ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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ウルの町防衛戦

通常よりも速度を上げ、不安定な山道を突破した魔導駆動四輪車は何とかウルの町に辿り着いた。急いだこともあり、魔物の群れが来るまでだいぶ時間がかかることは分かる。だが、それでも既に一日近くまで迫っているのは明白だ。

 

グロッキー状態の皆を休ませた咲夜や愛子が、ハジメの制止を無視して突っ走っていくウィルを追いかけ、町の中心へと着く。ギルド内にいた支部長や町長などがその話に動揺、混乱はしていたが、誰もが当の愛子や咲夜を疑うことはなかった。

 

 

「魔物の軍勢が、この町を!?本当なのですか!?“豊穣の女神”────!!」

 

「あの………その呼び方は、ちょっと」

 

「間違いありません。恐らく、ほぼ間違いなく魔人族による攻撃です。急ぎ避難の用意をお願いします。奴等の目的が、この町であることは魔物の動きから見ても確定です」

 

 

冷静沈着に対応する咲夜の指示に、支部長や町長も急ぎ対応を始める。ウィルは黙っていられずに、避難の手伝いをしようとして、後から訪れたハジメに呼び止められた。

 

 

「おい、ウィル。勝手に突っ走るなよ。自分が保護対象だって自覚してくれ。俺達はさっさとフューレンに向かうぞ」

 

「な、何を言っているのですか!?まさかこの町を見捨てていくつもりですか!?」

 

「見捨てるも何も、避難以外の選択肢はないだろ。それともなんだ?この町を皆で守ろうってか?ご立派だが、その分周りの被害を増やすだけだぞ」

 

 

淡々としながらもそう詰めるハジメの言葉に、反論余地は無い。無闇に守ろうとするよりは、逃げた方が被害も少なく済む。むしろ数万の魔物相手に防衛をするのは、多くの犠牲を出すのが明白である。

 

 

「それでも、町の人々を置いて自分だけ逃げるなんて出来ません!ハジメ殿が何を言おうと残ります!」

 

「………正義感が強いのは勝手だが、こっちにも都合がある。お前を無事に連れ帰って欲しいと頼まれてる身なんだ。ここでお前を死なせる訳にもいかない以上、無理矢理にでも連れて行くぞ」

 

 

強い決意を持って言い募ったウィルを、ハジメは冷たい眼差しで見据えた上で告げる。そ、そんなと青褪めるウィルはおろかその場の全員が動けずにいる。

 

────ハジメの意図を察した、刃と咲夜を除いて。

 

 

「と、昔の俺なら言ってただろうな」

 

「…………え?」

 

 

目をパチクリとさせる愛子やウィル達。腕を組んで当たり前だろ、と言わんばかりに自信満々な刃を尻目に、咲夜が静かに問い掛ける。

 

 

「俺達の力も合わせれば、造作もない。そうだろう?」

 

「だろうな。だが、その前に確認しておきたいことがいくつかある」

 

落ち着いた様子で答えたハジメの視線は、並ぶ一同の中で一人を捉えた。面々の中でも一際小柄な愛子、彼女を見たハジメはどこか信じるような眼差しを向ける彼女と向かい合った。

 

 

「先生も、同じ意見か?」

 

「………出来ることなら、力を貸して欲しいと思っています。南雲君には、算段があるんじゃないんですか?」

 

「意外だな。あんたはもっと生徒の命が最優先だと思ったが、教会の連中や王様みたいなことを言うんだな。勝てる確証もない、死ぬ可能性しかない戦場に生徒を送り込むのが、先生の言う最優先なのか?」

 

 

それは、と何人かが口を挟もうとしたのを咲夜が制した。理由は何であれ、これは彼女本人の口から答えなければならない話だ。そうでなければ、ハジメは心の底から信じることはないだろう?

