死にたくないので自分達だけの第三勢力作りました。   作:鬼獣八紅

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 三人称視点です。


現地の魔法少女

 

「…投降する気は無いと」

 

 エルファウルの本日の予定は無く、休日であった。

 そのためレイヴンたちがワープゲートを展開した地点の反対側から休日を過ごすためにセントラルパークへ来ていたのだが、敷地へ入った直後に銀行強盗帰りの敵を見つけたのだ。

 本来は近くに別の魔法少女がいたのだが、敵の巨体に押しつぶされたため対処できる魔法少女は不在。

 エルファウルは休日返上で敵を追うハメになった。

 そして、休日が潰されたことでエルファウルは現在とても機嫌が悪い。

 

「なら、とっとと倒させてもらうわ」

 

 自身の愛槍─魔槍カナンの穂先を二人の敵へ向ける。

 敵を睨むその黄金の瞳からは、休日を潰された怒りが滲む。

 

「はっ、このキャノンショット様がそう簡単にやられるか! 行くぞゴーム!」

『了解兄貴!』

 

 ゴームと呼ばれた六本腕の巨大な異型が腕を横に振るう。

 腕は周りのビルの外壁を抉り取り、破片をエルファウルへと投げつける。

 

「こんなの─」

「た、助けてくれ!」

「?!」

 

 しかし、投げつけられたのは瓦礫だけではない。

 ビルの中にいる一般人の避難が完了していなかったのだ。

 瓦礫に巻き込まれた一般人も落下してくる。

 

「(人数はおよそ十五人)…問題ない。ウィンドロード」

 

 エルファウルが呪文を唱え、空中に風の道を生み出す。

 その風に乗せ、瓦礫と一般人を分別し地面に降ろしていく。

 

「ゴーム! 攻撃を続けろ!」

『ゴルアァァァ!』

「ミサイルマシンガン!」

 

 しかし、キャノンショットとゴームの攻撃は止まらない。

 ビルの瓦礫の投擲の他に、無数のミサイルの雨も降り注ぐ。

 幸い投げ飛ばされた一般人はいないが、エルファウルが避ければビルに攻撃が命中し倒壊の恐れがある。

 

「トルネードミキサー」

 

 だが、この攻撃もエルファウルにとっては大した問題ではない。

 トルネードを発生させ瓦礫とミサイルを巻き込み、ミキサーの様に粉砕し無力化する。

 

「これ以上暴れられると被害が広が─」

『潰れちまえ!』

「!、ぐっ」

 

 しかし、敵もただ見ているだけではない。

 エルファウルが次の魔法を放つ前にゴームが丸太の様な腕で圧し潰しにかかる。

 咄嗟に魔槍カナンで受け止めるが、道路の方が耐えられず衝撃で網目状の亀裂が走り陥没。埋まっていた水道管も破裂し水が勢いよく噴き出す。

 

「ゴームそのまま押さえつけてろ! キャノンブラスト!」

 

 そして、キャノンショットにより撃ち出された巨大ミサイルがエルファウルに直撃する。

 その威力は凄まじく、爆風で周りのビルを吹き飛ばす。

 

『兄貴! 俺を巻き込むなよ!』

「それは悪いが、そうでもしないとエルファウルは殺せないだろ。なんせ、アメリカで上から数えた方が早いレベルで強いからな。だがな、これで俺たちも名を売れる!」

 

 キャノンショットらが銀行強盗を行った理由は、悪の組織を新に設立するための資金集めのためだ。

 前提として、どんな組織であっても運営には金が要る。

 聖魔連合は新たなる(ニュー)素晴らしき世界(ワールド)()(コア)という金策兼自給自足できる土地があったため、悪の組織を一から作る場合かなりのイージー条件だった。

 逆を言えば、これらの条件が無ければ一から作るのは難しい。

 それこそ、銀行強盗でも行わない限りは。

 更にそこに、アメリカ上位の実力を持つ魔法少女を殺害したとなれば悪の組織としてかなりの好スタートだ。

 

「─はぁ…、やってくれたわね」

「…は?」

 

 しかし、それは全て仮定の話。

 煙の中から無傷のエルファウルが歩いてくる。

 

「嘘だろ直撃したんだぞ! 何でダメージ通ってないんだ!」

「あぁ、これね。魔力量が多いのよ、私」

 

