ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

25 / 84
旅立ちの時、魔王集結

────呼吸の安定を確認。二人とも、命に別状はありません

 

────引き続き、調子を確かめるんだ。この二人に何かあれば責任はただじゃ済まないから、気を付けてね

 

────りょ、了解です!陛下!

 

 

朦朧とする意識の中、刃は目を覚ました。近くで話す人の声に聞き覚えがあったが、ふと周りを見渡す。隣のベッドで寝かされた少女の顔を見て、刃は心の底から安堵の一息を漏らす。

 

 

「────やぁ、起きたか。黒鉄刃」

 

「クライス、さんか」

 

 

覚醒した刃に気付いたその男、クライス・ストラーダは軽く手を振る。上半身を持ち上げた刃に、クライスは安静にするように温かいカップを手渡した。冷ましながら喉に通していく刃に、近くの椅子に腰を預けたクライスは口を開く。

 

 

「まずは賞賛を。君達のお陰であの怪物、魔神の眷属は討伐され、スティシアは救われた。君と彼女の功績だ」

 

「………アレは俺の力じゃねぇ。それに、アンタが足止めしてくれたお陰でもあるだろ」

 

「謙遜しなさんな。君じゃなきゃあの化け物を倒せはしなかった、この国を救えたのは君だからこそ出来たんだ。俺には到底無理な話だった」

 

 

そう言って、純粋な賞賛を向けてくれるクライス。彼の態度には嘘偽りがないことは自覚しているし、そもそもお世辞なんて得意そうには見えない。

 

だが、聞きたいのはそんな言葉ではなかった。

 

 

「────さて、何か聞きたそうな顔だね。何がお望みかな?」

 

「………エリュシオン陛下が俺に旧神を探させたのは、『コレ』の為か?」

 

 

自身の服を脱いだ刃は上半身を見せる。心臓のある部位に刻まれた、青い紋様。まるで花弁の一欠片のように、リボルバーの一弾のような刻印が彼の肉体に刻まれていた。

 

触れただけでも分かる。この刻印に宿る神の力の脈動を、この力を取り込むことこそが、エリュシオンの目的であったというのか。その問いに対して、クライスは一切の否定もせずに答えた。

 

 

「如何にも。君の目的は旧六神との邂逅を果たし、彼等の力を受け継ぐこと。それが解放者達から俺達が教えられた、旧き契約。俺達人類を滅ぼすんとする厄災への対抗手段でもある」

 

「ってことは………まだあるってわけだな?」

 

「水神の力は取り込んだ。後は五神、彼等の力を取り込むことが君に必要な使命だ。君が望むのであれば、次に目指すべき場所についても教えよう」

 

「………今更だな。で?次に俺はどの神様に会えばいい?」

 

 

ここまでやってきたのだ。途中で投げ出すなんて情けない真似をする気はない。そう言ってのける刃に、クライスは待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべる。否定するとは最初から思っていなかったように、クライスが口を開く。

 

 

「────ハルツィナ樹海にある亜人族の国 フェアベルゲン、その地に旧神はいる。迫害されてきた亜人族を救い、庇護している大神アストラトス。その長老達に会い、エリュシオンの名と『解放者』を伝えれば、きっと協力してくれるだろう」

 

「………何でエリュシオン陛下の名前を?」

 

「ほら、あの人はハウリアとも交流がある亜人族を差別しない優しい王様だ。オレは…………ちょっと末端の方がやりすぎててなぁ。多分、オレの名前出したら拗れるから、黙っておいてくれ」

 

 

そう言えば、エリュシオンも同じ事を言っていた気がする。丁度彼が懸念していたハウリア族、彼等の事も無視は出来ない。当初の目的は決まった所で、刃は突然切り出した。

 

 

「………一つだけ聞かせろ。アンタ、何者だ?」

 

「…………何者って?」

 

「さっきの奴等、『帝国』の人間だろ。そんな奴等に『陛下』って呼ばれるなんて、普通の立場のやつじゃない。アンタ、一体何者なんだ?」

 

 

その気になれば、今すぐにでも斬りかからんとする刃。ベットから飛び出した彼は生成した魔剣を手に、クライスの喉元に突き立てる。目の前の男への疑惑を、少しでも解こうとする為の行動であった。

 

 

