Don't Think. Feel ~史上最強の赤龍帝~ 作:70-90
夜中、一誠は灰色のジャージを着てはランニングをしていた。自宅を出ては走りだす。住宅街を抜けては公園内の敷地を通り、河川敷沿いを通っては、5キロを走る。しかし、それは往路においての距離であり、復路も同様に5キロ。まだ往路3キロほどだが、チェックポイントで休憩しては再開するつもりであった。
『3年間もサボっていたからな、かつてを取り戻せるかと不安だったが…。大した奴だ、お前は』
『そうかよ』
これは彼の日常の1つ。赤龍帝である一誠、その強大な力に慣れておくために日々、体力作りをしているのである。勿論、シャドーボクシング、腕立て伏せなどのトレーニングも欠かせない。小中を通じて、陸上部といった運動系の部活に励んでいたわけではない。そして、高校生の今でも部活に入ってはいない。だが、悪魔や堕天使などといった人外の存在に太刀打ちできるほどの実力を兼ね揃えていた。
実を言うと、幼少期から―中学の時を除いて―自ら枯らすほどの汗を絞りとっては己を戒めていた。その間に様々な人達と知り合い、ドライグと共に赤龍帝として生き抜くためのヒントを得てきた。だが一誠には、赤龍帝としての生き方など別腹である。普通に兵藤一誠としての人間として生を楽しみ、たった1人の伴侶と共に生きたいだけだ。
自分の内でチェックポイントとしていた地点の近くにある自動販売機でジュースを買う。近くのベンチに座り、ジュースを飲んでは一息つく。この時の味が格別だといっても過言ではない。背を持たれて夜空を眺める。
しかし、しばらくの休息の合間、突如として一誠の表情が怪訝になる。また、ドライグが声を掛けてきたのも同時だった。
『一誠』
『ああ、わかってる。はぐれ悪魔のお出ましだ』
“赤龍帝の籠手”を通じて、不穏な気配を感じ取る。缶の中身を一気に飲み干し、向う側にあるゴミ箱に投げ込む。サッと立ち上がって、その気配の根本を探しに走りだす。
“はぐれ悪魔”とは、主の生死にも関わらずその元から逃げ出した元眷属のことを指す。人間を襲うことを1つの快楽としているものが大半を占めているため、階級が上から下に渡る悪魔でさえも危険視している。
一誠は時折彼らを発見しては、場合により赤龍帝の力を発揮して殲滅している。今のところ、手のかかったはぐれ悪魔に遭遇したことは一度もない。なので、危険だと分かれば颯爽と倒すだけである。
あまりにも目立たない下町に位置するビルの隙間。平均身長―170センチ―のキラキラしたチャラ男よりも一回りも大柄である男。背中に黒い棘々の翼を広げ、鋭利な牙や爪を見せつけては、一歩一歩歩み寄ってくる。若者は一度彼にぶつかっては何の反応をも見せず、それに切れた悪魔が馬脚を現しては、今の場所に追い込んでいた。
尻餅をついた若者は、じりじりと両手で擦っては逃げ出す。途中でこけてはすぐに立ち上がり、逃げ道を探すが、辿り着いた場所は行き止まりであった。怒りを噛みしめた表情で爪を振り上げては、ジリジリと近づいてくる。
「ヒィィィ!! 化け物ぉぉぉ!!」
「違うぞ! 俺は悪魔だ! この野郎、俺にぶつかって来たくせに謝らんどころか化け物呼ばわりしやがって!! 只じゃ置かねぇ!!」
怒りに任せたあまり、爪が振り下ろされる。ガキンと、硬い金属に弾かれた音が響く。思わず自身の身体も仰け反ってしまう。凝視してみれば、目の前の少年が真っ赤に輝く腕を見せているではないか。その合間、狼狽していたチャラ男は一目散に逃げていった。
追っかけるかと思えば、怒りに満ちた眼差しで少年―一誠を見ている。一誠に対して、テレビで見るようなヤクザの一味のごとく、ドスの利いた声で一誠を威嚇してきた。
