ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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魔神連合、もとい大魔王と手を結んでいる謎の存在ソロモン戦。今回から始まります!


虚数の魔術師

「行け────残影」

 

「────下がってろ」

 

 

謎の男 ソロモンの足元の影が蠢き、無数の魔物が這い出る。全て影で形作られたような異形、魔物がソロモンの指示を受けて襲い掛かる。隣にいたウィルを愛子達の方へ投げ飛ばしたハジメはドンナーを構え、躊躇なく魔物を撃ち抜いた。

 

 

「少しでも形が残ってると再生するか………だが、大半を消し飛ばせば再生も出来ないな」

 

 

弾丸に抉られた魔物は霧散するものもいれば、即座に形を戻すものもいた。大半の魔物のようにコアや心臓があるわけではない、影そのものであるからこそ体積を消し飛ばす攻撃でなければ意味がないのであろう。

 

そう判断したハジメは展開したシュラークによる二丁拳銃のスタイルで、魔物を排除していく。淡々と突き進むハジメに襲い掛かる影の魔物達、真横や背後から飛びかかっていくが────

 

 

【────!】

 

「────”禍天“」

 

「させない、ですぅ!!」

 

 

それをサポートするは、ハジメの仲間三人────もとい一匹と二人。凄まじい勢いで光を纏いながら、魔物達を薙ぎ払う聖霊グアン。突進により魔物を消し飛ばしながら放つ閃光のレーザーは次々と魔物を消し去っていく。

 

そんな聖霊に追随するように、動くはユエとシア。重力魔法『禍天』により影の魔物を纏めて押し潰し、“加重”により強化されたハンマーで粗方叩き潰す。圧倒的な勢いで魔物を蹴散らしていくハジメ達一行に、咲夜達も負けじと対応していた。

 

 

「先生とウィルさんは後ろへ!全員、周りのサポートをしながら陣を崩すな!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

的確な指示によって、園部優花達は咲夜や愛子やウィルを中心とした円陣を形成する。咲夜は召喚魔法により、騎士のような聖霊を召喚しながら全員をサポートして前線を押し上げていく。時に押される仲間達への援護射撃をしながら指示を下す咲夜は冷静なまでに、チームや戦況を維持していた。

 

次々と消されていく影の魔物。しかしその数が減ることはなく、未だ絶えることなくソロモンの足元から生み出され続けている。腕組みをした魔術師は、冷淡に吐き捨てる。

 

 

「…………やはり、この程度では相手にならないか」

 

「────ッ!」

 

 

ソロもが指を鳴らすと、先程まで呼び出され続けていた影の魔物が影に呑まれていく。ズズズと、大きく蠢いていくソロモンの影の変化に気付いたハジメが地面を蹴り、ソロモンの頭部に目掛けて音速の弾丸を撃ち込む。

 

本来であれば、ソロモンの頭を消し飛ばすであろう威力を誇った弾丸は────影から伸びた剣によって切り裂かれた。

 

 

「っ!新手か!?」

 

「────『虚空の影法師(ファントム・ドッペルズ)』」

 

 

手から滴る黒い液体、流体の影が人の姿を為す。そして、姿を現したのは六体の影であった。其々別の武器を装備する男女を模したような影は、ソロモンの周囲に佇んでいる。

 

 

「チッ!厄介だな!ユエ!」

 

「分かってる………”禍て────」

 

「そうはさせん────『反転の逆十字架(アウター・クロス)』」

 

 

再び重力魔法で押し潰そうとしたユエに、ソロモンが動く。背後の影から這い出た巨大な逆十字が怪しい光を発する。すると、彼女の掌に収束した魔力が霧散した。

 

 

「っ!魔法が使えない………!」

 

「ライセン大迷宮以上のか………!コイツら相手には厳しいな………っ!」

 

 