「────一つだけ誤解を解きたい。君を騙して悪巧みをしたわけではない。何より、オレは君に何一つ嘘はついていない。現に、名前に関しては本物であり、名字は母親のものだ。フルネームを名乗らなかったことをここで詫びると同時に、改めて名乗りたい」

 

「…………っ?────っ!?」

 

その瞬間、刃の意識が揺れる。

何度か経験したことのある貧血であることに戸惑った刃は力なく地面に倒れ込んだ。意識が途絶える直前まで睨み続ける刃に、クライスは敢えて膝をついた上で────名乗った。

 

 

「オレは────クライス・D・ヘルシャー。ヘルシャー帝国の前皇帝、ガハルド・D・ヘルシャーの次男、そして現皇帝でもある。

 

 

 

…………まぁ、悪いことをするつもりはない。ただ君に会いたかっただけさ。今度はそれなりのもてなしを約束する、だからあんまり怒らないでくれよ?」

 

 

◇◆◇

 

 

「────改めて、スティシアの一同を代理して感謝をさせていただきます。黒鉄刃様」

 

「……………えぇっと」

 

 

翌日、スティシアの王宮に戻されていた刃は女王から直接の謝礼を受けることになった。王国の危機を救った英雄、という立ち位置ではあるが、何処か釈然としない感情がある。

 

自分を救い出したはずのクライスはすぐに蜘蛛の子を散らしたように消えたらしく、姿は完全に見られない。別の国のトップが滞在していられない、というのが主な理由なのだろう。

 

 

「………まあ、俺がやりたいことをやっただけなんで、気にしなくてもいいっすよ。別に」

 

「ハッハッハッ、相変わらず素直ではないな。一国を救ってみせたんだ。もっと自信を持っても悪くはないだろう」

 

 

居心地の悪そうにそう嘯く刃の頭をポンポンと叩くのは、かつてハイリヒ王国で世話になった相手────騎士副団長のメルドであった。

 

何故彼がここにいるのか、その理由は目覚めた後で本人から教えられた。攻略失敗の責任を取らされ、帝国へと修行直しに行くという話だったはずだが、実を言うとエリュシオンからの極秘の指令であったらしい。

 

 

『…………スティシアの地で、黒鉄刃に何かあると困る。お前には不足を掛けるが、彼の助力をしてやってくれ…………頼めるか?』

 

『断る理由もありません、陛下。私にできる事ならば、喜んでやらせていただきます』

 

 

今回スティシアの地で何かが起こることを予知した上での対応だったのだろう。少なくとも、彼がいなければ自分やソーナは意識を失ったまま溺死しても可笑しくはない。

 

女王が主催した宴を終えた次の日に、刃達はスティシアを出ることにした。ずっとここに居座っている余裕もない、そんな呑気な旅ではないのだから。

 

 

「では、私はひとまず先に王国に戻ろう。君が元気にやっていたと、仲間達にも伝えておこう」

 

「ああ、ありがとうございます………光輝とか言う奴には伝えなくてもいいんで」

 

「色々あるとは思うが、あまり敵視してやるなよ。アイツも少しは気にしていたりするだろうしな」

 

「………ハッ、誰が心配するかよ。あの自己満足ヤロウが」

 

 

兄貴らしく振る舞ったメルドはそう言って一足先に王国へと帰還していった。刃としては光輝のことは当分考えたくもないくらいである。ケッ、とイライラを吐き出していると共に行動しているシノとラナールが声をかけてくる。

 

 

「主様、次は何処へ?」

 

「ハルツィナ樹海ってとこらしい。そこの亜人族の国で旧神を探すんだと、大変だな」

 

「あ、あれ?その樹海付近って帝国の領内じゃなかったですか?通って大丈夫なんですか?」

 

「……………え、マジ?」

 

 

改めて初耳である事実に愕然とする刃。許可が必要であると聞いて、思わず頭を抱える。あの時クライスに許可を取っておけばよかったのでは?余計な手間があるのでは?そう思っていた刃を、甲高い声が呼んだ。

 

 

「────ジーン!!待たせたわねぇーーっ!!」

 

「………ソーナか。相変わらずハイテンションで呼ぶんじゃねぇよ、人の名前を大声で」

 

 

相変わらず高台の上から自信満々に叫ぶソーナに、刃は呆れを隠しきれなかった。すぐに彼女はスカートを隠しながら飛び降りてくる。覗かねぇ、と何処か堂々とした彼女に溜息を漏らしながら、刃は怪訝そうに眉をひそめた。