「ああ!? 部外者は引っ込んでろ!」
「そうはいかねぇよ。あんた、はぐれ悪魔じゃないか。後でお前の主にきつくお灸を据えとかなきゃいかないか、
「こいつ…!! 下級だからと俺が飼い犬だと!?馬鹿にしやがって!!」
鋭利な牙を見せながら怒鳴り散らしてきた。腕を広げ、攻撃する体勢でいる。一誠は籠手を展開した左手を脇に置き、構えに入る。
「お前その左手…! 神器持ちかよ!?」
「だったら何だよ? 大人しく縛についてくれると?」
「ほざけ!!」
激高した悪魔が走りだし、長い両腕を振り下ろす。その時前のめりになっていたため、一誠はその頭に手を載せて背後に回り込んだ。
「んなっ!? てめぇ! 俺様の頭を踏み台にしやがって!!」
「無闇に暴れていると、後で痛いしっぺ返しを食らうぞ」
悪魔は長い腕を振り下ろすが、一誠は身を屈めて回避するか、もしくは籠手で弾き返す。
その合間、一誠はこの悪魔の役割を
だが、それでも自棄気味に攻撃を仕掛ける。一誠は飛び上がり、悪魔の顔面に回し蹴りを食らわせた。悪魔は吹き飛ばされ、近くのゴミ箱に直撃する。様々なゴミが散乱し、それを踏みつけては無闇に怒鳴る。
「こんにゃろ!! 調子に乗るなぁぁ!!」
キリがないと自覚した一誠は、籠手の宝玉にタッチする。
『Boost!!』
「うおりゃっっ!!」
倍加1つ加えた籠手の拳で、悪魔の腹を打ち抜く。言葉にならない声が血とともに悪魔の口から吐出され、悪魔はよろけては壁際に倒れこんだ。それでも息があるのは、一誠の調整によるものである。倍加した際に『とりあえず命を取らぬ程度のダメージを与える』程度になるために、その元の力を抑えこんだのであった。
悪魔は腹を押さえては息を切らすばかりである。口端から顎にかけて腹からこみ上げる血が滴り落ちる。歩み寄っては、一誠はそんな彼を見下ろす。
「てめぇ…!」
恨みの篭った目つきで見上げる悪魔。微動もしない一誠。しかし、一誠の両腕がゆっくりと上がっていく。とどめを刺すかと、「ここまでか…!」と思わんばかりに顔が苦悶に染まる。
この時一誠は―腕を十字型にして組んでいた。
「…あ…!?」
思わず呆けてしまう悪魔。また、怒りが溜まっていく。直後にこう思っただろうが、罪はない。「何がしたいんだコイツ?」と。
―ダメか…。
内心納得していた一誠。
いや、納得していなかった。それ故に――
「ぐぅああ――!? あつっ、熱いぃぃっ…!?」
右肩、左肩、頭、胸の順に素早く拳を置いては十字を切っていた。これは教会関係の人達が祈る時に行う行為であり、無論悪魔には必殺技と同等に多大なダメージが振りかかる。悪魔は頭を抱えては絶叫し、地面で蹲っていた。ちなみに、とある映画を見て模倣することで身に染み付いていた。
―でも、こいつはさすがに効くよな…。
「降参だぁぁっ!! 頼む…!! 頼むからやめろ、やめてくれぇ…!!」
命乞いが耳に入らないほどに夢中になり、こんなカオスな光景が3分続いた。何故かは知らないが、どうやら“必殺光線”はリアスにしか通用しないようだ。その事実を理解した一誠が我に戻り、数分前の光景に戻る。
「なんだよ…。やれよ…。はぐれ悪魔を殺すのがてめぇの役目なんだろ…?」
『Reset』
籠手から電子音が鳴り響く。
「生憎だが、俺は無抵抗の連中には手を出さない主義なんでな」
「ふざけんじゃねぇ…。どうせ俺はおしまいに決まってラァ…」
何かしら頭を下げる悪魔。抵抗どころか、生きることに諦めがついてしまっているようである。ここではぐれ悪魔に止めを刺すべきだが、一誠は話を聞くことにした。
