「────シノ!大丈夫か!?」
崩壊した王座の間で、刃は忍装束の少女を案じた。天上からの瓦礫を庇った少女の頭からは血が流れていた。頭を軽く切ったのだろう。意識の無い少女を抱いた刃は、思わず吐露しかける。
「っ!何で俺を………」
「────それ以上は駄目です。シノちゃんへの侮辱になります」
その言葉を、ラナールが止めた。何時になく真剣な顔でシノに治癒の魔法をかける彼女は、刃の目を見据えて告げる。
「私もシノちゃんも、刃様────貴方を守る剣として、在ることを自ら望んでいます。ですから、どうか………ご自身を卑下しないで、掛ける言葉を間違えないで下さい」
「…………っ」
そんな言葉に、刃は言葉を呑み込んだ。何を馬鹿なことを、彼女達に言わせてしまったのか。近くにあった瓦礫を殴りつけた刃は自身の驕りを顧みた上で、今は眠っている忍の少女に呟いた。心の底から、噛み締めるように。
「────助かった。ありがとう、シノ」
「………ん、なら、ご褒美を」
「………………あ?」
目の前で、寝ていたはずの少女が顔を近付けていた。唖然としていた刃は言葉も出ない様子で、今度こそ絶句する。同じように驚いていたラナールも、アワアワとしたようにシノを揺さぶる。
「し、シノちゃん!?平気なんですか!?」
「………私、忍。鍛えてる…………へっちゃら、ただの掠り傷」
「な、なら寝た振りなんてしないでください!………本気で心配してたんですよ!?」
「ご、ごめん………」
うがーっ!と怒るラナールに、シノはハッとして謝り出す。いつも大人しいが、治療や健康に関することに真剣な彼女にはいつも気負されてしまう。
そんな状況の中、一息漏らしたクライスが遠くを睨んでいた。重力の魔法で、水の砲撃を防いだ彼は下手人────攻撃を行った魔獣の存在に気付いていた。
当時に、水の都が攻め込まれていることに。
「────魔獣どもが集まってるな。それも数が多い上に、特上物が二体か。片方は魔獣の群れを溜め込んで運んできた荷車代わり、もう片方の方が厄介だな」
「どうしますか、クライス様」
「様は止してくれよ、女王様。ここはアンタ達に任せる────俺は大物を一匹、殺してくるとするさ」
そう言って、クライスは城の外へと飛び出した。瞬間、その姿が捉えられなくなる。凄まじい勢いで走り去った彼は、城下町を駆け抜け、海面への方へと向かっていた。その狙いは、水上に群がる魔獣の軍勢────それを従える海龍か。
「っ!一人で行くのか!?あの人!」
「────落ち着いて下さい、彼に援護は不要です。それより、貴方には城下町の防衛をお願いしたい。今、城下町に魔獣が攻め込もうとしています。その魔獣の撃退を」
「ああ、分かった………けど、あの人は良いのか?」
そう問い掛ける刃には、明らかな心配があった。口や態度は悪いが、性根は心優しい人物に変わりない。クライス一人でどうにかなるのか、半信半疑なのだろう。そんな彼の言葉に、女王は何処か確信したように断言してみせた。
「それこそ、心配は不要です。彼は迷宮に迷い込み、解放者から認められ神代魔法を授かった、数少ない強者なのですから」
◇◆◇
大量の
大魔王の魔力により過剰成長し、強力な魔物へと変貌したハルドラーナは喉の奥に水を急速に溜め込む。結界を貫通し、王宮を破壊するほどのブレスを、再び叩き込もうとしている。
異様に首が膨らみ、砲撃のような息吹を撃ち出す────その瞬間。
「────悪いな、それ以上暴れられるのは困るんだよ」
────一人の男が、海面に立っていた。その存在を認識したハルドラーナは一瞬無視しようとして、即座に気付く。目の前の男の異様なオーラに。その男が、自分の主である少年よりも何倍も強い────脅威であると。
『────ッ!!』
海龍の思考は、本能は素早く結論を出した。主の命令よりも、この男を殺さなければならない。そう感じた海龍ハルドラーナは溜め込んだ膨大な水の息吹を、男のいる場所へと解き放つ。
