死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。 作:鬼獣八紅
三人称視点です。
『さあ、Aグループの試合も終わったことだし、続いてBグループの試合開始よ!』
Bグループ第一試合のアナウンスが流れ、第一試合の選手が入場してくる。
『まずは東コーナー! 聖魔連合の食料事情の大半を支えている農業部の部長! 全員いっぺん感謝しときなさい! 暴食のアルラウネ、アル!』
「よ~し、張り切って行こう!」
一人目は聖魔連合結成時からの構成員、アル。
実のところ、聖魔連合の野菜や果物と言った植物由来の食材の大半はアルが生産している。
約1500人いる構成員の腹を毎日満たしている縁の下の力持ちだ。
『そして西コーナー! 堕天大聖堂副官が一人! 魔法は基本サポートの肉体派! 豪雨の戦士、東祭葵!』
「こっちだって、食材については感謝してるけど負けるつもりはないわよ!」
対するは、ほぼ魔法を使わずに副官まで上り詰めた実力者、東祭葵。
自身が愛用する変身アイテム兼愛棍─ウェザー・オブザーブで訓練相手を訓練場の土に沈めてきた。
実際、単純なパワーだけで言えば堕天大聖堂どころか聖魔連合を含めても上位に食い込む。
「ありがとう! アルが育てた野菜美味しかった?」
「めっちゃ美味しかったわよ。おかげ様で筋力も付いたし」
「おぉ~」
葵は修道服の袖をめくり力こぶを作って見せる。
何せ地下では碌な食材が取れず、日々の食事はジャガイモなどのイモ類が主食だった。
そのため堕天大聖堂の面々は聖魔連合加入以前は菫ほどではないにしろ軽い栄養失調であった者が大半を占める。
しかし聖魔連合へ加入して以降、しっかりとした栄養を摂取したことで栄養失調が回復、身体が正常に戻り身体機能がメキメキと向上したのだ。
なお、菫に関しては栄養失調状態でも筋力は聖魔連合内の中堅くらいはあった。
「さて、じゃあさっさと始めましょうか」
「だね~」
二人はいつでも戦闘を始められるよう構える。
『両者ともに準備はいいな? それでは試合…始め!』
「根張り!
開始早々アルは地面に根を生やし3メートルほどに巨大化する。
本来のアルの身長は30センチメートル前後、このサイズではウェザー・オブザーブが直撃したらひとたまりもない。
その上葵の魔法は雨雲魔法、天候を操作できるため上空へ逃げることも不可能だ。
そのためアルは今回の試合、直撃しても問題ないサイズになった上でその場から動く気は無い。
『ルートウェーブ!』
バトルエリアの至る所から根が飛び出し葵へ襲い掛かる。
「クラウドメイス!」
その巨根を、葵は雨雲を纏わせたウェザー・オブザーブで迎え撃つ。
雨雲魔法によって生み出された雨雲は実体を持たすことが可能であり、武器に纏わせれば何もしないよりは威力が上がる。
「は?! なにこれ! 固すぎる!」
しかし、振るわれたウェザー・オブザーブは巨根の表面を叩き壊す程度にとどまり完全な破壊には至らない。
何せ一本一本が樹齢数百年クラスの巨木の根だ。
いくら
『このまま磨り潰す!』
「っ、
葵が雲で防御壁を生成した直後、巨根がバトルエリアを埋め尽くす。
特に葵のいた場所は集中的に巨根が押し寄せ、雲の防御壁が完全に見えなくなった。
『取り敢えずこれで動けないはず。今のうちに押し出し─』
『よくもやってくれたわね!』
『!?』
バトルエリアに声が響いた直後、葵のいた当たりの巨根が吹き飛ぶ。
しかし吹き飛んだ巨根の下に葵の姿は無く、代わりに現れたのは首の長いトカゲの様な化け物だ。
『その姿…ひょっとしてゲノムプラス?』
『正解! とはいえ、私みたいに全身を変化させられる人は少ないけどね』
通常ゲノムプラスを摂取した者は身体の一部が他生物に変化したり新に部位が生成できるようになる。例として挙げるなら黒榊兄妹の翼や西祭茜の足などが分かりやすいだろう。
