ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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新たな目的

王都から立ち去るように歩いていく刃。城を背に歩く彼は腹を片手で押さえながら、平然と人々のいる道を進んでいた。

 

 

「───黒鉄刃」

 

 

そんな彼を呼び止める者が、目の前にいた。王都を抜け、街中にある城塞の門。普通ならば門番がいるべきその場所には、自分の名を呼ぶものしかいない。

 

深く被ったフートで顔を隠したその人物に、刃はすぐに気付いた。

 

 

「…………エリュシオン陛下か」

 

相手は答えることなく、無言でフードを脱いだ。金髪碧眼の男性は静かに、門を塞ぐように立っている。街を歩く人々は王の存在に気付かないのか、或いは気付かさない力が働いているのか誰一人として反応する様子はない。

 

 

「───今はエラやリリアーナに任せている。お前と話をしておくためにもな」

 

「…………悪いが、俺は話してる暇はない。一刻も早く、ハジメを助けに行く」

 

「オルクス大迷宮にか?それこそ無理な話だ」

 

「何故」

 

「今、大迷宮の入り口は占拠されている。『魔神連合』の魔人将によって」

 

 

自分の配下達からの報告を受けたのだろう。エリュシオンは淡々と、丁寧に話していく。

 

 

「【覇竜軍】の魔人将、『魔獣使い』カトレア、『狩兵長』ルドガー、『凶戦士』ヴェリオーン。奴等が率いる魔物の軍勢が、オルクス大迷宮の入り口を封鎖している。おそらくは、岸上咲夜達の報告にあった、奈落に落ちた魔王ガイアドゥームを連れ戻す為だろう。何より、もう一人の魔王が動いている可能性がある」

 

 

その魔王は、覇竜軍を従える最強の魔王。魔王の中で誰よりも人類殲滅を志す、龍の王。奴がその場にいるのであれば、きっとオルクス大迷宮に踏みいることすら出来ない。

 

それでも、諦めるという選択肢は刃には存在しなかった。

 

 

「何人敵がいようと関係ねぇ、奴等を突破して潰す」

 

「───それは困る。お前が下手に動けば、南雲ハジメが無事な未来が変わってしまうかもしれん」

 

「………………あ?」

 

 

断言するエリュシオンの言葉に、思わず声をあげた。一体何を言っているのか。まるで未来が見えているかのような、その未来で無事なハジメがどうなるか分からないというような言い方は。

 

 

「───まず補足しておく。これはオレの魔法の応用であり、限られた力である。だからこそ、あまり簡単には使えなかった」

 

「…………何を」

 

「『星見の瞳(アリスト・レア)』、オレの瞳を媒体として発動する擬似的な魔眼だ。この魔眼は本来、他者や周囲の生物の視覚を支配するものだ────しかし、誓約によって特定の人間の未来を見据えることも出来る」

 

 

そう言いながら、エリュシオンは閉ざしていた片目を開く。その奥にある瞳は碧眼ではなく、暗く深い宇宙のような黒に染まっていた。無数に星のような光が浮かび、それが止まることなく蠢いている。

 

 

「結論から言おう────数ヵ月後、南雲ハジメはオルクス大迷宮から脱出する。一人、興味深い仲間を連れてな」

 

「ッ!?ハジメが、か!?アイツ、生きてられるのか!?」

 

「五体満足は厳しいだろうな。オレが見た限り、片腕と片眼を喪失しているようだが…………片腕は、義手になってる。それに白髪、どうやら肉体も変化しているようだ」

 

 

言外にハジメが無事ではないことを知り、青ざめる刃。しかし即座に顔色を変えると、振り切るように前へ進もうとする。そんな刃をエリュシオンが制した。

 

 

「止せ、お前が行くと未来が変わるかもしれない」

 

「………未来ってのはそう簡単に変えられるもんなのか?」

 

「まぁな。オレの見た未来では南雲ハジメともう一人がオルクス大迷宮から出た景色が映ってる。お前が行けば、それがどうなるかも分からん」

 

