死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。   作:鬼獣八紅

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 三人称視点です。


神楽舞

 

 初詣─それは、新年を迎えて初めて神社やお寺に参拝し、一年の健康や幸せを祈る日本の伝統的な風習である。

 そして、初詣を行うために新たなる(ニュー)素晴らしき世界の(ワールド・)(コア)に唯一存在する神社である逢魔ヶ時神社には大勢の聖魔連合構成員が訪れていた。

 なお、前までは本殿が存在しなかったが、新年に合わせセレネにより増築されている。

 

「結構人来てるね」

「だな」

 

 黒榊兄妹は逢魔々時神社の屋根から境内を見渡す。

 目下には多くの人々が行交い、道中にはところ狭しと屋台が並ぶ。

 

「これなら民守さんも来ればよかったのに」

「仕方ないだろ。民守さんは徹夜してたんだから」

「たしか初日の出見てたんだっけ」

「あぁ。白夜と午後から来るんじゃないか?」

 

 堕天大聖堂が信仰しているのは太陽だ。

 そんな宗教組織が初日の出なんて重要なイベントを逃すはずがない。

 当然、堕天大聖堂の面々の大半が徹夜で起き初日の出を見ていた。

 そのためか、徹夜していた者の多くが現在就寝中である。

 ちなみに白夜は普通に寝坊だ。

 

「…というか、本当にやるの?」

「やるに決まってるだろ、逢魔ヶ時の巫女様」

「だよね…、よし、やろう、神楽舞を」

 

 現在のオウルの服装は白衣に緋袴、千早を着ている。

 分かりやすく言うと神楽を舞う際の巫女服だ。

 この服装を着ている理由は逢魔ヶ時神社で神楽舞を舞うためである。

 オウルが神楽舞を担当する理由は聖魔連合トップの身内というのもあるが、一番は逢魔ヶ時の御神体が理由だ。

 逢魔ヶ時神社の御神体は本殿の後ろにそびえ立つ巨大桜(魂導月)

 そして、魂導月を生み出したのはオウルだ。

 御神体を生み出した本人こそ、逢魔ヶ時神社で神楽を舞うにふさわしい。

 

「ところで、午後…正確には正午から屋根の上(ここ)で舞うって聞いてるんだけど、演出とかってどうなってる?」

「アルに頼んで植物の演出をしてもらう予定だ。内容はこっちで合わせるからオウルは練習した通りやればいい」

 

 レイヴンが考えている演出内容は、オウルの神楽舞に合わせアルが植物を生み出し操るというものだ。

 植物操作自体はオウルにも可能だが、神楽舞をしながらだと流石に難しい。

 そのため、演出はアル、サポートはレイヴンが担当する。

 

「わかった。それじゃあ私は開始までの最終確認してくるね」

「俺もアル連れて後から行く」

「了解」

 

 オウルは屋根から飛び降り宿舎へ向かう。

 一応翼は生やしていたが、この程度の高さならオウルは着地に失敗しても死ぬことはない。

 

「さて、アルはどこだ? 確か屋台見てくるって言ってたが…いた」

 

 レイヴンは翼を生やしアルの元へと向かう。

 アル()()がいたのは屋台が並ぶ通りから少し外れた広場だ。

 レイヴンが降下するスペースは十分にある。

 

「よ、アル、菫」

「あ、レイヴン!」

「レイヴンさん、お久しぶりです」

 

 アルと一緒に回っていたのは酒井菫だ。

 二人とも、白夜が聖魔連合に加入する以前から所属している古参であり仲がいい。

 

「二人で回ってるとこ悪いな、アルに用があって来たんだが…、他メンバーどうした? 全体を見たわけじゃないが屋根の上から見つけられなかったからな。セレネが屋台の運営側に回ってるのは知ってるが」

「たしかライズさんと召さん、それと通波の三人は一緒に回るって聞いてます。灰崎さんは…こういう祭にはあまり興味が無いようでして…」

「まあ灰崎さんはな。あの人、こういう自由参加の行事より機械いじりの方が好きそうだし。それに明日の百鬼武闘大会にエントリーしてたしその調整だろ」

「え!? 灰崎って戦えるの?!」

「いや、灰崎さん本人に戦闘力はあまりない。ただパワードスーツを開発してるって聞いたからそれを使うんだろ」

 

