死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。   作:鬼獣八紅

128 / 180

 三人称視点です。


閑話 幹部戦

 

 

 

   《バグロフィ VS サイファー・K》

 

 

 

「とっととくたばりなさい小娘!」

「くたばるのはそっちです!」

 

 バグロフィとサイファー・Kはインターネットの海の中で爪と剣で鍔迫り合う。

 サイファー・Kは現在、テクスチャ魔法を自身に掛けることで身体を電子データ化しインターネットへ入り込んでいた。

 

「面倒な。サイバーウイルス!」

 

 一度距離を取ったバグロフィが手から大量のウイルスをサイファー・Kに向けて放つ。

 今のサイファー・Kは電子データのためこの攻撃は特攻になる。

 

「ヤバッ! エンチャントテクスチャ:カートゥーン!」

 

 サイファー・Kが己に魔法を掛ける。

 瞬間、サイファー・Kの体が全体的に丸みを帯びた。

 

「逃っげろ~!」

 

 サイファー・Kが足を高速で動かす。

 すると、足が段々と渦を巻いた形となりそのまま走り出した。

 

「ッ~、当たりやがれ!」

「誰が当たりますか、鬼さんこちら~手の鳴る方へ~!」

 

 カートゥーンアニメのように目を置き去りにして走り始めたサイファー・Kだが、そのふざけた走り方とは裏腹に速度はすさまじい。

 バグロフィのウイルスは追い付かずに命中する気配が無い。

 

「こちらから仕掛けますか。今回も頼みますよ武装剣レイヤーテキスト。武装剣レイヤーテキストにエンチャントテクスチャ:VRMMO! 更に、エンチャントテクスチャ:ランス!」

 

 サイファー・Kが自身の変身アイテム、武装剣レイヤーテキストに魔法を掛けバグロフィ目掛け飛び掛かる。

 武装剣レイヤーテキストはカートゥーン風の画風からリアリティのある画風へと変化し、形状も剣から槍へ変わった。

 

「食らいなさい、ぐりぐりスピア!」

 

 そしてバグロフィ目掛け勢いよく突撃し武装剣レイヤーテキストを突き出す。

 

「ッ、ファイヤーウォール!」

 

 バグロフィが生成した壁と武装剣レイヤーテキストが衝突する。

 その衝撃によってインターネット空間が歪んだ。

 

「…これを防ぎますか」

「私はフレアロフやウルスマキアと違って耐久力が無いですから直撃するわけにはいかないのですよ!」

 

 バグロフィはピエロモチーフの見た目通り細身なため耐久力は低い。 

 仮に今の攻撃が直撃していた場合致命傷を負っていただろう。

 

「そうなんですか。サイファーの能力値ビルドに似てますね」

「そうなのですね…今だ!」

 

 一瞬の隙を見つけたバグロフィが壁を貫通しサイファー・Kの腹に爪を突き立てる。

 

「…は?」

 

 しかし、爪を突き立てられたサイファー・Kの腹は攻撃された箇所の肉体が後方へと吹き飛んだだけにとどまった。

 吹き飛んだ箇所以外の肉体は未だに壁に槍を突き立てている。

 

「ヤバッ、一時撤退~!」

 

 腹肉が吹き飛ばされたことに気付いたサイファー・Kが槍を突き立てるのをやめグルグル走りで後方へと向かう。

 

「う~ん、やっぱりカートゥーンテクスチャは最高の防御力を持ってますがサイファーの戦い方には合いませんね。ここぞという場面で使うようにしましょう。…よっと」

 

 サイファー・Kは吹き飛ばされた腹肉を拾い、腹に空いた穴に嵌める。

 すると腹肉と穴はぴったりと嵌り、何事も無かったかのように修復した。

 

「やっぱり、サイファーにはこっちの方があってますね。エンチャントエフェクト:VRMMO!」

 

 サイファー・Kの体がカートゥーン風の画風から、武装剣レイヤーテキストと同じ画風へ変化する。

 

「武装剣レイヤーテキストのエンチャントエフェクト:ランスを解除。スキル発動─」

 

 VRMMOとは、仮想現実技術を活用した大規模多人数同時参加型オンラインゲームのことだ。また、VRMMOはライトノベルやアニメの題材になることも多い。

 そして、エンチャントエフェクト:VRMMOの効果は─

 

「【勇者の加護】、からの【アサルトムーブ】!」

 

 VRMMOに登場するようなスキル、その中で修得した物を使用することができる。

 サイファー・Kは自身にバフを掛けバグロフィに急接近した。

 