 

ソーナの服装は、王女のものとは違った軽装である。だが、色々と詰め込んだ荷物を背負った彼女の様子は、まるで出掛けるような雰囲気だ。

 

 

「………一つ聞くが、何処に行くつもりだ?」

 

「?貴方と一緒にだけど」

 

「成程な────────ん???」

 

 

今度こそ、理解できないかのように絶句した。錆びついたブリキ人形のように首をギギギと動かした刃に、ソーナは胸を揺らしながら端的に言い切った。

 

 

「だから、貴方と一緒に着いてくの!だって、一緒に背負うって言ったんだから!一蓮托生ってヤツかしらね!」

 

「一蓮托生って………国はどうすんだ?王女だろ、お前」

 

「お母様からは許可をいただいてるわ!もっと世界を知ってきなさいって!その間に国は守っていくから、色々と立派になって、偶には帰ってこいってね!」

 

『────黒鉄刃様。いつか戻ってきてくださいね、貴方なら私たちは何時でも歓迎しますから』

 

 

────あの時、別れ際の女王の発言はそういうことだったのか、と刃は冷や汗を伝わせる。妙に親近感のある態度だなぁと思っていたが、どうやら女王としても親としても引き込む気満々らしい。抜け目のない人だ、と人知れず戦慄した刃は目の前で拒否られることを疑わない少女の顔を見て、毒気を抜かれた。

 

 

「………言っとくが、お姫様扱いしねぇからな。無理すんなよ」

 

「当ッ然!むしろ私の方がエスコートしてあげるんだから、期待してるといいわよっ!」

 

「…………むぅ、主様、本当にハーレムを作った。これは、危険」

 

「えぇ………そうなんですか?」

 

 

今後の事に警戒を顕にするシノに、戸惑いを誤魔化せないラナール。これからの旅は少しうるさくなるな、と思ったところでソーナが「あ!忘れるところだった!」と胸に腕を突っ込んだ。

 

一気に噴き出した刃が、突然の痴態に怒鳴ろうとした途端にソーナが手紙を突き出した。何処か、自信に満ちた様子で。

 

 

「クライスさんからの手紙よ!ジン宛ね!」

 

「………ソレ何処に入ってたんだよ。いや、いい。言わなくていい、言うな」

 

「?胸の中に挟んでたの。この方が持ちやすいし」

 

「だから言うんじゃねぇ!!!」

 

 

顔を真っ赤にして刃が怒鳴り、視線を逸らすように咄嗟に手紙を受け取る。羞恥だかむんむんとした感情を押し殺すように手紙の中を開いた刃は、クライスからの手紙を読む。

 

 

────いやぁ、失敬。オレとしてことが完全に忘れてた。ハルツィナ樹海付近は一応オレの国の領土なんでな。そこら辺では勝手なことしてる馬鹿もいるし、絡まれるかもしれないから使いを出しておく。ブルックの町に行って欲しい、君達に怪我一つ与えることのない、最高峰の案内役を用意しよう。

 

p.s あとついでけどその付近で馬鹿やってる帝国兵を見つけたら生かして捕らえて欲しい。此方で処理したいから、現皇帝より

 

 

「…………手紙にするんなら口頭で伝えとけよ」

 

 

 

◇◆◇

 

 

魔国ガーランドの中心を制する巨大魔王城『ウォードベルク』。その内部、最上階でもあり大魔王が座す王座。本来一つしかない王座のある領域には、四つの椅子が用意されていた。

 

一段下に配置された四席の玉座。大魔王のものとは大きくないにしても、並大抵の者が座れるものではないことは魔人族ならば理解するであろう。その空間を支配する、膨大な魔力の濃さからしても。

 

 

「────よく集まってくれた、皆の衆」

 

 

そう告げるは、一段上の玉座に腰を掛ける魔人族の王。褐色の肌ばかりである魔人族の中でも異端とされる、白い肌の持ち主。しかしその魔力は誰よりも濃く、禍々しい。全身に身に纏うのは重々しい鎧と玉座から伸びる無数の鎖。縛り付けられているように見えながらも、ただ座しているだけにも見えるのは大魔王から感じ取れる魔力の質量と余裕の態度からか。

 

大魔王────アルヴァーン・ライングレイドが、静かに睥睨する。一段下にある四つの玉座に座する、魔王の名を冠する者たちを。

 