 

それを理解したからこそか、愛子はハジメを見上げ、口を開く。

 

 

「もちろん、私の最優先はいつだって皆さんです。でも、これだけは聞いてください」

 

 

寸分違わず、迷い一つを見せない目を見せる愛子が静かに、それでいて強い覚悟を秘めた言葉を語る。

 

 

「南雲君。君は前に、絶対日本に帰ると言いましたよね? では君は、日本に帰っても同じように大切な人達以外の一切を切り捨てて生きていきますか?君の邪魔をする者を、皆排除しますか? そんな生き方が日本で出来ますか?日本に帰った途端、生き方を変えられますか?先生が生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰ったとき日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。殺すことに、力を振るうことに慣れて欲しくないのです。慣れてしまうことは君にも辛いことのはずです」

 

「……………」

 

「南雲君、君には君の価値観があって、君の未来への選択は常に君自身に委ねられています。それに先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが、君がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は────とても〝寂しい事〟だと、先生は思うのです。きっと、その生き方は、君にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから………他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。元々、君が持っていた大切で尊いそれを────捨てないで下さい」

 

 

彼女の言葉を、ハジメ以外の全員が静かに耳を傾けていた。刃も咲夜も、誰もが神妙な面持ちでその話を聞いてる中、同じように聞き入っていたハジメがふと、問い掛ける。

 

 

「先生はこの先何があっても、俺達の味方か?」

 

「当然です!」

 

 

────ほぼ、即断であった。正面から見据えていたハジメは呆れたように深い溜息を漏らし、肩を竦める。彼の表情からさっきまでの冷酷さは感じられなかった。

 

 

「いいぜ、やってやるさ。ただし、何もせずに迎え撃つのは流石に厳しいからな。少し準備しておくから、避難の方は頼むぜ」

 

「南雲君………っ!」

 

「任せておけ…………頼んだぞ、ハジメ」

 

 

扉を開けて部屋から出ていくハジメを見届けた一同。南雲もあんまり変わってないんだな、と軽く笑い合っている意見もあった。当然、刃はその言葉に「当たり前だろ」と言わんばかりに同調していた。

 

 

「刃、お前はどうする?」

 

「愚問だろ。相棒だけにやらせるつもりはねぇ。そもそも、見捨てていく道理ってのもねぇだろ」

 

 

自信満々に吐き捨てる彼の態度は、あいも変わらずである。いつもの調子に微笑む咲夜達であったが、ただ一人────愛子だけは意を決したように、重い口を開いた。

 

 

「黒鉄君」

 

「………はい?」

 

「君はまだ、自分を大切に思えないんですね?」

 

「────すいません」

 

 

それ以上の言葉は無かった。

いつものように大人しくなっているというより、口数の減らした刃は深く頭を下げ、謝罪を零す。顔を合わせないように、その場を去る彼の姿はその場から逃げたいように感じられていた。

 

 

「…………君は、まだ。忘れられないんですね」

 

 

畑山愛子は知っていた。

何故、黒鉄刃があそこまで自分を軽視した生き方しか出来ないのか。何故他人を優先させるような、自己犠牲的な精神性になったのか。

 

それは、彼の幼い頃の過去に起因する。かつて問題を起こした彼の家庭訪問として孤児院のシスターから聞かされた話が、黒鉄刃の精神性を形成した一因となっていたのは、彼女から見ても明白だった。

 

 

黒鉄刃は、家族の居ない孤児である────当の家族から、棄てられたのだから。

 

 

◇◆◇

 

 

「────壮観、だな」

 

 

ハジメが錬成したことで街を覆った巨大な壁。その上に腰掛けた刃は、上空から見下ろす景色にそんな呟きを漏らすのだった。明らかな高所ではあるが、高い所への恐怖はない。

 

刃が恐怖を覚えるのは、自分ではない誰かが傷付くことである。それが大切な誰かであればこそ、怒りや悲しさが増す。だからこそ、そんな世界にならないように、そんな理不尽を許さずに戦い続けるのだ。

 

たとえ、その過程で────どれだけ自分が傷付こうとも。

 

 

「失礼、一人かの?」

 

「…………俺だって、一人でいてぇ時はある」

 

「うむ、それは妾も同じじゃな。気持ちは分かるが、今は隣を借りても良いかの?」

 

「別に。俺の場所でもねぇよ」

 

 

胡座をかいて座る刃の隣に、ティオが礼儀正しく座り込む。そんな彼女に合わせようかと考えた刃だが、気を遣わせるのも何だと思い、そのままに徹する。

 

