ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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軽くまとめた奈落編も終わり、後は王国に残った皆の話です。久し振りに長く書きまくったので、疲れました()


残った者達の成長

刃が王国から離脱して数日が経ったある日、書庫で本を読んでいた咲夜の元に、八重樫雫が声をかけてきた。

 

 

「…………委員長」

 

「雫か、言いたいことは分かってる。着いてこい」

 

 

そう言って読んでいた本を閉じた咲夜はその場から歩き出す。その後ろを着いていく雫は何か言いたげな様子ではあったが、実際に口に出すことはせず、大人しく着いていっていた。

 

 

「言わんとすることは分かる。何故香織を隔離した部屋で休ませているのか。何故その部屋を皆に共有しないか、だろう?」

 

「………分かっているわ、信じたくないけど」

 

「理解してくれて、何よりだ」

 

 

咲夜は雫という少女を高く評価している。自分同様、冷静沈着で物事を客観的に見れる彼女の対応もあり、何度も助けられたことは多い。感情的になりやすい光輝を制してきた彼女には、咲夜も多大な信頼を任せている。

 

 

「………香織のことだけど」

 

「身体に別状はない。問題は心の方だ。ヒナ団長も、精神的な不安定、その自己防衛によるものらしい。仮に目覚めたとしても錯乱は免れはしないはずだ…………その時は、彼女を静めて欲しい」

 

「────ええ、それが私のすべきことだから」

 

そう言葉を交わした雫の前で咲夜が扉を開ける。元々は倉庫に繋がるはずの扉は、転移魔法の応用により───王宮で厳重に警備されている部屋へと辿り着いた。

 

王の指示により、咲夜や彼が認めた者以外は立ち入りできない部屋。その中央に置かれたベッドの上で、白崎香織は静かに寝ていた。意識を失ってから五日が過ぎ、彼女はずっとこのままである。

 

 

「………香織」

 

 

隣まで寄り添った雫が彼女の手を握る。律儀に扉を閉めた咲夜はその様子を見届けるように、静かに腕を組んで黙っていた。

 

何時もと変わらない、そう思っていた咲夜だが、彼の予想を裏切ることが起きた。

 

雫が握っていた香織の手がピクリと動いたのだ。僅かに力が入ったことを認識した雫が、必死に呼び掛ける。

 

 

「!? 香織! 聞こえる!? 香織!」

 

「っ!?」

 

 

扉の前で沈黙していた咲夜がその様子に気付き、駆け寄る。すると、香織の目蓋が微かに震える。雫の手を握り返した香織は、ゆっくりと目を覚ました。

 

 

「香織!」

 

「───良かった、気が付いたか」

 

「…………雫ちゃん?岸上、くん?」

 

 

目を覚ました香織は力なく、近くにいた雫と咲夜を見つめた。目元に涙を溜めながら香織が起きたことに安堵する雫、彼女の横で良かったと一息吐き出しながらも、彼女の近くにあった自動回復装置を弄り、香織の体調を少しでも回復させようと試みる咲夜。

 

 

 

「ええ、そうよ。私よ。香織、体はどう?違和感は、少し変なところとかはない?」

 

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど………寝てたからだろうし……」

 

「ああ、そうだな。五日も寝ていたから、無理も────」

 

 

そこまで口にした咲夜は咄嗟に口を閉ざした。同時に、自身の気の甘さを後悔する。起き上がった体を雫に支えられた香織は、咲夜の言葉を噛み締めるように呟く。

 

 

「五日?五日も、そんなに………どうして………私、確か迷宮で………」

 

 

何かを思い出そうとする香織に、雫が焦りを覚える。何か思考を反らそうと彼女が別の話題を話し出そうとしたが、香織はそれよりも早く記憶を思い出した。

 

 

意識が落ちる前までの、記憶を────

 

 

「それで………あっ………………………南雲くんは?」

 

「っ!それは………」

 

 

苦しげな様子で言葉に詰まる雫と咲夜。何も言わなくなった二人に、不安そうな香織は徐々に自分の記憶が現実のものだと理解し始める。

 

その事実に、香織は否定するように首を横に振った。

 

 

「………嘘だよ、ね。そうでしょ?雫ちゃん、岸上くん。私が気絶した後、南雲くんも助かったんだよね?助けられたんだよね?ね、ね?………そうでしょ?ここ、お城の部屋だよね?皆で一緒に帰ってきたんだよね?南雲くんは………訓練かな?きっと、刃くんと一緒に訓練所にいるよね?うん……私、ちょっと行ってくるね。南雲くんのおかげで、皆助かったんだから………お礼言わないと…………だから、離してよ。雫ちゃん」

 

現実逃避するように、ベッドから降りようとする香織は雫は何も言わずに引き留めた。彼女の横で黙っていた咲夜は意を決したように唇を噛み締め────重い口を開いた。

 

 

「────ハジメは奈落に落ちた。魔王ガイアドゥームと共に」

 

 

咲夜の言葉を聞いた彼女は、その事実を目の前に突き出される。だがそれでも、彼女は受け止められなかった。力なく首を振った香織は、否定を口にした。

 

 

「………嘘、だよ」

 

「嘘を言ってどうする。現実を変えられる訳でも無いだろう」

 

「ち、が………違う、よ……だって、そんな………」

 

