ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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今回の章で同時展開していたハジメ達とタナトスの戦いはある程度省略しました。いや、ね………ワシが思いつく限りだとミレディ戦とそんな変わんねぇなってことで…………許して(切実)


決着と違和感

「ジーン?私は怒ってるんだけど?」

 

 

………どこぞのロボット作品で別の世界線を作りそうな名前だな、と呑気に思っていた刃は現実逃避に明け暮れていた。目の前で凄い勢いで憤慨している少女ソーナの剣幕を直視できない。したら本当に負ける可能性しかない。

 

 

「約束通り勝ってきてくれたことは嬉しいわ。でもね、気絶するほど無理をするなんて可笑しいと思うのだけれど?」

 

「お、おっしゃる通り………」

 

 

上擦った声で言う刃は、ソーナの前で正座するしかなかった。事は目覚めたばかりの当時に遡る。大神アストラトスの力を受け継いだこと、魔王フリューゲルの進軍を阻止したことをアルフレリック達から感謝された直後だった。

 

 

『────ジン、座って』

 

 

凄まじい怒気を発する王女の姿に、刃は無意識に地面に正座した。この感じの怒り方からして、マジの方のキレ方である。怯え半分でソーナからの説教を受けてから、もう十分は経っている。

 

亜人族の皆も、流石にキレ具合にオロオロと戸惑っている。最初慕う教官の危機ということもあり、「まぁまぁソーナ殿」と堂々と口を出したカムであったが、「ちょっと黙っててください」と感情の無い一言を受け、すごすごと下がっていった。気の所為か、ハジメに強制される前の弱々しい姿に戻っているように見える。

 

これ以上は流石に、と刃はふと周りに助けを乞う。当然、ソーナの気迫に気圧された亜人族一度は知らんぷりに徹している。薄情な奴等だ、という不平を呑み込んだ刃は、ふとソーナの近くに立つ二人の少女に助けを求めた。

 

 

「シノ……!」

 

「主様………今回は、反省して」

 

「ら、ラナールっ!」

 

「あはは………ごめんなさい」

 

 

あ、あれーッ!?と情けなく狼狽する刃。既に孤立奮迅に立たされることを悟った彼の顔が一気に蒼白へと変わり始める。見ず知らず他人相手には強気で接する不良だが、内面が善人であるために身内関連では強く出ることすら出来ない。

 

遂には必殺の切り札、土下座を行使するかと冷や汗混じりに思案していた刃であったが、ソーナがふと笑ったかと思うと両手を叩いて、

 

 

「はい!終わり!これに懲りたら無茶しすぎないようにね!」

 

「は、はえ………?許された………!?」

 

「だってこんな風に怒るの私苦手だし!こうしてるのが私って感じだからねッ!」

 

 

快活に笑うソーナの様子から怒気は感じられない。本当に許されたことに心からの安堵の一息を漏らす刃、なんか長い気がするのは相当怯えていた証拠だろう。

 

 

「だからもうあんな風に一人で頑張ってぶっ倒れるまで無理しないでよね!これもちゃんとした約束だから!」

 

「………………無理じゃないかなぁ」ボソッ

 

「ん?」

 

「善処しまぁす!!」

 

 

にこやかな笑顔が今では凄い怖い。善処するだけで確約しない時点で、コイツのお人好しと自己犠牲具合が見て取れる。シノ達もそれを理解してか半ば呆れた眼差しを向けていた。

 

 

「────って言われてもなぁ」

 

 

貸し出された自室に戻ってきた刃は、服を脱ぎながら愚痴をこぼす。何処まで不良ぶっても、根の真面目さと善良さだけはどうしようもない。傷口を覆っていた包帯を取り替えようとしたその時、彼は自らの身体に起きている変化に気付いた。

 

 

「………?白髪?」

 

前髪の一部に生じた白髪。部分的な変化に戸惑う刃は、最近ストレスを溜め込みすぎたかと自身を納得させた。そうして包帯を外した所で、次の変化に更に混乱した。

 

 

「傷が…………ねェ?」

 

 

腹部を貫通したはずの傷跡が綺麗に消え去っているのだ。傷が塞がった、なんて生温い話ではない。最初から傷などなかったように、無くなっているのだ。どこか違和感を拭えぬまま、刃は傷のあった場所を見つめることしか出来なかった。

 

 

◇◆◇

 

 

