────その時、樹海全土にいた存在が感じた。
あたりに広がる増幅する力の鼓動。それは、感じ取った者達に様々な反応をもたらした。
「っ!?なんだァこの感覚────!?」
「……………ッ」
魔物達が怯え、魔人将達は力の変容を認識して狼狽える。ケントゥリオやシモンは魔物たちを怯えさせるほどの力の威圧感に、警戒心を高めていた。
「────主様、やったみたい」
「馬鹿、な………これが、剣帝だと!?前に感じた時よりも、強く!?」
霧を纏う魔人将との指導を繰り広げていたシノは、その力の持ち主を即座に設置した。対峙していた霧使い、レアミストは高を括っていたはずの相手の変化に動揺を隠せない。
「これはぁ、不味いみたいねぇ………?」
「…………」
「────オジサマっ!」
「ああ、流石は教官殿。身震いする程の力が感じられる」
軽く笑いながら呟くキャトラインを尻目に、サルヴァトーレは怒りに染まった思考を沈静化させていた。それほどまでにあの力、神の力を帯びた威圧感が脅威と感じたのだろう。そして二人のハウリア、キアとカムはその誰であるのか理解し、不敵に笑った。
「────」
魔王フリューゲルは、本陣でその力を感じ取っていた。
神の力は、恐らく引き継がれたのだろう。ならば剣帝が次にどう動くかは予想できる。魔王として、すべきことはただ一つ。
「…………来い、人間族の英雄。私が相手になろう」
◇◆◇
フェアベルゲンの最終防衛ラインを護り通していたソーナ。ここが破られれば、本国は一方的に魔物たちに蹂躙されるであろう。取りこぼした魔物を殲滅していた彼女の元に、人影が飛び込んできた。
「ジン!」
「────ソーナか、待たせた」
アルテナとハーヴィストを抱えた刃が、ソーナ達の前に降りてきたのだ。アルテナを優しく降ろした刃の姿に大きな変化はない。ただ言うとすれば、神の力を継承したことで全身から感じる魔力が変質し、増幅しているということか。
「ここの神様と、会えたのね」
「ああ…………ここを任せていいか?やることをやってくる」
「仕方ないわね────いいわ!任されてあげる!だから、勝ってきなさいよ!」
「────当たり前だろ」
軽く笑い、刃はその場から飛び去っていく。樹海の前に展開された大量の軍勢、その前に歩み出た人影の前に、彼は着地した。
────白いコートと重装甲に身を包んだ、屈強な武人。全身のを隠した魔王の姿は近づく者を凍てつかせるほどの威厳と存在感を放っている。巨大な戦斧を手にした魔王は短く、低い声を発した。
「来たか、剣帝────人間族の、代表者」
「………テメェが魔王フリューゲルか」
「如何にも。私こそが、『極凍冷絶』のフリューゲル。強国バーゼルを率いる王にして、四魔王の一柱。そして────」
フリューゲルが戦斧を振り上げる。それと同時に、周囲に広がって吹雪が勢いを増していき、猛吹雪となって刃とフリューゲルを呑み込んでいく。そんな大吹雪の向こうに見える人影が淡々と語った。
「大魔王より授かった魔力は『絶対零度』。我が魔力は大気を冷気へと変え、天候を吹雪へと変え、大地を凍土に変えることが出来る────この氷壁は、貴様の為に用意した決闘の場だ」