「香織、理解してるでしょ。彼はいないの」

 

「やめて…………やめてよっ………やめてっ!」

 

「分かってるでしょ!?彼はもういない、奈落に落ちたのよ!?」

 

「違う!そんなことない!南雲くんは生きてるよ!死んでなんかない!………離して、離して!私が、私が探しに行くから!お願いだから────お願いだからぁ!」

 

 

離れようと、振り払おうと暴れる香織。そんな彼女を離してなるものかと強く抱き締める雫は何も言えず、香織を止めようと落ち着かせる。

 

 

しかし、黙っていた咲夜が口を開いた。

 

 

「───白崎香織ッ!!」

 

 

凄まじい強い声に、二人は思わず振り返る。憤激を隠さない咲夜は両腕を組んだまま、涙を流す彼女に強い言葉を放つ。

 

 

「南雲ハジメは奈落に落ちた!それは事実であり過去だ!!今、泣き叫んだところで、変わりようもしない!受け止める以外に他はない!」

 

「っ!委員長!そんな強く───」

 

「だがな!ハジメが死んでないだの議論することは許さない!アイツが生きてると思いたいなら、死んだという可能性は捨てろ!信ずるならば、それを貫き通せ!こんなところでお前は、その可能性すら諦める気か!?」

 

 

咎めるような雫の声も無視する程の気迫で、咲夜は香織に突きつける。その言葉に乗せられた意図を深く噛み締めた香織は心配そうな雫の手に重ねるように添えた。

 

 

「…………雫ちゃん、大丈夫だよ」

 

「香織……!?でも………」

 

「岸上くんのお陰で、冷静になれたから………ありがとう、岸上くん」

 

「────いや、冷静じゃなかった。君の心情が理解できていたのに、あんな事を…………すまない」

 

 

こめかみを押さえながら、深い謝罪を見せる咲夜。冷静でなかった香織を落ち着かせるためとはいえ、言い方が強かったのも事実だと、彼は自分なりに受け止めている。

 

真っ赤になっていた目を拭う香織は、ふと咲夜へ確認を取る。

 

 

「ねぇ、岸上くん。南雲くんは奈落に落ちたんだよね?」

 

「ああ、だがアレは落とされたと言うべきだな」

 

「………やっぱり、そうだったんだ」

 

 

咲夜の遠回しの言い方に、香織は確信したように口に含む。二人の様子に戸惑っていた雫だが、咲夜の言葉を思い出し、「それって………」と口に漏らす。

 

不安そうな雫に頷いた香織は咲夜に視線を戻し、口を開いた。

 

 

「あの時、南雲くんに魔法が当たりそうになってたの。………岸上くん、誰がやったか分かるの?」

 

「…………分かっているが、言えない。今は」

 

「そっか────ありがとう」

 

 

香織は気付いている。咲夜同様、確信に近い形で───あの時の魔法も、ハジメを襲った魔物も意図的なものだと、誰かがやったものだと分かっていた。だからこそ、間接的にハジメを落とした本人の名を語らない咲夜に感謝した。

 

 

もし、知っていたとしたら、香織はその誰かを許せなかっただろう。その誰かとやらを恨んでいただろう。手を出さない自信がなかったから、そんな自身の心情を汲んでくれた咲夜に香織は感謝を示した。

 

 

「あ、そういえば」

 

「?どうしたの?」

 

「刃くんは、どうしたの?」

 

「………っ」

 

 

ふと香織はそう聞いた。ハジメの親友であり、筋金入りの優しい青年であった彼が、ハジメに起きたことを知って、何も思わないはずがない。彼女もそれだけのことは分かっていた。

 

彼の名を聞いた途端、複雑そうになる雫。思うところがあるのか黙り込んだ彼女を尻目に、咲夜は淡々と説明をしていく。

 

 

「アイツは俺達と別行動をした。ハジメを助けに行くって、言ってたな」

 

「………刃くんも、信じてるんだね」

 

「広大も雨音もだ。大半はどちらも信じてないが、ハジメが死んだと信じてるのは一部………光輝もその一人だ」

 

「…………そう、なんだ」

 

 

そう言う咲夜はあまりにも淡々としているが、無関心に近い。事情を大体理解した香織は、光輝がまた都合の良いことを言い出し、咲夜の怒りを買ったのだと判断する。長年の付き合いがある香織は、光輝がそういうことをするのはよく分かっていた。

 

 

───実際にその通りであり、ハジメが死んだといち早く割り切った光輝の無神経な発言に苛立ち、喧嘩になりかけた咲夜はあまり光輝の良い感情を持っていない。嫌いではないが、最早信用は地に堕ちたどころかマイナスに達している程である。

 

彼女が知らないとすれば、咲夜を含む数人が光輝を香織に会わせないようにしていることくらいだ。ハジメの死を乗り切って前に進もう、みたいな軽率な発言をすることなど目に見えているのだから、接触なんてさせられるはずがないと。

 

 

「ねぇ、岸上くん」

 

「………何だ?」

 

「私、何時になったら動けるかなぁ」

 

「…………少なくとも、今日は休んでおくべきだ。ヒナ団長は問題ないと言っていたが、万が一もある。何日も寝てたんだ、体調を整えておけ」

 

 