強国バーゼルの王都、その奥に連なる白城 ツヴィンク城。初代氷帝 ツヴィンクが築き上げたこの城はツヴィンクの血統、氷帝の末裔にまで永らく引き継がれてきた。

 

初代氷帝ツヴィンクの死から千年間、強国バーゼルは強者達による闘争が続いていた。永き内戦を終わらせたのは、他ならぬフリューゲル本人である。バーゼルの王として、魔王になったフリューゲルは、数百年の統治に徹してきた。

 

 

「────やはり、静かなのはいい」

 

 

私室から国を見渡した白銀の美女 フリューゲルはそう呟く。いつものような鎧ではなく、簡素なコートに身を包んだ彼女は机の上に置かれたワインをグラスに注ぎ、一口含む。

 

────生まれた時から、この国は常に殺し合いに明け暮れていた。居るべき王の居ない国で、王座を求めた強者たちの殺し合い。血で血を洗い、咆哮と怒号が響く毎日を、フリューゲルは妹達と共に過ごした。

 

いつ殺されるか分からない日々に怯える家族の為に────フリューゲルは強くなった。ただひたすらに、誰よりも強く、誰にも負けず、彼女は魔王となった。

 

────そして今は、人類虐殺の尖兵として立っている。怒りや憎しみなどではなく、親友とその兄への義理として。

 

 

「────アクシアは、こんな私を軽蔑するか」

 

 

魔神族の巫女、アクシア。大魔王であるアルヴァーンの、双子の妹であり、魔王フリューゲルが信頼した親友。数百年前から人類との融和を考えていた彼女は多くの魔人族から慕われるほどの優しさを持ち、フリューゲルや同じ魔王────ガイアドゥームすらも、彼女の理想に期待していた。

 

だからこそ、邪神エヒトと人類に彼女を殺されたことで、全ての魔人族が憎しみに駆られた。今まで多くの同胞が殺されてきた怒りが、崇拝する巫女の死によって歯止めが効かない殺意と化した。

 

そして、フリューゲルは見たのだ。

妹の死により、優しかった大魔王が壊れたのを。多くの恨みと怨嗟を取り込み、戦争を体現する魔神となった────大魔王の姿を。

 

 

(少なくとも、同胞を切り捨てない限りは与するとしよう。だが、もしもの時は────)

 

 

親友の為にも、大魔王に矛を向ける覚悟はある。

フリューゲルは人類に良い感情はないが、族滅する程の恨みはない。彼女が敵視するのは、親友を殺した教会と邪神エヒトのみ。

 

魔神として大魔王が暴走するのであれば、命を以てでも殺さなければならない。それこそが、フリューゲルの魔王としての覚悟であった。

 

 

────しかし、そんなフリューゲルにとって。一つだけ、たった一つだけ、個人的な私情があった。

 

 

「クロガネ、ジン…………」

 

 

唯一、自分に食い下がった人間の戦士。神の力を宿す剣帝、危険因子の一つとして大魔王の参謀 フリードが警戒していたのを思い出す。強ち間違いではなかった、それどころかいずれ自分達魔王に────大魔王にすら届き得る強さと可能性を持った、勇士。

 

宿敵、として見ていたのは事実だ。しかしあの戦いの最中、兜を叩き割られた瞬間、フリューゲルの価値観は全く別物に変わっていた。それは、彼女の一族の風習がよく関わっている。

 

 

────いいか、フリューゲル。ツヴィンクの戦士となった者は、戦いの中で生き、戦いの中で死ぬ。それは女であっても同じだ。

 

────だが、例外はある。己よりも強き戦士に負けたとしたら、その男と契りを結ぶのがツヴィンクの定め。

 

────強く生き、強き子を生む。我が祖ツヴィンクも、そうして生まれたのだ。

 

 

一度武器を取った戦士として、フリューゲルは父から教えられた一族の風習を忘れたことはなかった。そして、彼女は誰にも負けたことはない。例外は同じ魔王や仕えるべき大魔王に、親友のアクシア。数百年、無敗を誇っていたフリューゲルは生涯孤高で生きることも考えていた。

 

────だが、そんなフリューゲルの前に現れた。自分に届きうる強さを秘める青年が。一切の負けを疑わず、立ち向かう勇士の男が。

 

 

(私は魔王。女としての生き方は捨てたと思っていたが………あの男ならば、悪くはない)

 

 