吹雪が晴れたかと思えば、覆うような巨大な氷の壁が囲われていた。触れるだけで此方が凍らされかねない程の冷気を放つ氷壁、これも魔王の魔力の一端ということを理解させられた刃は、上等だと鼻で笑い返す。
「決闘か、悪くはねぇが此方にも事情がある────フェアベルゲンから退け。奴等は関係ねぇだろ」
「────良いだろう。お望み通り、兵を退こう」
「……………はぁ?」
刃の言い分に静かに応じた魔王は、戦斧を地面に叩きつける。それと同時に周囲の空が明らかに変化した。樹海一帯に降り注いでいた吹雪が止まったのだ。何のつもりだと魔剣を空に飛ばした刃は、樹海に侵攻していた魔物と魔人将達の静止を改めて確認した。
「………何のつもりだ?テメェは、フェアベルゲンに攻め込んだのには理由があんだろ」
「貴様が止めろと言ったのだろう。それとも何だ?不可能だと知った上での発言か?」
「いや、そういうわけじゃ…………テメェに利はねぇって話だ。俺の要求を聞いて、テメェ等にメリットなんざねえだろ?」
「────必要のない戦いはしない主義だ。既に私の狙いは、目の前にある」
白銀の戦斧、その矛先が刃へと向けられる。周囲の空気が一層冷え始め、肌を突き刺す戦意と冷気が空間を支配していく。氷の魔王はただ静かに、刃だけを見据えた上で告げる。
「樹海に居座る旧神、その力を宿す者よ。私の目的は、神を殺し、神の力を消し去ることだ。既に力を引き渡した神にも、亜人族にも用はない。私の目的は、神の力を宿す貴様を斃し、神の力を消し去ることだ」
「ハッ、俺を倒してこの戦争に決着を付けるってか。上等だ、やりやすくて助かるぜ………なら、もう一つの終わらせ方もあるよな?」
「もう一つ、だと?」
刃は不敵に笑い、全身の魔力を全開に解き放つ。体外に溢れた魔力が、無数の剣を生成する。地面に突き立てた刀剣、周囲を飛び交う飛剣、両手に握る白黒の魔剣と聖剣。
一瞬にして並大抵ではない武具を展開した刃は、対峙する魔王相手に魔剣の剣先を向け、堂々と宣言し返した。
「テメェを負かして、大人しく退かせるってことだ!テメェもこんな決闘の場を用意したんだ!勝ち負けの結果で文句は言わねぇよなぁ!?」
「────良いだろう。貴様のような勝ち気のある戦士は嫌いではない。魔王として、強国を束ねる王として、勇猛な戦士に敬意を評そう」
故に、そう続けたフリューゲルが銀斧を勢いよく振るう。地面に積もった雪を薙ぎ払った獲物を手に、凍氷の魔王は氷のような冷たさとは相反する絶対的な自信と戦意を胸に、改めて宣告した。
「覚悟しろ、この私から勝利を勝ち取る者は誰一人としていない。その驕り、神の力ごと叩き潰してくれよう」
「叩き潰すだぁ?やれるもんなら、やってみろやァ────ッ!!!」
双剣を振い肉薄する刃に、フリューゲルは巨大な戦斧を以て応じる。片手で振り上げた巨大な金属の塊と、交差する二つの剣刃、その衝突によって、この戦いの結末を左右する決闘が幕を上げた。
◇◆◇
(────自慢じゃねぇが、俺も多少は強くなったはずなんだがな)
決闘が始まって少し経った後に、刃はそう心の中で呟いていた。この世界に来てから、自分は多くの困難を乗り越えてきたはずだ。
強くなってきたという思いは少なからずあった。だからこそ、今の現状────相対する敵との実力差に、ショックを感じていた。
────レベルが、違ェ!これが魔王かよ!?
