「────ッ!この力は!」
遠く離れた町に在留していたイクスは、感知した力に思わず顔を歪める。即座に特殊なマスクで顔を覆ったイクスは立ち上がり、大盛りの食事を頬張るノインに呼び掛ける。
「ノイン、緊急だ。至急動くぞ」
「待って下さい。せめてこのパンだけでも持っていきますので」
「…………零すなよ」
半ば呆れながら、宿屋を飛び出すイクス。そのまま音速で建物を跳んでいく彼の後を、ノインは飛翔しながら追い付く。遠方に感じる強大な二つの力に、イクスは忌々しそうな声で呟いた。
「この力は、『増殖』に『結合』。ファウストめ、あの魔神達の力をも回収していたのか」
「…………知っているのですか?」
「────知ってるも何も、オレ達が殺した魔神の残滓だ。急ぐぞ、下手したらあの付近だけではない、大半の町が滅びる羽目になる」
イクスは懐かしい気配を感じ、目を細めていた。かつて自分達が対峙し、討ち滅ぼした魔神の力。多くの仲間が殺され、そして取り込まれたのを未だ忘れていない。故に少しだけ、可能性を見てしまう。
「『結合』の、残滓か」
(────まだ、その中にいるのか。皆)
かつての戦いで、魔神に同化して消えていった仲間達。自分と同じ滅却者達の意思が、魂が残っているのか、彼にとってはそれが気掛かりであった。
◇◆◇
『ギィィィィィイイイイイッッ!!!』
【カオスアバター・652】が甲高い鳴き声を響かせる。箱テレビのモニター画面が大きく歪み、砂嵐を映し出す。そのまま巨体を持って地面を走り回ったその魔物は────ハジメ達の方へと直進していた。
「………チッ」
ドパァン!!ドパァン!! と、ドンナーから数発の弾丸を撃ち出す。弾丸は【カオスアバター】の肉体を抉ったが、致命傷には成り得ない。『キチキチ』、と虫が歯を鳴らすような音を響かせてハジメへと突進する。
当のハジメはドンナーでは威力が足らないことに苛立ち、武装を取り出そうとする。だが、大半の射撃武器や装備がラーヴァとの戦いで使い物にならなくなっていることを思い出す。唯一残っているのはドンナーと、火力故に動きの制限される重火力の装備。
何より先のラーヴァとの戦いで疲弊していたハジメは、装備が制限されたことで思考が遅れる。宝物庫から武器を取り出すのが遅れたハジメに、【カオスアバター】の前脚が振り下ろされ────ることはなく、割り込んだ刃の双剣が受け止めた。
「ハジメ!無理すんじゃねェ!!」
「っ…………悪い!助かった!」
「俺が前に出る!お前は後ろから叩け!」
言うや否や、『スコル』と『ハティ』を切り払い、一気に突撃する刃。【カオスアバター】が抵抗の素振りを見せ、前脚で押し潰し、複腕の爪で斬り裂こうとするが────風の如く加速した刃には追い付かない。
斬撃の嵐となった刃は、一瞬にしてカオスアバターの全身を八つ裂きにする。身体を包む甲殻に傷を入れ、内の肉を大きく裂傷させると、頭部のモニターの画面が大きく歪み、点滅を始めた。
【────戦術パターン変更、『Eri』をセット】
するとノイズの混じった画面に、『Eri』の文字が浮かび上がる。次の瞬間、理性のない獣のようであった【カオスアバター】は急に動きを変えた。命令を受けた動物、というよりも機械のように。
その動きに身構える刃。しかし彼が対応するよりも前に、ソレは起こった。
【────増殖分裂、開始】
響き渡るノイズ混じりの少女の声。それと共に、周囲に飛び散った肉片が音を立てて蠢き出す。斬り裂かれた際に飛んだ細胞と肉の欠片が一瞬にして変容し、風船のように膨らむ。
パァン! と、内側から破裂するように虫が這い出てきた。甲殻を身に纏う虫が何匹も、何十匹もその場に増え始めていく。その光景に刃達を戦慄を顕にする。
「数を増やしやがった!?」
「まさか、これが『増殖』の力か!?」