ワインの入ったグラスを揺らしたフリューゲルは、ふと目蓋を閉ざす。少し酒の入った自分の考えが何処か可笑しいという自覚があるのか、少し顔を赤く染めた彼女だったが────いや、別の事を脳裏に過ぎらせていた。

 

 

【次の決闘で、貴様を完膚無きまでに打ち倒す。そして私は────『貴様を私のものにする』】

 

 

かつて呑み込んだその言葉の先、純粋な戦士として、男として気に入ったフリューゲルの脳裏に過った言葉。数百年、色恋や愛などとは無縁であったフリューゲルなりの宣戦布告(プロポーズ)

 

それに対して、啖呵を切った青年の言葉を、フリューゲルは忘れられるはずもなかった。

 

 

【その言葉返してやる────今度こそ、テメェを倒す】

 

「……………フフッ、楽しみだ」

 

 

宿敵────否、自らが認めた男との再戦を、フリューゲルは二つの意味で心待ちにしていた。微笑みを深め………俗に言うすごいニヤニヤしながら、であるが。

 

 

◇◆◇

 

 

────そして、ライセン大迷宮。

 

 

「ギィアアアア────ッッ!!!?」

 

 

死の魔王、『死神』タナトス・タルタロスがけたたましい悲鳴を響かせる。丁度死神の胸を杭で撃ち抜いたハジメは、空中で落下しながらいい気味だと笑う。

 

 

タナトスとの戦いは、苛烈を極めた。死神の放つ魔力はまるで自我を持つかのような流動体であり、周囲を動き回りながら魔力の鎌を生成する。空中を翔び回り、鎌による斬撃を撃ち続けていく。

 

そして、何より恐ろしいのはタナトスの持つ魔王の魔力。『死』の概念を担うその力は、一度解き放たれただけで周囲の全てに死を与えていた。生物も、無機物も関係なく。

 

そんな魔王相手に、ハジメ、ユエ、シア、グアンは健闘してみせた。何とか必死に喰らいつき、遂にタナトスに致命傷を与えるに至った。

 

 

────しかし次の瞬間、停止した死神の身体が無数のコウモリと化して飛び去っていく。消えるコウモリの群れに追撃をするハジメに、魔王の嘲笑が向けられた。

 

 

【────キキキキッ!よもや、よもや!余をここまで追い込むとは恐れ入る!痛いのは辛い!悪いが予定が変わったのでな!神代魔法はくれてやろうではないか!】

 

「………逃げる気か?」

 

【逃げる?違うなぁ!見逃してやるのだ。余は実に寛大、余は実に偉大!故に、余裕があるとも言う!羽虫のように、許されたことに満足しながら、生を為すと良い!人の子よ!】

 

 

ケタケタという笑い声に、ハジメはそれ以上の悪態を向けられなかった。彼自身、分かっていたのだ。あの魔王が恐らくは全力ではないことを、本気ではあったが本来の力を出し尽くしている訳では無かったのだ。

 

だが、様子が可笑しかったのも事実。最初は殺す気でいたはずのタナトスは、途中から手を抜くような様子が見られた。先の、『予定が変わった』という発言から見て、何か考えがあったのだろうか。

 

 

────さて、ここで一つの問題になる。

迷宮の攻略を果たしたが、肝心の攻略者であったミレディ・ライセンが殺されてしまった。厳密にはゴーレムに乗り移っていた彼の者が消えたということだろう。何処か嫌な予感をしながら神代魔法を探そうとしたハジメ達を出迎えたのは、

 

 

「やぁやぁ!まさか魔王を退けてくれるなんて!嬉しい限りだよ」

 

 

死んだはずの、ミレディ・ライセン────彼女の魂の込められたミニサイズのゴーレム。ニッコリマーク付きの姿をしたヘンテコな見た目にハジメ達一同は絶句するしかなかった。

 

そして、ここぞとばかりにウザさを見せるミレディに次第にイライラしてくるハジメ。魔王を退けた大義名分を盾に適当に脅すことにしたが、彼女はハジメの要求の大半を聞き入れた。

 

 

「うん、いいよー。君達に神代魔法をあげちゃう」

 

「…………ヤケにアッサリしてるな。いいのか?」

 

「まぁ本来は私のゴーレムで相手したかったけど、魔王を倒せる実力があるなら十分だよねぇ。まぁ私としてはあのクソ野郎………ついでに大魔王も倒してくれるなら、特に良いかなって」

 

 

