は、プライドが傷つけば全力でその元を潰そうとする短気さにあった。今にもライザーは魔力を掌に溜めていた。

 ユーベルーナは動揺し止めようとするが、それをルヴァルが抑え、居間に入っていく。

 

「どうかしたのかい?」

「ルヴァルお兄様…!」

「兄上…!」

 

 この時のルヴァルは、読まれぬように笑顔を浮かべていた。

 

「丁度よかったですわ! ルヴァルお兄様からも何か言ってくださいませ!」

 

 レイヴェルは詰め寄るも、わざとらしくルヴァルは返す。

 

「何をだい?」

「とぼけないでくださいませ! ライザーお兄様がこれでは、リアスお嬢様は一生篭もりっきりですわ!」

 

 ルヴァルは彼女を一瞥すると、ライザーに歩み寄った。

 

「ライザー、室内では炎を収めなさい。君は屋敷ごと灰に返すつもりかい?」

「…ああ」

 

 ルヴァルは、ライザーと比べて滅多に怒らない。

 彼はこの時も弟に微笑んで注意していたが、目は笑っていない。怒るというよりも、その感情を露骨に示すのが苦手なだけ。それでも、ルヴァルの怒りが全て視線に集中していると、ライザーには理解することができた。

 腑に落ちない表情を浮かべながらも、掌に貯めた魔力を収縮した。

 

「それにレイヴェル、狭い了見で男を見るのはやめなさい。ライザーを想ったためだろうが、今のはあまりにも言いすぎだ。そういうのは強かな女の、よくある悪い癖さ」

「…申し訳ありません」

 

 だが、怒りの矛先はレイヴェルにも向けられた。『男って所詮~』と消極的で差別的に感じられる台詞がルヴァルにも気を悪くさせ、何よりもレイヴェルがそんな魔性の女に育って欲しくないという目的もある。

 ルヴァルの表情を見たことで初めて、自分の過ちに気づくレイヴェル。ライザーとは異なり、面目もないと頭を下げて謝った。

 

「まぁ、落ち着いて座りなさい」

 

 ルヴァルはそう進める。レイヴェル、ライザーの両者とも慄きながらソファに腰掛けた。そして兄も向かい側に座り込み、じっとライザーを見つめ、長男として諭す態度で話しかけた。

 

「ライザー、まさか君は後悔しているのか? リアスさんと結婚したことを」

「後悔などしていない! だが形として悪かった…」

「形として悪かった…? どういうことですの?」

 

 ルヴァルの問いに、何かが喉に詰まったような感じでライザーは答えた。解釈ができなかったレイヴェルは、わからないといった表情を浮かべるのみ。

 

「レーティング・ゲームを行う必要なんてなかったんだ! だが、俺がつまらない意地を張ったばかりに…!」

 

 彼の表情から、強く後悔をしているように見えていた。ルヴァルは神妙な表情で、相槌を頷きながら聞いている。レイヴェルもだが、それでも納得できないと顔で示していた。

 

「過ぎたことを気にしても巻き戻すことはできないさ。何せ君の一言で雌雄を決することになったからな」

 

 ルヴァルの一言に、ライザーは頷いた。身の責任を感じていることに、兄として安心できる。

 

「リアスさんの眷属の皆にはもう謝ったのかい?」

「それが…」

 

 ライザーの話を聞き、その内ルヴァルは真剣な表情を浮かべていく。「まずいな」というのが主な感想だ。

 リアスとの間に確執があるならば、眷属と相談すれば良いだろう。だが面会拒絶の一点張り、流石にルヴァルにも頭を悩ませる。サーゼクスにも問い合わせることもやむを得まいと、義兄として動くことも厭わない。だがそれはライザーの頑張り次第だろうと、ルヴァルは考えていた。

 

「でもリアスさんが顔を見せる意志がないなら、無理に言って彼女の眷属に会う他ないのは明らかだ。これ以上、籠城攻めに付き合うわけにはいかない。そうだろ?」

「兄上…」

 

 ライザーは決心したかのように、慎ましい表情でルヴァルを見ていた。その目つきから、ルヴァルは笑みが溢れる。

 

「ですがライザーお兄様! 彼女達はどうするんですの!」

「彼女達って誰だ?」

「ユーベルーナ達よ! リアス様と結婚なされることを耳にしてから、私は不安で仕方がなかったんですわ! 女性ばかりですから結婚なされてからも下心を――」

「バカ言え! そんなんでリアスと結婚するもんか! ……まぁ、あいつらには色々と世話になっちまったけどな…」

「まぁ…! それでお兄様を監視しようと、敢えて“僧侶”になりましたというのに…!」

「おいちょっと待て!? お前それで俺の駒を!?」

 

