ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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補足しておきますが、本作のハジメは原作よりも比較的に温厚で優しいです。原作よりも、比較的に←これら重要


フェアベルゲン

「紹介する、俺の仲間………まぁ物好きな奴等だ」

 

「シノ………よろしく、主様のご友人」

 

「ら、ラナールって言います!新米治癒騎士ですっ!」

 

「ソーナよ!スティシアの王女だけど、今はただのソーナってことだからよろしく!それと貴方、良いセンスしてるわね!素晴らしいと思うわ、その姿!」

 

「ホントに個性的な仲間だな………お褒め戴いて光栄だよ、お姫様…………ん?王女?」

 

 

改めて合流したソーナ達を親友に紹介する刃。中々イロモノ揃いだなと感心していたハジメは自分とセンスの合う少女が王女と言ったことに聞き間違いかと困惑する。改めて刃の仲間たちを見たハジメは、親友に一言。

 

 

「くノ一にヒーラー騎士に王女様…………属性多いな?っていうかホントにラノベみたいなハーレムしてんな」

 

「それは思った………だが親友、人のこと言えねぇだろ」

 

「………確かに、そりゃそうか」

 

 

そんな風に自然に語らう二人の距離感は意外と近しい。変貌はしても従来のオタク気質は消えていないハジメと、そんな彼に悪意もなく純粋に接してきた刃。二人の関係は親友以上に強い絆があり、簡単に壊れるようなものではない。それにしても他に話すことあるだろ、とは思うが。

 

刃から紹介された仲間に軽く挨拶を返したハジメは早速、親友と同じように自分の仲間の紹介をすることにした。

 

 

「こっちこそ、紹介するぜ。俺の大切な仲間、ユエとグアンだ」

 

「ん………よろしく」

 

『────♪』

 

 

一見興味なさげに見えるが、ハジメの親友ということもあり親しげなユエ。そしてキューッと鳴き声を響かせるヘビのような聖霊のグアン。意外と可愛らしい面子だが、ハジメから片や吸血鬼の真祖であること告げられたソーナやラナールが「吸血鬼!?」と愕然とすることになった。

 

 

「あ、あのぅ〜、私の紹介はないんですか………?」

 

「ん?ああ────案内役の残念ウサギ、シアだ。ちょっと樹海の迷宮まで道案内をさせることにしてる」

 

「は、ハジメさん!?どうして私だけそんなに雑なんですか!?ユエさんやグアンさんだけ懇切丁寧に時間を用意してるのに!そんな流し読みみたいな感じで紹介するなんて酷いですぅ!仮にも美少女なんですよ私!?」

 

「……………ハッ」

 

「鼻で笑われたぁ!?」

 

ただ一人だけ仲間扱いされてないことに抗議するシアだが、ハジメは何言ってんだかと鼻で笑う始末。露骨にショックを受けて崩れ落ちるウサミミ少女を軽くいなし、ハジメは適当に話を続ける。そんな親友の姿に刃は「変わったな………」と少し複雑そうであった。

 

 

◇◆◇

 

「────ハジメ殿とジン殿、で宜しいか?私はカム、シアの父で族長をしております。此度は娘と一族の窮地を救っていただき、なんとお礼を言えば…………」

 

 

改めて、ハウリア族の族長と思われる老齢の男性が礼儀正しく頭を下げる。物腰柔らかな態度や穏やかそうな顔をしても、温厚なハウリア族の代表者らしいものだ。少し心配だな、と刃は気になったが、今は黙っておく。

 

 

「礼は受け取っておく。だが樹海の案内と引き換えってことは忘れるなよ」

 

「気にすんな。俺は気に入らなかったから助けに入っただけさ。アンタらに感謝されるには、遅すぎたくらいだ」

 

 

軽く謝礼だけでも受け取りながらも冷徹に振る舞うハジメに、粗暴ながらも根の優しさを隠しきれない刃。カムはそんな二人に何を思うことなく、穏やかに接する。用件があるハジメは当然として、恩人でもある刃にも彼等は適切な対応をしようとしていた。

 

 

「勿論ですとも────ハジメ殿は樹海までの案内ということですが、ジン殿は何か必要なことがありますでしょうか。私達でお力になれることならば、是非」

 

「…………フェアベルゲンに行きたい。そこにいる旧神を探しているんだ、エリュシオン王からの頼みで」

 

「エリュシオン王………!?なんと、あの御方からの!であれば、これも何かの縁。我が一族も是非尽力させていただきたい」

 

 

クライスの話通り、エリュシオンの存在はやはり重要だったらしい。しかし予想していたよりも反応は大きく、最初から無条件の信頼を寄せていたカム達の信用が確実なものになった気がした。