────炸裂するは、海面を消し飛ばす破壊。圧倒的なまでの暴力が、その一帯を蹂躙してみせた。これで死んだ、そう確信した海龍の眼が都市へと向けられる。
「…………やっぱえげつない破壊力だな。結界をぶち抜くだけはある」
『────!…………ッ!?』
上空から聞こえる声に驚いたハルドラーナは、鋭い痛みと共に視界が暗転した。何が起きたのか分からない。何も見えない巨大な海龍は、唸り声と共に身を捩るしかなかった。
「一々スティシアを狙われても困るんでな。目玉を潰させてもらったが、悪く思うなよ」
軽く笑うクライスが、ハルドラーナの頭から飛び降りる。彼の手にするサーベルの刀身は赤く染まっていた。先程飛び乗った瞬間に両眼を抉り潰したのだ。そのまま飛び降りたクライスはサーベルの刃に手を添え、のたうち回る海龍を見据える。
「────“我が血に濡れ、我が血に死ね”『ブラッドリー・カズィクル』!!」
刀身の濡れた相手の血を媒体とした魔法。それが作用した瞬間、ハルドラーナの内側が膨れ上がり────内部が爆裂し、無数の赤い槍が飛び出していく。肉を抉り、骨を撃ち抜いた赤黒い槍はハルドラーナの血液から創り出したものであった。
『────────ッッ!!!??』
今度のは威嚇の咆哮ではなく、絶叫に近しかった。肉体の大半を破壊し尽くされたハルドラーナは力なく海へと倒れる。あれだけのダメージを与えたのだ。死ぬのは時間の問題だと考えていたクライスは、すぐに考えを改める。
「………コイツは驚いた」
骨が剥き出しになった龍の遺骸から、魔力が溢れ出す。禍々しい魔力は一瞬で肉を作り出し、損なわれた身体を構成していく。先程空けた傷が完全に消え去ったかと思えば、海龍はゆっくりと起き上がる。先程抉り潰したはずの眼光は、いつの間にか綺麗に収まっていた。
「そう言えば、大魔王の魔力を持つ奴は再生出来るんだったな。エリュシオンからの話を忘れた…………ったく、この大きさのデカブツを殺し切るのは骨が折れる────な!」
呑気にそう呟いていたクライスは横にサーベルを振るった。虚空を斬るはずの剣刃は、背後から襲い掛からんとしていた海魔獣を真っ二つに斬り捨てる。
『び、ビギ………ッ』
「………まぁ雑魚もいるよな。ってか、急に増えたな。コイツを殺されることに焦ったな?」
ふと周りを見ると、大量の海魔獣がクライスを包囲していた。ハルドラーナを守ろうと、数で此方を殺し切ろうという魂胆が丸見えである。コイツラを指揮する奴も大した経験ないな、と冷たくクライスが鼻で笑う。
「さて、誰を相手にしてるのか分かってるのか?………臆せば逃げろ。さもなくば────」
海面に沈むはずのクライスは、ピタリと止める。彼の体は海上に浮かぶように立っていた。血に濡れたサーベルを振るい、彼は俯かせた顔を向け、海魔獣の一群を睥睨した。
「────皆殺しだ。一匹たりとて生かしはしないぞ」
────返り血に塗れた狂笑。殺人鬼や悪魔と言われても可笑しくない程の狂気と殺意を剥き出しにし、クライスは戦端を切った。水の都スティシアから離れた海上が、大量の赤に染め上げられる。
◇◆◇
「兵士長!住民の避難は!?」
「はっ!完了であります!王宮内に全ての住民の収容を確認!一人の不足もありません!」
「王宮を中心とした防衛陣を展開!バリケードを三段階を四方に組み、防衛ラインの構築を!敵は大多数で攻めてきます!連携で対処を!」
スティシア中心の王宮内部。住民全てを受け入れた王宮では、女王を主体とした『水月軍』が防衛線を引いて海魔獣の侵攻を阻止していた。当初は時間経過による消耗が疑われていたが、ある事が理由で何とか拮抗している状況であった。
「女王陛下!南方の第一防衛ラインが突破されました!第二防衛ラインの展開にあたります!」
「了解しました────黒鉄刃様、南方をお願い致します」
『────了解』
女王は王族の魔力による水を通した通信でそう伝える。相手はそれだけで応えてくれた。南方の防衛ラインが突破され、無数の海魔獣が迫るその戦場に────彼は即座に現れた。