そう言うハジメがドンナーとシュラークの二連射を影法師へと叩き込む。影法師は全身を撃ち抜かれながらも消滅することなく即座に再生し、手にした剣を振るい斬り掛かってくる。剣に光を伴わせるその一撃は、見覚えのあるものだった。

 

 

「天翔閃か!?」

 

「────ハジメ!」

 

 

次の瞬間、斬撃を放とうとした影が黒い魔法によって消し飛ばされた。咄嗟に移動してきた咲夜がハジメと背中を合わせるように立つ。彼の前には、別の影が向かってきたらしい。身構える二人は両方の敵を見据えながら、語り合う。

 

 

「奴等の魔法は対象外か、面倒だな。委員長もか?」

 

「いや、あの十字架はオンオフを切り替えられるらしい。コイツらの魔法も消さないようにしてると見るべきか」

 

「チッ、連携前提かよ。ウザったいな」

 

「…………」

 

 

ふと、咲夜は影を見て僅かに目を細めた。その様子にハジメは咲夜の洞察力が何かを見抜いたことに気付く。そんなハジメに、背中を預けた咲夜が正面を見据えたまま呟く。

 

 

「ハジメ、俺は影の相手をする。お前はあの男を任せる。出来ることなら十字架の破壊も頼む」

 

「おう任せとけ…………何か気付いたのか」

 

「…………既視感がある。少し、確かめたい」

 

 

咲夜の意向を、ハジメは言葉にせずとも呑んだ。直後、銃の弾幕を浴びせながら彼はソロモンへと肉薄していく。ハジメの背中を追いかける影へ魔法を当て、咲夜は全ての影を見やる。

 

 

(ナイフ、大盾、扇…………拳に、刀、剣……………俺は、この影を知っている)

 

 

一度見たものではない、彼はこの装備とそれを持つ影の動きに見覚えがある。何度も見てきた、懐かしいものだ。自然と影を見る咲夜の口が、呟いていた。

 

 

「まさか、この影は────ッ!」

 

 

◇◆◇

 

ドォン!!! という轟音と共に、逆十字架が音を立てて崩壊する。破壊された十字架を静かに一瞥したソロモンの眼前に降り立ったハジメはドンナーの銃口を向けながら嘲笑う。

 

 

「…………」

 

「ハッ、これで御得意の魔法封じは潰した。次はどんな手品を見せる?」

 

「良いだろう。お望み通り、相手をしてやる」

 

 

すると、ソロモンは胸に腕を伸ばし────そのままズブズブと押し込み始めた。液体のように沈んだソロモンの腕が引っ張り出したのは、禍々しく歪んだ時計のようなものが刻まれた大剣だった。ヒビや影を纏う不気味な大剣を振り上げたソロモンが、突如姿を消す。

 

 

「っ!影か!」

 

 

直後、足元の影が一気に槍となって迫り上がってくる。飛び退いて回避したハジメの背後の影が蠢き、そこから姿を見せたソロモンの大剣が鋭い刃となって迫った。

 

未来視により気付いたシアの叫びに、ハジメは振り向いた瞬間に音速のレールガンを叩き込む。雷撃の弾丸はソロモンの頭を容赦なく消し飛ばした。

 

 

「ハジメさん!まだですぅ!!」

 

「ッ!?」

 

「────捉えたぞ」

 

 

ソロモンの胴体と同化した影から、無数の腕が伸びていた。その腕がハジメをドンナーを腕ごと抑え込み、そのまま影に引きずり込もうとする。止めようとしたシアやユエだが、ソロモンによる影からの攻撃に対応し切れない。何より、不用意な攻撃はハジメを巻き込みかねなかった。

 

だが、突如飛来した光がソロモンの頭を抉り取った。力が緩んだその隙にソロモンを蹴り飛ばしたハジメは、何とか逃れることに成功した。

 

 

「無事か!ハジメ」

 

「ああ、何とか。助かったぜ、委員長」

 

「…………邪魔を」

 

 