厳格な言い方の咲夜、隣を見ると雫も文句はないというどころか、その通りだと頷いていた。香織は素直に困り果てた。正直、今からでも強くなるためにも鍛えたい。そう思っていた彼女だが、二人の反応からして休むことを強いられるかもしれない。

 

 

一つの可能性に賭けて、香織は聞いてみた。

 

 

「えーっと………今からはダメかなぁ?」

 

「休んで」

 

「休め」

 

「………あはは」

 

 

無理だった。

退く姿勢の見せない親友と委員長に、香織の方が折れるしかなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

それから数日、一人で行動できるようになった香織は軽めの特訓を終え、休みの時間を静かに過ごしていた。城の庭を散策していた彼女は、城の片隅にある場所を見つける。

 

 

「ここは………」

 

 

一本の大きな気が生えたその場所は、何故か城の片隅にあった。まるで周囲から分離するように、日陰を作る大木を見つめていた香織は、その木だけが王国の植物とは別のものだと理解したところで、もう一つの事実に気付いた。

 

 

大木の根本に、何かが埋められてある。半ば生えたそれは大木から堕ちたであろう木の葉によって呑まれていた。覆い隠されているそれが気になった香織は近くの葉を払い除ける。

 

 

軽く払ったところで、埋められているものが何なのか分かった。

 

 

「…………お墓?」

 

 

墓石のようなものだ。古いものでありながら、丁寧に作られたらしく、そういうことに関しては素人である香織にもよく分かる。

 

何故香織が墓石と気付いたか、それは見てから分かるものだった。石の柱のようなそれには、文字が綴られていたのだ。

 

 

 

────メア・ハウリア。始まりの王の剣、ここに眠る。

 

 

「…………メア、ハウリア?………始まりの、王の剣?」

 

 

どちらも、聞き覚えがあった。まずハウリアだが、亜人族の部族の一つであると聞いている。亜人族の中でも最も温厚で戦いを好まない種族であり、亜人族の中で最弱とすら言われているとも。メアという人物も、ハウリア族の一人なのか。

 

そして、王の剣は『エリュシオン・ナイツ』というエリュシオン王の精鋭たる戦士達だ。座学で王の剣について教えられたが、メアという名前に聞き覚えはない。始まりの王の剣という名も、同じであった。

 

 

迷いはあったが、それよりも香織はこの場を掃除しようと思う。誰かの墓かは分からないが、このまま放置しておくわけにはいかない。そうやって動こうとした瞬間だった。

 

 

 

「───香織!」

 

 

思わず、体が引き締まる。咄嗟の事だったが、そこまで反応が出たのには理由があった。その声の主、よく知っている人物に会わないように、咲夜達が四苦八苦していたことは香織も知っていた。香織自身も、会っていいのか迷っていた。

 

そんな彼女の気持ちも露知らず、歩み寄ってきた光輝は香織を見て、安堵したように顔を緩ませた。

 

 

「目が覚めて良かった!……もう動いて大丈夫かい?」

 

「う、うん………まだ戦うことは出来ないけど、それより光輝くんは?」

 

「ああ、俺のことなら大丈夫さ。何時でも香織を守り通せるように鍛え直してるから………もう前みたいな無様は見せないさ!」

 

「前みたいって、あの時のこと?」

 

 

何時ものように優しく気遣ってくれる光輝に、香織は軽く笑いながら応える。変わらない様子に安心したように力を抜く香織。しかし、そんな彼女はまだ顔色が悪かったのか、光輝は心配そうに声をかける。

 

その口から、想い人のことが出てきた瞬間、香織の心が大きく揺れた。

 

 

「香織、もしかして南雲のことを考えてるのか?」

 

「…………光輝くん、私はね」

 

「分かってるさ、香織。けど、南雲のことばかり気にするべきじゃないよ。君の優しさは分かるが、クラスメイトの死であっても、乗り越えなきゃダメだ。南雲も、それを願ってるさ」

 

 

───やっぱり、そうなんだ。と、香織は心の奥底で失意を宿した。咲夜や雫が自分を光輝に会わせないようにしていた理由が分かった。都合の良い解釈が得意であることは、香織も慣れている。

 

それでも、辛かった。大切に思っていた幼馴染みである彼にとって、ハジメは既に死んだ故人に過ぎないのだと。そして自分は、ハジメの死に心を痛めている憐れなヒロインだと思い込んでる幼馴染みに、どう答えるべきか彼女には分からなかった。

 

 

「光輝くん………違うんだよ、私はね」

 

「────いや、俺はそんなこと言えないのは分かってる。南雲は事故で死んだけど、そうなったのは俺の責任なんだ。俺がもっと強ければ、魔王を倒せる程の力があれば、南雲を犠牲にしなくても済んだのに…………」

 

「…………やめて、光輝くん」

 

「ごめん、香織。辛い思いをさせてしまったけど、安心してくれ。俺は仲間を死なせない。誰も犠牲にせず、この世界を救ってみせるって約束するよ。………辛いなら、外の空気を吸おう。こんなところにいるよりも、もっと別の場所で─────」

 

諭すように優しく言う光輝だが、その内容はあまりにも自己中心的であり、香織への気遣いも、自分勝手なものに過ぎない。悲痛な彼女の様子も、クラスメイトの死に悲しんでるだけとしか見えてないのだろう。

 

 

