死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。   作:鬼獣八紅

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三人称視点です。


黒翼

 

「そんなこんなで、こちらがその薬でございます」

「いや”ございます”、じゃねぇよ」

 

 レイヴンが端島へ行っている間に行われた臨床試験の概要を説明し終えたオウルが一錠の薬を差し出す。

 その薬はオウルに翼を生やした元凶、ゲノムプラスだ。

 

「まさかとは思うが、それ摂取しろとか言わないよな?」

「レイヴン、多分その通りだと思うよ」

「そう。通波の言う通り、これを持ってきた理由は兄さんに飲んでもらうためだよ」

 

 オウルはゲノムプラスを持ってレイヴンに近づく。

 当然レイヴンは後退るが、如何せん狭い部屋だ。直ぐに壁際に追い詰められる。

 

「ま、待てオウル。何で俺にその薬飲ませようとしてんだ!?」

「?、だってこれ飲めば強くなれるんだよ。強くなれば兄さんは更に死ににくくなる。私はもう嫌だよ、家族が死んじゃうのは…」

「う…」

 

 そう、オウルが薬を進めた理由は過去のトラウマからだ。

 ただでさえレイヴンは聖魔連合連合長という立場になったため、一般人で会った時より死が近い環境にいる。

 そのことが分かっているため、レイヴンは薬を断り切れない。

 

「飲めばいいんじゃないレイヴン? 話聞いた限りデメリットは無いんでしょ」

 

 通波の言う通り、ゲノムプラスを摂取することについてのデメリットは殆ど無い。

 オウルのワシミミズクの翼の様に使える部位が生えればいいが、デメリットになりうる部位が生える場合も考えられる。

 しかし、もしそうなったとしても引っ込める何なりして使わなければいいだけだ。

 

「あ~もうわかった、その薬本当に安全何だろうな? さっきの話だと結構な人数暴走したらしいじゃないか」

「大丈夫だよ。そうなったら速攻沈静化させるから」

「…マジで頼むぞ」

 

 意を決してレイヴンはゲノムプラスを飲み込む。 

 だが、すぐに変化が現れることは無くしばし沈黙が流れる。

 

「…?、オウル、レイヴン何も変化してないよ」

「おっかしいな~、私の時は予兆すぐ出たのに」

「お前だけだったんじゃないか? オウルは肉体操作できるしその影響が─すまん、影響出てきたわ」

 

 レイヴンが言い切る前に、肉体に変化が現れ始めた。

 場所は奇しくも妹であるオウルと同じ肩甲骨付近、ローブの上から確認できるほどの膨らみが形成されていく。

 しかし、少し膨れ上がっただけでそれ以上の変化は起こらない。

 

「…オウル、何か変化止まったぞ」

「あ~ちょっと待って、原因に心当たりある」

 

 そうしてオウルはレイヴンの背中に触れ魔法を発動させる。

 やる事は単純、患者に行ったように薬を馴染ませるのだ。

 オウル自身の時も、偶然とはいえ肉塊粘土(ミートクレイ)により薬を肉体に馴染ませていた。

 そして、薬が馴染んだことにより一気に変化が進む。

 

「よし、これで─”バサッ”─ぶへっ!?」

「オウル?!」

 

 オウルは薬を馴染ませるために、レイヴンの背後に立っていた。そして、薬による変化は背中で起こっている。

 後方にいたオウルはどうなるか?

 答えは、”勢いよく生えてきた部位が直撃する”だ。それも顔面に。

 

「痛ったー!」

「本当大丈夫オウル? 鼻血出てるけど」

「だ、大丈夫。それより兄さんは?!」

「問題ない。よく灰崎さん作り上げたよこんな薬。実際に体験して実感したよ」

 

 レイヴンが関心した様子で呟く。

 背中にはさっきまで見られなかった巨大な黒翼がはためいていた。

 

「その翼は…、鴉かな?」

「まあ、確証は無いがそうだろうな」

 

 活動名がオウルである黒榊環の背中にワシミミズク(フクロウ)の翼が生えたのだ。

 同じ法則性ならばレイヴンに鴉の翼が生えてきてもおかしくない。

 

「いや100パー鴉でしょ」

「まあそうだけどさぁ…、ライズに確認取るまで断定できないだろ」

「ちょっと調べてみたけど、翼が完全に真っ黒な鳥って鴉以外に数種類いるっぽいし確認取った方がいいと思うよ。ま、鴉以外だったとしてもだから何って感じだけど」

 

 実際問題、レイヴンに生えた翼が鴉の物じゃなかったとしても何ら問題ない。どんな翼であろうと、戦闘時に制空権が取れることは変わらないからだ。

 強いて問題点を上げるとするならば、活動名が(レイヴン)なのに違う翼では違和感があるというくらいである。

 

