ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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黒竜討伐

「委員長………もう立っていいのか?」

 

「ああ、だが………流石に疲れたな」

 

 

玉井や優花の手を借りて何とか立ち上がった咲夜が水を飲んで、深呼吸を漏らす。ソロモンとの戦いで大いに体力を消耗した咲夜は数分の休憩とポーションを飲んで何とか歩けるまでに至った。

 

正直、その程度で済んでいるのは幸運だろう。なんせ相手は自分達が太刀打ち出来なかったソロモンを退けられたのだ。その戦いの功労者と呼ぶべき咲夜の疲弊は誰しもが当然のものとして受け入れていた。

 

 

「あ、あの………ちょっといいですか?」

 

「………誰だお前」

 

「ウィル・クデタ。お前達の探してた相手だろう」

 

「あー、そういやそうだったな」

 

 

そうだったか、と先程の戦闘の激しさもあって記憶から忘れていたハジメにウィルはガクッと肩を落とした。因みに先の戦闘の途中からソーナやラナールによって保護されていたらしい。ハジメとしてはどうでもいいことだが。

 

 

「あの、もう一人お仲間の方がいたと思うんですけど………そちらの方は大丈夫なんですか………?」

 

「……………あっ」

 

 

全員の脳裏に、不良ぶってる青年の姿が幻視する。そう言えば、黒鉄刃は唯一ソロモンの影から逃れていたことを思い出し、彼がその場にいないことにも気付く。

 

すると、洞窟の奥から話し声が聞こえてくる。その声が刃のものであることに気づいた全員が慌てて外へ飛び出すと、

 

 

 

 

「────だから!引っ付くなって!こんな傷なんともねぇんだよ!」

 

「そうはいかないのじゃ!妾が付けた傷ならば、妾が治さねばならんのじゃ!その傷をつけた責任を取る覚悟もある!」

 

「涎垂らしながら人の服剥ごうとする奴の台詞か!?そういうのはいいって言ってんだろ!?」

 

「ならば!不出来を働いた妾に折檻してくれても構わんのじゃ!いや、むしろ是非!」

 

「それもテメェの趣味だろ!!離れろエロ蜥蜴ぇえええええッッ!!!」

 

 

「………………どういう状況なんだ?」

 

「いや、俺に言われても………」

 

 

擦り寄る着物の黒髪美女をアイアンクローで黙らせる刃の姿に、皆が純粋に困惑していた。当の美女は「あぁ〜っ!?」と情けない悲鳴────恍惚としたような声を漏らしているのが、余計事態の混迷を大きくさせていた。

 

 

◇◆◇

 

時は、ハジメ達が影に呑まれた直後に遡る。

 

 

「────ッ」

 

飛翔の魔剣の効果により、空を高速で飛んでいく刃を黒い影が追従する。突如現れた黒竜は刃を標的に定めたらしく、ブレスを吐きながら、上空から追い回していた。

 

 

「チマチマと、後ろから撃ってんじゃねェ!!」

 

 

振り向いた瞬間、刃は手にした魔剣の一つを振るい、斬撃を飛ばす。弧を描くような斬撃波は黒龍に命中し、ブレスの連撃を止めるに至った。だが、それも一瞬。吹き荒れた煙を薙ぎ払い、黒龍は更に怒号を響かせていく。

 

 

「お返しだ────!」

 

その大きな隙を刃は逃さない。地面に着地した彼は膨大な魔力を利用し、周囲一帯に多数の魔剣を生成する。剣に付与する能力は複数、その一つ射出機能を限界まで高め、黒竜が姿を顕にした瞬間、一気に解き放つ。

 

 

「『ソード・バレット』ッ!!」

 

 

空中に固定された魔剣が、刃の怒号と魔力に共鳴し、爆裂するように射出されていく。撃ち出されていく魔剣の数々が、黒竜に無数の爆撃を披露した。強靭な鱗を前に突き刺さることはなくとも、内包した魔力が過剰な臨界を起こし、魔法の如く大爆発を連鎖させていくのだ。

