ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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隠された迷宮/真実を語る者

何日か、地下洞窟を進んでいくハジメと守護聖霊。何十層も越えたハジメはより地下深く、その先へと進んでいく。

 

 

下に迎え、と口にした魔王ガイアドゥーム。下に何かあることを理解していた上での言葉だと、ハジメは気付いていた。あの魔王が嘘をつくような奴にも見えなかったハジメは、それに従った。

 

 

彼と守護聖霊が辿り着いたその空間は、異様かつ不気味な静寂に包まれていた。高さ数メートルの巨大な扉と、その左右には巨人らしき石像が膝をつくように鎮座している。

 

 

『────』

 

「………ああ、分かってる。こいつは何かあるな、ガイアドゥームが言ってたのもこれか?」

 

 

反応を高める守護聖霊に、ハジメも同感だと笑う。何時ものような優しい笑顔などではなく、鍛え上げられた戦意に満ちた禍々しい笑顔だ。

 

迷うことなく扉に近付き、押すか引くかでもしようと手を掛けるハジメ。扉に手が触れた途端、

 

 

 

────ズゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 

震動と轟音が、辺り一帯に響き渡る。あまりにも騒がしすぎる変化に溜め息を漏らしたハジメは、周りを見渡した。何か起こっているのは間違いない、問題は何処から響いているのか。

 

案外すぐ近くだった。

隣に並んでいた巨像が、自身の身体の色を生物的なものへと変えながら動き出す。踏み込んだ二体が、堂々と立ち上がった次の瞬間─────爆音と共に、一体の頭が吹き飛んだ。

 

 

…………え? と、頭が吹き飛んだ相棒を呆然と見つめる一つ目の巨人。その前でハジメは片腕を上げた状態で、呆れたように吐き捨てる。

 

 

「悪いが、付き合ってる余裕はねぇんだ」

 

 

その片手に握られているのは、この世界では有り得ない武器であった。拳銃、ではない。厳密にはリボルバーと言われるその武器は、ハジメがこの奈落で造り出した新たな武器であった。

 

ガイアドゥームから渡された鉱石の中で最も硬いタウル鉱石を用いただけではなく、粉末状にした燃焼石を火薬代わりとして銃弾の中に内包する。

 

それに加え、魔物の肉を食らったことで手にした技能──『纏雷』による電磁加速により、小型化したレールガンのように、奈落に住み着く魔物の強靭な肉体を抉る武器と化したのだ。

 

拳銃かと言われればそうかもしれないが、威力的にもマグナムに匹敵するそれを拳銃というのは厳しい。現にハジメはこの武器で殆どの魔物を殲滅してきた。

 

 

唖然としていた一つ目の巨人だが、ようやくハジメへと襲いかかる。拳を持ち上げ、殴りかかろうとする巨人を見たハジメは興味なさそうに告げた。

 

 

「悪いが、お前の相手は他にいる」

 

 

言われた巨人が反応するよりも先に、一つ目を光が貫通する。頭部を傘のように開いた守護聖霊が真後ろから、光線を放っていたのだ。それに気付かなかった巨人は真後ろから頭を貫かれ、驚くことも出来ずに生き絶える。

 

死した巨人から意識を外した守護聖霊はハジメに近付くと、嬉しそうに空中を飛び回っていた。

 

 

『────♪』

 

「ったく元気だな。守護聖霊ってこんなものなのか」

 

 

感心しながら、ハジメは巨人の死体を踏み越えて大扉に辿り着く。扉に手を当てると、自然と奥に開いていく。暗闇を前に灯りを出そうとしたハジメだが、全身から光を放ち先に進んでいく守護聖霊。

 

 

やれやれ、と先行する守護聖霊の後ろを歩くハジメ。神殿のように作り込まれた部屋。聖教教会を連想させたが、何か違う。それは、周りに配置にされた旗や近くの壁に彫られた紋様が証明していた。

 

禍々しく変容した髑髏に、大鎌を備えた造形。おぞましく、死神を思わせるその紋様は、見覚えがあった。

 

 

「…………まさか、四魔王?」

 

 

四魔王は元々大魔王の支配下ではなく、各々のコミュニティや国を広げていたらしい。それ故に、人類のように各々の魔王が自分達の権威を示す紋様を掲げていたようだ。

 

ハジメに覚えがあったのは、その一つ。死の魔王、不死の王、地獄の裁定者────

 

 

そうやって考えていたハジメの耳に物音らしきものが聞こえていた。咄嗟に身構えるハジメだが、その音が声に近いものだと気付く。

 

 

(まさか、誰かいるのか?)