「そうだけど気にはなるだろ。ま、そういう事だからライズのとこ行ってくるわ」

「あ、私も行くよ。兄さんの翼が何なのか気になるし」

「わかった。じゃ、いってらっしゃ~い」

 

 通波に見送られ、レイヴンとオウルはワープゲートへ飛び込み研究試験所へ向かった。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「─その翼はワタリガラスの物だな」

「あ、やっぱり鴉の翼だったのね」

 

 海上研究試験場へ移動した二人は早速ライズの元へ赴き、レイヴンに生えた翼の鑑定を依頼した。

 結果は予想通り鴉─より詳しく言うと現存する鴉の中で最大種の鴉の翼だ。

 

「しかしまぁ、よく臨床試験したばかりの薬飲んだな。副作用があるかもしれんのに」

「オウルに頼まれてな。それに、何かあってもオウルが治せるだろ」

「それもそうだな。で、翼を使ってみた感想は?」

「まだ使ってねぇよ。まあ使い心地確認しないとだからこの後するが。ライズも来るか?」

「いや、それより灰崎が行った方がいいだろう。ちょっと待っておれ」

 

 ライズは館内放送で灰崎を招集する。

 すると、三人の居る部屋の外から足音が近づき灰崎が息を切らしながら入室してきた。

 

「レイヴン、あの薬飲んだのか?!」

「あ、あぁそうだが、何か問題あったのか?」

「いや問題は無い。ただ薬の成功例に興奮しているだけだ。それより早く運動広場行くぞ!」

「わ、わかったから急かすな!」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「記録準備できたぞ。始めてくれ」

「それじゃあ私が先行するから兄さんは付いてきて」

「了解」

 

 海上研究試験場から運動広場へ移動したレイヴン、オウル、灰崎の三人は早速翼の性能チェックへと移行する。

 とはいえ、始めからうまく飛べるはずが無いためオウルがアシストに入る手筈だ。

 

「確認だけど、翼自体は動かせるんだよね」

「そこは問題ない。手足の様にとはいかないが、普通に動かせる」

「よし、それじゃあまずは飛んでみよう」

 

 オウルは翼を生やし空中を飛行する。

 その翼の動きを真似るようにレイヴンは自身の翼を動かす。

 すると、少しずつではあるがレイヴンの体が上昇しだした。

 

「おぉ、ちゃんと浮けてるな。灰崎さん、記録取れてるか?」

「ちゃんと取ってるよ。そのまま続けてくれ」

「了解、このまま上昇する」

 

 レイヴンは更に翼を羽ばたかせ上昇していく。

 

「割と飛ぶこと自体は簡単なんだな」

「いや兄さんの修得速度が速いだけだと思うよ。私と違って肉体操作系の魔法じゃないでしょ」

 

 オウルは肉体粘土(ミートクレイ)で自身の肉体を髪の先まで自在に操作できる。そのため腕を変化させた時も、背中から生えた時も、修得に少し時間はかかったが問題なく扱えるようになった。

 しかし、レイヴンはそもそもの前提条件が違う。

 今まで己に存在しなかった部位を魔法などのアシスト無しで自在に操作することは容易ではない。

 

「そうか? 動かすだけなら簡単にできるし、飛ぶための動かし方はオウルが普段使いしてるから見て覚えただけだが」

「あ~確かに普段から移動に使ってるしね、それならまあ納得できるかな。それじゃあ次は移動ね、ついてきて」

 

 オウルはその場から移動し、レイヴンは後に追随する。

 二人は問題なく飛行し、運動広場を一周して初めの位置まで戻ってきた。

 

「やっぱ兄さん慣れるの早いね」

「俺が思ってたより飛ぶのが簡単だっただけだ。もっと難しいと思ってたし」

「ならこの後どうすんだ? そんなに簡単ならただ練習してるだけじゃ直ぐに意味無くなるだろ」

「そうだけどさぁ…実践できそうな予定今のとこ無いぞ」

 

 実際、聖魔連合は直近で魔法少女と戦う予定も他悪の組織に喧嘩を売る予定もない。

 実践的訓練を行えないことは無いが、ずっと同じ相手では訓練の意味が無くなる。

 

「まあ、実際に意味がなくなるまで訓練し続ければいいじゃん。私の時もそうだったし」

「う~ん、じゃあそうするか。オウル、相手してくれ」

「りょ~かい」

 

 二人は運動広場上空へ移動し向かい合う。

 そしてレイヴンはレイヴンハンド()を、オウルは血吸い桜()を構える。

 

「灰崎さん、審判お願いできる?」

「了解、その代わりデータは記録させてもらうぞ。ルールは互いに障害の残る怪我を負わせず殺さない事でいいな」

「OK、それでいこう」

 

 レイヴンとオウルは今か今かとスタートの合図を待つ。

 

「それじゃあ…、始め!」

 

 そして合図と同時に二人の訓練は開始した。

 

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