「おおおおおおオオオオオオオオッッ!!!!」
両手に二本、そして空中に四本の魔剣を浮かばせた刃が無数の大群を薙ぎ払った。斬るごとに回復していく神聖属性の聖剣と魔獣特攻を有する魔剣を無造作に見えたように、圧倒的な暴力によって振るっていく。その剣刃の数々に、海魔獣の大半が切り裂かれていく。
休む余裕もなく、全力で斬り伏せる。目に止まった相手を一方的に、生命が途絶えるまで確実に斬り殺し、叩き潰す。鬼神のごとく暴れる刃の勢いに、海魔獣の侵攻が一気に押し留められる。
ふと、聖剣が動きを止める。海魔獣の一体、重圧な甲殻に身を包んだ個体が身を挺して剣を受け止めたのだ。甲殻を抉り貫いた剣はそこで縫い止められたように静止する。その僅かな隙は、海魔獣達が攻勢を押し返そうとするには充分────
「ッ!舐めるんじゃねェえッ!!!」
固定された聖剣を力尽くで振るう。甲殻の海魔獣の死体を持ち上げ、そのまま他の個体へと叩きつける。倍以上の重量に押しつぶされた個体が殆どいる中、刃は咄嗟に『剣帝』の力で突き刺さった聖剣を自壊、それによる自爆を引き起こした。
「ッ!どんだけ居んだテメェ等は!!」
湯水のように溢れ出す海魔獣に苛立ちを覚え、吐き捨てる刃。彼は即座に創造した魔剣を手に取り、そのまま近くの海魔獣を斬り伏せる。ふと、悲鳴が聞こえた彼は戦いながら視線を移す。逃げ損なった兵士が海魔獣何体かに襲われていた。このままで殺されるのも時間の問題だろう。
「────チッ!!」
舌打ちを吐きながらも、見殺しにするという選択肢はなかった。腕よりも先に思考が剣を操る。空中に浮遊させて戦わせていた魔剣が、弾かれるように飛び出す。音速で飛来したソレは海魔獣の一体を串刺しにするや否や、他の個体を纏めて切り裂いていった。
「さっさと下がれ!コイツらは俺が抑えておく!!」
「あ、ああ………助かった!ありがとう!」
少しでも兵士を襲わせないように、全力で海魔獣の一掃していく。すると逃げ延びた兵士と交代するように水月軍の一部隊がこの場に向かってきた。部隊長と思わしき男が、刃へと呼びかける。、
「────剣帝殿!第二防衛ラインの構築が完了した!この場は我等に任されよ!」
「っ!任せた!俺は他の場所へと行く!」
「総員!あの化物殿を蹴散らすぞ!剣帝殿の負担を少しでも減らすのだ!!」
次は北の方角が攻め込まれていると言う。この場には居ないシノは女王の警護を、ラナールは負傷者の治療を任せている。この場において刃のみが、海魔獣の大群を圧倒できる切り札であった。
だからこそ、彼は無茶を惜しまず全力で戦っている。無論、ハイスペースでやるわけにはいかず、余力を残しているがそれでも限界が近づきつつある。
「………ッ!やっぱり、これは慣れねェ……!」
剣を創り出す能力ならばまだしも、浮遊させた剣を操る力は発現させたばかりというのもあり、使いこなすのも苦労した。今では複数操れるが、その分負担は大きい。並列思考を行う為、頭脳が焼き切れるほどオーバーヒートする。今も頭の奥がズキズキと痛みを発し始めている。
壁を走りながら、ショートカットで戦場へと突入する。ペースを乱すことなく突き進む彼を動かしていたのは、使命感であった。やらなければ、皆が死ぬ。自分以外の誰かが犠牲になるという状況、それが黒鉄刃を突き動かしていたのだ。
────自分が無茶をして皆を救えるのならそれでいい。元の世界に居たときから変わらないその精神性が、彼自身を追い詰めていた。
(だが、まだやれる────こんなの、あの時の修行の方が辛かったくらいだ)
『────どうした。まだやれるだろう?まだ昼時だぞ』
『ぜェ………っ、朝からっ、打ち込みなんて……!疲れねェわけ、ねぇだろ………ッ!』
『そうだな。泣き言を言える余裕がまだあるようで何より。もう昼だから飯を食え、それから再開する。次はペースを上げるぞ』
『────ッ!!?』