 

 

その懸念は正しかったらしい。暗闇の向こう、最奥たるその場所に立方体の石が鎮座している。部屋の中央に置かれたそれを、目にしたハジメの顔が引き締まった。

 

 

 

 

その立方体の石に、人が生えていたからだ。

 

 

「…………だれ?」

 

 

金髪の少女だった。深紅の瞳を力なく開き、此方を見た少女はか細い声で問いかける。消え入るような声を漏らす少女は両腕と下半身を立方体の石に取り込まれるように固定されていた。

 

 

明らかに閉じ込められている少女にハジメは沈黙する。守護聖霊も気になったようにハジメを見つめ、アクションを求めているようであった。それに答えるように、ハジメも動く。

 

 

 

 

 

「────すみません、間違えました」

 

 

それだけ呟き、見なかったように振り向こうとするハジメ。明らかに罠だと警戒したのか、近付こうとも話し掛けようとしない。そんなハジメに少女は焦ったように口を開いた。

 

 

「ま、待って!………お願い……!助けて………!」

 

『───!────!』

 

 

今まで声を出してこなかったからか、掠れた声で必死に呼び止める少女。無視して立ち去ろうとするハジメの腕に巻き付き、同じように止めようとする守護聖霊。えぇ、とハジメは守護聖霊と少女を見返し、心底嫌そうな顔をした。

 

 

ロクなもんじゃない、というハジメの考えだった。こんな地下深くに閉じ込められ、巨人に守らせていたなんて絶対何かあるとしか思えない。わざわざ余計なことをしなくても良いだろ、という事を囁くように守護聖霊に伝える。

 

 

『────!』

 

 

しかし、それでも引き下がらない守護聖霊。見捨てたくないとでも言ってるのか、必死に首を振るう銀蛇に、ハジメはうっと言葉に詰まった。

 

恐怖に囚われていたとはいえ、一度は守護聖霊を見捨てて逃げたハジメには後ろ暗い話だった。守護聖霊自体が気にしていないから良いが、ハジメ本人は割とずっと気にしていることであった。

 

何より、また同じ選択をするのか、と自己嫌悪が頭に過る。髪をかきむしり、考え抜いたハジメは深い溜め息を吐き出し────地団駄を踏んだ。

 

 

「ああ、クソッ!ホントに何やってんだ、俺は!」

 

『────♪』

 

「分かった、見捨てはしねぇよ。けど、ろくでもない奴なら諦めるからな」

 

喜びながらハジメの周りを舞う守護聖霊の隣で苦虫を潰したような顔のハジメ。振り返り、少女の元へと戻ったハジメは両腕を組み、険しい顔で見据えた。

 

 

「まず、話を聞かせろ。嘘をついたりでもしたと判断したら、無視するからな」

 

「…………うん、分かった」

 

「じゃあ、一つ。ここに閉じ込められてるのはどういう訳だ?ていうか、何したんだ?」

 

「………何も、してない………私は、ただ………裏切られただけっ」

 

「────“裏切られた”?」

 

 

思わず、聞き返してしまう。危険なものを封印していると予想していたが、何か別の意図が絡んでいるようだ。続きを語る少女の話に耳を傾け、話を聞くことにした。

 

 

「私、先祖返りの吸血鬼………すごい力を持ってる………だから、国の皆の為に頑張った。けど、突然襲ってきた死の魔王に負けて────どれだけ切り刻んでも………殺せないからって、封印されて…………」

 

 

つまり、戦争に負けて封印されたということか。波瀾万丈どころではない人生に複雑そうなハジメは何度か気になったワードが聞こえたので、それを聞くことにした。

 

 

「待て、切り刻んで殺せないだって?どういうことなんだ?」

 

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

 

「そ、それは凄いな………けど、待て。死の魔王って、もしかしてダンテって名前の奴か?」

 

「う、うん………そうだけど……」

 

 

やはりそうだった。

この部屋も、彼女を封印している石も、四魔王の一人 ダンテによるものだった。

 

だが、吸血鬼は全て、死の魔王に対立したことで滅ぼされたと聞いている。数百年前の話だ。ふと、この少女はそんな昔から生きていたのかと驚きかけたハジメであったが、考えている内にあることに気付いた。

 

 

