ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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覚醒

黒鉄刃という青年に親は、家族はいない。彼は小さな孤児院で、年下の子供達と共に育った。血の繋がった家族はいないが、彼にとってはその孤児院が家であり、共に育った子供達と優しい大人達が、掛け替えのない家族であった。

 

年長者として優しくすることを努めてきた刃は、今では考えられないような大人しく優しい人間であった。正直今と昔を見比べれば大勢が別人と疑うか、不気味に思うことだろう。

 

 

小学生になってから、近くの剣道場で幼馴染みであった八重樫雫や天之河光輝とも交流はあった。剣道を学んでいる最中でも、仲を深めていたが、孤児院の家族のためにも剣道をする余裕がなくなったこと、そして彼自身の個人的な理由で剣道を退いた。

 

 

それでも、喧嘩や暴力なんてものとは無縁だった。中学生の頃、同級生へのいじめを行う現場を目にするまでは。

 

 

『───止めろ!何をしてるんだ!』

 

いじめを咎めるように割って入った刃に、主犯の男子生徒達は不愉快そうにグチグチと文句を言い、離れるように促した。しかし、強い覚悟でその場から離れず、いじめを止めるように繰り返す刃に、我慢の限界がきたいじめの主犯達から殴りかかってきた。

 

 

だが、結果は目に見えている。昔から人並みに力があっただけではなく、剣道を学んでいた刃はその主犯達を意図も容易く無力化した。そのまま教師に引き渡し、厳重注意を受けた彼等のことを知り、刃はこれで大丈夫だろうと安心した。

 

 

────しかし、自分は愚かだったと後々から気付かされた。自分に勝てないことに気付いたいじめっ子達は刃を狙うのではなく、彼の住む孤児院の子供達を狙った。

 

 

『────ジン、兄………ごめんっ』

 

『う、うぅぅ………っ』

 

その一人、自分を強く慕っていた少年と少女。二人は町を歩いている最中、いじめっ子達に目をつけられ、八つ当たりのように一方的に痛めつけられたのだ。顔や体を殴られ、服を剥がれて辛そうに泣いた二人を、刃は必死に慰めて抱き締めた。

 

どうしてこうなったのか。間違いなく、自分のせいだ。生半可な覚悟であったから、皆に迷惑が掛かるとすら思わなかった、自分の無知が悪かった。激しく後悔し、安静にしている二人に何かを買ってやろうと街中を歩いていた刃に、そのいじめっ子が現れ、楽しそうに笑っていた。

 

 

『よぉ、あのガキどもは元気か?お前の代わりに可愛がってやったんだ』

 

『ハッ、警察は動きはしねぇよ。お前らみたいな家族もいない孤児院の子供が暴行を受けようと、本気で対処するはずがねぇんだの。当然、孤児院のガキが何人か消えてもな』

 

『これから学校でもお前のことを遊んでやる。だから抵抗すんなよ?もし反抗的だったら、今度はお前んとこのガキで遊んでやるよ』

 

 

ゲラゲラと笑い、悪趣味な言い方をする目の前の存在に、刃は絶望するしかなかった。どうして、何を間違えたのか。自分はただ、同級生を助けようと、悪いことを止めただけなのに。何故自分ではなく、家族の方が狙われなければならないのか。

 

必死に考えて、考えて、考えて─────刃は理解した。

 

この世界は、弱肉強食だ。強い者が弱い者を圧倒することが、実質的に許されている。弱者は抵抗することも許されず、泣くことしか出来ない。そして、誰もそんな弱者を助けようとしない。

 

今の自分達だけではない。他にも似たような人間が大勢いる。そう思うと、おぞましくて仕方なかった。平和な世界であるはずなのに、平等な社会であるはずなのに、そんな生々しいシステムだけが形となっているこの世界を。

 

 

そして、考えた結果、覚悟を決めた。

 

 

『───なら俺が、強者になってやる』

 

