ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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水神の巫女/重力使い

「────はい、ここが俺の隠れ家ね。狭いとか文句は止してくれよ、俺だって我慢してるんだから」

 

 

地下通路に繋がった先にあった一つの部屋に、クライスは刃達を招き入れた。木製の机と椅子を並べ、彼は近くの台所らしき所に歩いていく。警戒を緩めないシノとラナールに目配りした刃は、椅子を引いて大人しく座った。

 

 

「はい、お水。好きに飲んでくれていいよ」

 

 

冷たい水の入ったカップを刃達の前に並べ、クライスが微笑みながら近くの椅子に座る。そうして、三人の視線を受けながら、彼はしたり顔で笑う。

 

 

「………どうやら、ゆっくり休んでるつもりは無さそうだね。やっぱり何が起こってるのか、知りたい?」

 

「お前は、この都で何が起きたか知ってるのか」

 

「そりゃあ。当時からこの街に居たからね。お望みなら、全部話そう」

 

 

手前にあったコップの水をちびっと飲み、クライスは落ち着いた調子で語り始めた。

 

 

「数ヵ月前、俺はこの都 スティシアに訪れた。その目的は、君達同様、水の神 『フローネヴェーテ』を目覚めさせることだ」

 

「………その事に、ついて聞きたい。どうして神を目覚めさせる必要がある?」

 

「あ?もしかしてエリュシオン説明してないの?……いや、確かに解放者についても知らなさそうだし────はぁ、どうせなら全部話せばいいのに」

 

 

まぁいいか、と思い悩む様子すらなく、クライスは机をトントンと指で叩きながら、続ける。

 

 

「まず、俺とエリュシオンの関係だけど………ライバルって感じかな」

 

「ライバル………」

 

「そっ、昔ね。アイツとは何度かぶつかり合ってね。本気で殺し合ってたけど、今は互いに色々と国の事情で忙しくてさぁ」

 

「………、貴方も何処かの国のトップ、なのですか?」

 

「─────まぁね。どっちかと言うと、俺の場合は貧乏クジだし、エリュシオン程じゃないよ」

 

 

ラナールがそう聞いた途端、クライスは少し迷ったように答えた。誤魔化すように軽く笑う彼に、刃は違和感を感じざるを得なかった。だが、クライスもその事を話すつもりがないらしく、咄嗟に別の話題に切り替える。

 

 

「解放者、についてだけど。君達は何処まで知ってる?」

 

「…………生憎、初めて聞いたぜ。そんな名前」

 

「成る程、そこまでなら一から説明しないといけないわけか。…………そんじゃ、キチンと聞いてくれよ」

 

 

そう言いながらクライスは机の上に並べあった本の一冊を開く。何枚もの頁を捲っていき、ふと指を止め、開いた本を彼等の前に出した。

 

昔の文字が刻まれた古い本。彼はその本の文章を指で示しながら、説明していった。

 

 

「創世記の時代から過ぎ去った神代の時代。聖光教会、現在の聖教教会の権威が強く、エヒト神の存在が絶対的であった頃、教会の横暴が許されていた…………君達も、それくらいは知ってるだろう?」

 

「…………」

 

「固有魔法や神代魔法の使い手を強制的に神の眷属として隷属させたり、魔人族に手助けした者や亜人族を、徹底的に処刑したりした。そんなことしたら、反感を持つ者達が現れるのは当然とは思わないか?」

 

「それが………“解放者”」

 

「そう。かつて彼等は多くの人々と力を合わせ、人々を駒として弄ぶ狂った神を打ち倒そうとした。けど、彼等は勝てなかった」

 

「………エヒトに、負けたのか?」

 

「二つの要因があったのさ。一つは、エヒト神が彼等を反逆者という人類の敵として定めた。それにより、世界中の護るべき人達が彼等の敵になった。もう一つ、エヒトは余計なものをこの世界に持ち込んだ。彼等を殺し尽くせる災厄を」

 

 

災厄という単語が理解できない訳ではない。それが何を意味するのか、一々語る暇はなかった。

 

 

「まさか、魔神?」

 