 百鬼武闘大会は身体に身に付けられる量であれば武装の持ち込みが許可されている。

 そのため、パワードスーツを持ち込もうがルール上は問題ない。

 

「マジか~、戦いたくないよ~」

「いやまあさっきも言った通り灰崎さん自身は弱いからな。パワードスーツを壊せばいいと考えれば楽な方だろ」

「まぁ…そうですね」

「それと元花と赤川はどうした? まさか二人で屋台デートか?」

「元花は昨日から操の実家へ行ったよ。たしか、今日は操の家族と初詣行くって言ってた」

「…これは…あれか? ネットスラングで言うところの卑しいってやつか?」

「…多分?」

「…元花ぁ~自分の気持ちに素直になれよ~」

「まあ元花ですしね」

「元花だからね」

「うわぁ~ひでぇ言いぐさ」

 

 元花が赤川操に好意を寄せていることは聖魔連合内では公然の秘密と化している。

 何せ、普段から学校へ持っていく弁当を作ったり普段から一緒に行動していたりしているのだ。

 これでバレていない方がおかしい。

 しかし、これだけのことをしているのに元花は赤川へ告白的なことはしていない。

 元花は変に実行力は有るが、業務以外のことに関しては口下手であり、ヘタレなのだ。

 

「それよりレイヴンさん、アルに何か用があったんじゃないんですか?」

「あ、そうだったな。アル、これから神楽舞の合わせするから来てくれんか?」

「!、オウル様の神楽舞! 見学してもいいでしょうか?!」

「菫も来るか?」

「ぜひ!」

 

 菫は拾われた一件から、オウルへ心酔と言っていいレベルの忠誠心を向けている。

 そんな相手の本番前の練習風景を特等席で見られるのだ。

 菫が食いつかないわけが無い。

 

「わかった。それじゃあ行くぞ」

 

 レイヴンはワープゲートを展開し宿舎へ繋ぐ。

 

「オウル、連れてきたぞ」

「お、やっと来たね。菫は見学かな?」

「はい! 見学しててもいいでしょうか?!」

「いいよ。それじゃあアル、合わせしようか」

「わかった!」

 

 そうして、オウルは神楽舞にアルの演出を合わせる最終練習を始める。

 互いに時間を見つけ練習していたので、通し練習でも問題なく神楽舞を完遂した。

 

「よし。兄さん、菫、見てた感じ修正した方がいい箇所とかあった?」

「いや、修正箇所は無かった。二人とも、本番にもこれが出来れば完璧だろ」

「素晴らしかったですオウル様!」

「なら本番まで少し休憩しようか」

「そうだな。ちょっと待ってろ、屋台で昼飯買ってくる」

「お願い」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 そして少し早めの昼食を済ませ、現在時刻は午前十一時五十八分。

 

「兄さん。そろそろだね」

「あぁ。まああんま緊張するなよ。適度な緊張はパフォーマンスに重要だが、過剰な場合は低下につながる」

「分かってるって」

 

 オウルは現在、本殿上空を飛行している。

 十二時になったら本殿の屋根に降下する手筈だ。

 

「アル、そろそろ準備しとけ。菫はせっかくの特等席だ、楽しんでけよ」

「了解」

「はい! しっかりこの目に焼き付けます!」

 

 現在三人がいるのは異空間倉庫内部。

 倉庫の入口を本堂の真正面に開くことで神楽舞をよく見ることができる。

 なお、横から見ると入口はとても薄いためわかりずらく、真後ろからだと全く見えない壁になっいる構造だ。

 そのため観客の邪魔になる心配は無い。

 

「…オウル十秒前」

「了解!」

「…五…四…三…二…今!」

 

 

 

   チリン…

 

 

 

 境内に神楽鈴の音が響く。

 その音と共に境内にいた人々は静まり返る。

 

「よし、事前に告知してただけあって掴みは上々。後は練習した通りにやればいい」

 

 オウルはそのまま逢魔ヶ時の屋根に降り立つ。

 

 

 

   チリン…

 

 

 

 再度神楽鈴の音を鳴らし、神楽を舞い始める。

 演奏は無いが、オウルが翼を生やしながら舞っていることもあり神秘的だ。

 

「…すごい」

「これからもっとすごくなるぞ。練習じゃスペース的にできなかったからな。アル、準備」

「了解!」

 

 アルが逢魔ヶ時神社の本殿の四隅に腕と蔦を向ける。

 そして、オウルが本殿の四隅の一か所に腕を降ろす。

 