 

 

「エリュシオンだと?…………お前等、あの王様と関係があるのか?」

 

「我が一族は、エリュシオン陛下と交流がありました。私の娘、シアの姉 メアは陛下と共に戦っておりましたので………もしや、ハジメ殿もエリュシオン陛下とお知り合いなのでしょうか?」

 

「まぁな…………それで、フェアベルゲンの案内は頼めるか?」

 

「…………申し訳ないが、我々は娘を庇った為本国へ入れるかは定かではありません。長老達、アルフレリック殿であれば聞き入れてくれると思いますが」

 

「それって、アンタらが迷惑じゃねぇのか?難しいなら遠慮しなくていいんだぜ」

 

 

そう不安そうに問いかける刃だが、カム達はそんなことはないと謙遜していた。杞憂だといいが、と刃は何処か腑に落ちない様子で話を聞き入れる。

 

因みに、ハジメはシアに詰め寄っていた。曰く、エリュシオンと関わりのあったことを知らなかったハジメが色々と聞き出すつもりらしい。あまり彼女をいじめないように止めるか、と刃が動いた所で、突如声が響き渡った。

 

 

『────遅くなった』

 

 

訳あってこの場を離れていた『鉄血紅衛(クリムゾン・クリーフ)』。真紅の鎧が真新しい赤に染め上がっていることに気付いたハジメは何も感じていないかのように、呟く。

 

 

「遅かったな、もう済んだか?」

 

『此方の邪魔者は排除した。大峡谷から樹海への道は、問題なく通れるだろう。私は後始末をしておく、貴君らは先に行くといい』

 

彼が何をしていたか、と言われれば『掃除』ということになる。大峡谷の付近には帝国の離反兵が居座っており、ハウリア族の残りを捕らえようと待ち構えていたのだ。本来ならばソレを排除して先を進もうとしたハジメだったが、『鉄血紅衛(クリムゾン・クリーフ)』のノースが処理をすると名乗り出たのだ。

 

仮にも自国の膿、外部の人間に手間を掛けさせたくないとのことだった。それなら好きにやればいいと任せることにしたハジメだったが、案外早く終わったことに気分を害さなくて済んだ。

 

 

「じゃあな、ノースさんよ」

 

「ばいばーい!ノースさーん!」

 

『お気を付けて、お客人一同』

 

 

血に塗れたノースに軽く挨拶をする刃とソーナ。寡黙な皇帝近衛は沈黙しているが、腕を振って一礼をする。見掛けにもよらず良い奴だな、と刃が呟くとハジメは「お前が言えた口か?」と呆れたように言うのだった。正直、お互い様である。

 

 

◇◆◇

 

 

ハウリア族の道案内を経て、樹海へと辿り着いたハジメと刃達。樹海自体が迷宮だと思われていたが、色々な疑念からハジメは迷宮は樹海の奥にある重要なものだと判断した。カムの説明から可能性があるのは樹海の最深部にある大樹ウーア・アルトと、神樹アトラスであるらしい。

 

ウーア・アルトは立ち入り禁止の聖域であり、迷宮の可能性が高いのはそちらだと思われる。アトラスの方は違うのかと思ったハジメだが、カムの説明から興味深い話が聞けた。

 

 

「神樹アトラスは、我々亜人族を庇護していただいた大神アストラトス様の成り代わりとされています。フェアベルゲンはアストラトス様の庇護下、精霊様の元にあるようなものです」

 

「………神?この樹海には神様がいるのか?エヒトみたいな邪神、じゃなさそうだな」

 

「はい、アストラトス様は温厚な大地の神でありました。エヒト神に迫害された当時の亜人族を保護し、彼等を守るためにこの樹海を創り出したと言われており、我々亜人族は大神アストラトス様を心の底から信じているのです」

 

 

カムの説明を受け、随分と優しい神様だな、とハジメはこの世界の神への評価を改めた。

 

彼が知る神は基本的にろくでもない奴ばかりだ。勝手に世界をかき乱した挙げ句、現れた魔神達に半殺しにされ、自分たちを呼び出してくれたクソ野郎(エヒト神)。そして暫定神の上から目線でウザそうなあの男。基本的にロクな神と出会えたことがない。

 

神話の中でもろくでもない奴が多いギリシャ神話の如く、いい神様が少ないのか、と思うのは無理もなかった。

 

 

「それより、精霊って言ったな。そんな奴がいるのか?」

 

「えぇ、アストラトス様は神樹になりましたが、その魂は複数に分かれ、今は精霊としてフェアベルゲンを見守ってくださっていますな。私は少し前には、あの方が頭に乗られたことがあるので良く覚えていますよ」