「いや、おかしい。お前はさっき、裏切られたといったはずだ。魔王に負けて封印された、一体何に裏切られたことになる?」

 

「………私、皆を逃がす為に………戦ってって、言われて………だから、どれだけ殺されても………時間を稼いだ………そしたら、私を捕まえてた魔王が…………封印する直前に………」

 

 

少女が語るは、死の魔王との戦いの記憶。不死の彼女一人とダンテの一騎討ち。それを制したのは魔王であり、敗北した彼女はダンテの支配する城に連れていかれ、何度も惨殺された。

 

何度殺されても諦めず、仲間が助けに来てくれることを信じた少女。そこまで強い覚悟を持っていたのは、仲間達が去り際に助けに来ると言っていたから。幼く純粋だった彼女はその言葉を信じ、ダンテによる残忍な殺戮を耐えてきた。

 

 

強い覚悟で睨み返す彼女に、ダンテは感心したように顔色を変える。次の一言が、少女の心を揺るがすことになった。

 

 

『───憐れな娘だ。自分を囮にした奴等の為に、そこまで尽くすとは』

 

『…………え?』

 

『まだ分からないようだな。奴等は貴様を差し出したのさ、自分達が生き残る為の生け贄として。真祖たる貴様を捧げることを条件に、一族の助命を申し出たのだよ。貴様の守りたがった同族どもはな………』

 

 

ダンテの嘲笑に、少女は心は完全に折れていた。信じていた同族から裏切られ、絶望した彼女を、ダンテは殺さなかった。

 

死の魔王にすら彼女を殺せなかったのか、或いは殺さなかったのか。呪いを付与した特殊なアーティファクトで少女を縛り、奈落の底へと破棄した。

 

 

それが、少女の話す真相だった。彼女が魔方陣などを使わずに魔法を扱える、咲夜のように魔法特化であることを知ったが、驚くだけであまり気にすることではなかった。

 

 

「………たすけて」

 

「……………」

 

 

ポツリと呟いた少女の掠れた声に、ハジメは嘆息するしかなかった。頭をかきむしり、迷うことなくハジメは立方体に手で触れる。そして、一言告げた。

 

 

「─────錬成」

 

 

立方体の形が変容する───ことはなかった。

掌に魔力を流し、錬成を行おうとしたハジメの手が大きく弾かれた。それだけではなく、立方体はハジメが流し込もうとした魔力を吸おうとしている。

 

 

「上等だッ!魔力全部、くれてやる!」

 

 

逆に魔力を霧散させる立方体に、全ての魔力を注ぎ込むハジメ。大半が打ち消されているが、それでも立方体の中に魔力が浸透していっているのが分かる。だが、これではハジメの方が持たない。魔力の消耗が近付いてたハジメだが、首元を刺す小さな痛みと共に自身の魔力が増してきた。

 

 

守護聖霊が、ハジメの腕に巻き付く。首に軽く噛みついた銀蛇は自身の魔力をハジメに与えていく。自分の意図を瞬時に理解し、力を貸してくれる守護聖霊にハジメも頭が上がらない思いであった。

 

守護聖霊の助けもあり、全力全開の魔力を解き放ったハジメ。少女を捕らえていた立方体に錬成が完全に作用したのか、泥のように融解したそれから少女の体が離れる。

 

 

「はぁ…………!クソッ!流石に魔力を使い尽くしちまった!」

 

 

魔力の消耗に疲れ果てたハジメが尻餅をつく。同じように魔力を消費したのに、平然と空を浮遊する守護聖霊。その呑気さを羨ましく思っていたハジメの手を、何かが触れた。囚われていたはずの少女であった。

 

彼女は無表情ではあるが、瞳に輝きを乗せ、震えた声で何とか言葉を出そうとしている。たどたどしい彼女の声を、ハジメは静かに聞いた。

 

 

「…………ありがとう」

 

 

ほんの少しだけ、心が和らいだ気がした。疲れているにも関わらずその気持ちが抜け落ちたハジメは、少女の手を握り返した。

 

そうして少しの時間が経ち、休息を取っていた二人と一匹。気になったように瞳を向けた少女が、聞いてきた。

 

 

「………名前、なに?」

 

「ハジメだ、南雲ハジメ。お前は?」

 

 

平然と名乗り、逆に聞き返すハジメ。しかし少女は首を横に振るう。一瞬、覚えていないのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

 

「前の名前、いらない。新しい名前、付けて」

 

「…………はぁ」

 