「今!」

 

 それに合わせアルが魔法を発動させる。

 すると、腕を降ろした先から桜の樹木が育ち満開の花を咲かせた。

 

「ナイスだアル。残りも続けろ」

「わかった!」

 

 続けてオウルの腕が降ろされた先に花を探せていく。

 桜の次は向日葵、その次はコスモス、更にその次は梅の花だ。

 なお向日葵とコスモスは草本植物のため、桜や梅のような木本植物のサイズまで巨大化させている。

 

「後は花びらをオウルの腕の動きに合わせて適量飛ばしてくれ」

「わかったけど、量の判断は手伝ってね。その辺はあまりわからないから」

「それくらいは手伝うって。ま、しばらくはオウルの神楽舞を鑑賞しようぜ」

「…あの、レイヴンさん。今回の神楽舞って演奏無いんですよね」

「そうだが…どうした?」

「誰か演奏してません?」

「は? そんな訳…」

 

 レイヴンは耳を澄まし菫が聞いていたという演奏の音を探す。 

 すると、確かに笛や太鼓、手打鉦の音が響いていた。

 

「確かに誰か演奏してるね。レイヴン、これってサプライズか何か?」

「いや俺は知らねぇ! 何だよこの突然のホラー展開!」

 

 この演奏にレイヴンは一切関与していない。

 そもそも、今回の神楽舞を披露するに当たって関与しているのはレイヴン、オウル、アル、そして祭の運営委員会だけだ。

 そして、神楽舞の内容はレイヴン、オウル、アルしか知らない。

 それなのに、オウルの神楽舞に演奏がしっかり合致していた。

 

「きっとオウル様の奇跡ですよ! オウル様ならこれくらいできますって!」

「いやだとしても…ダメだ分からん! アル! いったん演出を続けるぞ!」

「わ、わかった!」

 

 アルがオウルの腕の動きに合わせ花びらを動かす。

 しかし、トラブルは演奏だけではとどまらない。

 

「ん? おいアル、何で魂導月の花びらが舞ってんだ?」

「え? 魂導月はアルいじってないよ」

「…はぁ?!」

 

 魂導月の花びらが大量に舞い降り、オウルの周りを彩る。

 通常、魂導月の桜の花は散る事こそあるがこれ程の量が一度に散ることはない。

 

「えっと…どうする?」

「…とりあえず神楽舞を止めるわけにはいかない。どうせもうすぐ神楽舞は終了する。その後オウルに問い詰めるぞ。アル、最後は指示出せねえからタイミングは俺の行動を見て判断してくれ」

「了解!」

 

 そうして、オウルの姿が魂導月の花びらによって隠されていく。

 

「今だ、ワープゲート!」

「花吹雪!」

 

 レイヴンがワープゲートを展開し、花びらの中にいたオウルを異空間倉庫内へ引きずり込む。

 それと同時にアルが四方の花をそれぞれの花びらへ変化させ消滅させた。

 

「菫、外の様子は?」

「大盛況ですよ! 拍手喝采の大成功です!」

「良かった~練習した甲斐があったよ」

「ほんとにな。さてオウル、色々聞きたいんだが…オウル? お~い大丈夫か?」

「…はっ、ご、ごめん。ちょっとぼ~としてた」

 

 レイヴンが肩を揺らしたことでオウルの少し濁っていた瞳が元に戻る。

 しかし、瞳の濁りは微小だったこともあり誰も気付かなかった。

 

「オウル様! 神楽舞最高でした!」

「あ、う、うん、菫ありがとう」

「?、どうしましたオウル様?」

「いや~、実は神楽舞やってる間の記憶がぼやけてるんだよね。完全に記憶が無いって訳じゃないけど、よく思い出さないといけない感じ」

「え、じゃあ演奏の音とか聞こえなかったの?」

「え、演奏とかあったの?」

 

 オウルの発言に場が静まり返る。

 演奏の音量はかなりのもので、離れていた観客にも聞こえていた。

 それなのに、舞っていた本人が一切聞こえてないというのはおかしい。

 

「…この話はライズに持っていこう」

「いやほんと何があったの?!」

「オウル様、ホラー案件なので聞かない方がいいかと」

「わ、わかった」

「ともかく、この話は他言無用、いいな!」

 

 こうして、神楽舞は無事に成功した。

 …少しの謎を残して。

 

 

 

 

 

 

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