そんな風に香織に手を伸ばそうとした光輝だが、

 

 

 

 

 

「─────随分と口が回るな、勇者。特訓もせずに女を口説くとは、呆れを通り越して感心するぞ」

 

 

真後ろから放たれた低い声と重圧に、押し潰されるように硬直する。振り返った光輝は、杖を片手に歩いてきた王、エリュシオンの存在を認知した。その瞬間、気を引き締めると同時に姿勢を正す光輝。

 

 

「え、エリュシオン陛下!別に俺は、口説いたりなんか───」

 

「………ふん、あれで無自覚とは恐ろしい。自覚アリならまだ諭すことも容易いだろうに。………それよりも、特訓もせずに余裕そうで何よりだ」

 

「そんな訳では………俺はただ香織の心配をしてて!」

 

「貴様には不要な考えだ、彼女は既に立ち直っている。好意を持つ女に構う暇があったら、自分を鍛え直せ、愚か者。それとも、もう二度と仲間を死なせないとほざいた貴様の覚悟は、その程度で揺らぐような軽いものか?」

 

 

早く去れ、と言外に示すエリュシオンに、光輝は反論をしようとしていた。しかし威圧を込めた王の睨みを受けた光輝は「………分かりました」と苦々しい声で、その場から立ち去っていった。

 

不機嫌な態度を隠さず、細めた瞳で光輝の背中を追いかけたエリュシオンはそんな感情を蓄えた溜め息を漏らす。困惑したようにその場から動けずにいた香織を見たエリュシオンが、不敵な笑みを刻んだ。

 

 

「話は聞いていたぞ、白崎香織。特に不調も無くて幸いだったな」

 

「あ、はい………心配してくれて、ありがとうございます……」

 

「何、気張らなくてもいいぞ。今この場にはオレしかいない。礼儀を気にしなくても構わん」

 

 

無論、臣下の前では礼儀正しくしてくれればいい、とエリュシオンは軽く笑う。

 

 

「それよりも、何故ここにいた?人気(ひとけ)のないこの場所に来るなど珍しいな………」

 

「あ、実はあのお墓の掃除をしようと思ってたんです……」

 

「墓?………………ああ、そうか」

 

 

ふと、香織の視線の先を見たエリュシオンは納得したように言葉を呑み込む。ゆっくりと歩き出したエリュシオンはその墓石に触れ、優しい声で呟いた。

 

 

「最近疲労と職務が溜まっていたからか、長い間来れずにすまなかったな。メア」

 

立ち上がったエリュシオンは周りを見渡し、墓の前の木の葉を取り除こうと動く。そんな王に香織は、おずおずとしながらも口を開いた。

 

 

「………あの、手伝っても良いですか?」

 

「────構わない。むしろ、感謝したいくらいだ」

 

 

軽く言葉を交わしたエリュシオンの横で、香織は掃除を手伝い始める。木の葉を墓から除けていく香織は、近くから取り出したであろう箒で木の葉を払うエリュシオンにふと聞いた。

 

 

「エリュシオン、陛下。この墓の人って、一体………」

 

「…………オレの相棒だ。生憎、ここにしか眠らせられなくてな」

 

 

理解した。この墓の下で眠っているのは、王にとって唯一無二の存在であるのだと。

 

どうして、と同時に思った。エリュシオンにとって、王にとって大事な人間ならもっと立派な墓にすることも出来たはずだ。そう思っていた香織だが、自分の考えをすぐに恥じた。

 

 

「当時のハイリヒ王国では亜人族の差別は少なからずあった。共有の墓地に亜人なんか入れたくないと騒ぐ奴もいてな────だからここにした。当然、ここの存在を知るのはオレ以外いない。王の剣も認知している奴等はいるが、オレに配慮して皆が黙っている」

 

 

平然と言うエリュシオンだが、その内容からも悲痛さが分かる。しかし言葉とは裏腹に気の緩んだ王の様子からも、その人物の墓であるこの場所が、エリュシオンにとっても安らぎの場所であることは明白だった。

 

それ故に、香織は素直に謝罪を述べた。

 

 

「ごめんなさい、王様」

 

「何を謝る、白崎香織」

 

「光輝くんのことです。彼、さっき『こんなところ』って言っちゃってましたから………王様の大切な人のお墓がある場所を、そんな風に言っちゃって」

 

「───頭を上げろ、オレは気にしていない。そもそもあの勇者は、墓の存在にすら気付いていなかったからな。少し思うところはあったが、邪魔だったから退けたに過ぎん」

 

 

その割には、嫌悪感が剥き出しであった。本気で光輝のことが嫌いなのか、忌々しいと言わんばかりの口で語る。

 

 

「あんな世間知らずな小僧にメアのことを同情し、乗り越えるべき過去とされるだけでも不愉快だ。それならいっそのこと、知らんでくれた方が助かる」

 

「……光輝くん、嫌われちゃったなぁ」

 

「安心しろ。アイツを認めてる奴の方が少ない、それは『王の剣』だけだがな」

 

 

吐き捨てたエリュシオンは、話が逸れたことに気付き、コホンと咳き込む。そうして、自分の話そうとしていたことに話題を戻した。

 

 