「そっ、エヒトは多くの世界に影響を与えた魔神を駒にしようと画策した。結果、失敗して一つの大陸が消えた。暴走した魔神を止めるために戦った解放者は殆どが力尽き───生き残った解放者達を、エヒトは反逆者として追い立てた。ホント、ロクでもない神だね。全く」

 

 

クライスが捲った新たな頁に、それを模したものが描かれていた。地上の人々や生物が倒れ伏し、その中央で巨大な黒い影が大きく世界を飲み込もうとしているのを。

 

その頁に目を向けていた刃達が顔を険しくする中、ラナールは不安そうに疑問を口にした。

 

 

「ちょっと待ってください。どうしてそこまで詳しいんですか?その時代は、はるか昔のはず。解放者の記録もない以上、情報は抹消されているのに…………」

 

「………残された解放者達は、未来の者達に願いを託すことにした。彼等は自分達が造った大迷宮の奥に隠れ、自分達の神代魔法と世界の真実を遺していった─────いずれ、自分達の意思を継ぐ者達の為に」

 

 

机に並べてあったその古い本を手に取り、両手で閉ざすクライス。空中に投げ、受け止めたその本を腰のベルトに繋がったパックに仕舞い込み、話を続けた。

 

 

「俺やエリュシオンは、その大迷宮を踏破した攻略者───狂った神からの解放を受け継いだ者ってわけ。因みに俺は、ミレディ・ライセン────お師匠の迷宮を攻略し、彼女から真実と神代魔法について教わった。そこで俺は、旧神を目覚めさせるようにと言われたのさ」

 

 

自慢するように話していたクライスだが、すぐに薄ら笑いを浮かべ、椅子にもたれかかりながら言葉を紡いだ。

 

 

「話を戻そう。一ヶ月前、スティシアに潜入した俺は女王に出会うことにした。そこで女王にいる城に入ろうとしたら、丁度クーデターが起きてね」

 

「過激派、ソフィーとか言う巫女の人達……」

 

「…………過激派とか、奴等の前で言わない方がいいよ。凄いぶちギレるから」

 

 

特に気にした様子のないシノの発言に、クライスは苦笑いしながらそう言うしかなかった。軽く注意、というよりも忠告に近い感じである。

 

 

「彼等、女王の娘であったソフィーは女王の魔力を事前に奪った。それで無力化した女王を軟禁し、女王の『液状』の魔力と自身の『水気』の魔力で無敵の存在と化した。けど事態を把握していた女王はもう一つの『流水』の魔力を有した自分の娘 ソーナちゃんを逃がし、俺が保護してたってこと」

 

 

「つまり、ソーナは女王の娘───同じ王女のソフィーから、狙われたってのか」

 

「そういうこと。その目的は、ソーナに受け継がれた水神の魔力『流水』を奪うってもん。ソフィーは三つの巫女の魔力を集め、水神の力としたがってる」

 

「何でそんな事を」

 

「聖教教会への、報復さ」

 

 

女王へのクーデターを起こし、妹すら狙った理由が、それであった。彼等にとって『水神』の代行者たる女王への離反し、過激な手段を取るのは、その目的を果たすためだ。

 

 

「水神の魔力が三つもあれば、海の支配も可能だろうね。それで奴等は教会の総本山に甚大な被害を与え、いっそのこと吹き飛ばすつもりだと思うよ」

 

「どうして、そんなことを───」

 

「…………報復って言ってる時点で分かるんじゃない?」

 

 

刃は船で聞いた話を思い出した。『教会はスティシアと敵対関係を取ってはいないが、事情を知らぬ末端は異なる神を信仰するスティシアを良く思っていない』、と。そんな末端達が、スティシアへの過度な嫌がらせや迫害を繰り返していたという事実を。

 

そして、巫女たるソフィーが自分達外部の人間に向けた強い敵意が、その事実を現実のものにしていた。

 

 

「俺も当然だけど、彼女もその行為を見過ごすつもりはなかった」

 

「………、」

 

「魔神連合という、人類が手を取り合わねば打ち勝てない脅威を前に、彼女達は復讐を選んだ。教会という存在を滅ぼすことへの決意を高めた巫女と賛同した兵士達はクーデターを起こし、魔力を強奪した。気持ちは分かるけど、正直自暴自棄なところだと思うし、今やることじゃあない」