忌々しそうに吐き捨てるソロモン。その声に、並々ならぬ感情が込められているのは、気の所為だろうか。ふと、影の相手をしていたことを思い出したハジメは、隣の咲夜に問い掛ける。

 

 

「奴等はどうした?まさか倒したのか?」

 

「いや、魔法で動きを止めてきた…………お陰で、分かったぞ」

 

「何がだ?」

 

「────あの影の正体だ」

 

 

ほう?とソロモンが興味深そうに笑う。既に魔法で拘束された六人の影を引き寄せ、自分の周辺に佇ませる。魔物も消えたことでようやく落ち着けた優花達も集まって来た所で、ソロモンを桜を見下ろした上で口を開いた。

 

 

「正体だと?貴様如きが、我が影の一端を知ったというのか?ならば答えてみよ。我が影に、何を見た」

 

「────“遠藤浩介”」

 

 

ピクリ、とソロモンが沈黙した。それは、ハジメや愛子達も同じであった。咲夜が影を指差したまま呟いた名は、クラスメイトのそれであった。しかし咲夜は手を止めず、影の一つ一つを指差しながら、名指ししていく。

 

 

「“佐竹広大”“菊菜雨音”“坂上龍太郎”“八重樫雫”────そして、“天之河光輝”」

 

「…………」

 

「この六人を模した影、それがソイツらの正体だ────何処で、知った?何処でアイツらの姿を、俺達の仲間の姿を模倣した!?」

 

「────貴様に答える謂れはない」

 

 

思えば、その影の形はクラスメイト達の姿と同一にも見えた。実体も揺らぎ溶けていく影を取り込んでいくソロモンは冷酷なまでに、感情的に怒鳴る咲夜を見下す。

 

 

「それにしても、随分と陳腐な魔法だな。『賢者』」

 

「何?」

 

「ちまちまちまちま、と…………魔力を練って撃つ魔法は小さいと言っている。貴様も、そこの奴等も魔法の真髄を知らんと見る」

 

「何が言いたい」

 

「教えてやろうと言っているのだ。真の魔法は────世界すら滅ぼせる、と」

 

 

冷たく吐き捨てたソロモンが両手を広げる。次の瞬間、その掌からドロリと泥が────影が垂れた。足元に落ちていく影が流体のように、蠢く。そんな世界の中で、ソロモンは淡々と呟く。

 

 

「────『恐怖』」

 

 

影の領域に、変化が生じた。

ふと、周辺の影が巨大な柱となって魔力を形成していた。それも一つではなく、複数も。それは魔法職の者でなくても分かるほどの、膨大かつ絶大な魔力量。

 

 

「『絶望』、『猜疑』、『憎悪』」

 

「この魔力は…………不味い!全員!下がれ!」

 

「っ!シールドでも防ぎ切れねぇか………!」

 

「いや、出来るだけ用意してくれ!防御結界を重ねる!」

 

 

この場にいる誰よりも強力な魔力に、ハジメや咲夜も顔色を変えて動く。兎に角威力を押し殺す為にシールドを生成するハジメ。そのシールドに上掛けするように、咲夜が完全詠唱の魔法を発動した。

 

 

「『破壊』『殺戮』『消滅』」

 

「術式構築!最大展開!『聖王の法域』!」

 

 

咲夜の有する魔法の中で、唯一無二の防御力を誇る結界術。この面子の中でも最強格である二人による防御の重ね掛け。それを前にしても、ソロモンは嘲りを崩さずに詠唱を続ける。

 

 

「『孤独』『強迫』『終焉』────拝謁せよ、十の冠!神を喰らいし孤王の力を、罪業を以て世界に刻む!」

 

 

十本の柱から収束する魔力が、ソロモンへと集まる。直後、ソロモンの腕が黒い影に呑まれ、禍々しい腕に変ずる。彼の上空に織り交ぜられた魔力の塊が、小さな球体となってソロモンの眼前に降り立つ。

 

目の前の魔力の玉を掴んだソロモンは、強く握り締め────一気に解き放つ。

 