「【燕返し】!」

「ハッククロー!」

 

 再度バグロフィの爪とサイファー・Kの剣が鍔迫り合う。

 しかし、今回は違った。

 

「もう一発!」

 

 鍔迫り合っていた剣で即座に切り上げる。

 【燕返し】は元となった剣術の燕返しと同様、振り下ろしと切り上げがセットとなった二段階攻撃のスキルだ。

 

「がっ?!」

 

 切り上げまでは予測できずバグロフィに剣が直撃し少なくないダメージが入る。

 

「【エレキソード】!」

 

 さらにサイファー・Kの電気を纏った剣の追撃をまともに受けてしまった。

 【エレキソード】は低威力の代わりに確定で状態異常である麻痺を入れられ、解除しない限り数分間スピードがダウンする。

 

「─!、今ので合体ゲージが溜まりましたね。左手に武装剣レイヤーテキストを装備、そしてアイテムボックスから装備!」

「!、それはまさか!!」

「えぇ、聖剣エクスカリバーを右手に装備です!」

 

 サイファー・Kがアイテムボックスから取り出したのは聖剣エクスカリバー。鍛冶屋智加古と共に蘇らせた一振りだ。

 以前は智加古が使用していたが、充分な強さが発揮できなかったため使用権をサイファー・Kに譲渡していた。

 

「そして武装剣レイヤーテキスト、聖剣エクスカリバー、合体です!」

 

 瞬間、武装剣レイヤーテキストに縦線が走る。

 すると刀身から真っ二つに分かれ、聖剣エクスカリバーの両端に取り付いた。

 

「武装聖剣レイヤーエクスカリバー、初陣です!」

 

 武装剣レイヤーテキスト改め武装聖剣レイヤーエクスカリバーを構えバグロフィへと突撃していく。

 

「くっ、サイバーウイルス!」

「【スライドムーブ】!」

 

 麻痺により素早い行動が制限されたバグロフィはウイルスを放つことで近づかせないようにするが、サイファー・Kは地面を滑るように高速移動し接近してくる。

 そして武装聖剣レイヤーエクスカリバーの間合いに入った。

 

「【チャージスラッシュ】!」

「ッ…、さっきのよりはまだマシですよ」

 

 再度切り付けられたバグロフィだが、今回のダメージは【燕返し】ほどではない。

 なぜなら、【チャージスラッシュ】の”チャージ”とは技をチャージして放つという意味ではなく、とあるゲージをチャージするという意味だからだ。

 

「問題無いですよ。今ので最終必殺技(ファイナルウルト)ゲージがMAXになりました!」

 

 サイファー・Kの体が一瞬光り、白いオーラを帯びる。

 

「エンチャントエフェクト:対戦アクション! 最終必殺技(ファイナルウルト)発動!」

 

 自身のテクスチャを張り替えたサイファー・Kがバグロフィに突撃していく。

 今のバグロフィは麻痺の影響でまともな回避行動はできない。

 確実にヒットさせられる。

 

「このっ、ファイアウォール!」

 

 バグロフィが咄嗟に壁を展開する。

 が。

 

「残念。最終必殺技(ファイナルウルト)はガード不可です!」

 

 サイファー・Kは壁を貫通し、バグロフィに剣がクリーンヒットする。

 その勢いによってバグロフィは空中へと打ちあがった。

 

最終必殺技(ファイナルウルト)─」

 

 サイファー・Kも空中へ飛び上がりバグロフィを四方八方から切りつける。

 

 

 

   「─娯楽(ゲーミング)記録(アーカイブ)()─」

 

 

 

 そして、武装聖剣レイヤーエクスカリバーの剣先に光が集まる。

 その光は未だ空中で身動きの取れないバグロフィに向けられていた。

 

 

 

   「─電磁砲(レールガン)!!」

 

 

 

 光はレーザーとなりバグロフィ目掛け発射される。

 当然、バグロフィに回避する術はない。

 

「この…小娘が!」

 

 その断末魔を最後にバグロフィはポリゴンとなって消滅する。

 バグロフィのミスがあったとすれば、最終必殺技(ファイナルウルト)の初手の突撃を防ぐのではなく回避するべきだった。

 初手の突撃が回避できれば最終必殺技(ファイナルウルト)は不発していたのでまだ逆転の手段はあったのかもしれない。

 

「サイファー・K、WIN!」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

   《ウルスマキア VS メンデルキャップ》

 

 

 

