プロローグ
彼は、誰よりも優しかった。どんなに悪い人間だろうと、救うチャンスは与える。
だからこそ、認められなかった。
他人を傷つけている側が正義を名乗り、何食わぬ顔で他人を蹴落とし、傷つける。それが正義であると、語る側は高笑いする。
だからこそ、正しくあるのは止めた。それが正義なら、正しいルールなら─────そんなものを破ってやると。
どんな風に言われてもいい、どんな風に傷つけられてもいい、守りたいと思った者の為なら、悪にでも堕ちてやる。
だが、思う。
自分は、悪になりきれてないのではないか、と。
◇◆◇
一人の青年が教室に入ってくる。南雲ハジメ、二つの意味でクラスの中でも知られている生徒だ。
「おー!ハジメじゃねぇか!おはよう!」
「あら、ハジメさん。今日もおはようございます」
「お、おはよう………二人とも」
彼に友好的な反応を示す生徒がいる一方、一部が侮蔑的な反応をする。ハジメも気にしないように自分の机へと向かうが、
「よぉ、キモオタ!また、徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」
まるで高校生とは思えないくらい幼稚な悪口だった。そんな事を言うのはハジメの同級生である檜山大介。他にも三人とつるみ、ハジメにイジメのような悪質な環境を作っている元凶だ。
しかし、そんな事に不満も出てくる。心からハジメを嫌う人間もいれば、好き好む人間がいる。彼等は今の現状に何も思わない筈がない。
「…………またやってるよ、あいつらも飽きないな。そういうくだらねぇ事、小学生もしねぇのに」
「何が楽しいんでしょうね。彼等がどんな頭で考えてるのか知りたいです…………まぁ、見たくもないですけど」
心底呆れたと言わんばかりに男女二人が口を開く。男子の方はふんと鼻を鳴らし、女子も同じように呆れたように呟く。聞こえてるような声なので、先程の男子生徒達の耳にも入り、彼等から敵意のある視線が向けられていた。
そして、
「なんだよ文句あんのか!?」
「本当の事言われて逆上か、くだらねぇなその性根。小学生の子達を見習えよ。もっとマシな性格してるぜ」
「調子乗ってんじゃ────!」
詰め寄るつもりなのか椅子から立ち上がる元凶筆頭檜山。しかし彼が完全に行動を起こす事はなかった。
ガラッ!! と教室の引き戸が押し開けられる。全員が見ると、大勢が様々な反応を示す。代表的に、檜山の顔が真っ青へとなった。その視線は、引き戸を開けた人物に集中する。
「よぉお前ら、相変わらずクソみたいな真似してんなよ。折角の良い気分が台無しじゃねぇか」
「く、黒鉄………!」
制服のボタンを開け、羽織るように肩にかけた目つきの鋭い青年。同年代でありながら、大人すら怖じ気づく威圧感を放つ不良のような人物。
自分よりも年上の大学生の不良十人を一人で倒しただけではなく、現役のヤクザとの一騎討ちに勝つ程の男。学校だけでなく、この地域最強と言われる生徒が彼なのだ。
しかし、彼は学校中から恐れられてはいるが、嫌われている訳ではない。寧ろ見方によってはその逆になる。
「おいおい、クラスメイトに手を出すなよ。前にも約束したろ?調子こいて年上の不良どもに半殺しにされたお前らを助けてやった時の約束をよォ?」
「…………うぐっ!」
そう、彼の振る舞いはよくある不良よりも比較的に大人しい。人助けも普通にするし、話しかけられたら素直に答える。最初は誰もが近寄ろうとはしなかったが、次第に彼はより多くの人に受け入れられるようになったのだ。
「ま、ハジメに絡むのは良いぜ。仲良くなりたいんなら文句はねぇーし。けどよ、あまりやり過ぎるのは良くねぇなぁ。俺もお前らと仲良くしたくなっちまうだろうが」
しかし彼からすれば檜山達は例外。助けはするが、優しさなどで助けた訳ではない。彼等がハジメを小馬鹿にし、イジメのような対応をしているのもよく知っている。
だからこそ、このように忠告しているのだ。下手な真似をすればどうなるか分かっているかと。
「何をしている黒鉄!」
しかし、彼の後ろから大きな声が響き渡る。それを聞いた黒鉄は勿論、さっきまで檜山達に文句を言っていた二人も、どこか嫌そうな顔をする。
