死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。 作:鬼獣八紅
三人称視点です。
時は流れ、十二月三十一日、大晦日。
「それじゃあ、乾杯!」
「「かんぱ~い!!」」
「か、乾杯!」
乾杯の挨拶と共にそれぞれの飲み物を口にする。
レイヴン、オウル、白夜、民守の四人は居酒屋─
酒虫所は伊吹山で白夜がレイヴンを連れてきた居酒屋でもある。
なお、忘年会と言いつつ酒を吞んでいるのは白夜だけだ。
何せ黒榊兄妹は未成年、民守は下戸である。
「ぷはぁ~、酒が美味い!」
「おいおい吞みすぎんなよ」
「俺がこの程度で酔う訳ないだろ。それに今は忘年会だ。特に話すこともないが、楽しく飲み食いしようぜ外みたいに」
「あぁ、確かロック他有志がライブやってるんだっけ?」
「はい。皆さん楽しそうに騒いでましたよ」
「そりゃよかった。後で俺も見に行くか」
堕天大聖堂の娯楽と言えば読書や魔法の鍛錬、詳しく記載したら小説のレーティングが上がるような行為しかない。
そんな環境に置かれていた人々にとってフェスやナイトクラブのような環境は劇薬もいいところだ。
元々地上で生まれた者はともかく、地下生まれ地下育ちの者の多くが騒いでいる。
「…ところで白夜、忘年会って何すんだ?」
「今年一年を労う会らしいが、ぶっちゃけ俺たち初めて会ってから一年たってないよな」
黒榊兄妹が白夜と民守に初めて会ったのが今年八月。
一年どころか半年も経っていない。
「たしかに経ってないね。だけど気にしなくていいんじゃない?」
「確かにな。とはいえ、まずは腹減ってるから何か食おうぜ。大将、焼き鳥のもも、タレと塩を十本ずつ。それといつのの酒を一升瓶で二本追加」
「あ、じゃあ俺は唐揚げ定食で米と汁物を少な目で頼む」
「私はポテトサラダとだし巻き卵、それと枝豆で」
「私は…刺身盛り合わせ定食というものをお願いします」
「あいよ、少し待っててくれ」
大将が注文を受け調理を始める。
しばらくすると、美味しそうな匂いと共に机に料理が運ばれてきた。
「うわぁ~、すっごく美味しそう!」
「だろ。実際味も絶品だぜ」
「そうなの? それじゃあ、いただきます!」
オウルは勢いよくだし巻き卵を口に放り込む。
「!、なにこれ凄く美味しい!」
触感はとてもふわふわしており、噛むごとに出汁の味が染み出る。
普段料理しているオウルも一度だし巻き卵を作ったことがあるが、ここまで美味しくできたことはない。
「確かに美味しいですね。お刺身というのも初めて食べましたが癖になりそうです。だけど好みがわかれそうな味ですね」
「刺身というか生魚は好き嫌い分かれるからな、民守は好みだったか。たしかオウルは生魚苦手だったっけ?」
「食べられない訳じゃないんだけどね、うまく言語化できないけどなんか苦手なんだよ。焼き魚は割と好きだけど。というか白夜たちも苦手な食べ物くらいあるでしょ?」
「?、私はありませんよ?」
「あ、うん。民守さんはそうだね」
民守、というか堕天大聖堂の面々は数ヶ月前まで食料を満足に食べることのできない環境にいた。
そんな環境では、好き嫌いしている場合ではない。
そのため、基本的に民守は出された物は毒でない限りなんでも食べる。
何なら虫なんかのゲテモノも出されれば食べるだろう。
「苦手な食べ物か、俺は千切り野菜かな」
「は? レイヴンそんなのが苦手だったのか?」
「仕方ないだろ、触感が苦手なんだ。一応ドレッシングかければ食えるけどな。そう言う白夜は何か苦手な物あんのか?」
「苦手な食い物か…苦手というか弱点の食い物ならあるぞ」
「何だ?」
「いや分かるだろ、豆だよ豆。見せた方が早いな」