戦斧の一撃を受け止めた魔剣と聖剣が一瞬で砕け散る。尋常ではない破壊力と、瞬時に次の行動への切り替えが可能な速度。此方の攻撃を気にしないと言わんばかりの、カウンターすらも許さない徹底的な猛攻に刃は圧倒されていた。
片手で振るわれる戦斧の重撃は凄まじく、マトモに喰らえば致命傷は免れない。強度を高めた魔剣でさえ、紙屑のように砕ける威力を容易く放つ目の前の存在。
これが、魔王。
大魔王の直下にある、人類を滅ぼす尖兵の一つ。魔神の使徒も強かったが、魔王の方が規格外だ。フリューゲルはまだ能力を使ってすらいない。純粋な膂力だけで、刃を後手に回させている。正しく正真正銘の怪物であると、理解させられてしまった。
「────この程度か、剣帝」
「ンな訳ねェだろッ!!」
生成した魔剣による烈風、真紅の刃を打ち出す刃。しかしフリューゲルは戦斧の一振りで風を切り裂く。戦斧の柄を握る片手を離し、もう片方の腕が石突の部分を握りしめ、再度振るわれた戦斧の衝撃波が刃へと襲いかかる。
しかし、刃は即座に生成した無数の魔剣を一つの群れのようにして操る。魚群のような魔剣の塊でフリューゲルの放った斬撃を防ぎながら、そのまま突貫させていく。
「ッ!」
「いけ!ぶち抜けェ!!」
戦斧を振るうことでの真空波により薙ぎ払われる魔剣の数々。しかし、即座に背後から迫る魔剣が距離を縮めていく。このまま押し切れる、そう思った刃の予想はやはり甘かった。
「────」
無音の、一呼吸。
それによって空気が一瞬で様変わり、いや一帯の温度が一段と下がった。肌を突き刺すような冷気が鋭さを増し、刃の前で真っ白な風が吹き荒れた。
次の瞬間、フリューゲルへと迫っていた無数の剣の奔流が静止させられていた。全ての魔剣が空中で凍結させられているのだ。ただ凍らされただけではない、全ての魔剣が中心まで凍てつかされている。
────その事態を引き起こした張本人、魔王フリューゲルの周囲は完全に冷え切っていた。空気中の水分が、一瞬で冷却され固体化している。足元の地面は水分全てを氷に変えられたことで、本来の環境とは変質したものへとなっていた。異様な冷気を纏う氷の魔王、兜の隙間から覗く双眼で刃を見据えている。
「貴様の実力は理解した。慢心も、油断もしない。我が力、絶対零度を以て────貴様の気概と覚悟を、玉砕するとしよう」
(出し惜しみ、してる場合じゃねぇな)
「────『
神の力を纏う大剣を、発現させる。肌を外殻に変質させる程の魔力を纏った刃の右腕と融合した両刃の神剣は今までの魔剣とは違う、刃の切り札と呼ぶべきものだ。
「それが貴様の切り札か。成程、その身に宿した神の力を武具に置換したか…………だが、身の丈に合っていないようだな」
(っ!野郎、時限式に気付きやがっただと!?どんな洞察力してやがる!)
神の力を解放した反動は激しく重い。最低でも三分以上、それだけであっても全身の神経や筋肉が摩耗し、吐血することでも軽度なくらいだ。限界になれば自滅しかねない以上、フリューゲルに逃げられでもすれば終わりだ。
しかし、目の前の魔王は刃の考えを察していたのか。半ば不服そうに肩を竦め、淡々と吐き捨てる。
「安心しろ、自滅を誘うつもりはない」
「っ、なんだと?」
「────言ったはずだ。神の力ごと、叩き潰すと。全身全霊を掛けて、来るがいい」
「後悔───すんじゃねぇぞッ!!」
地面を踏み抜いた刃の姿が、一瞬で消える。
見失ったかのように見えた魔王は、戦斧を軽く払う。その一閃が、虚空を薙いだかと思えば────巨大な氷塊が周囲に殺到した。冷気を伴った斬撃による、瞬間的氷結。本能的に飛び上がった刃はあと少しでその氷に呑み込まれていた。
「────」
「ッ!!」
即座に顔を上げた魔王。上空に飛び退いた刃を目で追っていたであろうフリューゲルは空いた手を彼へと向ける。瞬間、空気中を水分を凍らせた氷の槍が一斉に刃へと放たれていく。目の前に迫る無数の棘に、刃は右腕の神剣で勢いよく薙ぎ払う。
赤黒い魔力の刃、濃く練り固められた魔力により実体を持った斬撃が氷槍すらも消し去り、魔王の眼前まで届いた────所で、一瞬で凍らされた。
「はぁ!?」
思わず声に出た刃も、内心無理もないと納得していた。
アレだけの冷気を纏うフリューゲルの一帯は凍土の世界、彼処に立ち入るものはその冷気の魔力に曝され、一瞬に凍りつかされる。それこそが、魔王フリューゲルの『絶対零度』。物理法則すら歪めるほどの彼女の力は、刃の放つ魔力よりも圧倒的に上なのだ。
(関係ねぇ!なら力尽くでぇ!)