天之河光輝、容姿端麗でカリスマもある強い青年。クラスメイト達にも人気があるが、一部の者達は彼を好んではいない。
その理由は単純で、すぐに分かることだった。
「黒鉄!クラスメイトにそんな口の聞き方をするな!檜山達も怯えてるだろ!」
「うるせぇな、引っ込んでろよ優等生サマ!俺はコイツらと話してんだ。テメェなんかに用はねぇんだよ!」
中学生の頃から同期である光輝と刃は犬猿の仲と言わんばかりの仲の悪さがあった。彼、光輝は正義感と善意が具現化したような人物だが、彼は自分が正しいと思った事しかしない。つまる所自分の解釈次第なのだ。
だからこそ、刃は光輝を嫌っている。正直な話、嫌悪以上のナニかを抱いていたりもする。
「───おはよう!南雲くん!刃くん!」
険悪とも言える雰囲気だったが、一人の女子生徒によりそれは緩和された。
彼女は白崎香織。女神と例えられる程綺麗な彼女はこのクラスでの癒しでもある。光輝とは幼馴染みではあるが、ハジメによく声をかける。友人である刃はその理由を詳しく知っているが、
「眠そうで話を聞いてない南雲にも話しかけるなんて、香織は優しいな」
「そうだなァ、優等生気取りで自己中なお前とは偉い違いだ。尊敬しちまうぜ本当に」
何処かおかしい、というか自己解釈の激しい光輝。そんな彼の横で皮肉るように刃は、敢えて皆に伝わるように大きな声で呟く。言われた本人はすぐに刃を睨み付け、刃はハッと鼻で笑う。ハジメ同様クラスメイトの皆は思う(香織だけは首を傾げてるが)
───あぁ、また始まったなぁ、と。
「あ?ナニ見てんの?気持ち悪いから止めろよ、お前の事褒めてねぇから。香織の方だから、痛い勘違いすんなよキザ野郎」
「…………ずっと言いたかったが、失礼だぞ黒鉄。皆にもそんな口の聞き方をしてるのか」
「ハッ?お前だけだぜ?そういう事してやってんのは、ていうか失礼とかお前に言われるとかビックリだわー。無礼の類義語つーか、具現化みたいな性格のお前にさァ」
「俺が皆に失礼な事をしてるって言いたいのか?」
「あれ?自覚してねェの?無自覚系?コワー、お前前々から思ってたけど凄いよなそこんトコ。直した方がいいぞ、ハジメも香織も鬱陶しいだけだし。自分に酔うのはゲームだけにしとけ、自称エリート様」
今度こそ、二人の間に火花が散ったかと思いかけた。正義と善意の塊(しかし無自覚な独善的なもの)である光輝と、不良として振る舞いながら彼よりも優しい刃の二人。それぞれは相性が悪く、このように対立する事が多い。
しかし、そんな争いもすぐに終わりを迎えた。第三者の手によって。
「────二人とも、喧嘩は良いが時間だ。そろそろ先生が来る、席に着け」
一触即発の二人の間に、一人の青年が割って入った。茶色染みた黒髪の青年。片手には出席簿を持ちながら、同時にクラスメイト達の確認をするのは、クラスでは知らない者はいない。
名前は
故に彼はハジメを馬鹿にする事も無ければイジメをする事も、許す事もない。基本的に中立として振る舞う。彼と黒鉄刃、その他の数名がいるからこそ、ハジメはこのクラスで孤立していないのだ。
「刃、お前が光輝を嫌いなのは分かるが冷静になれ。ここで手を出せばお前が悪になるぞ。……………そしてお前もだ、光輝。一々、そうやってハジメを見下すな。自分だけが正しいんじゃないんだぞ」
「………おう、悪かったな委員長様」
「岸上、俺は────」
パン!と両手を叩き、この空気を完全に変えた。遮られた光輝も彼が向ける無言の視線に従い、促されるように席に座る。
「皆も早く席に着いてくれ。愛子先生に迷惑をかけたくはないだろ?一々、小さな事であの人を困らせてくれるな」
彼がいるからこそ、問題児ばかりのこのクラスは続いていると言っても限らない。先生達からも頼られる非の打ち所が無い優秀な青年は、クラスメイト達をすぐにまとめあげた。
◇◆◇
「南雲くん!刃くん!一緒にお弁当食べない?」
四限目が終わった後の昼休み、生徒達が教室の中で昼食を取ろうと一緒になったりする中、同じように一緒に弁当を食べようとしていたハジメと刃に、香織が笑顔で声をかけてきた。
直後、嫉妬の視線がハジメに殺到する。しかし殆どの男子はその隣にいる刃を眼にし、慌てて視線を戻す。刃のことを忌々しく感じながらも、ハジメに凄まじい嫉妬が滲む視線が一つだけあった。