 

「…………精霊、なんだよな?」

 

見合ったハジメと刃が、疑問を胸に問いかける。二人としては精霊だからファンタジーマシマシな美人と思っていたが、まさかグアンと同様に可愛い系のゆるキャラなのか、と。 

 

そんな風に気の抜けた会話をしていた二人は、すぐに気付いた。樹海の中を歩く自分達に迫る、気配の存在に。

 

 

────木々をかき分け、複数の気配が現れる。ソレが放つのは敵意。明確な意思を持つ存在はその姿を顕に、口を開く。

 

 

 

「────動くな!何故人間がここにいる!?」

 

 

武装した亜人。見た限り、虎の亜人であろう彼等はハジメや刃に敵意を剥き出しにしながら、武器を身構えていた。鋭い歯を尖らせた彼らはその気になれば今にでも襲いかからんという気迫を放っている。

 

 

「白い髪の兎人族、だと?そうか、貴様ら………報告のあったハウリア族か────亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは!アルフレリックや他の長老が庇うから我慢していたが、これは間違いなく反逆罪だ!弁明など最早聞く必要もない!全員この場で処刑するまで!総員ッ────!?」

 

 

無音であった。飛び掛かろうとした虎の亜人達が静止したのは、目の前に浮遊する剣の存在である。牙を剥いて殺しにかかった彼等を囲むように、無数の剣が空中に鎮座していた。何時でも攻撃を始められると、言わんばかりに。

 

 

「………忌み子に処刑、か。亜人族でもこんな事すんのかね、くっだらねェ」

 

 

その現象を引き起こした張本人、刃が苛立たしそうに吐き捨てた。ドンナーでの威嚇をしようとしたハジメを片手で制していた彼は、ひとまず剣先を下ろす。だが剣の矛先を外しただけで、警戒を解いたわけではない。刃は元の世界で良く振る舞っていた暴君としての顔で、彼等と向き合う。

 

 

「悪いが謝りはしねぇぞ。説明も聞かず手を出そうとしたのはテメェらだ。自己完結で話を進めようとしやがって。テメェらに危害を加える気はねぇよ」

 

「………ならば、何の用だ。裏切り者のハウリア族と手を組み、我等を襲いに来たのではないのか」

 

「────する訳ねぇだろ、テメェらとは違う」

 

 

明確な敵意を前に、隊長格の亜人は押し黙った。少なくとも話し合える状況であることと、自分達よりも圧倒的に強い相手であることを悟った亜人の男は静かに問い掛けた。何が目的だと。

 

それに答えたのはハジメであった。

 

 

「七大迷宮の攻略、樹海の奥にある大樹が入り口かもしれない」

 

 

そう言い切ったハジメに、男は当惑しながら問い返す。この樹海こそが迷宮である、と。しかしハジメは自身の結論からその考えを否定、亜人族が住めるこの環境を迷宮と呼ぶには簡単すぎると。その話を理解できたのか分からないが、少なくとも外敵ではないと察したのだろう。

 

 

「分かった、大樹に行くのなら止めはしない────だがまずは本国の判断に従ってもらいたい」

 

「そのつもりだ。アンタ達の国を無闇に害する気はないしな。もっとも、お前等が何かしなければの話だが」

 

「………その男も、迷宮が目的か?」

 

 

そう言い、虎人の男が問いかけてくる。刃はその疑問を否定しながら、自分の目的を明かした。

 

 

「いや、俺は別件だ。フェアベルゲンの長老と、大神と面会したい」

 

「っ!?何を────」

 

「俺はエリュシオン陛下の頼みでこの地に来た。永らく果たされていなかった約束、ソレを果たしに来たと言えば伝わるはずだ」

 

「っ!エリュシオン王が………!?」

 

 

途端に、虎人達の様子が乱れ始める。明らかに愕然とした隊長格の男の周囲で、他の虎人たちも驚きと不安そうな様子で呟き初めていた。

 

 

「確かエリュシオン王って確か、俺達亜人族と友和を結んでいる人間族の王では!?」

 

「確か我々を迫害しないどころか、協定を結んでいると言う話もある!」

 

「待て!ということは、あの事を知って遣わしてきたのか!?ハウリア族を追放扱いしたから、協定を………!?」

 

 

静まれ!!と隊長の男が狼狽する虎人達を黙らせた。静寂に包まれた部下たちを従えた男が、重苦しい様子で口を開く。

 

 

「────使いを出す。それまでどうか、この場で待っていただきたい」

 

 

◇◆◇

 

 

