Don't Think. Feel ~史上最強の赤龍帝~   作:70-90

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フリードの口調が、あまりにも難しい…。


神父が狂う!

 この時、一誠は世の中の理不尽さを嘆いていた。

 翌日、オカルト研究部から呼び出しを食らったのだ。普段通りに帰宅した時、例の2人に呼び止められて、部室に連行された。ソファーに座り両手両足とともに交差に組んでは、リアスは深刻な表情を見せて説教をしていた。相変わらずも、朱乃と祐斗は立ったままで、小猫も椅子にちょこんと座っている。しかし、一方の一誠も不機嫌そうな表情をたてては、並行線を辿ったままの状態でいる。

 

「何故貴方が呼ばれたか理解できるわよね、イッセー?」

「いや、全然わかりません」

 

 リアスの問いに即答した一誠。だが、一誠には何の自覚もないし、別に脚を組んで色気めいた彼女の姿勢にも興味はない。だが、用心深い彼女の使い魔は彼を監視していたらしく、抜き打ちだが教会に向かうまでの道のりを辿って追跡していたのだった。

 

「貴方って人は…。いい? 二度と教会に近づいてはダメよ」

 

 リアスは偏頭痛を感じる仕草を見せては、やや怒った表情で叱咤した。

 教会、悪魔陣営が最も恐れる要素の1つである。どれほどの階級の者だろうと、安易に立ち入ることができない危険地帯である。勿論のこと、人間である一誠には無害である。そのため、彼は反論した。

 

「ちょっと待ってください。意味がわかりません」

「黙って話を聞きなさい」

「そうは行きませんよ、グレモリー部長。いつから俺は貴方の傘下に入ったのですか?」

「貴方が入学した当初からよ。貴方だけではない、入学した全ての生徒も含まれるわ」

 

 納得の行かない一誠は『そんな荒業ありかよ』と、内心ぼやいていた。この学園全体がグレモリー管轄だからと接触を控えろとか、行動の制限を要求してくるとは、あまりにもふざけた話である。だが一誠が赤龍帝であるからこそ、他陣営に唆されては悪魔の脅威になってしまうとのこと。他陣営にも知り合いがいると伝えたはずなのにまだ懲りていないのかと思うと、今こそ兄のサーゼクスに注文したいところだ。

 だが以前、リアスの件でサーゼクスと話したところ、「すまないが、リアスの件は勘弁してあげてくれ」と自制を求められた。大体の魔王は妹好き―シスコンと呼んでいるそうだ―で知られており、一誠は溜息をつくばかりだった。

 

「ところで…、普段から貴方は魔王様と接触しているそうね?」

「そうですけど、なにか問題でも?」

「大ありよ! 毅然としている貴方が不思議だわ! 魔王様とはね、そうそうと気軽に話しかけてはいけないのよ!? わかってるの!?」

「でも部長よりは気軽に相談しやすいですよ、結構」

「…イッセー」

 

 リアスの眉間が怒りでヒクヒクと痙攣している。悪魔の仕来りを躊躇もなく踏みつける一誠を見れば、実力行使はやむを得まい。だが、そうなればグレモリー家としての品格に傷がついてしまう。だが、言語を話す同じ生き物として一誠には当然の事にしか思っていなかった。

 それから一誠は、リアスから次のような注文をされた。悪魔陣営と神陣営との摩擦を悪化させないために金輪際、教会には一歩も近づかないこと。一誠の監視をも目的に含めた上でオカルト研究部に入部すること。これらの条件は、一誠を配下に入れるために生徒会との話し合いで組まれたものである。一誠は呆れていた、「なんと往生際が悪い女なんだ」と。

 

「ちょっと待ってください。結局、職権濫用をしてまで駒を手に入れるんですか?」

「ええ、そうよ。貴方の考える悪魔としては理にかなうと思うわ。それでも何か、不満でもあるのかしら?」

 

