鉄血紅衛とハウリア族、そして再会
周囲を堀と柵で覆った小さな町、ブルック。
人気の割と多いその町に訪れた刃達一行。当初クライスの手紙に言われた通り、案内役と呼ばれる相手を探そうとしていたが、すぐに見つかった。
「………………」
「…………」
しかし、刃達はその案内役と思われる相手に声を掛けることが出来なかった。相手が相手なのもあり、言葉に詰まっていたのだ。
『────』
シュコーッ、シュコーッ、とくぐもった呼吸音が漏れる。その人影は明らか大きな体格の存在であった。全身を真紅の重装甲に身を包んだ姿からは性別や見た目の判断が出来ず、血のように真っ赤に染まった鎧の色や重圧的な雰囲気は、この町にとっても異様らしく、周囲を歩く人々の目は広場の中心に佇む存在に向けられていた。
男一人に女三人という刃達のグループも中々に人目を引くものだが、アレの方が強過ぎる。明らかにクライスの用意してくれた案内役だと思うのだが、声を掛ける勇気が出ない。
「………あの人だよね?ちょっと怖そうな人だけど、話しかけてみる?」
「待て待て、あれ普通に考えて堅気じゃねぇだろ。絶対あっち側の人間だって、あの剣とか間違いなく返り血で濡れてるじゃねぇか?」
「で、でも、話しかけないとあのままずっと待ってそうですよ、あの人…………」
流石のソーナも不安そうな様子の中、刃はラナールの意見もあり、話し掛けに行くことにした。喧騒に満ちた人混みもその存在から距離を取ったように離れており、人混みから抜けて存在に接触しようとする刃に気付いた面々が息を殺して見守っていた。
そんな最中、刃が重い口を開いて語りかけた。
「なぁ、アンタ………クライスさんの言ってた案内役か?」
『────貴君達か、待っていた』
ずっと沈黙していた不動の存在はやっと口を開いた。声からして男性だろう。くぐもった声は丁寧な口調で、刃へと話を続ける。
『陛下から領内の案内を任されている「
「案内って、アンタずっと待ってたんだろ。準備とかしなくていいのか?」
『────不要だ。「鉄血紅衛」は命令の遂行を優先する』
「………一応、俺達も準備がまだでな。具体的には、昼をまだ食ってねぇんだ」
『……………』
困ったようにそう呟いた刃に、鉄血紅衛は深く沈黙した。自分の方は案内しか命じられていないが、皇帝から丁重に振る舞えとも言われている。ならばこそ、彼等の事情を優先するべきか。
そんな風に立ち尽くしていた彼の姿に、思うところがあったのであろう。刃は少し心配したように軽く切り出した。
「その、俺達今から昼にしようと思うんだが………アンタも一緒にどうだ?」
『………気遣い、感謝する。迷惑でなければ、頼む』
威圧的な見た目の『鉄血紅衛』と共に、ブルックの町の料理店で食事をする刃達。人の目が集中することが多かったが、彼の存在もあってかトラブル────そこいらの連中に絡まれることなく、無事に事を済ませられた。
それから、町から出発しライセン大峡谷へと向かう刃達。廃れた山脈を歩きながら、軽く談笑をしていた。
「へぇー!ノースさんってクライスさんの仲間なのね!」
『仲間というより、部下だ。私は、彼の理想に従うことを決意した。だからこそ、血の鎧を纏った。あの御方の理想の一助となるべく』
人一倍他人と積極的に交流できるソーナが主体となったことで、『鉄血紅衛』の男────ノースともある程度打ち解けた。彼女がいなければ、ただ黙ったまま物静かな空気が続いていたことだろう。能天気に見えて快活な少女に感謝した刃はふと、何かに気付いたように目を細めた。
「…………この音は」
「主様、何事………?」
「────誰か襲われてるな。助けに行く!」
そう言うや否や、刃は凄まじい速度で飛び出していく。打ち出されるように飛び出していった彼の姿は既に見えなくなり、シア達は慌て追い掛けることにした。
「もう!ジンったら、先走って行くなんて!追い付けないじゃない!」
「…………仕方ない。主様は優しい人だから、誰かを見捨てたり出来ない」
「そ、そうですよね。刃さんだけで済むなら、それでいいんですけれど」