 

 

やれやれ、と肩を竦めるクライス。まるでソフィーて知人であるのかような態度と距離感である。そのことを口に出す暇もなく、クライスは言葉を続けた。

 

 

「彼女は別の考えで、自分の姉の暴走を止めようとしていた。身内ってのもあるんだろうけど、彼女は未来を信じてた。怨恨に囚われ、外部の者を徹底的に排斥する故郷にしたくない、ってね」

 

「………ソーナ、アイツが」

 

「彼女は君に、君達に希望を見出だした。だからこそ、わざと自分の身柄を差し出したんだ。俺は止めたけど、君達に未来を賭けたいって聞かなくてね………ホント、我が儘だよね」

 

 

軽く息継ぎしたクライスが、刃達にチラリと視線を向ける。答えを聞くような感覚に、刃は躊躇う様子もなく口を開いた。言うまでもないと、断言するように。

 

 

「分かった。俺達は、何をすればいい?」

 

「いや、君達が素直に答えるとは思って─────あれ?」

 

 

自分の思っていた言葉とは違ったのか、硬直するクライス。呆然としながらも、少し戸惑ったように口を開いた彼は刃に聞き返してきた。

 

 

「マジ?こういうのってさ、最初は渋る感じじゃない?簡単に受けていいの?」

 

「………諦めろってか?アイツが自分を危険を晒してまで、俺達を逃がしてくれたってのに。メリットがねぇからって、俺達が何もしねぇ理由にはならねぇ」

 

 

何より、と刃は眼を鋭くする。自分の意思が決まりきっていると、そんな簡単に決めたものでも、覆すものでもないと示すように。

 

 

「自分の都合だけで他人を見捨てるのが賢い生き方なら、俺は賢くなるつもりはねェ」

 

「─────成る程、エリュシオンが認めるだけある。君は、『本物』だ。彼が使命を託したのも頷けるね」

 

 

眼を細め、微笑みを深める。軽薄と違う純粋な笑みを浮かべたクライスは高い評価を示した。下した、のではない。対等に、彼を認めたのだろう。先程から対話の度に向けられた試すような視線は、途端に消失していた。

 

 

「そちらの二人は、賛成ってことでいいのかな?」

 

「………主様の、意思に………従うだけ」

 

「ソーナ様は、私達に期待してくださったんですよね?それなら、私が退いては────医療騎士の名折れ、ですから」

 

 

刃の意向に賛同するシノとラナールに、クライスは納得したように頷いた。椅子から立ち上がり、準備を始めながら、三人に語り掛けた。

 

 

「んじゃ、休息してるのも悪いけど、早速動くよ」

 

「………い、今からですか?」

 

「そりゃそうよ。時間は少ないんだから、移動しながら作戦を話すよ。早くしないと、ソーナちゃんの魔力が奪われるかもしれないから」

 

それを早く言え、と叫びながら飛び出そうとする刃が二人に取り押さえられた数分後、ようやく彼等は動き出した。ソーナ救出作戦決行の為に。

 

 

◇◆◇

 

 

スティシアの城───名を、フローアヴェール。水神 フローネヴェーテを崇めるために、彼女の民が何十年も掛けて建てた神と女王の城である。今は女王と巫女による運営されてるその城には、一つの噂がある。

 

その城の何処かに、水神 フローネヴェーテが眠っていると。死んだという意味ではなく、言葉通りである。自身の加護を民に与え、永久の眠りについた────いずれ目覚めるべき、約束の日の為に。

 

無論、それは噂ではない。事実であった。フローアヴェールには、水神が眠っている。そもそもこの城は約束の日まで眠る女神を外敵から護るという民達の強い意思で作られたのだ。その名前がフローネヴェーテに近いが若干違うのも、女神と同じ名前にするのは不敬ではないかと感じた当初の巫女の考え故にだ。

 

 

その城の一室────巨大な青色の球体の装置、『メルトリア』が配置されたホールで、ソフィーは装置の真下にある台座に寝かされたソーナを見下ろしていた。

 

 

「…………」

 

 