「何だよ、未来が変わるなら良いじゃねぇか。アイツを無事に連れて帰れるかもしれねぇ」

 

「────良い未来に変われば、な」

 

 

あ?と睨もうとした刃は、呼吸を止めた。そう言うエリュシオンの顔はあまりにも後悔に染まっている。思わず手を止めた刃に、エリュシオンは話を続ける。

 

 

「オレの未来視は、何も万能ではない。未来を見れるからといって、必ず変えた未来が良い方に動くわけではない。場合によっては、最悪の未来へと変わる可能性すらある」

 

「………どうしてそう言い切れるんだ?」

 

「────オレが未来を変えた結果、相棒が死んだからだ」

 

 

後悔に満ちた表情の理由を、理解した。同時にその事を話させてしまった自分の愚かを悔しく思う。もう少し、彼のことを信用していれば、そんな辛いことを思い出させることはなかった。

 

だが、すぐさま考え直す。エリュシオンが自分にオルクス大迷宮に行かせたくない理由、それは───。

 

 

「つまり、俺がハジメを助けに行って、迷宮の地下でハジメと合流したら────」

 

「運命はねじ曲げられ、予想だにしない運命を迎える。その結果がどうなるかは俺も分からん。………だが、最悪な可能性は少なくない。オレの相棒が死んだも、不確定要素によるものだった」

 

 

ならば、だ。エリュシオンは可能性よりも確実性───ハジメが生きている未来を優先したのだろう。下手に助けに行けば、ハジメか別の誰かが死ぬ可能性があるから。

 

無情にも見えるが、仕方ないとは思う。彼は王であり、多くの命を守る立場にある。その為にも、割り切りや選別も何度起こってきたことか。だからこそ、今回もそうするしなかったのだろう。

 

悩むように黙っていた刃だが、どうしようもないというように自身の髪をかきむしる。

 

 

「あー、クソッ。分かりましたよ。俺が考え無しでした」

 

「いいや、親友を助けに行くことに理由があるものか。むしろ責められるべきは、オレの方だろう」

 

「…………けど、じゃあ俺はどうするべきっすか。俺、あいつらから離れるって言っちまいましたし、今更戻るつもりもねぇし………」

 

 

あんな大口で、失礼なことも言った今更どの面下げて会えばいいのか、刃の心境は少し暗いものであった。これからの行動を考えていた刃に、エリュシオンは覚悟を決めたように切り出してきた。

 

 

「─────なら、お前に頼みたいことがある」

 

「俺に?」

 

「オレには果たせなかった、彼等との約束がある。それをお前に任せたい」

 

 

それはいいが、自分に任せていいのか。そう聞こうとした刃だったが、それよりも先にエリュシオンは何かを投げ渡してきた。

 

 

「聖教教会の支配が届かぬ領域の一つ───清浄なる青き水の国『スティシア』。そこを統べる女王にこれを届ければ、全てが分かる。」

 

 

受け取ったそれは小さなクリスタルであった。何らかの魔力が込められてる物を受け取った刃だが、ふと気付いたように疑問を呈した。

 

 

「待てよ、王様。女王様とやらに会うのは良いんだが、素直に会わしてくれるもんかね」

 

「“原初の神々”、こう伝えれば彼女は理解してくれるはずだ。お前に頼む約束も、その時に明かそう」

 

「────ま、ここまでして貰って断る理由はねぇもんな」

 

 

クリスタルを腰のパックに仕舞い込んだ刃。じゃ、任せろと言いながら歩き出した彼を、エリュシオンが再び呼び止めた。

 

 

「待て待て、一人で行くつもりか?」

 

「あ?いや、そうだが………」

 

「───流石に一人は心細いだろう。二人、お前に同行する仲間がいるだろう?安心しろ、此方も紹介できる奴がいる」

 

 

◇◆◇

 

 

「……………仲間、ねぇ」

 

 