「ブチ抜く、だけだ────ッ!!」
上下に割れた両刃の内、収束する濃い魔力の奔流。神の力と本来人間の何十倍もある魔力を組み合わせた、超高火力の魔力砲が冷え切った空を切り裂き、重音を響かせて解き放たれる。神剣から撃ち出された破壊の閃光に、魔王フリューゲルは片手を翳す。
その手で、魔力の砲撃を受け止めた。いや、掌で触れることで一瞬にして凍らせていくのだろう。だが、迫り続ける魔力を消し去るには質量が大きく、勢いに晒されたフリューゲルが僅かに苦悶の声を漏らす。
「………中々、やるな」
「……………クソ」
────そして、フリューゲルは刃の放ちきった魔力砲を完全に防いだ。冷気で凍り尽くした魔力だった塊が霧散する中、フリューゲルは抑えきれなかった魔力に焼かれた腕を見つめ、感心するように呟く。肘から先の鎧が完全に破壊された腕が氷の装甲に包まれていくのを目の当たりにした刃は、心の底から悪態を吐くしかなかった。
通じてはいる、だが軽く腕を焼いた程度だ。全力の一撃すらもこの程度、これならば効かないくらいであれば希望を見出せたかもしれない。────通じるということは、それ以上の一撃ならば大ダメージになりうる、と考えれば可能性はあるか。
ならば────後は一つしかない。
(………悪いな、シノ、ラナール、ソーナ…………死ぬ気はねぇが、死ぬ程無茶する)
「やるぞ────
決意と謝罪を秘めた刃は、その言葉を告げた。ほぼ同時に、彼は自身に掛けた制限────神の力を抑制する為の魔力を消し去る。その瞬間、全身から膨大な神の力が噴き出していく。
「────ッ!!」
全身に掛かる負荷に、肉体が、骨が、神経が軋む。喉から込み上げてくる血反吐を無理矢理呑み込み、代わりに咆哮のような絶叫を響かせた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!」
「ッ!貴様────」
振るわれた神剣による一撃は、大地を割った。その一撃を回避したフリューゲルは見違えるほどの破壊力と速度に困惑していたが、すぐにその意図を理解する。
「リミッターを、肉体に掛かる安全装置を外したということか。私に届くだけの出力を引き出すとは、タダでは済むまいと思っていたが…………成程な」
「────ッ、!」
「肉体を修復する、それも神の力か。自己再生で壊れる身体を修復させ続けているとは、思ったよりも規格外な男だ」
大地の神 アストラトスから継承した神の力、『生命の恵み』。大樹の森を造り出した神の生命力に類したその力は、刃にとっては自己回復以上の能力である。
今彼が行っているのは、異常なまでの
「────面白い」
それでも尚、魔王は笑う。
神の力、それも二つを宿す剣帝を前にしても、その存在は恐れどころか戦意を奮い立たせている。立つのもやっとである刃へ魔王が向けたのは、純粋な称賛であった。
「その身を使い潰してまで私に挑む意地と闘志、称賛に値するぞ。剣帝」
「そりゃ、どうもな………ッ!」
「その覚悟に敬意を評し、我が力の真髄。その一端を披露する────凌いでみせよ」
振り上げられた戦斧に、あらゆる冷気が引き寄せられていく。勢いよく荒れ狂う吹雪が周囲を錯綜し、戦斧の先が巨大な嵐のように渦巻いていく。恐ろしいのは、氷風の中に生じる破壊力。
────マトモに受ければ、嵐によって中心へと引き込まれる。包み込まれれば最期、無数の凍気の風による氷結と真空の斬撃。破壊と停止の暴風こそが、魔王が振るわんとする奥義であった。
(あの一撃、ヤベェな────マトモに喰らえば、死ぬッ)
「なら、オレの出せる全てを────出し尽くしてやる!」