複雑そうな、それでも慈愛に染まった眼で妹を見つめるソフィー。撫でるように妹の頬に手を添えた彼女は何事か小さく呟き────ふと、呼吸を止める。

 

 

「………神聖なる祭儀の間に土足で踏み込む事は赦しません。名乗り、堂々と立ち入るのであれば赦します」

 

「────お気遣い、感謝しましょう」

 

 

ふと、入り口の影に人の姿が浮かぶ。

ズン………と重圧を伴い、現れたのは量腕を組んだ屈強な大男であった。瞳が見えない糸目の男性、ファンディム・ザッカーはソフィーの前に立ち、胸に手を当てて頭を下げた。

 

 

「私の立ち入りを赦してくださったことを感謝します。女王代理の現巫女、ソフィー様」

 

「………他人行儀ですね。昔のように私を教え子として見てくれないのですか?」

 

「かつての話でしょう。それに私は、自身の肉親に手を掛けるような教育をした覚えはありません」

 

 

あまりにも刺々しい言葉に、ソフィーは苦笑いするしかなかった。ファンディム・ザッカー、今現在スティシアと友好的な商団な幹部を努めるその男は、かつてソフィーの教育係であり彼女の身を護る水月軍の軍団長の一人だった。

 

恩師でもあるその人は、数年前に軍人の役目を終えた。家族を持ち、外の国で幸せに暮らしていた彼は、彼女が起こした事件を知り、城へと踏み込んだ。元軍団長であったファンディムの激しい気迫に兵士達も止めることは出来ず、通すことしか出来なかったのだろう。

 

 

「………そこまで憎いのですか。教会が」

 

「当然ですね。私だけではなく、多くの者が教会を憎んでいる事実は変わりません」

 

「だからこそ、教会を潰そうと言うのですか。一部の善良な人間も巻き込んで」

 

「そうでもしなければ、私達の恨みは晴れない。そうすることで、ようやく痛み分けになるでしょう?」

 

「────止まるつもりは、無いのですな」

 

「彼等が同じ痛みを味わうまで、私達は立ち止まらない」

 

 

強い敵意は、この場にいないものに向けられていた。僅かに変質すれば殺意に変わるその感情にファンディムは沈痛な顔で口を閉ざした。

 

これ以上、何を言っても無駄だと。彼は理解していた。だからこそ、彼は諦めることにした。もう説得などでは止まらない彼女に、最後の言葉を投げ掛ける。

 

 

「エリュシオン王は、悲しまれるでしょうな」

 

「…………っ」

 

「さようなら、ソフィー様。もう私は、貴方の前に現れることはないでしょう。貴方も、私の元に現れないことを願います」

 

 

拒絶の言葉に、彼女は何かを言おうとした。しかし、それは彼女自身が許さなかった。自分の私怨を優先し、大勢の人間を巻き込もうと決意したその日から、覚悟していたことだった。その場から立ち去っていくファンディムに背を向け、彼女は静かに呟く。

 

 

「────それでも、私は許せない。妹を、エリュシオンを苦しめた奴等を─────」

 

 

天井を見上げたソフィーは少しの間、沈黙を受け止めていた。この静寂だけが、自分の心を癒す一時となる。今はこの揺らぐ心を静めたい。何故なら、これから一悶着が起きると理解できているのだから。

 

 

 

「────巫女様!」

 

 

少し経過してから、慌てた様子の兵士が入ってきた。神聖な儀式の間だと理解していながら踏み込んできた彼に、巫女は文句は言わなかった。そう言っている場合ではない、今が非常事態なのだろうから。

 

 

「何事、と聞くのは無駄なことでしょうね」

 

「城の前方で、我が軍と敵が交戦しております!ただ、敵が異様に強く───兵士達が撃破されており………!」

 

 

理解は出来ている。ここからでも、戦闘の気配は響いてきていた。おそらく、此方側が不利であることも、予測できる。瞳を閉ざし、感情を切り替えたソフィーは自身の礼服を正しながら、軍人の一人に呼び掛ける。

 

 

「敵は、何人ですか?」

 

「一人、です!敵はただ一人、何らかの異様な魔法を使い、我々では歯が立ちません!」

 

「…………」

 

 

