宇宙空間のような領域。
無数の星が刻まれたような薄暗い世界にて、二人は向き合っていた。白崎香織とエリュシオン、片や治癒師であり、片や王でもある二人は、今特訓を行っていた。
「…………っ」
「────来い、香織」
「はい!陛下!」
身構えていた香織に対し、エリュシオンはそう言って促す。その言葉に従って動いた香織は両手の指に魔力を溜める。両手の掌に浮かんだ刻印が輝き、香織はその魔力を解き放つ。
「────『
両手の指先から放たれる、光の雨。宇宙に流れる星屑のような魔力弾は指先から撃ち出された十発が飛来する。その攻撃をエリュシオンはその場から飛び退いて回避する────直後、香織は待ってましたと言わんばかりに笑った。
「…………ほう」
その場に着弾するはずだった光の弾丸が、一瞬で軌道を変えた。急カーブするように捻じれた星屑は回避したはずのエリュシオンを捕捉しているかのように追撃してくる。迫る星弾を槍で払い除けながら、エリュシオンは感心したように呟く。
「もう制御できるようになったか。全ての軌道を変えられるとは、よく鍛えたものだ」
「まだまだ………!基礎中の基礎、ですよね!」
「あぁ、そのとおりだ。ならば此方から行くぞ────『
香織と同じように、エリュシオンが掌の刻印を輝かせながら魔力を練り上げる。同じ仕草で放たれた光弾、それは香織が打ち出したものよりも圧倒的に素早い速度で放たれた。超高機動で飛び回るその星屑の弾丸に、香織は防御の構えに移る。
「────『
両手から発された魔力が、白光の防壁を展開する。自分自身を囲むように張られたバリアはエリュシオンの放った魔法弾を完全に防ぎきった。
「強度は充分、これを防ぎ切るのは上等だ。………だが、それ以上はどうだ────『
掌の刻印に魔力を収束させ、光の剣を展開するエリュシオン。魔法で作り出した剣を振りかざし、香織が展開したバリアへと切り込み────そのまま切り裂き、破壊した。
「っ!『
破壊されたバリアの中で、香織は魔法剣を両手に展開する。そのままエリュシオンの振るう剣へと切り込み、二本の刃で押し返す。そんな彼女の全力を込めた一撃を片手で払い除けながらも、エリュシオンは笑みを深めていた。
「ジェミニまで使えるとはな………だが、それでオレに勝とうというのは、驕りとも呼べる。その驕りを、圧倒的な力で矯正しよう」
槍を片手に、掌を翳すエリュシオン。その刻印がより一層輝きを増す。その光と、今までの戦いの中で一番の魔力の収束率に、香織は顔を強張らせた。
彼女はそれをよく知っている。自分が身につけられる段階の魔法で最も強力な攻撃魔法。その気になれば、人間一人を消し飛ばせる大魔法。
「────それは」
「認められたくば、この一撃を凌いでみせろ。可能であるのならば……………何?」
収束する魔力の粒子を解き放っていたエリュシオンは、唐突に目を見開いた。視線の先、対峙する少女に変化が生じていた。彼女の両手の刻印が、同じように魔力を発し始める。肉体を焼き切る程の莫大な魔力の活性化に、吐血する香織。
それでも彼女は前を向き、立ち上がりながら詠唱を唱えていた。
「────大いなる
「詠唱か、無理をする…………いや、そこまでの覚悟か」
エリュシオンのような無音詠唱とは違い、両手の刻印による魔力最大出力と完全詠唱。その威力ならば相殺することが出来るだろう。だが、その負担は今彼女の肉体に起きているほど大きなものである。
ここで引き下がるのは、香織に対しても失礼だ。そう判断したエリュシオンは掌に収束させた魔力を一気に解放し、二人が同時に魔法の名を叫んだ。
「「────『
直後、膨大な魔力の塊が────閃光となって発射される。
見る人が見れば、極太のビーム砲が衝突し、一気に爆裂する。それによって生じるはずだった大爆発が、一気に吸い込まれていく。簡易のブラックホールを生み出したエリュシオンは、息も絶え絶えの様子で膝をついた香織へと歩み寄る。
「………全身の神経がズタズタだ。ここまでの無理をして先走るとはな。恋は盲目とはよく言ったものだ」
「……………陛下、私はまだ………やれます」
「────分かった分かった。オレの負けだ、『
良かった、と香織は心の底から笑う。しかしすぐに吐血した彼女はその場に倒れ込み、気を失った。命の別状はないにしろ、自滅する感じでここまでの重体となった彼女に、エリュシオンは「…………まいったな」と困り果てるのだった。
◇◆◇
それから数日後。
医務室を出たばかりの香織を出迎えたのは、エリュシオン王だった。彼は部屋から出たばかりの香織を見るなり、淡々と語り掛ける。
「もう身体の調子は何ともないな?」
「はい。普通に魔法も使えますし、もうちゃんと動けます」
「それは良かった…………もうリリアーナ達に詰められるのは沢山だしな」
数日前の特訓で、重体となった香織を医務室に連れて行ったエリュシオン。治療を頼んだ後に、香織はエリュシオンと共に叱られることになった。理由としては、無茶をしすぎたことが主な理由だろう。
『ここまで怪我を自分でするとは、余っ程の後先考えないようですね。無論治療しますが、肉体だけの治療では治らないものもあります。何度も自滅して戻ってくるようであれば、心の方の治療が必要ですね』