 ライズ・オムニシエンスがレイヴンに対し使用した自身に魔力を纏わせ他者の魔法の干渉を防いだり身体を強化したりする技術がある。

 この技術は魔法少女陣営には知られていない。

 だが、知られていないだけで魔力の多い魔法少女や実力上位の魔法少女は無意識下にこれらの技術を使用している。

 元々変身すれば一般人より耐久力や身体機能が上がるのだ。

 そこに実力・魔力量共に上位のエルファウルの魔力による耐久ブーストが加われば、特別な力(魔法)にかまけ碌に修行もしていない攻撃では傷一つ付かなくなる。

 

「ちっ、ゴーム、一時撤退しろ!」

『了解!』

「これでも食らってろ! ミサイルマシンガン!」

 

 いくら攻撃が効かないとはいえ、衝撃などで吹き飛ばされたりはするのだ。

 撃ちまくれば足止め程度にはなる。

 キャノンショットが攻撃を続けている隙に、ゴームがエルファウルから離れていく。

 

「逃がさない。パズズウィング」

 

 それに対しエルファウルは背中に風で形成した翼を生やし追跡する。

 速度はエルファウルの方が上だ。

 直ぐにキャノンショットらに追いつく。

 

「…マズいわね」

 

 しかし、エルファウルの表情に余裕は無い。

 キャノンショットらが現在逃走しているのはビルが立ち並ぶビジネス街。

 ゴームが腕を軽く振るうだけでビルは倒壊し、数百人規模の被害が出る可能性がある。

 止めを刺そうにもゴームの体格を相手どるには大技を使うしかないが、周りに被害が出る可能性があるため発動できない。

 

「ゴーム! やってやれ!」 

『オラァ!』

 

 そして、エルファウルの考えた最悪のシナリオを実行すべくゴームが腕を振るう。

 

「させない、ウィンドシフト!」

 

 咄嗟に突風を吹かせゴームの腕を逸らす。

 を仕留められない以上、ひたすら攻撃を逸らし続けるしかない。

 

(ここじゃあいつらを仕留められない。市街地を出るまで待つ? 出来なくはないけどそうすると道路が持たない)

 

 ゴームの通ってきた道路には多数の陥没跡が残っている。

 道路は十階建てのビルほどもある巨人が通ることなど想定して設計されていない。

 ビルをなぎ倒されるよりはマシだが、大技を出せる位置まで移動させる間にかなりの損害が出る。

 既にグランド・セントラル駅を破壊されているのだ。

 これ以上被害を出す訳にはいかない。

 

「ゴーム。どうやらエルファウルはビルを守っているらしい」

『兄貴、それがどうした?』

「決まってるだろ」

 

 キャノンショットが肩の銃口をビルへと向ける。

 

「ゴームも構えろ! ビルを突き抜けるぞ」

『わかった兄貴!』

 

 ゴームは進行方向を変え、目の前のビルへと突っ込んでいく。

 たとえ内に一般人がいなかったとしても、ビルのドミノ倒しなんて起こればニューヨークの一角が壊滅する。

 

「させない!」

 

 だが、寸前でビルとゴームの間にエルファウルが滑り込む。

 

『ぐぬぬぬぬ…』

「っ、やっぱ力強いわね」

 

 ゴームのパワーは凄まじく、エルファウルはパズズウィングの出力を上げる。

 その影響で背後のビルのガラスが割れるが、ビルそのものを破壊されるよりはマシだ。

 しかし、ゴームのパワーは更に上がっていく。

 

「いいぞゴーム! そのまま圧し潰─」

 

 

  「【ストップ】」

 

 

『あ、何で、動け…』

「お、おい! どうしたゴーム?!」

 

 だが、突如として響き渡った声が耳に入った直後ゴームの動きが止まった。

 これはゴームの意思ではない。

 ある魔法少女の魔法によるものだ。

 

「どうしたエルファウル、手こずったりなんかして! このガレンゲージ様が助けに来たぞ!」

「ガレン…、あなた声が大きいんだから少し落として」

「それはすまんな」

 