 リアスは余裕を見せる笑顔で一誠を見る。『なんて女なんだ』と呆れて、物1つも言えない一誠。そして干渉してこない部員達。まるで一誠が入部するのが当然の流れと考えているようにしか思えない空気が漂う。

 

「仕方がありません。仮入部ということで話を落ち着かせてもらえないでしょうか?」

 

 観念した表情で答えると、「わかってくれれば、それでいいのよ」と小悪魔的な―悪魔だが―微笑みを浮かべてきた。一誠も微笑がえしをしたのだが、実際は心の中で中指を立てている。

 

『ほう…。お前という輩が、悪魔共の要求を飲み込むとはな』

『早とちりするな。ただ、どう話してもイタチごっこづくしだからな…』

 

 それでも了承の意を示したのは、水掛け論からの脱却が大抵である。これ以上ワガママ女子に付き合ってあげられないという本音。リアスは勝ち誇る一方で、情愛を感じさせる笑顔を浮かべた。一誠は溜息をつくばかりである。

 

***

 

『それにしても近頃、ああいう面倒な悪魔に接する機会が増えたようだな』

『でも入学してからってことは元々だろ? ああ、今日どころかこれからトレーニングの時間が減ってしまうだろうし…』

 

 仮入部だとしても、一誠には痛手だった。

 日は暮れ、所々で街灯が照らし出す。家路を渡り、ドライグと話しては時々愚痴をこぼしていた。だが、サーゼクスに手間をかけさせる訳にはいかないだろうと、ドライグに宥められる。魔王という職は総理大臣と同じ職、たかが一誠個人のために大事を立てては困ると一誠も納得せざるを得ない。

 

『にしても、“紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)”か…。“亜麻色の滅殺姫(ルイン・プリンセス)”よりかは迫力に欠けるな』

 

 幼少期にサーゼクスに冥界に連れられた際、一誠はリアス以外のグレモリー家にも挨拶を交わしたことがあった。サーゼクスだけでなく、父も妹も紅髪と血が濃いものだった。ただ、どの二方も父は母―“亜麻色の滅殺姫(ルイン・プリンセス)”と呼ばれた女性であり、嫁入りしている―、サーゼクスはメイドを務めている妻には頭が上がらないようだ。ちなみに一誠が『鬼嫁なの?』と聞いた際―

 

『5歳の子供に刺激の強い知識を与えるとは、如何程の神経をお持ちなのですか!?』

 

 ―と何故かサーゼクスが妻に注意されたのは、今でも鮮明に記憶されている。一方で、何処で鬼嫁という言葉を覚えたのかは、一誠は覚えていない。

 閑話休題。

 その滅びの魔力は母親譲りであり、サーゼクスとリアスはそのために悪魔としての能力は高い。だが、一誠は疎ましく思った。サーゼクスは威厳が感じられるのみでなく、人格者としても尊敬できる。だが、リアスはただグレモリー家の脛を齧っているだけにしか思えない。しかも、サーゼクスが現当主、そしてリアスが次期当主だというので、大丈夫なのかと不安が否めない。サーゼクスの下に子供が1人いるそうで、リアスと違って礼儀正しく真面目だった。電話で声を聞くだけしか接触はなかったものの、ミリキャスという息子は常に敬語で話すので、つい一誠も敬語で話すばかりだった。高校生のリアスが叔母だということにも驚きを隠せない。ただ寿命などについては人間とは大きく異なるため、ただ論題が外れそうなので割愛しておく。

 結局、どうもリアスが次期当主には相応しくないと思ってならない。一度誰かにじゃじゃ馬ならしをしてもらわなければ、どうも先が見えない。

 

『いくらグレモリー家の次期当主としても、信頼どころか信用すらもできないな』

『だろうな…。所詮悪魔とはそういう生き物よ。あれだけ自己満足でも眷属から愛想が尽かさないのが不思議でたまらんな』

『グレモリー家では身内との絆が鎖のように固い。グレモリー先輩の場合、利用するだけ利用して後で甘い汁を与える。あまりの用意周到さに中指を立てたいぐらい…』

 

