死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。   作:鬼獣八紅

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 三人称視点です。


百鬼武闘大会 ─ ドラッグ&スネーク

 

 

『第二試合が速攻で終わっちゃったから、休憩なしで第三試合行くよ!』

 

 ミヤと茜がバトルエリアから退場し、次の二人が入場してくる。

 

『東コーナー、連合の敵は全て殺し尽くす殺戮兵器! リーパードライフラワー、酒井菫! バーサス! 西コーナー、前年百鬼武闘大会優勝者! 伊吹山組最強の武人、オロチ!』

「え? オロチさんって前年大会優勝者なんですか?」

「まあな」

 

 まだ伊吹山の面々が聖魔連合へ加入する以前に開催された百鬼武闘大会、その決勝はオロチと裂のマッチアップだった。

 そして、その戦いを制しオロチは優勝している。

 

「言っとくが、俺は女だからって手加減しねぇぞ。持論だが、幹部レベルの強さになると男も女もどこかしらイカれていることが多いからな。舐めてるとこっちがやられる」

「…私の何がイカれていると?」

「忠誠心」

 

 菫のイカれている点。それはオウルへの忠誠心だ。

 それこそ、オウルに”死んで来い”と言われればマジで死にに行く。

 普通の人はたとへ尊敬する人であっても”死ね”と言われて死ぬ人はいない。…多分。

 

「はっ? それはオロチさんもでしょ」

「俺は死ににはいかねぇよ!」

 

 なお、オロチも白夜にかなりの忠誠心を向けている。

 だが、菫は”命を捨てられる”なのに対し、オロチは”命を懸けられる”だ。

 この違いは大きい。

 

「まあいい。お~い通波、俺確か制約掛けられてたよな?」

『そう、今回オロチには制約が掛かってるわ! 内容は葉月と同じね』

 

 オロチの魔法は大蛇化魔法。

 魔法名通り全長約百メートルの大蛇に変身するというものであり、葉月の巨大化魔法と似た効果を持つ。

 そのため葉月同様、大蛇化した際は頭部以外が着水しても場外判定になるという制約が課されている。

 

『さて、二人ともそろそろ良いか?』

「問題無いぞ天魔」

「私もです」

『ならば両者準備を!』

 

 その言葉と共に両者それぞれ武器(大鎌)と拳を構え、攻撃態勢に入った。

 

『それでは…始め!』

「アシッドショット!」

 

 その合図と同時に菫が毒を発射する。

 弾速こそ遅いが数は多く、オロチの前に弾幕が貼られた。

 

鱗屑鎧(りんせつがい)! 俺に毒はあまり効かねぇぞ!」

 

 目の前の毒の弾幕にオロチが取った行動は正面突破。

 腕に蛇の鱗を纏い突撃する。

 オロチは大蛇化してなくとも身体に蛇の特徴を有しているのだ。

 そのため毒は効きづらい。

 

 《ジュッ》

 

「!?」

 

 しかし、毒弾の当たった鱗の鎧はまるで意味がないとばかりに溶かされる。

 幸い鱗は身体から独立したパーツだったため直接的にオロチへのダメージは無い。

 だが、オロチが突撃を止めるには十分な理由だ。

 

「菫…魔法を拡張させたのか」

「正解、酸だって広義的に見れば毒だよ」

 

 発射された毒はフッ化水素酸。ガラスや骨まで溶かす強力な酸であり、皮膚に触れると深部まで浸透しカルシウムを奪って致命的な中毒を起こす。

 毒とは人体に有害な物質を指す言葉だ。

 菫の毒魔法ならば、酸を操れない道理はない。

 

「どんどん行くわよ!」

「っ、鱗屑弾!」

 

 待つ必要は無いとばかりに弾幕の密度を上げる。

 それに対し、オロチも鱗の弾幕を張り打ち消す。

 しかし、オロチの飛ばしている鱗は独立しているとはいえ身体から生成している。

 そのためこのまま打ち合えば先に限界が来るのはオロチだ。

 

「このままじゃマズいな…近づくか」

 