あの声が言っていた、かつて滅んだ魔神の残滓の一つ。その話が本当なのであれば、この虫は【カオスアバター】から増殖した分裂体ということになる。少なくとも、本体と同じ強さではないにしろ厄介なことはこの上ない。
「っ!ユエ、シア!先生や他の皆を守れ!」
「シノ!ソーナ!ティオもだ!俺はいい!兎に角自分と皆を守れ!!」
二人が後方に叫んだ瞬間、ネズミ算式に増えた無数の虫の群れが一斉に殺到した。それは俗に、蝗害と呼ばれても可笑しくはない景色であった。空を、視界を埋め尽くす一際大きな虫の大群に、全員が圧倒されかける。
「なにこれ!?倒しても倒しても、減ってる気がしないわ!」
「………『増殖』が正しければ、あの【カオスアバター】がいる限り、無限に増え続ける。このままじゃジリ貧」
「ですけど!このまま放置してたらもっとジリ貧になっちゃいますよぉ!!」
兎に角広範囲の魔法で虫を消し飛ばしていくソーナやユエ達。しかしそれでも、数百体以上消し飛ばしても事態が好転しているように見えない。だが放置するわけにはいかない。ふと、ハンマーを振り回していたシアは、半身の潰れて死に損なった虫が『キィキィ』と鳴いてるのを見る。
他の虫を蹴散らしているのでトドメを刺す余裕はなかったが、すると他の虫が飛来する。瀕死の虫に何をするのか、と怪訝そうに目を向けていたシアであったが、彼女の脳裏に浮かんだ選択肢は何一つ当たらなかった。
────虫は、瀕死の虫に寄り添うと、一瞬にしてくっついた。比喩ではない、どろりと粘液のように崩れた肉体が二つの虫の形を歪めていく。二つの影が一つの大きな塊になったと思えば、それは光沢のある甲殻へと変容していく。
より強固に、より頑丈に、より凶暴に変貌した甲殻類の姿に、シアは思わず手を止め、愕然とするしかなかった。
「う、嘘ぉっ!?」
「どうしたの!?シアちゃん!」
「皆さん!気を付けてください!この虫、合体します!!」
「────はぁッ!!?」
彼女の忠言に、全員が悲鳴のような困惑を響かせたと思えば、虫たちが目に見えて動き出す。物量では押しきれないと察した虫たちが、隣にいた虫へと接触し、そのまま融合。更に一際強力な甲虫に変貌するのを、殆どの虫が繰り返していく。
「ふ、増えたと思ったら合体して強くなるなんて、そんなのあり!?」
「…………これが、『結合』か」
冷静に観察をしていた咲夜が、忌まわしそうに吐き捨てる。彼の推測は、完璧であった。これこそが、滅びた魔神────『結合』の有していた力。
かつて居た世界で、暴虐の限りを尽くした魔神。何の価値がないと言われ続け、自殺に失敗した際に世界を呪った『誰か』だった魔神。それは自分以外の全てを取り込みながら、世界を滅ぼさんとした。無機物も、エネルギーも、人間も、命も、魂も、何かもと『結合』しながら。
そして────とある虫が『声』を聞き、覚醒した魔神。『増殖』は己の種の繁栄の為に、自分以外の全ての生命体を駆逐せんとした。無尽蔵に増やし続けた分裂体を撒き散らし、『増殖』した自分で世界を破滅させようとした。
当然ながら、この力は本来のものではない。かつて其々の世界を滅ぼそうとした二体の魔神は、魔神殺しの滅却者によって葬り去られた。
「チッ!雑魚でもないのに、数が多い!」
「………クソ!邪魔なんだよテメェら!!」
弾丸を浴びせ続けるハジメの悪態、そして刃は凄まじい勢いで無数の虫に斬り結んでいた。そんな彼の動きには全力が込められており、その顔には明らかな焦りがあった。
(このままじゃ清水を助けるどころの話じゃねぇ!シノやソーナ、ティオも、ハジメも咲夜も先生も、皆死ぬ!コイツらに殺される!)
増え続ける虫の数に、対応しきれなくなっているのが目に見えている。それ故の焦り、動揺が刃の思考を一気に蝕んでいく。
(クソが!何のために強くなった!?こんなんじゃ足りねぇ!もっと、もっと強くなきゃ!皆を守れなきゃ、意味ねぇだろうが!!)
