死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。 作:鬼獣八紅
八世召視点、赤川操視点です。
「…こんなもんですかね」
私が今いる場所は本部である逢魔ヶ時神社の脇道を進んだ先にある墓地、中陰霊園。
ここにはレイヴンさんが殺した者たち全員のお墓が数多くあります。
まあレイヴンさんの魔法の関係上、
「さて…、後は─」
「すいません遅れました。お待ちしましたか? 召さん」
「いえ。今作業が終わったところです、民守さん」
ちょうど、来てくれましたね。
「本日はよろしくお願いします。こういうときは、本職の方がいたほうがいいですしね」
「…先に言っておきますけど、私だって正式なシスターではありませんよ。どの宗教の教会にも所属してませんし」
「いいんですよ。見栄えの問題ですし」
「そういうものですか。そう言えば、他の方はいらしていないんですね」
「これは個人的な葬儀ですので」
今回民守さんを呼んだ理由は地下で会った二体、あのオオカミの化け物とフェルオンの元となった子供の葬儀をするためです。
その為に不格好ではありますが岩からお墓も彫りました。
まあ遺骨は無いのですが私の自己満足なので関係ありませんし、あのまま地下で誰にも気付かれずに眠るよりはいいでしょう。
「そうですか。それにしても、かなりの数のお墓ありますね」
「レイヴンさんが今まで殺してきた者たち全てのお墓だそうですよ、まあ魔法少女のお墓が一番多いですが。ざっと数えただけで50は超えてます」
別に敵のことなんて気にしなくともいいと思うんですけどね。人を殺したという意識を無くさないように作っているそうです。
しかも何が凄いって、一基も無名墓が無い事ですよ。
わざわざ口寄せ魔法で全員の名前を調べて彫ったそうです。
「なるほど…、彼ら彼女らにご冥福があらんことを…」
「…まじめですね、民守さん自身に関わりがあるわけではないのに」
「死者のご冥福を祈るのは、人にしかできない特権であり義務ですから」
「…そうですか」
では、精神が人ではなくなったらどうなるのでしょう?
「─さて、では召さんに頼まれた二名の祈りをしましょうか」
「はい、こちらです」
私が造ったお墓は中陰霊園の端の方にあります。
それと多くのお墓が日本式なのに対し、私が造ったのは壁墓です。
あの二人の宗派が何なのかは知りませんが、少なくとも仏教徒ではないだろうし、イタリアに多いものを選びました。
「お二人の名前は…、レオナルド・バーテルさんとクイント・サンティナヴィさんですか。ちなみに、どこで名前を知ったのですか?」
「魂を使った攻撃をした時に知りました」
妖魂一閃や八雲冥世斬を放った時、相手の情報が流れ込んできたんです。
ライズさんとの訓練の時はこんなこと無かったんですがね。
相手が身体弄繰り回された死人に近い存在だったからって言うのが現状一番有力ですが確証はありません。
そもそもこれが幽霊特有のものなのか、魂を知覚できる者全員に起こりうることなのかもわかりませんし。
「そうですか。それでは祈りを始めます。…一応確認しますが、堕天大聖堂で行っている方法でいいでしょうか?」
「大丈夫です。というより、私もその辺あまり詳しくないので」
「わかりました。─先人たちよ、神秘に染められた彼らに安らぎを与え、中有の道を終えるまでの加護をお与えください。そして、彼らの魂が次なる生をお受けするまでに、この奈落を安養の地にすることを誓います─」
民守さんが手を組んで祈り、それに倣って私も祈ります。
─ありがとう
─ありがとう
「…行きましたね」
お墓の周りで感じた霊圧が消えました。