呆れながらも、後を追い始める少女たち。そんな彼女達の後を追う『鉄血紅衛』のノース。彼はふと、周囲を見渡しながら怪訝そうに呟いた。
『────この時期に襲撃とは。まさか、ダブリスの眷属が大峡谷まで来ているのか?』
◇◆◇
同時刻。
永らく過ごしたオルクス大迷宮から脱出したハジメとユエ、グアンはライセン大峡谷へと行き着いた。魔力の拡散が激しいこの地に迷宮があると噂されていたが、居場所も分からない為探索を続けることにした。
「こんな乗り物まで作れちゃうハジメ………すごい」
「ほとんど生成魔法と師匠のお陰だな。色々と精密なモノを錬成させられたが、こうも役に立つとは…………」
『────♪』
創り出したバイクにユエを乗せ、増設した収納ケースに全身を収めた守護聖霊のグアンがチョコンと頭を出しながら、楽しそうに首を揺らしている。そうして一気に大峡谷を抜けようとしたその時、ピクッ! とグアンが強い反応を示した。その聖霊の変化に気付いたハジメが横に視線を向け────すぐに当惑する。
「………何だアレ?」
「やっと見つけましたぁ〜〜っ!!助けてくださぁい!!」
『──────!!』
大泣きしながら全力疾走するというある意味忙しいウサミミ少女が此方へと呼び掛けていた。その背後には、見たこともない魔物が迫っていた。
全体的な姿は甲虫のような、生物的な造形をしながらも、全身を構成する物質は金属とは思えない結晶の身体。頭部の代わりに流体的な球体型のコアが怪しい輝きを発しながら蠢いている。それは言語とは思えぬ不協和音を奏でながら、ウサミミの少女を必死に追い回していた。その様子は魔物の殺意とは違う、無機質な殺意である。
「あの魔物、見たことない………禍々しい魔力」
「決まりだな。あんな厄ネタ、関わるだけ無駄だ。ほっとくぞ」
『────?────!?』
未知の魔物に警戒を深めるユエの言葉に、ハジメはアッサリと意識を逸らしてバイクを走らせ始める。乗り気で飛び出そうとしていたグアンはそんなハジメの様子に愕然としていたようだ。やはり助けに行くと思い込んでいたらしい。
「お願いですぅ〜!見捨てないでくだざぁ〜いっ!!」
『────!────!!』
「助けたいって言ってるけど、どうする?ハジメの好きにして」
「……………まぁ、あの変な奴に聞きたいこともあるしな」
深い溜息を漏らしたハジメは即座に引き抜いた改良リボルバー『ドンナー』の銃撃を叩き込んだ。電撃のように撃ち出された徹甲弾はウサミミ少女を襲わんとしていた魔物に直撃した。
『────!!』
「………ハジメ」
「分かってる。あの野郎、一瞬で反応しやがった」
近辺や迷宮内の魔物すら瞬殺できる火力が直撃したにも関わらず、魔物にダメージは無かった。それどころか弱点と思われた球体コアを狙ったはずの弾丸は、即座に覆われた外殻によって受け止められる。
その攻撃に魔物の不協和音が変化する。明確な敵への殺意へと。何らかの暗号のような鳴き声を放った魔物は標的を近くにいたウサミミ少女からハジメへと切り替えた。
『────!─────!』
「っ!」
「ハジメ!大丈夫!?」
「あぁ………、クソ!耳障りなんだよ、その声は!!」
不協和音と共に、魔物の姿が崩れ始める。甲虫のように思えたソレは巨大な塊────砲台のようなものへと変化する。一瞬ハジメは自分の武器であるドンナーを真似たのかと思ったが、アレは別物だと察する。
「撃ち合う気か?上等だ────コイツでぶち抜いてやる」
砲撃を始めようとする魔物に、ハジメは取り出した大型の銃身を取り出す。奈落の迷宮の主と戦った時に使用した切り札、対物ライフル『シュラーゲン』を。
片腕で持ち上げて放たれた砲撃は、凄まじい破壊音と共に魔物のコアを撃ち抜いた。女性のような悲鳴を響かせた魔物は結晶のような外殻を膨張させ、すぐにドロのように溶けて消える。
「大したことない。けど、厄介な敵だった」
「……………」
「ハジメ?」
「いや、何ともない。さっきの鳴き声が耳障りだっただけさ」