心当たりがない訳ではなかった。彼女は冷徹な眼に、強い警戒心を滲ませ、その兵士と共に戦場へと向かった。

 

 

◇◆◇

 

 

王城 フローアヴェーテの入り口前の大広間。噴水を中心に広がる円形のエリアでは、圧倒的な戦いが引き起こされていた。たった一人の敵と数十人の兵士達の戦いは────たった一人の優勢であった。

 

 

「クソ!?我等の攻撃が通じない!?」

 

「液状化しても意味がない!何なんだ奴のあの魔法は!?」

 

 

何人もの兵士が、地面に倒れ伏していた。真っ青な顔のまま倒れる者もいれば、何らかの力で地面に押し潰されている者も多い。

 

生き残った兵士達は、目の前の敵に攻撃が通じないことへの絶望が増してくる。水を纏った槍も、水そのものである矢も、敵である銀髪碧眼の男の前まで届かず、地面に叩きつけられた。

 

 

「────圧倒的な力ってのは、適度な方がいいよね」

 

 

クライス・ストラーダは淡々と広間を歩いていく。自分に飛び掛かる兵士も歯牙に掛けず、散歩するような歩みには優雅かつ気品に満ちた余裕がある。

 

それどころか、自分に危害を加えようとする兵士達にすら、声を掛ける自信が彼にはあった。

 

 

「弱すぎず強すぎず、そして加減が効く程度で十分。行き過ぎた力も、加減しない力も、野蛮な暴力に過ぎない。人は成長し、品性を得たんだ。迷うことなく相手を殺すなんて、理性も品性も欠片も無い行動は、俺も好ましく思えない。君達も、そうだと思わない?」

 

 

言葉の代わりに、圧縮された水の槍が飛ばされてきた。嫌われたかな、と苦笑いするクライスの前で水が弾ける。足元に落ちた水溜まりに踏み込み、跳ねた水で靴が濡れることに彼は困った顔をしながら、歩みを進める。

 

 

その内の一人、顔色の悪い兵士が立ち上がり、足元に転がっていた槍を投げつけた。力を込められ投擲された鋭い槍は、クライスのうなじへと飛来する。

 

しかしそれは、振り返ったクライスが突き出した掌によって止められる。速度と力を伴った一撃は彼の肌に食い込むことはなく、肌に突き刺さるように静止していた。

 

 

「────残念、鉄製なのが悪かったね」

 

 

鉄製の槍を握り直し、軽く振るうクライス。指で遊ぶように回しながら、クライスは不意打ちを行った兵士に目を向ける。瞬間、押し潰されたように地に叩きつけられる兵士を見据えながら、クライスは話し掛けるように口を開いた。

 

 

「さっきの話の続きだけどさ、俺は相手を害する奴は好きじゃない。当然、君達が憎む教会も同じさ────ま、君達もだけどね」

 

「…………何が言いたい、貴様」

 

「こんなご時世で感情的に暴走して、教会への報復をして満足かい?人類同士が共存しなきゃ魔神連合に勝てないってのに、ホントに理知的じゃないね」

 

 

軽蔑するような言い方に、圧倒的な力で押し潰された兵士が歯噛みする。目の前に立つクライスを憎悪の視線で睨み、殺気を向けながら吼えた。

 

 

「何が分かる!貴様みたいな外部の人間が!知ったような口をほざくな!」

 

「…………差別された側なのは分かるけどさ。今の君達って奴等と同じだよ。被害者だからって理由で、報復が許される訳じゃない。君達のやってることは、家族や皆を巻き込んだ破滅なんだけど、少しでも考えたことはあった?」

 

 

教会への恨みはある事を理解している国は多い。スティシアの立場に同情する国も、支援したいという国もあることだろう。しかしそれは、スティシアが今まで戦争を起こしたことのない平和な国だからだ。

 

しかし、彼等が過激な報復を行えば、被害者ですら無くなる。教会の総本山を狙った攻撃をすれば、スティシアは平和な国ではなく、場合によっては報復を厭わない国として恐れられる。教会が報復行為に及ばなくても、他の国がスティシアのやり方に恐れを抱き、国際社会から迫害を受けることになる。

 