ついさっきまで話していたエリュシオンの言葉を思い出しながら、刃は街の大通りの腕を組んで待機していた。エリュシオンが紹介したいという、仲間を待っているのだ。

 

 

「………俺みたいな奴と仲良くする物好きなんているのかね」

 

 

暴君として、抑止力として、多くの人から怖れられてきた青年は、そう呟きを漏らす。そんな彼を怖れずに過ごしてきたクラスメイト達のことも思い出すが、あくまでもそれは過ごしてきた日々があるからこそであり、初対面の人間の大半は自分のことを怯えるだろう。

 

当然、自分の情報があまり広がってないこの世界で、怖れられるかと言われると難しいと思うが、やはりそんな疑念が浮かんでしまう。

 

 

そんな風に考え事をしていた刃だが、ふと自分の隣に誰かいることに気付いた。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

(何だ、こいつ)

 

 

刃の隣に立っているのは、黒髪ポニーテールの少女である。口元を布で隠す彼女は全身を黒っぽい色の服装で着込んでおり、その姿は暗殺者に近い風貌である。影に潜む暗殺者がこうして堂々しているのか、と困惑が過る。

 

沈黙を貫き通す少女に、刃もどうするべきか悩んでいた。此方から声をかけるかと思った刃が、困ったように口を開く。

 

 

「あー、えっーと。アンタが、王様の紹介してくれた人であってんのか?」

 

「……………うん、エリュシオン陛下の事なら………合ってる」

 

 

無表情で、少女は肯定した。あまりにも平然としていて、逆に困惑した。同時に、本当に王様が紹介したい仲間なのかと、疑念が生じてくる。

 

しかし、ここで疑うことは間違いだと考えを改めた。それは彼女やエリュシオンに対する侮辱であり、失礼な行いだと自身の態度を恥じていた刃に、少女はヒッソリと呟くように話していた。

 

 

「貴方、私のことを……知らない………けど、私は………違う………貴方のこと………姉様から聞いてる………」

 

「姉様?生憎だが俺は────」

 

 

アンタの姉は知らない、と言おうとしてある事に気付いた。顔半分を隠した少女の顔立ちが、ある人物と類似していると。脳裏に浮かび上がったとある人物を思い出した刃は、思い出したように口を開いた。

 

 

「いや、アンタ。まさか………セノさんの妹さんか?」

 

 

コクリ、と少女は頷いた。確かに無表情なところも同じだとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。それ以前に彼女の素性に関して気になっていたので、試しに聞いてみた。普通はそういうことに答えるとは思えないのだが、彼女は平然と答えてくれた。

 

 

「………私達、暗殺者の一族。けど、守り人でもある………一流の暗殺者として成長した一族の者は………主と認めた者に仕える習わし…………姉さんも、エリュシオン陛下に仕えてる…………けど、私は………陛下から、貴方の力になって欲しいって、頼まれた………」

 

「…………そうなのか」

 

納得しかけたが、途中で首を横に振った。彼女がそう言っているが、本人はそれでいいのか。彼女自身が望んでいる事なのか、確かめるべきだと思う。

 

 

「アンタは、それでいいのか?俺みたいな、得体の知れない奴の為に力を貸すなんて」

 

「…………?主となる人間に尽くすのは、一族の掟。疑問はない」

 

「…………………うん?」

 

 

なんか理由になってないどころか、話が勝手に進んでいる気がしている。何を言っているのか、呆然としていた刃は正気を取り戻し、慌てながら聞くことにした。

 

 

「いや、待て。待ってくれ。主となるってどういう───」

 

「…………挨拶、忘れてた。私、シノ。よろしく、主様」

 

「待て!待て待て待て!今挨拶する場合じゃねぇ!?ってか何だよ、いきなり!?事情が呑み込みねぇ!?」

 

 

この少女はマイペースというより、天然に近いのだろう。どちらかというとペースを掴みかねない。そもそもどうして自分が主になるのか、その理由を聞いてみたが、彼女は以下の通りである。

 

 