多少の疑問はあったが、そこまで戸惑うものではない。諦めたように、少し考えたハジメは、彼女の新しい名前を提案してみた。

 

 

「ユエ、ってのはどうだ?嫌なら別の名前にするが……」

 

「………ユエ?」

 

「俺の故郷………いや、厳密には別の地域の言語で、『月』って表す言葉だが………どうだ?」

 

 

パチクリと目を見開いて呆然としていた少女だが、小さく微笑む。その名前に不満はないというように、頷いた。

 

 

「んっ、今日からユエ。ありがとう」

 

『───!────!』

 

「………ん?どうしたんだよ」

 

 

傍らで、守護聖霊が騒いでいた。服の端を摘まむように引っ張る銀蛇が何か言いたい様子で動き回っている。元気しかないな、と軽い調子で考えていたハジメだが、すぐに守護聖霊の言わんとすることを理解した。

 

 

「まさかお前も名前が欲しいのか?」

 

『──────!』

 

 

お前もか、と疲れた顔を見せるハジメ。この調子だともし名前を付けないと言えば、露骨に拗ねるかもしれない。実際にハジメが軽く扱った時には、物凄い調子で拗ねてた。面倒臭いとか、そんなことは一ミリも思ってはいない………多分。

 

 

仕方ない、とハジメはもう一度考え始めた。少し案があったが、それに納得いかなかったのか更に考えたハジメは、呟くように漏らした。

 

 

「───グアン」

 

 

その言葉にユエと守護聖霊が固まっていた。そんな一人と一匹を前に、ハジメは同じように名前の意味を説明する。

 

 

「ユエと同じ言語で、『光』って意味だ。太陽にしたかったが、あんまり合わなくてな」

 

『────♪』

 

 

嬉しそうに空を漂う守護聖霊───グアン。ハジメの名前に気に入ったらしく、いつもよりも元気が多そうに見える。

 

 

人間と吸血鬼と聖霊。普通であれば絶対に交わることのない三つの存在が、奈落の底で本当の意味の仲間となったのだった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

それから何日か経ち、ハジメは自分達のいた奈落が更に下───かつて自分達が攻略していたオルクス大迷宮の下に隠されていたもう一つの迷宮であることを知った。

 

 

そして、最後の層を守護するガーディアン───神話生物ヒュドラのような、複数の頭を持つ大蛇との戦闘は苛烈を極めた。

 

その戦いでハジメは片眼を失いはしたが、何とか怪物を撃破し、実質的に迷宮の攻略に成功したのだ。気絶したハジメはユエとグアンに運ばれ、最奥の部屋───謎の住み処に辿り着いた。

 

 

目を覚ます際に一悶着あったが、そこに関して今は触れないでおく。何とか回復したハジメはその住み処を散策している内に、ある部屋を見つけた。

 

 

その部屋で一番目立つのは、作り込まれた部屋ではなく───その奥の椅子に座したままの骸であった。黒いローブを既婚だ人物はこの迷宮の作り主、この住み処を作った『反逆者』とやらの一人なのは間違いない。

 

 

問題は─────中央の豪華な台座に配置されたクリスタルであった。半透明でありながら、その中にある光は神々しく輝いている。だがクリスタル自体の形はおかしく、まるで本来のクリスタルを分割したような形状であった。

 

 

「………怪しい」

 

「だろうな。けど、アレが重要そうなのも確かだ」

 

 

台座の造りは玉座よりも豪華で力が入れられている。錬成師のハジメだからこそ、見て確信できた事実であった。この迷宮の主は、これを隠していたのかもしれない。

 

 

ハジメは意を決して、そのクリスタルに触れる。指先が半透明な結晶に触れた直後、パチッと火花が散ったように思えた。

 

 

次の瞬間、ハジメの視界が断絶される。まるでテレビの番組のように切り替わった世界は、ハジメが先程まで見ていた世界とは乖離していた。

 

 

 

────白。白しか見えない世界。空も床も、自分が立っている建物すらも全ては色が抜け落ちたような真っ白に染まっている。ハジメ達はその白の世界にポツリと残された建物の屋上、広がった一帯の中央に立っていた。

 

 

「…………ここ、は───ッ!ユエ、グアン!無事か!?」

 

「う、うん………私も、大丈夫」

 

『────!』

 

 

ユエもグアンも無事である。あのクリスタルは触れた者と周囲にいる人間を同時に転移させるものだったのかと予測したハジメだが、真相は違った。それに答え合わせる暇もない。

