「…………私、寝てたんですね」
ベットの上で目を覚ました愛子先生は、思い出したように呟いた。どうやら最近、寝ずに色々と動いていたこともあり、疲れが溜まっていたらしい。
今も生徒達が戦場で戦っている。死ぬかもしれない瀬戸際で、どれだけ無茶をしているか。彼女としては不安で不安で仕方ない。
だが、気になることは他にもある。
『───先日、地方教会が焼かれた。襲撃したらしき何者かは教会の人間を殺戮し、何らかの機密文書を確認後、処分したらしい』
『その文書の切れ端には、お前達の存在があった。教会の、エヒト神からの神託を記録したものだろう。おそらく襲撃した何者かがお前達を狙う可能性を有り得る』
教会が所有していた機密文書、エヒト神からのお告げを記録したそれに、なぜ自分達の存在が記されていたのか。疑問が尽きない。そもそも、エヒト神は自分達を喚び出したのに、何故反応を見せないのか。
そんな悩みに頭を働かせていた愛子だったが、
「────畑山愛子様!」
突如、扉が開け放たれる。ふぇ!? と慌てた愛子先生であったが、部屋に入ってきたのが王国のメイドであることに気付き安堵を浮かべる。しかしメイドは安心する様子も見せず、愛子に駆け寄った。
「畑山愛子様!襲撃です!何者かが貴方様を殺そうと此方に向かっております!」
「え………襲撃、ですか?それに私を殺そうって、どういう………」
「時間がありません!私がお守りしますので急いで外へ───」
逃げましょう、とメイドが口にした言葉は爆発によって遮られた。入り口であった扉の前の廊下が、爆発で焼き尽くされ、メイド達が数人吹き飛ばされてきた。
「イルミ!シナ!ティノン!」
「───逃げて!コイツ、攻撃が効かない!」
吹き飛ばされた一人がそう叫んだ瞬間、無数の銃弾が炸裂する。殺されはしなかった、メイド達の体は予想よりも頑丈らしく、鋼鉄のように銃弾を通さなかった。しかし流石に銃弾の威力だけ抑えきれず、意識を落とされる。
そんな彼女の横を、黒ずくめの人物が通り過ぎた。黒に包んだフード付きのパーカーを羽織り、両手に特殊な形状の武器────この世界の人間は知らないが、グレネードランチャーとマシンガンという二つの武器があった。
顔を機械的なマスクで隠し、マスクの表面はモニターの液晶らしきもので覆われており、二つの眼を有したらしき光が点灯している。
「ッ!愛子様!お逃げください!」
「え、でも……!」
「私が時間を稼ぎます、ですからお逃げを!」
『────させると思うか』
ダダダッ!、黒フードの青年がマシンガンを乱射する。メイドに向けてではなく、立ち尽くす愛子先生に狙いを向けて。それに気付いたメイドが両手を交差させ、全ての弾丸を防いだ。
「っ!何て威力………!」
「大丈夫ですか!?」
「ええ!怪我はありません!愛子様の方こそお怪我は───」
『隙だらけだ』
後ろを振り向き、愛子先生の様子を確かめたメイドの真後ろから青年は蹴りをメイドの腹に叩き込んだ。しかし骨を砕くような一撃とは裏腹に響いた音は、金属を叩くような音であった。
『固いな。ドイツもコイツも、まともに殺せなかった。銃弾を受けても、流弾を撃ち込んでもな。何らかの魔法を肉体に付与しているのか』
「っ!」
『図星のようだな。ならば話が早い。どれだけ強かろうが───魔力を乗せた弾丸は防げないはずだ』
蹴り飛ばしたメイドが近くの壁に着地する。その隙に、青年はマシンガンを振り上げ、メイドに向けた。その直後黒い銃身に赤の光がラインとなって広がっていく。銃そのものに魔力が内包されたと思うと、
ズガガガガッ!! と、破壊力のある雨がメイドに降り注いだ。先程までのマシンガンの威力とは桁違いだ。魔力という異物が、科学の結晶たる武器に重なった瞬間、その破壊力は今あるステージを超越する。