イガル・ハヤテによる修行の数々。彼により叩きのめされた刃は、地獄を生き延びてきたと断言できるほど過酷だって自覚している。王国最強かつ横暴な剣士に振り回されたことで、今の状態はある程度余裕である。むしろ頭痛のお陰で常に集中できるくらいだ、周りへの警戒がよくできる。
────そうやって戦い続けていた刃の目の前が、一掃される。海魔獣達が、凄まじい水流で洗い流されるように消し去られた。剣を握っていた彼の後ろから、声がかけられる。
「────ジン!一人で無理をしてるようね!助けに来たわよ!」
「………またお前か」
「嫌そうな顔してくれるわね!?割とショックなんだけど!」
「今そういうのに付き合いきれる状況じゃねぇんだ………何しにここに来た?王女がわざわざ前線に出るんもんじゃねぇだろ」
「何って………助けに来たのよ!貴方一人で、辛そうだからね!王女だからって、貴方一人に無理をさせるつもりは無いの!」
言っても聞かないお姫様だな、と刃は呆れる。だが、ああ見えてソーナは自分と同じく強情なタイプだ。だからこそ、刃は説得を諦め、共に戦うことにした。何かあれば、自分が無理を通せばいいと強い決意を秘めて。
「────お前らが、ボクの魔獣達を殺して回ってるヤツ?」
ふと殺意の入り交じった声が響き渡った。声の方向は、北側────海魔獣の大群の方からだ。無数の魔物の群れはさっきよりも数を減らし、少数に近付いている。そんな魔物の横を通り過ぎ、一人の少年が姿を見せた。
明らかに、まだ同年代と思われる少年であった。藍色のような黒髪が特徴的で、右目を隠すように下げた幼さの残った青年。明らかに異様であった。彼は間違いなく人間だ、それなのに魔力だけは禍々しく変質している。瞳に宿る濁りきった憎悪と侮蔑のように、深い泥のように入り混じっていた。
「困るんだよね。これはあくまでも、ボクの戦力。減っても増やしはできるけど、いずれ戦争の為に貯めておきたいんだよねぇ。大魔王様の敵を、ブッ殺す為にもさぁ」
「お前………魔人族側の人間か」
「────魔神族?違うね、ボクはレヴィ────大魔王アルヴァーン様に選ばれた、あの御方の使徒!お前達人間を皆殺しにする、男なのさ!」
そう言って、レヴィは殺意を剥き出しにして笑った。彼が手を振るった瞬間、背後から海魔獣が飛び出す。さっきまでいた普通の個体とは違う、手足の生えた蛇のような個体が何体も。それの目の当たりにした刃は咄嗟にソーナを抱えて飛び退いた。
(この魔物、他の奴よりも強いな………こんなヤツを奥に引っさげてるなんてな。間違いねェ、コイツが『ボス』か!)
先の口調と魔獣達の態度から、彼はそう判断した。結論を決めれば、後は簡単である。刃は即座に目の前の少年を敵と認識した。同じ人間であることは、この際無視する。彼は明確な悪意を持ってここに居座り、この国に牙を剥こうとしている。
「一つ聞く。この雑魚どもはテメェが率いてんのか」
「その通り。言っておくけど、ボクを殺すのは正解。海魔獣を作り出したのはボクの、大魔王様の魔力だからね。ボクさえ殺せばコイツラは消滅するよ────殺せれば、ね」
「────そうかよ。なら、死ね」
一切の容赦は要らない。そう判断した刃の行動は早かった。一瞬で作り出した魔剣────十メートルサイズの巨大な武器を、そのまま地面に叩きつける。
巨体による破壊は思ったより通じていなかった。レヴィは操った海魔獣の群れにより防御していたらしく、指を鳴らして他の魔獣を動かす。トビウオのような海魔獣達を砲弾のように飛ばし始める。
刃はソレを即座に撃ち落とし、地面から生成した魔剣の防壁で殆どを防ぐ。剣を握り締め、刃はふと地面に下ろしたソーナへとアイコンタクトを取る。何かを話し合っていたのか彼女は深く頷き、魔力を溜め込む。
「────水よ!我が刃となれ!」
「無駄だよ。そんなもの、ボクには届かない」
そして彼女は魔力を解放し、水の刃をブーメランのように撃ち出していく。レヴィはそれに呆れながら指を鳴らし、再び海魔獣達の陣で盾を作る。肉盾でソーナの魔法を防いでいく彼に────刃が斬り込んでいく。