白夜はオウルが注文していた枝豆を一莢摘まみ手の甲に押し当てる。
すると、手の甲から焼き鏝を押し当てたような音が響く。
「…何の音ですか?」
「この音だよ」
手の甲から枝豆を離す。
触れていた箇所には枝豆型の火傷ができていた。
「ちょ、何で火傷してるの?! 直ぐに治すから動かないで!」
オウルが即座に
「ありがとな、とまあこんな感じだ」
「…あ~そういう。鬼を追い払うのは豆だからか」
「そうだ。節分でまく豆、あれマジで鬼に効くんだよ」
豆と魔滅は響きが似ている。
単純な言葉遊びだが、
「それだと普段の食生活も不便なのでは? 話を聞く限り豆アレルギーのような物なのでしょう?」
「たしかに、味噌や豆腐もダメなの?」
「いや、単に豆の形が残ってたらダメなだけで普通に食える」
「そうなのですか?」
「二人は飯の時間が違うから知らないのか。白夜って味噌汁よく飲んでるぞ」
「そうなの?」
聖魔連合の食堂では主食をパンか米から選択し、各自主菜と汁物を一つ持っていくスタイルだ。
そのため誰が何を持って行ったのかなんてよく見ないとわからない上、そもそも食べる時間が異なると確かめるすべもない。
「ウソだと思うなら度六時半ごろに食堂に来てみろ、白夜が味噌汁飲んでるとこ見れるぞ」
「う~ん、そこまでしなくてもいいかな。いつも一緒に食べてるメンバーにも悪いし」
「そうか、まあ仲良くできてそうで何よりだ」
「いやスイーツバイキング行った時に仲良くなったって話したよね」
「いや関わりあんま無いんだからその後どうなったとかのプライベートは知らないんだよ」
確かにレイヴンは聖魔連合トップだ。
しかし、だからと言って個人の関係を全て把握しているわけではない。
「…確かに」
「それに、食事の時間もあんま被んないから直接関わっているとこ見たこと無いし」
「だな。民守に至っては食堂で見たこともない」
「ちゃんと食堂で食べてますよ行くのが遅いだけで?!」
「そうなのか。いや、確かに祈りをやってるとか言ってたな」
レイヴンと白夜が食堂へ来る時間はだいたい六時半頃、オウルは六時五十分頃。
この三人は食堂の出入口でたまに会うが、民守と会うことはない。
何せ民守が来てる時間は七時半、他三人と比べるとだいぶ遅い時間に来ている。
理由は朝に祈りをささげているからだ。
そのため、どうしても朝食が遅くなる。
「そうです。まあ今となってはやらなくてもいいのですが、伝統という事もありますので」
「そういえば民守さんがやってる祈りって何に祈ってるの?」
「太陽にですね。地上にあって地下に無い物で、信仰対象になりやすかったのが太陽だったのでしょう。それに、連合へ加入するまで一度も日の光を見たことが無い方もいましたし」
「まあ地下暮らしだったからな」
「はい。なので、レイヴンさんを尊敬している方が堕天大聖堂には多いですよ」
「…やめろ。俺はそこまでできた精神してないぞ」
事実、レイヴンが堕天大聖堂を聖魔連合へ勧誘した理由は戦力目的だ。
しかし、その結果感謝している人がいるのもまた事実。
「そうだよ民守さん、兄さん身内には優しいけど他人にはあまり関わらないし。たまたまそうなっただけだよ」
「おいオウル、遠回しに俺がボッチって言いたいのか?」
「あ、自覚あったんだ」
「ふ~。おい、表出ろよ。久々に切れちまったよ」
「お、やる? やる?」
「お、お二人ともその辺で─」
「よく見ろ民守、ただのじゃれ合いだ」
言い合っているレイヴンとオウルだが、両者の間に険悪な雰囲気はない。
「へ?」
「おい黒榊兄妹、その辺にしとけ」
「「は~い」」
「たく。いつもは頼りになんのに、たまに二人して知能指数落ちるよな」
「いいじゃん。私たちまだ学生だよ、たまにはバカやりたい時だってあるよ。流石に時と場合、程度は考えるけど」