ミレディから与えられた神代魔法────重力魔法を手に入れたハジメ達。唯一適性が高いのはユエのみであり、ハジメやシアは驚くほど適性が低いらしい。聖霊であるグアンはそもそも対象外であるが。

 

攻略の証を受け取ったハジメだが、そこで引き下がるようなタイプでは無かった。オルクス大迷宮で沢山手に入った報酬を引き合いに出し、ミレディが溜め込んでいた鉱石や素材を引き渡すように迫る。

 

流石に狼狽えていたミレディだが、迷宮攻略と思っていたら魔王と戦わされたハジメからすれば、必要な対価だと言わんばかりの不遜な態度である。泣き言を言いながら、宝物庫の鍵を開けようとしたミレディであったが、ふと何かを思い出したように妖しく笑う。

 

 

「そう言えば!君達に渡し忘れてるものがあったよ〜!」

 

「あ?渡し忘れ?何だか知らねぇが、役に立たねぇものなら要らないぞ」

 

「ふっふっふっ〜!必要不可欠だよ、君達にとって、ね!」

 

 

そう言ってミレディは、振り向き際に何かを放り投げてきた。放射線を描くように落下したソレに、ハジメは見覚えがあった。かつてオルクス大迷宮の最深部で触れた、半透明のクリスタル。

 

間近まで迫ったソレを掴んだ瞬間、ハジメ達の意識が明転した。

 

 

◇◆◇

 

 

「やあ、久し振り」

 

「うげっ、今度はアンタか」

 

 

真っ白な世界で、彼の者『リヒト』は待っていた。

退屈していたのか、ハジメ達を目にした瞬間嬉しそうに微笑んだ男を他所に、ハジメの方は露骨に面倒くさそうな顔を顕にした。

 

その顔から何かを察したのだろう。リヒトはしたり顔をしながら、ハジメに問い掛ける。

 

 

「おっ、その顔はアレだね………ミレディちゃんのとこを攻略したと見る。彼女、中々に面白い子だろう?」

 

「アンタとは違う意味でウザかったよ」

 

「それが彼女の在り方だから、仕方ないね…………ん?私ってそんなにウザいかね?」

 

 

事態が飲み込めずにハジメに寄り添うシアやユエを尻目に、ハジメはこれ以上の御託は控える事にした。代わりに、核心を突く話題を口にする。

 

 

「魔神ってのは、何だ?」

 

「……………」

 

「少し前に、タブリスって奴の眷属に襲われた。ただの魔物とは違う、明確な悪意とか気持ち悪い感じが強かった────改めて聞く、魔神ってのは何だ?奴等はどうやって生まれる?奴等の目的は、何なんだ」

 

「厄災だよ、アレは」

 

 

端的に、忌まわしいと言わんばかりに顔を歪めたリヒトが吐き捨てる。彼にしては感情的な、どこか嫌悪感以上の怒りや憎悪が込められている気がした。超人的かつ達観した思考を持つ彼にしては、随分と異様な態度であろう。

 

 

「あまねく生命を否定し、あまねく文明を塗り替え、あまねく世界を滅ぼす崩壊の意思。多次元世界、こことは違う世界でも厄災として恐れられているモノさ」

 

「分かりにくい。もっと端的に、鮮明に教えろ」

 

「────世界を生きる存在の敵さ。魔神は、全てを破壊し、全てを否定するために動き続ける。この世界も、破壊の世界も含めて…………絶滅機構、と我々は呼んでいたね」

 

 

いわば、自然現象───終末装置のようなものである。生まれた瞬間に根底にある破壊衝動のままに世界を滅ぼし、次の世界も滅ぼし喰らっていく。そうすることに理由や目的があるわけではない、魔神は世界を滅ぼす存在なのだから。

 

 

「魔神は単独で世界を滅ぼし、歪める力を持つ存在だ。君達が元の世界に帰れない理由も、魔神の力によって本来存在する世界と世界の壁が湾曲してしまっていることにある。このトータスを中心とした、力場の狂った特異点と化しているのさ」

 

「存在するだけで世界自体を歪ませる力?そんなの、神でも出来ない。出来たとしてもそれは………」

 

「世界と同じ質量の力と魔力を有している。いわば、小規模の世界を内包したモノだとも。本来であれば、魔神は世界全てが団結して太刀打ちできない相手────文字通り、世界規模の敵だからね」

 

 