しかしそれは、刃が鋭い眼で見返せば、一瞬で消えた。狼狽えながら平静に戻ろうとする馬鹿を軽く睨み、刃はしたり顔で手を軽く振った。
「俺ァパス、ちょっと一緒に食う奴等がいるんでな」
「え?刃くん、誰と食べるの?」
「あー、檜山達。最近仲良くなったしな」
ビクゥ! と、明らかに怯える檜山一行。へー、意外だなぁと首を傾げる香織の隣でハジメは苦笑いを溢していた。
「そういうわけだし、香織はハジメと一緒に弁当食べたらどうだ?ホラ、久しぶりだろ?」
「ちょっ、刃!?」
「うん、そうするね!」
天使のような微笑みに、凄まじく羨ましそうな眼で見てくる男子一同。まぁ、クラスのアイドルと二人っきりで食事なんて普通は嫉妬くらいする。そんな真似したら隣にいるボディーガードが逆に睨み返すのは目に見えているのだが。
そんな最中、飽きもせずにハジメを凄い形相で睨む檜山。それに眼を細めた刃が歩き出す。一転、真っ青に染まった顔で見上げる檜山の肩に腕をかけ、凶悪な営業スマイルを見せた。
「良いよなぁ?お前ら、俺達すこぉーーーし仲良くなってる訳だし、ゆっくり飯くらい食おうぜ?なァ?」
「あ、あ…………分かった、よ」
隣の仲間達から「余計なことしやがって」というような眼を向けられる檜山。しかし目の前の鬼への恐怖で頭が一杯な檜山には欠片も気にしていなかった。
そんな最中、光輝が香織に声をかける。刃は不愉快そうに舌打ちを心の中でかます。余計な奴が来やがったという嫌そうな顔に気付かない青年は、平然と香織に語りかける。
「香織、こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの君の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許せないよ」
「え?何で光輝君の許しがいるの?」
…………無自覚な香織の一言にクラスの面々が噴き出した。言われた青年は苦笑いをして何も言えずにいる中、必死に笑いを堪えるものが普通だ。
「──────っ!──────っ!!!」
しかし刃に関しては腹を抱えて大爆笑をしている。机をバンバン!と叩き、死にそうになるほど震えてる。全然隠そうともしてない。当然 正義バカは明かに憤慨して食いかかる。
「───!─────!」
「─────、──────?」
指を指して馬鹿にする刃に光輝は強く出るが、軽くいなされる。色々と話しているが、光輝が憤慨し刃が挑発するの繰り返しだ。
嘆息した咲夜が呆れた様子で二人の喧嘩を止めようと立ち上がる。周りの視線が二人に注目している間、立ち尽くしていたハジメに声がかけられる。
「ハジメー、ここは早くお弁当を食べたらどうだ。香織ちゃんのお誘いをちゃんと受けてな?」
「そうです。他の馬鹿や某天之河さんなんて勝手に無視して。大事な大事な香織ちゃんとの時間を、あんな連中相手に使わないであげてください」
自称脳筋の体育系、
困っているハジメに、咲夜が静かに近寄ってきた。近くで起きる言い合いで周囲には聞こえない声量で、呟く。
「────待て、ハジメ。昼食は何処で食べても構わないが、場所を探すのに時間を無駄にするだろう」
「………あ、うん」
「これを使え」
密かに、ハジメの手に何かを渡す咲夜。それが鍵だと気付いたハジメが何かを言う前に、咲夜は静かに言い切る。
「屋上の使用の許可は得ている。他の奴等が入ってこないように、教頭先生へ事前に頼んである。邪魔されずに、二人で昼休みを楽しめ。絶対にだぞ?」
「あ、ありがとう………岸上君」
「昨日の手伝いの礼だ。気にするな」
そう言い、咲夜が二人に静かに教室から出るように告げた。その瞬間だった。
教室の床が一気に光る。
突然のことに戸惑う一同。誰もが冷静でいられない状況で、咲夜がふと全員に言葉を飛ばす。
冷静になりかけたことで、ハジメは気付いた。光っている床に、何らかの模様が浮かんでいることに。ハジメと香織を案じ、慌てて駆け寄ってきた刃も、それを理解する。
「こ、コイツは────」
「魔法陣!?」