『────お兄様もお兄様です。修行とはいえ、香織に怪我をさせるなんて。人類を導く王なんて言っておいて、女性に怪我させないことも出来ないんですか?………言い訳しないで下さい。職務の方は他の方にお任せしますから、お兄様は床の上でちゃんと反省して下さい』
「………フフッ、あの時の陛下は何も言えませんでしたからね」
「人の事を言える口か?誰のせいであんな目に遭ったと思っているんだ」
「医務室に来てすぐに『死にかけだ、治せ』なんて言うからじゃないですか」
「なんだと」
香織は医療騎士団の団長や幼馴染に軽く叱られる程度で済んだが、エリュシオンの方が強く説教を受けていた気がする。凄まじい怒気を放ちながら詰め寄る実の妹であるリリアーナに反論も出来ず、エリュシオンは次第に縮こまったように「………はい」としか言えずにいた。
その事をからかえば、エリュシオンは「もっと師匠を敬う気はないのか」と愚痴を漏らす。今回の修行でエリュシオンとの距離はある程度縮まった香織は、彼の事を王であると同時に師匠としても感じていた。
「それで、陛下………あの修行の結果のことですけど」
「ん、ああ。そのことか、なら問題はない。お前の実力ならば攻略に参加しても構わないだろう。だが、良いのか?」
「………はい、何もしないわけにはいかないですから」
喜びながらも、そう決意を口にする香織。エリュシオンとの特訓の最中、彼女は王に頼み込んでいた。ある程度実力があると判断してくれれば、自分も前線に出れるように認可して欲しいと。
今回の特訓の結果からして、エリュシオンは充分ではあると判断していた。多少は目に余るところはあるが、前線でも遅れを取ることはないだろう。
「────香織!こんなところにいたのか!」
廊下を歩きながら話していると、突然そんな声が聞こえた気がした。隣にいたはずのエリュシオンは一瞬にして姿をくらます。というよりかは、近くの壁にヒッソリと隠れているのだろう。別にやましいことはないが、ただ事情があるのだ。
そうして現れたのは、一人の少年である。エリュシオンやリリアーナと同じ金髪碧眼────彼等の兄弟でもある王族の少年。名をランデル・S・B・ハイリヒ、ハイリヒ王国の王子でありエリュシオンやリリアーナの弟であった。
「ランデル殿下、お久しぶりです」
「ああ、本当に久しぶりだ。迷宮に行ってからマトモに合うことも出来なかったからな。最近は兄上がいつも側にいて話しかけられなかったが、怪我をしてたと聞いて生きた心地はしなかったぞ。余がもっと強ければ、お前に無理はさせないというのに…………」
息巻いた様子で話すランデルが向ける好意に、香織はやはり気付いてはいない。子供に好かれているだけ、と感じるのは罪なものか。そして、意中である香織に会えたことが嬉しいであろうランデルは物陰に隠れたエリュシオンの冷たい眼差しには気付かない。
「そういえば、風の噂で聞いたのだが!前線に行こうとしているのは本当か!無理をしているのではないか!?」
「お気遣い下さり、ありがとうございます。ですが、私なら大丈夫ですよ。自分で望んでいることを、やりたいだけですから」
「いや、しかし………ダメだ、香織に戦いは似合わない。そ、その、ほら、もっとこう安全な仕事もあるだろう?」
「安全な仕事ですか?」
「ほ、ほら………余の侍女、とか」
────すぅ、とエリュシオンの眼差しが冷気を増した。絶対零度の眼差しに、恋は盲目であるランデルや割と鈍い香織は気付かない。この馬鹿は何を言っているのか、とエリュシオンは実に弟への呆れを宿す。
香織が前線に戻りたがっているのは、迷宮の地下に落下した好意の相手────南雲ハジメを助けに行く為である。それを知らないとはいえ、何を言い出しているのか、とエリュシオンの溜息は止まらない。
未だ未熟な弟の勝手な言い分もあるが、弟子としてある程度は愛着のある香織の望まぬことをしようとしているのに腹が立っているのも事実かもしれない。
「余は心配なのだ!お前をあのような危険な場所におくなど!お前の心配をしているにも関わらず、戦場に連れ出そうとする『勇者』とは違う!香織は、余といる方がいいだろう!?余ならば、香織の望みも叶えてやれ────」
「…………ほう?見ない内に、偉くなったものだな。お前は何時から他人に構うほど余裕ができた?」
「あ、兄上っ!?」
ついに我慢の限界になったであろうエリュシオンが、息巻いたランデルの頭を鷲掴みにする。突然のことに驚いたランデルであったが、相手を知るや否や少年の顔が真っ青に成り果てた。
「願いを叶える、か。一介の王子でしか無いのに、よくぞ大事を言ってくれたくらいだ。オレも多少は感心したぞ。王位を譲るには、まだまだ目に余るがな」
「兄上………いつから、そこに………?」
「そういうお前こそ、何故ここにいる?この時間帯、お前は勉強の時間であったはずだ…………まさか抜け出してきた訳ではあるまいな?」
「い、いえ………その………────抜け出しました」
「そうか。なら道草を食っている暇はないはずだ。他人にちょっかいをかけるのは、やるべきことをやってからにするんだな」