腕と同化した『
直後、剣から溢れ出す神の力の奔流。輝く赤光の刃を構えた刃と魔王フリューゲル、二つの存在が互いに睨み合う。
────技が放たれたのは、数刻を経た先であった。
「────『
「『ルミナス・ツヴァイ』ッッ!!!」
更に輝きと色を増した高火力の魔力砲が、フリューゲルが引き起こす氷結の大波と衝突する。接触した瞬間に、巻き起こされるは大規模な爆裂。ほぼ爆撃と言っても疑いようのない破壊の一撃が、氷の結界に包まれた決闘場を悉く吹き飛ばす。魔王の魔力による絶氷壁に大きな亀裂が走るほどの威力が、互いに相殺されていった。
「っ!我が一撃と相打ちとは────だが!次はどうだ!?」
そこまで追いすがることへの驚きよりも、戦士としての感覚が優先される。衝撃波と煙の世界で、戦斧を握り直した魔王が相手の出方を伺う。
しかし、魔王が感じ取る力は動いていない。先の一撃が限界だったかと推測したフリューゲルは一切の躊躇や慈悲を見せず、凍結の斬撃を振るう。空間を引き裂き、地面を走る凍氷が向こうにいるであろう刃へと────直撃した。
その斬撃が命中した瞬間に、フリューゲルは自分の狙った力の正体に気付く。
「────腕、だとッ?」
『
────ならば何処へ、そう気付いた時には魔王もいち早く反応を示していた。
「────貴様ッ」
「──────っ」
ダンッ!、と刃が魔王フリューゲルへと肉薄する。煙の向こうから飛び出した彼は、自身の片腕を切断した状態で、そのまま前へと突き進む。魔王の油断を狙うべく意図的に腕を斬り落とした刃は生成した魔剣を片手で握り、突貫していく。
不意を突かれたフリューゲルの反応速度が早く、戦斧が空高く振り上げられた。その瞬間、刃は生成能力を使用し────足元きら生成した魔剣を射する。
ロケットのように飛来する魔剣が、戦斧を押し返す。そのまま胸元へと滑り込んだ刃が、手にした魔剣でフリューゲルへと斬りかかろうと────した腕を、魔王の手が掴む。
「────ッ!?」
一瞬で、片腕が冷え尽くされる。冷気により氷に包まれた片腕から凍結が進まないように、先程射出した魔剣を無理矢理空中で再射出し、肩から斬り落とす。激痛に激痛を重ねた苦痛を堪えきり、刃は自らに宿る力を行使した。
────翡翠色の光と共に、刃の片腕が再生する。戻った手で掴んだ魔剣を振るい、魔王フリューゲルの兜へと一閃を浴びせた。
────ピシッ
「クロガネ、ジン────ッ!?」
両腕を失っても尚、闘志を途絶えない戦士を前に、魔王フリューゲルから余裕が消える。戦斧を振るった凍結の一閃を放とうとした魔王に肉薄した刃に、魔剣を振える余裕はない。そんな彼が選んだ手段は、一つ。
────頭部を、打ち付ける。
人の言う頭突きという攻撃手段は、触れ合う距離まで肉薄したフリューゲルの兜へと叩き込まれた。
「っ!!?」
────パキィンッ!!、と白銀の兜が音を立てて砕け散った。頭突きの衝撃に押し込まれたフリューゲルが、後退りする。地面に転がりながらも何とか立ち上がった刃は魔王へと向き合い────目を疑った。
「っ!?その顔────」
「…………!?」
雪景色のような真っ白な肌に氷の輝きを照らす白銀の長髪、青白い瞳。明らかに人間離れした顔立ちは────明らかに女性のものだった。雪女のような美女に一瞬見惚れた刃に、フリューゲルは驚きを隠せず…………すぐに自分の顔が露呈したことに気付き、狼狽える。
「っ!貴様!私の、顔を………よくも────いつまで見ているつもりだ!」
「い、いや!悪ぃ!ただ、綺麗だと思っちまって」
「────き、きき、綺麗だと!?貴様!殺し合っている相手を前にして何を馬鹿な────ええいっ!」