 ガレンゲージと呼ばれた魔法少女がエルファウルたちの方へと歩み寄る。

 姿はエルファウルとは正反対であり、高身長の黒髪のストレートだ。

 しかし共通点も多く、漆の様な艶のある長髪と肩から掛けたパールグレーのコートが風で棚引く。

 そして何より目を引くのは被っている軍帽だ。

 恰好も相まって男装の麗人を思わせる。

 

「ちっ、お前が原因か!」

 

 存在を認知したキャノンショットが即座にミサイルを放つ。

 だが、ガレンゲージは即座に次の言葉を紡ぐ。

 

「【レフレクション】!」

 

 そうガレンゲージが唱えた直後、ミサイルの向きが反転する。

 標的は発射したキャノンショットではなく、エルファウルを押さえつけているゴームだ。

 

『ごはっ!』

「ゴーム!」

「ナイスよガレン」

 

 ゴームの身体が傾いた瞬間にエルファウルは脱出する。

 傾いた巨体はそのまま重力に従い倒れこむ。

 

「おいエルファウル、何でそんなに手こずってた? お前の実力なら直ぐに終わっただろ」

「流石にあの巨体を市街地で相手したことはないわ。あそこまで巨大だと半端な攻撃じゃ致命傷にならず、かといって大技は市街地そのものを破壊しかねない」

「ならクラウドで遠くまで運べばいいだろ」

「あのねぇ…あの巨体を運べる訳ないでしょ」

 

 エルファウルの技の一つに実体を持つ雲を生成する技がある。

 しかし、あれほどの巨体となると運搬に必要な雲の量も膨大になり現実的ではない。

 その上雲は移動速度が遅いため、運搬中にゴームが暴れて転落し町を破壊しかねないのだ。

 

「そうか。…一つ確認だが、ここで止めを刺すとしたら物理攻撃か? それともエネルギー系攻撃か?」

「…物理攻撃ね。あの巨体を仕留める雷なんて落とそうものなら停電が起こるわ」

「ならば発動できるようにしよう。それと、そろそろあのデカ物が動き出すぞ」

 

 そう言った直後、倒れていたゴームが起き上がる。

 ガレンゲージの魔法は強力だが、持続時間はあまり長くない。

 その上、ガレンゲージの大技も建物に被害を出しかねないので使用不可だ。

 止めはエルファウルが刺すしかない。

 

「エルファウル、上空に待機しとけ。ガレンゲージ様が下準備してやる」

「わかったわ」

「!、逃げるなエルファウル!」

 

 エルファウルがゴーム上空目掛け飛び立つ。

 逃がさないとばかりにミサイルが放たれるが、エルファウルの飛行速度にはかなわない。

 ミサイルの射程圏外へ即座に離脱し滞空する。

 これでもう、キャノンショットらはエルファウルに手出しできない。

 

「あの程度でエルファウルを殺せるわけないだろ」

「お前は…ガレンゲージ! 何でニューヨーク№2の魔法少女まで来るんだよ!」

「おいおい、さっきミサイル発射した時私の姿確認しなかったのか。にしても、№2か…、不愉快だ」

 

 ガレンゲージが顔をしかめる。

 №2発言はガレンゲージの地雷だ。

 

「あ? 何がだよ。№2なのはお前が原因だろ。好き勝手命令出来るって、魔法単体ではお前の方が強そうな─」

「【サイレンス】」

「ん? んんん?!!」

『おい兄貴どうした?!』

「私の魔法の方が強いのに№2? そんなこと、私が一番よく分かっている!」

 

 確かに第三者から見た場合、エルファウルよりガレンゲージの魔法の方が強いというかチートに見える。

 しかし、魔法そのものの強さをエルファウルは圧倒的魔力量と魔法出力でカバーしているのだ。

 だが、ガレンゲージの魔力量もけっして低いわけではない。

 ガレンゲージの魔力量は小国でトップ張ってる魔法少女クラスくらいはある。比較対象が可笑しいだけだ。

 エルファウルと比較になるのは七曜の円卓の現上位三席などの小数しかいない。

 

「お前は私を怒らせた。確実に始末する!」

 

 ガレンゲージはプライドの高い少女である。

 そのため、やる気のないエルファウルに実力負けしていることが我慢ならないのだ。

 

「ちっ、ゴーム!」

『潰れちまえ!』

「【ストップ】」

 