「何かあったのか?」
「くそったれ…。あのアマに折角手尽くしてるってぇのに碌でもない扱いされてよぉ…。やっと逃げ出して普通に生きようとしたら、ついカッとなってこのザマだ…」
悪魔はただ下を向き、嘆くようにして答えた。
「勝手にって…。下僕悪魔は上級、中級の次の憧れらしいけどな」
「冗談じゃねぇ! 上がらなきゃ結局俺は下の下のままじゃねぇか! てか何故人間ごときが知ってやがる!?」
「まあ、俺もそこに通じる奴だからな」
はぐれ悪魔は、その者が自身の力に過信して主を殺害した地点で区別される。しかし、例外としてやむを得ずに主を殺す―正当防衛など―、もしくは主から逃亡するケースも見られている。後者の場合、一誠は性格上殺すことができない。
「ちょっと待ってな」と携帯を取り出し、友人の1人に電話をかける。その者は悪魔であり、中でも上級に属するものである。古くからの友人としてともあれば、彼が現魔王―冥界の全てを司るもの―の1人であるからだ。
一誠が事細かく事情を説明し、それから話を聞いては頷いてばかりである。要件を聞き入れた後、携帯をしまっては悪魔に話しかける。
「とりあえず保護の許可は貰った。魔王さんに感謝しな」
「なんだと…? 魔王と話が通じる人間って、お前は一体何なんだ…?」
「それから、あんたが人を襲ったのはこれっきりか?」
話をはぐらかされたが、悪魔は間をおいて答えた。
「ああ、あれはつい頭にきただけだ…。てか人間なんか殺したって何になるってんだ…」
「はぐれ悪魔なんだろあんたは。だから用心しないといけないんだ」
それからというものの、魔王の使いとして金髪で同じ色の髭を生やした男が現れ、そのはぐれ悪魔を回収していった。この時、「全くサーゼクスの野郎、人使いが荒いもんだ」と愚痴を漏らしていたのは別の話である。
***
次の日。噂が立つことも新聞に取り上げることもなかった。悪魔達がどうにかして対処してくれたのだろうと、一誠はそう納得した。
「席、空いていますでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
しかし、実際には目をつけられていたようだ。
生憎弁当を作ることができなかったということで、仕方なく食堂で昼食を済ますことにした一誠。この学園の食堂は2階に位置している。街並みや森との組み合わせがマッチしたためだろう、特に窓側からの景色に人気があるとのことで、その席がよく混む。一誠は1人、鯖味噌定食を食べては時折景色を眺めていた。
その向かい合わせの席に、1人の女子が座る。その隣に、「会長のお隣、失礼します!」と偉くも畏まった金髪の男子学生が座る。女子について、食事中に眼鏡を通じて薄紫色の瞳で一誠を見つめていた。何やら懐疑的であるということに、一誠自身も気づいていた。
「昨晩はぐれ悪魔に遭遇したそうですね、兵藤一誠君」
3人共食事を済ませた後に、彼女が話しかけてきた。話が面倒になるため、食器を下げに行こうとしたが、一誠は渋々と我慢した。逃げても仕方がないこともあるが、リアスほど大きな嫌悪感を覚えることはなかったのは事実である。
「…。やっぱり。あの使い魔を送ってきたのは貴方だったんですか、生徒会長」
一誠は生徒会長に尋ねた。その口調が挑発的に聞こえたためか、隣の男子が激高して立ち上がった。
「おい、会長に対して口答えするとはどういうつもりだ!」
「落ち着きなさい、匙」
しかしすぐに宥められるという、まるで姉弟のようなやり取りが行われた。
