ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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第四章 女神、虚数そして混沌
湖畔の町での再会


当初の目的を果たすべく、フェアベルゲンを発った刃達。町を通り、ソーナ達と旅を続けながら向かった先は────湖畔の町 ウルだ。情報収集以外にも、明確な目的があった。

 

 

「よっ、ハジメ。少しぶりだな」

 

「ああ、待ったぜ────刃」

 

 

町の外で、彼は親友と合流した。色々な経験をした彼等が合流できたのも理由がある。魔力探知により近付いてくる親友の存在に気付いたハジメが、折角だから合流しようとドローンで接触してきたのだ。お陰で、刃達もこうして通り過ぎることなく合流することができた。

 

 

「色々と情報共有してぇし、丁度いいから飯にするか」

 

「ん、良いぜ。どの店にする? オレが奢るぜ、親友」

 

「俺にも奢らせろよ、余裕はあるしな」

 

 

そう言って、宿屋に入る一同。2つのチームということもあり、大所帯になるが、幸いに宿屋の方も余裕があった。大人数用の座席に座ったハジメと刃は、互いに情報共有を始める。

 

 

「────俺達が居ない間に、魔王が来てたのかよ。とんだ入れ違いだな」

 

「だ、大丈夫だったんですか!?父様達も強くなったとはいえ、相手が魔王の配下なんて…………!」

 

「…………あぁ、えっと………」

 

 

魔王フリューゲル侵攻の話に、気が気でないシア。そんな彼女の不安そうな様子に、刃達はどう返すべきか言葉を詰まらせた。言葉を濁す彼等の反応に更に不安になるシアであったが、ラナールが何とか吐き出した言葉に言葉を失うことになった。

 

 

「その………善戦してました」

 

「えっ」

 

「それどころか、相手側の方が戸惑ってた。一部だと戦意喪失してたのもいたみてぇ」

 

 

ほぼフェアベルゲンの前線を押し返したのは、ハウリア族の実力あってのものである。ハウリア族に足を向けられんな、と苦笑いしていたアルフレリックの言葉を思い出しながら答えた刃に、全員の視線がある者を捉える。

 

当の本人────ハウリア族を修羅に鍛え上げたハジメは口笛を吹いて目を逸らした。彼にしては、流石にやりすぎたと思っているのだろう。既に手遅れではあるわけだが。

 

 

「それより………迷宮攻略したんだってな。どんな魔法を手に入れたんだ?」

 

「ああ、重力魔法だ。マトモに使えるのはユエだけになるが」

 

「重力?クライスさんと同じヤツか?」

 

「そうだが………誰だよ、クライスって」

 

 

親友の事を案じて、咄嗟に話題を振った刃。素直に答えたハジメの一言に、刃とソーナは思わず目を見合わせた。言っていいのか迷ったが、どうせ誤魔化しても意味ないと分かっていたので暴露する。

 

 

「ヘルシャー帝国、だっけか。そこの……」

 

「皇帝の人、だよね!」

 

「は?皇帝が?…………エリュシオンといい、この世界の王様って戦える奴多いんだな」

 

 

んなわけあるか、と他の王たちがこぞって言いそうな感想であった。しかしハジメ達からすれば、魔王や大魔王という奴もいるので、そんな感想になるのも仕方ないのである。

 

そんな風に世間話をしていると────ふと、個室を覆うカーテンが開かれた。その相手を見た瞬間、刃は思わず呼吸を忘れる。

 

 

『────』

 

「テメェ、イクス────!」

 

 

顔を隠す機械的なマスクが特徴な男、『滅却者(イレイサー)』イクス。かつて王都で殺し合った男の介入に、刃は魔剣を生成して斬りかかる。だが、イクスの対応も早かった。

 

────互いの武器が、眼前で止まる。刃の額にはイクスの構える銃口が、イクスの喉元には黒い魔剣が────そして、その背後に移動したハジメがドンナーを構えていた。

 