「わ、分かりました!そ、それでは!」
そう言って、慌てた様子で立ち去ろうとするランデル。急いで走り出そうとした少年に、エリュシオンが手にしていた槍の石づきを床に叩ける。ガァン!!と床を揺らす音を響かせながら、凄まじい怒号をランデルの背中に叩きつけた。
「ご迷惑をおかけしました、だ!客人の手前だ!礼節を忘れるな!!」
「はっ、はい!ご迷惑をおかけしました!失礼しますっ!!」
大声で頭を下げ、ランデルは飛び出すように立ち去った。そんな少年の姿にエリュシオンはどこか不機嫌そうに顔を歪める。香織はそんな王の姿にクスリ、と笑った。
「………弟が迷惑をかけた。重ねて非礼を詫びる」
「気にしてないですよ、陛下。ランデル殿下は優しいから気を遣ってくれただけです」
「アレは優しいのではなく、我儘なだけだ………全く、人の気持ちも知らず身勝手なことを────オレは仕事に戻る。今日は謁見の予定があるからな。時間はまだあるが、お前も来ておけよ」
弟の事に頭を抱えながらも、エリュシオンはそう言って場を離れた。ああいう言い方になっているが、家族として情や期待、戦争で自分が死ぬかもしれないからこそ厳しく接しているのだろう、と香織はある程度は察していた。
今日は謁見の予定があるから、それにだけは出席しろとエリュシオンから伝えられている。その間何をしようかと散策していた香織は、ある人影に気付いた。階段の下で座り込む、陰欝した雰囲気を漂わせる男性の姿に、心当たりがあった。
「あれ、あの人は…………」
「…………む、君は確か」
両者が互いの存在を認識する。相手の顔を見たことで香織は即座に気付いた。彼の事は割と覚えている。なんせ香織が好意を抱くハジメと関わり深い相手なのだから。
「シュトライゼさん、ですよね」
「そういう君は白崎香織、だったか。意外だね、皆の人気者である君が一人きりなんて」
「まぁ、何もすることがないですし………こう、一人でいる時間も悪くないなぁって、思うんです」
「奇遇だね。今の私も、激しく同意したいくらいだ」
妙に大人しい様子に、彼女はアレと困惑を示した。エリュシオン直属の『王の剣』の正式メンバーである彼は外界との交流に興味を持たない偏屈な人だと思っていたが、実際は研究や開発が好きなだけの変人とも聞いている。
いつもハイテンションだが良い人だと、ハジメは明言していた。たからこそ、今の様子は何処か抜け落ちたように感じる。その原因が、今の香織には分かる気がした。
「………南雲くんのこと、ですよね」
「────あぁ、そういえば君も………正しくその通りさ。今の私は少し落ち込んでいる。弟子として期待していた彼を失くしたことが、大きな理由だろう」
思えば、シュトライゼはハジメのことを目に掛けていた。彼の事を弟子三号として、共に研究や開発に携わらせていたことからも、よく分かることだろう。いつも研究熱心で引きこもっているはずのシュトライゼが研究もせずに項垂れているのは、彼の内心渦巻く感情の数々が理由であった。
「彼には才能があった、目を見張るものが。知識以上に独創的かつ創り出すということには私に負けることのない子だ。きっと生きていれば、私を超えうる存在になり得ただろう」
「…………」
「彼が迷宮の地下に落ちたと聞いた時、私は死んだのかとアッサリ受け入れた。非戦闘職の人間が死ぬのは、当然だと思ったからさほど有り得ない話ではなかったから、驚きはなかった。………だが、その後だ。どうしようとも気力が沸かなくなってしまった。私ともあろうものが、柄にもなく落ち込んでいるんだ。ただ一人の子供の死に、こうも気力を削がれるなど………」
天才として自負していた己に、初めて無力感を感じたのだろう。自分の弟子として期待しておきながら、何も出来なかった、と。天才ならば出来るはずだ、迷宮に落ちた弟子一人を助けに行くことくらい。それもせずに可能性を諦めて割り切るような男が、人類を救う天才になりえるのか、と。シュトライゼはそんな自罰的な感情に陥り、心の底から傷心していたのだ。
────そんな彼に、香織は何処か言いにくそうに答えた。
「あの、南雲くんは………生きてるみたいですよ」
「………………え?嘘ホント?」
「エリュシオン陛下が断言してましたけど………聞いてないんですか?」
「そんな気力無かった…………あれ、確かにそんな話してた気がしなくも……………マジ?」
マジです、と香織は苦笑いしながらも断言する。
少しずつ状況を理解し始めたのか、或いはエリュシオンが嘘をつかない、未来視が出来ることを思い出したのだろう。シュトライゼはマジかぁ…………と情けない様子ながらも、安堵のため息を漏らした。心配して損した、という感情よりも心からの安心がそこから感じられた。
「…………この天才もホント腑抜けたものだ。こんな場所で一々ウジウジしているとは」
「シュトライゼさん………?」
「────失礼。私としたことが、取り乱した。白崎香織と言ったね?今回のことは正式に借りを作るとしよう、この借りは必ず返すからこそ、期待して待っていたまえ。私はやるべきことを思い出したので、失礼する」