横に並ぶ二人。ふと口を開いたのは、景色を見つめたままである刃ではなく、ティオの方だった。

 

 

「話とは、簡単じゃ。お主の旅に、妾も同行させて欲しいのじゃ」

 

「………いきなりだな。理由でもあんのか?」

 

「一つは、『剣帝』であるお主の行く末を導くのが妾の使命でもあるからの」

 

 

ティオのその言葉に、耳を傾けていた刃は興味を持ったように目を細めた。

 

 

「俺の事、つーか『剣帝』のことも知ってんのか」

 

「無論。竜人族は、初代剣帝【クレア】とも長らく交流があったのでな。彼女との盟約もあり、『剣帝』の使命を果たす手伝いをすることになっておる」

 

「盟約、ねぇ」

 

 

ここに来て、盟約である。

剣帝が何か重要な存在であるのは理解しているが、この旅の最果てと何が関係しているのか。理解したいようで、したくない自分がある。

 

知らないまま旅を終わらせた方が楽だと思うのは、自分のエゴか或いはそれ以外の何かか。

 

 

「悪いが、俺にそんな御大層な理想とかねぇよ。俺は俺がやるべきことをやってるだけだし、他人に付き合わせるつもりもねぇ。無理に背負わせるなんて、言語道断だ」

 

「………」

 

「使命ってのは大事なのも分かるが、俺の行く道は割と大変だぜ。つい最近、魔王とも殺し合ったしな。だから、アンタは使命とか言わずに、自分の生き方を選べよ。俺みたいな奴より、もっと良い奴は他にいるだろうしな」

 

 

ぶっきらぼうに吐き捨てる刃の言葉は、不器用極まりない。自分の旅に無理に仲間を増やしたくないと思うのは、傷付く者や巻き込みたくないという気持ちが強い。だが、それを表立って言うことぎ少ない為、言い方がこのように出力されてしまう。

 

それで嫌われても、いつものことだと刃は納得するだろう。しかし話を聞いたティオは、どこか困ったようにひと息つくのであった。

 

 

「お主は、偶に仲間である彼女達に怒られたことは無いか?」

 

「…………何で知ってんだよ」

 

「今一度、確信した。妾がお主の旅に同行したいのは、使命以上にお主が心配だからじゃ。惚れた弱み、という奴じゃな」

 

「…………ったく、勝手にしろ」

 

 

呆れたように肩を竦める刃。そうして視線を外した彼は、ふとそれに気付いた。山の向こうに動く、無数の影の存在に。立ち上がった刃にティオも気付いたらしく、同じように身構える。

 

 

「ふむ、………主殿」

 

「ああ、皆に伝えるぞ。予定より数が増えたってな」

 

 

◇◆◇

 

 

「六万!?南雲君が見た時は、確か三万でしたよね!?」

 

「ああ………迂闊だったな。魔人族もいるなら、他から魔物を持ってくることも可能か。恐らく、道中にいた魔物も引っ張ってきたんだろうな」

 

だが、それだけではないとハジメを含めた全員が勘付いていた。六万規模の魔物の大群を集め、制御するなど闇術師である清水がいたとしても難しい。ならばこそ、前提から考えるべきだ。清水と手を組んでいるとされる魔人族二人が、ただの魔人族ではないと。

 

 

「魔人将が、最低二人はいると見るべきか」

 

「それ以外の戦力がある可能性も考慮してみるべきだ。流石に俺達だけでは、六万の魔物と魔人将の相手は厳しいな」

 

腕を組んで警戒するハジメに、咲夜は冷静に作戦を組み上げていく。それでも、万単位の軍勢を相手に魔人族の分隊長クラスの相手は、手厳しい。実力が未知数であるからこそ、戦力や分散もしていいのかすら分からない。

 

そう考えている咲夜に、「委員長!」と優花が駆け込んでくる。何かの話を聞いた咲夜が難しい顔をし始めた。

 

 

「…………成程な、他に頭を悩まされるとはな」

 

「どうした?何があった?」

 