それから数分後、数人の護衛を率いたエルフの老人が現れた。エルフというのは初めて見るが、彼が長老と見るべきか。その老人は穏やかでありながらも厳格な物腰で名乗った。

 

 

「────私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。失礼だが、君達は?」

 

「ハジメ、南雲ハジメだ。そしてコイツは………」

 

「黒鉄刃と言う。敬語の方がいいか?長老さん」

 

「何、不要だ。エリュシオン王からの客人ならば遠慮の必要はない。────南雲ハジメと言ったな。『解放者』の名を何処で知った?」

 

 

誤魔化しは許さないと言わんばかりの気迫に、ハジメは素直に説明した。自分がオルクス大迷宮を攻略したこと、そこで解放者の事を教えられたことを。彼は迷宮踏破の報酬で手に入れたオスカー・オルクスの指輪を見たことで、信じることにしたらしい。

 

 

「それで、次はお前さんか────少し、聞かせて欲しい。お前さん、まさか『剣帝』か?」

 

「────あぁ、俺が『剣帝』だ」

 

「……………そうか、エリュシオン王の許可を受けたのも頷ける」

 

どうやら解放者よりも、剣帝である方が重要であったらしい。アルフレリックやエルフの護衛からの警戒心が和らいだのを見るに、相応の存在なのだろう『剣帝』とは。

 

 

「無礼を働いて済まない。歓迎したい所だが、まずはフェアベルゲンに来てもらいたい。解放者を継ぐ者と剣帝よ」

 

「待てよ、刃は兎も角俺は付き合うつもりはない。このまま大樹に行かせてもらうぞ」

 

「いや、それは無理だ」

 

「あ?」

 

 

案内しようとしたアルフレリックに断りを入れたハジメだが、彼に止められたことで怪訝そうに眉をひそめる。それから何も知らない様子にため息を吐いたアルフレリックが語り出した。

 

曰く、大樹の周囲は常に濃い霧が充満しており、亜人族でも方向を見失うらしい。それが解放者による仕込みかは定かでないが、重要なのは向かう方法。霧が濃くなる周期があるらしく、その期間に向かうのが最善────今日からでも最低十日は待たなければならない、と。

 

亜人族なら誰でも知ってるはずだが、そんなアルフレリックの呟きがトドメであった。重苦しい空気の中、ハジメは青筋を立てながら振り返る。ハウリア族一同は居心地の悪そうに顔を反らしていた。

 

 

「……………………おい」

 

「ちょっ!待てよハジメ!コイツらだってわざとじゃねぇんだろ!?忘れてただけなら仕方ないと俺は思うだ!あんまり、怒ってやらない方が良いんじゃねぇか!?」

 

 

拳を持ち上げる親友を必死に呼び止める刃。不良を気取ってた本人だが、根の善良さはどれだけ悪ぶっても誤魔化しきれなかった彼の本質が露わになっている。こういう時、彼は怒りはするがすぐに許す事が多い。彼との付き合いが長い幼馴染は「本人は気にするだけ無駄という感じに振る舞うが、優しすぎるというのもある」と明言するレベルだ。

 

 

「………確かに刃の言う通りだな」

 

「ハジメ………!」

 

「俺は今からお前等全員を殴る。これは俺なりの優しさだ。一発で済むことに感謝しろよ」

 

「ハジメぇえええええええっ!!?」

 

 

必死に止めたが、結局無理だった。刃の説得も虚しく、言い訳や責任のなすりつけ合いに走った博愛(笑)のハウリア族に等しく鉄拳が下されたのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

「────解放者の知った上で信じているアンタを含めた一部の長老。他の奴等は信じてもいなければ、言いつけを守る気がない訳か」

 

「そういうことになる。だが、納得はしてなくても口伝を破る者はいない。」

 

 

フェアベルゲンの拠点、恐らく長老のみが立ち入れる一室でハジメ達はアルフレリックの話に耳を傾けていた。内容は、解放者についての知っていること。アルフレリックは言伝であるため正確ではないが、確実なのは『迷宮の紋章を持つ者とは敵対しない』、『その者を気に入るなら望む場所へ案内せよ』ということである。

 

アルフレリックや大半の長老はそういう話を信じているが、ほとんどは眉唾だと無下にしている。口伝である為、信憑性が無いと若い世代が反発を示すことも多いのだとか。

 

 

「だが、そんな彼等でも『剣帝』を無下にはしない。彼等は常に迫害され、人間族や魔人族とも隔絶されてきた我々にとって伝説とされているが、『救世主』なのだから」

 

「………『解放者』って言葉よりも、『剣帝』への反応が強かったのもそれが理由か。因みに聞くが、ちゃんとした理由でもあるのか?」

 