そう言うと、シュトライゼは調子を取り戻したように立ち去っていく。意外と抜けてる人なんだ、と思う香織だが、彼女を良く知るクラスメイトが聞けばジト目で見返すことだろう。
そんな事も知らず、香織はクラスメイト達のいる場所へと向かうことにした。
◇◆◇
「────来たか。香織」
「香織、何とかなったみたいね」
彼等は既に王座の間に集まっていた。初めに気付いた咲夜が反応すると、雫が香織の元へと駆け寄ってくる。そんな幼馴染と委員長に香織は笑顔を返した。
「うん、二人とも迷惑かけちゃってごめんね………岸上くん」
「………陛下から話は聞いている。行くんだろう、前線に」
「…………思ったよりも怒らないのね」
「本人の覚悟は理解している。俺が何を言おうとも、香織は引き下がらないだろうな。ただ、無理をしないかが気になるだけだ」
「分かってるわ。香織のことはちゃんと見ておくから、安心して」
「…………頼む。お前なら安心して任せられる」
前線に出るという香織の決意に思う所はあれど、肯定の意思を示してくれる咲夜。ふと互いに語らう雫と咲夜には妙な連帯感がある、クラスを引っ張っていく苦労人同士というのもあり互いに共感することが多いのだろう。話題の本人である香織は大袈裟だなぁと笑うことも出来ない、この2人相手には強く出れないことが殆どであるから。
「────それなら私達も」
「同行させてくれねぇか」
「佐竹くん、天音ちゃん」
ふと、そんな香織達に問い掛けて来たのはクラスの中でも交流のあった二人組、佐竹広大と菊菜天音の二人である。ハジメに対する嫉妬や悪感情もなく、彼と距離感の近く接してきた二人は真剣な面持ちでそう切り出してきた。
「俺達だって、何も出来なかった自分が許せねぇんだ。死ぬのが怖ぇからって前線から逃げる気はねぇ」
「何より、私達の敵は前にも後ろにも居るでしょうし、一緒に居ることは悪いことではないでしょう………今度こそ、守れずに後悔したくありませんから」
「二人とも…………そうだよね、一緒に頑張ろう!」
おう!とやる気に満ちた様子で唸る広大に、天音は扇を閉ざし、クスリと笑う。二人なりの意思表示に香織は快く頷いた。その状況を満足そうに眺めた咲夜が口を開く。
「────雫に二人がいるなら、多少は余裕だろうな。俺も安心して動くことが出来る」
「?岸上くんは一緒に来ないの?」
「同行したいところだが、そうは言ってられない。オレは先生の護衛をするつもりだ」
「愛ちゃん先生の?」
「俺達が迷宮に行っていた間に、先生が暗殺されそうになった話は知っているだろう。優花や昇達も賛同してくれているからな、俺もそちらで動くつもりだ」
クラスメイト達に伝えられた、担任である畑山愛子先生の暗殺疑惑。エリュシオン王や協力した刃の活躍により未然に防がれたが、その事実は生徒達にとっても衝撃的な話であった。ハジメの死(まだ確定してない)に続いたその事実は生徒達の多くの心に重くのしかかり、一部の生徒は引きこもりがちになってしまった。
それでも生徒たちの為に活動を続けようとする畑山先生。その天職『作農師』は人類側の食糧問題の解決にも活躍出来ることもあり、他国からの援助が強く所望されている。エリュシオン王は先の暗殺の件で消極的であったが、彼女自身の強い意志『生徒達が頑張ってる中で何もしないわけにはいかない』という覚悟もあり、他の生徒達のためにも国外への活動に出ようと言うのだ。
そんな彼女の護衛────教会は信用できないため、少しでも力になろうと護衛に名乗り出る生徒が少数ながらいた。そんな彼等の意思に応え、咲夜は護衛チームを結成し、愛子先生を守る為に活動することにしたのだ。
「────香織!こんな所にいたのか!」
そんな大声と共に、周囲の空気が一気に変わる。
長い付き合いの龍太郎と共に駆け出してきた天之河光輝の姿があったのだ。
香織と雫は来たかぁ、と困ったように苦笑いを零す。二人の対応はまだマシなほうだ。咲夜に至ってはすぅ、と目を細め警戒モードに移行する。広大と天音に関しては即座に身構えて香織を庇うように出張ってすらいる。フシャーッ!と露骨な威嚇を剥き出しにする二人に、光輝は半ば困惑していた。
「来やがったな………!」
「来やがりましたわね…………」
「…………な、なぁ、あの二人が凄い剣幕で睨んてくるんだが、何でなんだ?」
「さぁ、自業自得だと思うがな」
「………自分の胸に聞いてみなさい」
少し前に久々に香織と出会ったばかりのことを伝えられた面々の対応は厳しいものばかりで、特にハジメと香織の関係を応援していた広大や天音の敵愾心は相応なものである。
当然ながら冷たくあしらう咲夜は兎も角、幼馴染の雫ですらそう返す始末。自分に都合の良い考えばかりする光輝は本気で自分が迷惑をかけたと思っておらず、「何なんだ………?」と当惑するだけである。
そんな最中、王の間の付近で賑わっていた彼等にリリアーナが小声で呼びかけた。
「皆さん………!そろそろ帝国からの使者が来られますからっ!」
言われた途端、一気に口を閉ざして姿勢を正す一同。本日の予定、それはヘルシャー帝国の使者との対談。王国内で活動することが多かった香織達としても、『帝国』から訪れた使者というがどんな相手なのか興味は拭えないのだろう。