「いや、町の住人………戦える者達が集まっているらしい。自分達もこの町を守るために戦いたい、と。理解はできるし有難い話だが、士気の面から見ても素直に頷きかねるな」

 

 

そう呟く咲夜に、刃も同感であった。

この街の人々も戦えると言うなら戦力的も安心できるが、彼等の中からも犠牲が出るということになる。何より士気が中途半端である以上、不安もなくはない。少なくとも、刃としては反対したい限りだったが、直後に親友が悪い顔をしていることに気付く。

 

 

「ハジメ………?」

 

「士気の問題だろ?なら、俺にいい考えがある」

 

「お、おう…………」

 

 

嫌な予感しかないのだが、刃は頷くことしか出来なかった。当の咲夜も困惑気味であったが、「ハジメがそう言うなら」と納得してくれた様子だった。二人の様子に戸惑っていた愛子を二人と共に連れていき、壁の上に立つ。

 

既に集まっているウルの町の住人を見渡したハジメは大きく息を吸い込んだかと思えば、大声で宣言する。

 

 

「聞け!ウルの町の勇敢なる者達よ!」

 

 

何事かと戸惑う彼等を見下ろしながら、ハジメは言葉を続ける。

 

 

「この戦いは既に勝利が確定している!我々は女神の加護の元にあるのだ!!」

 

 

女神?と困惑する一同。無理もない、一般的に知る神はエヒトのみであり、旧六神は知られているはずもない。なら女神とは誰のことか、と集まった視線を浴びながらハジメは堂々と語った。

 

 

「その女神の名は────【豊穣の女神】愛子様だ!!」

 

「「!!!!????」」

 

 

思わず、吹き出す刃と咲夜。ハジメの言葉と共に視線を集めることになった愛子は「………!?」と、まさか自分が言われると思ってすらいなかったのか硬直してしまっている。

 

 

「我等の傍に愛子様がいる限り、敗北は有り得ない!愛子様こそ、人類の味方!そして、ここにいる私達こそ愛子様の盾、剣、賢者である!見よ、これが女神の力である!!」

 

(って、俺達もかよ!?)

 

(成程、そういうことか………面白いことをするな)

 

 

直後、ハジメがユエと共に協力して放った凄まじい雷の魔法が空を飛び向かってきていた魔物を撃ち落とした。殆ど一掃された魔物の姿、その光景に言葉を失っていた民衆は次第に興奮に包まれていく。

 

 

「「「「「「愛子様、万歳!!愛子様、万歳!!愛子様、万歳!!愛子様、万歳!!」」」」」」

 

「ど、ど、ど、どういうことですか!!!?」

 

「は、はははははっ!先生、俺は楽しくていいですよ。俺たち三人で女神の使徒、というのも悪くない」

 

「よくありませんよっ!?」

 

 

ようやく再起動した愛子が周りの歓声に戸惑う中、咲夜は痛快と言わんばかりに大笑いして満足そうに微笑む。楽しそうだな、と思う刃であったが、本当に楽しそうである。先日の一件から、ある程度肩の荷が下りて楽になったのだろう。 

 

 

「────【豊穣の女神】、か」

 

「カカカッ!女神とはのう、実に愉快だとは思わんかね?」

 

「不愉快だな────女神は一人でいい」

 

 

遠くで、魔物を率いていた魔人族 オーゼンハイトにラーヴァもその歓声を聞いてきた。喉を鳴らす老人の横で、ラーヴァは無表情のままハルバードを強く握り締める。その顔から感じられる殺気は、魔物達を怯えさせるほどのものだった。

 

燃え盛るような魔力を漏らしながら、ラーヴァは斧を振りかざす。興奮の掛け声とは対照的には、冷酷なまでの宣告であった。

 

 

「────殺せ、皆殺しだ。女神を騙る奴等の灰で、山を築け。溢れんばかりの血の海に塗り替えろ。かつて我等にそうしたように、地獄を作れ」

 

 

ラーヴァの指示により、魔物の軍勢が雄叫びを上げて侵攻を始める。こうして、ウルの町の戦いが幕を切った。

 

 

◇◆◇

 

 

「主殿!行くのか!?」

 

「ああ、町で戦闘するわけにはいかねぇだろ!」

 