そんな存在が複数も顕現しているこのトータスが特異点と化すのも無理はない。間接的とはいえ、ここまでの事態を引き起こしたクセに隠れているエヒトへの怒りは十分あるが、今隠れていることにだけは感謝しなければならない。

 

魔神達が明確に動いていないのは、エヒトを殺していないからである。彼ら、魔神連合はエヒトが消えてしまえば一瞬で瓦解し、魔神達の殺し合いになる。そして生き残った魔神が、この世界を喰らい、滅ぼすのだから。

 

 

「魔神は存在した瞬間、『概念』を秘める。己の存在意義とも呼べる記号を刻み、魔神は破壊と殲滅を繰り返す。『戦乱』であれば大規模な戦争による死と破壊を、『混沌』であれば全てを『混沌』に堕とし────『破滅』は文字通り、何もかもを『破滅』に導く」 

 

『双対』は、矛盾を内包した魔神である。救済を口にしながら、破滅を願う。他人に慈悲を向けながら、憎悪を振りまく。そんな魔神達は今も虎視眈々と、自分が世界を滅ぼせることを伺っている。誰に言われたわけでもない、それしか望みがないのだ。

 

 

「魔神が生まれる要因は複数ある。あらゆる例外的可能性も、無くはない。だが我々としても、明確に分かっていることがある。魔神に成り得る器────災厄の器と呼ばれる者達がいることを」

 

「災厄の器?」

 

「魔神になる可能性、適性を持つ者のことさ。因みに言えば、魔神になる素質を持つのは人間だけじゃない。条件さえ揃えば人間以外の生物や無機物だって、新たな魔神になることも有り得なくない」

 

 

つまり、魔神として生まれた者はほとんどいない。殆どの魔神が元は人間であったり、普通に生きていたのだ。何かの偶然か因果により、全てを失った

 

 

「無論、それだけで魔神になることはない。真に魔神を作り出すのは────『声』だ」

 

「こ、声………?」

 

「一体何なのかは、我々にも分からない。だからこそ、『声』と。ただ確実なのは、その『声』が災厄の器を選び、語りかけ、その者を魔神として羽化させること」

 

 

リヒトの声の怒気が、そこだけ強くなった気がした。

彼が魔神に向けていた嫌悪や憎悪の矛先が、間違いなくその『声』に向けられているのは明白だった。

 

説明を聞いてある程度納得していたハジメは、さっきから抱いていた疑問を吐露した。

 

 

「さっきから随分詳しいんだな。実際に見てきたみたいな言い分じゃねぇか」

 

「────視たんだよ、実際にね」

 

 

淡々と語られたその言葉は、リヒトにとって見たこともない感情を秘めていた。『絶望』、その一言で済ませられるほど濃く込められた感情は、リヒトにとってどれだけ大きいことか知らしめているようだ。

 

 

「さて、ひとまずこれで終わりだね。次は何からか話そうか………ああ、彼について離そうか」

 

「………彼?」

 

「私の見た、魔神になった者────かつては解放者の一人だった者のことさ」

 

「っ!今いる魔神が、解放者の一人だと!?」

 

 

流石に驚きを隠せないハジメ。彼等の生い立ちや末路を知れば理解できなくないが、一体どの魔神がそうなのか。考えてみたが、ハジメとしても思い当たるのは一人しかいなかった。

 

 

「────大魔王」

 

「ああ、戻る前に一つ忠告しておこう」

 

 

突如、笑みを浮かべたリヒトがそう切り出す。今度は何だ、と肩透かしを食らったハジメが呆れたように聞き返すと、彼から告げられたのはある意味予想してなかった言葉だった。

 

 

「ここから戻る前に、一呼吸しておくことだね。君達、今水の中にいるから」

 

「……………は?」

 

「ミレディちゃんに流し出されたんだろうねぇ。根こそぎ奪おうとするのは、これで懲りた方が良いと思うよ」

 

 

そんな言葉の直後、ハジメ達の意識が再び暗転する。目覚めた彼等はやはり水流の中で、迷宮の外へ押し出されている最中であった。

 

 

─────南雲ハジメ一行────七大迷宮の一つ、ライセン大迷宮攻略完了。

 

 

─────■■■の欠片、回収。残り八────七個。

 

 

◇◆◇

 

 

「まさか、私達の試練を乗り越える者がまた現れるなんてね………時代に託す選択肢をして良かったと思うよ」

 

 