だからこそ、彼は意識を別に向ける。自分の中に宿る神の力、それ以外の剣帝としての力。無意識に、この場の全員を救う方法を思い浮かべた彼の意思は、あるものを繋いだ。
(力があれば────もっと俺に、力が)
────直後、彼の意識は何かを捉えた。無数の剣が連なる虚無、生きた痕跡も無い世界。白や黒、一色にそ染まった虚無に繋がった刃の思考は、かつて聞いた言葉を思い出していた。
『────黒鉄刃、一つ忠告する。お前の中に宿る『剣帝』の力、深く溶け込もうとするな』
『どういう意味ですか?』
『剣帝は元々、ごく普通の天職だった。様々な要因が入り混じり、剣帝へと変質したソレはある意味不安定でもある』
エリュシオンが、刃へ語ったこと。
それは実体験を伴ったものであった。彼は自らの魔法、星体魔法の真髄を究めようとして深く溶け込み────別の何かを垣間見た。
ソレが何であったのか、当時の彼は分からなかった。しかし確かであったのが一つ。もしアレと接触していたら、今の自分では無くなっていただろう。
『剣帝は無数の剣の記憶を読み解けると聞く。その剣の記憶に接触し、力を得られることもあるだろう。だが、無限の可能性全てが光ではなく、闇である時もあれば、それ以上の虚無である可能性もある。境界の歪み切ったこのトータスであれば、尚のこと』
意識を閉じなければ、離れなければと思ったのも束の間。彼の意識は、無数の剣山の上に立つ影に向いた。────ソレが人ですらないことに、彼はその姿を視認してようやく気付けた。
銀の鎧、いや無数の剣に全身を包まれたナニカ。 ただ立ち尽くすその人形から目を離せなかった刃の前で、ピクリ、と指が動いた。
ソレはまるで自分が見られていることに、刃に気付いたかのようにギギギと顔を向ける。無数に覆い尽くす剣が蠢き、開いたその隙間を見た刃は、エリュシオンの忠告の一つを思い出した。
『触れてはいけないものもある。理解せよ、力の中にはお前を呑み込む深淵すらあるのだと』
────光すら感じない、虚ろな虚無。僅かに開いた隙間から此方を覗き込む眼を見た瞬間、刃の意識は完全に呑まれた。抵抗する暇も、意識することすらもできず。
◇◆◇
「…………刃?」
ふと、近くから感じる親友の気配の変化に、ハジメは思わず振り向いた。そして、思わず思考が停止しかける。両手に双剣を手にしたまま、意識が落ちたように立ち尽くす刃。しかし、無防備な刃へ虫たちが襲い掛かる様子はない。無数の群体は動きながらも、感じ取れるほどの変化を示した刃への警戒を顕にしていた。
ふと、刃の手から魔剣が消える。霧散した剣に意識もくれず、項垂れていた刃が首を上げる。その瞬間、彼の片目を見たハジメは────凄まじい勢いで空を切りながら飛び退いた。
そのままユエ達の居る場所に移動したハジメは、ようやく口を開く。隻眼に鋭い怒気と敵意を滲ませて。
「……………アレは、何だ?」
「アレって、何言ってんだ。どう見ても黒鉄だろ?」
「────アレが、俺の親友に見えるのか。アイツが、あんな目をするとでも思ってんのか」
────一瞥した瞳、渦巻く虚無を体現したような虚ろ。少なくとも、アレは刃が向けるものではない。口で色々と言っておきながら、優しさを隠しきれない親友のそれとは全然違う。あの瞳に、他者への優しさなど欠片もないのだから。
「──────」
無数の虫の群れを見渡した刃、彼は何事も発することなく掌を翳す。蠢き続ける虫の群れが攻撃に転じようとした瞬間、その掌を握り締める。
直後、無数の虫は瞬時に絶命した。全身を、無数の剣に串刺しにされたのだ。何が起こったのか、と言われれば大半のものは刃が生成した大量の魔剣で虫を刺し貫いたというだろう。だが、その行動を見ていたハジメや咲夜の見た事実は、全く違った。
「内側から、魔剣を生成した………?」
虫の内側、内部から生成した魔剣で全身を破壊し尽くしたのだ。刃自身、魔剣を生成できるのは自身の魔力からであり、要約すると己魔力を保てる周辺でしか生成は出来ない。だが、今行ったは自分の魔力ではなく、虫の内部に込められていた魔力を無理矢理行使したものである。