 グッドドリームホテルエントランスルーム、この場所でも魔法少女と怪人が戦闘を行っていた。

 エントランスは崩壊しており、辺りには瓦礫が散らばっている。

 

「逃げるな!」

「ひっ!」

 

 しかし、その戦闘は終始一方的な物となっていた。

 

「クソッ、何でウイルスが効かないんだよ!」

「知らなかったのか。蝙蝠の免疫システムの凄さを」

 

 メンデルキャップが再現した蝙蝠の免疫システムにより大抵のウイルスが無力化される。

 それによりウルスマキアの主力攻撃がメンデルキャップに効かなくなってしまったのだ。

 

「ハードビーストサウンド!」

「クソがぁ!」

 

 ウルスマキアは爆音攻撃をそこらへんにあった瓦礫で防ぐ。

 

「ッ、やはり互いに決定打が無いな」

 

 いくらウルスマキアのウイルス攻撃が効かないとはいえ、攻撃手段が音である以上メンデルキャップ側にも決定打が無い。

 しかもウルスマキアの攻撃がウイルスである以上、戦闘が長引けば風で流されたウイルスが市街地で空気感染を引き起こす可能性がある。

 今はなるべくウイルスを放出する隙を作らせないように立ち回っているが、いつミスするかもわからないので早めに決着を付けたいのだ。

 

「仕方ない。こちらから仕掛けるか」

 

 メンデルキャップは腕を蝙蝠の羽から人の腕に戻す。 

 代わりに肩甲骨の辺りから猛禽類のような翼を生やした。

 

「行くぞ」

 

 そうして翼を折りたたみ低空飛行することで速度を上げウルスマキアへ突撃する。

 

「ラプトルブレイク!」

「ぐっ…この畜生が!」

 

 ウルスマキアとメンデルキャップが競り合う。

 元々ウイルスとは別に強靭な肉体を持っていたウルスマキアはこの攻撃を何とか耐えれていた。

 

「お前やらかしたな。俺に近づいたってことは、とびきり強力なウイルスを打ち込まれる覚悟があるってことだよな!」

 

 ウルスマキアが爪をメンデルキャップに突き立てようとする。

 色が毒々しい紫色になっており、喰らったらひとたまりもないことが一目瞭然だ。

 

「さらば先手を打つだけだ。ラットニードル!」

 

 近づけば攻撃を食らう可能性はメンデルキャップも予測していた。

 そのため、あらかじめ発動できるよう準備していたハリネズミの針を全身から突き出し反撃する。

 

「痛っ! …けどな、この程度で怯むかよ! デスインジェクション!」

 

 しかし、ウルスマキアは根性で攻撃に耐えメンデルキャップに爪を注射器の様に突き立てた。

 

「ッ…、こんな攻撃、ただ痛いだけだ」

「バ~カ、今の攻撃で打ち込んだウイルスはこの世に存在しない、今俺様が生み出したウイルスだ! 頼みの綱の蝙蝠の免疫システムは効果無いぞ!」

 

 いくら蝙蝠の免疫システムが優れているとはいえ、当たり前だが元々存在したウイルスにしか効果は無い。

 今生み出されたウイルスの抗体など持っているはずないのだ。

 

「そうか。なら、今抗体を創り出すだけだ!」

「無駄だ! お前はウイルスに蝕まれ惨たらしく死ぬ運命何だよ!」

 

 これ以上近くにいる意味は無いとメンデルキャップは壁目掛け投げつけられる。

 

「…何か勘違いしているみたいだな。私の遺伝子魔法はこの世に存在する、またはしていた()()()生命の遺伝子を持っているんだぞ」

「!、…まさか!」

「今お前が生み出したウイルスの遺伝子も当然持っている」

 

 メンデルキャップは翼を使い壁に激突することなく着地する。

 そしてウルスマキア特製の新ウイルスの抗体を生成しだした。

 この世に遺伝子を持って生み出された以上、その瞬間に遺伝子魔法のラインナップに追加される。

 蝙蝠の免疫システムを使用していた理由は、複数の抗体を一種類の再現で済ませられて楽というだけだ。

 

「…無力化、完了だ」

 

 紫に変色した箇所が縮小していく。

 そして僅か数秒で変色した箇所が消滅した。

 

「ば、化け物…」

「…それは戦意喪失と捉えていいのか?」

 

 事実、ウルスマキアの戦意は既に失われている。

 自慢のウイルスは効かないい又は無力化され、強靭は肉体はそれ以上のパワーですり潰されるのだ。

 こんな相手にどう勝てと言うのか。

 