 

 

「グガァァアアアッ!!!!」

 

「貫けなくても、ダメージは与えられるみてぇだな」

 

 

それでも尚、まともに貫通してないことに刃は冷や汗を隠せなかった。今まで戦ってきた相手でも、魔王に匹敵する防御力だ。最も、純粋に守りの構えが硬いフリューゲルに対して、黒竜は全身の鱗も含めて物理的に強固なのだが。

 

────その防御力を突破する方法は、刃にはある。

 

 

「────『神魔装剣(デウス・グラディウス)』!」

 

 

神の力を内包する、強力な形態。片腕を巨大な剣に同化させた刃は、すさまじい魔力を解放して黒竜へと向き直る。当の黒竜はその魔力と神の力に一瞬気圧されたが、すぐに威勢を取り戻して口内に魔力を収束し始めた。

 

そして、上下に開いた剣から放たれる魔力砲が、黒竜のブレスと衝突する。ほぼ相殺というには、周りを破壊し尽くす魔力の嵐。その暴風を突き抜けた刃は背中に備えた魔剣の飛翔力を利用し、戦闘機のように迫る。

 

ヴォンッ!!! と、竜翼の片方を一刀に伏せる。刃の出せるものの中でも最高峰の強度と切断力、破壊力を誇る『神魔装剣(デウス・グラディウス)』の有用性は、黒竜にも十分届き得る程だった。

 

 

「────終わりだ」

 

苦痛に悶える黒竜を掻い潜り、そのまま胸元へと滑り込む刃。ガラ空きとなった頭部に目掛け、剣を振り下ろそうとした────直後のことだった。

 

 

【────駄目だよ】

 

「…………ッ!?」

 

明確な殺意を覚えた直後、そんな声が脳裏に響き渡った。思わず力の緩んだ一撃は、黒竜の横っ面を叩く程度に終わる。そのままバランスを崩した刃は、黒竜の振るった剛腕に吹き飛ばされた。

 

 

「ガハ………ッ!な、なんだ今のは………!?」

 

動揺しながら、すぐさまその場を飛び退く。魔力の閃光ともなるブレスを避けながら、刃は木々の合間を抜けながら超速で駆け抜けていく。竜を視界に捉えながら、刃は先の現象について思案していた。

 

(今の声はなんだ?何処から聞こえた?いや、それよりも。何で止めた?あと少しでヤツを殺せ────殺しては、駄目?)

 

 

まさかと、足を止めた刃は身を隠しながら、自身の魔力を溜め込んだ魔剣を反対側へ飛ばす。その魔力を感じ取ったであろう黒竜は何の迷いもなく、ブレスを放って魔剣を撃ち落とす。その行動には、知性らしきものが感じられない。魔物であっても、もっと警戒してから動く。

 

 

(まさか、操られてるのか?だとしたら、今までの単調な動きにも納得がいく。だが、もしそうだとしたら、どうやって動きを止める)

 

「いや、考えてる暇はねぇ」

 

こういう時、どうするべきか己の経験が物語っている。木から姿を見せた刃は、周りを見渡していた黒竜へ声を上げた。

 

 

「おい!蜥蜴野郎(トカゲやろう)!」

 

「────!グルゥウウウァッ!!」

 

「全力で叩き潰して、目を覚まさしてやる!有り難く思えよ!」

 

 

縮地による、爆発するような蹴りで地面を踏み抜いた刃が音速で距離を縮める。それに対応した黒竜が剛腕を振り上げ、刃を叩き潰さんと攻撃を繰り出す。翼のように、スラスターのように備えた魔剣の加速を横に噴射し、その攻撃を難なく回避する。

 

殺すのであれば『神魔装剣(デウス・グラディウス)』で充分だが、操られている相手を止めるには威力が過剰過ぎる。ならばこそ、手段は幾らでも用意できる。

 