「私、主となる者に仕える一族………主以外の者に、力は貸せない。だから、私が貴方に力を貸すためには、主になって貰うしかない」

 

「な、何だその理論………横暴すぎだろ」

 

「…………もしかして、私じゃ不釣り合い?………姉様みたいに、役に立てない………?」

 

「───いいや、不釣り合いなのは俺の方だ」

 

 

不安そうな彼女に、刃は思わず言葉を被せた。ふと驚きながら見返す彼女の前で、彼は自虐するように言葉を紡いでいく。

 

 

「俺って奴は、見て分かるだろうが暴力的な奴だ。誰かを守るためって理由で暴力を選んで、力を求め続けたクセに、近くいた女の子も────親友も救えなかったクズが、この俺だ」

 

「…………」

 

「軽蔑したろ?俺はアンタが主と認めるようなイイ奴じゃねぇ。アンタが尽くすべきは、俺なんかとは違う────誰よりも優しい奴にするんだな」

 

 

あの時、スピカなる少女を救えなかった。そして、その場にいなかったことで、親友を助けることが出来なかった。仕方なかったという言葉では取り繕えない。結局目の前にあるのは、何も出来なかったという結果論だけ。

 

 

そんな風に語り、背を向けようとする刃。だが少女、シノは納得したように口を開いた。

 

 

「優しい人…………それなら、やっぱり………私の主は、貴方」

 

「はぁ?」

 

何を言っているんだ、話を聞いてなかったのか、と言おうとした刃だったが、彼女の次の言葉に思わず口を閉ざした。

 

 

「姉様、言ってた。貴方………優しい人だって」

 

「…………」

 

「誰かを守れなかったことを、自分の弱さを受け入れてる人だって。私、それが本当か信じてなかった………けど、分かった。貴方が本当に、陛下や姉様が認めた優しい人だって」

 

 

違うと断言しようとしたが、それこそ無粋だと思う。ここまで言ってくれた彼女の言葉を否定する権利が自分にあるのか。彼女が思う考えを否定する理由が、自分に存在するのか。悩んだ結果────刃は諦めたように一息吐き出した。

 

 

「………分ぁーったよ。アンタが思うなら勝手だ。けどよ、主なんて簡単に決めんなよ。本当に主に相応しい奴に取っとけ」

 

「そういうこと………でも、私の主はもう決めてる」

 

「はぁ………ホント、片意地が過ぎるっての」

 

 

溜め息を漏らした刃は何時ものような刺々しい態度は感じられず、疲れたように肩をすくめるだけである。それから少し黙っていた刃はあることを思い出したのか、ん?と顔をしかめた。

 

 

「なぁ、シノさん………」

 

「シノでいい、何?主様」

 

 

 

「主じゃねぇし………ってか、そもそも。王様の紹介したい人ってのは、アンタだけか?」

 

「いやもう一人いる─────ほら、あそこに」

 

シノが指差したのは、店の隣に山のように置かれた木箱の方である。そこから覗き込むように、誰かがいる。明らかに。

 

 

 

「あ、わわわ………何か不穏そうでしたけど、もしかして修羅場ですか……?さ、流石に不安です………」

 

 

「………どうするよ?怯えられてるけど」

 

「当然…………声を掛けに行く。逃げるなら、捕えるだけ」

 

「過激だなオイ」

 

経歴を知るクラスメイト達から「お前が言うな」と言われそうな事を宣う刃。彼はシノを連れ、気付かれてないと思い込んでる少女に近寄っていった。

 

 

◇◆◇

 

 

まず、その少女に声を掛けた瞬間、凄い勢いで悲鳴を上げてきた。流石にそれは失礼だろと思うが、自分の人相が悪すぎたか、或いは思考している間に近付かれてることに驚いたのか、泡を吹いてぶっ倒れた。

 

どうやって起こすか四苦八苦している中、シノが軽く頬をつねって少女を起こした。困惑している刃の前で、事態を理解できない少女に今までの事を話したあと、彼女からの話も聞くことにした。