人間にできる芸当ではない。いや、魔人族でも出来ることではない。叶うとすれば、魔力の扱いに長けた古代魔族くらいだろう。それくらいの技術なのだ。
「────」
タンタン、とつま先で地面を数回叩く。直後、まるで弾かれるように飛び出す刃。目にも止まらぬ軌跡となった影は、瞬く間に全てを斬り刻んでいく。空を飛び交う虫を、チリ一つ遺さず。瀕死による他個体との『結合』も許さぬ形で。
その手は、剣を握ってすらいない。実際に斬っているのは刃が無限に生成している魔剣だが、触れてすらいない。にも関わらず、今の刃は手を動かすだけで剣を縦横無尽に操っている。
遂に殆どの虫が駆逐され、残された【カオスアバター】に刃が意識を向ける。
【戦術パターン変更、迎撃体せ────】
ドスドスドスッ!! と、無数の剣が【カオスアバター】の全身を刺し貫く。掌を差し向けるだけで、一瞬であった。全身の筋肉と神経を的確に破壊され、即座に機能停止する【カオスアバター】。
だが、そのモニターが点滅する。映し出された画面から、ノイズの入り混じった声が好奇に染まった様子で語り掛ける。
【…………ほう?突然動きが変わったかと思えば、何だ。面白いことになっているじゃないか】
「────」
【これはこれは、非常に愉快なイレギュラーだ。良いだろう、データを取るためにも────少し、余興に興じよう】
グジュリ、と甲殻虫の身体が泥のように崩れる。粘土のように練り上げられたソレは全く別物に姿を変えていた。明らかに変化した【カオスアバター】は、ゆっくりと起き上がった。
全身が屈強な人型となったその姿は、異形と呼ぶしかない。筋肉のように膨張した甲殻を全身に纏うソレは体の至る所からチューブや管を生やしながら、やはり頭部に置かれたモニターを妖しく点滅させていた。
【────■■■■】
虫が、【カオスアバター】が両腕を広げると、無数の虫の群れが溢れ出す。先程までの無差別な嵐とは違い、一つの生き物のように一体となった群体は凄まじい勢いで動き回り、刃へと襲い掛かっていく。
無数の虫が、生成される剣によって破砕されていく。肉片や体液が飛び散る惨劇の中、遂に無数の群れが突破していき、刃に喰らいつく。そのまま横を過ぎ去った虫の群れは、肉の塊を貪っていた。
「────」
片腕をもがれても、眉一つ動かさない刃。その理由、痛みを感じない以外の余裕の根源は、すぐに分かった。片腕を貪り尽くした無数の群れは、体内から生成された剣に串刺しにされた上で破壊され尽くす。
もげた断面を持ち上げた刃、すると生成された多数の剣がそちらに集まっていく。無数に連なる剣の奔流は、片腕の断面へと吸い込まれるように消えると────片腕は綺麗に戻っていた。
【………再生、ですらない。剣を自らの肉体へと変換する、か。到底、人間に出来る範疇を超えている。実に、難解な力だ】
「────」
【剣帝については謎が多い…………だが、お前は違う。私の知り得た情報においても、その正体を表す内容は存在していない。改めて────お前は一体、何なんだ?】
ソレは、何一つ答えなかった。
持ち上げられた顔を【カオスアバター】越しに見たファウストは意味深な笑みを零し、ハジメ達はその異変を改めて理解させられる。
顔半分や片腕を、銀が覆おうとしている刃の姿。それはいつもの彼が使う、『神魔装剣』とも違う。身体の上に身に纏う鎧ではなく、肉体ごと作り替えようとしている変化。肉体自体が、作り替えられているような異変がそこにあった。
「っ!止まれ!刃!そのままだと取り込まれるぞ!」
その変化の果てに起こるであろう未来を垣間見た咲夜が叫ぶが、刃は何一つ返事をしない。虚ろなまま歩く彼の意識は、既に何かに奪われていたように思えた。どうしようもないのか、とハジメが苛立たしく唇を噛んだ────その瞬間。
────空から、七つの光が降り注ぐ。刃を囲むように地面に刻まれた光の刻印、その力にその魔力は………全員に見覚えがあった。
