ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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主人公のイラストを描いてみました。


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こんな感じですね………下手なことに関してはお目溢しいただければ………()


フェアベルゲン防衛戦

ハルツィナ樹海に、大量の魔物が攻め込んでくる。その数は少ないが、あくまでも先陣であるからだ。フェアベルゲン側の、亜人族の戦力を確かめるというのが本来の目的なのだろう。そして戦力の固まっている所を徹底的に攻撃する。それこそが『氷帝の矛』、フリューゲル直下の軍団の戦術であった。

 

そして、一箇所ずつ攻撃が開始されていった。軍隊長と呼ばれる魔人将達による、包囲殲滅が。

 

 

────虎人族達が護っていた防衛ライン、そこも標的とされていた。

 

 

「ぐああっ!!?」

 

「おのれ!よくも同胞を────ギャッ!?」

 

「オイオイオイオォーーーイ!!この程度かよ亜人族ぅ!お前等は強いんじゃあねぇーのかぁ!?戦闘種族の意地、見せてみろよぉ!!」

 

 

亜人族の中でも戦闘向きである虎人族を蹴散らすのは、巨大な鉄球を振り回した大男であった。名をケントゥリオ、フリューゲルの軍団の魔人将の一人。第五軍隊長を任されたその男は一方的な暴力で亜人族を蹂躙していた。

 

そして遂に、防衛戦を張っていた亜人族は壊滅させられた。たった一人の大男の手によって。

 

 

「つまらねぇなぁ、他に強い奴は居ねぇのか?肩慣らしにもなりゃしねぇ……………ああ?」

 

「行か、せるか………っ!我が国を、貴様らなんぞに………!」

 

「良い気概じゃねぇか────ペッチャンコに潰されても言えるなら、相手してやるよぉ!!」

 

 

脚を掴んで引き留めようとする虎人族の意気に、ケントゥリオは嘲笑うことなく感心する。しかし容赦などはない。拳を振り上げるのに従って天へと伸びた鉄球を叩きつけ、トドメを刺さんと一撃を振り下ろした。

 

────その一撃は地面を容赦なく粉砕した。肉を骨ごと叩き潰すほどの一撃、しかしそれは命中することはなかった。ミンチするはずだった虎人族は、直前に何者かに救われていたのだ。

 

 

「お前達は………」

 

「………威勢は気に入った。その気概、我々が引き継ごう」

 

「────ハウリア、だぁ!?」

 

 

虎人族の男を救い出したのは、他ならぬハウリア族の男。呆然と見上げていた虎人族の耳に、ケントゥリオの驚きの声が響く。ハウリア族を認識したその男の顔に、深い失望と嘲りの感情が見られ始めた。

 

 

「オイオイオイ、オォーーーイ?亜人族最弱の一族が俺の相手だぁ?流石に舐められたもんじゃあねぇかぁ………折角期待してたのによぉ、退屈すぎてしゃあねぇぜ」

 

「………我々では不足、ということか?」

 

「文句でもあるか?なら実力を示せよ────ミンチにされたくなきゃ、なぁ!!」

 

 

手首に付けられた鎖を振り回し、鉄球を投擲する。そのままハウリア族をミンチにして、次の相手を探しに行こうと彼は呑気に思っていた。────目の前のハウリア族が、その鉄球をいとも容易く回避するまでは。

 

 

「────お望み通り、見せてやろう」

 

「な、は……………?」

 

「我々、ハウリア族の狩りを────その身体に刻み込んだ上で」

 

 

その瞬間、ケントゥリオは懐かしい地獄を見た。

 

 

「なんだ、なんなんだテメェらはぁあああああッッ!!!!」

 

 

苛立ち混じりに吼えたケントゥリオが、鉄球を振り回す。大男の全身には切り傷が刻まれており、一方的に攻撃され続けたことがよく分かる。屈辱と怒りに身を費やした魔人将は鉄球を振り回して辺り一帯を破壊し尽くすが、それでもハウリア族だけは捉えられない。

 

 

「やはり魔人族の将軍クラス、こうも簡単には仕留められないか」

 

「それでこそ、というもの。我等ハウリア族も久々に血が滾る」

 

「…………ハジメって人もやり過ぎたわね。教官のお陰で落ち着いたけど、一度武器を握ればこれなんだから」

 

 

舌舐めずりをして笑う男衆に、同行していたハウリアの女性が呆れる。刃の特訓を一緒に行っていたが、ハジメに叩きのめされた果てに生まれた戦闘に酔い痴れた狂戦士の性は何とか鳴りを潜めることが出来た。