別に報復をするなとは、クライスも言っていない。しかしやり方が過激すぎるのだ。感情的に動いているあまり、自分達の未来を考えていない。単なる自己満足だと、クライスは冷酷に彼等の思想を下していた。

 

 

ふと、クライスが視線を外す。広間の噴水の水が突如宙に浮かび、集まっていく。無数の水が人の形へと変わり、完全に姿を変化させた。

 

水神の巫女 ソフィーは噴水から噴き出す綺麗な水の上に立つ。他の兵士達、そして殆どを無力化させたクライスに目を向け、表情を険しくさせた。

 

 

「やはり、貴方でしたか。『帝国の鮮血帝』、『紅き赤』、『恐皇』、クライス・デ────」

 

「悪いね、今はストラーダで通してるんだ。ここにいる間は、ストラーダで呼んでくれない?」

 

「…………呼ぶ理由がありますか?」

 

「いいの?君がその気なら─────なっていいんだよ、『鮮血帝』に。今の君を殺せはしないけど、この国を血の海にはしたくないだろう?」

 

 

雰囲気が別物へと変わろうとしている。相手と関係を悪くしないための薄ら笑いが、歪みかけていた。沈黙を貫くソフィーは、彼の琴線に触れぬように気を付ける。

 

大前提として、この国を危険に晒すつもりはない。クライスを、この男をもう一度その名で呼べば、彼は迷うことなくその名を体現するであろう。

 

それは困ると、ソフィーは冷や汗を滲ませる。しかし恐れなどは感じさせぬ冷静な表情で、淡々と告げた。

 

 

「………貴方の考えは分かっていますよ、クライス・ストラーダ」

 

「何?」

 

「貴方の目的は時間稼ぎ。唯一危険な私と水月軍を一人で引き受け、さっきの襲撃犯に別行動をさせている。おそらくは、ソーナを奪還させるために」

 

「…………」

 

 

心中で、クライスは舌打ちを漏らす。

実際その通りだった。クライスが刃達に話した作戦は、自分を囮にするというもの。自分がソフィーや大多数の水月軍を止めることで、刃達が城の内部に侵入し、ソーナを助け出すというのが計画である。

 

───本来の目的はそれだけではないのだが、悟られてないだけでも十分だ。これ以上、余計なことを言わない方がいいと考えるクライスに、ソフィーは静かに言葉を紡ぐ。

 

 

「ならば、私達の取るべき選択は決まっています。貴方の相手は、私一人で十分。他の兵士達は皆、城へと戻します。そうすれば、貴方の役目は果たせないにも等しい」

 

「……………」

 

 

無言のクライスに、ソフィーは淡々と指示を送る。城へ向かえと命令を受けた兵士達がその場から離れようと背を向けた次の瞬間だった。

 

全員が、地面に押し付けられた。彼等一人ずつが、真上から生じる力で圧迫されている。冷静な様子を保ちながらも、その攻撃に気付けずに目を剥いたソフィーに、クライスは軽い調子で笑い掛ける。

 

 

「───ま、素直に行かせないけどね」

 

(報告されてたクライスの魔法………ッ!けど、範囲が可笑しい、私だけが効果を受けて────いや、まさか任意で相手を選べる魔法?)

 

 

クライスの正体不明の魔法に、彼女は手出しが出来ない。あの魔法は概念に関与する魔法、神代魔法の一つだと彼女は気付いていた。だからこそ、用意に踏み込めない。二つの水神の魔力を有するソフィーと言えど、完全な無敵ではない。隙を突かれ、圧倒される可能性もなくはない。

 

そんな彼女の心境を見抜くように、クライスは余裕の笑みと共に口を開く。

 

 

「俺の魔法が何なのか、知りたいんだろ?」

 

「…………」

 

「見れば分かるんだけど、優しいから教えてあげるよ。──────『重力』って知ってるかな?」

 

 

両腕を広げるクライスの身体が、宙に浮く。『重力』、その名を体現するように空中に浮遊するクライスの周りの小石や武器も、同じように浮かび上がる。

 

その状態で跳び、真上の空間に()()するクライス。彼は懐から取り出した鉄球を、手で転がすように弄びながら、告げた。

 