彼の握る魔剣は、速度上昇の魔剣。身体能力を、脚力を限界まで跳ね上げた刃はバネのように、瞬発的な加速を発揮した。それによる移動は普通のダッシュどころか、射出したように放たれたのだ。
「っ!海魔獣!奴を殺────」
そして、胸元に迫った刃がもう一振りの魔剣を振るう。速度に比例して攻撃速度も上げる魔剣。二つの能力の組み合わせにより、彼の攻撃は一瞬で終わった。
その場にいる海魔獣を、秒で切り刻む。速度上昇の魔剣の代わりに作り出した『攻撃する程攻撃力の上がる魔剣』を振るい、レヴィの用意した海魔獣をあらゆる力で殲滅した。
それは、レヴィも同じである。
「あ、が────ッ?」
理解するよりも前に、両腕がずり落ちる。切断された腕に唖然としたレヴィの喉に刻まれた傷がバックリ開く。即死であることに間違いはなかった。だが、念には念を入れて魔剣を胸へと突き立てる。
「…………フーッ、これで終わったか」
「────ジン!ソイツまだ生きてる!」
気を抜いた瞬間に響いたソーナの言葉に、刃は思わず振り向く。死んだはずのレヴィは再起動していた。ギョロリ、と禍々しい隻眼が刃を睨む。
「こんの、ゴミがッ!!!」
「────っ!」
切断面からおぞましい触手が伸び、瞬時に両腕が生え変わる。彼はそのまま怒りのままに右腕を振るう。此方を掴もうと伸びたその腕に────刃は無意識な恐怖を感じ取る。回避を行ったのも、本能によるものだろうか。
(………なんだ、あの手。右手に絶対的な自信を持った動き。何かは分からねぇが────あの手に触れるのだけは不味い!)
「ええい!逃げ回るな!とっととボクに殺されろぉ!!」
「誰がテメェの相手なんざ、マトモにするか!」
右手で此方を狙い続けるレヴィから回避を続ける刃。さっき切ったはずの首の傷も綺麗に治っている。胸に突き立てた魔剣がそのままであるのは、抜かない限り再生できないのか。ふと壁際ギリギリまで迫った刃にレヴィが右腕を伸ばす。咄嗟に飛び退いた彼は、レヴィの右手がもたらす変化に気付く。
「っ、コイツ!壁が………!?」
右手が接触したであろう壁に伸びる、無数の触手。それは一瞬にして壁全体に広がるが、すぐに腕の中へと戻っていった。レヴィは苛立たしそうに腕を下げ、刃を睨んだ。
「クソ……!今ので取り込めたってのに………っ!」
「………その腕、触れたら即終わりって訳か」
「ああ、そうさ!大魔王様に与えられたボクの魔力!触れたものを蝕み、支配する『浸蝕』とどんな傷も治す『超再生』!この力を持つボクは、誰にも負けはしない!」
「……………」
胸に突き刺さった魔剣を抜いたレヴィの胸元の傷が修復される。その光景に僅かに顔をしかめた刃は何かに勘付いたようであった。確かめるように、刃は作り出した魔剣を片手に斬りかかる。
「ハッ!さっきよりも遅いんだよ!!」
レヴィがしたり顔で笑うと、刃の動きが止められる。足元に転がった魔獣の残骸から伸びた触手が足首に絡まっていたのだ。その触手を魔剣で斬り捨てた合間に、レヴィが右手で刃を首を掴む。
次の瞬間、レヴィの掌から禍々しい魔力と触手が肌を伝い、刃を蝕み始めた。
「あ、が────ッ」
「あの魔獣はボクの魔力で作ったモノだ!たとえ肉塊になろうがボクの手足にも等しい!ようやく掴めたんだ!お前の生命力を全部吸い出してから殺してやるよ!」
「出来るもんならな────ソーナ!」
レヴィに浸食されながらも、刃は不敵に笑う。そのまま右腕を掴み、放さないようにした上で────真後ろで構えている少女に叫ぶ。大量の魔力と水を溜め込んだソーナが、その声に応じる。
「水よ!収束し、撃ち穿て────!!」
重ねた両手から放たれたのは、高圧力の水の砲撃だった。鋭く細く撃ち込まれた水の弾丸は音速となって迫り、驚愕したレヴィの胴体を撃ち抜く。心臓の部分を撃ち抜かれたレヴィの顔が、苦悶に染まる。
「うぐッ!?こ、このぉ………!」
「────再生してる場合か?」