 

………といっても、武器を握ればこの始末。これでもまだマシな方である。未だ重症の面々は戦い始めれば罵倒の数々、刃も矯正を試みたが時間経過を希望とするほどであった。

 

 

翻弄され続ける怒りに頭が沸騰しかけるケントゥリオ。そんな彼への追撃を行おうとしたハウリア達を────上空から降り注ぐ矢の雨が襲う。

 

 

「!?────回避ッ」

 

 

ドドドドッ!!!と大地に並ぶ矢を、ハウリア族は全て回避していく。何処から攻撃したのかと辺りを見渡す彼等を他所に、ケントゥリオは勢い付いたように怒鳴った。

 

 

「────邪魔すんじゃねぇ!シモン!俺はまだやれるってのぉ!!」

 

 

 

 

 

「……………どの口で」

 

 

ボソッ、と少年 シモンは溜め息を吐いた。複数の魔物を従えた彼は木々の隙間から大型のクロスボウを構え、狙撃を繰り返している。魔人将シモンは先走ってばかりで追い詰められかけていた同期への呆れを吐露し、遠くで聞こえる怒声────「聞こえてるぞシモォン!!」という大声に耳を塞いだ。

 

寡黙な少年はそれ以上は意識せず、狙撃態勢を移る。特殊なクロスボウに矢をつがえ、一気に撃ち出す。魔力によって変化した矢は今まで以上の速度で分散し、ハウリア族を撃ち抜かんと迫る。

 

 

「…………これも避けるのか」

 

 

視線の先で、ハウリア族はこれすらも避け切ってみせた。殺意を殺したはずの必中の狙撃だが、全て当たらないとは思わなかった。何人かは背中を向けているのに此方を向かずに飛び退いていたのには流石に引いてしまう。

 

 

「…………アレ、ホントにハウリア族?」

 

 

亜人族の中でも最弱とされていたはずなのに、同期の魔人将すらも圧倒し、狙撃手である自分の一撃すらも回避するとは思えなかった。こえー、と高みの見物をしていたが、ここまで来ると純粋な恐怖すら過ってくる。

 

 

「まぁいいや。どうせ避けるんだったら今度は避けられない数の矢を浴びせれば────────っ!?」

 

 

クロスボウを構えた瞬間、シモンは即座に飛び退いた。背後から迫ってきた殺気から回避した直後、彼の居た場所が複数の刃で切り刻まれる。彼はソレが、金属的なブレードの数々であることに気付く。地面に着地した彼の視線の先には何人ものハウリア族が集まっていた。

 

 

「今まで良く狙ってくれたもんだぜ………だが、俺達がいたのが運の尽きだぜ」

 

「………パル君、そんな言い方はダメですよ!教官殿がまた頭を抱えちゃいます!」

 

「うっ、だけど…………お、俺はバルじゃなくて………《必滅のバルトフェルド》って呼んでくだせぇや」

 

 

(────ハウリア、まだいたのか。子供二人が厄介そうだな)

 

 

面倒くさそうに、鬱陶しく舌打ちを吐き捨てたシモン。いつも安全圏で狙撃を繰り返すシモンにとって、邪魔されることは不愉快極まりない。何人もいるハウリアは子供や女性ばかりだが、実力者ばかりであるのは明白なのだろう。

 

 

「へへっ、チマチマと仲間を撃ち抜こうって腹積もりだろうが、そうはさせねぇぜ。俺ぁ《必滅のバルトフェルド》!ミナ姐も、さぁ名乗ってくだせぇ」

 

「う、うぅ………!《空裂のミナステリア》!ミナです!」

 

「…………………」

 

 

何だコイツら、とシモンは明らかにドン引きする。他の皆も自信満々に二つ名を名乗ろうとする始末に、シモンは遂に理解できないものを見るような眼で距離を取り始めた。

 

狙撃手として以前に、近寄りたくないと言わんばかりの態度である。クロスボウを構え、その場を飛び出すシモン。周りに彷徨いていた支配下にある魔物へ、一言。

 

 

「────足止め」

 

 

汚物を見るような眼で姿を消すシモンに、羞恥心を押し殺していたミナは言葉にならない絶叫と共に魔剣『アメノハバキリ』を振り回した。分離した剣の刀身がチャクラムのように飛来して、一斉にシモンへと襲いかかっていくのだった。

 

当のシモンは一切言葉を発さずにクロスボウの弦を引く。関わりたくないと言わんばかりに拒絶に徹したシモンの手にする弓から、魔力の一射が空を切り裂いた。

 