 

「────『十の王冠(ディエス・コローナ)』!!」

 

 

瞬間、引き起こされるのは純粋な破壊。嵐というよりも、破壊という概念を体現したような塊が、全てを飲み込んでいく。それは、シールドと結界による防御を容易く吹き飛ばした。

 

 

「うおおおおっ!!?」

 

「ぐうううう!!?」

 

「きゃああああああっ!!」

 

 

それでも尚、ハジメや咲夜は諦めない。咄嗟に出した大盾を地面に深く突き立て、何とか防ぎ切ろうとする。昨夜も同じく、必死に『聖王の法域』を展開し、皆を守ろうと立ち尽くしていた。

 

ようやく、魔法の威力が落ち着いた時には、二人は膝を付いていた。

 

 

「ハジメ!………平気?」

 

「何とかな………だが、俺よりも委員長が不味そうだな」

 

「────ッ、オレの事は………いい!それよりも、ヤツから気を………っ!」

 

「分かってるっての」

 

 

結界を無理矢理展開した反動か、全身の血管を浮き出させている咲夜。血を吐きそうな表情を歪める彼の姿は痛ましく、愛子や優花が駆け寄ってポーションを飲ませようとしているくらいだ。

 

一方で、当のソロモンは周りを睥睨し、自身の手を見下ろしたかと思えば深い嘆息を零した。

 

 

「本来よりも、威力が落ちているな。全く、我ながら嘆かわしいことだ」

 

「────ッ、化け物が」

 

「なんとでも。………さて、では安心して────目的を果たすとしよう」

 

そう言って、ソロモンが少しずつ歩み寄ってくる。身構えるハジメがドンナーの掃射を叩き込むが、ソロモンは歯牙にもかけない。少しずつ縮まっていく距離に怯える優花達を見て、咲夜は焦りを顕にした。

 

 

(どうする!?どうするどうするどうするどうする!考えろ、考えろ!岸上咲夜!あるはずだ!ヤツをどうにかする方法が────)

 

「────禁書か。使ってみろ」

 

 

脳裏の片隅に浮かんだ存在を言い当てられ、咲夜は本当に心臓が止まったかと錯覚した。干上がった喉から漏れる掠れた息が、ひゅうひゅうと流れる。そんな桜を見下ろしたソロモンは、侮るように冷たく吐き捨てる。

 

 

「無様に足掻くのならば、ソレも一興だ。最も、貴様如きに出来るのであればな」

 

「………上等だッ!」

 

 

叫び返した咲夜は懐から引き出した禁書を前に出す咲夜。溢れ出す濃厚な魔力を肌で感じながらも、咲夜は一切の迷いなく禁書を開いた。

 

 

「がああああああ────ッ!!??」

 

 

だが、やはりその現象は起きた。流れ込む情報と魔力が、咲夜の思考回路を焼き尽くしていく。本人の意識も関係なく、悶え苦しんだ咲夜は再び閉じられた禁書の前で膝を付いた。蹲った咲夜は震えた声で、呟く。

 

 

「なんで、なんで駄目なんだよ………っ!?力がなきゃ、誰も守れないのに………!」

 

「咲夜………」

 

「今この時にこそ、必要なんだろ。なのに………俺には、その資格すらないって言うのかよ!?」

 

「────悔しいか?」

 

 

絶望に嘆く咲夜に、そう問いかけたのはソロモンであった。ほぼ一瞬にして、目の前にまで迫ってきた虚数の魔術師は淡々と、咲夜の心を折らんとする言葉を吐き捨てる。

 

 

「己の無力さが、何も出来ない自分が────『賢者』だの持て囃されて、皆を救えるとでも本気で思っていたのか?仲間一人も助けられなかった貴様が?」

 

 

無慈悲なまでに容赦の無い言葉に、反論の余地もない咲夜。既に心に折られている彼に抵抗の様子はない。そんな咲夜に、ソロモンは胸から再度剣を引き抜く。その剣を彼の眼前に突き立て、宣告した。