 

「人類殲滅と神殺しの元に集った、四柱の魔王達よ」

 

 

四つの存在は一切の身動ぎもせず、沈黙を貫いていた。凄まじい重圧、威圧感を放ちながら。

 

 

────一人は、龍を模したような鎧を纏う男。鋭い眼差しを宿した眼を細め、その魔王は周囲に並ぶ他の魔王に視線を向けている。

 

────一人は、白い厚着のコートを着込んだ存在。恐らく魔人族であることは確かなのだろうが、ソレは全身の姿を隠していた。顔のある部位には物々しい修羅のような兜を被っており、両手で巨大な大斧を床に突き立てて不動を貫いている。

 

────一人は、死神のような雰囲気を漂わせる少年。色素が向け落ちたような灰色に染まったその少年は真っ黒な瞳で辺りを見ることなく、無気力そうに座席にもたれかかっている。

 

────そして、最後の一人は全身鎧の存在であった。腕を組んだまま何事も言わずに押し黙っているその魔王こそ、かつて勇者達を襲ったガイアドゥームその人。

 

 

四人の魔王が、大魔王の膝元に集っていた。其々の魔王の側には腹心、或いは配下と呼ぶべき魔人将達が並んでいる。彼等、彼女等は皆等しく膝をつき、頭を上げることはない。ただひたすらに、この会談の行く末に耳を傾ける以外にない。

 

 

「────此度、お前達を呼び出したのは他でもない。今後の方針を伝えることにした。

 

 

 

 

お前達も薄々は察しているかもしれないが────人類側の勢力が、力を増し始めている」

 

 

大魔王の言葉に、魔王達は大した反応を示さなかった。理解はしているが、そこまでの脅威を感じてはいないのだろう。無理はない。十年前の大戦ですら、自分達の圧勝であった。今更、何ができるという疑念の方が強い。

 

その疑問に答えたのは、大魔王ではなかった。

 

 

「────迷宮の攻略者に授けられる『神代魔法』、そして信仰を失い本来の力を損ない始めている『旧神』。その二つが人類の力となる前に、事前にねじり潰す必要がある」

 

「……………お前は、『ソロモン』か」

 

 

暗闇から姿を見せたローブの男。この場において異質なのは、感じられる人間の魔力────それをも忘れさせる程の、狂気を有した邪悪な魔力。大魔王のものとは違う、もう一つの魔神の魔力であった。そんな魔力を宿す男は姿を見せず、冷酷に吐き捨てる。

 

 

「────だが、完全に叩き潰すのは良くない。そうしてしまえば、漁夫の利を取られる。それは貴様の方こそ良くないだろう?大魔王」

 

「……………」

 

「貴様!大魔王様への口の利き方に気を付けろっ!」

 

 

挑発的な眼差しに声を荒げたのは魔人将が一人、フリード。大魔王直属の彼が主への無礼を許さんと言わんばかり殺気を飛ばす。それでも見向きもしない男に、フリードが動こうとした直後。

 

魔力を込めた彼の目の前で、影が伸びる。

本来は床に広がるように伸びていくはずの影が起き上がり、フリードの前に鎮座する。ソレは一瞬にして、黒衣の鎧男へと変貌していた。

 

睨み返すフリードに、影の鎧男は無機質に立ち尽くしていた。そんな状況の中でも、ソロモンと呼ばれたローブの男は大魔王に対して対等だと言わんばかりに口を開く。

 

 

「────我が眷属を困らせるな。ここで殺し合うのも悪くはないが、徳をするのは人類と他の魔神だぞ?」

 

「………下がれ、フリード。この場で諍いを起こすのは許さん。大魔王としての命だ」

 

「……………ハッ」

 

 

玉座に腰を掛けたままの大魔王が、フリードに低い声で呼び掛ける。即座に我に返ったフリードは深く頭を下げ、大魔王への隣へと戻る。そんな腹心の様子に、『ソロモン』は大魔王への言葉を止めることはない。

 

 

「随分と忠誠心の高い部下だな。だが、教育位はして欲しいものだ」

 

「…………『ソロモン』。お前こそ、その魔力を抑えろ。殺気立つのも無理はない禍々しい魔力だ、他の者も堪えるだろう」

 

「仕方ないな。偉大なる大魔王様の御言葉に従ってやろう」

 

 