 

◇◆◇

 

 

────その一方、樹海の一部で大規模な霧が発生していた。木々一帯を包み込む白い霧、まるで大樹への道を覆い隠す天然の霧とは違った、人為的なソレは亜人族達を翻弄していった。

 

 

「て、敵は何処だ!?全く見え────ぎゃっ」

 

「イールがやられた!?皆、周りを────ぶぇ!?」

 

「まさか………この霧、敵の仕業か!?」

 

「ひっ、退けぇ!!防衛ラインを下げるんだ!!」

 

「周りが霧で見えないのに、どうやって逃げるんだよぉ!!」

 

 

視界を遮る白霧、その向こうから聞こえる同族の断末魔は彼等を恐慌状態へと陥らせた。遂には統率が取れていたはずの亜人族達の連携は瓦解、霧の主はそれを察すると────白い霧を伴い、移動を始める。

 

 

(これが亜人族か。張り合いの、殺し甲斐のない連中だ)

 

「他の防衛ラインも荒らしてから、大将首でもさっさと獲るか」

 

 

魔人将レアミストは散歩でもするかのように、呑気にそう呟く。血に塗れたナイフを指先で回しながら歩き出したレアミスト、彼はナイフを握り直すと────背後に向けて投擲した。

 

 

「!………くッ!」

 

「誰かと思えば、剣帝の腰巾着か。その程度の隠密で誰を殺す気かな?」

 

「……………!」

 

ナイフを弾いたシノが小刀を突き通す。回避しなかったレアミストだったが、彼の全身が直後に破裂する。真っ白な霧を撒き散らした男の亡骸は無く、シノは分身を掴まれたことを理解した。

 

気付いた時には自身を覆い尽くす白霧と、内から響き渡る相手の声のみであった。

 

 

「一度は捉えられたが、お前は俺の隙を付くことは出来ない。この『雪灰霧』の名こそ、バーゼル最強の殺し屋に与えられる」

 

(姿が………!でも、魔力を追えば………っ!?)

 

「霧の中で惑い、迷え。お前は最早、狩られる餌に過ぎない」

 

 

白い霧の中に閉じ込められたシノは深呼吸で息を整える。霧はあらゆる外界を拒絶するように周囲の存在を見えないようにひた隠している。だからこそ、彼女は霧の中に生じる魔力を追った。背後に迫る魔力の源へ振り返り、シノは抜き取ったクナイを突き刺した。

 

ナイフを振り上げたレアミストの首にクナイが突き刺さった。だが、彼女はすぐに気付いた。これも偽物であることを。

 

 

「────まだ、分からないのか?」

 

 

偽物のレアミストが小馬鹿にするように笑う。その姿が崩れたと思えば、今度は灰色の霧が周囲に広がっていく。至近距離から灰霧を浴びたシノは即座に周りに警戒を向けようとして、目の前の視界が朧気になっていくことを察した。

 

 

(この霧!まさか毒!?いや、これは………)

 

「────怖いか?あらゆるものが感じられないことが」

 

 

力が抜けていき、膝をついたシノを霧の中から現れたレアミストがそう問いかける。意地の悪い言い方を無視して、シノは握っていたクナイを即座にレアミストの顔へと当てた。しかし、それも霧の分身だった。

 

反対側から現れたレアミストは身体が動けないはずなのに攻撃を仕掛けたシノに肩を竦める。

 

 

「おぉ、怖い怖い。俺の灰霧を喰らってもまだ動けるなんて………一体どんだけ耐性があるんだ?」

 

「…………私達は、暗殺者の一族。毒への耐性は、多少ある……!」

 

「そうかい。………だが、そんな身体じゃあマトモに戦えんだろ?」

 

 

言うや否や、レアミストはシノの腹を蹴り飛ばした。腹部の内臓への強い刺激に、彼女は思わずむせ返る。血の塊を吐き出した彼女の姿に、レアミストはナイフを指で回しながら笑う。

 

 

「いけない、いけない。獲物を前に遊ぶのは俺の悪い癖だ………ここは穏便に、一撃で殺してあげよう」

 

「…………っ」

 

「怖い目だ。でも、お嬢さんが悪いんだよ?戦場で殺されるのは何時だって弱者さ。弱いやつは────戦場に出てきちゃあ駄目なんだよ、ねっ!!!」

 

 

ナイフを振り被ったレアミストは────何度か味わったことの感覚を感じ取った。殺し屋として生きてきた時に何度も体験したことのある感情。今まで生き残ってこれた本能が命じる指令に、彼は一切の疑いなく従った。