 ゴームが圧し潰そうとするが、ガレンゲージによって静止する。

 

「っ、キャノンブ─」

「【キャンセル】」

「なっ?!」

 

 キャノンショットも追撃しようとするが、ミサイルが発射されない。

 これで敵両方の攻撃手段が無くなった。

 

「いい加減お膳立てしないとな」

 

 ガレンゲージがサポートアイテムである拡声器を取り出す。

 

「【イラスティサイズ】!」

「てめぇ、いったい何をっ!?」

 

 拡声器から声が放たれた直後、ゴームの巨体が地面に沈む。

 同様に周りのビルも沈下しだすが、倒壊はしない。

 何故ならば、ビルそのものも地面同様溶け掛けの飴の様に歪んでいるからだ。

 

「私から直径二百メートルの地面と建物に弾性を与えた! エルファウル! 一般人は避難済みだ、お膳立てはしたぞ!」

「えぇ、ありがとう」

 

 エルファウルが魔槍カナンを構える。

 

「今日の天気は晴れのち雹。ヘイルストーム」

 

 直後、キャノンショットらの上空から雹が降り注ぐ。

 その大きさは普通の表とは比べ物にならず、一つ一つがボウリングの球ほどのサイズと重さはある。

 

『痛い痛い痛い痛い!』

「クソッ、ミサイ─」

「【キャンセル】【ストップ】」

「てめ─ぐはっ」

 

 雹を撃ち落とそうとキャノンショットがミサイルを放とうとするがガレンゲージにより妨害され、直後に雹が頭部に直撃し血を流す。

 いくつかの雹は地面や建物に直撃するが、弾性を与えられていたため破壊されない。

 

『兄貴!』

「キャノンショットは仕留めたわね。止めよ、フロスト・ペセル」

 

 氷を纏わせ巨大化させた魔槍カナンをゴーム目掛け放つ。

 

『やられない!』

 

 ゴームもタダではやられないとばかりに魔槍カナンへ手を伸ばし掴む。

 今の魔槍カナンのサイズはゴームにとってもかなり大きい。

 その上衝撃波を考慮し威力を僅かに落としていたため、ギリギリ頭部を貫く前に受け止める。

 

『はぁ…はぁ…。これで何とか─』

「なるわけないでしょ」

『え?』

「これで私たちの勝ちよ」

 

 だが、エルファウル勢いよく魔槍カナン目掛け蹴りを入れることで押し込む。

 これにより完全に魔槍カナンがキャノンショットとゴームを貫き、血が噴水の様に噴き出す。

 

「おいおいエルファウル、これ清掃どうする気だ?」

「…私が風と雲でどうにかするわ」

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

「…ねね兄さん、あの二人強くない」

「…あぁ。てか声で命令できんのずる過ぎるだろ。てかここアメリカだろ、何で日本の言霊的な魔法使用する魔法少女がいるんだ。言霊は日本の文化だろ」

「日系アメリカ人だからじゃない? 見た目が魔法少女出現以前の日本人に似てたし」

「その可能性があるな。しかし、言霊の魔法少女は厄介すぎる。しかも音系の魔法って時点で暗殺も期待できねぇ」

 

 音系の魔法を持つ魔法少女は魔法の性質上耳がいいことが多い。

 僅かな空気の乱れで気付かれる可能性がある。

 その上攻撃方法が声である以上攻撃速度は音速。

 一度発動されたら回避は不可能だ。

 

「それにエルファウルもヤバいって。あの雹とか攻撃範囲がエグすぎる」

「それはそうだが…、何かな、グレートフューチャーほど強いって感じない」

 

 去年のハロウィンで映像越しに見たグレートフューチャーとダークマーラの戦闘。

 それと比べると、エルファウルはグレートフューチャーほど滅茶苦茶ではない。

 まだ想像の範疇だ。

 

「けどそれ、九と十くらいの違いしかないでしょ」

「まあな。いったん本部に戻るぞ、次にニューヨークへ来るには二月十六日だ」

「了解。それまでどうする?」

「現地の魔法少女の調査と訓練しかないだろ。知らなくて負けましたとか訓練不足で負けましたじゃ笑えない」

「だよね」

 

 そうして二人はワープゲートを通過する。 

 あとは当日までにどれだけ準備できるかだ。

 

 

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