支取蒼那、しかしそれはこの世界の通名でしかなく、本名はソーナ・シトリー。彼女もまた悪魔である。その隣にいる匙元士郎も悪魔であり、彼女の眷属である。その他にも数人がいるが、それは生徒会全員である。
人集りの多い場所では話すのは難だということで、生徒会室に案内された。一誠は蒼那の言われたとおりにソファに座った。どうも、昨晩と同じ流れではないのかと零しそうになった。
そして、一人一人紹介されたのだが、このシックな生徒会室に佇む者達は全員悪魔であった。なるほど、この学園は悪魔が牛耳っていたのか…。『冗談じゃねぇよ』と思わず素が出そうになったのは事実である。
蒼那も向かい側に座っては話を進めた。どうやら、駒王学園はリアスが所有する敷地であり、常にはぐれ悪魔の暴走もしくは堕天使などの他勢力の犯行を常に監視しているそうだ。それどころか、駒王学園が建っているこの地域全般も悪魔の敷地である。
「話を戻しますが、はぐれ悪魔を殲滅せずにグレモリー家に転送させたとか…」
「ああ…。確かにあのはぐれ悪魔は人を傷つけるような真似はしましたが、未遂のままです。それに、話を聞く限り悪気はなかったそうなので。とりあえず、サーゼクスさんに後は任せました」
「サーゼクスさんって…」
何気なくその名を口にした途端、周りが驚いてはざわついた。
サーゼクス・ルシファーという人物が冥界に住んでいる。彼は上級悪魔であると同時に、ルシファーの名を受け継ぐ現魔王である。そして、リアス・グレモリーの兄であり、グレモリー家現当主でもある。魔王だからこそリアスも蒼那も頭が上がらないので、極普通に接触している一誠にはここにいる生徒会員の誰もが驚きと呆れを覚えている。
「そこまで馴れ馴れしくなるほど、お付き合いが深いのでしょうか?」
「はい。赤龍帝として生きるために色々と教えられたもので。まぁ、別に赤龍帝の運命っていうの、気にしないで過ごせばいいって気づいたんですけどね」
「そこまでの楽観視は危険だと思いますが…。それよりも、ここはリアスが管轄する敷地、貴方の勝手な真似は許しません。はぐれ悪魔は支取家の名に掛けても、滅ぼさなくてはならない危険因子ですので、命を助けるということなど…。ただ、無関係の人達に危害がないとなるならばそれで良いとしましょう」
「ふ~ん」と一誠は目を細める。リアスの俯瞰的な立場とは異なり、彼女は常に冷静沈着の状態で対等に話し合っている。ただ、はぐれ悪魔の殲滅はリアスの許可無くしてできない、その事実には今一納得がいかない彼であった。
一度、眼鏡の表面が光っては、別の話題に移った。
「オカルト研究部部長、リアス・グレモリーから貴方についての事情は聞かせてもらいました」
今度は一誠についての話題に移る。昨夜、リアスは一誠と接触した後、その旨を幼馴染である蒼那に話していた。兵藤一誠という人物に対して警戒しなければならないと。一誠には何の自覚もないが、悪魔側には、眷属になることを頑なに断った赤龍帝を手放すには危険すぎると見なしていた。
それは彼の安全のためか、利用手段によるものか。どちらも一誠には余計なお世話な話である。前者は言うまでもなく、後者について良し悪しは理解しているつもりだ。まさか、この人達が一から教育するとならば、かなり余計なお世話な話である。
「それで、会長も俺に眷属になれと。あそこの部長にも言いましたが、俺はそんなクーリング・オフの効かない契約は結ばないつもりなので」
リアスに続いては生徒会長。自分の力を巡って自分を眷属にしようとしているのかと悟った一誠。それでも蒼那は引き下がらない。前に立とうとする匙を抑え、話を続ける。
ところで、『姉弟かよ』と心の内で突っ込みを入れていたのは別の話である。