ライセン大迷宮最深部、迷宮の様相とは変わったその部屋はミレディの私室とも呼べる場所であった。肉体を失い、ゴーレムの身体で生き永らえていた彼女には、そうしなければならない理由がある。

 

一つは、解放者としてエヒトを倒す為、彼女はその為にだけに肉体を捨てた。数千年の時を生き続けたのも、かつて果たせなかった誓いを果たすという強い意志があってのものだ。かつての仲間達が死んでいく中、解放者のリーダーであったミレディは仲間と誓った使命を果たすために、ここまで生き続けてきた。

 

それが果たされれば、死んでもいいと思っていた────あの時、自分達の協力者から伝えられた言葉がなければ。

 

 

『────彼が、魔神になった』

 

『………………は?』

 

『アクシアちゃんが、殺されたことで限界だったようだ。彼は魔人族を率いて、人類を虐殺するつもりらしい』

 

 

嘘だ、とミレディはその話を信じなかった。彼女は知っていた、かつて共に過ごしたあの魔人族の双子のことを。彼等は、魔人族と人間族の融和を願っていた。兄も、約束したのだ。魔人族たちの王様になって、皆と今度こそ幸せな世界を掴めるように頑張ると。

 

そんな彼が、人類を滅ぼすなどあっていいはずがない。そんなことが、現実であるはずがない。何度も願ったことだが、現実は現実、何も変わらなかった。

 

 

「────どうして、こうなっちゃったのかな」

 

 

ポツリと呟いた彼女は、壁に立てかけられた写真を撫でていた。かつての仲間達、解放者の思い出を残した紙切れ。そこに写る仲間の姿────かつてのミレディ・ライセンとオスカー・オルクス、二人の前に寄り添う魔人族の双子────人間族と変わらない見た目を持つ、二人の少年少女の姿は今も懐かしかった。

 

 

『ボクは、ミレディお姉ちゃんのように皆を導きます。導いて、誰も争わなくていい優しい世界を作るから………頑張って、ください』

 

「………アルくん」

 

 

自分を姉のように慕ってくれた双子、ミレディも双子の事を実の弟と妹のように見ていた。オスカー達はそれに呆れながらも、満更でもない様子だったことは、いつでも思い出せる。

 

だが、この光景はもう二度と戻らない。オスカー達は既に亡くなり、双子────アクシアはエヒトに殺され、アルヴァーンはその絶望と怒りで、魔神になってしまった。写真に写る笑顔の少年を見つめ、涙を流せないゴーレムは震えた声で呟く。

 

 

「もうちょっと、待ってて。お姉ちゃんが────止めに行くから」

 

 

◇◆◇

 

 

「────これで最後か。人形も歯応えがない」

 

 

燃え盛る教会の中で、一つの影が切り裂かれた。焼き焦げる建物の残骸の上に落ちたのは、銀髪の戦乙女────使徒と呼ばれる、エヒトの人形だ。

 

両断された戦乙女の身体が、一瞬で炎に呑まれる。周りの死体も同じように焼き焦げた死体ばかりであった。それを実行した男、褐色肌の魔人族の男は槍を軽く振るい、辺りに生命の気配がないことを確認する。────そして、一人だけ死に損ないの存在に気付く。

 

 

「っ────ァ」

 

「………まだ生きていたか、とっとと死ね」

 

「『王域』………ッ」

 

 

焼き焦げながらも魔法を放とうとした戦乙女は、今度こそ爆炎に呑まれて消え去った。『王域』と呼ばれた男は、今度こそ全てが死に絶えたことを確認してから、教会の地下に行くための階段を降りていく。

 

その男が辿り着いた先には、先客がいた。

 

 

「カカッ………お主か。もう終わったようじゃな」

 

 

杖をつく、腰の曲がった老人。何らか作業中と思わしき魔人族の老人は手を止め、男へと声をかけた。当の男は老人を見るや否や、目を細めて言葉を投げ掛けた。

 

 

「そういう貴様は、まだ手間取っているか?封印の解除、思ったより手強いようだな」

 

「抜かせ、若造。こういう作業は慎重さと精密さが肝のなのだ。お前のような粗暴な男には、分からんかな?」

 

「老獪め。灼き殺されたいか?」

 

 

カカッ、相変わらず野蛮じゃのう、と老人は軽く笑うのであった。恐らく本気で殺すつもりはないと察した故の行動であろう。食えないジジイだ、と吐き捨てた男は老人の前にある物体を見上げた。

 

 