 一軒家の前を通りすがった時、一誠が立ち止まった。

 

『どうした?』

『わからない…』

『何だと?』

『わからないが、この家…。何か胸騒ぎがする。それに…、血の臭いがする』

 

 一誠は怪訝な表情を浮かべ、右に建つ1つの豪邸に目をつけた。

 何度か現場に遭遇してきた一誠の嗅覚は、犬ほどに上達していた。それはあらゆる能力を倍加できる神器の効果の余分によるものだろう。門を開け、玄関の元に歩く。

 

「すいません、誰かいますか~?」

 

 とりあえず声をかける前に、チャイムを鳴らしておく。しかし、反応はなかった。すぐにドアノブを掴んでは確認するが、解錠済みだった。これはベタな刑事ドラマの展開である。そっとドアを開け、ゆっくりと入っていく。

 玄関は真っ暗、沈黙が走るだけである。静かにドアを閉めると警戒しては歩き出す。この家は洋式であり、土足で立ち入れるようになっている。また、廊下には幾つかの額縁が掛けられているので、富豪が住んでいると考えられる。

 

「あそこの部屋が少し明るい…」

 

 一誠は向こうの部屋の入口を目にする。半端に開いたドアの表面に、灯りがかかっており揺らいでいる。誰かがいるのだろうか。だがドライグ曰く、悪魔もしくは堕天使の気配は感じられない。それでもとゆっくりと入口に近づき、そっとドアノブに手をかける。

 

『いくぞ』

『おう』

 

 ドライグから了承を得て、さっとリビングに入った。

 

「こいつは…」

 

 一誠はその方を向けば些か自失しては、心では怒りが込み上がっていた。1人の男性が酷く刻まれた状態で、数本の蝋燭に囲まれ、血塗れのまま壁に磔にされていたのだ。十字架を彷彿とさせる絵がその血で粗雑に描かれており、何行かの英文も書かれていた。『神に変わってお仕置きよ!』とは、どうも寒い。血糊の色合いから判断すれば、一誠が訪れるちょうどその前に殺されたのだろう。返り血が生々しくもあちらこちらに散っており、一誠には数える余裕も与えない。ちなみに南無を説いたのは別の話である。

 教会関係―アーシアが向かった教会を考慮していなかったが―の人の仕業だろう。だが、ここまでの荒業をするならば、この男性は悪魔だったのだろうか? はぐれ悪魔を退治してきた一誠としては、その犯人は趣味の悪い輩にしか思えなかった。完全にオーバーキルだろうし、態々ここまでの物的証拠を残すとはどれほどの目立ちたがり屋だろうか。

 

『この死体からは、魔力の残滓が少し足りとも感じられん』

 

 ドライグの言葉に耳を疑う。魔力を感じないとするならば、彼は人間であるという可能性ができる。一誠は冷静にしているが、無意識に強く握ってしまっている。刹那、足音がコツコツと聞こえて来る。

 

「おやおやぁ~? 何してんのかな~? 勉強三昧のお子ちゃまが、こんなところに来てはダメでちゅよぉぉぉ~っ?」

「あんたの仕業か」

 

 笑いを浮かべては、影から浮かべるように1人の少年が現れた。右手に剣を握っている。

 真白な髪に真っ赤な瞳。舌を出しては不気味な笑みを浮かべている。完全に黒だ。殺人を犯すことに快楽を感じている。この黒い修道服がどうも、一誠自身が抱く温厚な神父のイメージとは似つかない。

 

「なぜ殺したんだ? この人は悪魔じゃない、只の人間なんだぞ?」

「おやおや、浮かない顔ですなぁ~。その口ぶりからして、このボクチンと同業者かなぁ~? いいよ、教えてあげるよ! ボクチンは悪魔祓い(エクソシスト)のフリード・セルゼン!」