それに先ほどの声、あの二体を切った時に聞こえた声と音質が同じでしたし、間違いないでしょう。
「─これにて黙祷は終わりです」
「ありがとうございます」
「…そう言えば、なぜいきなり葬儀を行おうと思ったのですか? 聞いたところ人を殺めるのは初めてではないのでしょう?」
「…過去を見たから…ですかね」
実験体を切った時に流れ込んできた実験材料となった孤児の情報、それによるとかなり悲惨な人生を送っていました。
それこそ、私たちより少しマシ…いえ、現世にいれるだけ私たちの方がよっぽど恵まれている。
「そうですか。お優しいのですね」
「優しい? 私が?」
「えぇ。人の心を失いながらも死者に対して祈れるのですから」
「!、…いったいどこでそのことを?」
「召さんの精神が人間性を失いつつあることは各トップ間で共有されましたよ」
「…まあ考えればそうですね」
その判断は合理的です。
なんせ、いつ暴走して作戦を乱すか分かったもんじゃありませんから。
連合から除名されてないだけよかったですが。
「そういえば、なぜ地下で精神が不安定になられたのですか? 私は精神攻撃を受けたとしか聞かされておりませんので、良ければ聞かせてもらえませんか? 心が楽になるかもしれませんよ」
「…敵の攻撃で悪夢を見ました。内容は通波が死ぬというものです」
「?、それでしたら私も葵さんや茜さんが死んでしまう夢を稀に見ますよ。正直、召さんにはキツイと思いますがそれだけで精神に異常をきたすとは思えませんが…」
「いえ、夢その物に問題があった訳ではありません」
そう、問題はむしろ私の方。
「ではいったい何が?」
「…泣けなかったんですよ」
「…はい?」
「泣けなかったんですよ! 夢の中とはいえ通波が死んだのに! それどころか、何も感じなかった!」
夢の中で通波が血の海に沈んだ所を見た時、始めに出た感想は怒りでも悲しみでもなく”あ、死んでる”でした。
私は絶望しましたよ、唯一の肉親が死んだのに悲しめないのかって。
「一応夢から覚めた後、通波と会って泣けたのでまだ大丈夫だとは思いますが、いつ悪夢の内容が現実になるかわかりません」
「だからお墓を…」
「えぇ。死者の冥福を祈れば、少しでも人間性を失うのを引き延ばせると思ったので」
民守さんが先ほど申していたように、死者のご冥福を祈ることは人にしかできません。
そのため、少なくとも死者に対し同情でご冥福を祈れている間は人間性を保っていられる証拠になります。
「このことを聞いても、まだ私のことを優しいといいますか?」
「…そうですね…、少なくとも、埋葬するという行為は偽善だったのでしょう」
「なら─」
「ですが、偽善だろうとやる事に意味があると私は思います。それに、人間性を保ちたいのは通波さんのためでしょう?」
「…はい」
「なら、その優しさを忘れないようにすれば、人間性を保てると思いますよ」
「…カウンセラーに向いているとよく言われません?」
ほんとこの人は聞き上手ですよ。それに他人に相談させるのがうまい。
…生前にこんな人に出会えていれば、もう少し通波にいい暮らしをさせてあげられたのでしょうか?
「?、そんなこと初めて言われました」
「向いてると思いますよ。実際、話すつもりも無かった悩みを話してしまいましたし。まあ、そのことも含めて本日はありがとうございました」
「いえ、今後とも困ったことがあれば何なりと」
そうして私たちは中陰霊園から立ち去る。
せめてあの子たちが、来世では幸福であるよう祈りながら。
◇◇◇
「赤川くん…お願い…見捨てないで…」
「あ~はいはい、見捨てないって。俺がそんなことすると思うか?」
「…ううん」
「ならそれでいいだろ。…だから一回離れてくれ」
「嫌だ」
「はぁ…」
いったいどうしてこうなった?