「俺はライセン大迷宮を攻略し、ミレディ・ライセンから神代魔法を会得した。その魔法こそ、重力の操作。ミレディ・ライセンお墨付きの天才である俺は普通の魔法とは違い、完全な重力を指先で支配できる。…………こんな事も、簡単に出来る」

 

 

クライスが手を離した瞬間、鉄球が真横に落ちた。噴水の上に立つソフィーへと直進した鉄球は彼女の胴体に穴を空ける。

 

彼女の身体が、水へと変わる。鉄球で抉られた風穴は水によって塞がり、元に戻った彼女はただ表情を険しくし、厄介だと言わんばかりの視線を向けた。

 

 

「重力………確かに厄介ですね。しかし、私が一番警戒しているのは貴方のもう一つの魔法────『鉄血魔法』です」

 

「…………まぁ、それは知られてるわな」

 

 

肩を竦めるクライスの両腕から、赤が溢れる。出し惜しみする必要ないと言わんばかりに、彼は掌から放出した鮮血を自由自在に操りながら、地面に降り立つ。

 

ソフィーはその魔法を、『鉄血魔法』をよく知っている。血を操り、鉄を操るその魔法は、クライスしか持たぬ固有魔法。彼がかつて、重力の神代魔法を手に入れた真の切り札である。

 

 

「確かに、貴方の鉄血は凶悪です。………もし貴方が、かつてのまま成長していたらと思うと、ゾッとします。ですが、貴方の血は完全なものではない」

 

「…………へぇ?」

 

「忘れてはいないでしょう。貴方の鉄血は攻略できる。特に私の魔力、水の力があれば────貴方の血は、私を倒せる刃にはならない。私への対抗手段が一つ減ったと想定し、貴方は戦う必要がある」

 

「ハッ」

 

 

言いながら、ソフィーは周囲の水を集めていた。周りの水路や噴水から溢れた水がソフィーの手で支配され、彼女の一部のように蠢いている。

 

辺り一帯を自身の操る水で占拠するソフィー。しかし圧倒的な彼女を前に、クライスは鼻で笑い、顔を歪める。落ち着かせるように作り笑いを浮かべながら、彼はトントンと足踏みをしていた。

 

 

「いや、少し驚いてね。まさかとは思うけど、それが勝ちに繋がるとか言わないでしょ?それだけで俺に勝てるって、思ってる?」

 

「…………、」

 

「そうだとしたら、流石の俺も気分が悪いなぁ。ホント、舐められてる気がして───────頭に血ィ昇る」

 

 

掌に集まる血を凝固させ、赤黒い刀剣を作り出す。血と血液の中にある鉄分を変化させて形成された剣を握り直したクライスは、フーッと一呼吸する。

 

先程まで滲ませていた苛立ちを消したクライスは自身の銀髪を軽く払い、余裕そうな表情で告げる。

 

 

「………ムカつくけど、まぁ我慢するよ。俺って成長したし。君もそこらの奴等を潰して、あの子達への恩を作るためってことでね」

 

「私を倒すのも、障害の一つみたいですね。舐められたものです」

 

「舐めてんだよ?だって俺より弱いしね」

 

 

無言で、ソフィーが水の弾丸を放つ。クライスは「言い過ぎたね」と困ったように笑いながらも、弾丸を切り払う。

 

 

水神の巫女と鮮血の重力使い。

女神が眠る王城の前で、二人が激突する。その戦闘はあまりにも大きく、周囲の街だけではなく、その海域にまで響いていった。

 

 

 




クライス………名前隠してますよねー。デ、から始まる名前なんですねー。いやー、何処の弱肉強食の国の人でしょうかねー(棒読み)

ここで明かしましたが、クライスは迷宮攻略者です。あの大迷宮、精神的に相手を攻めるあのライセン大迷宮の踏破者です。単独で(真顔)

鉄血魔法については似たような魔法が原作にあったら指摘してください。ホント、原作に関しては軽く読んだ程度の知識ですので。これ被ってるだろーがよぉ!と、優しめに言ってください。


クライスさん、良い人ですけど普通じゃないっす。まぁ、あのミレディちゃんをお師匠呼びして尊敬している時点で片鱗があるんですけども()

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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