 

『………二人か。此方が不利ということか』

 

「誰の親友に手ぇ出そうとしてんだ、テメェは」

 

「待てよ、ハジメ────殺す気がねぇな、テメェ。何の用だ」

 

 

何時でも引き金を引きかねないほどに殺気立つ親友を宥めた刃は、警戒しながらも問い詰める。当のイクスは撃たれることを恐れていないのか自身の構えていた銃を下ろし、淡々と口走った。

 

 

『話をしに来た。お前達にとっても、無関係ではない』

 

「話だと?そんなもんを素直に聞く理由はねぇよ」

 

『────お前達異世界から来た者の誰かが、魔神になる可能性があると言ってもか?』

 

「何だと?」

 

 

その問いにハジメは思わず耳を疑った。対象的に、刃の方が不機嫌そうになる。クラスメイトを口に出されたことがそれほど気に入らないのか、先程までの冷静さを忘れたように食い付いた。

 

 

「馬鹿言うんじゃねぇ、人が魔神になるわけねぇだろ。俺達の、クラスのことを知りもしねぇで何ふざけたことを────」

 

「異世界、って言ったな。お前も、異世界から召喚されたのか?」

 

ハジメの疑問にようやく刃はその事実に気付けたらしい。仮面を外したイクス、銀髪赤眼の青年は無表情のまま話を持ち掛けた。

 

 

「────魔神について、知りたいだろう?情報交換をしたい」

 

 

そうして、更に大人数となった食卓。幸いなことに増えたのは二人だった為、そこまで狭くはない。イクスとその相方────ノインと名乗った女性に、ソーナやシアは特に臆することなく接していた。そんな少女たちの対応とは他所に、刃やハジメは警戒を緩めずにイクスに詰問する。

 

 

「まず聞かせろ。何でお前は協力する気になった」

 

「………何故とは?」

 

「先生を殺そうとして、俺の腹を撃ったテメェが、何の意図もなく手を組むつもりとは思えねぇ。何かの理由がなきゃ、可笑しい」

 

 

その瞬間、ハジメから凄まじい殺気が溢れ出す。今すぐ殺すと言わんばかりの彼を、ユエが必死に落ち着かせる。助かる、と吸血鬼の少女への感謝を送った刃はイクスの答えを待つ。

 

手元の紅茶を啜ったイクスは、恐れることなく答えを語った。

 

 

「────その件については謝罪する、オレも少し焦っていたのでな。理由に関してなら………お前達が魔神の眷属に襲われているのを、見たからに過ぎない」

 

「タブリスの………見てたのか」

 

「この世界には複数の魔神が顕現している。オレの目的を果たす為に、他の魔神を倒せる戦力は必要だ。敵対するよりかは、手を組む方が有効と考えたまでだ」

 

 

嘘ではないのだろう、そう確信した刃とは対象的に、明らかに警戒を緩めないハジメ。彼はその疑惑の根幹たるある謎に、切り込んだ。

 

 

「その前に、お前は何者だ?」

 

「イクスと、聞いてるはずだ」

 

「そうじゃねぇよ。魔神の事に詳しいのも可笑しいが、何より気になんのはその武器と装備だ。明らかに、俺達と同じ世界の技術力じゃねぇ」

 

 

イクスは異世界からの召喚者、と言った。つまり彼は異世界に関係する人間であることは確か。ハジメや刃の見た限り、彼の装備は自分達の世界の技術より発展したものだ。

 

それはつまり、彼は異世界の存在を知る世界から来たことを意味する。

 

 

「────アステロイド021」

 

「は?」

 

「観測者と呼ばれる、多次元世界を観測していた世界。あらゆる世界に干渉し、世界の調和を保つ世界………それがオレの居た世界だ」

 

 