顔を隠して叫ぶフリューゲルの姿から、明らかに動揺が見えている。己の素顔を隠していたことから、何か重要な必要があったのだろうか。赤面した魔王は戦斧を掴むや否や、そのまま刃へと襲いかかった。
「な、何すんだ!?テメェ!」
「黙れ!私の顔を見た者は、生かして返さん!一族の使命の為にも!貴様には死んでもらう!」
「っ!嫌だったなら謝る!今のことも忘れるし公言しねぇ!だが殺されてはたまるか!」
「…………!」
その言葉に、フリューゲルは又もや動揺したようだった。顔を隠したまま戦斧を握るという器用なことをしているフリューゲルは「…………そうか」と短く呟き、戦斧を下ろした。
「此度の決闘、貴様に勝ちを譲ろう。剣帝、クロガネ・ジンよ。大人しく兵を引き、この場は引こう」
「ッ!ふざけんな!決着はついてねェだろ!わざわざ勝ちを譲られて、納得できるか!」
「────此度の戦い、貴様の勝ちでなければならないはずだ。違うか?」
指摘され、刃はシノ達やフェアベルゲンの事を思い出す。彼女達を救うための戦いであることを思い返し、行き場のない感情を頭を掻きむしり吐き出す。納得出来ない自身を説得させた刃は、フリューゲルを睨み、啖呵を切った。
「いいぜ。勝ちは貰ってやる────だが、次はちゃんとした形でオレが勝つ」
「────それは此方の台詞だ」
掌から放つ冷気で氷の兜を生成したフリューゲル。素顔を隠した魔王は戦斧を振り上げ、刃を強く睨み返す。
「クロガネ・ジン、人界の代表者たる剣帝よ。貴様を我が宿敵として定めよう」
「……………ッ」
「次の決闘で、貴様を完膚無きまでに打ち倒す。そして私は────」
そこまで言ったフリューゲルは何処か言葉を濁し、その場から立ち去る。堂々と背を向けて去る魔王の後ろ姿を睨み、刃は朦朧とした意識の中で、最後の啖呵を言い切った。
「その言葉返してやる────今度こそ、テメェを倒す」
「────ッ」
ふと、その言葉を耳にした魔王の姿が微かに揺れる。感情を見せずに淡々した魔王は静かに、それは静かな声で「………期待してやろう」と小さく呟く。気を失った剣帝に背を向け、その場を離れたフリューゲルは────率いていた全軍を連れ、撤退を始める。
こうして、フェアベルゲンでの魔王との戦争は幕を下ろした。
魔王フリューゲルと刃の戦い、その決着です。
ここまでやって素顔を暴くだけで終わったのが、本来の魔王との戦い。まだまだ強くならなければ勝てないという現実なのです。
そして、魔王フリューゲルの素顔は女性でした。今まで女性ってことを隠してたから描写するのが死ぬほど大変でした。素顔を隠していたことは彼女の過去というかそこまで重要なことではありません。
今回の決闘で素顔を暴くことになった刃とのフラグが、重要な訳ですが(目を逸らす)
清水の今後について
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生存その1(生き残るけど戦えない)
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生存その2(護衛組の一人として戦う)
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死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
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意識不明の重体として途中退場