慌てて傷口を再生させようとしたレヴィに、刃はそう問い掛ける。目の前で拳を握った刃の存在に「しまった!」と叫びそうになったレヴィだが、打ち込まれた拳により倒れかける。だが、右腕で首を掴み────逆に刃に掴まれたままのレヴィは離れることも出来ない。
「やっぱりな────テメェ、『浸蝕』と『再生』、同時に出来ねぇだろ」
「…………ッ!?」
「再生するってことは無敵じゃねぇ。どんな傷も再生さなきゃ後々つれぇんだろ。けどよ、さっき突き刺した剣を抜いたのは、浸食の力を使っていたからじゃねぇのか?どっちも同じ大魔王の魔力だから、併用出来ねぇんだろ。今のテメェじゃあ!」
「知ったことでなんだ!今のお前を『浸蝕』してしまえば────!!」
そう強がったレヴィの腕を、刃が作り出した魔剣が斬り飛ばした。『浸蝕』を発動していたはずのレヴィの顔が歪み、『浸蝕』の速さがピタリと止まる。やはり、『浸蝕』はレヴィ本人の状態にも作用されると見て間違いはなかった。
「此方にはソーナもいる。テメェの負けだ、あの魔獣どもを下げろ」
「く、クソ!クソ!クソ!!なんで、なんでボクが!こんな人間なんかに、負けるわけがないんだっ!!」
「テメェも同じ人間だろ。何があってこんな真似してやがんだ」
「────黙れ!ボクはお前達なんかとは違う!ボクは大魔王様に選ばれた存在なんだ!お前達人間を、エヒトを殺す為に大魔王様はボクに力を与えてくれた!お前ら全員皆殺しにするのが、ボクの使命なんだ!!」
「………………そうかよ」
説得を試みた刃は、この少年との対話は不可能であることを悟った。それほどまでに明確な殺意と憎悪、そして大魔王とやらへの狂信が彼にはあったのだ。諦めた刃は、『浸蝕』を強めたレヴィを静かに睨む。
「なら、テメェはここで死ね」
「死ぬのは!お前達だ!全員、皆殺──────」
ザンッ!!と、刃が振るった魔剣がレヴィの首を刎ねた。大量の血を噴き出した頭部が地面を転がり、頭を失った体が力なく崩れ落ちる。レヴィは、今何かをしようとしていた。だからこそ、刃は殺すことに迷いはなかった。迷えば、この国の人々に被害が向くから。
「……………………チッ」
それでも、刃は複雑そうな顔で舌打ちを漏らした。
この世界に来て、初めて人を殺した。あの少年を殺したことへの後悔はない。今まで自分は何人も傷つけてたはずだが、殺したことは一度も無かった。
だからこそ、初めて体感した殺人の感覚を噛み締めるしかなかったのだ。
「……………ジン」
そんな彼の背中を、ソーナは悲しそうに見つめていた。粗暴な態度を見せながらも根の優しい少年の心境を悟ったのだろう。そんな彼の姿に、一国の王女である彼女は何を想ったのか。それは、ソーナ本人にしか知る由はなかった。
刃の性格的に、殺し自体は躊躇わないタイプです。ただ殺人に移行するトリガーが仲間や大勢に危害が加えられる瞬間やそう判断した場合のみで、大抵は殺さないようにボコすのが普通になります。
基本的に不良になった経緯も自己犠牲(自分が悪になればいい)と思ってるフシもあるから、ある意味で割と危うい善人。
スティシア編はもうちょっとやっていきます!ストーリー的にも重要な話なんで!それが終わってから原作に戻りますので!ご期待していただければ幸いです!それでは!
清水の今後について
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生存その1(生き残るけど戦えない)
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生存その2(護衛組の一人として戦う)
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死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
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意識不明の重体として途中退場