 

────自分の命を狙う、死の気配に。

 

 

「っ!あっぶねぇ!!今、死んでた!」

 

「………あら、残念。あと少しだったのに」

 

 

人を殺すのを止め、霧を纏ったレアミストは首を狙う無音の一撃に慌てて飛び退く。今のは何も感じられなかった、本能だけでしか気付けなかったことに彼は恐怖以上の警戒心を研ぎ澄ましていた。

 

そして、不意打ちを完全に回避させたことに観念したハウリア族の女性が姿を顕にする。黒一色に染まった魔剣を手にした彼女、ラナ・ハウリアは転がっていたシノに手を差し伸べる。

 

 

「大丈夫?シノちゃん」

 

「………ありがとう、ラナさん」

 

「平気よ。貴方に怪我をさせちゃって、教官には顔向けできないわね」

 

「────人を前に世間話とは、良いご身分だ」

 

 

軽薄な笑みを浮かべながらも、血管を浮き立たせたレアミストが低い声で吐き捨てる。首を撫でながらも笑う彼の全身からは、多少の怒りが滲んでいた。

 

 

「大した気配遮断だが、俺を殺し切れない未熟なものだ。後悔するだろう、お前の刃は二度と届かない────」

 

「そう?でも私は分かったわ────貴方の霧は姿を隠す為じゃない。その霧で相手の存在を感じ取っているんでしょ?」

 

「───ッ!?どうしてそれを………っ!」

 

「隠密の特異なシノちゃんが仕留め損なったんだから、それが妥当でしょうね。でも、貴方はさっきの攻撃に焦っていた。私の『深影黒霧剣(カルンウェナン)』と気配遮断には気付けなかった…………それなら勝ち目はあるわ」

 

「────俺を侮るか!最弱種風情がッ!!」

 

 

遂に笑みすら消し去ったレアミストが全身から霧を噴き出す。今度のは黒い霧、完全に辺り一帯を外界から隔絶させる目視不能の霧だ。その霧の中で蠢く魔人将は屈辱を胸に秘め、怒りのままに叫ぶ。

 

 

「ならば知るがいい!魔人族最強の暗殺者!最強の殺し屋として名を残した、レアミストの狩りを!!お前等の首を以て、この屈辱を晴らす!!」

 

「あらら、怒らせちゃったみたいね。………一緒に頑張ろうかしら?シノちゃん」

 

「………了解、全ては………主様の為に!」

 

 

◇◆◇

 

 

「……………」

 

「やぁ〜ねぇ、怖い顔しちゃってぇ。ハウリア族ってのは温厚って聞いてたのよぉ〜。もうちょっと優しい顔しても良いんじゃなぁ〜い?」

 

 

一方の戦場で。

複数人のハウリア族が一人の魔人族の女性を囲んでいた。魔人将キャトライン、マイペースに振る舞う彼女の空気は強さなんてものを感じさせない。だが、どこか近寄り難い、一度距離を許せば即座に命を刈り取るであろう悪寒だけがあった。

 

 

「そんな顔しないで〜、ちゃんと見学したらぁ?戦ってる最中なんでしょ〜?貴方達の中でも強い人達がぁ〜」

 

「…………」

 

「加勢しなくていいのかしら?別に私はやらないからいいけど、あっちは別だと思うわよぉ?なんせ相手が相手だからねぇ〜」

 

 

何故今にも戦わないか、それには明確な理由があった。

彼女、キャトラインは戦うつもりはないと明言していたのだ。そしてあろうことかもう一人に場を任せると、仮にも魔人将、軍隊長とは思えない態度である。

 

だが、キャトラインがそうする余裕があるほどに────もう一人は圧倒的であった。

 

 

「────良くぞここまで。亜人族にしてはやると、褒めてあげましょう」

 

 

正装に身を通した偉丈夫。傷一つない姿で立ち尽くした男はグラスを揺らし、ワインを口に含んでいる。彼の周囲には多くの亜人族が倒れ伏し、中にはハウリア族までも負傷している。

 

 

「君達は良くやる。最弱と呼ばれていたのも見違えるほどの変化だ、この私を前に膝をついて立つこと────光栄に思う権利を与えます」

 

「………そんなものに、興味はない!俺達が目当てなのは!」

 

「元より!教官の望みを阻む、貴様の命だ!」

 

 

ハウリア族の戦士たちが、魔人将もとい第一軍団長サルヴァトーレへと攻撃を開始する。ナイフや鋭い槍を投擲し、ある者は背後から背中を狙う。

 