 

 悪魔祓いということならば、一誠には信用ができなかった。悪魔祓いならば、ただ人間に憑依した霊を追い出すのが役目でないのか?別にもう無理だというわけではなく、しかも憑依されたわけでもないのにただ殺めただけなのだ。

 というのも、一誠は悪魔側の知り合い―リアス一同ではないのは言っておく―から警告されていた。近頃、はぐれ悪魔ならぬはぐれ悪魔祓いがこの駒王町に出没していると。彼は元々教会に所属していたのだが、彼の性格を危険したために追い出されたそうである。しかも、並みの剣よりもステータスが格上である、“聖剣”を手にしたまま追放されたそうで、常に血に染めては殺戮を行っていたのだった。その張本人が目の前にいるのだ。

 

「君の言ったとおり只の人間さ。でもね、こいつは悪魔に魂を売ったんだ…。最悪じゃないか、魂を食い尽くして悦楽に浸るサディスト共の仲間に入るなんて…。馬鹿ですよねぇ!? こんなクズ共は死ななきゃ、馬鹿は治りませんよぉ~?」

 

 『サディストはお前だ』と突っ込まれても仕方がない。反省の色など彼のキャンバスには少々もない。

 

「今頃、誰かが悲鳴を聞いて警察に…、は無さそうだな…」

「そうですとも! あんな青服のダッサイポリ公に興味ないんでね! でもややこしいから静かに、綺麗に殺してやったのさ!」

 

 一誠が入り込むとき、人気はなかった。慌しい様子もなかった。これで誰か警察を呼んでいると可能性が低い。いや、むしろ単なる宗教的な付き合いなのだろうと気にかけなかったに違いない。それにあれだけの豪邸だ、この建物に防音効果をつけていた可能性もある。

 どっちにしろ、今の件を知るのは今いる2人しかいないことには変わらない。

 

「確かに眷属になるのは俺も御免だが…、人殺しで悦楽に浸ってるあんたも気に食わないな」

「おや~? このボクチンを倒すとでも? 無駄ですよ無駄ぁぁっ!!」

 

 鍔から光剣を発動しては振り回し、一誠に襲いかかる。しかしフリードの動きは単なる素人並みではなく、狂人ぶりとは対照的に動きが繊細であった。悪魔祓いの肩書は伊達ではなく、何度も同じことを繰り返しては実力を伸ばしていたのだろう。ただ感心する価値はない。フリードが生きるのは、悪魔を狩ることを快楽としているためだけである。籠手で剣撃を防ぐ一誠。速くて重い、油断はできないとすぐに警戒する。ビーム状の剣を目にしたのは初めてだ。

 刹那、交わされる腕の間に一誠が銃口を目にした途端、一発の銃声が響いた。

 

「チィッ…!」

 

 一誠は後ろに退いたために致命傷は免れたが、左の二の腕を掠っていた。服のみならず皮膚をも傷つけていたので、下に来ている赤シャツの色がその部分だけ更に赤黒くなる。

 

―こいつ、銃も…!

 

 フリードは、貴金属をも付けた銃を2丁も持っていた。ちなみに利き手の方は剣を逆手に持ち、銃のグリップを前にした、即ち2本を重ねた状態で持っていた。封魔弾を込めた小型銃。遠近共に備わっているために、容易には近づきがたい。これらを回避することしかできない。

 

「無駄ですよぉ~? ねぇ馬鹿でしょ、馬鹿でしょ君も!? ボクチンの右手に聖剣、左手に銃を持ってるのに素手の君が勝てるわけ無いでしょ~が!?」

 

 素早い動きで接近するフリード。剣の捌きを籠手で防ぐが、一誠は後ろに倒れかける。

 

「お死になちゃぁぁい!!」

 