「私は無理強いをするつもりはありません。ですが、貴方は赤龍帝。私悪魔だけでなく、天界側どころか堕天使陣営との繋がりを持っている。身の程をわきまえてもらわなければ、私達悪魔には脅威になりかねない」
「別に悪魔が嫌いではありません。さっき言ったように悪魔の友人…、いや恩人がいますし。ですが、悪魔側の知識とか伝統とかに従うほど、人間の俺はそこまで寛容ではないんですよ」
むしろ用心しなくてはと思った蒼那達には罪などないだろう。まさか魔王が現赤龍帝の恩師だったとは、思いもよらない話である。しかし、リアスにはこのことはご存知なのだろうかと、1つの疑問が浮かび上がる。それならば、幼年期には一誠と遊んだりしたことがあるはずだ。
「つかぬことを聞きますが、以前リアス部長に会ったことは?」
「以前? …、ああ、サーゼクスさんの妹でしたっけ。直接お会いしたのは実は最近のことでして。部長の事情はサーゼクスさんから聞かせてもらったことしか知りませんでした。何せ、その頃の部長はかなりのシャイだったそうで顔を合わせたことなど一度もなかったので」
なんということだ…。それではリアスには知る由もない。蒼那は冷静な態度のままだが、ヒヤリと汗が滴るのを感じているのをこらえていた。
「そ…、そうなんですか…。…まさか何度も冥界に?」
「いや、いつも程ではないんですが…。毎度誘ってくれるのがサーゼクスさんでして」
なんということだ…。サーゼクスに会う時点でまさかとは思っていた生徒会一同。
実際、まだ赤龍帝の力を使いこなせていなかった幼年期に、一誠はサーゼクスに出会った。それは、夫婦で気晴らしに人間界に旅行していた時のことである。赤龍帝の所有者であることに気づいては、まだ足し算もできない一誠に対し警戒心を抱いていた。しかし、一誠の志に感心したために現在のような友人関係を気づくことができている。いや、悪魔側にとってはできてしまっている。
「そういえば支取会長の本名って、ソーナ・シトリーですよね?」
「…! …それが何か?」
通名であることがばれたことに蒼那は一度驚き、そして疑惑の目を向ける。しかし、一誠は何やら気まずそうな様子を見せていた。
「あの…、ぜひ会長に渡して、いや返しておきたいものが…」
懐から財布を取り出し、1枚の写真を引き出しては机の上に載せる。
「ぶふぉっ…!? お…! おお――!!」
「…! 貴方…! なぜそれを…!?」
その写真を見ては、まず匙が鼻血を出し、目を大きく見開いて歓喜に満ちた叫びを上げた。蒼那も冷静さが抜けては林檎のように真っ赤に輝いた。
混み上がる感情を抑えきれず、その写真を拾い上げる匙の右手は激しく震えていた。
「かかかか…会長!? なんっっ…、だとぉぉぉっ…!? コスプレ姿の支取会長ですとぉっっ…!? そして隣にいるこの美人は―」
「ふん!」
「ぐはっ!? 仁村、いつの間に…!?」
「…ふん!」
不機嫌な表情を浮かべた、仁村という生徒会の1人は匙の脇腹に強烈な肘打ちを与えた。助骨を擦った痛みに苦しみながら悶える彼に対し、仁村は拗ねてそっぽを向いていた。一誠はひらひらと落ちていく写真をキャッチして机に置き、見ぬふりをして話を続ける。
「いや察しがつくでしょうよ会長。こういう写真が入手できるのは、あの人がいるからですよ」
「…姉さん…? でも、何故貴方が…?」
「俺、この人とも長い付き合いがありますので…。ちょっとクセがお強い方なんですけどね…」
「同情するわ…。私の姉がどうも申し訳ない…」