 

 

「力も無ければ、世界を変える覚悟も無い────未熟で未満な貴様には、誰も救えはしない。所詮貴様は、救世主になど成り得ないのだ」

 

「…………ッ」

 

「全てを失い、絶望する前に────死ね、賢者。私が代わりに全てを救ってやる。お前の命も、お前の力も、何かもを差し出して死ね」

 

「委員長────咲夜ぁ!逃げろ!!」

 

 

必死に叫びドンナーを連射するハジメだが、ソロモンは見向きもしない。男の全身を弾丸が貫くが、致命傷にすらならない。ただ見上げることしか出来ない咲夜に目掛けて振り上げられた剣は、一切の慈悲もなく振るわれた。

 

 

────その斬撃が、大きく逸れる。

真横からの衝撃に反応できなかったソロモンの振るった剣が、咲夜の真横を切り裂いた。何が起こったのか、呆然とする咲夜は改めて気付いた。

 

────愛子が、ソロモンに飛び掛かったのだ。真横からの不意打ちに対応出来なかったソロモンの狙いが逸れたことで、咲夜もギリギリ救われた、ということになる。

 

 

「ッ、貴様────」

 

「岸上君!!逃げてぇっ!!!」

 

 

ソロモンの腰にしがみついた愛子は、真後ろにいる教え子にそう叫んだ。その姿に明らかに動揺していたソロモンだったが、すぐに冷たく「邪魔だ」と吐き捨て、愛子を弾き飛ばした。

 

それでも尚、止めようと立ち上がる愛子を影で縛るソロモン。彼女から視線を逸らしたソロモンは再び咲夜を殺そうと近付き、魔法や攻撃を浴びた。

 

 

「凍れ!凍ってぇ!!」

 

「野郎!これ以上委員長に触れさせるか!」

 

「み、皆………どうして………」

 

 

クラスメイト達が、咲夜の前に立って戦っていた。必死の猛攻に止まるソロモンの歩み。自身の無力さに打ちひしがれていた咲夜が戸惑う中、投げナイフでソロモンを攻撃していく優花が口を開いた。

 

 

「委員長、あの時の答え!今、答えるから!」

 

「あの時の………?」

 

「力を貸して欲しいって、言ったでしょ。だから戦わせてよ、皆を助ける為に────委員長も、皆の中の一人なんだから!」

 

 

『────でも、これからは一人で背負うべきじゃない。皆にも頼るべき』

 

「俺は、オレ………は」

 

 

改めて、掛けられた言葉を思い出し、震えた声で言葉を飲み込む咲夜。そんな彼の姿に、ソロモンは肩を竦め呆れを吐露する。

 

 

「その男に幻想を抱くのは止せ。所詮は自らの限界も知らず、善人を気取ってきた男だ。ここで挫折し、折れる程度の者に、全てが救えるわけなかろう?」

 

「さっきから随分と流暢だな。自分と重ねて言ってんなら、見当違いだぜ」

 

「努力さえあれば報われるのは、状況次第だ。現に、ただ絶望することしか出来ない結果が目に見えている。全てを救うためには、オレのようになるか死ぬしかあるまい」

 

「────彼は、貴方のようにならない」

 

 

咲夜を侮蔑し見下すような言葉の数々に、敵愾心を顕にするハジメとユエ。長らくの付き合いであるハジメとは違い、短い出会いであるがユエは彼の人なりを────その善性を確かに見抜いている。それを嘲り、下に見るソロモンへの敵意は並々ならぬものであった。

 

 

「────皆、この場を頼む」

 

 

咲夜はそれだけ言って、立ち上がった。

背を向けたまま戦うクラスメイト達の返事はなかったが、彼等は笑顔で頷いていた。口を開いた咲夜の声に、さっきまでの自棄に等しい絶望は感じられない。

 