 レイヴェルが口を割ったことで兄弟喧嘩が始まった。だが先程のものよりも嫌悪感を抱かせるものではないので、ルヴァルが宥めることはなかった。

 ライザーが上級悪魔として王の資格を得てから、眷属は女性ばかりになった。何故こうなったかはライザー本人もわからない。容姿には見とれやすく、そのために衝動的にナンパを仕掛けてはレイヴェルに叱られている。これまた日常茶飯事。

 だが、リアスに対する想いは変わらず。そのことがライザーの眷属達には重荷ではないのか。レイヴェルは同性として不安が一日中やまない。

 

「お気遣い感謝しますレイヴェル様。ですが私達の事などお気になさらないでくださいませ」

「お前…、まさか聞いていたのか?」

「ええ、一部始終じっくりと」

 

 レイヴェルとライザーが振り向くと、ユーベルーナが淑女たるまま頭を下げていた。

 

「私達はただライザー様のお幸せを願うのみ。ただそれだけですわ。ですがライザー様――そろそろリアス様に何か手を考えなければ、互いに苦渋を味わうのみ。それこそ私達には、ただ気遣わしい出来事に変わりありません」

「ユーベルーナ、お前…」

 

 レーティング・ゲーム時には、“爆弾女王(ボム・クイーン)”とも呼ばれるユーベルーナ。しかし、家庭となればライザーとレイヴェルの姉と同等の存在。日頃から彼らを見守り続けていた。その思慮深さは両親からも御墨付きである。

 一先ずルヴァルの一言で手打ちとなり、ライザーは自室に戻っていく。彼自身は気付かなかったが悪どいものから、フェニックス家の一員として誇りあるものとなっており、それに眷属達が別の廊下から見とれていた。心酔するのは普段のことだが、普段以上に惚れて込んでいた。

 自室でソファに凭れ込み、目を閉じる。リアスには慎重な態度を取り、眷属達に接触することを試みるだけ。だが変わらぬ手段を取るならばイタチごっこが続くばかり。どうすればいいか。

 

――それから50分後。

 

「ライザー様、お呼びで御座いますでしょうか?」

 

 この時ライザーは普段とは異なり、スーツのボタンを全て締めていた。そして、片手には一通の手紙を持っていた。

 

「ライザー様、これは…?」

「ユーベルーナ、折り入ってお遣いを頼む」

 

 慎重な口調で、ライザーは話しかけた。そして、赤い封蝋で閉じた封筒を前に出す。

 

「すぐにグレモリー家の屋敷に向かい、これをグレイフィアさんに渡してほしい」

 

***

 

 午後6時45分――夕暮れ。

 夏の季節は存在し、夏至を過ぎたばかり。人間界の澄んだ夜空とは対照的に、冥界の空は燃えるように赤く、それに応じてか気温も蒸し暑くなっている。

 フェニックス家の屋敷の門前に一つの魔法陣が現れ、3体の姿が現れる。木場祐斗、塔城小猫、姫島朱乃は察し、恨めしげにその屋敷を門越しで睨みつけていた。そこにリアスが、自分達の主が囚われている。

 姿を確認したのか、重々しく門が自動的に開いてゆく。

 

「……行きましょう」

 

 朱乃の一言で敷地内に入っていく。2人も頷き、付いて行く。

 辺りには何も人影もない。芝生、そして舗道が屋敷へと繋がっているのみ。その上を、警戒心を剥き出しにし、見回しながら渡り歩く。

 

「……何か、おかしくないですか?」

「どういうことだい、小猫ちゃん?」

 

 特にそれが強い小猫が言う。

 

「……ライザーがわざわざ手紙を寄越すなんて。何か罠を仕掛けているのかもしれません」

 

 敵の思う壺――かもしれない。

 ライザーからの手紙に魔法陣も封入されており、フェニックス家の家門に転移する仕掛けが施されていた。冥界は人間界と比べて無限に近いほどに広大なため、全てを把握するには困難なのは明らかなこと。なのでこれは少しなるお気遣いというものだろう。

 だが、3人の脳裏には安堵という言葉はない。ライザーの屋敷に近づくに連れ、警戒心が顔から顕著になっていく。

 