軽く笑ったハジメだが、彼は聞こえていた。あの不協和音のような鳴き声。あの正体不明の魔物が死ぬ直前に発した声の意味が、何故だか理解できていたのだ。
────情報、伝達。■■■■への共有、完了、と。
難しく考えた所で無駄だな、とハジメは結論づけた。分からないことに時間を割くわけにもいかない。深く一息を吐き出したハジメは色々と考え事をしながら、ウサミミ少女の元へと歩み寄るのだった。
◇◆◇
────結論から言って、ウサミミ少女 シア・ハウリアは面倒くさい馬鹿だ、とハジメは思った。能天気に助けを求める彼女を図々しいと思ったハジメは軽くしばき倒してから、詳しい話を聞き出した。
曰く、彼女は温厚なハウリア族の族長の娘であったのだが、魔力を持たぬ亜人族の中で例外の魔力持ち────未来視と言う異能を得たという。フェアベルゲンで他の亜人族がこの事を知れば、彼女は処刑されるということで、一族は樹海から逃れ北の山脈へと逃げ出した。
そんな彼等を、帝国兵が襲ったのだ。恐らくは現帝国の体制に反発する反乱因子であり、彼女達を奴隷にする為に狙ってきたのだろう。少数の仲間が捕らえられた直後に────あの正体不明の魔物が群れを為して強襲してきたのだ。
突然の事に戸惑うハウリア族だったが、未来を視た彼女は魔物の狙いがどういう訳か自分であることを察し、それを利用して囮になってきたらしい。何とかここまで逃げてきた所で、ある可能性の未来を視たことでハジメ達に助けを求めてきた、というのが事の経緯らしい。
「────てことは、アレか?あの魔物はお前だけを狙ってたってわけか。理由は、未来視だろうな」
「恐らくは…………ですけど、どうして能力を知ってるのかは私にもサッパリです」
「だろうな。ったく、本当に面倒なもんだ」
シアの必死の頼みを聞き入れることにしたハジメは、彼女の願いであったハウリア族の救出の為に動いていた。とは言ってもまだ関係の浅い彼女の扱いは粗雑なものには変わりないが。
ふと前を向いていたハジメの目が、あるものを捉える。目を細めた彼は後ろから抱き着いていたシアに、問い掛けた。
「…………あの魔物の狙いって、確かお前じゃなかったか?」
「え?そのハズですけど………」
「俺の見間違いか?さっきの奴と似た奴等がハウリア族を襲ってるぞ?」
「────っ!?」
視線の先で、悲鳴が響き渡っていた。
目を凝らせば、岩石に覆われた一帯を逃げ惑うウサミミの人々、ハウリア族の姿がある。そんな彼等を襲うのは複数体の魔物────先程戦った魔物と、同じ分類の存在だと見て分かった。
ソレらはハウリア族を殺そうとはせず、まるで一箇所に追い立てるように動き回っていた。それでも逃げ切れなかったハウリア族を掴み、拘束したその魔物たちはやはり殺そうとせず、興味深そうにしていた。
その様子を怪訝そうに睨んでいたハジメは咄嗟にドンナーを引き抜いて構える。躊躇なく引き金を引こうとした彼は、目を疑った。
「……………っ!?」
「は、ハジメさん!何を────!?」
気付いたシアが、息を呑む。
ハウリア族を襲っていたはずの魔物達が、一斉にハジメの方を凝視していた。最初から待っていたと言わんばかりに振り向いた魔物達は、怯え身を庇い合うハウリア族を見せつけるように────盾にするように動いている。
「肉盾のつもりか。魔物のクセに、ふざけた真似をしてくれるじゃねぇか………!」
『通達、武装解除────判断次第、手段不問』
ふと、一個体の魔物がユラリと立ち上がる。恐らく、アレが頭脳、こんな事を実行させた司令塔なのだろう。今度は不協和音ながらも、言語として成り立ってはいた。その意味を理解したハジメは鼻で笑って返した。
「ドンナーを捨てろってか?舐めたもんだ、誰が武器を捨てるっていうんだ?」
『追求、武装解除────拒否、追問』
「ハッ、なら殺すか?やってみろよ。俺がソイツらの為に無茶するとでも思ってんのか?そこまでしてやる道理はねぇよ」
『確認────手段、実行』
その魔物が腕を上げた途端、他の魔物が抱き合うハウリアへと腕を叩きつける。一方的な暴行が、彼等を襲い始めた。子供達を身を挺して庇う大人達は、ただ魔物達からの暴行を受けるしかなかった。