 

そう言って、壁から飛び降りる刃を追い掛けるティオ。剣を手に、魔物の軍勢へと突っ込もうとする刃であったが、その横に二つの影が飛んでくる。

 

 

「ジン!私達を置いて先に行くなんて、酷いじゃない!」

 

「ソーナ!シノ!避難は済んだか────ラナールは!?」

 

「当然、後方。他の治癒師と一緒に張り切ってる…………それより」

 

 

 

「主様、その人。新しい、仲間?」

 

「ん、ああ?いや、まあそんな………」

 

「仲間などと大層なものでは………!妾はそう、ご主人様の所有物!として扱ってくれても構わん!」

 

 

!!?と、走り出していた刃が思わず見返すほどの衝撃発言を吐露するティオ。そのまますっ転びそうになったが、何とか体勢を立て直す。深い息を吐き出した刃は、兎に角冷静に話を聞こうと考え直した。

 

 

「今のは聞き間違えたことにしておく………っていうか、俺の事なんて?」

 

「ご主人様」

 

「サラッと主殿呼びしやがってたかと思ったが、そっちのほうがまだマシだったなオイ。ってか、さっきまでお前大人しかったろ。何だ今のは」

 

「いやのぉ、惚れた弱みというやつでの。妾を庇い、命すら掛けてくれたお主に何もせぬほど薄情ではないからのぅ。妾が差し出せるのは、身も心も全て………好きに扱ってくれて構わんのじゃ!」

 

「テメェは!自分を!大事にしろッ!!」

 

 

涎を垂らしながら興奮するティオ、顔を近付ける彼女にアイアンクローをかます刃。嬌声に近しい叫びを漏らすティオは、本気で痛がっているのか分からない。

 

楽しそうだなぁ、と微笑ましく思うソーナ。彼女の隣でシノは新たなライバルの存在に危機感を顕にしていたが、すぐに全員が目の前に集中する。

 

既に魔物の姿もよく見え始めてきている。ハジメの先制攻撃にも怯える素振りはなく突貫を続ける魔物の群れに、遠くの仲間たちも攻撃を始めていた。自分達も始めるか、と思った所でティオが口を開く。

 

 

「先手は、妾にやらせてくれぬか?」

 

「………?竜化するのか?魔力とか大丈夫なのか」

 

「ふふ、まあ見ておれ」

 

 

直後に、ティオが両手に黒い魔力を収束させ、一気に放出する。黒竜状態でのブレスと同一のソレは、範囲内に存在する魔物を粗方消し飛ばしながら水平に薙ぎ払われる。魔力の消費に一息ついたティオの肩を軽く叩き、刃は満足そうに笑った。

 

 

「やるじゃねぇか────俺達も行くぞ!」

 

「ん、了解………!」

 

「ふふん!任せなさい!」

 

「あの群れに突っ込むのか!?無茶じゃ!」

 

 

そう言うティオの前で、刃は魔剣を生成する。それは竜化した彼女を一撃で無力化した圧倒的な巨体を誇る大剣。斬るよりも潰すことに特化したその魔剣を地面に叩きつけ、圧殺していく。

 

狼狽える魔物の群れに、双剣『スコル・ハティ』を構えた刃は鬼神の如く斬り込んでいく。その無双は、彼だけではなかった。

 

 

「ジンだけに無理はさせないわよ!────『水よ!収束し、結合し、独立せよ!』」

 

 

魔物の群れの前に立ったソーナは胸元から小さな青い結晶を取り出し上空目掛けて飛ばす。その結晶に営業と共に水の魔法を撃つと、着弾と同時に結晶が水に包まれる。

 

そんなソーナに魔物の一体が、襲い掛かる。詠唱中の彼女の喉元にまで迫った魔物は、一瞬にして上空から飛来した水に撃ち抜かれた。

 

完全詠唱を終えた彼女の隣に、巨大な水の塊が落下する。しかしソレは地面に弾けることなく、一つの生命体のように────まるでスライムのようにチョコンと形を保っていた。

 

 

「これが私の新しい魔法!『疑似・水核流体(ウォーター・スイミー)』!簡単には、倒せないわよ!」

 