 

「『スコル』『ハティ』!」

 

一気に肉薄した刃は両手に、白黒の魔剣を手にする。かつてから愛用していた魔剣────『斬るごとに攻撃力を倍増させる』黒い魔剣、その名をスコル。『斬るごとに速度を引き上げる』白い魔剣、その名をハティ。

 

経験を積んで強くなったことで改良を重ねた結果、魔剣の中でも随一の機能性と相性を誇る魔剣を手に、刃は一気に斬り結ぶ。

 

 

────まさしく、音速の剣舞。

黒竜の振るう剛腕を避けた直後に放たれる斬撃は、威力と速度を引き上げていくトリガーとなる。ガガガガガガガガッッ!!!と全身の鱗に伝わる斬撃の乱舞は、黒竜の動きを止めるには十分過ぎた。

 

 

「ガァアアアア!!?」

 

必死に身を捩らせ、腕や尻尾を振り回して暴れ狂う黒竜。しかし、速度すらも倍増していく刃の姿を捉える事も出来ず、それどころか一度に数十回の連続斬りを浴びせられていく。 

 

 

「────そろそろ、コイツで終わりだ」

 

 

歩みを止め、移動の瞬間に配置したソードビットの猛攻で黒竜の意識を奪わせている間に、刃は魔力を集中させる。限界まで引き出した魔力が生成するのは、通常の武具ではない。

 

────おおよそ十メートル。黒竜の巨体を上回る程の、巨大な大剣である。

 

 

「叩き潰せ!『ヴィルガント・パニッシャー』ッ!!」

 

 

斬るのではなく、叩き潰すことに重点を置いた魔剣。最早質量兵器と呼ぶべきソレは刃の腕に連結した状態で勢いよく振り下ろされ────いや、倒れされるように振るわれた。

 

自身を覆う影により、目の前に迫る巨剣に気付いた黒竜。飛ぼうにも片翼をもがれ、回避すらままならないことを悟り抵抗しようとしたのも束の間。その圧倒的質量を抑えきれず、脳天に一撃を受けた黒竜はそのまま巨剣の一刀に叩き伏せられた。

 

 

◇◆◇

 

「いてて………やっぱ消費が激しいな」

 

 

黒竜の爪により胴体を軽く切り裂かれていた刃は、神の力により治りかけている傷を撫でながら頭を抑えていた。実質的な切り札である『神魔装剣』の直後に魔剣生成による魔力消費、何より『ヴィルガント・パニッシャー』を使ったことで魔力も底を突き、刃自身も大いに疲弊していた。

 

それもそのはず。『ヴィルガント・パニッシャー』はその巨体と質量の再現に莫大な魔力を消耗する燃費の悪い武装なのだ。あくまでも、自分より大きな相手や大軍用に行使すべき、限定的な魔剣でもある。

 

 

「このくらいやれば、まぁ気を失ったよな。放っておくのも気が引けるし、様子だけでも……………………あ?何処だ?」

 

 

気絶したであろう黒竜を探しに来た刃は、その黒竜の姿が何処にもないことに困惑する。あれだけの巨大なのだ、急に消えるのは流石に可笑しい。間違いなく当たったのだから気を失っているはずと探してみると、刃は思わず絶句した。

 

 

「……………ん、んん」

 

「お、女………?」

 

 

足元に転がる、黒髪和服の美女。何でここに、と無関係の一般人だと思った刃だが、脳天に浮かぶたんこぶが嫌な予感を想起させる。思えば彼女の全身は黒一色であり、あの竜と似ている名残が多い…………。

 

 

「ま、まさか────コイツが?」

 

 

そう呟く刃の顔面は蒼白を通り越していた。パクパクと魚のように口を開閉する彼が思考停止してから数分後、美女がようやく目を覚ました。

 

 