指を鳴らし、全身から解き放たれていた魔力を一気に消し去るソロモン。彼は影のような鎧を側に置きながら、大魔王の玉座とは反対側の扉に背中を預ける。

 

 

「さて、話の続きだ。神代魔法を会得する人間が何人かいる。それを無視して殺すのは簡単だが、そうしない理由は分かっているだろう?」

 

「────『双対の魔神(ダブリス)』と『混沌の魔神(ファウスト)』の事か」

 

「そうだ。あの魔神達は、世界を滅ぼすことしか頭にない。人類を殺し、エヒトを殺せば、あとは魔神同士の殺し合いになる。奴等に漁夫の利をされては、俺もお前も都合が悪いだろう?」

 

 

────唯一神エヒトを殺す四体の魔神が結束した『魔神連合』、彼等は何も仲良くするつもりなどない。ダブリスやファウストは人類との戦争やエヒト抹殺にも興味が無いのか、或いは弱っている所を狙うつもりか未だ静観に徹している。彼等としては最終目的はこの世界を自分の手で滅ぼすことが目的なのだろう、それが魔神という種だ。

 

だからこそ、大魔王とソロモンは手を組んでいる。共倒れを狙う他の魔神に寝首を掻かれないよう、彼等は人類を即座に滅ぼすわけにはいかないのだ。

 

 

「お前が他の魔神相手に、召喚された奴等を捕縛しようとしている気持ちはよく分かる。だが、あんな連中に構う必要はないだろう」

 

「…………彼等を殺さずに、生きたまま捕らえろ、と言ったのはお前のはずだが?」

 

「その事に変わりはない。ついでに、神代魔法も手に入れるべきだと思わないか?人間側もある程度強化させておけば、使いようはある」

 

「ならば、迷宮の魔法を手に入れるということか。分かりやすい話だ。次は何処が攻略される?」

 

「────ライセン大峡谷。ミレディ・ライセンの残す大迷宮が攻略されるだろう」

 

 

淡々と、ソロモンは迷うことなく断言した。

その言葉が、僅かに大魔王の意識を震わせた。微かに拳を握る力を込めた大魔王は、その態度を変えることはない。

 

 

「ミレディ・ライセンの重力魔法。現時点で使い手はヘルシャー帝国の鮮血帝のみ、これ以上増やされるのも厄介な話だ。何より、あの『真祖』ならば間違いなく習得することだろう」

 

「────それなら、『僕達』が攻略を務めよう」

 

 

一声あげたのは、魔王の一人であった。

常に無気力そうに俯いていた灰色の魔王、『冥灰煉獄』のダンテ。死を司る無人の地を統べる魔王ダンテが、ようやく重い口を開いた。

 

 

「ミレディ・ライセンの重力魔法とは相性が悪いが、まだ解放者が存命────魂が残っているのであれば、敵ではない。何より、『真祖』は『僕』が仕留め損なった相手だ。過去の因縁を、清算する機会が欲しい」

 

「………()()()()()()()?ダンテ」

 

「『()』じゃない、『()()』だ」

 

 

意味深な発言であったが、その意味は彼等にしか分からない。少なくとも、大魔王としては僅かな興味による問い掛けであったらしい。そうか、と短く納得した大魔王はそれ以上の追求はしなかった。

 

そして、沈黙の後に口を開いたソロモンは再び議題を挙げる。

 

 

「剣帝の方が狙う旧神は、大神アストラトス。樹海にある亜人族の国、フェアベルゲン。彼処に行かれるのも厄介だが、戦力を割くわけにはいかない。魔王一人に任せて欲しいが…………」

 

「────ならば、フェアベルゲンは私が陥とそう」

 

 

応えたのは、屈強な白いコートと鎧に身を包んだ大柄な魔王。男とも女とも分からない冷淡とした声で語るのは、『極凍冷絶』のフリューゲル。その存在は堂々とした立ち振舞いで周囲に向けて宣言するように告げた。

 

 

「未だ存命し、旧神の庇護下にある亜人族の国は我々が力を持って叩き潰す。如何に神と言えど、仕える民や国が無ければ、その力も消え去ることだろう」

 

「良いだろう、フェアベルゲンの方はお前に任せよう、フリューゲル────クレイド、お前は予定通り好きに動け。迷宮攻略や戦力の補充、お前に一任する。動かす時は事前に伝えるから、準備はしておけ」

 