「みんな!やめてください!」
『再度、確認────武装解除、拒否、再議』
「────シアっ、私達はいい!お前だけでも、逃げ────」
『発言、許可、未確認────武装解除、未確認。手段、変更』
シアの父と思われる族長が、暴行の中でそう叫ぶが、司令塔の魔物がそれを黙らせる。未だ武装解除をしないハジメに無機質に沈黙した魔物は手段を選ばず、無慈悲な選択を開始した。
『────個体、選別。回収、回収』
「なっ!?ま、待ってくれ!子どもだけは、子供たちには手を出さないでくれ!私をどうしたってくれても構わない!だから!頼む!!」
『────不可。要求、不可』
他の魔物達が、ハウリア族の大人を引き剥がし始める。彼等が身を挺して守っていた幼い子供達を引っ張り出そうとしているのだ。何度も引き剥がされながらも、庇おうとする大人達を払い除け、泣き叫ぶ子供を引きずり出そうとする魔物の群れに、族長は涙ながらに頼み込むが、魔物は無機質に却下する。
────シアが飛び出そうとした直前に、その魔物の足元にドンナーが突き刺さる。渾身の力で投擲したハジメは腹の底から不機嫌だと言わんばかりに、吐き捨てた。
「………従ってやったぞ。ソイツらに手出しはするんじゃねぇ」
『要求、承認────行動次第、手段、不選』
「何もしねぇ…………その代わりに、覚悟しとけよ。テメェらはブチ殺す」
魔物とは思えない悪辣な手段を用いた存在に、ハジメは純粋な殺意を向けて告げた。魔物はそんな殺意を歯牙にもかけず、ハジメが捨てたドンナーを回収する。両手を挙げるハジメに対し、次の要求をし始める。
『────通達、当該個体、引き渡し────要求』
「シアを渡せ、出なければ全員殺す…………か」
ふと、ハジメの視線が一瞬揺れた。何かに気付いた様子の彼は即座に誰にも悟らないように表情を険しくしていたが、すぐに凶悪な笑みを浮かべ、魔物たちへと告げた。
「断る────テメェらがくたばれ」
次の瞬間、空から降り注いだ剣の雨が魔物達を襲った。突然の攻撃に対応しきれなかった魔物達が無数の剣を突き立てられ、当惑する。ハジメは先程気付いたのだ、此方に向かってくる存在────恐らく無関係のハウリア族を助けに来た、お人好しのことに。
(離れた場所から走って助けに来るなんて、随分とお人好し様だな。ま、適当に押し付けてやりゃあそれでいいか)
適当に押し付けて面倒事から逃げるか、と考えていたハジメ。興味を失ったように目を離した彼は、上空から降りてきた青年の存在に気付かない。だからこそ、彼が自分のよく知る相手だと、気付くのが遅れた。
────その代わり、相手の方が気付くのが早かった。
「────!ハジメか!?」
「……………刃?」
思わず、唖然としたハジメ。空から降りてきた男、かつての親友 黒鉄刃が、自分の名を呼んだのだ。見間違えるはずもない、真剣な顔で此方に叫ぶ青年の姿に、ハジメの心は揺れ動いていた。
自分の姿は、あの時のものとはかけ離れている。見ただけで分かるはずがない。そう思った彼は一度でも疑った自分も、改めて恥じた。疑いもせずに真正面から見据えてくる、あの眼は本心からのものであると。
「────刃!力を貸してくれ!」
「………っ!応ッ!!」
言うや否や、刃は迷うことなく応じてみせた。空中から創り出した魔剣を再び雨のように降り注がせ、一掃する。いや、ただがむしゃらに撃っているようで、その狙いは正確であった。
『────!────!?』
『………判断。攻撃、威嚇………本命、人質、防衛────』
「そこのハウリア族は人質って訳だ。魔物のクセにコソコソと、ゴミみてぇな事しか出来ねぇクズが────殺されても文句は言えねぇよな?」
雨のように降り注いだ魔剣は壁のように積み重なり、ハウリア族を守る防壁と化していた。その壁を崩そうとした魔物を剣で串刺しにし、刃は軽蔑と殺意を剥き出しにして吐き捨てる。