だが、どれも届かない。サルヴァトーレを覆うように展開された深紅のバリアがあらゆるものを拒絶していた。そのバリアにヒビが入っていたが、サルヴァトーレは狼狽えることなくワインを啜った。

 

 

「無駄と言ったはずです────我が秘術、『天意無法』は無敵。あらゆる攻撃を防ぐ鉄壁の防御………そして、傷をつけた者の血を吸い上げ、防御は更に増していく」

 

「ぅ………ぐっ」

 

「正しく無敵。鉄壁の盾と反撃の矛、この二つを備えた私こそが、『氷帝の矛』唯一無二の最強。恥じる必要はありません、貴方達が私の前に倒れることは必然なのですから」

 

 

攻撃を行ったハウリア族が崩れ落ちる中、サルヴァトーレを覆うバリアは周囲からハウリア族の血を吸い、ヒビを修復していた。魔法ですらない、何らかの特異な秘術であろう。ソレは戦意に満ち足りていたハウリア族の意思を無視して、彼等の体力を奪い続けていく。

 

自信満々にハウリア族に憐れみを向けるサルヴァトーレに、密かに観察していたキャトラインが口を差した。

 

 

「────アレぇ〜?最強はフリューゲル様じゃなかったっけぇ〜?二番目に強いサルヴァトーレさま〜?」

 

「…………死にたいのならば何時でも言いなさい。心置きなく相手しますよ?キャトライン」

 

 

────呑気に語らう同期に殺意を向けたサルヴァトーレ、彼の眼前に小太刀が迫った。しかし、ソレは赤黒いバリアの前に容易く防がれ、刃を振るったカムは僅かに顔を歪める。バリア傷つけた代償に血を抜かれたのであろう、それでも彼の瞳から戦意が揺らぐことはない。

 

 

「………理解が浅いようだな、兎人族の長。お前達は私に傷をつけることは出来ない。ただ私の前に、跪くことしか許されていない」

 

「────それは、どうだろうな?」

 

 

カムはニヤリと笑う。その態度にサルヴァトーレは何を思ったのか、軽く鼻で笑い返した。恐らく、戯言であると断じたのだろう。しかし彼はすぐさま知ることになる、ハウリア族の本当の狙いを。

 

 

「────お待たせ!オジサマ!後は任せて!」

 

 

そういう声が、何処からか響いてきた。真上、上空であると察知したサルヴァトーレは顔を上げる。視線の先、空に飛び上がったハウリア族の女性の姿があった。彼女は一際巨大な魔剣、複数の装甲に覆われた赤熱の大剣を両手で握り締め、そのままサルヴァトーレへと斬り掛かった。

 

 

────深紅のバリアに、焔熱の剣が斬り込まれる。凄まじい衝撃波と衝突音が、周囲の空気をかき乱していく。バリアに生じる無数の亀裂を前にしても、サルヴァトーレはやはり動じない。むしろ呆れたように、魔剣を振るう女性を冷たく見据えた。

 

 

「…………君達は思ったよりも頭が悪いのだな。私の防御は壊れない、君が付けた傷は君自身の血で補われるのだから」

 

「みたいね…………頭が悪いことにも同感。教官ならもっと上手くやれるんだろうけど、私にはこれしか思いつかないや」

 

「?────何を言って」

 

 

直後、サルヴァトーレは気付いた。目の前の魔剣が熱を増していることに、それに共鳴するかのように魔剣の出力が上昇していることに。バリアの亀裂が直ると同時に、すぐに亀裂が刻まれていることに。

 

 

「教官が、アタシにくれた魔剣────『灼焔熔熱剣(レーヴァテイン)』って言うの」

 

「…………?」

 

「アタシ達はシアちゃんと違って魔力が無いから、魔力を使わない魔剣らしいけど………その能力は、ただ強くなる。時間が掛かればその分魔剣の出力が増えて、アタシが傷付くほどにも強くなる」

 

「………ッ!?ま、まさか!?」

 

「既に皆が十分稼いでくれた!アンタの力でアタシの血を奪っても、その分アタシが強くなって────アンタより先にブチ砕く!!」

 

 

内部の熱が暴発していき、更に力の増した魔剣が、サルヴァトーレのバリアを完全に打ち砕いた。彼女、キア・ハウリアは熱を吐き出した魔剣を手にしたり顔で笑った。

 

 

「お、おのれェ────!!」

 

 

バリアを破られたサルヴァトーレは怒りのままにグラスを握り潰す。割れた破片と掌から流れる血が爆裂したように吹き出し、サルヴァトーレの全身を包み込む。多くの血を吸われたキアは追撃を行おうとして、その場に膝をついた。