「うう、痛いのじゃ………一体何が────」

 

「────すまんっ!!いや、悪かった!!!」

 

「ぬわっ!?何じゃお主!?」

 

 

美女の前で、刃は地面に両手を付き頭を同じく地に擦り付けていた。土下座の姿勢に徹した刃の姿に目覚めたばかりの美女は当惑するしかなかったが、刃の話を聞き顔色を変えていく。

 

 

「なんと………つまり、妾が気を失ったのは主に倒されたから、と」

 

「ああ、そうだと思う………一応聞くが、あの竜。アンタで間違いないんだよな?」

 

「うむ、妾は竜人族。竜の姿になる竜化を扱える一族の者でな…………主の話が本当であれば、感謝するのは妾の方じゃ」

 

 

おぉ、とそれはそれは感心したように女性を見る刃。好奇心に満ちた視線を向けられて恥ずかしそうな彼女に、刃は不躾だったと慌てて目を逸らした。

 

互いの目が逸れたことで、竜人族の女性の目が刃の胴体の傷を捉える。

 

 

「待たれよ、お主。その傷、もしや………」

 

「あ?………いや、すぐに塞がる。別にアンタが気にしなくても」

 

「そういう訳にもいかんのじゃ!助けてもらった相手を傷付けていたなど、妾自身が納得いかない。せめて、何かの礼でも………!」

 

「要らねぇよ、礼欲しさに助けた訳じゃねぇ。何なら俺の方が責任を取りたいくらいだぜ」

 

「責任………つまり、負い目があると?」

 

「…………?まぁ、そういうかもな」

 

 

やれやれ、と肩を竦めていた刃は、女性の質問の真意に気付かず答える。それがどうした?と怪訝そうな刃に、彼女は穏やかに笑いかけながら、告げた。

 

 

「────では、責任を取って────大人しく傷を治させてくれるかの?」

 

「………………あれ?」

 

何でそうなるんだ?と、困惑した刃は後に必死の抵抗を見せることになる。半ば義務感半ば私欲を顕にする美女に刃も容赦せずにアイアンクローを叩き込み、事態に当惑したハジメ達に止められるまで続いた。

 

 

◇◆◇

 

刃と合流したハジメ達は、それまでの事の経緯を聞かされ、ようやく竜人族の女性の話を聞くことになった。彼女はついさっきまでの態度が鳴りを潜めたように、面倒をかけたことを謝罪してから話を始めた。

 

 

「妾の名はティオ・クラルス。竜人族────クラルスの一族の者じゃ」

 

「竜人族………本当に生き残りが」

 

 

凛々しく振る舞う彼女の姿に何人か見惚れていたが、さっきまでの痴態を見せられた刃は複雑でしかなかった。行き場の無い感情を口に含んだ刃は、ふと呟いたユエと気になったハジメに耳を傾ける。

 

 

「知ってるのか?ユエ」

 

「ん………二百年前に、私の種族より前に滅んだと聞いてたのに…………」

 

「訳あって、生き残っていた次第での。妾以外にも、他の一族の者も生き残っておる」

 

 

曰く、竜化の固有の力を扱い、竜そのものに変化できる一族。理知的で人類や他種族、魔人族とも手を取り合っていた種族であり、彼等はあらゆる文明の禁忌の秘匿に携わっていたという。吸血鬼よりも前に滅びたのは、教会が主導となった人類の迫害が原因らしい。

 

 

「そんで?相棒を襲った理由はなんだ?操られてたみたいだが、そこんとこは事実か?」

 

「うむ………黒いフードを被った男と道化師のような男に襲われてな。妾を操った強力な闇魔法の使い手も厄介じゃったが、道化師の方はそれ以上であった。訳あって不覚を取ってしまい、操られてしまったということになる」 

 

「………闇魔法に道化師、まさか」

 

 