「これは、エリュシオン王の………?」
【安全装置を仕込んでいたか。お優しい王様だな】
「────、────ッ」
つまらなさそうなファウストの声と同時に、刃の身体を使う何のが苦しみ始めた。星を形成したような結界に包まれた刃が悶え苦しむと、身体を蝕もうとしていた力がチリとなって霧散していく。
「っ!…………が、は────ッ!?」
「ご主人様!大丈夫か!?」
「ティオ、か…………これは、俺の身体か?」
「う、うむ。ご主人様の身体で間違いない…………今のは、一体」
「分からねぇ────だが、無理矢理俺の身体を奪いやがった。抵抗も、出来なかった」
深い呼吸を繰り返す刃は、ようやく我を取り戻したようだった。しかし、その状態は普通ではなく、呼吸を繰り返す頻度は激しく、まるで息を吸うのに慣れていないように、全身がマトモに動けていない。全ての神経や骨が、無理矢理動かされたことでズレていたのだ。
そんな中、ファウストのブツブツと呟く声が聞こえる。
【肉体を、意識を上書きしている?いや、まさか────無数に存在する並行多次元世界………より近しく、遠くに位置するパラドクス……………これほどまでの力を発揮できる、適合性の高さ……………まさか本当に!そうなのか!?】
「…………?何を言ってやがる?」
【素晴らしいっ!実に素晴らしい!まさかそれが本当であるのならば、モルモットとしては最高だ!解析し、解剖し、探求するのも悪くはない!!────だが、諦めよう。アレはあまりにも、手に余る。制御できず、観測しきれないものに執着するわけにはいかない。まだ、ね】
興奮の収まりきらないファウストの声は、先程刃を乗っ取ったものの正体に気付いたようだが、意味深な笑みを零しながら話を誤魔化した。少なくとも、ファウストにとって興味を引くものであったが、手を出すつもりはないらしい。そうして別に意識を向けたファウストは、震え出す【カオスアバター】を見て残念そうな声を出した。
【ああ…………やはり力を与えすぎたか】
「なんだ?一体何をした!?」
【見て分からないかな?人間はね、魔神の力に対する作用を有している。ある程度の力を与えてしまうと魔神の眷属へと変化し、それ以上の力を与えてしまうと、器の方が耐えきれなくなってしまうんだ】
ズルリ、と【カオスアバター】の腕の1本が落ちる。全身から血が噴き出しながらも再生を繰り返す虫は何処か苦しそうな鳴き声を響かせていた。その声に、清水を重ね合わせてしまったのは気の所為では無かったのかもしれない。
【そうした結果、器は大半自壊するが………流石は異世界から選ばれた人間だ。まだ壊れずに保っているとは、優秀優秀。だがまあ、時間の問題かな?】
「時間の問題……?どういう意味だ!?」
【言葉通りの意味さ。力に耐え切れず、自滅する。もうそろそろ助けないと、彼死んじゃうと思うよ。最も、手遅れかもしれないがね】
それはつまり、【カオスアバター】の器として取り込まれた清水が死ぬことを意味する。改めて理解した咲夜と愛子の顔が、一気に凍り付く。
「ッ!そんなこと、させるか────!」
叫んだ咲夜が、魔法を展開する。周囲に展開する白黒の結晶を槍へと変化させ、投擲していく。しかし、肉体が破壊されても【カオスアバター】は未だ再生を繰り返している。焦り故か、余裕を失っている咲夜に無数の虫が飛来する────瞬間。
着弾した直後に爆裂を引き起こす弾頭と複数の剣が、咲夜を襲おうとした虫を消し飛ばした。
「感情的になりすぎだ!咲夜!」
「俺達だって、まだやれる…………舐めんじゃねぇぞ!」
「ハジメ!刃………お前は、大丈夫なのか?」
「まぁな、伊達に神の力を宿しちゃいねェよ」
神の力による即座に自らの体を治癒した刃。だが、無茶には変わりない。ラナールやソーナ、シノからまた怒られるかもな、と軽く笑った刃はすぐに真剣な表情で、二人に呼びかけた。
「それより、清水を助け出さなきゃ駄目なんだよな………俺に手がある」
「っ!本当か!」
「神の力で魔神の力を相殺する。そうすれば、中にいる清水だけは死なずに済む」