「それでも、行くしかないんだ」

 

 祐斗が決意を込めた表情で呟く。小猫も朱乃も返さなかった。

 何がともあれ、リアスを取り戻すためにはここに来るしかないと考えていた。重い足取りは裕斗達を、この先に待ち受けるボスの在処へと運んでいく。

 一歩、一歩と、歩み寄っていく。視界の中で屋敷が大きくなり、大型の魔獣に匹敵せんという迫力とスケールで裕斗達を圧倒している。

 

「おう、待ってたぜ」

 

 尖った声を聞き、3人の表情が怪訝になる。

 ライザーは、閉じたままの大戸に凭れ掛け、腕を組んで祐斗達を見下ろしていた。脇には女性悪魔――ユーベルーナが、まるで愛人として並ぶように控えていた。試合の時は胸元を大きく開いたドレスを身に纏っていたはずだが、この時は露出を控えた、紫色の貞淑な服装を着ている。

 数段下にいる3人は視線を鋭くさせ、牽制を仕掛ける。

 

「部長はどちらなんですの?」

「生憎リアスは外に出られるほど、気分が優れなくてな」

「なら、どうして僕達をここに?」

 

 朱乃の問いに対して、そっけない返答を返すライザー。それを良しとしない祐斗が尋ねる。

 

「こうでもしなければ、お前らの面と向き合うのは二度とないだろうと思ったんだ。お前達眷属もリアスと同じく強情だからな」

 

 澄ました顔でライザーは口にする。その態度に小猫が不快な感情を露わにする。

 

「……それでグレイフィアさんに…。馬鹿にしているんですか…?」

「小猫ちゃん、今は止そう」

 

 しかし、試合のことを顧みれば、どんなに深手を被うとも必死に立ち上がろうとしたのは確かだ。彼の言う通りなのかもしれない。小猫が売り言葉に引き込まれぬように、祐斗が咎めたのはそう思ったためだ。小猫は、溢れかけた感情を抑えつつ、一度引き下がった。

 威嚇し続ける裕斗達に、ライザーは苦笑して困惑を紛らわす。「入れよ」と言い、屋敷の中に戻っていった。

 聞く耳持たぬ――わけには行かない。全ては部長のため。内に潜む目先の欲を押し殺し、3人も入っていく。真っ赤な空は、黄金の天井に移り変わる。

 入って向かいの居間を訪れる。中世の西洋を髣髴とさせる室内に、対面式の配置で赤いソファーが置かれている。その間に花柄の高級なテーブルが設置されているため、まずはお茶をしようというのか。

 

「まぁ、座れよ」

「結構ですわ」

 

 ライザーが仕草を携えて進めるも、率先して朱乃は首を振った。普段に見せる笑顔は見られず、敵意を剥き出しにしている。

 しかし苦笑するだけで、強制的な手段を取ることはなかった。ユーベルーナに席を外すように仕向け、溜息をつくと真剣な表情に切り替わり、話を切り出した。

 

「ここに来てもらったのは言うまでもない。リアスのやつ、披露宴の後は部屋に篭もりっきりでな――」

 

 困惑したライザーが知らせた情報は、眷属達には悲痛でしかない。祐斗は目を瞑ってリアスの悲痛の表情を浮かべ、小猫は俯いて強く握りしめ、朱乃は忌まわしいものと言わんばかりに、零下の温度を感じさせるような視線を向けていた。

 しかし、ライザーが怯むことなどなかった。

 

「それでも、部長を放してあげないんですか…?」

「当たり前だろ」

 

 祐斗の問う声からは、悔しさを滲ませているのを感じられた。だが、それを考慮していないかのようにライザーは答えた。

 

「生憎俺はそこまで大人じゃねぇ。それに、こんなことで愛想を尽かすことなんてあり得ないじゃないか。むしろ無理にでも部屋から連れ出したいぐらいだぜ」

「ふざけるな!」

 

 祐斗が反射的に立ち上がった。反駁の視線を向け、表情でライザーに反発していた。

 

「部室に来てから何も変わっていない! 部長は言っていた、部長の気持ちも聞き入れず、ただ一方的に事を進めているって! 魔王様までも説得させて、あなたはそこまで部長を独占したいのか!?」

 

 祐斗が叫ぶ。感情を爆発させ、ありったけにぶつけていた。

 

「……あなたのしていることは、男として最低です。女性ばかりの眷属を揃えているにも関わらず、部長を下賤な貴方の妻として迎えるなんて…」

 