そして足元に落ちた魔導書を持ち上げた咲夜は、深呼吸と共にページを捲った。凄まじい情報量と魔力に彼が再び発狂する────ことはなかった。

 

 

「────」

 

魔導書に手を添える咲夜は、既に解析に全神経を使っていた。彼が魔導書に振り回されていたのは、慎重過ぎたのが一因でもある。

 

何事にも対応する姿勢を崩さない咲夜は、基本的に余力を残す悪癖がある。それ故に、魔導書の解析中も最低限の力を残すように────自衛できるように意識を周りに向けるため、この禁書を解析できずにいた。最も、本人の精神が疲弊していたのもあるだろう。

 

だが、今────自分以外の全てを信じ、解析に全神経と魔力を使う咲夜は異常なまでの速さで禁書を読み解いていた。それを理解してか、ソロモンの無貌から余裕が消えた。

 

 

「っ、させるとでも────」

 

「俺を無視するなよ、カオナシ野郎」

 

「────邪魔をするな」

 

 

苛立たしそうに吐き捨てるソロモンの影が、群を伴って襲い掛かる。その影を銃弾で消し飛ばしながら、ソロモンの歩みを阻止するハジメ。彼の猛攻を抜けようとする影も、ユエの魔法やシアのハンマーによって────同じくソーナ達も動いたことで潰されていく。

 

 

「────面倒だな」

 

「……………は?」

 

 

ズルリ、と胸から新たな武器を引き摺り出すソロモン。その武器がハジメのよく使う、ドンナーに似た拳銃であることに、全員が目を疑う。何らかの魔力を込め、拳銃の引き金を引こうとした────次の瞬間。

 

 

 

 

──────白黒の結晶が、ソロモンを押し潰した。当のソロモンも打破しようとしたが、迫りくる魔力の塊に対処しきれず呑み込まれていく。

 

 

「遅いぜ、委員長」

 

「────ああ、待たせたな」

 

 

魔力の塊である白黒の結晶を浮遊させた岸上咲夜。手にした禁書を閉じた彼は静かに歩み、ハジメ達へ短く告げた。隣に並び立った咲夜はハジメと目線を交わし、ふと優花達を見る。

 

 

「先生、皆…………情けない姿を見せた。俺はもう、迷いはしない」

 

「吹っ切れたようで良かった、もう一人で背負い込まないでね」

 

「ああ、俺達もいるだしさ!」

 

「…………そうだな」

 

 

心からの微笑みを零した咲夜は、再び前を見た。結晶の山から影となって這い出てきたソロモンが、不機嫌さを顕にして咲夜を見下していた。

 

 

「待たせたな、ソロモン」

 

「────過度な信頼も罪なものだ。貴様にまた、不要な希望を持たせてしまった」

 

「ああ、俺には過ぎたものだ………だからこそ、俺には仲間が必要なのさ」

 

 

言うや否や、ソロモンが足元から伸ばした影が触手となって咲夜に襲い掛かる。浮遊する結晶を操り、その槍を巧みに防いでいく。それどころか槍のように変形した結晶が、ソロモンへ射出されていく。

 

そんな魔法と攻撃の応酬は、誰にも立ち入ることの出来ない領域を感じさせた。

 

 

「仲間が必要?それは弱さを正当化する言葉だ。世界を救うには、ただ一人であるべき。救世主は、一人のみにしかなれない。仲間など、必要ないのだ」

 

「お前には、いないのか?仲間が、守りたいと思う仲間が。誰かにでも、頼るべきだとは思わないのか?自分一人で世界を救えると、本気で思っているのか」

 

「────貴様に、何が分かる」

 

 

その言葉に、ソロモンの低い声が響いた。あらゆる感情、憎悪や殺意が渦巻くその言葉に咲夜は愚かハジメたちですら気圧された。実体が揺らぎ全身から影が漏れ出す程の激昂に駆られたソロモンは、両腕を振るう。

 

 