彼はそのまま取び出し、他の魔物を斬り捨てていく。司令塔の魔物はその事態を不味いと判断したのか、足元で踏み付けていたハウリア族長を人質に取ろうとして────その場から消えていることに気付く。
『────確認!人質、奪還………武装、奪還、確認!?』
「ハジメさんっ!取り返して来ました!やっちゃってください!」
「おう、よくやった────さて、散々舐めてくれたな。クソ魔物が」
ふと見れば、全速力で父親を担いで走ってきたシアが崩れ落ちながらも、ハジメにあるものを手渡していた。それは、先程ハジメが手放したはずのドンナー。改めて武器を取り戻したハジメは殺意に満ちた狂笑を刻んだまま、ドンナーの弾丸を叩き込んだ。
本来であれば装甲を撃ち抜くはずの一撃に、魔物は回避行動を取った。見て避けれるようなものではないはずだが、まるで最初から知っていたかのような行動に、ハジメは今度こそ怪訝そうに顔をしかめた。
(あの野郎、ドンナーに最初から気付いていたな…………まさか、さっき殺した奴が原因か?死んだ直後に同族に情報だけでも送ったってか。いよいよただの魔物じゃねぇなコイツは)
「だが、そんなもん。また『シュラーゲン』で────!?」
電磁対物ライフルを呼び出し身構えたハジメは、改めて目を見張った。目の前に広がる光景、魔物が行った異常な行動に。
『接収、接収────対象、撃破、不可。強化、必要────接収する』
「………ハジメ」
「あぁ………野郎、雑魚を取り込みやがった」
生き残った魔物を取り込んだソレは、一度大きさを増していく。人一倍大きさを増したその巨大な魔物は同じように膨大したコアを妖しく輝かせながら、言葉を発した。今度は無機質なものながらも、流暢な言葉を。
『────標的、対象を補足。本来の使命を執行、「特異点」の回収及び「危険因子」の排除を実行』
「あぁ?排除するだと…………やってみろよ!」
『攻撃を確認。電磁攻撃、対象────電磁防壁、展開』
コア目掛けて『シュラーゲン』の狙撃を撃ち込むが、魔物は魔力を込めると同時に全身に半透明な障壁を展開する。見たところ、電磁パルスのバリアだろう。電磁砲の一撃はそのバリアによって完全に防がれ、障壁が砕け散るとともに消え去った。
厄介なバリアだな、と舌打ちを零す。シュラーゲンの一撃を防げるほどのバリアを、一瞬で展開できるあの能力は厄介だ。どう突破するか考えた所で────残った魔物を殲滅し終えた刃が声を上げた。
「ハジメ!」
「なんだ!?」
「三秒!動きを止めろ!────『エヴァ弐号機』だ!」
「────!分かった!頼まれてやるよ!」
二人だけが分かる暗号。それに僅かに嬉しそうに口元を緩めたハジメが乗り気なまま、ドンナーと同じリボルバー『シュラーク』で弾幕を形成する。圧倒的なバリアで身を守った魔物の意識が此方に集中した隙に、彼は地面に触れ────自身の力を発動する。
「────“錬成”」
『ッ!?拘束を、確認!解除、実行中………!』
「今だ!刃!やれ!」
「────応ッ」
その背後で、刃が走り出していた。その手に握った魔剣、最硬度の強度とある特性を有した特殊な剣を片手に地面を踏み抜いた刃は勢いよく、手にした魔剣を振り上げる。
「────『
そして、勢いに任せ────魔剣を投擲する。投槍のように打ち出されたソレは、一瞬にして超加速して魔物へと迫る。『投げられた直後に速度を上げて飛んでいく』という、投擲武器としての機能に特化させた魔剣は一瞬にして銃弾の速度を超え、魔物が展開した電磁バリアへと突き刺さった。
────しかし、突き刺さっただけだった。魔剣が串刺しとなった電磁バリアには大きな亀裂が生じており、今にも割れそうであるがギリギリを耐えきっていたようだ。ギリギリの一撃に安堵した魔物は、やはり対応に遅れていた。
「勝ち誇ってんじゃねぇよ、クソ魔物」
笑みを浮かべたハジメが、『シュラーゲン』の一射を放つ。撃ち出された電磁弾が飛来していくが、魔物はバリアを狙うと思ったのだろう。そんなものに興味はないことに、改めて理解したのは、直後の事だった。