 小猫が呟く。ポーカーフェイスで堪らえようとも、怒りがむき出しになっているのは明らかなこと。

 

「私達は、以前から貴方のことなど信用しておりません。結婚披露宴には顔を見せましたが、未来永劫祝福する気など微塵もありませんわ。サーゼクス様の意志が含まれているとはいえ、私達は最後まで徹底的に貴方を糾弾するつもりです。覚悟してくださいませ」

 

 朱乃が告げる。小心者ならば死刑宣告を受けたかのようで狼狽してしまうだろう。

 だがライザーは前で両手を組み、見上げているだけ。蝋燭の火のように、穏やかに揺らいでいる印象だった。何かがおかしいと、裕斗達は思ったに違いない。次第に目を鋭くさせ、警戒しているではないか。

 ライザーは目を閉じたまま、しかし鼻を唸らせて笑い出した。

 ライザーは思っていた――人のことは言えないが、あまりにも滑稽だと。

 

「そうかもしれないな。だが、それはお前達にも言えることじゃないのか」

「何だって?」

 

 二言目で笑顔を消し、視線を鋭くさせてライザーは見返した。

 祐斗は思わず返してしまった。ライザーと同等に見られていることに納得しなかった。

 だがそのための証拠を、ライザーは握っていた。

 

「この前の結婚披露宴――赤龍帝をここに連れて来てぶち壊そうとしただろ?」

 

 一瞬、裕斗達の目が見開いた。

 あの時、状況を察した一誠が外に自分達を連れだしたはず…。

 蒼那の顔が思い浮かばれる。しかし、違う。小猫よりも滅多に表情を出さない彼女だが、披露宴後に話を聞く限り幼馴染のリアスを心配していた。絶対に、売るような真似をしないはずだ。

 

「その制服、あいつと同じ、リアスが管轄する領地の高校だよな。お前達のことだ、この前の試合に納得が行かないために色々とこじつけて、なかったことにしようとしていたんだろ?」

 

 ライザーの指摘に、裕斗達は言葉を失った。特に小猫は確信していた――罠だったと。

 だが実際は、年が近いとはいえライザーの生きる時間が長いため、兄には及ばずも着眼点を絞ることには優れていた。そうでなければレーティング・ゲームを長く勝ち進めることは不可能だったに違いない。

 ライザーが一誠と握手した時、内心では心臓を鷲掴みにされる感触を覚えていた。手の感触から伝わり、体中に流れ込む大きな気迫。普通の人間、いや未成年がなし得るものだろうか。それは威嚇だったのか、ただの常時的なものだったのかは未だに判断できない。ただ、何れこの少年と相まみえるのかもしれないことは確信していた。

 

「でも、ホッとしたさ。あいつがいないことは、お前達の行動に前向きじゃなかった――そういうことだろ?」

 

 凭れ込み、安堵した表情で祐斗達を見つめる。意図はなかったが、その姿が裕斗達には余裕ぶったものにしか見えなかった。

 

「そういうもんさ、あいつがお前らを助けようとも何も得しない。もしそんなことすれば、俺達を敵に回すことも同然だからな」

「そんなことなど、僕達は既に覚悟しているさ!」

「違う違う、そうじゃない。俺が言いたいのは――()()()()()()()()()()()だぜ?」

 

 二度も首を横に振り、ライザーは返す。

 

「元々転生悪魔だから、そんな野暮な考え持ってもおかしくねぇけどさ。こんなことすりゃ、お前達はすぐにおしまいだ。サーゼクス様はその時に備えて処分すると聞いている」

「……脅しているんですか、私達を?」

「脅しじゃねぇ。警告だ」

 

 その話はルヴァルから聞いていた。

 レーティング・ゲーム中、別室でルヴァルが対談した際、サーゼクスはそう告げていたと言う。どんなことであれ、身内でも不埒な真似をすれば魔王として厳正に処分すると。

 

「一方的にリアスを婚約させたと思うんなら、それはそう思わせた俺の責任だ。そこは認めるよ。けどな――それを盾にして何でも正当化させるようじゃ、俺もこれ以上黙ってはいられんぞ」

 

 鋭い上目遣いで、ライザーは睨み返していた。

 祐斗は何も言えない。確かに人間である一誠を、赤龍帝であるというだけの理由で事情に鑑賞させようとした者達だ。一誠の事情を無視したのも確かなこと。

 