ティオが語ったのは、自分を襲った二人組。その二人の奇襲と信じられない程の実力に不覚を取られ、操られたという事実だ。隙を突かれたといえ、竜人族を完全に操るほどの闇魔法の使い手をその事実に困惑気味な愛子達とは他所に、咲夜は完全に疑いを深めていた。

 

 

「っ!待って下さい!思い出しました!」

 

「……ウィル?」

 

「あの時、僕達を襲った魔人族と一緒にいたんです!彼女は、奴等の仲間の一人です!」

 

 

敵意を顕にしたように叫ぶウィルの言葉に、ハジメは片目を細める。確かにウィルの話では、彼を襲った魔人族の中にいた一人の特徴も類似している。だが、仲間という意見に関しては否定的であった。

 

 

「馬鹿か?操られてたって話だろ。第一、敵だとしても、一人でこんな大人数を襲うかよ」

 

「それは………ッ!でも、さっきの話だって真実だとは限らない!死にたくないから、適当に話をでっち上げてるだけです!」

 

「────それは有り得ねェ」

 

 

腕を組んだ刃が、ウィルの言い分を切って捨てる。間違いないと言わんばかりに断言した刃は、ティオの前に立ち彼女を庇うようにウィルと向き合った。

 

 

「コイツは嘘をついてねぇ。怯えてる節もなければ、顔色を窺ってる素振りもねぇ。そういうヤツは、目を見て分かる」

 

「っ、………でも、操られてたとしても人を襲ったのは事実です。もしまた操られたらどうするんです。今ここで殺しておくべきです」

 

「────その時は俺が殺す、そして俺も死ぬ。それなら異論はねぇだろ」

 

 

ティオと自身を指差しながら告げる刃に、その場の空気が凍りついた。誤魔化しようのない冷酷さ、それ以上に自死を決意させる覚悟を見せたことに、その場の全員が気圧されていたのだ。

 

 

「ど、どうして貴方が………」

 

「テメェの言う話に従ったまでだ。コイツを信じられねぇなら、俺の命を掛ける。責任ってのは、そういうもんだ」

 

 

腕を組む刃の有無を言わさぬ態度に、ウィルは口ごもっていた。それでも納得できないのは、彼自身が感情の行き場が定まっていないからか。何かを言い募ろうとしていたウィルを、咲夜が制した。

 

 

「君が大人であるのなら、それは控えるべきだ。どれだけ取り繕うと、彼女に向けるのは八つ当たりに過ぎない」

 

「………」

 

「君が怒りを向けるべきは、君の仲間を殺した相手だ。感情の矛先を間違えてはいけない。そうでなければ、君は未だ子供であり、君の言わんとすることは身勝手な癇癪でしかない」

 

「分かってます。分かってますけど………」

 

「分かってるなら、それで助かる。納得できない部分があるのは確かだろう。だが今は、俺の友人の覚悟を信じて欲しい」

 

 

厳しい発言ながらも優しく諭すような言い方に、ウィルは涙を堪えながら口を閉ざした。彼のことを落ち着かせることに成功した咲夜は、ハジメを見る。

 

 

「お前も、それでいいな?ハジメ」

 

「………まぁ、相棒がいいんなら俺は構わねぇよ。そもそも俺が相手したわけじゃないしな」

 

「さて、一段落ついたな────ティオさん。他に聞きたいことがあるが、構わないか?」

 

「うむ、構わないぞ」

 

「貴女を洗脳した男の事を、覚えているか?彼はこのような人物ではなかったか?」

 

 

そう言って咲夜が取り出したのは、手帳に挟んでいたクラスの集合写真。その内の一人、清水幸利の姿をティオに見せると、怪訝そうに眉を顰めていた彼女はすぐに得心いったという様子で頷いた。

 

 

「…………うむ、確かに。この者で間違いない」

 

「────確信した。清水はあちら側に与していると見るのが妥当だな」

 

 