『弱者を傷付けるのが許されるなら、それが強者のやり方なら、俺はあらゆる強者の敵になる。自分より弱い人間を痛めつける奴等に、痛みを骨の髄まで教えてやる』

 

『弱者を圧倒する強者にとって、怯えにもなる絶対的な強者になる。誰も他人を傷つけられないように、恐怖と畏敬で恐れられる悪にでもなる』

 

 

甘さと優しさは、その時に捨てた。自分以外の大勢の人を、理不尽な暴力から守るという決意を胸に、彼は一度は望まなかった暴力を選んだ。

 

 

そして、その見せしめとして、自分の家族に手を出したいじめっ子達を叩き潰した。再起不能では終わらず、心まで徹底的にへし折った。鉄パイプで殴られもしたが、逆に奪い、それで滅多打ちにもしてやった。

 

 

それから、彼は学校でも───近くの地域でも恐れられる暴君として成り上がった。自分の存在を鬱陶しく思った不良やチンピラも平等に叩きのめし、その恐怖を知らしめた。自分のいるこの土地で誰かを傷付けたりしたら容赦しない、と痛めつけた不良に言い残していった。

 

 

多くの人から恐怖に満ちた視線で見られる刃だが、迷いはない。これでいい。自分という絶対的な悪がこの街にいれば、大抵の奴等は調子乗ろうとは思わない。もしそれで自分の怒りを買えば、徹底的にボコボコにされ、心も砕かれることは周知の事実なのだ。

 

たとえそれで、自分が周りからどんな扱いを受けようと、知ったことではない。興味も一つはない。彼が望むのは、ただ一つ。

 

 

『────もっとだ。もっと強くなる。そうすれば、誰もが俺を恐れる。そうすれば、誰も他人を傷付けない』

 

 

 

◇◆◇

 

意識が、転換する。

 

 

『────それでは、ダメだな』

 

『………あ?』

 

『そんな理由では、お前は強くなれないと言っている』

 

 

かつての記憶が、目の前で自然な光景として広がっていた。森の修練場で修行を行っていた刃は、目の前の剣士───王の剣が一人にして、王国最強の騎士である男、イガル・ハヤテの言葉に顔をしかめた。

 

無愛想な男の言い分に、刃は露骨に機嫌を悪くした。どうして戦う、何故力を求める。その疑問には、素直に答えた。だが、そんなハヤテから送られた言葉は、鋭い否定の言葉である。

 

 

『………いきなり何なんだ?俺が強くなりてぇ理由は話したぞ。それで、なんでダメ出しされなきゃならねぇんだ』

 

『ああ───訂正しよう。別にお前の強くなろうとする理由がつまらないだの、くだらないだの、選定しようとした訳ではない。重要なのは、お前の考え方の訂正だ』

 

『はぁ?』

 

 

思わず口に出た。何故考え方について一々指摘されなければならないのか、不満そうな刃だが、文句を口にすることはなかった。素直に話を聞く姿勢の彼に、ハヤテは話を続ける。

 

 

『───誰かの為に戦う、そのために強くなった奴は俺も何十人も見てきた。だが、それにもタイプはある。特別の個人を優先させる奴、自分が優れているから他を救おうとする奴────中でも筋金入り、自分以外の全ての為に尽くそうとする奴もいる』

 

 

思い当たることが多いのか、知人の事を思い出しながら語るハヤテは感慨深く、懐かしそうな顔であった。鋭く尖った瞳には過去を思い出し、古き記憶を慈しんでいた。

 

しかしその感情を消し去り、ハヤテはいつもの様子で語る。

 

 

『お前は後者の方だ、自分よりも他人の為に強くなろうとしている。随分と高尚な理想だ。しかしそれにも限界がある』

 

中々トゲのある言い方に、刃も露骨に顔をしかめる。流石に不満だというように、不満を述べた。

 

 

『言うじゃねぇか、そんなことじゃ力を求める資格はないってか?』

 