「…………了解した。大魔王よ」

 

大魔王から命令に応えたのは、龍の鎧を着込んだ威圧感の漂う黒髪の龍人────『激龍怒轟』のクレイドである。他の魔王にも引けを取らぬ強力な魔人族を従える彼の存在は、ある意味でも人類への切り札とも呼べる戦力であった。

 

 

「そして、ガイアドゥーム────お前には、他の魔神の観測を任せたい。未だ動きを見せないダブリス、奴等がどう出るか此方で見張っておきたい…………任せるぞ」

 

「その命、承った」

 

 

最後の一柱、『天地崩界』のガイアドゥームが深く頷く。ふと、大魔王が視線を向ければ、さっきまで居たはずの『ソロモン』が姿を消していた。重要な事だけ終わらせてさっさと姿を眩ましたらしい、同盟相手ながら自由なものだ、と大魔王は軽く笑う。

 

 

「………陛下、宜しいのですか」

 

「何がだ?フリード」

 

「あの男、『ソロモン』の事です。申し訳ありませんが、奴は信用なりません。奴の話、信用し過ぎるのは得策とは思えません」

 

 

他の魔王達が立ち去った後に、フリードは主に忠言する。彼がそこまでの敵意を放つのは、『ソロモン』への疑心が大きいのが理由でもある。何より、相手が相手だ。過度に信用したくはない、何なら味方とも限らない、と言うのがフリードの意見である。

 

その腹心の言葉に、大魔王は目を伏せた。すぐに口を開いた彼は部下の言葉に納得はしながらも、全肯定するものではない。

 

 

「………奴の言葉に嘘はない。現に、奴の言った通りに『オルクス大迷宮』を攻略され、剣帝は『水神』の力を継承した。奴が未来を視ている、というのは間違いないのだろう」

 

「しかし………!」

 

「それに、アレは私と同じ『魔神』だ。いや、強さで言えば奴の方が圧倒的だ。下手に距離を空けるよりも、近くに置いていた方が御しやすい。奴の言う通り、他の魔神が危険なのも事実。協力した方が好都合だろう」

 

「………分かりました。陛下の御考えがあるのならば、何も言いますまい。全ては、貴方様の望むがままに」

 

「すまないな、フリード。やはりお前には苦労をかける」

 

「いえ、貴方様にお仕えすることが私の使命ですから────アルヴァーン様」

 

 

◇◆◇

 

ハイリヒ王国の領内。

人気の無いバルコニーの片隅で、一人の男が青ざめた顔でガタガタと小刻みしていた。

 

 

「……………っ」

 

 

その男、檜山は親指の爪を噛みながら苛立たしそうに震えていた。いや、違う。苛立ち以上に、不安や怯えが目立っているのだろう。ビクッ、と周囲をキョロキョロと見渡しながら────蜘蛛の子を散らすように、慌ててその場から立ち去る。 

 

旗から見れば明らかに異常な様子だった。まるで誰かに見られることを極度に恐れているかのように、彼は王宮付近の森へと逃げ込む。誰の気配も感じないはずなのに、檜山の全身から不安が消えることはなかった。

 

 

「────おやおや、そんな顔してどうしたんだい?檜山君」

 

「………ジョーカー・ブラック」

 

 

そんな彼を出迎えたのは、仮面の道化師────ジョーカー・ブラック。王国内に密かに入り込み、王にもその存在を悟らせることのない正体不明の存在。彼の登場に安堵した檜山だったが、すぐに怯えながら問いかけ始めた。

 

 

「な、南雲は………どうなったんだ?」

 

「どうなったって、君が良く知ってるじゃないか」

 

「そ、そういうことを言いたいんじゃない!南雲があの後、どうなったかって聞きてぇんだ!!」

 

「分からない子だなぁ────君が落としたんだろう?彼を、奈落へ」

 

 

そう言われた檜山の顔が、一気に蒼白になって歪む。理解したくないと言わんばかりにしゃがみ込んだ彼の口から、違うと必死に否定しようという声がか細く聞こえていた。

 

道化師に誘われるがままに火球を放ち、最終的に魔物を操って奈落に落とした檜山。彼はその事実を誰にも打ち明けずに、ただ怯えることしか出来なかった。

 

 

『────檜山、何か言うことはないか』

 

 