「同感だ、こんな感じでバカできるのは
「確かにな。ならもっと羽目外すか。大将、一升瓶更に三本追加!」
「もう呑み切ったのですか?!」
「ん? そうだぞ」
空になった一升瓶を指で挟み揺らす。
白夜が吞んでいた酒はアルコール度数が20%近い原酒と呼ばれる日本酒だ。
これだけの度数の酒を大量に短時間で吞んだのに急性アルコール中毒にならないのは、流石は鬼と言うべきだろう。
「ほれ白夜、追加の酒だ」
「いつもありがとな」
「…なあ大将、白夜っていつもこんなに酒呑むのか?」
「そうだ。初めて店に入って来た時は未成年じゃないかって心配したが、今じゃこうして常連になってくれてんだ。世の中何があるか分かんねぇもんだ」
「いや~あの時は酒が丁度切れててな。適当に入った店だったが、こうして今も美味い料理が食えてるって考えると、あの時酒切らしててよかったよ」
「嬉しいこと言って切れるじゃないか。それじゃ、そろそろ戻るか。貸し切りとはいえいつまでも客と話してるわけにはいかないからな」
大将は空になった一升瓶と皿を持って厨房へと戻っていく。
「初めてお会いしましたが、いい人ですね」
「あぁ、聖魔連合加入前から俺に優しくしてくれた
「?、大将以外にもいたのか、優しくしてくれた人間?」
「…あれ、俺複数形で言ったか?」
「数少ないって言い方的に一人ではないでしょ」
「おかしいな、唯一って言った気がするんだが…、アレか?」
「心当たりがあるのですか?」
「前に一週間くらい不眠不休で戦ったことがあるって言ったろ。じつはその以前の記憶が無いんだ。その失った記憶の中に優しくしてくれた人がいたのかもな」
「は?! 記憶いないのかよ!?」
「あぁ。しかも、その戦いが鬼になってから初めての戦いだったんだ。その影響か、言い方あれだが人間時代の記憶も無い」
伊吹山にいた者の大多数は、改造以前の記憶を所持している。
だが、白夜には改造された記憶も、それ以前の記憶も無い。
「それは…大丈夫なのか?」
「問題ない。既に失った記憶より長い時間生きてるからな。だが…、毎年、一番古い記憶の時期になると思うんだよ、何か大事な事を忘れているんじゃないかって」
「なら通波に脳をスキャンしてもらうか? 思い出せるかもしれないぞ」
「…いや、いい。この記憶な何百年かかっても自力で思い出さないと意味が無い気がするからな」
升に注いだ酒を口へ運ぶ。
レイヴンに言った通り、記憶を失ったのは問題ない。しかし、気になってはいる。
失った記憶のことを考えるたびに、心にぽっかりと穴が空いた感覚に陥るからだ。
聖魔連合で過ごした記憶は、新たな思い出として記憶される。
新たな記憶は心の穴に注ぐことはできても、代わりになることは無い。
「─あ~もう! せっかくの忘年会なのに辛気臭い雰囲気になっちゃったじゃん!」
「だはは、すまんすまん。この話はもうやめだ。新年迎えるのにこの雰囲気じゃダメだよな」
「それならもう雰囲気は戻ったろ。それに時計見て見ろ、もうすぐ年が明けるぞ」
「忘年会自体始めるのが遅かったですしね。あと…十秒ほどです」
民守がそう言い終わった直後、
新たな年が、始まるのだ。
「…なあ、除夜の鐘って仏教の神事じゃなかったか? 逢魔ヶ時神社って神道だろ。それに百七回鐘突いてないし」
「…もうそういう伝統ってことにしよう。それなら問題ない」
「問題は…確かになさそうですね」
「はいはいそんな考え事は後で! とりあえず、聖魔連合の新年を祝って乾杯しよ!」
「まあ…そうだな! それじゃ、飲み物構えてくれ」
四人が飲み物の入った容器を持ち、前へ出す。
「それじゃ、聖魔連合の新年を祝って、乾杯!」
「「「乾杯!!!」