魔力を帯びた弾丸の雨を受けたメイドは壁の遥か向こうで立っていた。メイド服はボロボロに破けているが、晒された素肌に傷は一つもない。
しかしそのメイドは平然とした様子で───口から血を吐き、崩れ落ちた。それを見届けた青年───イクスは変わらぬ声音で呟いた。
『………一応、本気で撃ち抜いたはずだが、無傷とは。この魔法の持ち主は相当優れているようだな』
青年がマシンガンの引き金を引くが、カチカチと空切るだけだった。どうやら弾切れになったらしい。しかし、彼がマシンガンを軽く持ち上げると、背中のバックパックに接続された装置が自動で装填していた。
ゆっくりと近付くイクスに、愛子先生は動けない。もし逃げれば迷いなく撃ち抜かれる。下手に動くだけで、殺される可能性すらある。
明らかに強張る彼女に額に、銃口が突きつけられた。冷たい鉄の感覚が彼女の肌に伝わる。呼吸すらその冷たさによって凍りかけたのか、出ることがない。
『─────質問する』
そんな彼女の様子を知ってか否か、イクスは淡々と問う。
『ファウスト、この名を知っているか』
「………ファウスト?」
そんなものに、聞き覚えがない。あるとすれば、よく創作物で出ている名前ということくらいだ。最近偶々見た特撮番組でそんな名前の組織があった気がするが、おそらくは関係ないだろう。
イクス自身も、彼女の様子からそれを察したのだろう。マスクの顔に軽く俯かせて、何事かを呟いていた。
『………やはり、誰も知らないか。奴もこの世界では名を変えて行動しているというべきだろうな。いや、そもそもこの世界の住人ではない奴等に聞くのも無意味な事だったな』
首を横に振り、イクスは「次の質問だ」と言う。イクスの呟きの内容、まるで自分がこの世界の人間ではないというような話し方をする彼に疑問を覚えていた愛子の意識が、その言葉を聞いて大きく揺らいだ。
『誰が、器だ?』
「………え?」
『あの人間達の中の誰が、「災厄の器」だ?』
意味が分からない質問だった。
あまりにも曖昧で、何の事を聞こうとしているのか分からない。しかし、彼女は冷静に考えた結果、その意味を理解した。
あの人間達。わざわざここまで襲撃して自分に聞いてくる理由。それだけであったが、彼女の中にあった一つの可能性が、頭の中に浮かんできた。
「あの人間達って………あの子達の事ですか!?」
自分と同じく、この世界に招かれた生徒達。非戦闘職の自分とは違い、戦場で命を賭けて戦っている子供達。イクスの狙いが彼等ではないかと、不安のあまりそう叫んでいた。
そんな彼女の問いに、イクスは答えない。代わりに、一発の銃声が響いた。
『───質問をしているのは、此方だ』
愛子先生の足元に撃ち込まれた銃弾。煙の出る弾痕、アッサリと引き金を引いたイクスの様子に、自分の疑問が事実だと確信する。
『言え、誰が『器』だ?お前達の中で誰が急激な成長を成した?特殊な力を有した人間は、誰がいる?』
「それを、知って………どうするんですか……?」
『殺す。「災厄」と融合される前に、肉体ごと滅ぼす。それが世界にとって最善のことだ』
平然と、命を奪うことを宣言する。イクスの言葉に愛子は、彼が本気であると受け止めるしかなかった。あまりの冷たさに冷や汗が滲むが、彼女は異を決したように、口を開いた。
「………言いません」
『何?』
「言いません!生徒達の事は!貴方に話しません!たとえ、知っていたとしても、生徒達を売るつもりは微塵もありません!私は、あの子達の先生です!どうなろうと、絶対に話したりすることは有り得ません!」
苛立たしそうに、イクスはマシンガンの銃口を強く愛子の額に押し当てた。それでも彼女は、毅然とした眼を変えようとしない。引き金に掛けた指を微かに震わせた青年が、絞り出したような声で言う。