彼が語った事実は、あまりにも予想外過ぎた。

文明的にも高度に発展した近未来の世界 アステロイド021。多次元世界観測調停機関────『ORVAS』加盟の世界の一つ。異世界を知るなんて話ではない、時には異世界にも干渉するほどの世界だったのだ。

 

 

「オレ達は、魔神という存在に対向するために他の世界に干渉していた。時にはエージェント、『滅却者』として魔神排除の任務に出ていた。オレも、その一人だ」

 

「その言い方………まさかとは思うが」

 

「既にオレの世界は滅びている。いや、滅ぼされた。生き残りはオレと『奴』だけだ」

 

「『奴』………?」

 

 

俯いたイクスは、胸元からペンダントを取り出した。微かに黒い線が刻まれた写真に写るのは二人組の姿である。黒い長髪の女性の隣で膝を付くイクスの姿。二人の姿は騎士と姫のような、主従関係があるように思えた。

 

 

「『奴』は、オレの世界を滅ぼし、オレから全てを奪い去った。そしてこの世界に逃げ込んだ。『奴』を殺し、この世界の魔神を滅する。それがオレの使命、オレのすべきことだ」

 

「…………」

 

刃は、そんな彼の様子から心境を悟った。

彼も奪われた側の人間なのだ。だからこそ、使命を果たそうと必死に戦い続けて、手段を選ばずにここまで来たのだろう。たとえそれが何の罪の無い人間を殺すことであっても、一度胸に秘めた誓いを果たす為に。

 

 

「それで?あの言葉、魔神になる可能性ってのはどういう意味だ?」

 

「『器』、新たな魔神に覚醒する因子を持つ者がお前達の中にいる。覚醒する前に始末するか、厳重に見張る必要がある」

 

 

成程な、と問い詰めたハジメは納得してみせた。だが、刃だけは違った。同情していたのも束の間、始末するという言葉を聞いた途端、目の色を変えてイクスに噛み付く。

 

 

「待てよ、何勝手に話を進めてやがる!魔神だと!?俺達の中に!?馬鹿言え!どうしてそんなこと言い切れる!?」

 

「この世界の神の語る神託に、そうあった。可能性としても無視できないかねない。有り得る話だ」

 

「っ!有り得るってだけで決めてんのか!?それこそふざけんな!」

 

「────この世界は、今特異点と化している」

 

「あ゛あッ!?」

 

「破滅の使徒たる魔神が渦巻くこの世界は、『破滅の意思』の渦中だ。新たな魔神が目覚めるのに、十分過ぎる下地はある。現に、新たな魔神の存在が確認されている以上、危険因子は増やせない」

 

 

怒り任せであった刃も、その言葉を聞いて動揺を隠せなかった。誰も知るはずのない、その事実をイクスは平然と語ったのだ。魔神が、この世界で脅威となっている四柱以外にも、新たに増えたということを。

 

だが………ッ!と、納得いかない様子の刃にイクスは深い溜息を漏らす。呆れた、と言うよりも達観したように彼は呟き始めた。

 

 

「器がどうやって魔神になるか、知っているか?」

 

「………どうやって、だ?」

 

「命の消滅若しくは吸収。器となる者の意思関係なく、多数の命が失われ続けるか、殺し続けた場合のみ、器は魔神となる。死した魂と命を無制限に吸い上げる────そこに、本人の意志は介在しない」

 

 

淡々とした彼の声は、深い絶望に満ちたものだった。何度も見てきたかのような、確信に等しい事実を語り、イクスは目を細めて、刃達へと告げる。

 

 

「数億の生命を取り込んで、ようやく魔神となる。その際に器はどうなると思う?数億単位の命を接収して、正気でいられると思うか?何億の悲鳴や断末魔、苦痛と呪いを浴び続けることになるんだぞ。そして、その果てに人類への憎しみを埋め込まれる」

 

「…………」

 

「それが『器』の末路だ。殺してやった方が良いに決まっている────自死を選ぶ者だって、何人も見てきた」

 