 狂気に笑っては剣を真上から振り下ろした。このとき一誠は後ろに置かれた、ソファーの首置きに手を付けては後ろに転がり込む。クッションが真二つに分かれ、返り血を帯びた綿が浮かぶ。「あれぇ~、おかしいなぁ~」と首をかしげると、一誠がリビングを後にしたのではないか。逃がさんと思ったフリードは走りだし、奥の方のキッチンに入り込む。リビングは蝋燭で照らしだされていたが、キッチンは真っ暗である。

 

「どこに逃げたかなぁ~? 真っ暗なここに隠れても無駄ですよぉ~?」

 

 パチンと電気のスイッチを入れるが、ランプがつかない。足元にはガラスが散らばっている。

 フリードは笑みを浮かべては辺りを見回す。何かと、鼻が震えた瞬間、フリードは二丁拳銃をとある方向に向けた。

 

「そこですよぉっ!!」

 

 2つの銃口から数発の火花が散る。しかし、一誠は間合いを詰めていき、籠手でパッパと受け止める。結局は対悪魔用の武器でしかなく、一誠が受け止めれば問題ないのだ。

 

「受け止めただとォっ!?」

「そらっ」

 

 そして素の右手を漢数字の一を描くようにして真横に振った。この時、フリードの目と鼻の間一面に何かがひっつく。

 沈黙が走る。わからない。一体何をしたのか?一度も触れさせる隙を与えていなかったつもりのフリード。だが、一誠の右手には―

 

「あ…、ああ…?」

 

 ―おろしわさびの入ったチューブが握られていた。ということは…。

 

「……ァァァアアア――!?」

 

 これでもオーソドックスな攻撃パターン。フリードの目元に襲いかかる熱。熱した鉄板を押し付けられた時のような激しい痛み。顔を抑えて金切り声を上げ、大げさに悶え始めるフリード。

 1つ訂正しないといけないことがある。一誠は回避することしかできなかったのではなく、わざと回避していたのである。先にここに来た際、冷蔵庫からさっとそれを拝借していたのだった。剣もしくは銃を使うならば目潰しだという目的で使ってみたが、一誠が呆然とするほど効果覿面(てきめん)の様子だった。

 

「あっ、あつぅっ…!? ああぁ…!? 目がぁ、目がぁっ!?」

「危なっ!?」

 

 しかしフリードは闇雲に振り回しては、後ろに置かれたテーブルが真っ二つに切り裂かれる。一誠は一度距離を置くことしかできない。

 

「違う、違う! ボクチンちゃう! なんでボクチンの目ん玉焼かれんの!? こんなもん――アア!! 顔がぁぁっっ!? 顔が焼けるぅぅ!?」

 

 大袈裟に揺らめきながら、必死に目元をこするフリード。当然の事、わさびが顔中に広がっては、痛みが全体に広がって悪化するばかりである。サッサと武器を腰元にしまい、涙でぼやける視界を元にキッチンの流し台に駆け出した。そして、覚束ない手で蛇口を捻っては必死に顔をすすぐ。何度も何度も顔を浴びては、火を浴びたような痛みを取ろうとする。

 これは当然だが、『アホだ』とぼやくことしかできない。

 

「ハァハァハァ――真っ赤っ赤…!!」

 

 一度満悦していたが、反射度の高いシンクに自身の顔面が映りフリードの表情は悲嘆にくれた。真白な顔であるにもかかわらず、顔の上半分が真っ赤に染まってしまっている。そんな中、足元にカランと何かが当たる。静かに拾い上げたのはわさびが入っていたチューブであった。日本語は読めないが、外の光に照らされた時に見えた色を判断することはできた。

 

「わさび…」

 

 フリードの背後には一誠が、距離をおいて次の攻撃体勢に入っている。そして、彼は『フフフ』と静かに笑う。右手に光剣、左手に銃を握っては身体を向けた。

 

「いいですか…? ボクチン悪魔祓いは、悪魔のクソ共に敏感なあまり敏感肌…。余計にボクチンは辛いモノとか熱いモノとか嫌いなんですよぉっ…? それを貴様ぁっ…!! なんてことしてくれてんだテメェーっっ!? 殺す、絶対殺すっっ!!」