 

 

「ええっと、私は………ラナール・ピーナ。医療騎士団序列五位の治癒騎士です」

 

 

治癒騎士。

その名は、座学で知ったものだ。治癒師や医療関連に携わる者が多い医療騎士団が生み出した、称号の一つだ。回復系統の天職を持つ者は基本的に戦いが得意ではない。

 

だが、エリュシオン王のもたらした技術によって、天職を擬似的に改造させることが出来た。後方支援が主と言われてた天職を戦闘向きにすることで、戦える治癒師(ヒーラー)を量産したのだ。

 

それこそが、治癒騎士。戦場を動かす攻撃タイプのヒーラー。二つの役割を切り替えることで、自在に戦況を変えられる彼等はハイリヒ王国だけの技術で生まれた特別な存在であった。

 

 

「もしかしてだけどさ、アンタも王様に頼まれた口か?」

 

「あ、はい!正確には、ヒナ団長からですけど………貴方のサポートに必要だって」

 

「?何でだ?」

 

「え、だって…………貴方、まだ怪我人じゃないですか」

 

 

言われて、自分が腹を抉られたことを思い出す。痛み止めの薬草で何とか凌いではいたが、自分の腹の傷はまだ完治すらしていないらしい。

 

話によると、自分が抜け出したことを知った医療騎士団は混乱し、団長のヒナは憤慨していたらしい。重体の人間が普通に行動していることを知った彼女は、すぐさま刃を連れ戻そうと動いたようだ。

 

しかし、それをハヤテが説得したのだとか。最初は怪我人が無理するなんて信じられないと激昂したヒナとハヤテが物理的に激突し、激しい戦闘になりかけたとか。

 

事態に気付き、慌てて動いた他の『王の剣』達やエリュシオンの説得によって、ヒナは医療騎士団の一人を刃専属の治療師として同行させるなら、刃の行動を許すと認めたらしい。因みにハヤテ団長はボロボロになって、今治療を受けてるらしい。

 

 

「……………そんなに酷いのか、俺の傷」

 

「普通なら、全治二ヶ月です。腹部だけ綺麗に抉られてたんですから、それだけで済んだのはヒナ団長が全力を尽くしてくれたからですよ!?」

 

 

必死な形相でそう怒ってくるラナールの言葉に、刃はそのヒナ団長へ感謝と謝罪を心の中で述べた。次会った時は土下座しよう。それでも許されないと思うが、仕方ない。

 

────あと密かに、ハヤテ団長への感謝も。自分を庇って激昂したヒナ団長に徹底的に痛めつけられた恩師に、静かに頭を下げておく。…………「何で俺がこんな目に」と言う声が漏れた気がするが、所詮気のせいだろう。

 

 

「この話は、シノにもしたんだが………アンタも良いのか?俺なんかに着いてきて」

 

「………私だって、遠征するつもりはありませんでしたよ。けど、凄い笑顔だった団長からの頼みを断れませんし───」

 

「その件に関しては悪い………というか、本当にごめんなさい」

 

実際に自分に責任があるから謝るしかない。こんな時に強めの態度でいられるはずもなく、素直に謝った。そんな刃の謝罪をラナールは「気にしないでください」と軽く笑う。

 

 

「貴方のサポートが私の仕事ですし、何も気にしてませんよ。…………団長も、この仕事を成功させたら、謹慎は取り消してくれるって───」

 

「………ん?」

 

「はっ!?いえ、何でもないですっ!」

 

 

取り繕うように、必死に誤魔化すラナール。詳しく追求するつもりはないが、何か彼女も普通じゃない雰囲気がする。だが、仮にも力になってくれる仲間だ。相手の事情に容易く踏み込むつもりもないので、刃は大人しく黙認することにした。

 

 

 

「じゃ、じゃあ!急いで行きましょう!王様からの任務を達成しに!いざ、スティシアへ!」

 

「────生き方分かるのか?」

 

「……………へ?」

 