教室全体を覆うその光は、巨大な魔法陣であった。その言葉に驚いた咲夜だが、何かを理解したのか顔を険しくする。そして、教壇で呆然としていた担任教師───畑山愛子に叫ぶ。
「ッ!先生!全員に指示を!」
「皆さん!すぐに教室から─────!」
凛とした様子で全員に告げようとしたその瞬間、光が強くなる。閃光のような白に視界が包まれ────消えた時には、彼等はこの世界から姿を消していた。
◇◆◇
「……………」
ふと、誰かが顔を上げる。
右目に傷を持つ金髪碧眼の青年は空を見上げ、鋭い眼を細めた。その眼は少しずつ、怒気を放ち────苛立たしそうな舌打ちを、隠すことなく吐き捨てる。
「…………お兄様?」
「どうかしましたか、兄上」
男と同じく、金髪碧眼の少女と少年が不思議そうに青年を見つめる。純粋な視線を向ける二人に、青年は鋭い戦意を隠そうとしない。
青年は、不安そうな二人に淡々と事実を告げた。
「───リリアーナ、ランデル。茶会は後だ、厄介な面倒事が増えた。王として、対応してくる」
◇◆◇
「…………」
「竜王?何かありましたか?」
「いや。そろそろだなと考えていた。あの御方が言っていた『約束の日』が」
◇◆◇
「────ふん、教会め。また下らん真似をしたようだな」
「氷帝様?それはどういう─────」
「気にするな。それよりも、グライデンとダナルカを呼べ。今度こそ、獣人どもを潰す用意をするぞ」
◇◆◇
『…………何だ、今のは』
『ドウシタ、ドウシタ、大君。オカシイ、オカシイ』
『大君、余所見、ダメ。ハヤク、洞窟、モグル』
『分かっている。急かすな、石屑どもめ』
◇◆◇
「─────」
「………?どうされましたか?我が主よ」
常闇の城。
誰もが普通では近寄ることもしない異常なまでの瘴気が放たれた地底城の奥。
王が座るに相応しい玉座に腰掛ける男がそこにいた。漆黒の外套を身に纏い、骨を加工したような仮面を額に乗せた二十歳程の男性が。
退屈そうに目を閉ざしていた男だが、ふと両目を開く。その変化に気付いた老人が、主の様子を伺う。主である男は外界を見据えながら呟いた。
「
「と申されますと、まさか教会が?」
「あぁ…………連中の企みであろう。全く、余計な事を─────しかし、これは都合が良い」
完全な召喚までには時間がある。
何より一度召喚が発動されれば誰に止められない。例え、術者本人が死のうと。
格上の存在に教えられた知識から、男はそう確信していた。ならば、その分利用し甲斐がある。
「ファルディウスに伝達を。儀式場に近く、何より人間に友好的に振る舞えるのは奴だけだからな。他の奴等では、態度が出てしまう」
「ハッ、畏まりました。………それで?どのように?」
腰を低くする老人に、男は頬杖をかきながら告げた。
「教会のゴミどもを早急に片付け、彼等を丁重に迎えろ。仮にも此度の勇者、客人として我が元へと導いて来るがいい。上手くいけば我々の下に引き込めるかもしれぬ。
「畏まりました────魔王、ダンテ様」
オリジナル主人公
黒鉄刃(くろがねじん)
学校一の不良にしてハジメの親友。実力は学校どころか地域内でも最強格であり、不良グループからも恐れられる存在。ハジメとは元々関係もなかったが、ある一件以来彼と友好的な関係になり、結果親友となる。
幼馴染みである天之河光輝の事はハジメを見下すこともあり、蛇蝎の如く嫌っている。実際は過去の因縁も関係している模様。
最後に出てきた四人は色々と作中で出てくる存在っす。因みにオリキャラです。
清水の今後について
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生存その1(生き残るけど戦えない)
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生存その2(護衛組の一人として戦う)
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死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
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意識不明の重体として途中退場