死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。 作:鬼獣八紅
三人称視点です。
『え~、初戦の全試合が終了したので、これから準々決勝の試合を開始するよ』
キャットガールと裂の試合が終わってしばらくしたのち通波のアナウンスが流れる。
アナウンスに時間がかかった理由はバトルエリアの修復のためだ。
裂がガソリンをまき散らしバトルエリアを大炎上させてしまったため、その消火作業が発生した。
更に、準々決勝第一試合は炎翼魔法を持つ西祭茜だ。
地面に少しでもガソリンが染み込んで再度炎上とかになったら眼も当てられない。
そのため、地面丸ごと新しい土に入れ替えたのだ。
『それじゃあ、Aブロック準々決勝第一試合、選手入場! あ、選手紹介は初戦でやったからカットね!』
アナウンスに合わせ、東コーナーから葉月、西コーナーから西祭茜が入場してくる。
両者ともに体力、傷共に回復し万全の状態だ。
「こうして会うのはスイーツバイキング以来かしら」
「そうねぇ。それと、オウルちゃんとはあの後どう?」
「…不服ですが、度々お茶する程度には関わりが続いています」
なお、誘っているのは茜だったりする。
聖魔連合には高校生が少ない上、所属している部署で上下関係があることが多い。
プライベートでは上下関係など気にしなくてもいいのだが、加入した経緯的に自主的に敬称を付ける者も多い。
そのため、真正面から気兼ねなく
「それは良かった。子供の時の友達は貴重だからね」
「友達かと言われると疑問ですが否定はしません。まあ、こういった話ままた後日」
「そうね」
会話を終え、両者構える。
葉月は素手、茜は
武器持ち対素手の戦いになるが、武器のある無しだけで有利不利は決まらない。
「それとごめんなさい。今回も速攻で終わらせるわ」
「!、言ってくれるじゃない」
『両者構えたな。それでは…始め!』
「ストレーンジターボ!」
天魔のアナウンスがな流れた直後、茜は一気に加速し葉月へと迫る。
自身の魔法である炎翼魔法も発動させており、大抵の生物は近づいただけで大火傷だ。
「やっぱ、速攻で終わらせに来るならその技使うわよね!」
「ガルーダストライク!」
葉月の言葉を無視し、茜は炎を纏わせたレッドマジックを振るう。
「無視するのね。天地返し!」
「!?」
しかし、葉月も何の対策もせずに突っ立っていた訳じゃない。
バトルエリアに指先を突き立てた直後、思いっきり持ち上げることで地面で巨大な壁を作った。
この壁によりレッドマジックの一撃は防がれる。
「このまま圧し潰すわよ!」
「っ、破壊は無理そうですね」
葉月は壁を強く押し、茜の方へと押し倒す。
先ほどの一撃でも壁は罅が入っただけで貫通はしていない。
そのため茜は横へと進路を変え回り込む。
《─ドゴォォン!》
茜が壁の影から出た直後、背後から爆音が響き土煙が舞う。
「っ、どんな怪力してるんですか葉月さんは!」
『そんな言い方ないんじゃないの~?』
「どこ…上か!」
土煙により茜の視界が塞がっている間に、葉月は八十尺様を発動させ巨大化する。
茜は葉月の初戦を観戦し、巨大化する際に多少の隙が発生することを見抜いた。
巨大化してしまったら炎が当たる範囲割合が小さくなり、ダメージが通りにくくなる。
そのため巨大化される前に決着を付けようとしたのだが、その目論見はもう叶わない。
「そのまま圧し潰す気ですか? それなら止めといたほうがいいですよ、
茜が炎翼に熱を集め温度を上げる。
その温度は火系列の魔法を保有していないと近づいただけで火傷するほどだ。
しかし、この行動は茜自身も苦しめる。
通常、火系列の魔法を使用しても体内に熱がこもることはない。何故なら、多くの場合武器や手の先から魔法を発動させているからだ。身体から火が出ているわけじゃない。
だが、西祭茜の炎翼魔法は背中から直接炎の翼が生えている。
そのため長時間連続使用すると身体に熱がこもり身体機能が低下してしまうのだ。