 

ソーナの指示を受けた瞬間、巨大な水スライムが勢いよく魔物の群れに滑り込む。武器を振るう魔物は撃ち出される水の刃と弾丸に抉られ、大きな水に押し流されるものもあれば、そのまま水に呑まれて消化されるものまでいる。

 

これが、ソーナの新たな魔法。スライムの知識を持つ刃やハジメのアドバイスを受けたソーナが独学で編み出した魔法生命体、眷属である。核とした魔石に組み込んだ術式により、自動防御や自動攻撃を可能とした存在。完成した当初、二人が興奮するレベルの完成度を誇る魔法であった。

 

 

「水で魔物を………いや、自動で動く水を操っておるのか?なんじゃ、あのデタラメな魔法は………」

 

「ん、ソーナ様は王女様だから。天才だから、ね」

 

 

無理矢理突破してきた魔物を一撃で仕留めるシノは、同じように二人の猛攻から漏れ出す魔物を圧倒していく。そうして大半の数を減らしていった所で、全員が確かにソレを感じ取った。

 

 

「…………!?この魔力はっ、!」

 

「二つ────ウルの町に動いてやがるッ!」

 

 

この群れを指揮していたと思われる強大な二つの魔力が、ウルの町へと直進していく。それを感じ取った刃は目の前に迫る魔物の群れを一掃しながら、近くにある魔力の元へと向かうのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

一方、反対側。

 

 

「ハジメさん!今の魔力………!」

 

「ああ、此方を無視して直進してやがる。狙いは町の方かよ!」

 

 

魔物の群れに突撃していたハジメは、すぐ後方から感じた魔力に気付きすぐさま戻っていた。全速力で駆け付けようとするハジメだが、相手が強大すぎるのか────向こうから立つ火柱が止まる様子はない。

 

辿り着いた先は、町を囲う防壁の前。第一防衛ラインとして待機していた冒険者達は、全て焼死体となって倒れ転がされていた。殆どが、生きたまま焼き殺されたのだろう。充満する肉の焼ける匂いに、シアやユエも顔を歪めていた。

 

そんな中、ハジメは静かに敵を見据える────一人の冒険者の死体に足を掴まれながら、防壁に手を添えた魔人族の男を。

 

 

「…………また、か。人間は、数が多い」

 

 

鬱陶しそうに吐き捨てた魔人族は、足元に転がる死体を冷たく見下ろす。先に行かせないと言わんばかりに足を掴むその死体に、男はハルバードを突き立てて、一瞬で焼き尽くす。

 

焔は、死体を灰すら残らず消し去った。ただ燃えるだけの炎が揺れる中、魔人族の男はふとハジメ達を一瞥する。

 

 

「ひい、ふう、みい…………珍しい連中だな。人間に兎人族に────吸血鬼。これは驚いた。あのイカレ女以外に、吸血鬼の生き残りがいたとはな」

 

「…………私以外に、生き残りを知ってるの?」

 

「気にすることはない、吸血鬼の生き残り。この俺と相対したのだ。お前達に思い浮かべる明日はない、あるのは────死だ」

 

 

明確な殺意に、ユエを庇うハジメ。細められた隻眼にそれ以上の敵意を滲ませながら、ドンナーを構えて問い掛ける。

 

 

「お前が誰だか興味はないが────俺達にソレを向けるってことは、敵でいいんだな?」

 

「敵?違うな、それは対等な相手に使う言葉だ。俺と貴様にある差は隔絶している…………餌如きの鳴き声に、耳を傾けるクチか?貴様は」

 

「…………ああ、よく分かったよ」

 

 

目の前にいる男が、紛うことなく敵であることは。それも今まで戦った魔王のような強敵に類する類だと。ドンナーを下げる気のないハジメの敵意に笑ったラーヴァは手にしたハルバードを片手で回しながら、淡々と告げる。

 

 

「大魔王直属『王域』第四位────『溶焔斧』ラーヴァ。お前達を殺す者の名だ、覚えておけ」

 

「大魔王、直属…………そりゃあいい」

 

「あ?」

 

 