「彼女、メアと出会ったのはオレが王になる前、自分磨きの旅に出てすぐの頃だった。亜人族の森、フェアベルゲンに寄った時に、ハウリア族には色々手助けして貰ってな。そんなオレの旅に、メアは着いていくと言った」

 

『───エリュシオン様!貴方の力になりたいんです!ですから、どうか!』

 

「最初は、本当に苦労させられた。実力はあるんだが、どんくさくてな。父親の族長曰く、妹も同じだと聞いた時は、血の濃さに唖然とした。本当に大変で────アイツと皆で旅をした時は日は、楽しかった」

 

 

過去を思い出したエリュシオンの顔は、微かに綻んでいた。薄く笑う王の横顔を見ていた香織は、直後に引き締まったエリュシオンの鋭い目を見た。

 

 

「だが、あの日────魔神連合と人類の戦争が始まった日、オレは連合国の一つと共同して前線を維持していた。そんなオレ達の前に、奴等は現れた」

 

「奴等………?」

 

「────相対の魔神、ダブリス」

 

 

エリュシオンはかつての光景を思い出す。無数の魔物の軍勢を従えた、少年と少女の姿を。二人の足元から地面に伸びる───二つの首を有した禍々しいヒト型の怪物の影。

 

負け知らずで、未熟だった自分に恐怖と絶望を与えた、圧倒的な厄災の記憶を。

 

 

「奴の統べる魔物───金属と生物を融合させた魔物の軍勢に、オレ達は苦戦させられた。必死に戦っていたオレはその時、守っていた王国の人々が敵の攻撃を受けて皆殺しにされる未来を見た。オレはその未来を変えようと、全力でその攻撃を受け止めた。その結果、彼等を助けることは出来た。

 

 

 

 

 

────だが、オレが王国の奴等を守っていたことで、戦っていたメアはオレが取り零した魔物に殺された」

 

 

選択を間違えた、とは言わない。自分が決めた未来の結果、彼女を────相棒を死なせることになった。つまり、メアを死なせたのは、エリュシオン本人なのだ。

 

 

「オレが王国の援護のために、無視するしかなかった魔物だった。目の前の未来だけを信じ、何がなんでも守り通せる。そう思っていたオレは、守りたかった相棒を死なせた」

 

 

彼女を喪ったエリュシオンは激昂し、全ての敵を滅ぼす決意で特攻した。だが、彼は死ぬこともなかった。相対の魔神、ダブリスは、自分を生かしたのだ。憐憫と嘲笑を乗せ、一番守りたかったものを守れなかった男から背を向けて立ち去った。

 

倒すべき敵から見向きもされず、無様に生かされたエリュシオンの心はズタボロであった。未熟で、自分が世界の中心だと信じていた青年の挫折となったその事件は、今でも忘れられないものだ。

 

 

「…………戦後、オレは彼女の亡骸を一族の元へ返そうとした。けど、彼等は大丈夫だと断った。メアも、彼女きっと、オレの元に居たいだろうからって……………ハウリアは、皆オレを恨むことはしなかった。まだ幼かったメアの妹も、オレの事を気遣ってくれた─────この木も、メアが育てものだ。せめてこの木を国に持ち帰って、その下に眠らせて欲しい。それが、それだけが彼等の願いだった」

 

 

その後、ハイリヒ王国へと帰還した彼は両親の国葬を終え、王へと着任した。今残されたものだけは守ると決意したエリュシオンは、来る魔神連合との決戦のために王国の戦力増強に力を尽くした。倒すべき魔神連合だけではなく、全ての元凶たる聖教教会も倒すための用意も重ねながら。

 

 

「…………白崎香織。これは岸上咲夜や黒鉄刃だけに伝えた事実だが─────南雲ハジメは生きている。かもしれないではなく、間違いなくだ」

 

「っ!本当ですか!?」

 

「詳しい事情は語れないが、いずれお前と対面することだけは約束しよう。だが、その為にもお前は力を付ける必要がある……………オレの言いたいこと、理解できるか?」

 

 

墓参りを終えた二人、エリュシオンは香織を目を静かに見据える。その意図、強くなれという王の言葉に香織は無言で頷いた。

 

彼女の瞳の奥の覚悟を受け取ったエリュシオンは、杖を片手に背を向ける。カン、と地面を叩いた彼が後ろにいる香織に向けて告げた。

 

 

「───着いてこい。今のお前に教えたいものがある」

 

 

◇◆◇

 

 

エリュシオンが香織を連れて、向かったのは城の奥にある部屋であった。そこの事は、香織もよく知っている。メイド部隊のメイド長であるセノが、城を案内する際に口を酸っぱくして、何度も話していた。

 

 

『───ここは星の間。この間に入れる者は、王と王が認めた者だけ。現時点で私や王女様方も、ここに立ち入ったことはありません。ですので、絶対に入らないようにお願いします。たとえ皆様でも、厳罰は免れかねませんから』

 

「────この部屋については、セノから聞いていただろう」

 

部屋の扉の前に立ったエリュシオンが振り返り、香織にそう聞く。今しがた、その事を思い出していた香織が答えると、エリュシオンはそのまま扉の向こうへと入っていく。

 

立ち止まっていた香織に、「大丈夫だ、来い」と彼は言う。慎重に、部屋に足を踏み入れた彼女は、直後に足を止めることになった。

 

 

 

 

 

────宇宙。

 