 

 

何故なら、誰もいないはずの世界でハジメ達に声をかける者がいたからだ。

 

 

「────ほう、人間か。生きてこの場に来る者など、数年振りだな」

 

 

ジジジ、空間自体が歪む。突如現れた───というより、空間から割り込むように現れたその反応にハジメは警戒を剥き出しに、視線を定める。

 

そこから人らしき者が、姿を現していた。

 

 

「人………にしては、混じっているな。こうも変質した身でありながら────ああ、そうか。『それ』も混じっているのか。ならば、変質した状態で耐えているのも納得だ」

 

 

黒い布に身を包んだ長い金髪の男らしき人物。顔や姿を隠す黒い布は男の存在を完全に認知させないようになっているのか、どれだけ探ろうとしても分からない。垂れ下がった前髪で顔半分を隠したその男の顔は見れば、人形のように精巧だが、人形とは違うナニかが内包されていた。

 

 

「────誰だ」

 

 

迷うことなく、ハジメは武装を展開する。己の武器であるリボルバー、ドンナーを構えたハジメは銃口を男の顔へと固定した。

 

引き金にも指を掛ける。何時でも顔を撃つ姿勢を崩さずに保つハジメに、男は不敵な様子でほくそ笑んだ。

 

 

「他人に名前を聞く時は、己から名乗ることが礼儀ではないかな?」

 

「………質問してる此方だ。何だお前は」

 

「質問、質問ねぇ。その割には随分野蛮なモノをちらつかせているなぁ、それは質問とは呼ばず恫喝というのだが、君の知識にその言葉が無かったのなら謝ろう。無知に対し知識を自慢する行為は好まれたものでも、礼儀正しいこともでない。………ああ、私の言葉に気分を害したなら謝るさ。だがまずはその危なそうなものを下ろしてから、誠心誠意話し合いをするべきではないと思わないかな?少なくとも、理知的な私の考えだとそう思うんだね………君達はどうかな?」

 

 

────何だコイツ、とハジメは思う。口調は丁寧なものであるが、なんか陰湿というか性格がロクなものでない感じが強い。長文で意見を返し、自分の軽く卑下した態度に、何となくウザさが感じられる。ユエも同じ気持ちなのか無表情だが、顔の筋肉が微かに引くついていた。

 

 

「………ハジメ、南雲ハジメだ」

 

「ユエ、そしてこの子がグアン」

 

「何だ。ちゃんと自分から名乗れるじゃないか。………あぁ、そうそう。私の名前だってね。聞かれているのに答えのは、失礼極まるだろうしね─────気軽に、リヒトとでも呼ぶといい。私には、その程度で充分だとも」

 

 

そう名乗った男、リヒトは堂々とした態度でハジメに疑問を投げ掛ける。

 

 

「さて、名前を聞かれて答えた。次は私から一つ聞かせてくれ。…………君はどの迷宮を踏破した?」

 

「………あ?お前知らねぇのか?」

 

「さぁ?知っていたらこんな質問はしないが、君は考えて質問することを知らないのか?頭の中に存在する脳はちゃんと有効活用するべき…………おっと嘘だ、冗談。少し遊びが過ぎたと自覚はしている。だからその武器を大人しく下げるべきだと思うね、不敬だよ?流石に」

 

 

ホントに苛立ったハジメがリボルバーを強く突きつければ、リヒトは慌てたように謝罪してきた。が、あまり本気には見えない。どうやらハジメのことを危険とすら認識していないらしい。

 

舐められている、とは思うが手は出さない。コイツが敵かも分からない状況で、この空間の主であることも大体予測できる。下手に殺しては自分達が閉じ込められるかもしれない。不愉快そうに銃を下ろしたハジメは、「………オルクス大迷宮」とだけ告げた。

 

 

それを聞いたリヒトは感慨深そうに思慮に更けた。

 

 

「オルクス、オスカー・オルクス…………彼の迷宮を踏破したか。ならば君に褒美をやらねばなるまい。一つだけ、君の望む疑問に答えてあげよう」

 

「………一つだけ、か」

 

「過ぎたる望みは腐敗を与える、覚えておくんだな。望みを求めすぎると、己自身が衰えていくぞ」

 

 

つくづく口が過ぎる男だな、とハジメは目の前のリヒトを睨み付ける。平常でこれなら、きっと友達もいやしないだろうに。そんな風に心の中で罵倒していたハジメは、質問を考えた後に、口を開こうとした。