「あるとも、亜人族はかつて『剣帝』により救われたのさ。人間族による迫害にさらされていた我々がこの地に逃げられたのも、『剣帝』が身を挺してくれたもある」

 

 

亜人族の歴史は常に差別と迫害の果てにある。

人間族からの排斥、虐殺に至るまでの迫害にさらされた亜人族は逃げ続けたが、そんな彼等を救ったのが大神アストラトス。己の力を使い、亜人族が安全に住むことができるこの樹海を作り出した。

 

しかし、その歴史において亜人族を救った存在こそが、初代『剣帝』である。彼等は樹海に逃げるはずだった亜人族達を救う力となった。そんな剣帝を、亜人族は決して忌避することはない。たとえ別人であったとしても、悪意や敵意を向けるものは、亜人族の中には居ない。神と同列視されるほど、亜人族にとって『剣帝』とは無視できないものなのだ。

 

 

「何より、『剣帝』になる者は皆善人と聞いている。他人の為に命をかけ、己がどう言われようとも厭わない────かつて我々を救った英雄なのだ。伝承を眉唾と吐き捨てる若者ですら、『剣帝』を軽く見たりはしないさ」

 

 

そこまで話していると外が騒がしくなっていることに気付く。ドタドタと駆け出してきた足音が響いたかと思えば、木製の扉が蹴破られる。

 

 

「アルフレリック!貴様、どういうつもりだ!?人間族に忌み子を入れるなど!」

 

「何かな、私は口伝に従ったまでだ。それに、彼こそは今代の『剣帝』、手厚く迎え入れるのがフェアベルゲンの長老としての責務と思ったが、違ったか?」

 

「っ!?『剣帝』だと…………だが、その男は違うはずだ!かつて我々を救った剣帝でもなければ、解放者ですらない。ただその名を知るだけの者に、従えというのか!?」

 

 

そうアルフレリックに詰め寄るのは熊の亜人だった。恐らくは熊人の長老であろうか。虎といい、凶暴な動物がモデルだと血気も盛んになるのか、とどうでもよさそうに眺めていたハジメ。ふとその瞳に何を感じたのか殺気立った熊人の男がハジメへと歩み寄った。

 

 

「巫山戯るな!ならばこの場で試してやろう!!」

 

「ッ!」

 

「────止めろジン!」

 

 

拳を振り上げて殴りかかる熊人に、ハジメも反撃しようと動く。直後、常に冷静を保っていたはずのアルフレリックが声を荒らげる。二人の動きが一瞬だけ硬直する。だが、アルフレリックが止めようとしたのは、明確な理由があったからだ。

 

 

────ぽと、とハジメとアルフレリックの前に何かが落ちてきた。ふわふわと浮かんでいたタンポポのような生物。愛くるしい丸い瞳を持ったその生物はハジメとレギンの前でふわりと地面に落ちた。

 

 

「…………は?なんだフワフワ」

 

「せっ、精霊様!?とんだご無礼を!!」

 

 

怪訝そうなハジメの前で、ジンが狼狽してその生物へと駆け寄る。何が何だか分からずにいるハジメはシア達に聞こうとして、同じように錯乱した一同に今度こそ戸惑った。

 

 

「おい、バカウサギ。あのちっこいのはなんだ?あの熊があそこまで低姿勢なるなんて、偉いのか?あんなナリで」

 

「は、ははは、ハジメさんっ!!その方はランテ様って言って────フェアベルゲンの大神アストラトス様から生まれた分け身なんですよ!!!」

 

「────これが!?」

 

 

ペタペタと、足のような触手を叩くその愛らしい存在が『精霊』────大神アストラトスの分体、つまり神性を持った存在らしい。信じられないと声を上げたハジメに、複数人の長老が殺気走った目を向けてくる。慌てて視線を逸らしたハジメを他所に、大柄なレギンは繊細なものを持ち上げるように両手で精霊を掬い上げて、部屋の外へと出る。

 

すると風に乗って、精霊はフワフワと飛んでいった。能天気に風に流されていったその精霊は風に乗って飛んでいるだけようだ。帰ってきたジンは先程までの敵意など無かったかのように、胸を撫で下ろした。

 

 

「あ、危なかった………ランテ様が何故ここに」

 

「お前が扉を蹴破ってきたからだろうジン!精霊様が何事かと見に来たのだ!」

 

「精霊様にお怪我が無かったから良かったものを!下手したら、一族にも責任が行く話だったんぞ!?反省せんか!!」

 

「むっ………すまん…………」

 

 