まるで夜空に放逐されたように、暗闇が広がっている。しかし完全な暗闇ではなく、黒のキャンパスには無数の光が点灯している。それが全て星だと気付いたのは、宇宙というものに触れられる程に発展した世界に自分達が住んでいたからだろう。

 

 

「………やはり驚かんか。この世界を知った時はオレも言葉が出なかったが、君達の世界ではここを知ることが出来たのか」

 

「ここ、は───宇宙?」

 

「成る程、ウチュウという呼び方もあるのか。新鮮だな。………厳密には違う。ここは擬似領域だ。オレの魔法により、展開された特殊な空間、オレの魔力を増幅させる機関と言うべきか」

 

 

宇宙空間のような世界で、エリュシオンは平然と歩いていた。意識が周りに集中していたせいか、香織はその場に尻餅を着いていた。だが、足場はある。視界に広がる空間のせいで、本当に宇宙にいると錯覚していたのだ。

 

 

「オレの魔法は特殊でな。普通の人間では使いきれん。適性を持つ奴が、この世界ではオレ以外にいない。継承させようにも、そもそも扱える者は見つからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ただ一人、お前を除けばな。白崎香織」

 

「────」

 

「光栄に思え。お前にはオレの魔法を伝授しよう」

 

 

そう言い、エリュシオンは槍を地面に突き立てた。カァン! と床を震わせるような音ではなく、トン、と軽く空間に留まる。その後、空間に溶け込むように暗闇に沈んでいくエリュシオンの槍。

 

 

瞬間、槍が消えた空間から周囲の領域に魔力が流れた。空間自体に龍脈のように広がる魔力のラインが上空の一点へと集中し、強い光を発する。

 

そこから雫が落ちるように、小さな光の粒が浮かぶ。その球体らしきものは勢いよく香織へと突撃し、咄嗟に両腕で身を守ろうとした彼女の掌に溶けて消えた。

 

 

慌てて掌を見た彼女は、素肌に刻まれた黒い紋様に目を見開く。何らかのものを示すその形は、先ほどの光が収束した時のマークと同じに見えた。

 

 

「………これは」

 

「オレの魔法。神すらも知らぬ特異なる力だ。神代魔法とも違う───その魔法が、お前の力となる。その名前は、『星体魔法』。オレとお前しか扱えぬ、最強の魔法だ」

 

 

自身の掌に浮かぶ刻印を見つめていた香織は、少しだけ浮わついていた。見ただけだが、この魔法の強さを。これならば、自分ももっと強くなれると。

 

 

「何終わった気でいる。むしろこれからが始まりだぞ」

 

 

そんな風に木を緩ませていた彼女に、エリュシオンが呆れたように声を放つ。香織が慌てて意識を戻すと、エリュシオンは自身のマントを外し、王族の服も脱いでいた。

 

 

戦闘服らしき身軽な服装に変えたエリュシオンは自身の手袋を外す。香織同様の刻印が刻まれた掌を握り締めながら、香織を見据える。

 

 

「継承させた『星体魔法』は強力故に扱いが難しい。オレとてこの魔法を極めるのに十年は掛けた。完全に使いこなすのに、ちんたらした修行なぞしてられん。───故に、特別だ」

 

 

嫌な予感がしたのは、間違いではない。明らかにやる気を見せるエリュシオンに、香織はひきつった顔で笑うしかなかった。そんな彼女の予想に応えるように、エリュシオンは宣言した。

 

 

「オレ自身が、手ずから鍛えてやる。加減に関しては安心しろ。元よりオレも、だいぶ鈍っているからな」

 

 

◇◆◇

 

 

一方その頃。

王国から少し離れた修練場にて。

 

 

「よぉ、二人とも!」

 

「………あぁ、龍太郎か」

 

 

そこで木刀による素振りをしていた光輝と雫に、元気そうに声をかけた坂上龍太郎。咄嗟に気付いた雫だが、光輝は一泊遅れたように龍太郎に応える。その様子に違和感を覚えたのだろう、龍太郎が不安そうに聞いた。

 

 

「どうしたよ、光輝。何か考え事でもあんのか?」

 

「まぁ、な…………実は今日、香織と話したんだ」

 

「え!?香織に会ったの!?」

 

 

あまり気にしてない男二人組の横で、雫は何してんだと溜め息を漏らした。彼女は咲夜から、香織に光輝と会わせないようにと事前に頼まれていた。無論、光輝と付き合いが長い雫だが、今回は咲夜の頼みに従っていた。

 

光輝は香織がハジメに好意を持っていることを知らない。だからこそ、香織が落ち込んでいるのを自己解釈して都合の良い状態へと置き換える。そして、余りある行動力で香織に無神経なことを言うのは、分かっていた。

 

 

香織がまだハジメの死を乗り越えられてないと複雑そうな光輝に、龍太郎がそんな簡単に割り切れねぇだろと軽く諭す。そんな光景を前に、本当に気を付けなければと引き締める雫。

 

この調子だと光輝が香織に見当違いなことを言ったのは確実だ。光輝の話曰く、話してた途中で王様に怒られてこっちに来たらしい。ありがとうございます! と、心の中で雫はエリュシオンに深い感謝を示した。

 

 

「それよりも、これで全員集まったな。後は待つだけか」

 

