死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。 作:鬼獣八紅
オウル視点です。
「次の薬を配布するからゲノムプラスを配布してない残りのメンバーは並んでくれ」
本日二回目の臨床試験の薬はリミットブースター。
確か双龍会所属の上限魔法少女から抽出した薬だったはず。
「灰崎さん、この薬の想定してる効果って何?」
「リミットブースターの想定している効果は、名前通り魔法の出力上昇だな」
「ま、やっぱそうだよね」
じゃなかったら何なんだって話よ。
っと、そうこうしている内に配布が終わったみたい。
「それじゃあさっきみたく時計の長針が0になったら飲んでくれ。…今!」
そうして残りのメンバーが薬を服用する。
…やっぱりゲノムプラスの時みたいなわかりやすい変化は無いね。
まあ効果が魔法の強化だしこんなものか。
「…ライズ、鑑定結果は?」
「一応効果自体は問題なく発揮されておる。魔法を発動させてみてはどうか?」
「そうだな。じゃあ数名ずつこちらに来てもら─”ドゴンッ!!”─な、何だ?!」
「み、皆さんあっちです!」
「一体何が…はぁ!?」
民守さんの指さした方に天高く火柱が上がってる!?
というかあの辺りって患者まだいたよね?!
「急いで救助しなきゃ、
腕を伸ばして火柱の近くにいた患者を回収、そして即座に
幸い直接巻き込まれた訳じゃないからひどい火傷ではない。
直ぐに治療できたけど、本当にあの火柱なに?
「おいおい、マジであの火柱何だ?!」
「ライズ! あの火柱の発生源を鑑定してくれ!」
「どうやらリミットブースターにより強化された魔法が原因のようだ、魔法名は炎翼魔法となっておる!」
「炎翼…まさか、西祭さん!」
「民守さん待って! 近づける温度じゃない!」
茜を心配した民守さんが接近しようとするのを制止する。
さっきはまだ問題無かったが、今はもう発せられる熱気だけで火傷してしまう。
その証拠に、火柱の色が紅から蒼へ変化していた。
「で、ですが!」
「茜は炎耐性持ってるんでしょ、なら─」
「いえ、火魔法の系列の魔法を所有する者でも使用する魔法以上の熱を食らえば火傷する場合があります!」
「え、マズいじゃん! ライズ、茜は無事?!」
「一応無事だ!」
よ、良かった。無事ってことはとりあえず生きてるって事よね。
だけど、目の前の火柱が解決したわけじゃない。
「いったいどうし…ん? あれは…雲?」
何か暗いと思って上を見上げたら、さっきまで晴れていた空が雲に覆われていた。
しかも白じゃなくて黒い雲、それこそ台風の時に見るような奴。
となるとあの雲は魔法によるもの。
そして、この臨床試験で雲に関する魔法を所有しているのはただ一人。
「葵!」
「私が火柱を何とかする!」
葵が頭上でメイスを棒のように回転させると、連動して上空の黒雲も渦を巻き始めた。
そして火柱に向けメイスを振り下ろす。
「
火柱の発生源を中心に超局所的な雨が降る。
それは魔法名通り雨の滝になり、瞬く間に火柱の勢いは減少していく。
「ナイス葵、これで茜を助けられる!」
「ちょっと待てオウル、これをもってけ」
「灰崎さん、これは?」
渡されたのは小型のエピペンのような何か。
エピペンの使い方は知ってるけど、何用のエピペン?