『違うな、力を求める資格なんて決められるものではない。俺が言いたいのは、お前は自分を軽く見ているということだ』

 

『はぁ?俺が?自分を?』

 

 

何言ってるんだ、と言い返そうとした。しかし細められた瞳が刃を見据え、心を見透かすように口を開く。

 

 

『実際にそうだろう。違うというなら何故、暴力を選んだ』

 

『………』

 

『目を反らすという選択もせず、逃げるという選択もしなかった。お前は、他者の為に力を求め、抑止力となることを選んだ。弱者を理不尽に痛めつけることを許さぬ、暴君として。その過程で、お前は苦しみ、傷付いたはずだ』

 

 

それに後悔してない刃の心そのものが、ハヤテの語る事実を肯定していた。きっと過去に戻れば、同じ選択をしたことだろう。

 

───そうすることで、理不尽な暴力から救われた人間が何人かいる。その事実が、刃の決意を深める要因であった。

 

 

『お前はそれを気にしなかった。自分よりも他者全体を優先した。自分が孤立しようとも、己の傷を抑え込んできた』

 

『────っ』

 

『お前はあくまでも、他人のために戦っている。それは懸命だ。だが、自分は───お前自身はどう扱っている』

 

 

無論、そんなことを気にしたこともない。自分より強い相手に、多勢を前に痛めつけられても、考えたのはどうやって奴等を倒すか。どれだけの苦痛を与えれば、彼等の心が折れるのか。自分が痛めつけられても尚、後悔や迷いはなかった。

 

 

『己を顧みず、他者を尊重する。それは歪で、果てにあるのは自己犠牲による死だ。お前を少なからず良く思う仲間達は、その最後に心を痛めるだろう』

 

 

似たような経験を持つ、先見者からの助言であった。同じような過去を経てきた彼は、忌々しそうに言葉を続ける。

 

 

『俺はそういう奴を知っている。誰よりも弱いクセに、誰かを傷付けるよりも、敵に手を差し述べてきた、とことん甘い女だ。アイツの心の拠り所になったクセに、最後までとなりにいることも出来ずアイツの目の前で死に、アイツの心に癒えぬ傷を遺した───馬鹿なハウリアの女を』

 

 

本当に不愉快そうに、その場にはいない誰かへの恨み言らしき悪態を吐くハヤテ。振り返り、刃へと本物の剣を向ける。喉元に押し当てた剣を動かすことなく、彼は考え込むように口を閉ざした刃に、言葉を贈った。

 

 

『お前はそうなるな。少しは己を、自身を大切にしろ。自分もまともに守れぬ奴が、誰かの為に戦えると思うな』

 

 

『己を顧みず、周りだけを救おうとするのは人形のすることだ。人形に救える命は限られる。心があるのならそれに従えばいい。だが、己を軽んずることだけは許さん』

 

 

『誰かの為に死に、誰かの為に死ぬ剣としてあるな。己の信念に準じ、全てを平等に救う剣帝になれ。お前には、その才能と素質がある。その力で多くの人を、己を救い続けろ』

 

 

 

『───お前のような人間にこそ、その資格がある』

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「…………ようやく、死んだか」

 

 

崩壊した屋根から部屋へと入ったイクスは、床に転がった血の池に沈む青年を見下ろす。腹を熱線で抉られたことで、出血は少ないが、それでも口から吐いたりしたものや僅かに流れ出る血は止められなかったのだろう。

 

 

イクスは少し沈黙した後、右手で十字を切った。その後掌を握り、胸に手を当て───囁くように呟く。

 

 

「───慈愛の女神が眷属、祈り捧ぐ」

 

「───どうか、この無垢なる魂が神々の楽園に導かれんことを」

 

 

そして、背を向けて立ち去ろうとした。ゆっくりと歩きながら、彼は考える。激情で行使したが、『A.A.フィールド』を使用したのは流石に早計すぎたかもしれない。この力も、魔神連合への切り札の一つだ。下手に力を明かすわけにはいかない。