 この膠着状態を動かすべく、オロチが菫へ距離を詰める。

 そもそも、オロチの戦闘スタイルは接近戦だ。

 わざわざ弾幕の打ち合いに付き合う必要は無い。

 弾幕の僅かな隙間に体を蛇のように捻じ込み突き進む。

 

「お前は確か接近戦苦手だったよな! 蛇鞭(じゃへん)!」

「アシッドスケート!」

 

 鞭のように振るわれたオロチの腕は正確に菫の脇腹を捉える。

 しかし足から酸を出していたことで地面との摩擦が無くなり、滑るように後ろへ弾き飛ばされた。

 そのまま菫はスケートの様に地面を滑りながらオロチへと向かっていく。

 

「ベノムインジェクション!」

 

 滑ったことで得た運動エネルギーを乗せ自身の変身アイテム兼武器である大鎌─ベノムリーパーをオロチ目掛け振るう。

 

「食らうか、鱗屑鎧・重!」

 

 何度も言うがオロチは毒が効かないのではなく、効きづらいだけだ。

 毒を直接注入されればただでは済まない。

 そのため鱗を何十にも重ねることで受け止める。

 

「っ、やっぱり固い!」

「…お前、やっぱパワー無いだろ。全然貫通してねぇ」

 

 勢いよく振り抜かれたベノムリーパーは鱗屑鎧を数枚貫いた所で止まっていた。

 

「仕方ないでしょ! 太れないんだから!」

 

 ベノムリーパーを引き抜き後方へと飛び退く。

 菫は体質的に太れない。

 虐待などのストレスから太れない体質になることがあるので始めはそのうち改善するだろうと思われていたが、いくら食生活などの生活習慣を改善しても菫は太らなかった。

 普通の女子からしたら羨ましすぎて血の涙が流れるかもだが、菫からしたら大問題である。

 何せ、虐待時代の影響で肋骨(あばらぼね)が浮かび上がるほどに瘦せているのにこれ以上太れないのだ。

 つまり、筋肉も体力も付かない。

 これは戦いにおいて致命的だ。

 

「なら技術を身に付けろ! 蛇鞭・連!」

「!、鎌…がっ!」

 

 現に、オロチの連撃を受け止めようとしたベノムクーパーは簡単に弾かれモロに攻撃を食らう。

 武器を使っていたのに競り合いすら発生しなかった。

 

「もう立てないだろ。降参しろ」

「はぁ…はぁ…誰が…するものか」

 

 オロチの猛攻を受け菫が膝をつく。

 既に菫の体力は限界に達している。

 魔力自体はまだ残っているが魔法の発動にも体力を使う、後一回が限度だろう。

 

「…ベノムインジェクション!」

「おっと危ない」

 

 最後の力を振り絞ってベノムリーパーを振るうが簡単に躱される。

 

「ありがとう…躱してくれて」

 

 そして、振るわれたベノムリーパーは菫の脇腹に突き刺さった。

 

「なっ!? お前何してんだ?!」

「これで…まだ戦える。ドラッグブースト!」

 

 突き刺さったベノムリーパーから菫に毒が注入される。

 直後、菫の皮膚に血管が浮かび上がり目が血走っていく。

 菫は別に毒が効かない訳ではない。

 毒を食らった直後に無意識に分解しているだけで、意識して分解しないようにすれば身体に効果が表れる。

 

「まさかお前…薬物を…」

「正…解!」

「危ね!」

 

 オロチは振り下ろされたベノムリーパーを間一髪のところで躱す。

 攻撃対象を失ったベノムリーパーはバトルエリアへ深々と突き刺さる。

 

「威力がさっきの比じゃねぇ!」

「あは♪ これならまだ…勝ち目は─」

 

 菫が自身に打ち込んだ()はエフェドリン、カフェイン、コカイン、β2刺激薬、覚醒剤、その他諸々の違法薬物やドーピング剤の混合物だ。

 その効果は凄まじく、身体機能が大幅に向上している。

 

「─ある!」

「っ、その技、反動ヤバいだろ」

 