「驕り高ぶりが過ぎたな、賢者。ならば死ね。己の強さに驕りながら、真の魔法で圧殺してくれる!」

 

「ッ!またあの魔法か!」

 

 

数で押していたはずのハジメ達を纏めて吹き飛ばした、ソロモンの魔法『十の王冠(ディエス・コローナ)』。現時点で有効打となる魔法や武装は、今のハジメ達には無い。発動前に殺すしかないと武器を構えるハジメを、咲夜は制した。

 

 

「大丈夫だ、ハジメ」

 

「咲夜………?」

 

「一度見た、一度体感した────それだけで、十分だ」

 

 

結晶体を囲むように展開した咲夜が前に踏み込む。結晶体を主軸とした大規模な魔法陣を展開した咲夜を睨むソロモンが、営業を始める。

 

 

「────『恐怖』」

 

「────『勇気』」

 

 

その単語は、ほぼ同時に発された。

口にしたソロモンは、咲夜も似たような単語を口走ったことに「何?」と目を疑った。それは、ハジメ達も同じだった。

 

何故なら湧き上がる咲夜の魔力は、ソロモンの魔法とほぼ同一であったからだ。

 

 

「『絶望』『猜疑』『憎悪』」

 

「『希望』『信頼』『慈愛』」

 

「おいおい、まじかよ委員長。天才だとは思ってたけど、そこまでやるか」

 

「何が起きてるか、分かるんですか?南雲君」

 

 

冷や汗を流しながらも、純粋な称賛を向けるハジメに未だ分からずに混乱する愛子が問い掛ける。分からないのか?と言うようにちらりと皆を見たハジメは、詠唱中の咲夜から目を離すことなく、端的に告げた。

 

 

「『破壊』『殺戮』『消滅』『孤独』」

 

「『創造』『守護』『存続』『充実』」

 

「覚えたんだよ、委員長は。あの魔法をな」

 

「それだけじゃない。自己流に作り変えてる………あの短時間で、よくできる」

 

 

十の魔力が、完全に練り上げられる。圧縮された魔力の球体がソロモンと咲夜の手に収まる。二つの魔力の手にした二人は、互いを睨み合う。

 

 

「『強迫』『終焉』────模倣したか。そんな魔法、我が魔力で押し潰してやろう」

 

「『自由』『誕生』────やれるものなら、やってみせろ!」

 

 

そして、同時に握り締める。

掌から解き放たれる破壊力の嵐となる大魔法を、二人はほぼ同時に撃ち出した。

 

 

「十の王冠《ディエス・コローナ》!!」

 

「十の王冠《ツェーン・クローネ》ッ!!」

 

 

片手で握り潰し放り投げるように放つソロモン。対照的に咲夜は両腕で抑え込むようにして、魔法を放つ。虚無の魔力と白黒の魔力の渦が、空間そのものを破壊しながら衝突する。

 

膨大な魔力の衝突により、火花と共に空間そのものに亀裂が生じる。それでも完全に破壊されないのは、影という領域内である為か。二つの魔法の衝突の結果────打ち勝ったのは、片方であった。

 

 

「はぁ、はぁ………ッ」

 

「────最大出力、全ての魔力を引き出したか」

 

 

膝を付く咲夜の視線の先にいるソロモン。胴体の半分を消し飛ばされた魔術師は、平然と立ち尽くしていた。死に体である、訳ではない。男は影にその身を包みながら、瞬時に再生していた。

 

魔法の撃ち合い、勝ったのは全ての魔力を使用した咲夜の方であった。その一撃は容易くソロモンの半身を抉るまでに至る。だが、ソロモンはそもそも魔法の撃ち合い、その勝ち負けに拘ってはいなかったのだ。

 

 

「魔力を生成する器官が麻痺しているだろう?それもそのはずだ、貴様のその負担を無視して私を打破できる威力を引き出したのだからな」

 

「…………くそッ」

 

「この戦い、その勝利はくれてやる。故に満足して死ね、賢者。その魔力と力を、差し出してからな」

 