 

 

「よくやってくれた、キア────後は任せろ」

 

 

そんなキアに激励を投げかけ、カムが前に出る。体力を消耗した彼女に代わって歩み出た族長の前で、赤黒い塊が破裂した。その中から現れるのは、赤黒い欠片を全身に纏うサルヴァトーレであった。

 

 

「この私の防御を破ることを褒めてあげましょう────故に、私の秘術の極意『天異武泡』によって、直接殺してあげましょう………ッ!!」

 

「あの防御がなければ、貴様に恐れることはない────貴様の首も削ぎ落とし、魔王の元へ向かうとしよう」

 

「兎風情が!この不遜、貴様らを皆殺しにしその血で雨を降らせることでしか贖えんぞ!!」

 

 

赤黒い欠片を鎧と手足に纏い、武装したサルヴァトーレにカムは構え直した小太刀で挑みかかる。鋭い槍のように変化した腕を地面に突き刺し、赤黒い突起を地面に走らせるサルヴァトーレへ────カムは前へと飛び出していく。

 

 

◇◆◇

 

 

その一方、フェアベルゲンの樹海の片隅。侵攻を受けている前線とは離れた一帯。アルテナとハーヴィストの案内を受けた刃は焦りながらも、今も戦い抜いている仲間たちを信じることを選んだ。

 

 

「────着きました!ここが神樹です!」

 

 

同じような焦りを感じさせながらも、アルテナはそう言って刃へと声をかけた。視線の先にあるのは、ある程度舗装された小さな小道の先にある────巨大な樹木。大神アストラトスの亡骸が変化したと言われる、ハルツィナ樹海を創り出した原初の生命である。

 

見る者が見れば、神の力を感じさせる生命力の奔流。僅かであっても神の力を継承した刃だからこそ、目の前の神樹が本物の神の遺骸であることに気付いていた。

 

 

「…………アストラトスは死んだんだろ?どうやって接触すればいい?」

 

『神の遺骸、神の肉体は未だ消えていない。剣帝である君が接触すれば、後は契約のみ。と思われる』

 

「決まりだな………アンタ達は下がっててくれ、何かあると不味────ッ!?」

 

 

神樹へと歩み始めた瞬間、刃はそれに気付いてすぐにアルテナとハーヴィストへと飛び掛かった。身を挺して二人を庇い、即座に周囲に生成した魔剣で大きな壁を形成する。

 

────直後、空から鋭い槍が飛来した。赤黒い槍は複数の魔剣を砕き、刃が振るった魔剣の一撃の前に砕け散る。破砕した魔剣に見向きもせず、立ち上がった刃は空を見上げる────敵は、そこにいた。

 

 

『────■■■■■■■ッ』

 

 

空に浮かぶ、禍々しい魔力と不協和音を響かせる異形。全身を構成する無機質な金属らしい結晶体、そして一際大きく胎動するコア。これだけであればかつて対面した魔物────アンチノミーと同じだと分かるだろう。しかし、明らかな別物である要素が多く存在していた。

 

コアが浮かぶその魔物は、ヒト型であった。男と女を混ぜたような人体に装甲を無理矢理取り付けたような魔物。当然、その顔は存在しない。腰まで届く鮮やかな長髪を広げ、引き締まった首筋の先にある顔面は欠落しており、そこには一つの虚無────二つの色が渦巻くコアしか存在していない。

 

その魔物は二つの声が入り混じったような声で、哭いた。片腕を振り上げると共に、その掌が刃へと向けられる。

 

 

『──────』

 

「アルテナ!ハーヴィストを連れて下が────」

 

 

そう言って二人に離れるように言った刃は、迫る巨影を前に二人を突き飛ばす。アルテナとハーヴィストが離れた直後、巨大な槍が、刃を襲った。

 

 

「っ!?おおおおおッ!!」

 

 

膨大な質量の槍を生成した無数の剣で防ぐ、だがその質量と威力によって殆どが生成と同時に破砕していく。刃の生み出せる中で代償や消耗もない上で、最も強力な魔剣ですら破壊されかけるレベルだ。だが、それでも数の差で何とか防ぎ切ることが出来た。

 

 

「これ以上!テメェにやらせるか!!」

 

 

そう言うや否や、刃は生成した魔剣を勢いよく特定する。風の魔法に合わせて解き放たれた飛翔の魔剣は音速に至る速さで、上空に浮かぶ魔物へと襲いかかった。

 