 

そう言い切って、立ち上がるイクス。食事の代金を置いた彼は言葉が出ない刃やハジメ達を一瞥し、目を見据えたまま語り出す。

 

 

「忠告はした。警戒しなくてもお前達の仲間には手を出さない。少なくとも、魔神に覚醒するまではな」

 

「っ」

 

「兆候を見せれば、誰であろうと殺す。全ての魔神を殺し、元の世界に帰りたければそれくらいの覚悟は見せろ。災厄は、生半可な覚悟で打破できるものではない」

 

 

帰るぞ、ノイン、とイクスは連れの女性を呼ぶ。食事にあまり手を付けてなかったイクスとは対象的に寡黙な様子の割に大量に食い続けていたノインは「はい、イクス」と後を追いかける。

 

カーテンを開けて外を出ようとしたイクスがふと足を止め、「もう一つ、教えておく」と口を開く。

 

 

「『ファウスト』には気を付けろ」

 

「ファウスト?………そいつも魔神か?」

 

「ああ、奴は狡猾で悪辣だ。人の心を利用し、弄ぶ。あの外道の事だ、お前たちの仲間にも目をつけているかもしれない」

 

 

恐らく、ソレが『奴』────イクスにとって因縁の仇なのだろう。その眼に映る並々ならぬ憎悪と使命感が、それを証明している。背を向けて立ち去ったイクスとノインの気配が消えたことを確認したハジメ達は一息ついた一方で、話し合いを続ける。

 

 

「色々と、厄介な事になったな」

 

「ああ………ハジメは、これからどうする気だ? 俺達はまだ目的の場所が決まってねぇし、その間お前に付き合うつもりだが」

 

「いいのか?お前にも旅の目的があんだろ?」

 

「神のいる地って言っても、何処か分かんねぇしな。何とかして探すさ────その間、親友のお前に付き合うのも悪くねぇ」

 

 

語らっていると、外から賑わう声が聞こえてきた。団体客か?と思ったハジメだが、赤の他人だから気にすることは無いと意識を向けることはなかった。あと少し注意深く気を向けていたら、その集団の声に聞き覚えがあることに気付けただろうが。

 

 

「そんで?次は何処の迷宮に行く気だ?」

 

「んいや、その前に少し依頼でな………人探ししなきゃなんねぇんだよ。ここに来たのも、明日探す予定だったからな」

 

「…………何やったんだ親友」

 

「俺がやらかした前提かよ」

 

「昔のお前ならそこまで言えねぇけど、今のお前は前の俺みてぇに凶暴だからな」

 

「今の『ハジメ』みたいって…………『ジン』って荒れてたの?」

 

「荒れてたっていうかなぁ………」

 

 

「────す、すみません!今なんて────」

 

 

会話の最中、聞き覚えのある声と共に隣のカーテンが開け放たれた。思わず会話を止めて振り向いたハジメと刃の視線の先に居たのは、荒い呼吸を整えようとする一際小柄な少女────ではなく、成人女性だ。

 

当然刃もハジメも、彼女をよく知っていた。忘れられるはずもない。

 

 

「「………あ、先生」」

 

「っ!南雲君!南雲ハジメ君ですよね!?」

 

「────いえ人違いです」

 

 

!?と、ハジメの隣の刃も驚きを顕にしていた。目の前に現れた自分達の保護者と呼べる先生、畑山愛子が変わったはずの自分に気付けたことに驚いていたハジメだが、面倒になると察したのか赤の他人のフリに徹した。

 

 

「先生って言ったの聞こえましたよ今!あと、隣にいるの黒鉄君じゃないですか!誤魔化せませんよ!?」

 

「チッ、バレたか。抜けてる割に鋭いな」

 

「舌打ち!?昔の南雲君とは思えない行動ですけど!?一体何があったんですか!?」

 

 