一応熱がこもらぬよう努力はしているが、炎翼魔法の特性なのか軽減はできても改善には至っていない。
なのであまり発動させたくは無いのだが、葉月の巨体に圧し潰されたり、一つ一つの動作ににより発生する風圧に吹き飛ばされ場外負けするよりはマシだと茜は判断した。
『熱っ! 確かに、それなら触れられないわね。離れてても皮膚がヒリヒリするわ』
「それなら、ゆっくり後ろへ下がってください。足が堀に漬かるくらいにね」
茜はゆっくりと葉月の方へと歩いていく。
葉月は近づかれる訳にはいかないため下がるが、後ろは堀だ。
下がれる距離にも限界がある。
跨ぐにしても、葉月の一歩より茜の熱源の方が広いためそれも不可能だ。
『っ、だけどその技、長時間の発動はできないんじゃない?』
「だったらどうすします? 私の限界が来るまで耐久でもするんですか?」
余裕そうに返答するが、茜は内心焦っていた。
熱がこもることによる運動能力の低下は、戦闘において不利に働くがそれだけだ。時間が経てば放熱し回復する。
茜が焦っている理由、それは高温による自傷ダメージだ。
いくら火系列の魔法を保有していたとしても、耐えれる温度には限度がある。
そして、炎翼の温度は茜の耐熱能力をとうに超過していた。
現に炎翼の付け根付近は青く変色しており、茜の背中を焼け焦がしていく。
『いいえ、こちらから攻めるわ! 土魔法、クリエイトウェポン!』
葉月は呪文を唱え、腕を地面に突き刺す。
一回戦の時は相手が土関連の本職であるロックであり魔法の押し合いになったら確実に競り負けるので使用しなかったが、葉月は土魔法を習得していた。
そして引き抜いた拳に握られていたのは、巨大化した葉月の身の丈ほどはある大槌だ。
「なるほど、確かに武器を使えば私に近づかずに攻撃できますね」
『そうよ。だからとっとと離れなさい!』
「っ、
振りかぶられた大槌が茜の横から迫る。
しかし、茜は炎翼で大槌を防ぐ。
茜は幹部の中ではパワーは無い方だ。
そのため普段は飛んで回避するのだが、熱によって低下した運動能力では間に合わない。
「ぐっ、衝撃がっ」
何とか防ぐことはできたが、衝撃までは防ぎきれない。
足先をケツァルコアトルの爪に変え地面に食い込ませることで何とかその場にとどまる。
しかし、それはしばらく回避行動がとれなくなる諸刃の剣だ。
『足を止めたわね!』
その隙を見逃す葉月ではない。
連続で茜に大槌を叩き込む。
火鳥の巣により直撃こそしていないが、着実にダメージが積み重なる。
(まだ…もう少し、もう少しでチャージが溜まる!)
『さっきから黙って…、ひょっとして何か企んでいるわね。それなら…、天地返し!』
「!、そう来ますか!」
ピクリとも動かない茜にしびれを切らした葉月の取った行動は、茜が踏ん張っている地面ごと動かすことだ。
九十度近くまで地面が傾いても、ケツァルコアトルの爪はしっかり食い込んでいるため落ちることはない。
が、このまま地面がせり上がっていけば茜は潰されてしまう。
「逃げなければ─」
『させるわけないじゃない! グラウンドウォール!』
「っ、地面が!」
逃げようとした茜の前に新たな土壁が地面からせり上がる。
それも、ご丁寧に全方面にだ。
天地返しによってせり上がった地面を含め、四方全てを囲まれる。
唯一の逃走経路は頭上だけだが、そこも徐々壁が押し倒され狭くなっていく。
「急いで脱出を!」
茜は足を壁から引き抜き、頭上の脱出経路へ向け飛び立つ。
しかし、運動能力が低下している茜では脱出経路が閉じるのに間に合わない。
あと一歩というところで光が完全に遮られる。
「クソッ!」
『このまま圧し潰すわよ!』
徐々に天井が茜に迫ってくる。
元々高さがあり空間が完全になくなるまで時間はあるが、それでも一分あるかどうかだ。
「壁を破壊…、いや、恐らく今葉月は油断しているはず。それなら、当てるなら今しかない!」
茜は倒れてくる壁に背中を押し当てる。
今チャージしている技ならば余裕で壁を貫き、その向こうにいる葉月にも攻撃が届く。
問題は、その攻撃で撃破に十分なダメージを与えられるかだ。