しかし、一部の者はゲノムプラスの効果により全身を他生物へと変化できるようになったのだ。
全身を変化できるようになった者は少なく、聖魔連合全体で数十人程度しかいない。
『それじゃあ、ここからが本番よ!』
葵はその長い首を鞭のように振るい巨根を破壊する。
葵がゲノムプラスで得た能力はエラスモサウルス。
白亜紀後期に生息していた全長約十四メートルにも及ぶ大型の海生爬虫類だ。
『っ、バインウィップ!』
アルが葵を拘束するために無数の蔓を発射する。
巨根よりは細いが、図体がでかい相手には小さく素早い方が有効だ。
『捕まるわけないでしょ! 雲海!』
葵はバトルエリア全体に薄く雲を広げる。
雲海はその魔法名通り雲の海を生成する魔法だ。
そして、生成した雲海を葵は泳ぎ蔦を回避する。
エラスモサウルスの手足はウミガメの様になっており陸上を動くには向かない。
しかし、雲海を作り出すことで問題なく移動できるようになるのだ。
そういった意味では、葵とエラスモサウルスの相性はいい。
そして、葵は回避した勢いそのままにアルへ突撃する。
『エラスモネックセイバー!』
『ウッドソード!』
葵は首に雲を纏い、アルは腕の樹木を変化させることで、それぞれ剣を形成し鍔迫り合う。
パワーは僅かに葵の方が上回るが、アルも樹木を腕に纏わせることで拮抗している。
しかし、双方の武器の強度はそうではない。
『っ、やっぱ雨雲じゃ脆い!』
葵の雨雲魔法は実体を持たせられるが、所詮は雨雲。
強度は樹木の方が上だ。打ち合えば雨雲の剣の方が先に限界が来る。
『隙あり!』
『!?、しまった!』
そして、アルが葵に勝ってる点は魔法の操作対象の強度の他にもあり、それは手数の多さだ。
鍔迫り合いをしている間に背後へ回り込ませていた蔦が葵の首に巻き付く。
『このまま絞め落とす!』
アルは蔦の力を強め葵の首を絞める。
確かにエラスモサウルス─というより古代の生物は現代の並の生物より強い。
が、生物である以上呼吸できなければ死ぬ。
『ぐ…ガハッ』
『もうきつくなってきたんじゃない?!』
『まだ…負けない…
葵は薄れゆく意識の中、力を振り絞り全身から雲を生成し煙幕にすることで姿を隠す。
その巨体を隠す関係上雲の生成量は多く、バトルエリア全体が雲に覆われ地面が見えない。
『こんなことしても無駄…!、やられた!』
アルは即座に葵を締め付けていた蔦を引き寄せる。
しかし、そこに葵の姿はない。
葵が煙幕を出した理由、それは拘束から脱出した後姿を捕捉されないようにするためだ。
拘束自体はエラスモサウルスの姿からいつもの姿に戻れば対格差で簡単に脱出できる。
しかし、それでは戻ったところを攻撃されて終わりだ。
そのため、
『バインウィップ!』
アルは地面から大量の蔦を生やし振り回す。
それによって起きた風により雲が晴れていく。
しかし、バトルエリアに葵の姿は無い。
『あ~もう! どこ行ったの!?』
天魔の試合終了合図が無いということは少なくともまだバトルエリア内に葵は居る。
『ルートニードル!』
アルは地中から大量の根でできた針を生成しバトルエリアを埋め尽くす。
姿が見えない相手への対処方法は、無差別攻撃と決まってる。
だが、根が葵を貫いた感覚は無い。
『あ~もう! 早く出てきてよ!』
「…ここからどうしよう」
さて、現在葵がどこにいるのかというと、何とアルの真下だ。
アルの根張りは空中にいる状態で発動すると自身の下に僅かに根で空洞ができる。
その状態で
そこに葵は一時的に避難したのだが、その間にアルがバトルエリアへの無差別攻撃を開始したので動くに動けない。
「殴りつけるにしても対格差的に大したダメージにはならない、それどころか私の居場所がバレる。それなら…、一撃で大ダメージを狙う!」