怪訝そうなラーヴァにハジメは、喜び以上の戦意を剥き出しにして嗤う。その次に吐き出された言葉は、プライドの高いラーヴァの逆鱗に触れるのは十分過ぎた。

 

 

「────お前を殺せば、流石の大魔王の目にも止まるって訳だ」

 

「────人間風情」

 

 

◇◆◇

 

 

そして、防壁の付近。

万が一の為に防衛ラインに配置された護衛組を率いる咲夜は前方への警戒に徹していた。

 

 

「愛子様!前に出られ過ぎです!もっと後方にお下がりください!」

 

「…………いや、手伝わせてください。生徒達が戦ってるのに、黙ってみているわけにはいきません」

 

 

同じくこの場に立つ愛子、先生として後ろに居るだけでは気が済まないのだろう。気持ちは分かるが、咲夜としてはどう答えるべきか悩ましい。先生は非戦闘員だから下がってというべきか、或いは士気向上のためにも居てもらうべきか。

 

 

「────カカカッ、どうやら当たりはワシのほうじゃな」

 

 

その直後だった。真上から響くその声に、咲夜や優花達が一気に身構える。すぐさま愛子を庇うように並んだ彼等の視線は、上空に向けられていた。

 

何の原理か、フワフワと浮遊する老人を見据え、全員が呼吸を忘れる程に老人を警戒していた。見るに弱そうな、小柄な老体を。

 

 

「いやぁよもや敵の喉を潰そうと思っていたら、まさか『豊穣の女神』が丁度良くおるとは。これぞ正しく吉兆!お坊っちゃまへの土産物が出来たわい!」

 

「お前は………魔人族か」

 

「カカカッ!そこいらの雑種と一緒にされては困るのぉ。ワシは純血も純血の、最後の魔人族────そして、同じく最古の王族であるアルお坊ちゃまにお仕えせし者。

 

 

 

 

王域第五位、『大公翁』オーゼンハイト。早速じゃが、女神の首は貰い受けるぞ?」

 

 

そう言うオーゼンハイトが何らかの呪文を唱えようとした、次の瞬間────その場に剣が、突き刺さった。

 

 

「委員長!先生!無事か!?」

 

「刃!前線からここまで来たのか!?」

 

「飛んできた!………来たのは正解だったな」

 

「ご主人様………速すぎてっ、追いつけん…………」

 

 

直後に剣の付近に降り立った刃が、追いついたティオに「休んどけ」と言いながら、剣を握り締める。そして、目の前に浮かぶ老人 オーゼンハイトを見て、険しく顔を顰めた。

 

 

「爺さんか………厳しいな。年寄り相手にゃあんまり手荒な真似したかねぇんだが」

 

「カカ、カカカカカカッ!!なんと、なんと!『剣帝』まで現れるとは!何たる幸運!何たる奇跡!ワシは恵まれておるわい!大魔王様もお喜び間違いなし!」

 

「威勢がいいな、爺さん。この数の俺達に、アンタ一人で勝つ気か?」

 

「クカカ、流石のワシもそこまで自惚れておらぬわい────じゃが、ワシには此奴がおるのじゃよ!」

 

 

オーゼンハイトがそう告げると、両手の掌に魔法陣形成し流れ、何らかの詠唱を口走っていく。すると、上空に巨大な魔法陣が展開された。それはそれは一際巨大な、大魔法陣が。その大魔法陣から、巨大な塊が落下してくる。

 

 

────それは、端から見ればゴーレムのように見える兵器であった。全身を特殊な金属で構成された巨人。大半の者から見れば、それだけであろう。しかし刃は、神の魔力に触れてきた刃ならばよくわかる。

 

眼の前のソレが、より濃い神の魔力を膨大に秘めていることを。明らかに、神の名を冠するものであることは、刃から見ても間違いなかった。

 

 

「さぁ、行くがいい!神の造りし神殺しの兵器、『エンキ』よ!人間どもを鏖殺し、お坊ちゃま………大魔王様の理想を果たすのじゃあ!!」

 

 

老人の魔人族の指示に、巨人の全身に伝う魔力が妖しく光る。口を大きく開いた巨人の口内から輝かしい魔力が収束し、閃光となって解き放たれた。

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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