 

 

 

 

 

「─────あ、言い忘れてたけど。君の世界に帰還する方法なら、聞くだけ無駄だと思うね」

 

そんなハジメの言おうとしていた内容を、リヒトは淡々と明かした。直後に片眼を見開き、唖然とするハジメ。すぐさま警戒を取り戻したハジメは全身に過る形容しがたい不安を抑え込みながら、質問した。

 

 

「………何でだか、聞いていいか?」

 

「理由は複数あるけどね。一つ、今この世界と君の世界を含む世界と世界を繋ぐ次元が歪んでいる。色んな事が起きているせいでね、世界から世界への転移は成功する可能性も低い。歪みを絶たないと、意味がないよ」

 

次に、とリヒトは続ける。

 

「もう一つ、君達を召喚したエヒトに頼むかだけど………止めておくべきだね。あの馬鹿、すぐに調子乗るから。調子に乗って、全部自分で台無しにするタイプ。だから君が自分の世界に帰りたいなんて言ったら、神の駒としてこき使われるだけよ?アイツ、ホントにロクデナシだから───期待するだけ無駄さ」

 

 

ハジメやユエも、リヒトの言葉に違和感を持っていた。エヒト、多くの者が神として認識する存在を見下したような発言。まるでよく知ったような態度に、ハジメは探ろうと口を開く。

 

大方予想はできているが、その答えを明らかにするためにも。

 

 

「………詳しいな、アンタ。ただの人間じゃねぇみたいだな」

 

「────私が人間だって、さっき言ったっけ?」

 

 

フッ、と軽く笑うリヒト。彼は冷や汗を滲ませたハジメに精巧な顔を向け、囁くように語り掛けた。

 

 

「自分の世界に帰るなら、まずは知っておきなよ。この世界のこと。帰るにしても、この世界でいる限り無知のままじゃ駄目だしね」

 

「…………じゃあこの世界について聞かせろ」

 

 

ハジメ本人、リヒトに乗せられていることには気付いていた。おそらく、リヒトは相手を心が読めるだろう。だからこの世界ことを話そうにも、興味がないと言うことが分かっていたから、逃げ道を潰すことで、この世界の話をさせようとしているのだ。

 

とんだ食わせ物である。コイツが人間ではないのは確実だが、策士であることも間違いない事実である。

 

 

「んじゃ、この世界の生い立ちについて。丁寧に話してあげよう。─────始まりは、君の世界の神話とやらと同じ。何もない世界があった。そして何もない世界で、六人の神が生まれた」

 

 

パチン、と指を鳴らすリヒト。真っ白な世界の空間に、映像のようなものが投影された。それには、神秘的な姿をした六人の男女が何もない大地に立っている光景だった。

 

 

「六人の神────自然の神、水の神、火の神、大地の神、天の神、そして彼等を束ねる全能の神。彼等は何もない世界を自分達なりに変え、命の芽生える世界へと生まれ変わらせた。そして各々の神と全能の神が力を与え、生物を繁栄させた─────これがこの世界、トータスの創世記さ」

 

 

神々しい黄金の長髪を靡かせる勇ましい神、全能神と呼ばれるものが大きく映像に広がる。それを見ていたユニが無表情のまま、驚きを隠せぬ様子で言葉を漏らした。

 

 

「………この話、聞いたことない………」

 

「そう、これは本来の世界の過去。自分以外の神の存在を恐れたエヒトがあらゆる歴史から葬ったのさ」

 

「………エヒトが葬った?何故───いや、奴は何だ?」

 

「────元々、アレは救世主と呼ばれる奴だった」

 

 

リヒトは懐かしそうに語る。その傍らで変わった映像では、全能神の後ろを歩く銀髪の何者かがいた。黄金の長髪の神は勇猛な笑みと共に、その者の名を口にした。

 

 

───エヒト、と。

 

 

 

「別の世界から訪れた奴でね、大勢の人間から信仰されて神性を得てきたソイツを、全能の神は興味を覚えた。人々の進化と成長のために努力すると言ったソイツに、全能の神は神の座を与えた。そして自分の元で神として修行させてた。

 

 

 

 

 

 

 

そんなある日、全能神は殺された。神として学んでいたエヒトに殺された」

 

 

切り替わった世界は、真っ赤に染まっていた。

複数の槍で串刺しにされ、力尽きたように項垂れる全能神。目の前で血に塗れた槍を片手に、銀髪の神───エヒトは狂ったように笑っていた。

 