 

これからはもう少し気を付けよう。確実に殺せる相手だけに、情報漏洩しない場所でしか使わないように心掛けよう。

 

そう思っていたイクスは、空に浮かぶドローンへと手を伸ばす。掌を掲げ、何らかの信号を送り、ドローンを手元に戻そうとした。

 

 

だが、次の瞬間。

赤い光を放ち続けていたドローンが撃ち落とされた。突如飛来してきた何かによって。

 

 

「────なに」

 

 

が起きた、と衝撃と驚愕が全身に浸透する。疑問が起きなかったのは、彼本人の思考が戦いに馴れようとしていたからか。突如起きた攻撃に、全身の機能が鋭敏なものとなり、即座に身構える。

 

 

ドローンを破壊したのは────一本の剣であった。銀色の装飾を有する儀式用の長剣。空中で制止したその剣は、イクスが睨んでいるのに気付いたのか、直後に剣先をクルリと此方に向けた。そして、此方へと凄まじい勢いで突っ込んでくる。

 

 

「ッ!オートディフェンサー!」

 

言葉に応じ、装甲シールドの機械腕が飛来する剣を弾き返した。空中で跳ね返された剣は、すぐに自由自在に動き回り、イクスの背後の機械腕の防御を掻い潜ろうと、何度か衝突する。

 

しかし大降りなアームクローの一撃を避けた直後、その剣はすぐさま攻撃を止めて別方向に加速していく。倒れていた刃に瓦礫が向かおうとしているのを防ぐように、飛んでいた。だがそれよりも早く、空から降り注いだ数多の儀式に使われる神聖な剣がそれを防いだ。

 

 

「─────」

 

 

生き絶えたと思われていた刃が指が動く。ゆっくりと起き上がった青年は何も言葉を出さず、口を開き────深く、息を吸い込み、吐き出した。

 

十本近くの突き刺さった剣が突如宙に浮く。まるで一つの力に操作されているように、十本の儀式剣は刃を中心に円を描くように、回転している。

 

 

膨大な魔力が、一気に膨れ上がっていた。腹を抉られた刃はその濃密な魔力を放出しながら、立ち尽くす。欠けていた肉体を補うように、濃い魔力の一部が部品となるように腹に収まっていた。

 

 

「…………馬鹿な、何故生きている」

 

「………」

 

「有り得ない、生きているはずがない。『A.A.フィールド』は相手の能力を封印する領域だ!この中に囚われた者は、どんな力も使うことができない!天職という力に固執する、お前達には抗いようのないはずなのに────何故、生きていられいるんだ!?お前は!」

 

 

その力をよく知っているイクスにとっては、本当に理解しがたい事実であった。現に能力を消され、天職という得意な力に固執していた刃はその不安定さにより身体から力が抜けて、腹を抉られる隙を与えたのだ。

 

それなのに、能力は使えないのに、何故生きていられるのか。どうやってドローンを撃墜したのか、困惑と疑問が尽きない。

 

 

「───知らねぇよ、俺だって」

 

 

そんなイクスの疑問を、刃は切って捨てた。近くに顕現させ、掴んだ魔剣を振り払うように。

 

 

「何で生きてるのか、さっきのが走馬灯かもしんねーけどよ。俺がやろうとしてるのは、ただ一つ」

 

 

口から垂れた血を拭いながら、覚悟の宿る瞳で目の前の相手を見据えた。

 

 

「テメェをぶっ潰して────先生に謝らせてやることだ」

 

 

「…………聞くだけ無駄だったな」

 

 

その戦意を前に首を横に振ったイクスは、鬱陶しそうにした。彼が両手を動かせば、背中に連結した四本の機械腕が蠢く。今度こそ刃を確実に殺すために、四つの武装が攻撃を始めた。

 

左右のアームクローから、閃光が煌めく。濃密に凝縮された熱線は近くの床を削り取りながら、刃の身体を両断しようと迫る。

 