冷淡にそう告げる咲夜に、護衛組の面々の顔が凍りつく。

同じ護衛組であり姿を晦ました清水を、彼等は仲間として助けようとここまで来たのだ。それがまさか、悪事に加担しているなどと知ればショックは尋常ではない。

 

先生である愛子も同じ様子だったが、彼女を含めた全員が口を出すことも出来ない。咲夜自身がそう断言したことが、事実に近いことだと理解していたからだ。

 

だが、それでも咲夜の顔は曇ったままだった。

 

 

「…………」

 

「?どうした。何か考え事か?」

 

「清水はティオさんを操り、この付近で襲わせた。その理由は何だ?」

 

「目撃者の排除か、だがそれは………」

 

「ああ、当の目撃者であるウィルはソロモンに捕まっていた。この両者が協力関係でなかった場合、何故ティオさんをけしかける必要があったのか。────奴等はその際、見られたくない。もしくは、聞かれたくないことを話していたのではないか?」

 

 

そう切り出した咲夜の疑問に、全員がハッと息を呑む。そうして唯一知り得ている可能性の高いウィルとティオに視線を向けると、2人は朧気な記憶を頼りに会話の中で聞こえてきた単語を思い出していく。

 

 

「た、確か。変な話をしてました。単語しか聞こえませんでしたけど…………『ウルの町』、『大魔王様の為』、『殲滅』」

 

「妾が聞いたのは、『侵攻』、『魔物数千匹』………これは、少し不味いのではないかの?」

 

 

ウルの町、侵攻。その二つの単語だけでも嫌な予感は拭えきれない。清水が関与していることが、ただの悪事ではないのではないかと顔を青くする一同を尻目に、無人探査機を起動していたハジメがその存在を捉えたようだった。

 

 

「確か、数千って言ってたよな…………」

 

「?ああ、そうだったな」

 

「こりゃあ、数千匹で収まる数じゃねぇぞ。桁一つ増える分の数の大群が、動いてやがる」

 

その光景を目の当たりにしたハジメが、急いで魔導駆動四輪車を引き出し、この場を離れようとする。既に事態は、最悪に近しい一歩手前にまで迫っていた。

 

 

◇◆◇ 

 

北の山脈。

ハジメ達のいる方より離れた山中に、無数の魔物が群れを成して進行していた。北の山脈に生息する一般の魔物が大半だが、一部は炎で構成された魔物にキメラのような特殊な生態の魔物が存在していた。

 

その魔物が大量の魔物を扇動し、山や木々を薙いで突き進んでいく。その魔物を動かしているのは、この軍を率いる二人の魔人族であった。

 

 

「────数は?」

 

「三万じゃな。安心せい、周辺から根こそぎ掻き集めて来ればもっと増やせよう」

 

 

炎を吹き荒らす骸骨の四足獣に乗る褐色肌の魔人族。その男の傍らで背中の曲がった魔人族の老人が、空中を浮遊していた。ただ無闇に突き進むのではなく、周辺にいる魔物すらも従え、その群れに加えていっている。

 

気付けばその数は三万以上。更にその数を増やしていく様は、巨大化していく一つの脅威となって、空から山を塗りつぶすほどである。

 

 

「所で、あの人間………清水と言ったかの。あの童はどちらじゃ?」

 

 

そう問い掛ける老人に、男は興味なさそうにハルバードを後ろに向けた。その背後には、複数の魔物に囲まれながら、狼の魔物に乗った青年がいた。俯いたままブツブツと呟く青年の様子は明らかに異様でしかない。

 

 

「随分と臆病だな。あんなのが役に立つとは思えんが」

 

「カカカッ!そういうでないわ。あの童が居なければ、『エンキ』の封印も解けなんだ。何よりこれだけの数の魔物を用意したのじゃ、それだけでも十分褒められるじゃろうて」

 

「────適当に殺す算段をつけてる癖に、よく言う」

 

「はて、何のことやら。カーッカカカッ!」

 