嫉妬と絶望に染まった表情の神は、壊れたように笑い続けている。

 

 

「全能の神が愛した娘を人質に取り、エヒトは全能の神を謀殺し、全能の神の力を簒奪した。そうして奴は、全能神へと成り代わった」

 

 

そこから、神は狂ったのだろう。慕っていた全能神の身体を抉り、力を吸い尽くした神は頭をかきむしるように叫びながら、笑っていた。その光景を無機質な女性達に拘束された少女は何も言えず見ていた。

 

───その瞳に、憎悪と怨嗟を込めて。

 

 

「それを知った残りの五神は憤激し、エヒトと交戦することを決意した。しかしエヒトは自分が人々から慕われてることをいいことに、彼等を人質として残りの五神に契約を結ばせた。─────『己の民達と共に我に干渉せぬことを誓え、さもなくばお前達の愛した民も諸とも死ぬことになる』とね」

 

再び世界は切り替わり、銀髪の神は五人の神と対立していた。エヒトを含め、他の五人の神も、全員が震えていた。エヒトに関しては、目の前の神々の桁違いな程の強さと怒気への恐怖。そして五神は共に生まれた兄弟を殺した恩知らずへの激しい怒りを。

 

 

しかしエヒトの宣う言葉に僅かに考えた五神は諦めたように力を抜いた。最初から、こうするつもりだったのか、あまりにもアッサリとしていた。

 

 

「神々は従うしかなかった。全能の力を得たとはいえ、新参の神に負けるはずがなかったが、その過程で多くの民が巻き込まれることになる。彼等はエヒトの契約に従い、代わりに自分達の民にだけは手を出すなと言い残し、彼等の元で眠ることにした。

 

 

 

その後、エヒトは創世記と創世を生きた六神の記録を全て破棄し、人類の記憶すら操作した。余程生き残った五神の事を恐れたのか、手を出すことなく奴は奪った全能の力で世界の創造主を騙り続けた────これが、あの馬鹿がひた隠した世界の真実さ」

 

 

何て醜い真実なのか、と思った。同時に、全ての真実を隠蔽したエヒトに僅かに納得する自分がいた。世界の支配者となるべき神が、自分達の創造主たる存在を殺害し、自分達を人質にして他の神々を追放したなんて歴史があったら、エヒトを崇拝する者がいるか。いや、絶対いない。

 

 

「その後は、まぁ後の祭りというべきか。エヒトの馬鹿は散々支配者気取って調子に乗り続けた。眷属の神を魔人族の神として、魔人族と人間族を殺し合わせる────戦争遊戯として、世界をゲームのように弄んだ。それが真実だ」

 

「魔人族と、人間族を………?なら、昔の戦争ってのは」

 

「奴が起こしたものさ。まぁ、そんなことしてたら不満は募るだろう?神様なんてクソ食らえって、ヤル気満々の奴等も出てくる訳だ。それが“解放者”、反逆者なんて呼ばれ方はしてるが、エヒトの馬鹿をぶちのめすために動いた面白い奴等さ!」

 

 

途端楽しそうな勢いで話し出すリヒト。本当に、心の底から盛り上がったように語る彼に、明確に困惑するハジメ達。リヒトの語る話は、以下の通りだった。

 

 

神の真意に気付き、神殺しを為そうとした『解放者』達。エヒトはそれを遊びながら打倒しようとしたらしく、自身の駒をぶつけて排除しようとしたが、そう簡単にはいかなくなっていた。

 

エヒトは知らないが、彼等に協力する神がいたらしい。その神は彼等に神代魔法という、普通の魔法を越える力を与えた。その力を使いこなしていたエヒトを討つことすら難しくなかった。

 

しかし、彼等は結局、神を討つことは出来なかった。それどころか助けるべき人々に『反逆者』として追われ、大勢の仲間が討ち取られたらしい。生き延びた数人は神から学んだ神代魔法を世界各地に建造した迷宮の奥に隠し、各々の大迷宮に閉じ籠り、解放の意思を託すことにしたのだ。

 

 

「────それこそが七大迷宮、生き残った七人の解放者が己の墓場として選んだ大迷宮。エヒト神を倒すという解放の意思を遺した…………このオルクス大迷宮も、オスカー・オルクスの墓地と言えるね」

 

「………なら、俺達が────エヒトが俺達を喚んだのも、遊戯を盛り上げるためか?」

 