冷たくそう問いただすクラス委員長の咲夜に、檜山は知らないと言うしなかった。すぐに理解しを示してくれたように見えたが、あの眼差しが自分を疑っていることは明白だった。

 

それからすぐに、何てことをしたんだと檜山は後悔することになった。平静を装おうとしても、震えが止まらない。初めて人を殺した、クラスメイトを死に追いやった事実が、檜山の心に重くのしかかっていた。

 

今でも悪夢を見る。ハジメを奈落に突き落とした光景を、あの時感じた喜びでもなく────ただ純粋な恐怖と、溢れんばかりの後悔の感情。今まで見下してきて、殺したいとまで思ったのに、檜山は今ではそんな自分に嫌気が差していた。

 

 

彼は、どこまでいっても小悪党でしかなかった。

ハジメをいじめたり、傷付けたりもしたが、殺すという選択だけは出来なかった。それが我が身可愛さでもあり、その一線だけは越えられなかったという事実。彼は結局、生と死に向き合うことのない環境で生きていた子供に過ぎなかったのだ。

 

 

「あ、あ………っ」

 

「君だってもう分かっているだろう?あの少年が落ちた奈落は、迷宮の深層だ。今の勇者だって辿り着ける場所じゃない。あんな所に錬成しか能のない無能が落ちたんだ。死ぬに決まっているさ」

 

「ちがっ、俺………ただ、あいつが邪魔で…………」

 

「そう、気に入らなかった。だから落としたんだ、君自身の意志で。どう思われるかなぁ?君の悪行を知った白崎香織や、クラスメイト、元の世界にいるお家族は。きっと、軽蔑されるんじゃないかな。嫌われるだけで済むのかなぁ?」

 

「────ひっ」

 

 

そんな罪悪感に苦しむ檜山を、道化師は言葉巧みに貶める。優しくも諭すような言い方は、彼の心に滲む恐怖を強めていき、次第に檜山は頭を抱えて懺悔するように蹲った。

 

 

「お、俺だって………殺すつもりは、なかった………仕方なかったんだ………」

 

「そう!君の言う通り!これは仕方なかった、彼は死ぬべきだった!だからこそ、君は何も思う必要はなぁい。だって、君は彼を落としただけ。南雲ハジメという無能を殺したのは、迷宮にいる魔物たちであって、君はただ突き落としただけ!君はそれを黙っていればいい───────その事実を知る私は、君を裏切ったりはしないのだから!!」

 

 

付け狙うように、悪意に満ちた道化師の言葉が檜山の心に透き通っていく。ブツブツと小さな声で呟く檜山は、道化師の言葉を反芻し、その心を歪めていることに気付いてはいない。仮面の道化師はそんな少年の有り様を、心の底から嘲笑っていた。

 

 

 

(────まっ、あの少年は生きてるし、必要だから殺すつもりはないけど。今の君にはまだ言わないよ。もっと私に依存して貰わないと困るから)

 

 

ジョーカー・ブラックはそういう存在であった。悪意のままに人を欺き、利用する────檜山は今、彼の手駒になりやすいように精神的に追い詰められ、無意識に依存されるように仕向けられていた。しかし、道化師の内心は興味を欠片も感じてない。或るのは、駒に対する感情しか無かった。

 

 

(それにしても、彼駄目だなぁ。私の眷属としての適性が無い、良くも悪くもモブって感じだね。あーあ、もっと追い詰めれば多少は適性も増してくるかな?……………ん?)

 

 

ふと、木々の後ろに隠れた人影に気付いた道化師は薄気味悪い笑みを仮面の下で零す。ふらりと姿を現した彼は、此方を覗き込んでいた者に、仰々しくお辞儀をしてみせた。

 

 

「────やぁ、そこの君。私と取引するつもりはないかい?」

 

 

道化師は未だ企み続ける。誰にも予想できない世界になるように、己の内に潜む狂気────『混沌』のままに、世界を歪めようと、ソレは禍々しい悪意のままに、また一人を『混沌』に導くのだった。




スティシア編、終了となります!次回は軽く小話みたいなのを挟んでから原作ルートへと向かうことになります!

クライスの正体はヘルシャー帝国の現皇帝ってことになりましたが、原作で皇帝だったガハルドはまだ存命です。クライスの方が強いから、皇位を譲ったって感じです。多分原作よりも自由な人になってるかもしれん…………(元皇帝になったわけだから)

次回もよろしくお願いします!それでは!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。