「…ならば、一撃であの世へ送ってあげよう」

「ひっ! に、逃げ─」

 

 メンデルキャップに恐怖を抱いたウルスマキアは背を向け惨めに逃走を図る。

 しかし、そんな行動は無駄でしかない。

 

「テリジノサウルス。古代流、居合─」

 

 テリジノサウルスの爪を手に生やし、居合の構えを取り逃げるウルスマキアへ一気に距離を詰める。

 

 

 

   「─竜鎌!」

 

 

 

 メンデルキャップがウルスマキアの脇を通り抜ける。

 直後、ウルスマキアの頭が落ち胴が三分割された。

 

「…ふう、久々にこの技使ったが精度が落ちてなくてよかった。…ん? …最後に一矢報いたか」

 

 見るとメンデルキャップの首筋に傷が付いており一滴の血が流れる。

 ウルスマキアはすれ違う瞬間にメンデルキャップの首筋を切り付けたのだろう。

 もう少し位置がずれていたら首を落とされていたのはこちらだと思うとメンデルキャップの背筋が凍る。

 

「最高戦力としての意地、見させてもらった」

 

 テリジノサウルスの爪から血をふき取り再現を解除する。

 

「後はフューチャーだが─『ドゴンッ!』─な、何だ?!」

 

 突如として爆発音が響き渡り衝撃波が発生した。

 衝撃波の威力はすさまじく近くにあった建物が倒壊し、エントランスルームも更に崩壊する。

 

「今の衝撃波は何だ? いや、それより先に民間人の救助だ」

 

 グッドドリームホテルは丘の頂上にあり、麓には商業施設や住宅地が広がっているのだ。

 その建物が今の衝撃波で倒壊を起こしていてもおかしくない。

 

「見た所倒壊は起きて無さそうだし先に避難勧告は指定たが…、あくまで勧告だからまだ人がいるかもしれない。急ぐぞ」

 

 

 

   《フレアロフ VS 神田神子都》

 

 

 

「…あんたねぇ、少しは加減しなさいよ」

「それはこちらのセリフだ」

 

 先ほどメンデルキャップが感じた衝撃波の発生源は、フレアロフと神田神子都が戦闘を行っていたグッドドリームホテル地下フロアだ。

 両者が放った炎と水がぶつかり合い、急速に水が膨張したことにより生じた水蒸気爆発が衝撃波の原因である。

 

「あ~もう、今のでホテルがボロボロじゃない」

 

 水蒸気爆発によって元々グレートフューチャーによって崩壊していたグッドドリームホテルの地下フロアより上が完全に消し飛んだ。

 

「そうだな、月が良く見える」

「そうかしら。暗くてよく見えないわねっ!」

 

 神子都が一気に距離を詰めお祓い棒と拳が衝突する。

 いくら龍のパワーが乗っているとはいえ神子都の元の筋力が低く、その上フレアロフが怪力のため競り合いが発生した。

 

溶岩掌(ようがんしょう)

「熱っ!」

 

 フレアロフが競り合いをしている拳とは反対の掌で神子都の腕を掴む。

 掌は溶岩の様に熱く燃え滾っており神龍の鱗をも熱が貫通してくる。

 

「ッ~、けど、掴んだわね」

「何する気だ?」

「こうするのよ!」

 

 神子都も負けじとフレアロフの腕を掴み返す。

 その際に”ジュッ”という肉が焼けるような音がしたがそんなのはお構いなしだ。

 

「龍水拳!」

「ぐっ!」

 

 もう片方の拳に水を纏わせ超至近距離でフレアロフに直撃させる。

 フレアロフは思わず手を放し、吹き飛ばされ壁に衝突した。

 

「…やっぱ、フューチャーやメンデルみたく少しは筋トレするべきかしら?」

「…今のは効いたぞ」

「ほんと、どんな怪力よ。私が今まで退治してきた怪人でもパワーなら上位に食い込むわ」

「鍛えてるからな」

 

 壁に激突したフレアロフが起き上がる。

 岩石で形成されている肉体が多少欠けているが、逆に言えばその程度のダメージしか与えられていない。

 そもそもの話、属性的な相性はいいが神子都はどっしり構える大型のパワー型怪人との戦闘が苦手なのだ。

 

「やっぱ遠距離攻撃の方が効きそうね。龍水砲!」

「こちらも行くぞ。火砕龍!」

 