────電磁弾が命中したのは、魔剣の方であった。そこで大方察せられるだろう。停止した物体に強い力が生じれば、どうなるか。────シュラーゲンの狙撃により深く押し込まれた魔剣が、加速する。電磁バリアを完全に貫通したその魔剣は、そのまま魔物のコアへと直撃した。
『────────ッッ!!!!』
言葉にならない、悲鳴が響き渡る。コアに魔剣を突き立てられた魔物は全身の外殻に亀裂を走らせながら、不気味な不協和音を鳴き声のように響かせていた。電磁バリアを展開できず、怒りのままにハジメを睨む。そんな魔物を恐れもせず、ハジメはしたり顔で親指を上げる。
「俺に構ってる暇かよ────上見とけ、間抜け」
『────?』
言葉の意味を理解できず、行動に移す魔物。顔を上げ、真上を見た瞬間、ようやくその意味と共に自分が手遅れであることを確信した。
「──────おんどりゃあァッ!!!」
随伴させた魔剣による超加速で迫る刃。空中で身体を捻った彼は片脚を突き出し、特撮ヒーローの必殺技のような蹴りを放つ。上空に迫る存在に気付いた魔物が対処するよりも早く、刃の脚が魔物のコアに突き刺さった魔剣に接触────刃の蹴りによって押し込まれた魔剣が更に貫通し、コアを完全に撃ち抜く。
『────────────ッ!!!!???!』
複数の悲鳴が入り混じったような不協和音の鳴き声。ソレとともにコアを砕かれた魔物の身体が、液状化して溶けていく。その内消えるのは時間の問題だと思いながらも、ある事に気付いたハジメは無造作にドンナーの銃弾を一発打ち込む。
ドロのように溶け始める肉体、そこに隠れて姿を消そうとした小さなコアに弾丸が命中する。着弾直後に破裂したソレは、拘束具を展開し、小さなコアを捕縛した。
『────っ!?』
「逃がすかよ。テメェには聞きてぇことがあるんでな………その前に、話す相手がいるから待ってろ」
身動きできないコアを軽く蹴り飛ばしたハジメは、ドンナーを下ろして向き直る。そこに立っている、親友へと向かい合った。空気を読んだのか大人しく見守っているユエやグアンを尻目に、ハジメは刃と見合う。
「………」
「そんなに意外か?俺が生きてたことは」
「いや、エリュシオン陛下が生きてるって言ってたしな。死んではないと思っていたが………少し、イメチェンしたんだな」
「これが少しに見えるか?だいぶ変わったと思うんだが………それより、さっきの驚いたぜ。エヴァ弐号機って、完全に第七使徒を倒した時の奴じゃねぇか」
「そりゃあな。あんな球体のコア見せられたら、やってみてぇと思うのも無理はねぇだろ?」
「それは同感だな」
軽く世間話をする二人。しかし刃の態度はどこかぎこちない様子であった。ジロジロと、彼の目がハジメの義手や眼帯に向けられている。
「………右目と左腕、ねぇんだな」
「…………まぁ、迷宮では色々あったしな。命あっての物種だ、思うところはねぇよ」
「────俺はよ、お前が生きてて良かったと思ってるぜ」
「そうか?随分と物好きだな、まぁお前らしいがな………?刃?」
そこでハジメは親友の異変に気付いた。何処か苛立たしそうに顔を隠す親友の姿に、ハジメは最初冷やすようにからかうが、親友の状態に気付き、言葉を失った。
「なんだよ、泣いてんのか?」
「っ!泣いて、ねぇ!………アレだ!ただっ、くそ…………止まらんねぇ!ちくしょうっ」
「…………安心しろよ。親友相手だろ、俺は」
「────っ!」
顔を隠そうとしていた刃の顔は、グシャグシャに歪んでいた。両目から滂沱の如く流れる涙に顔を濡らした刃はハジメの両肩を掴み、溜め込んでいた感情の全てをぶちまけた。
「ハジメぇ………!俺、お前が奈落に落ちたって聞いた時!頭が真っ白になったんだ!お前が死ぬかもしれないなんて、考えたくもなかった!こんな俺を、俺の親友でいてくれたお前を失うなんて、考えたくもなかった!!」
「…………」
「───分かってる!俺は、お前が死んでいるのかもってずっと思ってんだ。信じたくはなかったけど、そう思う自分がいつも消えなかった!今すぐにでも助けに行きたかった!けど、生きてるって信じて前に進むことしか俺には出来なかった!
