死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。 作:鬼獣八紅
三人称視点です。
元日から一夜明け、新設されたコロシアム─アークコロシアムには大勢の観客が押し寄せていた。
『さあ! これより始まるは百鬼武闘大会! 新年始めに幹部たちの血で血を洗う戦闘祭りよ! 司会進行は私、八世通波!』
『審判は儂、天魔でお送りする』
コロシアムに通波と天魔のアナウンスが流れ、観客のボルテージが更に上がっていく。
なにせ、百鬼武闘大会は年に一度のお祭りだ。
聖魔連合に所属しているほぼ全ての構成員が戦いを観戦しに訪れている。
『さて、さっそくルールとトーナメント表を発表するわ!』
通波の言葉と共に、アークコロシアムのスクリーンにルールとトーナメント表が表示された。
◇◇◇
《百鬼武闘大会ルール》
・戦闘は中央のバトルエリアで行う
・試合形式は一対一のトーナメント
・勝敗は相手の降参、戦闘不可の重症、回復魔法陣の発動、バトルエリアを囲う水路への頭部の着水をもって決まる
・アークコロシアムの外壁を超える高さの高度を飛行してはならない
・バトルエリア外を、壁走りや飛行によって移動してもよいが、十秒以内にバトルエリア上空へ片足でも戻ること。なお、両者ともに飛行できる場合はその限りではない
・丸呑みなどの相手を消滅させるような攻撃の禁止
・自身のみが入れる無敵エリアのような場所での十秒以上の芋り行為の禁止
・身体に身に付けられる程度の武装を許可する
・対戦者の魔法や身体的特徴によって試合が成り立たないと運営委員会が判断した場合、追加で制約を設ける
・審判の言うことは絶対
◇◇◇
《トーナメント表》
〇Aブロック
・葉月 VS ロック
・西祭茜 VS ミヤ
・酒井菫 VS オロチ
・灰崎京也 VS アギト
〇Bブロック
・アル VS 東祭葵
・ブラッド VS 河原
・八世召 VS 九縄
・キャットガール VS 裂
◇◇◇
『なお、戦闘のダメージはセイ率いる保健部がスタンバイしている上、観客席へ攻撃が飛来したとしても、セレネとライズが受け止めるので安心してください!』
出場メンバーの魔法によっては観客席へ攻撃が届きうる。
その対策のため、セレネとライズは今回の参加を見送った。
『さあ、ここで鬼頭白夜さんに一言いただきましょう! 白夜さん、お願いします!』
『あぁ』
白夜は通波からマイクを受け取る。
『お前ら! どうせ長ったらしい前口上なんていらねぇだろ!? 何せ、年に一度のお祭りだ! それじゃあ、百鬼武闘大会、開催だ!』
『『『『『うおおおぉぉぉ!!!!!』』』』』
◇◇◇
『さて、白夜さんさんから一言貰ったところで、早速第一試合行くわよ!』
通波の掛け声とともにバトルエリアへ向け橋が伸びていく。
そして、第一試合の二名がバトルエリアへと上がる。
『東コーナー、保育施設伊吹園園長! 子供たちにいいとこ見せられるか、葉月! 西コーナー、大晦日の演奏最高だったよ! 聖魔連合で数少ないエンターテイナー、ロック!』
「久々だな、お前と戦うの。いったいいつぶりだ?」
「さぁ。少なくともここ五年は戦ってないわね」
『今回の戦いに当たって葉月には一つ制約を設けています。葉月、把握してるよね?』
「わかってるわ。私が巨大化した際の場外判定の緩和よね」
葉月に掛けられた制約。それは、巨大化した際は頭部以外が着水しても場外判定になるというもの。
何せ葉月の素の身長は
これだけの身長になってしまえば実質的に頭部の着水は不可能だ。
何せ周りの水路の水深は5メートルほどしかなく、巨大化した葉月の膝くらいまでしかない。
『分かってるならよい。それでは両者、そろそろ準備はいいか?』
「問題ないわ天魔」
「俺もだ」
バトルエリアにいる両者ともに構える。
『それでは…始め!』
「ギガントロックフィスト!」
「巨人の拳!」
天魔の試合開始の合図と共にロックは岩の拳を生成し、葉月は腕のみを巨大化させぶつけ合う。
「っ、やっぱパワーは葉月の方が上か!」
拳同士の打ち合いは僅かに肉の拳に軍配が上がった。
現に葉月は岩の拳を砕きながらロックへ近づいている。
「このまま押し切るわよ!」
「させるわけねぇだろ! ロッキーウォール!」
ロックが地面から岩壁を生成し姿を隠す。
「こんな壁、私からしたら豆腐…あら?」
葉月は岩壁を破壊し突撃するが、壁の向こうには既にロックの姿は無い。
代わりにあるのは人二人通れるくらいのサイズの穴と、大量のゴーレムだ。
「なるほど、これが修得したって言う魔法ね」
葉月は腕でゴーレムを薙ぎ払う。
百鬼武闘大会に向け幹部たちだって何もしなかったわけじゃない。
レイヴンたちが魔法を習得しようとしていたように、幹部たちも魔法の修得に励んでいた。
当然全員が修得できたわけじゃないが、派生固有魔法を所持している者や、改造のモチーフにされた種族にゆかりのある属性が四属性魔法にある者は魔法を習得している。
そして、ロックが修得した魔法は土魔法だ。
「耐久は岩石ほどじゃないわね。素材は土かしら?」
「正解だ葉月!」
「!?」
突如、バトルエリアが黒く覆われる。
上空を見上げると、直径五十メートルはあろうかという要石が浮遊していた。
その脇には小さな要石に乗ったロックが飛行している。