苛立たしさを感じさせず、ただしくったと言わんばかりに顔を顰めたハジメに臆することなく愛子は詰問していく。流石に親友の危機を感じ助け舟を出そうとした所で、愛子の目が刃にも向けられた。

 

 

「黒鉄君!?貴方も南雲君と────お話したいことが山程あったんですよ!!」

 

「え?俺に?」

 

「何の相談もなく勝手に単独行動して!お腹を怪我してたのに、医務室を抜け出したっていう件も!お説教したいことが沢山あるんですからね!」

 

「…………………あ、ヤベ」

 

 

そう言えば王国から飛び出した際、先生に一言も言ってなかったな、と今更ながら気付く。言っても反対するし、言わない方が楽じゃね? とは思わったが、口に出すと逆鱗に触れそうなので余計なことは言わないことにしておく。

 

 

「南雲と黒鉄、みたいだけど………」

 

「あれが、南雲?別人、じゃねぇのか………?」

 

「南雲の面影が殆ど残ってねぇ………いや、少しはあるか?」

 

「ねぇねぇ委員長ー!南雲君生きてたってー!」

 

「…………成程、皆が動揺するのも無理はないな。あれほどの変化では、本人と思うのも難しい」

 

 

カーテンから顔を覗かせるのは、愛子に同行していたハジメや刃のクラスメイト一同。ひょこひょこと覗き込む彼等であったが、ハジメの変化に驚いている様子ではあるが、本人ではないと思ってはいないようだ。

 

それもハジメの親友として常日頃から仲良くしていた刃が共にいた、というのが強いだろう。

 

 

「離れて、ハジメが困ってる」

 

「そうよ!刃を困らせるのは私だけで良いんだから!」

 

「困らせるなよ………!」

 

「う、う…………南雲君!黒鉄君!誰ですかその人達は!」

 

「「…………えーっと」」

 

 

そう呼び掛けたユエとソーナの存在に戸惑う愛子は、二人に問いかけた。当の二人、ハジメと刃はどう説明すべきかと互いを見合う。二人が結論を出すよりも先に、少女たちの方が早かった。

 

 

「………ユエ」

 

「シア・ハウリアと言いま〜す」

 

「ハジメの女」「同じくハジメさんの女ですぅ」

 

【────♪】

 

「………あーあ」

 

「名乗られてしまっては仕方ないわね!ソーナ・F・スティシア!右に同じく、刃の女と呼んでくれて構わないわよ!」

 

「シノ………主様の懐刀、右に同じく、」

 

「構わねぇワケねぇし、右に同じくじゃねぇ。止めろ止めろ!俺をハーレム主人公みたいな扱いにすんじゃねェ!」

 

「あ、えっと………わ、私も………っ!?」

 

「乗らなくても良いんだぞ!?」

 

 

先に名乗られてしまったことに溜息を漏らすハジメ。ユエにシア、グアンの発言(一匹は喋ってすらいないが)を否定するのも難しく、肩を竦めるだけに留まる。

 

一方刃の方はというと、深い意味も分からずに乗ったソーナや前々から忠誠深いシノを止めようと必死であった。狼狽えるラナールを落ち着かせようとしている姿は、どこか苦労人にも見えなくない。

 

 

「な、南雲が生きてて………二人一緒に女を連れて帰ってきた?」

 

「オーケー、何言ってのかサッパリだ」 

 

「……………っ」

 

「どーしたの?優花ちゃん」

 

「────一皮どころか男になってきたか。心配せずとも、ハジメも男だった訳か」

 

「大丈夫?委員長。現実逃避してない?」

 

 

あまりの情報量にどこか投槍気味な男子二人。ショックを受けたように硬直する園部優花を心配する宮崎奈々。同じような硬直から立ち直り、変なところで納得する委員長を案ずる菅原妙子。 

 

ガヤガヤと賑わう喧騒の中、肩を震わせていた愛子が一層低い声を上げた。

 

 