「………?全員?龍太郎、どういうことなんだ?」

 

「あ?知らないのかよ、光輝。俺達の特訓に王国騎士団の団長さんが付き合ってくれるらしいからって、光輝と雫と俺が呼ばれてんだよ」

 

「…………雫、知ってるのか?」

 

「だからここに来たんでしょ。光輝は知らなかったの?」

 

「ああ………俺は分からなかった。連絡が届いてなかったのか?」

 

 

 

 

 

 

 

「────当然だ。貴様には伝えてなどいない」

 

 

直後、上空から何かが飛来し、三人の合間を縫うように地面に激突した。突然の事に硬直する光輝、そんな彼の目の前───砂煙の向こうから、剣刃が迫ってきた。

 

咄嗟に木刀で防いだ光輝だが、刃を抜き放った真剣を前に握っていた木刀が両断されてしまう。武器を切られたことで意識が逸れた光輝に、煙の向こうにいた誰かは躊躇い無く蹴りを打ち込んできた。

 

 

「────ガッ!?」

 

 

そのまま吹き飛ばされ、近くの木に叩きつけられた光輝。地面に転がった彼を煙の隙間から見た何者かは興味無さそうに睥睨する。親友を攻撃されたことを目の当たりにした龍太郎は「テメェ!」と拳を握り、相手へと突貫する。

 

煙の中央に立っていた男は両手の剣を地面に突き立て、龍太郎に対抗するように両拳を構えた。

 

 

そして、全力を込めた龍太郎の一撃を受け止めた。両腕を構えることなく、胴体に受ける形で。

 

 

「ッ!?硬ぇ……っ!」

 

「………覚悟は充分。やる気もある。筋も打ち込みも悪くはない──────だが、足りない」

 

 

一瞬止まった龍太郎に、男は拳を握り直す。ズン、と前へと踏み込んだ男は、龍太郎の腹に穿つような一撃を叩き込んだ。

 

 

「────ゴハッ」

 

「力も速さも、何もかも。発展途上だが、木偶に過ぎん」

 

 

崩れ落ちた龍太郎に辛辣な評価を下した男は、視線を動かす。そんな彼の背後から、近くの木陰から飛び出した雫が斬りかかる。木刀ではなく、騎士剣を振るう彼女の刃は───男が持ち直した剣によって受け止められる。

 

 

「────っ」

 

「中々いいな。相手に迷う姿勢無し、真剣を用いた殺し合いの覚悟もある。刃と同じく、貴様は合格だ。無論、妥協した限りだがな」

 

「…………!」

 

「───切っ先が、緩んだぞ」

 

 

直後、男は片手の剣に力を乗せ、勢いよく雫を弾き返すように払う。吹き飛ばされながら姿勢を直した雫は、騎士剣を深く構え、刺突するように一撃を放った。

 

だが男は、そんな雫の一撃を容易く避け、正面を狙い放たれた騎士剣を払うように斬った。衝撃で軌道が逸れ、震動が伝わった彼女の手首を、男が掴む。

 

 

「っ!?」

 

 

気付いた時には手遅れだった。手首を掴まれた雫は男に引っ張られ、そのまま地面へと叩きつけられる。手加減はされていたがダメージは大きく、地面に倒れた彼女の手からは力が抜けかけていた。

 

 

「────まだまだ未熟だが、貴様が一番才能がある。弟子としてやりたいくらいだ」

 

 

それに比べて、と男が呆れた瞬間、後ろの方で魔力が膨れ上がった。視線を向けた男の先では、聖剣を握った光輝が全身から魔力を放出していた。

 

 

「よくも、二人をッ!!」

 

「────馬鹿が、どうせなら不意を突くぐらいはしろ」

 

「そんな卑怯なこと!俺はしない!」

 

 

はぁ、と、心底面倒そうな顔の男。そんな彼が剣を構えたことを見計らい、光輝は『縮地』による一瞬で距離を縮めた。隙を突いたと思い、聖剣で相手の剣を弾こうとした光輝だが、目の前の男は光輝の動きに容易くついてきていた。

 

 

「卑怯なこと?それ勝つことの出来ない雑魚の言葉だ。戦いの中で、卑怯もクソもない。相手に勝つか、負けるか───それだけだ」

 

 

全力を込め、両手で聖剣を振るう光輝に、男は片手の剣で打ち払っていた。的確に光輝の一撃を防ぎ、それどころか防ぐのも危うい角度から斬撃を叩き込んでくる。

 

そんな剣戟も、光輝が一歩よろけたことで終わりを迎える。男は即座に光輝の足を踏み、退路を奪う。そのまま尻餅をつくように倒れた光輝の喉元に剣先が突きつけられる。

 

しかし、冷徹な眼光を向けていた男が舌打ちを吐き捨て、剣を下ろした。

 

 

「────期待外れだな。この程度か、勇者。実力も覚悟も、何もかもが足りない…………正直、不愉快だな」

 

「なっ………!っ!誰なんだ、貴方は!」

 

「イガル・ハヤテ。メルドの代わりに貴様等を鍛え直す男だ。それだけ覚えていろ、雑魚」

 

 

とことん光輝を見下すその男、イガル・ハヤテに良い感情を持てない光輝。その横で立ち上がろうとしていた雫は、その人物の名が、王国騎士団団長────王国最強の剣士のものであることを思い出した。