『どうして、そんな眼が出来る………どうしてそこまで庇う。己の命が大事では無いのか』
「………私は」
『───いや、いい。聞きたくない。お前達に感情移入してしまえば、本来の目的が果たせなくなる』
自身に生じた迷いを誤魔化すように、イクスは頭を振るう。それで冷静になれたのか、彼は今度こそ感情の揺らぎを見せない。平然と、静かな声で告げた。
『「器」は殺した方がいい。それはその人間の為に言っている』
「ッ!簡単に言わないでください!」
『簡単に言っているのはお前だ。「器」として選ばれた者が、どんな末路を迎えることか。知りもしないだろうに』
それは、無知を嘲り笑い、侮蔑するような口調であった。何も知らないことを愚かしいと、それを知らぬことを哀れに思いながらも、どれだけ良いことかと羨ましく思っている。
未だ毅然とした振る舞いを隠さない彼女に、イクスは呟くように言葉を漏らした。
『────世界を滅ぼし、喰らい尽くすことに耐えられる人間などいない』
「…………え?」
『お前の意思の強さは結構だ。だが、お前の優しさで生かされた大切な人間達の誰かが、無数の呪いと祈りを受けることになる。世界規模の絶望と怨嗟を引き受け、神ならざる神になったソイツは、大勢の人間の命を奪い、他の世界も蝕むことだろう』
まるで、望まぬ悲劇が起こることを理解しているような言い方。どういう意味かと聞こうとした愛子であったが、イクスのマシンガンの引き金の指に力が入った。
『その心配は不要だ───お前はここで死ぬ、他人を案ずることも出来ない』
今度こそ本気である。向けられた殺意は、最早言葉だけで止まらないだろう。マシンガンを構えるイクスは表情を強張らせた愛子を見下ろし、憐憫に満ちた声音で呟く。
『優しさだけでは、人は、世界は救えない。残るのは、圧倒的な力と理不尽による、絶望だけだ』
「………っ」
『その覚悟に免じて、ここで殺そう。全てを失う絶望を味わずに済むように』
抵抗は許されない。愛子は目の前で引き金が引かれる瞬間を思い浮かべ、咄嗟に両目を閉ざした。脳裏に守るべき生徒達を見て、その時が来ることに気を引き締めた。
その瞬間、窓ガラスが外から破られる。イクスは愛子に向けたマシンガンを、すぐさま割れた窓の方へと構え、乱射した。
しかし、窓ガラスを破った元凶である禍々しい形状の魔剣が、槍のように投擲されていた。機関銃では落としきれず、弾丸の雨を打ち破った魔剣がイクスに激突した。
『───っ!?』
魔剣に吹き飛ばされたイクスが、壁に叩きつけられる。近くの部屋にまでぶち抜かれたイクスに崩れた天井や壁の瓦礫が降り注ぐ。
割り破った窓から部屋に踏み入った人物────刃は瓦礫の向こうで倒れているであろう敵を見据え、敵意に満ちた眼で告げた。
「先生に─────何してんだ、テメェ」
◇◆◇
「黒鉄……くん?」
「───おォ、先生か。怪我は無さそうだな、何よりだぜ」
呆然と此方を見る愛子の姿に、刃は安堵したように呟く。腰を抜かした彼女に、刃は手を差し伸べようと上げ───静かに戻した。自分の掌が汚れていることに気付いたのだろう。
「ほら、先生。早く逃げてくれよ、ここからは俺の本領だしな」
「逃げるって、出口の方にあの人を飛ばしたじゃないですか!?それでどうやって逃げるんですか!?」
「あ─────あー、さーせん。よく考えてなかったっす」
別に倒せばいいだろ、と楽観的に考えてた刃だが、そう上手くはいかないのが現実だった。
彼らの前で瓦礫を吹き飛ばし、イクスが起き上がる。両手の武装を軽々しく振るい、その一つであるグレネードランチャーを迷うことなく刃へと向け、榴弾を射出してきた。
(馬鹿が、んなもん避ければ─────ッ!)