「…………出来るのか?」
「────やるしかねぇだろ」
言うや否や、刃は神の力を腕に収束させる。自身の魔力と共に形成されたソレは、『神魔装剣』とは全く別形状の鎧剣であった。拳というよりも、右腕に纏うガントレットのような剣だった。
『
「これで清水を助け出す!援護任せたぜ!ハジメ!咲夜!」
「ああ、任せろ」
「────託した!」
走り出した刃の言葉に応じたハジメに咲夜。そんな三人を迎え撃つように、【カオスアバター】が無数の虫を殺到させる。膨大な虫の群れが、一つの生き物のように、刃へと襲い掛かった。
だが、その蛮行をハジメは許さない。義手に装備した大型砲身、『メツェライ』が火を噴く。高速回転した六砲口から撃ち出される弾丸の雨嵐は数で押していたはずの虫の軍勢の突撃を一気に押し返す。
その群れを突き抜けた刃に、複数の虫が気付く。羽音を響かせて後ろを狙おうとする虫に見向きもせず、刃は走り続けた。後ろにいるであろう仲間達を、信じた上で。
「────“槍よ”!!」
白黒の魔力で形成された槍が、虫を撃ち落としていく。『増殖』による再生や分裂も、『結合』による融合すらも許さない。的確に強襲する虫を潰していく咲夜の魔法に、虫は手足も出なかった。
そうして、何とかギリギリの距離まで肉薄した刃の前で【カオスアバター】は肉体を膨張させていく。ソレは、体内に増殖させた虫を一気に解き放とうとしている行為だと、すぐに気付いた。
(ッ、避け────いや無理だ!ここで距離を取ったらまた近付くのを阻止される!今ここで、多少の無茶を覚悟して!)
正面特攻をしようと覚悟を決めた、直後だった。
────飛び交っていた虫が、一斉に【カオスアバター】に襲い掛かったのだ。暴走や事故ではなく、肉を喰らう虫達には明確な反逆の意思があった。
「────え」
【………まだ抗うか。死に損ないどもめ】
戸惑う刃の耳に、冷淡なまでのファウストの罵倒が聞こえる。肉体に群がる虫を無理矢理引き剥がし、潰していく【カオスアバター】。されどその虫達は意地で喰らいつき、必死に全身の動きをその場に留めていた。不意に、刃の耳が声を聞き取る。
────今だ、剣士の少年。私達ごと、頼む
「────応ッ!!」
その願いに応えるように、刃は右腕の剣を────『神救聖剣』を深く、【カオスアバター】へと突き立てた。白い光を宿す刃がモニターを貫通し、その力を内部へと浸透させていく。
『ギ、ギギ』
「帰ってこいよ、清水────咲夜と先生、皆が待ってる」
言葉にならない虫の悲鳴が世界に木霊した。直後に内から発する光に焼かれ、消滅する【カオスアバター】。肉片も残らず消滅した混沌の魔神の眷属の力は、音もなく世界に溶けて消え去った。
刃達を最後に助けた、何者か達の意思も────同じように。
カオスアバター戦は今回にて終了。次回でウルの町のストーリーは一旦収めとなります。
正直書いてて迷ってるのが、清水をどうするかなんですよね。原作ではもう死ぬ以外ない程に堕ちていたけど、今作の清水は普通に綺麗な清水だし、殺す理由が特にない。
なので、アンケートを取ろうかな、と。清水の今後についてアンケートを取ります。結果次第では咲夜や愛子が曇るので、ご了承のほど。
清水の今後について
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生存その1(生き残るけど戦えない)
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生存その2(護衛組の一人として戦う)
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死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
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意識不明の重体として途中退場