 

 

「っ!待ってください!メルドさんの代わりって、メルドさんはどうしたんですか!?」

 

「────メルドは貴様等の攻略の際の責任を全て負った。副団長を一時解任、当分は帝国への遠征で骨の髄まで鍛え直す事だ。少なくとも、数ヵ月は貴様等も会えんと思え」

 

「そんな………!おかしいです!メルドさんは、何も悪くないでしょう!?どうして罰を受ける必要が────」

 

「────貴様のせいだ、勇者」

 

 

ザンッ! と光輝の目の前に剣刃が突き立てられる。言葉を止めた光輝に向けて、ハヤテは侮蔑を込めた言葉を投げ掛けた。

 

 

「貴様が無力だったから、魔王相手を倒せない雑魚だったから、貴様が無駄に意地を張ったから、仲間一人も助けられず、見殺しにしたのだ。その責任を、あの腑抜けが背負った。貴様が背負うべき、罰をな」

 

「見殺しにした………!?違う!南雲が死んだのは、事故だ!それは、仕方ない話でしょう!」

 

「…………己が守れなかったことを事故と割り切った時点で、貴様の格が知れる。こんな雑魚が世界を救う勇者とは、笑わせる」

 

 

剣を地面から抜き放ち、忌々しそうに光輝を睨むハヤテ。フン、と鼻を鳴らした彼はそれでも苛立ちが収まらなかったのか、両手の剣を軽く振るいながら、吐き捨てた。

 

 

 

「────メルドも腑抜けが過ぎたな。こんな雑魚どもに現を抜かし、甘やかすとは。王国騎士団副団長の名も奴には大きすぎたか」

 

「………………何だって?」

 

「貴様等の教育を、あの腑抜けに任せるべきではなかったと言っている。………王に迷惑まで掛ける始末。ああ、いっそのこと、王の言葉もよりも先に俺が断罪してやれば良かった」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、光輝の頭の中の何かが弾けた。地面を掴むように力を込めた青年が、低い声で呟く。

 

 

「────取り消して、ください」

 

「……………あ?」

 

「メルドさんは、腑抜けなんかじゃない!俺達はあの人に多くのことを教えて貰ったんだ!貴方が、簡単に馬鹿にしていい人じゃない!それに、あの人を断罪するなんて───そんなこと、絶対に許さないッ!!」

 

 

立ち上がり聖剣を構え直した光輝が、強い力と魔力を全身から解き放ち、叫ぶ。目の前の青年の変化に、ハヤテは両手の剣をゆっくりと下ろした。

 

 

 

 

警戒した────のではない。そもそも、彼が意識しているのは、光輝の発言であった。

 

 

 

 

「────ガキが、よく吼える」

 

 

ビキビキ、とハヤテの顔が怒気に染まっている。細められた瞳には、目の前の青年への激しい怒りが煮え滾っており、光輝が放つ以上のオーラを溢れ出していた。

 

 

「綺麗事しか知らねぇ雑魚の分際で、アイツの事を完璧に理解した気か。────馬鹿もここまで来ると尊敬する。そこまで言うなら上等だ」

 

 

両手の剣を握り直したハヤテが、その場に立つ。今までとは違う雰囲気と威圧感を放ち、自分自身に親指を当てながら、王国最強の剣士は告げる。

 

 

「───この俺に傷を与えてみせろ。三人同時で構わん。それが出来たなら、メルドへの非礼も謝ろう。その後も、お前達誠心誠意を鍛えてやろう…………だが、ニヶ月の間、俺に傷を与えられなければ─────小僧、貴様には勇者の名を捨てて貰う。俺に傷を負わせられん雑魚に、人類の希望を背負わせるつもりは毛頭ない」

 

 

上等だ、と光輝は吼える。そんな彼に力を貸すと立ち上がった龍太郎。心底呆れながらも覚悟を決める雫。自分を囲むように身構える三人に、ハヤテは何時でも来いと首で促す。

 

そうして、三人が一斉にハヤテに飛び掛かった瞬間、激しい戦闘の音が周囲一帯を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




メア・ハウリア

ハウリア一族の女の子。エリュシオンがめちゃくちゃ信頼していた相棒であり、初恋の子。尚本人が恋心を自覚したのは殺された直後だった模様。

始まりの王の剣。七人だけしか在籍していない『王の剣』の幻の八人目であり、最初の一人目でもある。

彼女の死が、エリュシオンが未来を見る『星見』を多用しない理由となった。



ハヤテ「綺麗事しか知らねぇ雑魚の分際で、アイツの事を完璧に理解した気か」

要約:お前如きが何知ったつもりで言っている!?アイツの事はお前よりも、俺がよく理解している!


ホモォ、とか思ってても言わない。まぁあの傍若無人なハヤテからしたら副団長にしてるメルドの事軽んじるどころか気に入ってるんだよね、副団長として認めてる時点で。そもそもハヤテとメルドって普通に仲良いんですよ。


ハヤテ………いや、ハヤテさんって一度評価すると、とことん可愛がる(口は悪い)けど、気に入らない奴は徹底的に悪く言います(何時も通り)


光輝も気に入れば、きっと可愛がる(ボコボコにする)と思いますが、そんな日は来ないでしょう(絶望的)

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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