『…そうだったのか?』

『気を抜くな! てか、俺に聞くな!』

 

 “悪魔祓いは敏感肌”―思わぬ事実について確認をかけにきた一誠を、ドライグは叱咤した。状況は混沌とする中、フリードの機嫌を損ねる以上に激怒させてしまった。後一発でフリードを仕留める。フリードは殺気に満ちた表情で剣を振り上げては飛びかかってきた。一誠も籠手を前に出しては防ごうとする。

 

「きゃああ――っ!」

 

 しかし、第三者の悲鳴で一誠の気がそれた。フリードは接近、しかし裏拳でひるまされた。今の内にと、一誠はそのもとに駆けつけた。磔にされた死体を見た途端、口を覆っては慄いたアーシアがいた。

 

「アルジェントさん…! なんで…!」

「一誠…、さん…?」

 

 アーシアは一誠を目にして、驚きを隠せない。実はフリードはアーシアと共に来るつもりだったのだが、彼女のドジさで忘れ物をしてしまったために遅れてきていた。だが、フリードといる時点でも不審である。

 

「遅いじゃないですかアーシアさん? もうとっくに用事は済んだところなんですよ? こいつの邪魔がなければバレずに済んだのですがねぇ…」

「フリードさん…!? まさか、あなたがやったのですか!?」

「そうだよぉ? それ以外に誰がいるっていうんですかぁ~っ? 悪魔に加担する屑に人権などありませんよぉぉ~っ!?」

 

 会話から察するに、アーシアとフリードは同じ教会関係者として知り合いだったのだろうと一誠は理解した。この時アーシアは直ぐ様、フリードを戦慄に満ちた目で見つめていた。神父が好きでたまらない十字架が血糊で描かれているので、すぐに彼女は理解したのだ。実際、彼女はショックを受けていた。この時を迎えるまで、無垢なアーシアは信仰深い神父を信頼していたのだろう。

 

「どうして…! 私達はただ教えを説きに来たのではないのですか!?」

「そんなの、この糞男が悪魔と契約なんかしていたからですよぉ? こいつも、ボクチンのイケメンフェイスをこんなにしたあいつもぉっ!!」

 

 反省を見せず、後悔をも見せず…。ケラケラと笑い続けては、堂々と言ってのけたフリード。しかし、一誠の事になると不機嫌な表情を露わにし、刃先を一誠に強く向ける。わさびの件がトラウマになった原因を作った張本人をかなり憎んでいるようだった。

 

「一誠さんが…?」

「ちょっと違う。俺は無理に付き合わされているだけだ」

「おんなじじゃあないですか、悪魔と繋がりを持った以上、その者に残された手段は、死しかありませ~ん!! 死んで詫びなきゃバカは治りませ~ん!! わかったんならそこをどきなさい」

 

 光剣の刃先を一誠に向け、ジリジリと詰め寄ってくる。一誠は頑として構えに入ろうとしたが、アーシアが突如一誠の前に割って入ってきた。両手を広げ、彼を庇ったのだ。

 

「はぁぁ!? 何やってんだテメェ!?」

「アルジェントさん! 下がれ!」

 

 一誠が呼びかけるも、アーシアは動かぬままだった。

 

「下がりません! 一誠は悪い人じゃありません! なのに、どうして傷つけるのですか!?」

「なにそれ? もしかして知り合い!? お前の知り合いだったのぉっ? ボクチンが知らぬ間に唆されたわけぇっ!? 悪魔に魂売ったコイツが!? アーシアさん…、ボクチン言ったよね!? 悪魔は公害、すぐに消毒すべき汚らしい存在と教えたはずですよねぇぇっ!?」

 

 錯乱のあまり、敬語と文語が混じってしまっている。クッと慄く反応を見せるが、アーシアは決して逃げることはしなかった。フリードを説得させるのに必死であった。

 