直線的に飛ばされた爆弾を避けようとして、その狙いが何なのかすぐに気付く。上げた脚を戻し、床を踏み込む。飛来してきた榴弾を魔剣で真っ二つに切り裂く。
空中で爆発する榴弾により生じた黒煙。その向こうから、何発もの榴弾が飛来する。複数の黒い物体に目掛けて刃は持っていた魔剣をブーメランのように投げ飛ばし、空中で全て撃墜させた。
投げ飛ばした魔剣が弧を描き、剣の足元に突き刺さる。その魔剣に手を掛ける様子もなく、刃は愛子先生の前に立ち、イクスを睨み付けた。
「…………テメェ」
『何を怒ることがある』
イクスは平然と、そう言ってのけた。片手のグレネードランチャーを自動装填しながら、刃に対して告げる。
『相手と戦いでは、相手の弱点を突く。お前の弱点、隙はそこの女だ。戦いの最中でそれを狙うのは必然、合理的な戦術だろう』
「────合理的だからやるってか?気に入らねぇな、俺はそういうのはムカつく程嫌いだ。実際にやりやがったテメェもな」
『戦いに、何を求めている』
ガコン、とイクスがマシンガンを此方に構え、掃射しようとしてくる。その動きを感じ取った刃は足元にあった魔剣を引き抜き、空中で蹴り飛ばした。
イクスはそれを撃ち落とそうとはせず、逆にマシンガンを鈍器として利用し、魔剣を弾き落とした。その動きの隙を逃さず直進してきた刃はイクスにそのまま突撃し、窓ガラスを破り自身ごと身投げした。
窓から飛び降りた二人は空中で揉み合い、イクスがグレネードランチャーで殴ったことで刃が思わず手を離した。
すぐ下にあった屋根を足場にした刃とイクス。着地した二人は咄嗟に動くことはなく、互いに相手の動きを見合っている。
ふと、刃の視線が周りに向く。自然な動きであり、目の前の敵への警戒は緩めてない。それでも彼は気になったのだ。城の周囲の空気が、いや絶対におかしいことに。
(これは────結界か?)
紫色の壁が城を覆うように広がっている。外の様子も見れないことから、座学で学んだ特殊な結界だろう。外の奴等も気付いているかもしれないが、魔物の軍勢の対処で時間が掛かっているはずだ。
結界のことを気にしていることを悟られたのか、イクスはすぐにその事を話してきた。
『オレの仲間が張っている結界だ。当分破れはしない、誰も中を覗けない、相手が誰であろうと』
「…………」
『お前は強い。この状態では決め手に掛ける。故に、オレも「
そう言ったイクスのマスク、顔を覆う液晶に模様が浮かび上がる。直後、イクスの背後から食い破るように、ナニかが動き出す。
四本の、機械の腕。複数の関節を有したアームには各々別の武装、三本爪のクローアームが二対、他の二つは装甲タイプのシールドを取り付けたもの。
黒いフードを被ったまま、イクスは武器を有した両手を広げる。背中に連結した四本の機械腕がそれに連動するように、大きく腕を広げている。
「………ッ、クソ。どういう事だよ。もう異世界関係ねぇじゃねぇか」
その異様な姿に、刃は明らかに動揺する。イクスの纏っている装備とやらは、明らかにこの世界の代物ではない。間違いなく自分達の世界とも違う、別世界の技術だ。
「テメェ、何なんだ」
『………答える道理はない。無いが、どうせ殺すのだ。教えてやろう』
両手の武装を構え、イクスは告げる。その名乗り上げは正々堂々としたもので、高慢に変わり無いが、それでも規律正しく、誠意あるのは事実だ。
『オレは
「女神の使徒………滅却者、ね。なら俺も名乗ってやる。黒鉄刃、『剣帝』。テメェをブッ潰して、先生に謝らせる男だ」
二つの影が、結界に閉ざされた城を舞台として激突する。それは数秒も満たない時間で、火蓋を切られた。
◇◆◇
「─────魔剣!創造!」
掌に、創造した魔剣を収め、刃は駆け出す。剣を片手に、片方を無手で、両腕を交差させ、刃は兎に角イクスとの距離を縮めるために突き進む。