他の長老達も集まり、ジンと呼ばれる長老を一同で詰めていた。ハジメに攻撃をしたことよりも、精霊が巻き込まれかけたことが彼等の怒りを買っているらしい。大柄で血気盛んに見えた熊人が露骨に落ち込む様子を尻目に、ハジメはアルフレリックへと問いかけた。

 

 

「一応聞きたいんだけど、アレが精霊なのか?」

 

「アレ、と呼ぶのは止めてくれないだろうか。仮にも我々を受け入れてくださった大神様の一欠片。あの御方達を粗雑に扱ったという理由で、襲いかかる者もいるのでな」

 

「そうかい、気を付けるよ………で?どうなんだ?」

 

「あの御方は、精霊────ルティオンと呼ばれている。君達も察してはいるだろうが、我等亜人族をお救いになられた偉大なる自然の神 アストラトス様の魂が分かれたお姿だ」

 

「………精霊達って言ってたな。じゃあ他に何体もいるのか?」

 

「如何にも。大抵の方はあのように無邪気に過ごしておられるが、我々と交流して下さる御方も居られる」

 

『────呼ばれた気がした』

 

 

チョコン、と机の上にもう一体の精霊がいた。ぬいぐるみのようなサイズの小人。しかし人らしさは両手両足があるだけで、顔はなく頭部に葉っぱを重ねたソレは子供らしい声とは反して、大人びた態度でハジメや刃に頭を垂れる。

 

 

『改めて、ボクはルティオンのハーヴィスト。このフェアベルゲンを見守る精霊の一体、その代表を任されている』

 

「南雲ハジメだ………アンタがこの国のトップってことでいいか?」

 

『いや、ボクたちはトップじゃない。ボクたちルティオンはあくまでも彼等の味方であって、従わせてるわけじゃない。共生しているのであって、フェアベルゲンの運営自体は彼等に一任している』

 

「なら迷宮の攻略に関して許可は欲しい。頼めるか?」

 

『別にいいよ。でも、あくまでもボク達の総意であって、最終的に決めるのはアルフレリック達にさせて欲しい』

 

 

そう告げるハーヴィストに、話が通じると端的に思うハジメ。アルフレリック達長老たちへ話を促すと、彼等の答えは明確なものであった。

 

 

「私は賛成だ。元より君達を受け入れるつもりだったのでな」

 

「────我々は反対する。口伝では気に入らぬ相手を案内する必要ないという話だからな。『剣帝』ならば兎も角、その男はまだ信用ならん」

 

 

淡々と話を続けようとしたアルフレリックに反論を示したのは虎人の長老であるゼルであった。それに同調するのは先程ハジメに殴りかかろうとしたジンと、一部の長老。他の長老はアルフレリック側から中立に割れているらしい。

 

別にお前等に案内される必要はない、と吐き捨てるハジメ。元からハウリア族に案内を頼むつもりだったが、ゼルは険しい顔でハウリア族を睨みながら、告げた。

 

 

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人、フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同行していたか知らないが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物と同じ魔力を有する子とそれを匿った罪、ハウリア族はフェアベルゲンを、大神を危険に晒したも同然だ。全員処刑に処すべきだろうな」

 

「…………まだそのような事を言っているのか、ゼル。言ったはずだ、数少ない同族を処刑するなど我々のすることではない。それに、この地は大神の眠られる地。この地で同族を殺すことなど、あの御方への侮辱に等しい。処刑には反対だ」

 

「っ!掟は絶対、それは貴様もよく知っているだろう!その掟を無視するというのか!?」

 

「魔力を持つ者を忌み子として追放するか?それを決めたのはアストラトス様か?あの慈悲深き大神様が、そのような掟を取り決めたのか?否、その掟を決めた我々の祖先でたり────今を生きる私たちが守る必要はない」

 

「っ!あの忌み子がフェアベルゲンに危険をもたらしたのは事実だ!現に、奴一人を襲って魔物の群れが動いたという報告もある!それを受け入れるなど、我々は認められんぞ!」

 

 

冷静ながらも淡々と口を開くアルフレリックに、感情的に怒鳴るゼル。二人の長老の二極化した意見が衝突していた。ハジメは少し意外であった。ハウリア族が追放されたという話だったはずだが、どうやらまだ決まってはいないことだったらしい。

 

詳しく話を聞けば、シアの存在を匿ったハウリア族を追放しようと騒ぎ出す掟を信じる者達と同族を無下にすることに反感を覚えた者達が論争している間に、シアが処刑されることを恐れたハウリア族が彼女と共に外に逃げ出したらしい。

 

納得しながらも、面倒なことだとため息を吐いたハジメの目の前で、決心したように覚悟を決めた刃が彼等の論争に割り込んだ。

 

 

「────ハウリア族は、処刑されなきゃダメなのか?」

 