「その通り─────と、少し前までなら言えたけどね。厳密には違う」

 

 

現実はそう上手くいかない。それどころかむしほ面倒なことになっていると、嘆息するリヒト。その理由は平然と言葉として明かされた。

 

 

「エヒトの馬鹿の遊戯は順調だった。数十年前までは」

 

「………?」

 

「魔人族の神、アルヴが討ち取られた。魔人族の王、後に大魔王を名乗る青年と巫女と呼ばれる少女、魔人族の兄弟。“解放者”の生き残りであった彼等の手によって」

 

 

その事実にハジメは驚きを隠せなかった。

大魔王と巫女が、兄弟であることは知っていたが、まさか彼等も“解放者”だとは思いもしなかった。

 

 

「そして、エヒトが指示した教会による魔人族の虐殺が崩壊の始まりとなった。大魔王が戦乱の魔神として覚醒したことを機に、三体の魔神が降臨した。相対の魔神、混沌の魔神、破滅の魔神。世界を滅ぼす災厄が四体降臨したことで、他の世界にも作用する歪みと化したのさ────これが今の世界の現状さ。理解してくれたかな?」

 

「………少なくとも、俺達が苦労しなきゃいけない事態だってのは理解した」

 

「ま、具体的なことは明言しないが、君が自分の世界に帰るには全ての魔神を滅ぼす必要がある。あとついでにエヒトを殺しておけば、帰れてWin-Winってヤツさ。その為にも、オルクス以外の大迷宮も攻略して貰う。それが君のこれからの目標だ」

 

「クソッ、他人事みたいに言いやがって………」

 

「他人事だからね、あと人じゃないし」

 

 

平然とした顔で宣う目の前の男を本気で撃とうか迷った。実際に行動に移さなかっただけでも褒めてほしい。仕方ないと肩から力を抜いたハジメだが、ふと思い出した。

 

 

「待てよ、魔神の事は話さないのか。知ってるようだが」

 

「話を忘れたのかな?質問は一回しか受け付けてないよ。ま、知りたいのなら次の迷宮を攻略して、私に会いに来てくれ。どんなに知りたいことも答えてみせよう。ほんじゃ、さっさと帰ってくれ。私はこれから惰眠を謳歌させて貰うのでね」

 

「………引きこもり」

 

「…………ニートが」

 

「ホント不敬だなぁ君達」

 

 

そんなに気にした様子もなく、項垂れるリヒト。しかしすぐに元の調子に戻った彼は「あ、そうそう。忘れるところだった」と、ハジメの額に指を打ち付けた。デコピンのような一撃に一瞬驚いたハジメだが、彼の脳裏に火花が散った。

 

 

「──ッ!?」

 

「ハジメ!?だ、大丈夫……!?」

 

「あ、あ……何とか────お前、これ」

 

「迷宮を踏破した君に与える神代魔法さ。オスカー・オルクスの使っていたものだが、どういうものかは自身で確かめるといい」

 

 

パンッ!とリヒトが手を叩くと、変化は世界に反映される。白の世界にノイズが走ったように、歪んでいく。ハジメ達の意識も朦朧としていく中で、リヒトは彼等に向けた視線を絶やすことなく、微笑みながら告げた。

 

 

 

「────さらば、異世界から来た少年とその仲間達。また出会うことを期待しておくよ、半々ね」

 

 

 

そうして、彼の世界は閉ざされた。遮断されように、ハジメ達は元居た場所に戻っていた。

 

 

 

 

─────南雲ハジメ一行────七大迷宮の一つ、オルクス大迷宮攻略完了。

 

 

─────■■■の欠片、回収。残り九────八個。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




六神

エリュシオンが旧神と喚んでいた、トータスの創造神達。この世界ではそういうことになる(そういうことにして欲しい)

全能神以外の五神は今も自身の民の住む街や場所で眠っている。全能神は串刺しor八つ裂きで死んでる、死体は不明。


リヒト

解放者の共犯者たる男。オルクス大迷宮で迷宮の主の代わりにハジメ達を待ち構えていた、世界の真実を知る者。特別な空間にしかいない存在であり、その存在を知るのは迷宮を攻略してきた者────ハジメを除くと、今現在二人しかいない。


■■■の欠片

オルクス大迷宮の最深部で見つけた謎のクリスタルの欠片。これに触れた者だけが、リヒトのいる空間に行くことが出来る。これを集めれば願いが叶う訳でもないが、何かが出てくる。



清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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