葵は全身から雨雲を生成し纏めていく。
確かに雲は樹木に比べ耐久力は無い。
しかし、圧縮して密度を高めれば耐久力は上がる。
「これで、あんたを空中に殴り飛ばす!」
『はぁ…はぁ…、いい加減出てきてよ!』
アルは葵が見えなくなってからひたすらに技を撃ち続けた。
しかし、当然ながら当たることは無い。
何故なら葵はアルの真下にいるからだ。
流石のアルも自分が巻き込まれるような攻撃はよほどのことが無い限りしない。
《ゴゴゴゴ…》
『!?、いったい何の音?!』
「ここよ!」
『葵?! というかずっと私の下にいたの!?』
「えぇ。だけど、驚いてていいのかしら?」
『!、地面が!』
突如、アルの周りの地面が浮かび上がる。
地面の下に見えるは巨大な雲の腕。
「入道雲、巨大な雨雲で大入道を作り出す技よ!」
地面が持ち上がるにつれ地面に張っていったアルの根が音を立てて切れ始める。
これで、アルを地面に固定しておく物は無くなった。
『どんな怪力してんの?!」
「少しは…動きなさい!」
葵はそのままアルを真上へと投げ飛ばす。
アルは飛行できるとはいえ、正確には浮遊だ。
ある程度の勢いがつくと自身での制御ができなくなる。
『っ、シードガトリング!』
アルは空中から種を発射し攻撃を行うが、身体の制御が利かないので狙い通りの場所へ命中しない。
「筋斗雲!」
そして、葵は雨雲に乗りアルを追いかける。
上昇速度はアルよりも早く、僅か数秒でアルの高度を追い抜く。
「ここまでくれば一撃で仕留められる!」
『葵!』
アルが身体から生やした蔦で葵を狙う。
その攻撃を葵は飛び降りて回避した。
『…は?』
もう一度言おう、飛び降りて回避した。
葵は重力に従いアル目掛け落下していく。
当然、葵自身に飛行能力は無い。
『ちょ! 何してんの?!』
「こうするためよ! エラスモボンバー!』
葵は落下の際中にエラスモサウルスへと変身する。
そして、エラスモサウルスの巨体はそのままアルへとぶつかり落下していく。
『ちょ、ちょっと待って!』
『いいや待たない! このまま圧し潰れろ!』
『いや流石にアルでも死─』
《ドゴン!!》
落下の衝撃で土埃がバトルエリアを覆う。
エラスモサウルスの体重は約二十五トン。
それだけ落下速度は速くなる。
アルが抵抗する暇などない。
『さて、アルは…え?」
葵がエラスモサウルスから元の姿に戻り下を確認する。
が、下にアルの姿は無い。
あったのは緑のシミだけだ。
「え、ちょ、本当に死んじゃった!?」
『あ、あ~、葵、聞こえる?』
突如、通波のアナウンスが流れだす。
「通波! いったいどうなったの?!」
『最後葵が押しつぶしたでしょ。そのせいで回復した側から死亡したっぽい』
「いやそれ大丈夫なの!?」
『一応回復はするっぽいけど魔法陣だけだと時間がかかるね。今そっちにセイが向かってる』
しばらくしてセイがバトルエリアへ到着し、緑のシミに駆け寄る。
「セイ、これ治る?!」
「落ち着いてください。命に別状はありません」
「いやどこが!?」
「既に回復魔法陣は発動し始めています。まだ死亡していませんし、アルさんはアルラウネです。植物がこんなことでは簡単に死にませんよ」
「いや…さすがに植物でも死ぬでしょ」
「まあこのままだと時間がものすごくかかるので回復させます、
セイは緑のシミに魔法を掛けると、シミは徐々にアルの姿へと戻っていく。
「…ん? ここは…?」
「良かった~!!」
「あ、葵、苦しい…」
アルが治ったことに安心し、葵がアルに抱き着く。
しかし、葵は怪力だ。アルの首が絞まってる。
「葵さんその辺で…聞こえてませんね。天魔さん、試合終了の合図をお願いします」
『わかった。回復魔法陣の発動を確認。よって勝者、東祭葵!』