「流石の葉月も、これだけの質量には耐えられないだろ! キーストーンプレス!」
上空の要石が葉月目掛け降下していく。
確かにパワー自慢の葉月と言えど、十五万トン近い重さの岩石で押しつぶされればひとたまりもない。
「なら、私も新たな力を見せるまでよ」
しかし、それは葉月が強化されていなかったらの話だ。
「八十尺様!』
葉月は魔法を発動させ、腕のみならず全身を巨大化させる。
そして、額からは二本の湾曲した角が生えた。
『
巨大化した勢いそのままに要石と角がぶつかり合う。
すると、要石の方に罅が入りはじめ、綺麗に真っ二つに破壊された。
「ちっ、これがゲノムプラスで得た新たな力か!」
『さっきの言葉そのまま返すわ、正解よ!』
「あっぶね!」
振るわれた巨腕をロックはすれすれの所で躱す。
葉月がゲノムプラスを摂取したことで得た能力は、カモシカの角、それと身体機能だ。
外見的変化は角以外ないが、内側はそれなりに変化している。
特に顕著なのは筋力だ。ゲノムプラスを摂取する前と後ではパワーが倍ほど違う。
「空中は危険だ、いったん避難する!」
『させるとでも?!』
「ぐっ!?」
再度地面へ潜ろうと落下したロックを葉月は空中で掴む。
ロックの身体は岩石でできておりかなり重いが、巨大化した葉月にとっては大した重さではない。
そして、葉月はロックを掴んでいる腕を野球の投球フォームの様に振りかぶった。
『このまま場外へ投げてあげる!』
「…ば~か」
『?!、掌から!?』
葉月の腕が上へあがり切ったタイミングで、ロックはゲノムプラスを摂取したことで得た身体変化を発動し改造前の姿へと変化する。
ゴーレムの姿と改造前の姿とでは、当然改造前の姿の方が横幅は細い。
そのサイズ差を利用することで葉月の掌から脱出した。
『地面に潜る前にもう一度─』
「させるわけないだろ! ダイアモンドダスト!」
『きゃ?!』
ロックの掌から発射された無数のダイアモンドのきらめきに驚いた葉月は咄嗟に目を閉じる。
その隙にロックは再度地中へと潜っていった。
『…よくもやってくれましたね。巨震脚!』
葉月は足を上げ、勢いよくバトルエリアを踏みつける。
それによって生じた衝撃はバトルエリアの一部を割り、隙間に周りの水路の水が流れ込む。
しかし、これだけの衝撃が起きたというのにロックは地表に現れない。
『くっ、とっとと出て来なさい!』
「そんなに言うならお望み通り出てきてやるよ! ただし、お前を倒す準備を整えた上でな!」
その言葉と共にロックが葉月の背後の地中から飛び出す。
そしてロックに続くように、背後から宝石で形成されたドラゴンが現れる。
「ジャイアント・コランダム・ファフニール、初めてのお披露目だがどうだ?」
『月並みの感想だけど、綺麗ね。これから砕いてリングストーンにしてあげる!』
「やれるもんならやってみろ!」
葉月の拳と宝石のドラゴンがぶつかり合う。
『痛っ!』
「今回は俺の勝ちみたいだな!」
先ほどの葉月の拳とロックの岩石との勝負は葉月に軍配が上がった。
しかし、今回はロックのドラゴンに軍配が上がったようだ。
葉月の右拳からは血が流れ、指の骨が何本か逝ったのか黒く変色している。
何せジャイアント・コランダム・ファフニールの材質は名前の通りコランダム─ルビー・サファイアと言った宝石の成分と同じ物だ。
このコランダム、宝石の中ではダイヤモンドの次に固いモース硬度9を誇る。
いくら葉月の拳が岩石の壁を壊せるほどのパワーを出せるとしても、流石に宝石には及ばない。
「このまま押し出してやる!」
ジャイアント・コランダム・ファフニールが葉月の腹に突っ込む。
維持するだけでかなりの魔力と体力を持っていかれる技だが、この試合が決着するまでは持続させられる上、次の試合までにはリキャストタイムが明けると判断し全力で押し出しにかかる。
『この!』
当然葉月も無抵抗ではない。
しかし先ほど右拳が砕かれた影響でうまく力が入らず、徐々に場外へ近づいてゆく。
「もう少しだ!」
『そう…ね!』
「なっ?!」
突如、葉月の姿が縮む。
押し合っていた対象が突如として消滅したジャイアント・コランダム・ファフニールは突然のことに対応できず、水路の壁へと突っ込んだ。
「大きな一歩!」
縮んだ葉月は即座に右足を一秒だけ巨大化させる。
右足の巨大化によって押し出された身体は勢いよくロックへと突っ込んでいく。
ロックの方はというと、ジャイアント・コランダム・ファフニールの後隙により葉月に反応できていない。
「─私の勝ちね」
一気に距離を詰めた葉月がロックの腹に左腕を押し当てる。
「!、てめ─」
「
そして、押し当てた左腕を勢いよく巨大化させた。
この衝撃は凄まじく、いくら改造前の姿となり軽くなっていたとはいえ成人男性くらいの体重はあるロックをやすやすと弾き飛ばす。
ロックは空中をゆっくりとだが移動する術を持っている。が、それは事前準備ありきだ。
吹っ飛ばされた後ではどうしようもない。
「─ゴハッ!」
弾き飛ばされたロックはバトルエリアを囲う壁に衝突する。
そして、そのまま水路へと落下していった。
『そこまで! 勝者、葉月!』
『『『うぉぉぉ!!!!』』』
コロシアム内に歓声が響き渡る。
「こういう時は…、こうするといいのよね」
その歓声に呼応するように、葉月は左腕を掲げた。