────改めて、彼女達はその相手が予想外の存在だと知ることになる。
王の間のレッドカーペットに、複数人が踏み込んでくる。その人影を見た途端、興味本位に満ちていた一同の顔が凍りつく。人影の姿にいち早く気付いた咲夜が険しい顔で身構えたのだ。
「『
「知ってるの!?岸上くん!」
「…………帝国に即位した新皇帝が擁する近衛兵団。かの魔神戦争を生き延びた化け物の一団だ。それが六人もいるとは………!」
────歩く先には、屍しか残らず。その鎧は敵の返り血により紅蓮に染まったという、帝国最強の部隊。単独でありながら魔人将に匹敵するとされるその実力は人類最高峰の戦力と言っても過言ではないだろう。
本来であれば、彼等は一人で行動することが普通とされている。大抵のことなど鉄血の近衛一人で済む話なのだから、それが六人も集まっているということは、どう考えても普通ではないのだ。
「────皇帝陛下、どうぞ先を」
「ありがと、それじゃ失礼」
そんな近衛兵が左右に展開し、一人の男が通る道を作る。その男は皇族と思われる正装ながらも、身軽な姿をしていた。腰に二対のサーベルを納刀した彼は気さくな様子でカーペットの上を歩き、玉座の上で腰を掛けるエリュシオンを見上げて笑った。
「────やっ、エリュシオン。久し振りだな、何年ぶりだ」
「………クライスか。使者という話を聞いていたが、やはりお前自身が出るか」
「まぁね、お前相手に一般の使者を送るなんて可哀想だろ?ほら、お前圧強いし」
「よく言う。恐ろしさならばお前には負けるさ、『鮮血帝』」
国王と皇帝、二つの国のトップの対面とは思えぬほどに気軽なものであった。気の抜いたように肩を竦めるクライスに、エリュシオンは無礼だと思わぬように軽く鼻で笑って答える。
「………ホント、お前も堅物になったよな。あの戦争で色々と失ったんだっけな、お前は」
「そう言うお前は皇帝になれただろう?良かったじゃないか、野蛮で暴力的な帝国を変えたいと言っていただろう?」
「昔はそうだったんだけどねぇ。人の性って奴はどうしようもなくてね、親父のほうが良かったって文句言う人も多いし………親父は親父で楽しそうで嫌になるよ」
「御託はそろそろだ。さっさと本題に入れ」
「そっちから話振ったんじゃん…………分かった!分かった!ごめんって!…………えっと、ああ、そうだ。んで、俺達人類の代表者を任せる勇者ってのはどちら様?」
困ったようにそう言い出したクライスに、エリュシオンが槍で床を叩く。促すような態度に気付いた光輝が、俺です!と声を上げる。クライスは見定めるかのように目を細めていたが、すぐに笑顔で光輝に歩み寄った。
「やっ、はじめまして。オレはクライス・D・ヘルシャー。ヘルシャー帝国の現皇帝、よろしくね」
「っ、俺は天之河光輝です!よろしくお願いします!クライス陛下!」
「堅いねー、エリュシオンの奴の前だからって気を引き締めなくて良いんだよ?アイツってそういうとこ厳しいし、ああならないようにしなよ?その内額んとこのシワがこうなって、嫌な顔になるからね」
あんまりな物言いに、エリュシオンは笑みを深めるだけだった。アレは怒っているだろうが、個人的な感情なのだろう。軽く床を叩くと、慌てた様子でクライスが「ごめんって!ちょっと気を緩めようとしただけじゃん!」と情けない言い訳をする。
「いやー、話に聞く良い子さんだね。勇者って言われるのも当然かもしれないなー」
「あ、ありがとうございます……!」
「そうそう、あの話なんて特に有名だよ。魔王相手にやり合って生き延びるなんて、滅多に無いことさ。あの魔王に傷をつけたとか、いやー勇者様々だね。
────行方不明者は一人だけだったらしいけど!まぁ、勇者らしいんじゃない?」
その発言は、明確な悪意があった。
というよりかは、相手の出方を見ようとしての発言なのだろう。クライスは事前の調査で知っていた、少し前での魔王ガイアドゥームとの戦いの真実を。その結果、勇者達は辛うじて撤退することになった────ただ一人、非戦闘職の仲間が奈落に落ちたことも、既に把握している。
敢えて、その行方不明者の部分を強調したのは光輝の出方を伺うつもりなのだろう。だが、よりにもよってそこを出汁にしてしまった。クライスの言葉に香織は唇を噛み、彼女の知人一同は怒りを滲ませる。一人で済んで良かったと、まるで教会の人間のような心のない言い方に、腹が立つのは無理もないだろう。
だが、事態は彼等にとっても想像できないことになりかけていた。
「────はい、確かに南雲の死は辛いものでした。俺も仲間の一人を救えなかったことは悲しかったですけど、何時までも挫けていられないと思っています!死んだ南雲の為にも、俺達は世界を救うために頑張っていくつもりです!」
「……………………ん?」
決意に満ち足りた光輝の真剣な表情の前で、クライスは目をパチクリとさせた。コイツ何言ってんだ?と理解が追いつかないように立ち尽くしていた彼はすぐに笑顔になったかと思えば、
「ちょっと、タンマ」