「これが、エヒトの切り札か。こんなものを、良く手に入れられたな」

 

「カッカッカッ!全てはフリューゲル様達が大きく動いてくれたお陰!故にこの神造兵器を手に入れられた!………が、問題もある」

 

「例の封印か」

 

 

老人が頷き、手元を動かす。目の前に鎮座する巨大な影の表面に、無数の魔法陣が展開されていた。何らかの封印術式、恐らく強力なその封印を前に、老人は肩を竦めるしかなかった。

 

 

「この封印術式、古来より生きる竜人族しか分からぬ。解除するとなれば、太古の技術を持つ竜人族────族長かその末裔でなければ、どうしようもない」

 

「竜人族………確か、クレイド様も竜人族の末裔と聞くが。あの御方では無理か?」

 

「武人に学を乞うのか、お主は。………それに、あの御方は殺戮の化身。そのような術とは無縁であろう、代わりに禁術を使っているようじゃが」

 

ならどうするつもりだ?と男は問うた。全てはこの老人の誘いがあって乗ったもの、もしうまく行かないのであればこの機に殺してやろうか、と考えていた所で、未だ余裕を崩さない老人が笑いを零した。

 

 

「案ずるな、宛はある。混沌の魔神じゃ」

 

「混沌………ファウストか」

 

「ウム、丁度ファウストの支配下にある人間が竜人族を見つけたらしい。洗脳して操るらしいから、その時に聞き出せば良かろう」

 

「…………信用できるのか?敵対関係の魔神だろう」

 

「信用など必要ない。必要なのは、利用できるかどうかじゃろうて」

 

 

そこだけは同感だ、と男も応えた。彼にとって大義も理想も復讐も、どうでもいい。自分が強くあれるか、どれたけ戦いに明け暮れることができるかだけが全てだ。自分を打ち負かした大魔王との最善の機会を得るためであれば、人間を何千、何万でも殺してみせる。

 

 

「────カカカッ!彼の神が創り出し、制御できなかったとされるこの『エンキ』さえ手中に収め、自在に支配することが出来れば!大魔王様の勝利も違いなぁい!見てくだされ!大魔王様!人類との戦争を終わらせるのは、貴方様直属の『王域』たるオーゼンハイトでございます故ッ!」

 

 

高らかに笑う老人の声と共に暗闇に包まれた地下が照らされる。無数の鎖と半透明な魔法陣に包みこまれた、巨大な人型の塊。『エンキ』と呼ばれたその兵器は身動ぎすることはないが────静かに脈動を続けていた。




刃「???????」(何も知らない間に惚れられていた黒鉄刃さん)

まぁ今までそう経験してこなかったフリューゲルに対して、どストライクだったからなぁ(強い、根は優しい。あと綺麗とか抜かしてた)あと種族的アマゾネスに近しい弱肉強食主義が根強いんで、戦いの中で相手を認めるってのも強い。


本編でも話した通り、フリューゲルは戦争に積極的だけど、虐殺に対しては反対。大魔王がそれを命令するなら、クーデター起こしてでも止めるって派。因みに他の魔王とは言うと、

クレイド←虐殺肯定派、何なら止めるなら味方でも容赦しない。率先して皆殺しにするほどの過激派。

ガイアドゥーム←否定寄りの中立。虐殺に関して思うことはあっても大魔王の命令に逆らうつもりはない。強いて言えばやりたくはないらしい。

ダンテ←興味なし、徹底的な中立。

冗談抜きで大魔王がいるから内ゲバしてないような連中。武人気質のフリューゲルやガイアドゥームと人間憎しのクレイドとか相性が悪すぎるし。


そして、大魔王ことアルヴァーンもとい妹のアクシアも元解放者ってことですが………あまりにも可哀想になってきた。元々は人類と共存するために頑張ってきたけど、妹の死と共に壊れたと同時に魔神に覚醒してしまった大魔王。

ありふれ零で言う、ミレディの弟分みたいな末っ子扱いだったもんで…………可愛がっていた弟が壊れて、人類の敵になったってミレディが原作以上にお労し過ぎる…………

そして、最後に出てきた連中────『王域』について解説。


『王域』
大魔王直属の魔人将の名称。六人で構成されており、内一人であったレヴィは殉職。リーダー格を務めるのはフリード・バグアー。立ち位置は大魔王の親衛隊のようなもの。

フェアベルゲン編はこれに終わり、次回から新章に入ります!それでは!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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