「俺もお前もどう弁明しても――結局、俺達は悪魔なんだよ」

 

 ライザーの重々しい一言。

 裕斗達の悲痛さが滲み出る。それは種族としてか、一誠と同じ観点で性質としてか。様々な感情が混ざりこむ裕斗達には、それを判別する余裕など持ち合わせていなかった。

 もはや為す術はないのかと、裕斗達は実感していた。悪魔として生きなければならない、それが何なのかと現実を叩きつけられ、苦痛の音を上げるのみ。

 『納得が行かない』ということも示しており、それを察したライザーがゆっくりと立ち上がる。

 

「こうしても埒が明かないか。お前ら――ちょっと表出ろ」

 

 もはや反論する気力さえもない裕斗達は、ただライザーに従うのみ。

 言葉に出来ないことが悔しい、そう思いながら屋敷を出る。ライザーに連れられ、入口の階段を降り、裏に回っていく。

 彼が連れて行ったのは屋敷の裏にある、海のように広大な芝生。一つの凹みもなく、隅々に雑草が生い茂っている。上級悪魔の所有地にしては殺風景だが、訓練場所としては最適であり、ライザー達がよく利用している。その旨を聞かされると、裕斗達の視線は鋭く、戦意を剥き出しにしていた。

 中心辺りに立ち、裕斗達とライザーが向かい合う。ライザーは芝生の周囲を見回し一つ頷くと、背中に炎の翼を広げていた。手を広げるよりも広く、既に裕斗達を圧倒していた。

 

「前以て眷属に、防御系の結界を張ってもらっておいた。気が済むまで相手してやる」

 

 ライザーは、1人の“王”として接していた。

 試合時は16対4。しかし、この時は3対1。5分の1の規模だが、人数面では裕斗達が逆転していた。だが、1人とはいえ“王”のライザー。己の特性を使いこなす彼に、『多勢に無勢』は通用しない。

 それでも、勝負の結果が明らかという()()()()()()()()に抗う気でいた。




<小ネタ:一誠の日常>

 深夜、丁度0時半を回った時のこと。
 この時、寝間着を着ていた一誠は――リビングの中心で倒れていた。
 枯れ木と同じ焦茶の、花柄が一面に描かれているカーペットの中心で、仰向けで倒れている。空気を読まずに映し続けるテレビに顔を向け、両手両足、共に指先までピンと一直線に伸ばしたまま、微動すらもしない。まるで築地市場のセリに出される、一匹の大振りな冷凍マグロのようだ。
 赤の他人からすれば、何事かと思われても仕方がない光景であろう。
 そんな時、風呂から上がって寝巻に着替えたばかりの母がそれを見かけ、テレビに目をやる。『いつものことだ』と言わんばかりに、暖かな笑顔を見せ、一誠に近寄ってくる。

「一誠、もしかして今日もお腹が空いちゃった?」
「…うん」
『おい』

 ドライグの突っ込みを他所に、素直な幼子のように一誠は軽く頷いた。母はそれを確認すると、肌の手入れのために洗面所に戻っていく。

『一誠、さっき夕飯を食べたではないか。しかも炊き飯3杯も屠りおって。……前から俺は思っていたが、たかが映像で腹を空かすなど俺には理解できんな』
『ドライグ、ホントわかってないな。大抵の人がその店知らなくとも、手作り感が感じられるあの料理が、俺にはとってもおいしそうに見えるんだよ。見ろよ、あの映り。あの人、めちゃくちゃいい笑顔で食べてるぞ。それにあの解説、うまく俺の心を読んでる…。マジでたまらんわ…』
『……お前の熱弁には付いてこれん』

 1人だけいる空間、腹の音が空しく鳴り出す。一誠はため息をついてしまう。
 お菓子を食べるという手はある。だが、時間帯を考えればそれは背徳行為だと思い、行動に移せない。ただテレビに目を移す。

―卑怯や、卑怯だって…! こんな時間帯にすき焼きなんて…! ああっ、ダメだゴローさん! そう細かく解説しないでください! カメラもアップで写さないでくれ! これ以上俺の胃袋を刺激させるのはやめろぉぉっ!!

 テレビを見ていて、どうやら『夜食テロ』というものに巻き込まれてしまったようだ。
 赤龍帝になってから――一誠は大の食いしん坊である。

***

ヒント:昨年末の、あの深夜ドラマの最終回に触発されてしまいました…。実を言うと本編よりも先に仕上がってたり…。
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