 

そう言って、剣を引き抜いて咲夜へと歩み寄るソロモン。魔力の消耗もあり動くことの出来ない咲夜を殺そうとする魔術師に、彼はニヤリと笑った。

 

 

「ああ、そうだな。俺達の勝ちだ」

 

「……………何?」

 

「────優花!ハジメッ!!」

 

 

次の瞬間、ソロモンの足元から無数の鎖が伸びる。全身を縛るように突き立てられたソレは、ソロモンの動きを完全に止めた。力を封じる効果があるのか、ソロモンは影になって消える事も出来なかった。

 

 

「無駄だ。こんなもので私を止めたとでも………?」

 

「少しでも、止められればいい」

 

 

嘲笑を向けようとしたソロモンは、咲夜の腕にナイフが刺さっているのを見た。それは、優花が持つ投げナイフの一つだった。そのナイフが攻撃用のものではなく、魔力を回復させるポーションを内蔵していることに気付いたのは、咲夜が魔法を放った直後だった。

 

 

「汝、天帝の勅命により果てへの追放を示す────『天扉』!」

 

「っ!ワープか!」

 

 

足元に生じた魔法陣に引きずり込まれるソロモン。咲夜しか使えない転移魔法『天扉』。この場所から最も離れた所に座標を固定した転移魔法で、ソロモンを追放しようとしていた。そして、鎖に縛られたソロモンには抵抗の余地はない。抵抗の、余地は。

 

 

「言ったはずだ────貴様は殺す、と」

 

「ッ!咲夜!」

 

 

ソロモンの足元の影が、鋭い針となって伸びる。魔法を発動するだけで限界である咲夜に、それを防ぐ術はない。叫ぶハジメが銃弾を撃ち込むが、ソロモンの魔力が強力である故か、吹き飛ぶことはない。

 

だが、その針が咲夜を撃ち抜ことはなく、突然停止した。それは────咲夜の前に飛び出した仲間達が理由ではない。

 

 

「…………え?」

 

 

あと少しで殺されそうな咲夜を庇い、前に飛び出した優花は困惑する。目の前まで迫っていた影の槍が、ピタリと停止しているのだ。まるで、彼等を殺す意思はないとでも言わん限りに。既に転移魔法に呑まれかけていたソロモンは、ただ静かに吐き捨てた。

 

 

「────クソ」

 

 

その言葉に秘められた感情が何なのか、知る前にソロモンの姿が光に呑まれる。転移魔法によりその場から追放されたこともあり、主を失った影の領域が消滅する。

 

この戦いに勝利したはずの一同は、困惑を隠せなかった。正面に向かい合っていた咲夜は、見えないはずのソロモンの表情が幻視していた。

 

────悲しそうな、悔しそうな、どこか複雑な感情の籠もった姿が。

 




ソロモン戦、一話にて終了です。

取り敢えず技解説


『残影』
ソロモンの影から魔物を生成する。基本的に魔物自体は強くないが、ダメージの量や中心を狙わないと再生を繰り返すなど厄介な性質を有する。


虚空の影法師(ファントム・ドッペルズ)

ソロモンの影から分身のような存在を作り出す。この分身は魔法や武器を使い、『残影』の魔物以上の強さを誇る。咲夜の見抜いた結果、この影がクラスメイトを模倣していることが判明。その理由も不明。


反転の逆十字架(アウター・クロス)

ソロモンの展開する巨大な逆さの十字架。発動することで周辺の魔法を封じる強力な結界を展開する。この効果は影法師にも適応されるため、オンオフの必要性がある。


十の王冠(ディエス・コローナ)

ソロモン曰く『真の魔法の一種』とされる魔法。十の特殊な魔力を練り合わせて一つの球体へ圧縮し、解き放つ。その威力は実体シールドと現時点での最高防御結界を容易く破壊すほど。それでも尚、ソロモン曰く本来のものより威力が格段に落ちているらしい。

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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