「それには魔法を抑制する薬が入ってる。どこでもいいから血管に注入すればリミットブースターの効果を相殺できるぞ。一応東祭と救助した患者には俺が刺しとく」
「わかった」
まあ暴走時の対策してないわけないよね、灰崎さんだし。
そんなこんなで
既に火柱は消火されたから近づいても問題ない。
だけど、地面の一部が溶けちゃってる。どれだけ高温だったのよ。
「茜~! どこ~!」
「こ…こ…」
「そこね!」
微かに声が聞こえ急いで向かう。
場所は火柱の発生源のほぼ中央、そこで茜が蹲っていた。
「大丈夫…じゃないねこれ!」
体は奇跡的に傷一つないけど背中がヤバい。
火傷の症状Ⅲ度、もしくはそれ以上の状態になってる。
だけど炭化してなくてよかった。これなら
「これでよ─うわぁ!」
「ご、ごめんなさい。まだ魔法が制御できなくて」
背中の火傷を治した瞬間に再度炎が噴き出す。
間一髪躱せたけど、少しでも反応が遅れてたら直撃してた。
さっきよりは火力が下がってるからマシだけど。
「い…ま…抑えます」
そうして茜の背中の炎が消える。
気合で収まるもんなんだ、それ。
「本当に大丈夫?」
「…少し、いやかなりきついです。今もかなり無理してるので」
「わかった、じゃあこれ刺すね」
「え、ちょ、ま─」
茜が何か言おうとしてたけど、そんなの無視してエピペン擬きを首に突き刺す。
あ、実際のエピペンは太ももの前外側以外の場所に刺したらダメだよ、絶対。
「どお? 落ち着いた?」
「…落ち着いたけどねぇ、いきなり刺すのは止めてくれる?」
「それはまあ…ごめん」
いやだけどさぁ…、仕方ないじゃん。
下手に体移動させようとして魔法を暴発させるわけにもいかないし。
「ところで、何で魔法を制御できなくなったの?」
「魔力を水、魔法を蛇口と仮定して、蛇口が破壊された感覚です。恐らく灰崎研究員は蛇口を緩めようとしたのだと思いますが、蛇口が破壊されれば当然魔法の制御が利きません」
「え、ちょっと待って、じゃあ─”ドゴンッ”」
私が言葉をつづける前に、再度背後から爆発音が響く。
振り向くと、運動広場のあちこちから魔法が放たれていた。
運動広場から火柱が上がり、水が噴き出し、丘が形成され、竜巻が発生する。
うん、まさしく地獄絵図。
幸い固有持ちは茜と葵しかいないはずだから発生する事象は通常魔法の四つだけな上、同じ魔法同士である程度固まってたから被害が混同することは無い。
無いけど、マジでどう収集付けるのよ!
「灰崎さん、どうするのよこの惨状!」
茜を連れて灰崎さん達のところへ一旦戻ってくる。
運営スペースは民守さんのバリアにより被害は受けてない。
「すまん、こちらのミスだ! 一応さっきオウルに渡した薬は全員分用意してある!」
「だとしてもどうするのさ?!」
土魔法は別として、火、水、風魔法は近づくのが困難すぎる。
そもそも、100人近くいる患者全員に薬を打ち込むのはきついって。
「俺が止める! 磐石崩し!」
白夜が地面を液状化させ患者を拘束する。
だけど拘束できたのは一部だけ、大半は魔法の出力が強すぎて拘束しきれてない。
しかも風魔法を使える者は、今の技を見て空中に避難しだした。ただの魔法の暴走だけなら逃げるなんて行動取るわけないし、多分精神に何らかの影響が出てるでしょアレ。
「ちっ、避けやがった!」
「私も手伝う、誰でもいいから薬準備しといて!」
「儂がやろう、神通力で近づかずに打ち込める」
「じゃあ天魔お願い!」
そして即座に神通力で浮かんだ薬が患者へ打ち込まれていく。
これで半分くらい沈静化したかな?
時間かかりそうだったけど、これならすぐ終わりそうだね。
それにゲノムプラスを摂取した患者や薬を打ち込んだ患者たちも沈静化に加わっていくから、更に沈静化させる速度は加速する。
「これで最後じゃ」
そして、天魔が最後の患者に薬を打ち込む。
とりあえずこれで事態は収まったかな、運動広場の被害が酷すぎるけど。
なんせ、地面が液状化したり溶けたり盛り上がったりしたからね。後で整地するの大変そう。
さて…。
「灰崎さん…」
「…何だ?」
「リミットブースター今後どうする?」
試作品の臨床試験でこの惨状、実践投入する不安が多きすぎる。
まあ試作品だからってのもあるかもしれないけどさぁ。
「ぶっちゃけ私はリミットブースターの研究を凍結するべきだと思う。完成した時のメリットは計り知れないけど、完成までの被害を無視できない」
今回だけで運動広場が壊滅状態なんだよ、それも幹部数名で監修の下で行ったのに。
こんなのが臨床試験の度に起こるなんて考えたくもない。
「まあそうだな、リミットブースターの研究は趣味で行うことにする。仕事としての研究は凍結しよう」
「あ、止める気は無いのね」
「あぁ、危険だとしてもこの薬は有用だ。気長に研究してみるさ」
確かに有用だとは思う。この薬を摂取するだけで一般の戦闘員が出力だけなら幹部に並ぶんだよ。制御できるようになればどれだけの戦力強化になるか。
そういった意味では、灰崎さん個人で研究してくれるのはありがたい。完成するかしないか、どっちに転んでも連合に影響出ないし。
ま、完成したらラッキーくらいに思っておこう。
「何にせよ、しばらく経過観察だな。患者たちを整列させてくれ、記録用紙を配る」
「わかった」
とりあえず、死者が出なくてよかった…ということにしておこう。