「…………刃殿」

 

「『剣帝』殿………悪いが、我々もこれだけ譲れない。魔力を持つ亜人は忌み子として追放するか処分する、それが我々亜人族に伝えられた話だ。これを放置しておくことは出来ない」

 

「…………『剣帝』は、アンタ達にとって英雄、救世主のような存在だ。その俺が頼んでも、無理か?」

 

「っ!…………無理だ。これは我々の問題。たとえ貴方であろうとも、認めることは出来ない」

 

「────いや、悪かった。言い方を変えさせてくれ」

 

 

強情に拒否するゼルの前で、刃は動く。

その光景に、長老達はおろかこの場の全員が絶句した。ハジメですら、目を疑った────いや、見覚えがあったからこそ、息を呑んだ。

 

 

刃は地面に手をつき、頭を下げていた。日本で言う土下座というそれを実行した刃は噛み締めるような言葉を絞り出した。

 

 

「お願いだ、俺の親友を認めてやってくれ────ハウリア族を、許してやって欲しい」

 

「け、剣帝殿!?お止めなされ!そんなことを………!」

 

「掟を破ったことはハウリア族の責任かもしれない。だが、アイツらはただ家族を守りたかっただけだ。どうしても納得できないなら、俺に免じて、借りを作ってもいい────頼む」

 

 

暴力や脅しで従わせられることは出来た。だが、それでは何の意味がない。そう感じたからこそ、刃は正面から頼み込むことを選んだ。学生の頃は暴力で悪党を黙らせていたが、今回は規律や掟が事情なのだ。だからこそ、自分なりの誠意で頼むしかないのだ。

 

自分勝手なのは分かっている。だが、認められない。ただ魔力を持って生まれただけで、家族を匿っただけで、処刑されるなど。それが罪だと言われることが、どうしても我慢ならなかった。

 

 

『…………どうしても、ダメなのか?』

 

 

刃の土下座を目の当たりにしたハーヴィストが、そう吐露した。フェアベルゲンには不干渉を貫いていたはずの、精霊すらも彼の決意と誠意を感じ取ったからこそ、そう呟いたのだろう。

 

彼等にとって神とも呼んでいい精霊と亜人族にも伝承として伝わる剣帝、その二つの存在が抗議を示したことは長老たちにとっても響いたのだろう。ほぼ全員、掟を遵守して処刑を口にしていたゼルやジンなどの過激派すら迷いを見せているようだった。

 

 

「…………もういいだろう、ゼル」

 

「アルフレリック………だが、しかし」

 

「思い出してみよ、偉大なる大神は我々亜人族を平等に受け入れたはずだ。あの優しき御方が、我々を区別し、救う者を選んだか?人間族のように差別や迫害など、もう充分ではないか?」

 

「…………………」

 

 

その言葉に、ゼルは深く沈黙した。腕を組んだ虎人族はようやく結論を出したかと思えば、何処か居心地が悪そうに目を逸らしながら口を開いた。

 

 

「『剣帝』殿やハーヴィスト様が言われるのであれば、我々は何も言わん」

 

「全く…………素直ではないな。────長老会議により、決定を告げる。魔力を持つ者を忌み子として排除する掟には、目を瞑ろう。これにより、ハウリア族は無罪放免とする」

 

 

その言葉にようやく理解できたのか、シアやハウリア族一同が唖然としてからようやく互い抱き合うほどに喜んでいた。因みにシアに至ってはハジメに抱きついてアイアンクローをされていたが。

 

 

「だが、我々長老衆が認めても若い世代は納得しない者もいるだろう」

 

「ああ、特に俺の所の若い奴等は特にだな………事の次第ではハウリア族を襲いに行くかもしれん。俺に止められるかどうか」

 

「────なら、コイツらは俺が引き取るってどうだ?」

 

 

今度こそ、ハウリア族が絶句する勢いでハジメに視線を集中させる。本気ですか?と彼等自身が思っている中、ハジメにしては滅多に見せないような、優しい態度で宣言していた。

 

 

「元よりコイツらに案内を頼んでるんでな。親友がここまでお膳立てしてくれたんだ。俺も少し良いところ見せなきゃ、格好が悪いってもんだ」

 

「良いだろう。これよりハウリア族は南雲ハジメの身内とする。ハウリア族を襲うことは、剣帝と親友である彼に危害を加えることと同意義とする…………これである程度は抑えられるだろうな。それでも通じない者も現れるだろうが、無力化してくれると頼む」

 

「断る………と言いたいが、ここまで無理を通してもらったんだ。何とかやるさ。こっちも加減はするが、加減するだけってことは理解してくれ」

 

 