 連続して振るわれるベノムリーパーを回避していく。

 菫の結膜は既に赤く染めあがり目の焦点が合っておらず、脇腹の傷や腕の毛細血管から血液が止めどなく流れている。

 身体は既に死に体だ。

 

「そんなこと関係ある?!」

 

 しかし、菫の瞳に宿る闘志は未だ燃えている。

 ベノムリーパーを振り回し、オロチの命を刈り取らんと攻撃を繰り返す。

 

「…そうだな。なら、とっとと決着と行こうか!」

 

 オロチはベノムリーパーの動きをよく観察する。

 ドラッグブースト状態の菫はパワー、スピードともに高い。

 しかし、動きの精度が明らかに落ちている。

 それこそ、今の菫の動きは素人がナイフを振り回している異世界転生物一話目に出てくる通り魔と同程度だ。

 確かに一般人(主人公)を殺す程度なら十分だが、相手が武人(オロチ)なら無謀と言っていい。

 

「当たれ当たれ当たれ当たれ!!」

「はぁ…無駄に振るっても当たるわけないだろっ、刃破崩(ははほう)

「なっ?!」

 

 ベノムリーパーの側面に裏拳を素早く当てることで刃物部分が破壊される。

 ただでさえ重い大鎌を少女()が振り回していたのだ。

 突然重さと重心が変わったことでバランスを崩す。 

 

「いったん戻さないと!」

 

 武器が変身アイテムと兼任している場合、一度引っ込めれば修復される。

 そのため菫は折れてしまったベノムリーパーを引っ込めた。

 

「そんな暇は与えねぇ」

 

 しかし、引っ込めてから再度取り出すまでには少々タイムラグが存在する。

 当然その隙を見逃すオロチではない。

 

「ベノ─」

「おせぇ、八岐流燗(やまたりゅうかん)猟蛇川(りょうだせん)!」

 

 菫もベノムリーパーで防ごうとするが、それより早くオロチの拳が菫の腹を貫く。

 

「ぐはっ!」

「…これで終わ─ん?」

 

 オロチは貫いた腕を抜こうとするが、なかなか抜けない。

 それどころか、菫から流れた血液がだんだんと硬質化していく。

 

「逃がさ…ない…」

 

 菫がしたことは単純、血液を鉛合金化することで固めたのだ。

 鉛は毒性が強い。

 そのため菫の毒魔法でも生成、並びに操作が可能だ。

 

「道連れよ…ベノムスモッグ!」

 

 直後、菫の身体から毒々しい色の煙が噴出する。

 この煙は毒ガスだ。それも国際条約で禁止されるレベルの強力な物である。

 吸引したらさすがのオロチもただでは済まない。

 

「っ、いったん離れるか!」

「ごはっ! …私がくたばる前に…くたばって…」

 

 オロチが菫の腹から腕を無理やり引き抜きその場を離れる。

 既にあたり一面紫の煙で覆われており視界が悪い。

 そのため菫ができることは、先にオロチがくたばるのを祈るだけだ。

 

『─惜しかったな』

 

 しかし、その祈りは届かない。

 毒ガスの先から姿を現したのは大蛇化したオロチだ。

 ただでは済まないのはあくまで人状態で吸引すればの話、大蛇化すれば巨体に合わせ当然致死量が増え耐えられる。

 

「はは…私の負け…か」

 

 そうして菫は眠るように死亡した。

 しかし、直後に回復魔方陣が起動し菫の身体を修復していく。

 菫の意識は戻っていないが、心音と呼吸が戻り蘇生が完了した。

 

『酒井菫に対して回復魔方陣の発動を確認。よって勝者、オロチ!』

 

 決着がついたことで、アークコロシアムに歓声が響く。

 それに合わせ、オロチは大蛇化を解き元の姿へと戻る。

 

「たく、お前はオウルに命拾われたんだろ。何で死にに行くような戦い方したんだか。ま、今度稽古つけてやるか」

 

 そうして、オロチは未だ意識の戻らない菫を担ぎながらバトルエリアを後にした。

 

 

 

 

 

 

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