それに対するイクスの行動は単純、片腕で持っていた機関銃の弾丸を一気に掃射し、刃へと狙い撃つ。足元の屋根から少しずつ刃に照準を合わせ、撃ちながら向けていく。
走りながらイクスの攻撃に気付いた刃は無手であった方の掌を開き、魔力を収束させる。
「創造ッ!」
空中に形成される魔力が大きく、広がっていく。普通よりも大きな刀身をしたその刃物は、明らかに刃が作ってきた剣よりも大振りのものであった。
一メートル規模の大剣。刃の部分は最早刀身ですらなく、鋼の板というものだ。一瞬で創造されたその武器は刃の掌から離れ、屋根に突き刺さる。それで十分だった。
刃の前に立つ大剣は、銃弾の雨を防ぐ壁となる。無論、イクスの操る機関銃の威力は強力だ。魔力を込められてしまえば、破壊されるのも時間の問題だろう。
その合間に、何本か魔剣を創造する。大量の魔力を使い、丁寧に複数の機能を宿す魔剣を完成させ、それを腰のベルトに掛けるように差し込んだ。
面倒になったのかイクスがグレネードを撃ち込み、大剣の破壊を試みたその瞬間を狙い、刃は飛び出した。地面に着いた脚に力を込め、瞬間的に増幅させた筋肉をバネにすることで、一気にイクスの前へと近付く。
『っ!一体何のつもりだ!無駄な足掻きを!』
そう言い、イクスはマシンガンを持ち上げ───振り上げられた魔剣を防ぐために前に突き出した。これで一発防ぎ、今度はグレネードを直接撃ち込み、爆散させる。避けられようが、此方のペースに乗せてしまえばそれで終わりだ。
イクスの考えは叶わない。ガラスのように玉砕したのだ。文字通りの意味で。
刃が放つ魔剣の斬撃がマシンガンに触れた瞬間、マシンガンは両断されたのだ。銃身を、完全に破壊される形で。
『─────なッ!?』
さっきまでとは桁違いの威力に、イクスはマスクの奥で絶句する。彼の武装である機関銃は普通の金属よりも強固な、頑丈な性質で作られている。そう簡単に壊されるような柔な物ではない。
そんなイクスの目の前で刃が振るった魔剣が砕け散ったのが確認できた。先程の攻撃による余波か、或いは機関銃を壊したことに耐久力が持たなかったのか。
(……………待て、本当にそうなのか?)
疑問を覚える。それだけでは説明できない。何故これだけの力が突然発揮できたのか。黒鉄刃の強さは相当なものだが、装備を纏う自分と互角レベルだ。それが、自分を越える力を平然と発揮した。
何かあると疑うのが、普通だ。魔神という超常の存在を殺すための滅却者の頭脳が、いち早く相手の変化を探ろうとしていた。その為にも、ブラフとして敢えてグレネードランチャーを使う。
自分に向けられる武装の存在を感知し、刃は腰に備えていた赤い魔剣を構える。グレネードが装填されるランチャー目掛けて、刃は魔剣を突き立てるように放った。
当然のように、赤い魔刃はグレネードランチャーを貫通した。先程までとは違い、彼が造り出した魔剣と拮抗していたのが、嘘のように脆い。
赤熱した刀身を離した刃に、イクスはグレネードランチャーを刃の方へと投げつけた。屋根をバウンドした金属の塊らは熱を一気に高め、勢いよく爆裂する。
その威力と規模から、イクスは答えを見出だした。異常なまでに隔絶した出力の理由を。
『そうか!お前、魔剣の耐久性を削ったな!他全てを威力に底上げさせ、一撃必殺の
剣に関する最上級職である『剣帝』だからこそ出来た、裏技である。剣が一撃で壊れる程度の耐久力にまで引き下げ、それにより内包する魔力を破壊力に一点集中させる。それならば、イクスに届き得る攻撃も可能だろう。
『だが!壊せるのは、改造型の武装だけ!オレの「神器兵装」は簡単には壊せないぞ!』
イクスの言葉に応じるように、四本の機械腕が動き出す。まずは左側のアームクローが、そして右側の装甲シールドが連動したように振り上げられる。
装甲のシールドを有する右腕のアーム。重量を伴う爪撃に、刃は魔剣で防御することもせずに、そのまま飛び退いた。
空中に飛んだ刃を左腕のクローアームが捉える。カシャンと開いた鉤爪の付け根。砲身らしき部位に光が収束し、熱線が放たれた。
