死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。 作:鬼獣八紅
三人称視点です。
『さて、じゃあどんどん次の試合行くよ! マッチングは東コーナー、東祭葵! 西コーナー、ブラッド!』
通波のアナウンスに合わせBブロック準々決勝第一試合の選手が入場する。
今回の試合はシスターVS吸血鬼。
それぞれの種族や役職だけ見れば面白いマッチングだ。
「えっと~、こうして話すのは初めてよね?」
「あ~、多分?」
しかし、二人からしたら関係ない。
二人の間に何とも言えない雰囲気が流れる。
というのもこの二人、ちゃんと会話したのが今この場が初なのだ。
戦闘訓練時に互いを見たことはあれど、所属している人数が人数のため合同訓練だとしても関わる機会は少ない。
とはいえ、キャットガールという共通の知り合いはいるので互いの性格やら魔法やらの最低限の情報は知っている。
そのため、葵は勝利を確信していた。
「キャットガールには悪いけど、私が勝たせてもらうわよ。事前情報の感じ圧倒的に私の方が有利だし」
そうこの二人、戦闘となるとすこぶる相性が悪いのだ。
というのも、ブラッドの種族である吸血鬼の弱点の一つに”流水を渡れない”というのがある。無論、雨も流水だ。
用は葵に雨を降らされるとブラッドは大幅に行動範囲を制限されてしまうのだ。
更にはブラッドの血液魔法も相性が悪い。
血液と水が混じると血球が破裂し、血液判定から外れ魔法での操作を受け付けなくなる。
両方とも魔法や種族固有の弱点のため克服や改善のしようもないのだ。
「そうれはそうだが、俺が何も対策してないと思ってるのか?」
「いや。だから、速攻で決着付けさせてもらうわ」
しかし、勝ちを確信したからと言って油断する理由にはならない。
相性不利など作戦でいくらでも覆せるからだ。
「なら俺も宣言しよう。この試合、十秒で終わらせる!」
「…へぇ、やれるもんならやってみなさい!」
二人の間に緊張が走る。
互いに相手の実力は第一試合である程度把握している。
つまり、それぞれ短期決着させられる策があるということだ。
『そろそろ開始してもよいか?』
「えぇ」
「始めてくれ」
互いに戦闘の構えを取る。
『それでは試合…、始め!』
そして、試合が開始された。
「ブラッディブースター!」
直後、ブラッドは翼を出し葵の目の前に現れる。
よく見ると、ブラッドの膝から下が無い。
ブラッドは足ごと圧縮した血液を後方へ噴射させることで、ゼロから一気に加速したのだ。
吸血鬼の種族としての速度と血液魔法、ブラッド本人の力が合わさりかなりの速度が出ている。
足は使えなくなるが、葵に勝つためにはこうするしかない。
「なっ!?」
「ブラッディクレイドル!」
「っ、ガード!」
ブラッドの出した速度は約時速百キロメートル、葵の位置まで約三秒で到達した。
通常の人ならば反応できる速度ではないが、ブラッドを注意深く見ていたことが幸いし
しかし、葵はミスを犯した。
「ガードしたな!」
「なに─っ! そういう事?!」
ブラッドはウェザー・オブザーブと肩を掴み場外へ向け更に加速する。
鍔迫り合いなど発生しない、速度が一切落ちていないのだ。
今回のブラッドの作戦、それは、葵に何もさせずに場外へ押し出すこと。
葵の雨雲魔法による雲の生成速度には目を見張るものがある。
が、雲である以上、筋斗雲の様にマニュアル操作をしなければ移動速度は遅い。
ブラッドの捨て身の加速ならば、雲による攻撃が来る前に葵を場外へ押し出せる。
後からならいくらでも言えることだが、葵はウェザー・オブザーブでガードするのではなく適当な水を出して反撃するべきだった。
葵の生成速度なら、三秒ほどあれば雨を生成できる。
しかし咄嗟のことで武器を先に出してしまい、その上今雨を生成しても既にかなりの速度で移動しているブラッドにはまともに当たらない。
「(雨雲は…、ダメ! 生成できても水が飛ばされる! ウェザー・オブザーブも押さえつけられてる。なら…)質量を増やすまでよ!』
葵が徐々にエラスモサウルスへと変身していく。
質量が増えれば重量が増える。
そうすれば押すのにかかる力が増え速度が落ち、魔法を使うのに十分な時間の確保が可能だ。
『これでブレーキを─』
「対策してないと思ったか!」
『!?、足元が!』
ブラッドの切断された足の切り口から血液が流れだし、バトルエリアを覆いつくしていく。
「ブラッドオーシャン、これで、重くなろうが止まらない!」
バトルエリアを覆いつくす血液はあらゆる摩擦力を奪う。
これではいくら重量が増えようと、一度移動しだした物体は止まらない。
『っ、エラスモネックセイバー!』
「無駄だ! ブラッドシールド!」
エラスモサウルスの首に巻かれた雲の剣と血液でできた盾が激突する。
これによりブラッドの手が葵から離れた。
『よし! これで後は止ま─』
「残念だが時間切れだ!」
『え…、あ』
《ザパアアァァン!》
しかしその直後、葵の体が宙を舞う。
そして、巨大な水柱が発生し葵は堀に転落した。
『東祭葵の転落を確認。よって勝者、ブラッド!』
『ちなみにタイムは9.83秒! 宣言通り十秒以内での決着よ!』
「っしゃぁ! っとっとっと…」
ブラッドはガッツポーズをし着地するが、足が無い事を忘れており尻もちをつく。
「はぁ…はぁ…、疲れた…」
『全く、勝者が何倒れてんのよ』
「あぁ、葵か」
葵が堀から頭だけを伸ばし覗き込む。
言葉通り、敗者がほぼ無傷で勝者がボロボロだ。
「こうでもしないと勝てなかったんだよ、お前には」
『まあこっちも多少の油断もあったしね』
「お、負け惜しみか?」
『”ピキッ”、へぇ~そんなこと言うんだ~、じゃあ、今度練習試合しなさい。言っとくけど強制よ』
「え~、何で─」
『い、い、わ、ね!』
「…はい」
いくら勝者であろうと、キレた女性は怖いのである。