 高圧の水と高温の土石流が押し合う。

 これによって先ほどより大きな水蒸気爆発が発生した。

 当然大量の水蒸気が発生し互いの姿が隠れる。

 

「…どこへ行った?」

「こっちよ!」

 

 神子都の声がフレアロフの横から響く。

 

「龍水機関砲!」

 

 水蒸気の向こうから龍水砲が連射される。

 その攻撃をフレアロフは溶岩の壁で防ぐ。

 連射している関係上一発一発の威力は低く壁を突破できない。

 しかし直撃したら大ダメージなことには変わりなく、フレアロフの行動を縛ることはできていた。

 

「…面倒な」

「そりゃそうなるように動いているからね」

「そうか。ならば、全体攻撃を行うだけだ。熱鬼球」

 

 フレアロフの温度がどんどん上昇していき地面が融解していく。

 これほどの温度になると水はフレアロフに到達する前に蒸発してしまうため到達しない。それどころか近づいただけで致命傷を受けかねない。

 

「そちらが出てこないのならば、俺はこのまま市街地へと向かう。そうしたらどれだけの人が死ぬだろうな。それに先ほどの様に大量の水で攻撃しようものなら発生する水蒸気爆発は今までの比ではないぞ」

「…わかったわよ。出ればいいんでしょ」

 

 水蒸気の向こうから神子都がフレアロフの前に出てくる。

 さすがに近づきすぎたら火傷の可能性があるため多少の距離はあるが。

 

「では、ここから殴り合いと行こうか」

「やるわけないでしょそんな負けるのが確定しているような勝負。…いや、ちょうどいいわね。今までどうなるかわかったもんじゃないから使ってこなかった魔法、その実験台になってもらうわ」

 

 神子都が発動しようとしている技、それは七曜の円卓第二席になった今でも完璧に制御しきれず暴走するため封印していた魔法だ。

 この技を解禁しようとした理由は先の八世通波脱走事件。

 あの事件では神子都の慢心もあったとはいえ聖魔連合側の実力が神子都に肉薄していた。八世召という妹を助ける姉という最強のブーストが掛かっていた者がいたが、そのことを加味しても由々しき事態だ。

 封印した技を使わずに失態を犯したなんてことは今後避けたい。その上、神子都に下った神託曰くこれから先悪の組織と魔法少女の戦いが激化していくとのこと。 

 そのため神子都はこの魔法を解禁することを決めた。

 

「ほう、それはどんな技だ?」

「今見せるわよ。懸り神変更、完全懸り神、加具土命!」

 

 直後、神子都の纏っていた雰囲気が変化する。

 その変化によって辺り重々しい雰囲気が充満した。

 

「ぐ…が…」

 

 神子都がうめき声をあげたのを境に、辺りの温度が上昇していく。

 その温度はフレアロフを凌ぐほどだ。

 

「ぎ…が…、…、ふむ、どうやら成功のようだな』

「…お前何者だ?」

『我か? 我は加具土命、日本最古の火の神だ』

 

 完全懸り神、その効果は己の肉体を依代に神を完全顕現させる。

 通常の懸り神とは強さが桁違いな反面コントロールが難しく、神子都は今まで完璧にコントロールできたことが無い。

 

「先ほどまで我が戦っていた魔法少女はどうした?」

『どうやら、この依代は我の神秘に耐えられる器ではなかったようだ。今は我の意識に混同されている』

 

 そして、それは今回もだ。

 完璧なコントロールとは完全懸り神を行っても意識を保つこと。神子都の意識は加具土命の意識に飲み込まれてしまった。

 

『さて、我を顕現させた理由は目の前の(あやかし)を倒すためだったな。せめてその願いは叶えてやろう』

 

 加具土命はフレアロフに指を向ける。

 

『神ノ火』

 

 そして火の玉を一つ放った。

 火の玉はゆっくりとフレアロフへ向かっていく。

 

「こんな炎、取り込んでくれるわ」

 

 フレアロフは吸収して己が力にしようと火の玉に触れる。

 

「ぬ?!」

『…あまり神を舐めるなよ』

 

 しかし、火の玉はフレアロフに吸収されることは無かった。

 それどころか、燃えているフレアロフの体が融解しだす。

 

「…ならばこうだ。溶岩円蓋」

 

 直後、フレアロフの体が流動体に変化する。

 初めから体を溶岩化しておけば融解が起こる心配は無い。

 

「溶岩龍!」

 