何か調査から戻ってきたと思ったら俺を見るなりいきなり抱き着いてきて。
おかげで訓練を中断する羽目になったんだぞ。
しかも大勢の前で抱き着きやがって、時と場所を考えろよ全く。
今は空いてる応接間に移動したからいいが、何で移動中も抱き着いてたんだよ。
「たく…いったい何があったん─あ、あいつに聞けば分かるかもな?」
えっとあいつの電話番号は…これでよし、出てくれよ…。
『はい、こちら八世通波です』
よし、出てくれた。
「通波、今ちょっと時間いいか?」
『操から通話なんて珍しいね。何があったの?』
「いや、訓練中に苗又がいきなり抱き着いてきてな。通波は一緒に調査行ってただろ、何か知らないか?」
『あ~まあ話しても大丈夫か。実は敵から精神攻撃を食らってね。その内容が連合メンバーから罵詈雑言を言われる悪夢を見るってもので、起きた瞬間に発狂までしちゃってた』
「だから俺を見た瞬間に抱き着いてきたのか」
オウルから聞いたが、以前苗又は以前所属していた組織の扱いがかなり酷かったらしい。
それが本当なら、連合に見捨てられるのは死ぬより辛いはずだ。
誰だって居場所を無くしたくはないからな。
『ひょっとしてそっちに元花いるの?』
「え、コッチにいる事把握してなかったのか?」
『情報共有終わった直後に部屋から出て行っちゃったからね。ともかく、そっちにいるなら元花のカウンセリングよろしく』
「え、は、ちょっと?!」
…あいつ電話切りやがった。
カウンセリングなんてどうすりゃいいんだよ。やり方なんて知らんぞ。
「赤川くん…」
「どうした苗又?」
「…撫でて」
「…は?」
「撫でて」
「あ、あぁ」
了承しちまったが、撫でろってどうすりゃいいんだよ。
猫撫でる感じでいいのか?
確か…背中を撫でればよかったはず。
「ふぇ~」
「どうだ、気持ちいいか?」
「うん」
何か顔が解けてように見えるがいいのか。
まあリラックスしてるしいいんだろう。
「…なあ、何で真っ先に俺の所に来たんだ?」
「…ん?」
「いや、苗又を元居た組織から救ったのってオウルだろ? なら何でオウルの方に行かなかったんだ?」
連合メンバーからの罵声って、確実にオウルやレイヴンもいただろ。
それなら、命の恩人だっていうオウルの方に行くはずだろ普通は。
なのに通波の話じゃ真っ先に俺のとこ来たって言ってたし、何でだ?
「…バカにしない?」
「いやしないぞ。する理由も無いだろ」
「…さっき通波さんから事情は聞いたでしょ、悪夢を見せられたって」
「あぁ」
「そこで私は無能だ、何で拾ったなんてこと言われてね…」
「…それで?」
「だけど特に…赤川くんにいろいろ言われたのがきつくてね…」
「うぉ!?」
いきなり首の後ろに腕回すな!
あと顔が近い!
「悪夢が現実にならないうちに…一番辛かった人から記録していこうって…思ったの」
はぁ…そんなことか。
「なら、これからもっと楽しいことしなくちゃな」
「…え?」
「そうすれば、また不安にならずにすむだろ?」
確か苗又の魔法はデータバンク魔法、あらゆることを記録できる。
それなら、辛い事だけじゃなくて楽しいことも忘れないはずだ。
「だから、これからもよろしく頼むぜ苗又」
「!、はい!」
絶対俺がそんな悲しい思いはさせない。
苗又とやりたいこと、行きたいとこ、言いたいことがまだあるからな。
…恥ずかしいから言わないけど。
「あの…その…」
「?、なんだ?」
「頭も…撫でてください」
「いいぞ」
ゆっくりと苗又の頭を撫でる。
俺は苗又の過去を又聞きでしか知らない。
俺は連合の中じゃ珍しく両親に恵まれている。
だから、苗又が見た悪夢がどれだけ辛かったのか完全には理解できない。
レイヴン曰く、似た経験をしないと完全に気持ちを理解することは難しいらしいからな。
「えへへ…」
「たく、緩み切った顔しやがって」
だけど、過去がどれだけ悲惨だったとしても、今がどれだけ幸福かはなんとなく分かる。
…元花がこの先も幸せでありますように。