そう言って話を切り、すぐさま近衛兵の元へと駆け寄っていった。ヒソヒソと話すクライスは頭を抱えたように「怖いよアイツ、マジで言ってる」「死んだわけじゃないよね?何で死んだことにしてるの?」と弱音の如く情けない勢いで呟いていた。
正直、皇帝には同情する。彼はまだ光輝の内面を知らないのだろう。一度も挫折や間違いを経験したこともなく、正義を盲信する彼の在り様は「自分本位で未熟な子供」と言うしかない。
メルドに代わって彼の修行を台頭したイガル・ハヤテはその歪みを理解したからこそ「挫折というもの経験しなければ、コイツは成長できないで腐る」とエリュシオンに強く忠言したくらいだ。
当の本人も自分が何を言っているのか自覚はなく、ただ「クラスメイト一人の死に拘っていても何も変わらないこそ、皆を守るために前を向かなければならない」と都合よく解釈してるのだ。未だ不思議そうな光輝に、戻ってきたクライスはどこか複雑そうな笑顔で口を詰まらせていた。
「あー、そのー………うん、頑張ってくれ。まだ見つからない仲間の為にも」
「?はい、望むところです!」
疲れたようにため息を漏らしたクライスは、すぐエリュシオンへと振り向く。どこか険しい眼差しで彼は王に断言した。
「────エリュシオン。オレは反対だね、彼はまだ経験を積むべきだ」
「奇遇だな。オレもそう思っていた所だ」
「っ!?陛下!?何でですか、いきなり!?」
「いや、何でって…………君、マジで言ってる?」
突然の言い分に納得できないと抗議を示す光輝だったが、クライスは理解できないのか、と困惑したように眉を顰めていた。少し考え事をしていた彼は、すぐに対処法を思いついたのか、そうだと口を開く。
「んー、じゃあさ。こうしようよ、手合わせってことで。今から呼ぶ相手と戦わせるから、勝ったら認めるよ。それでいい?」
「………俺は構いませんが、良いんですか?エリュシオン陛下」
「許可する。オレが赦そう、油断せずに力を見せてやれ」
「よし、ならオレの近衛とやってくれよ。それなら少しは────」
「────いえ、自分が相手をしましょう」
そう言って名乗り上げたのは、平凡そうな男であった。外套に身を包んだその男は慇懃無礼な様子で皇帝の前へと滑り込む。普通に考えれば無礼な対応であったが、彼はそんな事も気にしないようにクライスへと告げた。
「陛下はお下がり下さい。彼の勇者殿の手腕、興味がありましたので」
「は?何勝手に言って………っていうかお前誰────ってオイ!?」
一瞬クライスの全身から殺気が放たれかけた瞬間、ローブに身を包んだ数人がクライスを抑え込んで奥に下がっていく。「ちょっ!?お前ら!?」と喚く彼を、近衛兵達は助ける素振りを見せない。中々にカオスな現場である。
納得しきれない様子な光輝と正体不明な男の手合わせは始まった。手加減して場を収めようと戦っていた光輝だが、彼の動きを男は容易くいなす。圧倒しているはずの男は、感心したように口笛を鳴らしていた。
「へぇ、今のはいい動きだ。中々鍛えられてるみてぇだな」
「え?あ、はい………団長に厳しく相手をさせられたので」
「ならお前はソイツに感謝するんだな。多少は動けるようになっただけマシ────肝心な中身はてんでダメみたいだが」
目を細めた男が斬り合う中、光輝は未だ圧倒されていた。男は殺す気でやれと言うが、光輝はその気もなく消極的なくらいだ。半ば苛立たしそうに怒鳴る男の言葉も、次第殺意を隠せなくなっていた。
「殺す気でやれよ。まさかそんな生半可な覚悟で人類の代表気取ろうって腹積もりじゃねぇだろうな?相手が誰だか分かって戦ってんのか?何の為にテメェはその剣を握ってんだ?殺気一つも込められねぇ剣で、何と戦うってんだ!?」
「っ!そんなの、魔神相手に決まってる!魔神を倒して、俺は人々も、世界も救って────」
「殺す覚悟も、殺す気概のねぇガキがよく言う。………もういい、やっぱ殺すわ。お前みたいなガキ、殺した方がマシだ。ってことで────死ねや」
純粋な殺気を込めた剣で斬りかかる男。力ずくで地面に叩き伏せた光輝に目掛け、男は剣を突き立てようと力を込め────光輝の目と鼻の先で剣先を止めた。自身に迫る刃と殺意に、気付いたからだ。
「────止まれ、僅かに動けば両手両足を斬り落とす」
「────私の前で人を殺すなど、そのような罪は赦さん」
「────貴方の剣が彼の命を奪う前に、私の祈りが貴方を意識を断つでしょう」
三人の王国最強が、男の動きを静止させていた。騎士団団長 イガル・ハヤテ、執行部隊総長 スピリアス、医療騎士団団長 ヒナ・シュトル。イガル・ハヤテの双剣が、スピリアスのレイピアが、ヒナの握り拳が、男の首元と胴、心臓へと向けられていた。
少しでも殺そうと反応した瞬間、男はその場で八つ裂きにされていることだろう。完全に詰みの状況であることを自覚した男は大声で笑い出した。
「いやぁ、降参だ。悪かった────ったく、強い奴等に恵まれたな!エリュシオン王!」
「な、ななな、何やってんだ親父ぃーーーーーッッ!!!!」
事態に気付いて青褪めたクライスの絶叫と共に、その男────前皇帝ガハルド・D・ヘルシャーは本来の姿を露わにした。まさかの事態に混乱する空気の中、エリュシオンは三人以上の殺気を剥き出しにしながら問い詰める。