が、今回はあくまで試合なためそこまでする必要は無い。
「大丈夫、場外まで吹き飛ばせればいい。だけどチャンスは一度!」
炎翼の温度が更に上昇し、青色の範囲が全体へと広がっていく。
それに伴い背中の火傷も更に酷くなる。
これではもうチャージしている大技を放った後の戦闘継続は不可能に近い。
しかし、茜はそんなことを気にしてはいなかった。
何故なら、この一撃で試合を決めるつもりだからだ。
「フルチャージはギリギリ間に合いそうね」
天井が茜の頭上すれすれまで迫る。
もう既に立っているのがギリギリだ。
「…よし、行くわ!」
そして、茜は炎翼に貯めこんでいた熱を一気に開放する。
「炎熱開放・プロミネンスウィングバーン!」
炎翼に溜まった熱が莫大なエネルギーとなり壁を貫く。
放たれた熱は勢いを弱めず、葉月へと受かっていく。
『!、これが茜ちゃんの企んでいたことね!』
放たれた攻撃の速度はかなり早く、巨体中ということもあって回避できず土魔法も間に合わない。
そのため、葉月は顔面に向かってくるプロミネンスウィングバーンを防ぐため手で遮る。
この時の葉月はこの攻撃をそこまで重要に考えておらず、せいぜい片手を犠牲にすれば防げる程度だと考えていた。
しかし、これは大きな間違いだ。
《ジュ》
『─え?』
葉月の右手をプロミネンスウィングバーンはいともたやすく貫通する。
葉月視点では炎翼が青くなっていることが見えなかったため危険度予測を間違えたのだ。
貫通した右手は瞬く間に燃え上がり、この試合ではもう使い物にならないだろう。
更に、プロミネンスウィングバーンの勢いはとどまることを知らず、未だに葉月へと向かって来ている。
『っ、回─』
《ジュッ》
『あ、ああぁぁぁぁ!!』
防ぐのができないと判断し即座に回避へと移行するが、その巨体では間に合わない。
プロミネンスウィングバーンは葉月の右腕を肩から焼き切った。
焼き切られた右腕ば轟音を立てバトルエリアへと落下する。
そして、葉月の集中力が切れたことで茜を囲っていた土壁も崩壊した。
「はぁ…はぁ…、何とか、危機は脱しましたね」
『よくも…、やってくれたわね!』
両者ともに立ってこそいるが、限界に近い。
茜は背中全体の大火傷、体温の上昇による運動能力の低下。
葉月は右肩から先の消失、それに伴うバランスの崩壊だ。
「まだ、動けるんですね」
『何とかね。だけどこれで止めよ!』
葉月は気合で大槌を片腕で持ち上げ振り上げる。
しかし、茜はこの瞬間に勝利の可能性を見出した。
「どうやら、神は私に味方したみたいね」
『なに?』
「バーンフェザーバレット!」
小さくなった炎翼から一枚の火の羽が放たれる。
その羽が向かう先は、葉月の顔面だ。
『きゃ!』
放たれた羽は葉月の顔面を完ぺきにとらえ、小さな爆発を起こす。
巨大化した葉月にとっては取るに足らないダメージだが、顔面を攻撃されれば誰だって怯む。
そして、怯んだことにより大槌を支えていた力が一瞬緩んだ。
普段であればこんなことは無いのだが、今は片腕の上、重心が頭上にある。
『おっとっとっと─』
当然、バランスを崩す。
葉月は何とかバランスを保とうとするが、普段あるものがいきなりなくなれば大抵の生物はバランスを取るのが難しくなる。
「ダメ押しです! バーンフェザーバレット!」
茜が現在の葉月の軸足目掛けもう一発叩き込む。
『あ─』
そして、ついに耐えられなくなり、葉月の片足が場外の堀に漬かる。
葉月は制約により、巨大化中はどこの部位が場外に出てもアウトだ。
『葉月の場外を確認。よって勝者、西祭茜!』
『あ~あ、負けちゃいましたか』
葉月は足を引き上げ、巨大化を解く。
『二人とも、そっちに担架向かったからそれまで安静にしてて!』
「わかったわ。ほんと、最近の子は強いわねぇ」
「…いえ、私なんてまだまだですよ。というより最近の子って、葉月も若いでしょ?」
「ふふ、女性に年齢の話題は厳禁よ」
「あ、はい」
この時の葉月の顔は、戦っていた時より怖かったと茜は後に語った。