 

堂々と勢いで誤魔化そうと前に進むラナールに、刃はそう疑問を口にした。途端、彼女は体を硬直させる。振り返り、複雑そうな顔をする彼女は刃の顔を見合わせ、二人して絶望するような様子で呟く。

 

 

「………お、俺。スティシアって何処かすら知らねぇぞ?」

 

「わ、私も…………です」

 

 

旅に出る直前で、挫折しそうであった。そもそも目指すべき街が何処かも分からない時点で最初から詰みのようなものである。

 

崩れ落ちそうにな二人。そんな男女を見ていた忍のような少女、シノは気にする様子もなく口を開いた。

 

 

「………問題なし、スティシアへの生き方は私が知ってる」

 

「なっ!?マジか!?た、助かる………シノ」

 

「主様の為なら………当然のこと」

 

 

いや、だから主じゃないよな? と言いたかったが、彼女のお陰で詰まずに済んだから、余計なことを言いたくはなかった。むしろここは素直に受け止めるべきだろうと、刃は特に文句を言わなかった。

 

 

こうして、刃達はハイリヒ王国から新たな旅に出向くのであった。(デデン!)

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

魔人族の国────魔国ガーランド。首都、ライングレード。魔人族にとって絶対的な神とも言える、大魔王の名を用いた王都は、濃い魔力障壁によって覆われていた。

 

ライングレードの王城、大魔王の居城。並みの魔人族では到底踏み込むことすら許されないその場所から魔力障壁は発生していた。国全体を包み込む防壁は、その魔力の濃さから強力な攻撃用の結界でもある。

 

 

「─────」

 

 

城の廊下を歩く、赤髪の男がいた。如何にも只者ではない雰囲気を匂わせるその男は、魔人族でもトップクラスの立ち位置にいる者であった。

 

 

フリード・バグアー。

魔神連合の上位戦力、魔人将の一人であり───魔神にして魔人族の真の王、大魔王直属の右腕。他の魔人将とは違う立ち位置に存在するのが、その男だ。

 

 

「グヒヒヒ!何やら険しい顔ですねぇ……フリード様」

 

「…………アゼル、か」

 

 

ヌルリ、とフリードの後ろ───廊下に並ぶ柱から、異様な体躯のものが姿を見せる。風船のように膨らんだ胴体に四本の長い手足が適当につけられたような異形。風船の上には小さな頭────縦に裂けた一つの眼を有する怪物。

 

 

アゼルと呼ばれたその怪物は、風船のような胴体に口を浮かび上がらせ、律儀な様子で言葉を紡いでいく。

 

 

「将軍ともあろう御方が、大魔王様の右腕である貴方様が考え事など…………一体何事がありましょうかな?」

 

「─────三日前、魔王ガイアドゥーム様が勇者と交戦し、奈落に落とされたのは聞いているだろう」

 

「ええ、それはそれは。まさかあの魔王様も失敗をなさるとは………いえ、いえ。しかし、ガイアドゥーム様は全力を出せぬ状態ですので、仕方ないのでは?」

 

「話によれば、ガイアドゥーム様以外にも奈落に落ちた者がいる。それは、勇者一行の中でも一般職である錬成師らしい。奴は、ガイアドゥーム様に傷を与えたとも」

 

「………何ですと?あのガイアドゥーム様が手傷を」

 

 

その情報に驚くアゼル。しかしすぐに、醜悪な怪物はその身に違わぬ醜悪な笑みを刻む。口から吐き出されたのは、魔王への侮蔑───ではなかった。

 

 

「それはそれはなんと─────逸材ですなぁ、その錬成師は」

 

「全くだ。奈落に落下したことは幸いだろう。下手に力をつけられては、我々の脅威になりかねん」

 

「グヒヒヒ!全く、全く、脅威も脅威。まさか最低辺の天職の錬成師がそこまでするとは。未来の脅威が死んだことに安堵するべきですかな!」

 