無論、ガハルドは「実力を見たかっただけで殺すのは冗談」「悪いとは思ったが、俺には関係ねぇから」と宣う始末。全責任を息子に押し付けようとする父親をぶん殴ってから、クライスは低姿勢で土下座に徹していた。
悪気は多分あったけど、オレはそんなつもりはなかった。親父は好きにしていいから、勘弁してくれ、と頼み込むクライスに、エリュシオンは無慈悲にも「お前らの提供する資材の量を五割増やせ」と吹っかけた。
項垂れる現皇帝かつ息子の姿に「苦労するだろ?」と笑いかけた前皇帝のガハルドに、発狂したようにクライスが馬乗りになって殴り始めた。エリュシオンは「他所でやれ」と呆れたように彼等を締め出す。
子供のように喧嘩をしながら引っ張られていく旧現皇帝の情けない姿を尻目に、ローブを取った二人の少年少女がペコリと頭を下げた。
「お兄ちゃんとパパがごめんねー。あの人達、あんな感じだけど一応皇帝なんだよー。世の中変なもんだよねー」
「正式な話し合いは別の機会にお願いします。それでは────じゃーね、リリィちゃーん」
能天気そうな二人の少年少女が手を振って立ち去る姿に、香織達は戸惑いながらを手を振り返す。その後にリリアーナの口からあの二人も皇族であることを聞かされた時は、本当に帝国大丈夫か?と疑問視するしかなかった。
◇◆◇
「…………ああ、五割増ってマジ?ホント容赦ねぇし、最悪だなクソ親父………」
「まだ言ってんのかよ、みみっちいぜ?もっと皇帝らしく、堂々としねぇと」
「────この事母さんにチクってやるからな、覚えとけよ」
「ちょっ!?流石にそれは………悪かった!だから、アイツにだけは言うの止めろよ!?」
「お兄ちゃんうるさい」
「パパくさーい」
「急に殴ってきたな!?オレの娘は!?」
皇族を乗せる場所の中で、彼等はギャーギャーと騒いでいた。遠い目をしながら現状を悟って頭を抱えていたクライスに、妻こと正室への肩が上がらないため密告を止めようとするガハルド。そんな二人を呆れたようにけなす皇子と皇女、クライスの弟妹であり、同じくガハルドの実子である二人。
正式な話し合いを終えた後、帝国に帰還するその馬車の中でクライスはため息を漏らした後に問い詰めることにした。
「…………で?親父から見てどうだった?」
「ありゃダメだろ、流石に。中身からして子供ってのはいいが、戦いのたの字も知らねぇガキときたもんだ。理想とか正義とか、綺麗なとこだけ見て信じちまってる奴だ。なまじ実力とカリスマがある分、周りの迷惑になるだろうよ」
「だから殺そうとしたわけか。親父にしては短慮だと思ったが、そういう見方ね」
「お前だって、その気なら殺しておく方に賛成だろ?ああいう足手まとい、戦争に不要だと思う口だと思ったがな」
「そんな野蛮なことしないって。………正直、距離を取りたいって気持ちはあるけどね。あの子、一度も負けとか挫折したことがないみたいだし、それも悪い方向に目立ってるね。そのうち、自分勝手に暴走しそうで怖いよ────下手に才能や素質があるし、やるならやって欲しかったね」
皇帝同士の考え的に、光輝の存在は邪魔になると判断したのだろう。戦いの場において戦う覚悟、相手の命を奪う覚悟の出来ない足手まといは要らないというが帝国での理念である。
だが、彼等は数ヶ月前までただの学生だったのだ。それも、生まれた頃から平和な日本の。歴戦の戦士が認めるような戦場の心構えなど、備わっているはずもない。
そんな話の中、突如馬車が足を止める。
周りが騒がしくなってきたことに気付いたクライスが怪訝そうに、馬車を引く兵士に呼びかけた。
「………どうした?」
「陛下………囲まれております。恐らく、反乱勢力かと」
「はぁ…………またか」
ため息を漏らしたクライス、次の瞬間馬車の向こうから怒声のような大声が響き渡った。
「クライス・ストラーダ!ガハルド陛下の掲げる帝国の理念を理解せぬ軟弱者に告ぐ!貴様のような腑抜けは我等の求む帝国には要らぬ!その首を掲げ、ガハルド陛下が座るべき座を取り戻させて貰う!」
「…………ハッ、お呼ばれみたいだな。クライス」
元々、ガハルドが現役だった頃の帝国では弱肉強食の理念が掲げられており、奴隷は当然であり強さこそが真理という状態であった。しかし、ガハルドが皇位を譲ったクライスはその概念を取り払い、帝国を大きく発展させていった。
だが、そんなクライスに反発するものも多かった。弱肉強食の理念に美味しい汁を啜っていた多くの者たちだ。奴隷などの搾取により利益を儲けていた彼等はクライスが政策で禁止した奴隷の違法化に不満を抱き、彼の暗殺を目論む者も絶えずいる。
「はぁ、ホント。面倒だ────けど、やるか」
深い溜息と共に、クライスは立ち上がる。そして馬車の扉に手をかけた存在を認識するや否や、心底面倒だと言わんばかりに顔を歪め────腰に備えたサーベルを引き抜いた。
「偉大なる帝国を汚した愚か者!クライス・ストラーダ!その首貰い受け────」
怒鳴り散らして扉を開け放った帝国兵士の言葉が途切れる。直後に振るわれた刃は兵士のある部分に突き立てたのだ。それは見て分かるような部分ではない。