ヒラヒラと手を振るうハジメに刃はコレで良かった、と安堵する。少し知り合ったばかりとはいえ、交流のあったハウリア族が死なずに済むなら土下座をした甲斐があった。場合によっては借りを作りかねない可能性を覚悟していたが、アルフレリック達が話を聞いてくれたのが功を奏した。

 

 

「あの、刃さん」

 

「…………なんだ?」

 

「私達の為にここまでしていただいて、ありがとうございます………!」

 

「────勘違いすんな、別には俺はお前らのことなんて考えてねぇ。俺が気に入らねぇと思ったから、言っただけだ。礼ならハジメにしとけ、俺は感謝されるようなことしてねぇよ」

 

「…………刃」

 

「?なんだよ、ハジメ」

 

「今のお前がそれ言っても、はいそうですかとはならねぇぞ?」

 

「「「「「「同感」」」」」」

 

 

と、ソーナ達とユエ達、ハウリア族一同が言うのだった。どこまで言っても善意を隠しきれない刃は「…………あ?」と本気で分からないのか顔をしかめている。




原作とは色々違って、ハジメ達がフェアベルゲンと良好な関係で事が済みました。(良かったよホント)個人的に迫害されてきた亜人族が魔力を持つ同族を忌み子として排除するのに思うところがあったんですよね…………。

土下座なんて刃がするか?と思うかもしれませんが、コイツ割と真面目なんで、相手が悪くないけどどうしても助けたい相手がいる場合は土下座も厭いません。元の世界ではそもそもそんな状況なんてないor大抵の相手が悪いやつなので起きては居ませんが、そうなっていたとしたら間違いなく土下座するタイプ。

元の世界でそういうことしてたハジメには呆れていたけど、本人も同じタイプでした────悪役ロールとかして暴君ぶってただけで素は底抜けの善人なんですコイツは!!!(指差して)


因みに今作のフェアベルゲンと亜人族について大きく解説しておきます。

亜人族は元々迫害されていた訳ですが、そんな亜人族を唯一救った人間が初代『剣帝』であり、身を挺して彼等が樹海が逃げるまでの時間を稼いだこともあり、亜人族にとっては英雄と伝えられている存在です。それ故に本人ではない刃も『剣帝』であることを理由に、真っ先に受け入れられています。

『剣帝』になる者は、差別や迫害もしない心優しい人間ばかりということもあり、昔の口伝を信じない亜人族も剣帝に対しては友好的です。

フェアベルゲン建国の由来として、迫害されていた亜人族が樹海に逃げたと言いますが、その樹海を作り出したのが旧神の一柱『大神アストラトス』です。迫害と差別により居場所を失っていた亜人族に同情した大神が己の生命を使って、樹海を作り出したということです。

その事もあり、亜人族は大神アストラトスの庇護下にありますが、アストラトス自体は樹海を作り出した時に神として死んでいます、肉体を巨大な神樹へと変え、魂を欠片となって分かれ────精霊という存在に昇華されました。

亜人族は精霊と共生していますが、亜人族は神の生まれ変わりとも呼べる精霊達を『ルティオン』と呼び、彼等を尊びながら共に生きてます。


『ルティオン』

大神アストラトスの分体である精霊達。アストラトスの願いである亜人族を見守っていくことを果たす為に魂を切り分けた妖精。殆どの個体は言語を介さず自由に生活しているが、唯一言語と理性を有する『ハーヴィスト』が存在している。基本的に皆可愛いし純粋なゆるキャラである。


『ハーヴィスト』

ルティオンの中で知性と言語を会得した個体。理知的な個体であり、長老達と度々交流することが多い。本人は自分達は精霊であり亜人族を従えているわけではないとして政治的に介入するつもりはない。だが時には他者の感情を汲み取った上で発言をすることもあり、基本的には亜人族である彼等の意思を尊重している。


『ランテ』

ルティオンの一体。タンポポとクラゲを合わせたような個体であり、常日頃から風に乗ってフワフワと飛んでいる。何かあるとその場所に飛んでいくなど好奇心が旺盛。開いた扉があると屋内に入ってしまい、そのまま床に落ちると動けなくなる。ジタバタと動こうとするが、飛ぶことしか出来ないためそうなった場合は近くにいた亜人族が慌てて外に出す。

時折フェアベルゲン内で子供と遊ぶことが多く、高い木の上に実った木の実を乗せてあげたりするほど純粋。


他にも色んな個体がいます。全部出せるかは分かりませんが、まぁ出します(自分の首を絞めていくスタイル)

次回ハウリアブートキャンプ【天国と地獄】(比喩ではない)

次回もよろしくお願いします!(真顔)

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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