 

「─────剣よ」

 

掌に、指先へと魔力が流れ出る。指先から空間へと溶け込んだ魔力が、空中で増幅と形成を繰り返し、新たな剣を造り出した。

 

造り出された二本の銀剣が、放たれた熱線を受け止める。銀色に光る刀身が光を吸収し、内側に溜め込むように輝きを強めた。

 

 

「ッ!レーザーを受け止める剣を造ったか!だがそれでどうなるとでも─────ッ!」

 

 

攻撃は終わらない。

刃は先程と同じように足元から地面の地脈に浸透した魔力を周囲に広げる。地面に浮かび上がった濃厚な魔力が赤色となり、地面に亀裂のように伸びていく。

 

 

イクスの足元にまで届いた魔力。彼がそれに気付き、機械腕を使い、飛び退く。瞬間、魔力の脈の先端の魔力反応が増長し、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「ッ!?」

 

 

異様な光景に思わず目を見開いたイクス。その彼に、無数の剣が集合した、巨大な塊が迫る。それを左右の機械腕のシールドで受け止めた。ガガガガガガガガッ!! と、剣が衝突する音には聞こえない、機関銃ような轟音が響き渡る。

 

 

シールドでの防御を行いながら、背中のバックパックに内蔵したエンジンスラスターを噴かし、急いでその場から離脱する。

 

無数の剣の塊は、生き物のようにイクスを追い回していた。このままなら逃げ切れると思ったイクスだが、背後から迫った何かに気付き、慌てて回避する。

 

それは、自分を追い回していた剣の塊と同じものである。無数の剣で形作られた巨大な(やいば)の触手が、一帯を支配していた。

 

空中から、地面から、魔力によって造り出された無数の剣達。宝剣であったり、魔剣だったり、様々な種類の剣が渦巻くその塊の上に立っていた刃は、勢いよく飛び出し、両手に握っていた双剣でイクスに斬りかかる。

 

 

イクスは背中に接続された機械腕のアームクローで、連続して放たれる双剣の斬撃を、弾き落としていく。魔力を内包した斬撃が実体を持つように空中に浮かび上がり、粒子となって消えていく。

 

振り下ろされたアームクローで砕かれる刀身。刃は双剣の柄を捨てることなく、そのまま勢いよく振るう。刀身を失った剣に強い魔力を流し込み、砕かれた(やいば)を新しく換装し直す。

 

一瞬の、数秒の動きだった。あまりにも洗礼された、人間のものには見えない動作に、イクスは愕然とするしかなかった。

 

 

(コイツ───さっきまでとは違う、能力の使い方も、魔力の動かし方も、全てが桁外れになっている!そうか、そうだな!)

 

 

何が起きたのか、冷静なイクスの脳の一部が混乱を起こしていた。加速する思考の中で、彼はその原因を捉えようとして、周囲の情報を集める。

 

そこで刃の顔が視線に向いた。黒髪の下に隠れた────狂暴な笑顔と、何も見ていない瞳を見て、彼は確信する。

 

 

(意識が、覚醒状態に入っている!死にかけたことで目覚めた意識が、あらゆる感覚を鋭敏化させている!どうして覚醒した!?まさか奴の魔力が、奴自身の精神を響かせたのか!?)

 

 

そういう事例が無いわけではない。自らの魔力によって、思考が活性化される現象。『魔力酔い』や『暴走』などということがある。しかし、目の前の青年にはそれらの現象が当てはまらない。

 

 

彼の肉体に流れる魔力が───人間のレベルを越える、純粋な魔力なのだろうか。それが彼の意識に接触したことで、半ばトランス状態に陥ったのか。どれだけ考えても、目の前の状況を正しく理解できる答えは見つからなかった。

 

 

彼は知らない、刃も知らない。刃のステータスで最も高かったのは、筋力ではなく、魔力。人間の限界である100という数値を軽く越え、5000という桁であった彼の魔力はレベルの上昇に比例して万の桁を越えていた。