「────っ!…………!?」
「良く回る舌だ。こうして見ても価値はない────なら、不要だな?」
舌をサーベルで串刺しにされた兵士は悲鳴を上げることも出来ず、悶え苦しんでいた。そんな兵士の言葉にならない呻きを無視して、クライスはサーベルを一気に引く。飛び散った舌と共に、口から血を噴き出した兵士が地面を転がる。
血に塗れたサーベルを振り払い、クライスは冷たい眼差しで反乱を行った兵士達を睥睨する。
「はぁ、二十数人か。嘆かわしいな、帝国軍人として為すべきことをして欲しかったが、どいつもこいつも強者であることに溺れた強欲者とは。
まぁ、オレの作る国にお前等みたいな奴等は要らないさ。今からでも考えを改めるなら話は別だが、オレを殺しに来た時点でその気はないんだろう?」
サーベルの刃で傷つけた指先から赤い血が落ちたと同時に、クライス足元に赤く染まる。一つの飛沫は大きな池のように広がり、巨大な赤黒い液体が地面を覆い尽くす。
それと同時に、赤黒い領域の中から姿を見せたのは────『
「全員、殺すなよ。命を始末するのは嫌いなんだ、ただ殺すくらいなら有効活用しないと」
「────了解。皇帝陛下」
「さて、一人も逃さないよ。君達の大好きな弱肉強食の理念に則り、君達の血も肉も、命すらもオレのものだ。このオレの帝国の礎になれるんだ、感謝して────死ぬといい」
────戦いが始まる直前、ガハルドは馬車の中で嘲笑っていた。誰と言えば、あの兵士達である。自分の掲げた弱肉強食の理念を崇拝するのは分かるが、その結果がアレなら意味がない。
「馬鹿な奴等だ。俺の掲げた理念が大事なら、それこそクライスに従うべきだろ。この俺が、俺より弱い奴に皇位を譲ったと本気で思ってたのか?」
ガハルドは極度の実力主義である。だからこそ、帝国で弱肉強食をシステムとして掲げた。自分が皇位を降りたのは、クライスの方が圧倒的に強かった、それだけの話だ。
そして同時に、クライス・D・ヘルシャーが自分よりも歪んでいる存在だとも確信している。帝国から奴隷制度を取り去り、強者も弱者も関係なく暮らせるようにした賢帝と呼ばれながらも、彼には正反対の二つ名が存在する。
────『鮮血帝』。
かつて帝国で起きた大規模テロを制圧し、主犯格の貴族や兵士を惨殺した彼に向けられた恐怖の呼び名。それと同じ惨劇がまた起こることにガハルドは何の感慨もなく、馬車の扉を閉めた。
自分を未だ慕い、過去の栄華を取り戻そうとする兵士達の気持ちは分からんでもない。だが、ガハルドは何の迷いもなく切り捨てる。彼等がこの場で死ぬのは弱いからであり、自分達が掲げた弱肉強食の摂理────強者に殺されるのなら、それで本望だろう。
因みに少し前の「残された者達の成長」でイガル・ハヤテと光輝達の特訓での話────期待外れだったら勇者を辞めてもらうという話はギリギリ光輝達の勝ちということでした。
まぁ、正直光輝本人の努力というより、龍太郎や雫のお陰ってのもあるんですが。ハヤテの評価は「まぁまぁ最低値だが、実力に関しては期待できる」ということになりました。実力に関しては、ですが。
香織は原作通りに光輝達攻略チームに加わることになりました。流石に心配ってことで広大や天音というボディーガードが付くことになりましたが。
対して咲夜は愛ちゃん先生護衛チーム入り。愛ちゃん先生の方も心配というわけで、ブレイン枠の咲夜がそっちで頑張るとのことです。
帝国側の面子もチラチラと紹介しておきます。
クライス・D・ヘルシャー
ヘルシャー帝国の現皇帝。実力主義で奴隷制度の横行していた帝国を内側から改革し、平和な形で発展させた常識人の善人。しかしその対応に不満を持った反乱分子を容赦なく惨殺するなど、どこか歪んだ部分を感じさせる。
ガハルド・D・ヘルシャー
ヘルシャー帝国の前皇帝。元々は実力主義の帝国を率いていたが、自分よりも強いクライスに皇位を譲って今は元皇帝として気軽に生きている。原作よりも多少自由になっており、現皇帝のクライスを振り回して楽しんでいる。
因みにクライスの実の母親こと正室の妻には尻に敷かれている。
二人の皇子と皇女
クライスの弟妹であり、ガハルドの実子。二人ともマイペースであり、どんなことがあっても狼狽えない気質を持っている。
次回から原作ルート、ハジメとの合流になります。次回もお楽しみに下さいませ!それでは!
清水の今後について
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生存その1(生き残るけど戦えない)
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生存その2(護衛組の一人として戦う)
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死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
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意識不明の重体として途中退場