 

嗤う老人を、冷めた様子で見据える男。実際男自身も清水を殺すつもりであった。信念も定まっていない、ただ突き動かされるだけの奴に期待していない。足を引っ張られた場合、即座に処理してやろうと思うのは、彼等が同族でもない相手に情の欠片が欠落していることを意味している。

 

 

「手始めは、ウルの町。観光名所ともされている人類の拠点の一つを焼き払う。建物はおろか、人間ども一匹残らずな」

 

「そして『新たなる希望』も摘み取り、人類への宣戦布告としてくれる。戦争再開の引き金としては、派手に盛り上がるじゃろうな」

 

 

二人の魔人族は、意気揚々と語る。

彼等の侵攻の目的こそ、ウルの町を滅ぼすことによる戦争の再開。独断ではあるものの、大魔王の勝利の絵図を描く程の切り札が、彼等にあった。

 

相手が誰であろうと負けるはずがない、という確信も。

 

 

「偉大なる大魔王様の、アルお坊ちゃまの為にも………このオーゼンハイトめが、華々しい勝利を献上なさいますぞ」

 

 

────王域五位、『大公翁』オーゼンハイト。王域のメンバーの中でも最古参の魔人族。かつて幼い頃の大魔王と巫女を育てた老人の望みは変わらない。自らの主であり、子供の頃から可愛がってきた双子の為に。魔人族や魔術師としてのプライド以上に、オーゼンハイトは忠誠以上の感情で動いていた。

 

 

「少しは歯応えのある人間がいてくれよ。でなければウルの町は、灰に還るだろうからな」

 

────『王域』四位、『溶焔斧』ラーヴァ。王域の面子の中では、かつて所属していたレヴィの前に加わった新入りに近しい立ち位置であった。だが、普通ならば軽んじられる所を力で捻じ伏せたのが彼でもある。

 

基本的には大魔王の命令により行動するか、総司令であるフリードの命を受けることが多い『王域』の中でも、独断専行が目立つ彼の精神性は、常に勝利を渇望する戦闘狂である故だ。

 

そして、今日も彼は自らの勝利を疑わない。女子供であろうと、一人残らず焼き尽くして勝利を手にすることを、確信していた。

 

 

────そして、そんな二人の魔人将を尻目に、後方に下がっていた清水は、ガタガタと怯えていた。目の前の二人ではない、それ以上のあらゆる恐怖に対して。

 

 

「悪くない悪くない、俺は悪くない………そうだ、俺こそが勇者になるんだ。そうすれば、俺は」

 

うわ言のように、彼は呟きながら拳を握る。定まらない両目はどこか虚ろであり、追い詰められているのか顔を痩せこけている。フードを被っているため表情は見えないが、恐らく先導する二人が見れば確信するだろう。

 

────何かに操られた人間の、それであると。




原作ではハジメと戦ったことで一行に加わったティオですが、この小説では刃と戦ったので刃の仲間になります。

原作ではハジメがケツパイルしたことで目覚めていましたが、刃はそんなことしなかった(思い付いたとしても可哀想なだと思ってやらない)ので、ドM性を発揮してはいません。

シンプルに刃に惚れ込んであるお淑やかな美女です………まぁ痛めつけられたことへの快感はあるわけですが。(ドMを自覚しきれていない美女)


後に原作を知った此方側のハジメ「俺じゃなくて心底安心した」

後に原作を知った刃「俺も大概だが、あっちのハジメもやることやってねぇか………?」(戦々恐々)


尚、省略しましたが、刃がティオに絡まれてる下りでソーナ達が問い詰めてる一悶着がありました。その事を見たハジメが一言。

ハジメ「じゃ、俺達は外すから………なるべく早く終わらせてくれよ」

刃「俺のせいかよ!!!!???!」 


っていうか、パロディネタが思い付きました。こういうのもあった、と思って頂ければ。

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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