 

『────』

 

 

だが、魔物が掲げた掌に魔剣は届かなかった。かざした手に接触する直前に、魔剣は急に霧散したのだ。その現象が、何が起きたのかすら最初は理解できなかった。

 

 

「消えた……っ!?いや、崩れた!?あの野郎、何をしやがった!?」

 

 

無限剣のスキルによって、作り出した魔剣越しの感覚や死角、情報などは伝わるはずだ。だが、今のは魔力による攻撃としか分からない。強度を併せ持った魔剣があんな簡単に消えるなんて有り得ない。そう思った刃は、何か厄介な能力があると判断した。

 

一つは、槍に関する能力。巨大な槍をも投擲したことから、自分の千剣創造のような武器を創り出すスキルと似たものを保持しているのか。そしてもう一つは、先程の消し去った力。………少し考えた後に、一瞬見えた魔剣の消滅の光景を脳裏に過ぎらせた。

 

────チリのように消えた、魔剣の形を。

 

 

「………腐食、いや崩壊か………。クソ、俺の能力にガンメタ張りやがってんのか…………?有り得ない、ワケねぇな。アレがアンチノミーとか言うのと同じ連中なら」

 

 

忌々しそうに吐き捨てた刃は、ふと周りを見る。近くに隠れたアルテナ達を見て、溜息を吐き出す。次の瞬間、彼はあらゆる迷いを打ち消すような、滾る如くの戦意に顔を染め上げた。

 

 

「テメェも敵なら、ブッ潰すだけだ────!」

 

 

魔力を練り上げ、周囲に魔剣を作り出す。全属性を其々内包した魔剣の数々、虹色に輝く七剣を手繰り寄せ、刃はそのまま一斉掃射した。

 

色彩に染まる剣の流星を、魔物は身動きもせずに手にした槍を振り上げる。コントロールされたままに飛来していく魔剣は魔物に届くよりも先に、空間から引きずり出されるように現れた槍によって防がれ、撃ち落とされる。それと同時に内包した魔力が火を吹くように炸裂、空に爆風の花火を刻み込んでいく。

 

そんな、爆裂をくぐり抜け、生成した魔剣を足場にして飛び込んだ刃が両手に握る剣を振るう。流儀もなく、ただ本能と力のままに振り払われた魔剣が魔物の身体を切り裂く────ことは無かった。

 

『────』

 

「チッ!近付いてもダメか!なら、コレでどうだァ!?」

 

 

刀身の先が崩壊した魔剣を魔物のコアへと叩きつける。だが、やはり魔剣は触れる直前で霧散した。しかし、その僅かな一瞬、視界が遮られた隙を利用した刃は両脚に力を込め、魔物の両腕を蹴り飛ばした。弾かれた両腕に脚をかけ、刃は魔剣を振り下ろす。

 

 

当然、魔剣は触れる前にチリへとなる。

だが、それでも尚刃は笑った。魔物は気付くことが出来たのだろうか、目の前で刀身が崩壊していく魔剣が────内包した魔力を撒き散らし、爆裂したことに。

 

 

『────!?』

 

「やっぱりな!テメェ、無機物しか崩壊できねぇみたいだな!魔力の塊である魔剣は崩壊させられても、魔力とか空気とか、触れることも出来ねぇ実体のないやつは崩壊させらんねェんだろ!!」

 

 

ダメージはあった。

回避不可能の魔力の爆発に戸惑う魔物に、刃はその能力の掻い潜り方を理解する。そうと決まれば話は単純だ。爆発を飛び退いて回避した刃は足場にした魔剣を射出させていきながら、魔物へと肉薄する。

 

流石に一度食らって学習したのか、魔物は崩壊に頼ることなく生成した槍によって撃ち落としていく。しかし、刃にとってはそれも予想通りであった。槍で撃ち落とされていく魔剣を盾にしながら、刃は魔物へと飛びつく。今度は、何の武器も無しで。

 

 

「テメェの能力じゃあオレを崩壊させられねぇってのはもう分かってんだ」

 

『────!』

 

「魔剣で届かねぇんなら、俺の拳はどうだ!?コアくらい弐ヒビ入れてやれるぜッ!!」

 

 

そう言って、コアと呼ばれる球体に拳を叩き込む。尋常ではない身体能力を秘めた、刃の拳は魔剣に劣ると言っても充分過ぎる威力だろう。それでも柔な強度ではなく、コアに傷は入らなかった。振動が響いたことから効いているのだろう。

 