 

 

『剣帝』の天職は、魔力を大きく消費する。だがそれでも基礎的な数値としてはレベル1の時は500が歴代にとっても普通である。つまり彼は歴代の『剣帝』達とは違う何か特別なものを内包していたのだ。

 

 

人間を遥かに凌駕する魔力を内包し、無数の剣を操る刃。彼は剣帝の言葉の通り、無限の剣を生み出し、それを容易く支配してみせた。そんな相手にどう対抗するか、イクスにとって答えは一つしかない。

 

 

「───正面突破だ。お前を殺す、それだけだ」

 

 

イクスは左右のアームクローを動かし、出力を限界まで引き出す。身構えたイクスはエンジンスラスターを動かし、全速力で飛び出していく。

 

 

対する刃も同じ思考だったのだろう。立ち上がった刃は双剣を両手で持ち────長剣へと形を改造させる。刃は掌を翳し、無数に浮かぶ剣を此方へと引き寄せた。

 

 

「────全剣、分解。魔力統合───十宝剣、装填」

 

 

空中に浮遊する無数の剣が、刃の言葉によって粒子となって消え去る。残された粒子、魔力は周囲の魔力と結合し、人並みに大きな剣の形を形成し────神々しい白と黒の剣を十本も造り出した。

 

空中で静止し、剣帝たる刃を囲み指示を仰ぐ十剣。彼はその中心に立ち、手に握る片手剣を掴み直し、振るい構えた。

 

片手剣を空に向け、鍵を差し込むように捻り───告げる。

 

 

「─────抜剣」

 

 

彼を囲む十の宝剣が、一斉に逆さとなる。剣先を同じように空に向けた十剣は、刃の振るう片手剣に従うように、動きを変えていく。

 

 

「─────『剣よ、帝王の前に舞え(ソード・オン・スタート)』」

 

その詠唱に従い、直後十本の剣が射出された。爆発したように加速したイクスに目掛けて、十本の剣が隕石のように飛来する。

 

 

イクスは迷うことなく、両方のアームクローで壁や床を抉る。振り上げたクローが瓦礫を持ち上げ、砲弾のように目の前を多い尽くす。大半の剣がそれに遮られ、イクスから離れた場所に着弾する。

 

 

それで迫る剣を、アームクローが薙ぎ払う。生身の人間を砕くほどのパワーが込められた機械腕の薙ぎ払いを受けた剣は大きく弾かれ────空中で制御を取り戻し、再び突撃を開始する。

 

全方位から迫り、踊り続ける剣の斬撃。止めなく繰り返される鋼の円舞(ワルツ)に、イクスは正面へと突き進むことを選んだ。

 

なりふり構わず突き進み、刃を狙うことにしたイクス。それに気付いた全ての剣が攻撃を行うために構えを取る。しかしそれよりも先に、刃の言葉が響き渡った。

 

 

「─────『剣よ、帝王の元に集え(ソード・オン・ゲイザー)』」

 

 

その命令を受けた複数の剣が攻撃を停止し、凄まじい速度で機械腕を振り下ろすイクスの前へと加速する。刃を守るように交差された三つの剣刃。

 

 

空に浮かぶ剣を自在に操る刃。潤滑され研ぎ澄まされた本能と、濃厚かつ純粋に満ちた魔力によって、これだけの力が実現されたのだ。

 

 

機械腕による攻撃を繰り返そうとしたイクス。しかし彼氏の周囲を、十本の宝剣が囲んでいた。円を作り、イクスを中心に回転する剣達は─────片手剣を振り下ろした刃の命令によって、動き出す。

 

 

「─────『全剣刃(ソード)多重斬撃円舞(タクティカルワルツ)』」

 

 

ザザサザザザザザザンッッ!!!! と、無数の斬撃が円形の中にいたイクスに襲いかかった。十本の剣が空間そのものを切り裂くように、ただ自身を回転させながら、全ての範囲にあるものに剣刃を浴びせ続ける。