 溶岩化した肉体を龍の形に変化させ加具土命へ突撃する。

 フレアロフが通った後の地面は燃え上がり灰すら残っていない。

 

『何だ、この程度か?』

 

 しかし、溶岩の龍を加具土命は片手で受け止めた。

 

「っ…、まだだ! 溶岩連掌!」

 

 フレアロフが連続で拳を繰り出す。

 が、その全てが加具土命に片手で捌かれた。

 

「火炎脚!」

「む!?」

 

 しかし、フレアロフとてナイトメアグループ最高戦力としての意地あがる。

 加具土命の一瞬の隙を付き、腹に燃える足の蹴りが入った。

 蹴りを受けた加具土命は数歩後退する。

 

『…なかなかいい蹴りだったぞ』

「今ので…、この程度か」

『そう卑下するな、と言っても無理か。そうだな…、我の大技を見せてやろう』

 

 加具土命は上昇気流を生み出し夜空へと昇っていく。

 そして、天へと片手を掲げ技の準備を始めた。

 

『大技と言っても、我は生まれてすぐに殺されたからな。フレアロフ、お前に見せるのが初めてだ。光栄に思え』

 

 瞬間、夜の街が朝と間違えんばかりの光に包まれる。

 それほどの光が加具土命の生成した火球から放たれていた。

 

『さあフレアロフ、お前も構えろ』

「…わかった」

 

 フレアロフも両手を火球に向け技を構える。

 

 

 

   『行くぞ、神殺シノ業火』

   「火龍山憤激(かりゅうざんふんげき)!」

 

 

 

 ゆっくりと落下してくる火球と巨大な溶岩の龍が激突した。

 衝突したエネルギーによって微かに残っていた建物が消し飛ぶ。

 

「ぐ…、まだ、まだだ!」

『ほう、競り合うか。だが…無駄だ』

 

 火球の温度が更に上昇する。

 この温度に溶岩の龍は耐えられず瓦解していく。

 そして火球はゆっくりと、しかし確実にフレアロフに近づいていた。

 

「…ここまでか、無念」

 

 その言葉を最後にフレアロフに火球が激突する。

 

『…あっぱれだフレアロフ。その名忘れないでおいてやろう』

 

 加具土命が火球を消す。

 火球のあった場所は何も存在していなかったかのように消滅していた。

 

『さて、この後は伊邪那岐の信者どもを燃やしに…ん?』

 

 直後、神子都の肉体が一人でに動き出し首を絞める。

 

「なにしようと…してんの…」

『この依代の人格か。たしか神田神子都と言ったか』

 

 加具土命が大技を放ったことにより生じた綻びによって、僅かにだが神子都の人格が表に出てきた。

 神子都は今にも落ちそうな意識を保ち加具土命に話しかける。

 

「確かに…あなたは伊邪那岐に殺された…。けどね…関係無い人を巻き込む必要…ないでしょ」

『いいや、ある。天界では神同士の殺し合いなんてまともにできないからな。なら信者を殺すのが手っ取り早い』

「そう…。なら…、いいこと教えてあげる」

『何だ?』

「今の世の中…神様を信じてる人間なんて…殆どいないわよ」

 

 そう、今は脅威が来たとしても身近な魔法少女が助けてくれる世の中だ。

 一般人からしたら、いるかもわからない神に祈るより魔法少女に助けを求める。

 神社が神聖なものという感覚こそ残っているが、人々の神に対する信仰は殆ど無くなってしまった。

 

『…真か?』

「嘘ついて…何になるの?」

『…そうか』

「だから殺す信者なんていないわよ。…まあ、勝手に呼んだのは悪いと…思ってるわ。さすがに無礼が過ぎた」

『そう思う感情はあるのか。…お前に興味が湧いた』

 

 神に敬意を払い、それでいて舐めたような態度の人間を加具土命は見たことが無かった。

 その上、上位存在である神にとって好きなように神の力を扱え、更には地上に顕現させられる人間など興味以外の何物でもない。

 

『暫くお前の中にいる。面白い事、色々見させてもらおう』

 

 そうして加具土命は引っ込み、肉体の主導権が神子都へと戻る。

 

「はぁ~、何とかなったわね。けど、面倒な事にもなった」

『誰が面倒だと?』

「…声、聞こえるのね」

 

 神子都の頭に加具土命の声が響く。

 表に出ていないだけで、加具土命は神子都の中に存在していた。

 

『面倒だと思うなら、我を楽しませてみろ』

「はいはい。それじゃあしばらくの間、地上ライフを満喫してなさい」

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。