だから………いぎででよ゛がっだぁっ!!!もう二度と、会えないかと…………っ!」
それが限界だったのか、刃はハジメを抱き締めて泣き出した。今の自分であれば、鬱陶しいと思うか突き飛ばすくらいしていたかもしれないと思っていたハジメだが、そんな感情は何一つ無かった。
奈落で善意なんてものは捨てたと思っていたが、未だ大切な部分は残っていたらしい。それは何の偶然でもなく、自分をこうも心配してくれる親友やクラスメイトがいるからだろう、と察する。心の中で感謝しながら、ハジメは親友からの抱擁を仕方なく受け入れるのだった。
「………俺こそ、お前が親友で良かったぜ、刃」
こうして、唐突な別れを迎えていた二人の親友はたった今再会を噛み締めた。姿は変わっても、その仲は変わることなく、彼等は自分自身の親友との友情を確かめていた。
◇◆◇
「…………で、泣き止んだか」
「………………済まねぇ。情ねぇ面見せたな、ハジメ」
「そうか?俺は覚えてないが、そんなもん見せたか?」
「………ありがとよ、親友」
「ていうか、良く俺の見分けがついたな?」
「親友を見間違えるほど、落ちぶれてはねぇ」
「普通だとしても見間違えるだろ…………ま、色々と話したいこともあるが、まず後回しにして」
くしゃくしゃに汚れた顔を拭いた刃とハジメは改めてもう一つの目的を再確認する。ズカズカと地面を踏み抜いたハジメはある程度集まったハウリア族を尻目に、地面に転がった球体を踏みつける。
「おい、クソ魔物。喋れるだろ、とっとと口開け」
『…………何が目的だ、「危険因子」』
「色々と聞きたいことがあるんでな。大人しく喋ってもらおうぞ」
『………答える事はない』
「なら口を割らせてやるだけだ。ぶっ殺されても良いんだったら、好きに言ってくれ。自分から喋れるようにも出来るが、お前次第だ」
『────何が聞きたい』
黙る事は得策ではないと悟ったのであろう。コアは何かを考えたことを悟らせぬように無機質な声で応え始めた。
「まず、お前等は何だ?ただの魔物じゃないだろ」
『────黙秘する。質問には答えたぞ、殺すか?』
「………二つ目の質問だ。何故シアを狙った?」
『…………特異な魔力を有する亜人族だ。狙うのは当然だろう』
二つ目の質問の答え、それは淡々としたものに見えたが、初めは既に見抜いていた。その魔物が真意を隠したことを、誤魔化すほどに重要な内容であったことを。
「違うな、だとしても納得できない」
『なんだと?』
「お前はアレだけの群れを率いてシアを狙っていた。だが、シア本人を追っていたのは一体。お前等はハウリア族を捕らえ、シアを従わせる人質にするつもりだった。最初からそうだとしたら、お前は最初からシアの存在を知っていて、襲ったことになる」
『……………』
「重ねて聞く。お前らは何だ?何処でこいつの事を知った?誤魔化さず、答えろ」
『────「ソロモン」、奴は全てを知っている。あまねく未来さえも、貴様が魔王になる者であるとも』
理解できない言葉に、ハジメは今度こそ怪訝そうに顔をしかめた。しかしコアはそこで止まらない。流暢な言葉を介し、ハジメ達に向けて語り始めた。
『我々が何か、知りたいか。我々が、何であるのか』
「………あ?」
『我々は、「破滅」であり「救済」である。我々は「群体」であり「一つ」である。我々は「災厄」であり「祝福」である。
我々の概念は「双対」、我々は相反する二つの概念を内包するモノ。この世界を滅ぼす厄災の一つ、それこそが我々である』
コアが帯びる魔力が膨れ上がる。何か企んでいるとドンナーを掴んだハジメだが、コアは気にしない。溢れんばかりの魔力を解き放ちながら、コアは声高らかに告げた。
『我々は滅びない。我々は救われない。ただ一つ、確実な事実────この世界は
そして知るがいい!我々の中核!我々の神の真名を!「双対の────』
声は最後まで続かなかった。
膨大な魔力を解放しようとしていたコアは真上から突き立てられた刃に砕かれていたのだ。その刃を、真紅の刀剣を振るった張本人────『鉄血紅衛』はハジメ達を見るや否や、深い溜息を漏らした。
『────危なかったな』