 

それがどれだけ続いたか、悠久の時に近い斬撃の円舞(ワルツ)は、中心にいたイクスが膝をついたことで静止した。

 

 

「────が、はっ────」

 

背中に接続されていた機械腕が、鉄屑のように崩れ落ちる。周囲に転がる部品や破片に晒され、黒いフードをズタズタに裂かれたイクスは、銀髪と赤い瞳を晒しながら、剣を統べる青年を見上げた。

 

 

そして、平然と立ち尽くす剣帝に顔を歪め、イクスは今までの余裕すらない、汗の滲んだ顔で心底悔しそうに告げた。

 

 

「……………化け物めっ」

 

 

その言葉が響いた次の瞬間────彼を囲む剣が虚空に消えた。突然の事に驚いたイクスだが、彼の目の前で刃が震えているのに気付く。先程の言葉が余程心に来たのかと、妙な心配をしたが、実際は違った。

 

 

青ざめた顔のまま、刃は崩れ落ちる。彼が造り出した剣が音もなく消え去り、消失していく。その様子を見通したイクスは、確信したように呟く。

 

 

「────魔力切れ、どうやら覚醒状態で魔力の消耗に気付かなかったようだな」

 

「………っ、…………っ!」

 

「複雑、だな。これだけ善戦をした相手を、オレは今から殺す。いや、殺さなければならない…………お前のような強敵を残しておけば、きっと次の機会は無い」

 

 

傷を受けながらも立ち上がったイクスは魔力を枯渇させ、立つ余力すら無い刃へと近寄る。片腕をゆっくりと空中に伸ばし、何かを掴むように力を込めたイクスは、目の前の青年に敬意を払いながら告げた。

 

 

「────許せ、黒鉄刃。負けた身でありながら、お前を仕留めようとするオレの愚かさを」

 

 

 

 

だが、そのイクスが何かを空間から引きずり出そうとした次の瞬間。

 

 

 

 

 

「─────そこまでだ。侵入者」

 

濃い紫に染まった空が、城を覆い尽くした結界が、砕け散る。周囲に舞う紫のガラスのような破片。その領域を塗り返すように、紫の空が、暗い夜空へと変わり果てる。

 

 

手を伸ばしたイクスの前に、人が現れた。唐突に、その場に移動してきたのだ。槍を携えたその人物は堂々とした態度でありながら、目の前のイクスを射貫く圧倒的な存在感。

 

 

「これ以上、オレの客人への不届きは赦さん」

 

ハイリヒ王国現国王、エリュシオン。彼が倒れ伏した刃を庇うように、その場に君臨していた。マントを大きくひるがえす王を前に、イクスは目を細めながら口を開いた。

 

 

「…………エリュシオン。ハイリヒ王国の国王、そして『解放者』の意思を継ぐ次世代の者か」

 

「ふん、そこまで知り得ているか。ただの賊では無さそうだな。オレの城に踏み込み、オレの臣下と客人に手を出した不届き者。何が用か、特別に聞いてやる」

 

「用があるのはお前じゃない───お前の庇護下にある人間達。異世界から招かれた奴等だ」

 

 

眉をひそめるエリュシオンは、イクスは何かを告げた。気を失いかけ、朦朧としていた刃には何も聞けなかった。だがその言葉を聞いた瞬間、エリュシオンの顔に複数の感情が過ったのだ。

 

────衝撃、疑惑、そして激しい怒りが。

 

 

「────成る程、それが奴等を狙う理由か。理には叶っている─────だが、気に食わん」

 

「……………誰にも理解されるつもりはない。オレは『滅却者』として、最善の行動をする。それが、オレの生かされた理由だからだ」

 

「─────貴様の愛した女神が、それを望んでいるとでも?」

 

「あの人は、きっと悲しまれるだろう。だが、それでもいい。オレは魔神連合を、全ての魔神を滅ぼす。それこそが、最後の滅却者たる────オレの覚悟だ」

 