「──ッ!」
体を捻り、その合間に魔剣を造り出した刃が光線を受け止めた。光を反射する性質を持つ魔剣が、炸裂した光を周囲へと拡散する。
一通り光線を霧散させた刃の持つ魔剣が、一撃で壊れる。耐久力を下げてはいたが、一撃必殺を得るほどではない。ある程度耐久力を高めたはずであった、それがこうも通用しないとは思わなかった。
「ォ、オオオオオオオ!!!」
咆哮し、腰に差していた────刀身が紫色のエネルギーで構成された魔剣を掴む。腕ごと引き抜いたそれを空中で振り抜く。一瞬警戒を解いたイクスだが、直前で視覚化された斬撃を無抵抗で受けることになった。
仰け反るイクスだが、すぐに様子が変わった。マスクで覆われた顔を押さえ、何か呻き出しているではないか。
『ぐ、クソッ………マスクが────ッ!』
先程の斬撃が、液晶の仮面に傷を与えたらしい。内部にでも不調が起きたのか、イクスは破損したマスクを無理矢理引き剥がし、その場に投げ捨てた。
銀髪に赤い瞳が目立つ青年。彼は此方を睨み、忌々しい様子で呟く。
「クソ………流石に分が悪い────出来れば使いたくなかったが、やるしかないか」
それだけ口にし、イクスは腕輪の装置を軽く弄った。すると背中のバックパックが開き、何かが上空へと射出される。
小型のドローンらしきものであった。四枚の羽を付けたそれは空中で羽を大きく広げ、真っ赤なコアを起動させると同時に、周囲に赤い粒子を拡散させる。
赤い粒子が周囲に広がり、刃は口を塞ぐ。有害物質かもしれないという懸念故に、反射的な行動であった。ただでさえ、何かあるかもしれない。そう思い急いで離れようとしたが、
「──────がッ」
全身に小さな電気が走ったかと思えば、一気に手足から力が抜けた。地面に倒れ込んだ刃は立ち上がろうとするが、手足に力が籠らない。咄嗟に、掌に魔力を収束させ、魔剣を作ろうとする。
しかし、バチン! と魔力が火花のように弾けるだけで終わる。構成されるであろう魔剣は何時になっても完成せず、刃はその事実を直感的に理解した。
「───能力が、使えないッ!?」
「『A.A.フィールド』。この領域内では、もう貴様は能力を使えない。それどころか、満足にも戦えないはずだ」
四本の機械腕を操り、イクスはそう告げる。あくまでも独り言のつもりだったのだろう。ゆっくりと、立ち上がろうとする刃。力が吸われ、まともな行動も出来ないにも関わらず、彼は根性で立ち上がった。歯を噛み締め、一歩ずつ踏み込もうとする刃を見て、イクスは呆れたように一言。
「…………終わりだ」
ズシュッ! と、光線が放たれる。貫通するための高熱の光は立ち上がり、此方に掴みかかろうとしていた刃の腹を綺麗に抉っていた。
言葉にならない絶叫が、凄まじい激痛と視界を覆い尽くす血によってかき消される。最後の最後まで意地を見せて戦おうとした刃の意識は、強烈な痛みと苦しみによって断絶された。
善戦したけど、腹を抉られた主人公。致命傷レベルなんですよね、これ。
・『器』
文字通りの意味で器。何の器なのかは大体予想できるでしょう(謎の上から目線)
清水の今後について
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生存その1(生き残るけど戦えない)
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生存その2(護衛組の一人として戦う)
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死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
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意識不明の重体として途中退場