だが、刃はそれどころではなかった。

コアを殴った瞬間、彼の意識が大きく揺れる。肌が接触した途端、何かが流れ込んできたのだ。

 

 

 

 

『────どうして、こんなことを?』

 

『私が────ソレを、望んだからよ』

 

 

「────ッッ!!?」

 

 

二人の人間。二つの景色。二回の、人生。

膨大過ぎる情報、規格外の記憶が彼の思考を大きく乱した。ソレは、別人の記憶であった。違う生き方をした、違う道を歩んだ別人の記憶。

 

だが、共通していた部分だけは理解した。その二人の、最期すらも見えたこと。二人の男女が何に殺されたのか、何が彼等を殺したのかを。

 

その時点で、刃はある事実を知った。知ってしまった。目の前の、魔物だと思っていたモノの正体を────ソレがもたらした記憶が、何を意味するのか。

 

 

「お前は────誰だ!?」

 

『────』

 

「今の記憶………二つの記憶があった!それも、俺達のような人生が!答えろ!お前は、お前達は────人間だったのか!?」

 

 

動揺した刃の問いに、魔物は答えなかった。

しかし、その言葉に応じた魔物のコアが微かに発光する。何かを伝えようとしたのか分からない。だが、そんなことは些事であった。

 

ソレが、彼等が何であるのか────今の刃はまだ知らないのだから。ある魔神が、自分たちの邪魔をしたイレギュラーへの試石として送った存在であることなど。

 

 

 

『────イレギュラー、神降ろしの相手はセイヴァー・ルーインにやってもらおうか』

 

『いいの?アレ、世界一つ分のリソースで生み出せた個体だよ?勿体ないと思うけど』

 

『アンチノミーが送った情報からして、剣帝に太刀打ちできる能力を持つのはアレしか無いからね。ボクらの眷属の中では出来たばかりだから、壊れても問題はないから』

 

『あの子達は特別だからね………私達と同じ、二つの概念を内包した眷属。救済と破滅、矛盾に満ちた願いを両立させられた貴重な個体だけど、その分負荷が激しかったからね』

 

『勝てるかな、神降ろしは。私達の生み出した「双対」の眷属に』

 

『勝てなくてもいいさ。その時は、セイヴァー・ルーインのように遺骸を使えば良いんだ。この世界を滅ぼせる眷属になれるかもよ』

 

『────負けてくれないかな、私達の為に』

 

『────勝ってくれないかな、ボク達の為に』

 

 

 

魔神ダブリスの眷属、『破界災骸 セイヴァー・ルーイン』のコアが煌めく。それと同時に、虚無から作り出された槍が空間を引き裂いて突き立てられる。

 

────一瞬の隙を見せた刃の身体を、簡単に貫く。外側から、いや内側から生み出されたソレは、黒鉄刃の肉と皮膚を抉り内から這い出たのだった。




魔人将一同「なんだコイツら!!?(ハウリア族に対して)」

まぁ、そうなるよね………



『破界災骸 セイヴァー・ルーイン』

双対の魔神ダブリスの眷属、アンチノミー・フェイタルオーバーの一体。数多の世界を崩壊させてきたダブリスの直下の使徒であり、一つの世界の崩壊により生み出された強力な魔物────その実、ダブリスを討とうとし敗北した英雄と、世界を憎むほどの恨みを抱いた犠牲者を統合させて変異させた個体。

その眷属に意思はなく、願いの意味を当に忘れ去っている。二つの強固な魂は災厄の中でも残り続け、同化した今でも彼等の内包する願いは二つ────今望む理想は、ただ一つ。

────彼等はただ、敗北()を願う。


ダブリスの発言と刃の見た記憶から察する通り、今回の敵 ダブリスの眷属アンチノミー・フェイタルオーバーは元人間────刃たちとは違う────ダブリスに滅ぼされた別世界の犠牲者です。

そもそもダブリスは元々この世界で発生した魔神ではなくて、沢山の世界を滅ぼしてきたガチモンの厄災です。何故そんなことをしてるのかと言われたら魔神だから、としか言いようがない。

ダブリスに滅ぼされた世界にいた『英雄』と『犠牲者』、二つの矛盾する願いを秘めた二者を取り込み、一つに融合したことでアンチノミーへと化したことになります。

でも、ダブリス的にはこの魔物は失敗扱いなので、刃と同士討ちを期待しながらも刃に勝って欲しくて送り込んできました。矛盾してるな…………。


名前の由来は『セイヴァー』=救済、『ルーイン』=破滅。素体となった二人の願いを英語に変えたものです。


次回もよろしくお願いします!それでは!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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