「違います! 悪魔にもいい人は必ずいます!」

「綺麗事言ってんじゃねぇよ!?」

「きゃあっ…!!」

 

 台詞を無視されてはフリードに腕で叩かれ、アーシアは壁に激突し倒れこんでしまう。彼女に対し、フリードは軽蔑を含めた笑みで彼女を見下した。

 

「悪魔…。そういえばアーシア、あんたも魂売った身だったっけ?」

「…!」

「そうでしたよねぇ!? 外敵の悪魔をまさか助けて、教会から追放されたお前!! 折角ボクチンらが引き取ってチャンス与えたってのぉにお前! ほらほらなんか言えよこの魔女ぉっ!?」

 

 彼の罵声で、彼女の表情が青白くなる。それでも容赦なく、フリードは蹴りを加えてくる。黒い革靴が振り子のように勢いが付いては、アーシアの腹に狙いを定めていた。その先が迫る―しかし、その足の甲が強く踏みつけられた。

 何か吐き出しそうな悲鳴をあげるフリード。その真横には激怒した一誠が、左腕の籠手を展開してはー

 

「汚い手でアルジェントさんに触んな、クソ神父」

 

 左手を伸ばし、フリードの―

 

『Boost! Explosion!』

 

 ―額を倍加した力を込めたデコピンで叩いた。かなりの大音量で響く。

 

「ぎゃあ――っ!?」

 

 普段よりも倍にしたつもりである。そのため碌に喋ることもできず、手に持っていた武器類全てをフローリングに放り投げては額を押さえ、醜い悲鳴をあげていた。

 しばらくすると動かなくなり、確認すればフリードは白目を剥いて意識を失っていた。血のように真っ赤になった額から狼煙が立ったままで。痛みのあまりに夢に入りたかったのか、それとも叫ぶのに疲れたのだろうか。だが、呼吸はしているために生きていた。怒り任せに殺してしまえば彼と同等になることを拒んでいたのだろう。

 

「つぅ…」

「一誠さん! その傷…」

「大丈夫、アルジェントさん。たかがこんなかすり傷程度で」

「駄目ですよ! 血が出ていますし…!」

 

 アーシアは両手を翳し、神器の力で腕の傷を治した。制服は切り裂かれたままだが、腕には跡形もなく傷が消えていた。

 

「それよりもアルジェントさん…、今の話は一体どういうことなんだ?」

「……」

 

 フリードの言葉に動揺を見せていたアーシア。それが気がかりになった一誠が問いかけた。何か影を見せる彼女に質問をかけても不謹慎だろうが、今回ばかりは仕方がない。

 だが、そんな中ドライグが水を差してきた。しかし、退避せざるを得ない現状だと理解することになる。

 

『最悪の展開になったな…』

『どうした?』

『向こうから堕天使の気配を感じる。数多に渡るぞ』

 

―まさか…、このクソ神父…!

 

 堕天使と関わりを持つ事を知れば、腹の虫がうるさくなるばかりである。その彼らが何かしらで騒ぎを聞きつけては現場に直行してくるのだ。

 堕天使を毛嫌う理由など一誠にはない。だがフリードが影で堕天使に崇拝し、その返しに彼らは様々な事をしている。アーシアに会った時に察していたが、やはり厄介な事に巻き込まれてしまった。今でも話をつけて、場合によれば成敗しなければならない。それよりもアーシアを連れて、どこか人気のない場所に避難しなければならない。

 

「アルジェントさん、一旦ここを離れよう」

「ええっ!? でも、どうやって…」

 

 籠手にタッチし、倍加する。

 

『Boost!』

 

「これは…?」

「アルジェントさんと同じ、俺も神器持ちだ」

「ええっ!? 一誠さんも!?」

「しっかり捕まってな!」

 

『Explosion!』

 

 籠手で倍加した後、眩い速度で現場を後にした。

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