「あ?何だいきなり現れて────」
『アレは今、本体を呼ぼうとしていた。あのまま放置していれば、本体が降臨していた所だ。貴君とて、本望では無いだろう』
「本体?そもそも何の話だ。アレが何なのか知ってるんならさっさと教えろ」
『────「アンチノミー」、又の名を魔神の尖兵』
ソレの名であると、『鉄血紅衛』のノースは言う。魔神というワードに息を呑んだハジメと刃に分かるように、彼は端的に説明した。自分達が遭遇した魔物の、正体を。
『人類殲滅に消極的でありながらも、明確な人類の敵である魔神「ダブリス」。アレは奴の生み出した群体の一つ、言わば魔神が放った端末だ』
◇◆◇
「────派遣した『アンチノミー』が死んでしまったね」
「────特異点の回収はできなかった。やはり『ソロモン』の言う通りだった」
「なら、彼を始末するべきだろうか。世界の流れを見た彼に勝つことは不可能だ。最終的な協力関係は、敗北に繋がる」
「彼の事は後でいい。彼が魔神として羽化するのであれば、私達の悲願は叶う。重要なのは、私達の本懐を果たすこと」
「けど、一つだけ分かった」
「ええ、一つだけ理解した」
「『危険因子』────彼は器の適性を有している。新たなる『魔神』の素質を有している」
「だけど、可笑しい話。彼に兆候は無かった、『声』に抗ったというのであれば、正気であるのも頷ける。干渉するべきだろうか」
「────いや、静観に徹しよう。私達は時が来るまで待てばいい。その間に、私達はリソースで『アンチノミー』を増やし続ける」
「時が来れば、全てが終わる。僕達の手で、世界は一つの終末を辿る。相反する二つの矛盾により、世界は無へと還る」
「それこそが、使命」
「それこそが、必然」
「「───
ハジメと再会したことで感情爆発して大号泣した刃、まぁ心を許した親友が自分のいない場所で死んだって聞いてからだいぶメンタルに来てたからね。
ある意味ではハジメと刃って対照的な主人公なんですよね。
ハジメ<昔は温厚でマイペース、優しい性格をしていたけど命宮での苦難を経て、冷徹非情な性格になる。
刃<理不尽な暴力を嫌い、暴力という恐怖になることを選んでいたが根は底抜けの善良で、自分の安全よりも先に他人の心配が勝る。
まぁ、ハジメは原作と違って自分をここまで大切に思ってくれた親友と奈落で助けてくれた聖霊がいたのでそこまで荒んではいません。割と容赦ないところはあるけど、話は聞いてくれるくらいには優しいところは残ってます…………容赦ないけど。
そして、原作ではハウリア族を襲っていた魔物ですが、今作では魔神ダブリスの端末『アンチノミー』になりました。無機質で構成された生命体であり、『一つの群体』でもある厄介なやつです。頭脳タイプの個体が複数の兵隊を率いているという生体なので、中々に面倒な奴等。
『ダブリス』がシアを狙っていた彼女の力である『未来視』を狙ってとのことです。情報提供者は未来を知る者『ソロモン』………はて、何のことやら(知らないふり)
因みにソロモンは「失敗するから止めておけ」と事前に言っていた模様。誰に阻止されるかも、相手の正体にも気付いていたみたい……………一体何者なんだ(もういい)
そろそろ魔神ってなんだよって思われているかもしれませんが、解説したがってる人…………神様が今も待っているので、別の機会に。
次回も宜しくお願い致します!それでは!
清水の今後について
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生存その1(生き残るけど戦えない)
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生存その2(護衛組の一人として戦う)
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死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
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意識不明の重体として途中退場