写真に映るのは、俗にいう魔女っ子のコスプレをした女性と、隣に同じ格好をしては頬を赤くして戸惑っている蒼那の姿。蒼那の隣にいる女性は、実は彼女の姉。普段冷静な蒼那に対して、逆に能天気そうな彼女。
セラフォルー・レヴィアタン。レヴィアタンの名を受け継ぐ現魔王である。しかし、その名からはギャップが激しく、魔法少女という二次元のジャンルに嵌っている重度のシスコンであった。サーゼクスの紹介で知り合ったのだが、一誠は戸惑うばかり。かなりテンションが上々で、何度も妹である蒼那の話を持ちかけては自慢ばかりしてきた。だからこそ、蒼那の普段とは異なる思わぬギャップが一誠の脳裏にインプットされているが、これ以上の詮索は蒼那本人のために伏せておく。
ちなみにこれは、以前に一度冥界に訪れた時に無理に貰ったものである。セラフォルー曰く、『ソーナちゃん真面目っぽいけど、ほらお似合いだしノリノリでしょ☆』とのこと。一誠自身も持っていることが恥ずかしいので、出会った時はいつか返しておこうと長く思っていた。
「それにしても…お似合いですよね…」
「……」
お世辞のつもりで褒めたつもりである。だが、蒼那は耳まで赤く染め上目遣いで一誠を恨めしげに睨んできた。
「…すいません。とりあえず、返しておきます」
「そ、それはどうも…」
気まずくなったので、大人しくササッと写真を渡した。この時、蒼那の内心は『必ず姉さんにきつく言ってやるわ。後でO☆HA☆NA☆SHIがあるからって』とギャップの激しいものであった。
「あともう1枚」
「まだあるんですかっ!?」
しかし一誠は再び財布に指を入れ、同じような写真を取り出した。しかし2枚目だけでは収まらない。3枚目、4枚目、5枚目…。蒼那に見せるような向きにして、重ね重ねにテーブルの上に載せられていく。案の定、蒼那は仰天しては、姉の無神経な行動で頭痛が酷くなるばかり。
そんな時、最後の1枚を載せようとした時、一誠の腕が止まった。そして彼の視線は匙に向けられる。
「あの、匙さんといったな。1枚あんたに譲ってもいいけど。なんか会長の弟みたいだし」
「欲しい!! ぜひ貰おう!! ならば俺は全小遣いをはた――ぐばっ!?」
一誠の催促に対し、匙が咄嗟に挙手してきた。鼻下に血が付着したままでも、こんなにかと言わんばかりに目を輝かせては。しかし、立ち上がった蒼那によってビンタを食らった。頬を抑え、悲愴漂う表情で見上げると、眼鏡一面を光らせながらも真っ赤になった状態で蒼那は立っていた。しかも、僅かに身体がビクビクと震えている。
「貴方は余計なことをしないでください…。それに匙…、貴方は私の弟ではありません!」
「会長そんな…、ひどい…! だけど…それでも俺、一生貴方の弟です…!」
決別の言葉を掛けられ地を這いつくばっても、匙の忠誠心は枯渇を知らない。結局、全ての写真は蒼那が回収という名のもとに没収された。ちなみにプロマイドサイズの15枚もあったそうだ。
「さてと」と蒼那は話を戻そうとしたが、時計を見た時、既に授業開始時刻まで10分前。一誠も腕時計をちら見しては時刻を確認済みであった。
「…あの、そろそろ昼休みが終わりますので、もう出てもいいですか?」
「……構いません」
「なんか、すいません」
生徒会室から自分の教室までの距離は長い。それに次の授業は体育なので、始まる前に着替えて置かなければならない。「失礼します」と、一誠は生徒会室を後にした。しかし、蒼那も誰も彼を止めはしなかった。
笑ってはいけない生徒会室、敗者は匙元士郎。勝者は真羅椿姫。
「…あれっ、なんか話すこと話していないような…」
1人呟くが、誰も聞き取ってはいない。
真面目そうな蒼那は実はレヴィアたんと同じ陽気な人だったそうで。