 

そう言ったイクスの姿が、光に呑まれるように消え去った。その様子を見届けたエリュシオンは吐き捨てるように、「全く、考えることが多いな」と呟き、振り返る。

 

 

「セノ」

 

「はっ、此方に」

 

直後にその場に現れたメイド長 セノ。手に持っていた槍で倒れ伏した刃に魔力を送り、軽めの魔力を与える。顔色が少しだけよくなった青年を見下ろし、強い口調で言う。

 

 

「黒鉄刃を医療騎士団に引き渡し、緊急手術を行わせろ。絶対に死なせるな。その者は、オレ達の作戦の最大の功労者だ。死なせることは王国の、永久な恥となると思え」

 

「畏まりました。何に変えましても、必ず間に合わせてみせます」

 

 

そう言い、シノは倒れた刃を抱え上げる。魔力で補った抉られた腹の傷が開いたのか、純白なメイド服に血が滲む。その事すら気にせず、彼女はその場から飛び去っていく。

 

 

そんな彼女のことを見届けることなく、だいぶ壊れかけた城の上に立つエリュシオン。王国を見渡した彼は険しい顔で、空を見上げた。

 

 

「…………この世界には、敵が多すぎる。神を倒したとしても、オレ達には脅威が多すぎる。魔神連合、四体の魔神。魔神殺しの滅却者。そしてまだ増えるだろうイレギュラー。

 

 

 

 

この事態を引き起こしてくれたエヒト神…………会えることなら半殺しでは済まない、解放者達の分までぶち殺してやるぞ。クソッタレの邪神め」

 

 

全ての原因であるにも関わらず、舞台から逃げ去り隠れた神への怒りを煮え滾らせ、エリュシオンは槍を握る力を込めた。激しい鬱憤と、殺意を宿しながら。

 

 

 




何ならこの作品で起きてる問題の元凶のエヒト神。そのクセに自分達の世界の事情を解決させるために、ハジメ達喚ぶとかこの神面の皮厚すぎる。

勝手に魔人族惨殺して、ぶちギレて仕掛けられた戦争で返り討ちにあって、ピンチだから勇者喚ぶとか神様の恥さらし過ぎるんですけど。


エヒト神の行動(ざっとこんな感じ・作者の翻訳有り)


エヒト「あーあ、自分の眷属がやられてから大魔王とかいう奴が調子乗ってるな。よし、退屈だし戦争起こすか(迷案)ヘイ人間達、奴等の町を焼き払ってきてー」

教会による魔人族大量虐殺後

エヒト「はは、魔人族の奴等戦争する気満々だ。これはあいつに動かさせるよりかは面白くなるかも…………ん、なんか魔神連合とかいう自分の差し置いて神を名乗る連中がいる。流石に感化出来んし、これは人間使って滅ぼさんとな…………ん?魔神?自分と同じレベルの神?は?(真顔)」

大戦終了後(教会含む連合惨敗・エヒト神瀕死)

エヒト「し、死ぬ………っ!殺される………っ!何だアイツら、強すぎだろ!?魔神一人でこんな目に遭うとか、聞いてねぇよ!は?まだ三人いる!?無理無理!勝てるわけねぇだろ!大人しく逃げ隠れるわ!(敵前逃亡)」


原作が始まる少し前。

エヒト「自分じゃ勝てないんだよ、魔神とか。アレは無理だわ、自分への殺意しかない。あんだけの化け物になるとか、一体何があったのやら(無自覚)………よし、別世界の人間に何とかして貰おう!元々魔神も別世界から来た奴もいるし、セーフだろ。勇者とかにしたら、なんとか倒してくれないかねー。ま、勝てなくてもその間に別世界に逃げるからいいか(鼻ホジ)」


これは邪神(確信)どっかのポケモンの世界で未来から主人公拉致って過去に送る全能神よりも最底辺突き抜けてますわ。


清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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