「…………まだ死んだ訳ではない。万が一、奴が奈落で生き延びていたら、逆に強くなる可能性もある。クレイド様にも迷宮で確認次第、始末するように頼むべきか」

 

「グヒッ!全く、慎重ですなぁフリード様!」

 

 

不気味な笑い声を響かせるアゼルの隣でフリードは無表情を崩さない。左右の瞳に鋭い覇気を宿しながら、彼は頷くように答えた。

 

 

「当然だ、この戦争は魔人族の存亡を掛けた戦い。一つでも我々の、大魔王様の障害となり得るものは排除するのが鉄則だ」

 

「分かっておりますよ、グヒヒ!その為にも、利用できるものは利用する!勇者一行の中にも、利用できる人材は多いでしょうしねぇ!」

 

 

含んだ笑いを浮かべるアゼルは笑みを深め、確かめるようにある事実を口にした。

 

 

「────何せ、我等の敵はエヒト神だけではありませんからなぁ」

 

「大魔王様と盟約を結ばれた、三体の魔神」

 

横で聞いていたフリードは大した反応はしない。両目を静かに閉ざしたフリード、彼の脳裏に浮かんでいるのは自らの主と同盟を結ぶ強大な存在────後に敵となる、本当の脅威である。

 

 

「我等魔神連合はエヒト神を殺すためだけの協定。魔神にとって、エヒト神は潰すべき最優先の敵────だが、それさえ消えれば、協定は解消される。そして、大魔王様とその他の魔神が殺し合うことになる」

 

 

各々の魔神の目的は別のものであり、彼等が共闘しているのはエヒト神の抹殺という一つの目的を果たすためだけ。それが終われば、四体の魔神は互いの目的を譲らず、殺し合いになり、この世界は滅びるかもしれない。

 

それは困ると、フリードは思案する。

主の、大魔王の目的の為にも────この世界が滅びて貰ってはいけない。

 

 

「その前に他の魔神には滅んで貰うか、奴等を倒せる戦力を整える必要がある。………確かに、勇者一行の人間も手元に加えておきたい」

 

 

望むなら、勇者を都合の良い駒にしたい。何より、大魔王様の話通りであれば、勇者一行の誰かがある魔神にとって必要な存在であるらしい。上手くいけば、大魔王様とその魔神が共闘し、他の魔神を殲滅できるかもしれない。

 

ついてだが、情報によると勇者の方は此方の味方に付くかと言うと、厳しい方らしい。どうやら正義感が強く、人間のために戦うことを疑わない様子だが、上手くやりようはある。別に正気を保ってなくとも、操ればいいだけなのだから。

 

 

「………問題は、大魔王様がそれをお許しになるかどうか」

 

「考えすぎでは?大魔王様も、貴方の考えを認めるとは思いますがねぇ」

 

「…………ああ、その通りだ。きっと認められるだろう、あの御方は」

 

 

僅かに表情に陰りを見せたフリード。廊下を歩いていた彼等は足を止め、はるか高くに伸びる階段を上がっていく。その先にある王の間─────そこで眠る自らの主、大魔王の元へと向かうのだった。

 

 

 

 




愉快なオリジナル主人公パーティー

黒鉄刃
不良をボコボコにしてきた暴君。実際はめちゃくちゃ優しいだけで、理不尽な暴力などを失くすための抑止力として不良らしく振る舞ってるだけ。割とメンタルは弱いし、脆い。

シノ
暗殺者。忍系忠臣。エリュシオンからの頼みで、刃に同行してくれる人物の一人。初対面の刃のことを気に入っており、彼を主と認めている。

ラナール・ピーナ
治癒師にして治癒騎士。エリュシオンからの頼みで、刃に同行してくれる人物の一人。刃の専属の治癒師。元々は大きな問題をしでかし、謹慎処分にあっていた。


割りと個性的すぎる………ま、仕方ないか(アッサリ)


次回は奈落に落ちたハジメの話です。変わってるところが多いので、そこら辺を書いていこうと思います!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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