「────南雲君?黒鉄君?」

 

((やべっ、忘れてた))

 

「今まで帰ってこなかったと思ったら、遊び歩いてたからなんですか?複数人の女の子と関係を持つなんて………」

 

「いや、先生。誤解してるし、深い事情があってだな………?」

 

「言い訳するつもりですか!?お説教です!二人ともそこに直って────」

 

「先生、それ以上はストップだ」

 

 

きゃんきゃんと吠え始めた愛子を止めたのは、横から入ってきた軽いデコピンであった。当然、威力は大してない。あぅっ、と軽く呻いた彼女は呼び止めた相手を見て、当惑する。

 

 

「岸上君、何を………」

 

「先生は人並み以上に良い大人ではあります。ですが、話を聞かずに暴走することは美点とは言い難い。ハジメや刃にもそれなりの事情があると、察してあげるべきでは」

 

「………それは、そうですね」

 

 

委員長もとい、岸上咲夜の言葉に愛子は押し黙るしかなかった。元より学生にしては生真面目であり、融通が利く彼によって多くの教員も説得を聞き入れることが多かった。説得や対話に於いては、彼を上回る者は居ないだろう。

 

 

「まぁ、複数人と関係を結ぶのは学生としてはお叱りを受けても当然なので、後程にお願いします」

 

「「おいっ!?」」

 

 

助かったと安堵していた二人は、突然梯子を外すような行為をされたことに動揺する。気を抜いていた分、裏切ったなという感情が芽生えるのも当然の事だろう。当の咲夜は「学生としては、だ」と建前を崩さない。

 

そんな二人の様子に咲夜は整った表情を破顔させる。口元を緩めて微笑んだ彼は、ハジメの姿を見て────複雑な感情を過ぎらせたが────誰にも悟らせぬように、気丈に振る舞う。

 

 

「五体満足、とはいかないが………無事で何よりだ。ハジメ」

 

「委員長か。アンタには色々と、感謝してぇこともある」

 

「気にするなと言いたいが、好意を無下にする訳にはいかないな。何があったのか教えてくれることで手打ちにしよう」

 

「……………?」

 

「どうしたの?刃?」

 

「………いや、何もねぇ」

 

 

────黒鉄刃以外、誰も気付かなかった。街の中、人混みの中から此方を除く不気味な影を。周囲の誰も、影そのものである存在に気付くことはない。影は背を向けると、地面へと溶け込んで消えていった。

 

 

◇◆◇

 

 

「────来たか、予定通りだな」

 

 

洞窟の中、一人の男がそう呟いた。彼の足元で影が蠢いている、まるで触手のように。手のように伸びた無数の影が、男の前に一人の少年を組み伏せていた。

 

 

「うっ、く………」

 

「抵抗するな。殺す理由はないが、お前に死なれては困る。彼等が来る為の駒としての役割があるからな」

 

「貴方は………私を、助けてくれたんじゃ………」

 

「────お前なぞ、興味はない」 

 

 

男は、そう吐き捨てる。

地面に縫い付けられた少年から目を離し、興味を失ったように淡々と呟く。

 

 

「誰も、何も、どうでもいい。俺にとって必要なのは、ただ一つに過ぎない」

 

 

ローブの下にある顔は、無い。いや下にあるのは白と黒が渦巻く禍々しい虚ろな面である。男の声から分かるような、虚無の精神を示したその仮面は光なども感じさせぬ、虚ろしかなかった。

 

 

「その為ならば、世界など────」

 

 

『ソロモン』と名乗っていた者は、闇の中でそう囁く。新たな闇と悪意が、暗躍しようとしていた────。




咲夜率いる愛ちゃん護衛隊には、原作のように教会騎士は付いてません。まぁ暗殺未遂しかけた教会側の信用ないし、そこの人間なんてつけられる訳ないしね。接触したとしてもエリュシオン王が刺客差し向けて人知れず始末されるから。

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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