ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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アンケートの結果、清水は生存ということになりました!生存の中でも、護衛組の一員としてこれからも戦うルート!一番安牌で平和なルートだ!良かった!!(安堵)


悪意の渦巻く先へ

「────清水くん!清水くん!返事をしてください!」

 

 

【カオスアバター】を撃破した直後、清水はすぐに発見された。だが、その状態は無事とはお世辞にも言えなかった。全身はズタボロに破壊されており、内外含めて傷が激しかった。あまりの状態に、発見した時は死んでいると誤解しかけた程である。

 

ラナールが治癒していることで、何とか落ち着いた。死にかけた清水の姿に、動揺を顕にしているのが咲夜と愛子の二人であった。当初、咲夜は必死にラナールに縋り、頼み込んでいた。助けてくれ、何でもする、と余裕もなく頼み続ける彼の姿にいつも怯えていたラナールも覚悟を決めて、治癒に励んでいた。

 

不安そうになりながらも、必死に清水の意識に呼び掛ける愛子。その隣で優花たちに寄り添われながら、手を握って可能性に祈り続ける咲夜。二人の希望が、願いに応えるように────清水は目を開いた。

 

 

「────ぁ、ここ……は」

 

「清水くん!目が覚めたんですね!………良かった」

 

「………清水!大丈夫か!?俺だ!咲夜だ!」

 

「…………咲夜………先生………?」

 

 

意識が覚醒した清水の姿は、あまりにも痛々しかった。全身を破壊し尽くした、『混沌』による傷は彼の姿を大きく変えていたのだ。意識朦朧としている彼の様子からしても、そのダメージが相当であるものは明らかだ。

 

 

「気を付けてください。まだ、完治はしていません。無理に動くと傷に障ります…………私の力では、この傷を癒せません」

 

「…………これが、『混沌』。魔神の力の影響か」

 

「ですけど、ある意味奇跡です。あれだけの力の渦に呑まれて、それでも尚五体満足であるのは…………何かの力が作用していたとしか」

 

 

改めて、始めて見る魔神の力の残痕に警戒を深めるハジメ。そんな傍らで治療を終えたラナールは困惑を吐露した。その疑問に応えたのは、意識を覚醒させたばかりの清水であった。

 

 

「あぁ、そうだ………俺は、助けられたんだ」

 

「清水くん!?無理をしては!」

 

「………誰か、知らない人達が…………俺の代わりに………助けて、くれたんだ…………死ぬなって、待ってる人達がいるって…………送り出して、くれたんだ………」

 

 

この場にいる誰もが知らぬ事実。

混沌の力から清水を助けたのは、かつて魔神────『結合』に囚われた滅却者達であった。永劫の苦しみと絶望の中でも、魔神殺しの戦士達はその意識を保ち続け、守る為に戦っていた。

 

清水が致命傷にならずに済んだのは、彼等の意思があったからこそである。

 

地面に転がった清水は、ふと思い出したように口を開く。せめて言わなければならないと、思っていたことだ。

 

 

「────そうだ、言わなきゃいけないことが、まだあったんだ」

 

「っ!喋るな、清水!まだ傷が!」

 

「聞いてくれ、咲夜…………俺、あの時見たんだ。アイツだけじゃない。もう一人、あの男と手を組んだ奴が────」

 

 

次の瞬間、身体強化によって飛び出したシアが叫ぶ。未来視で見た、最悪な光景を防ぐために。

 

 

「────ダメです!逃げてぇ!!」

 

「「「「──────『フィレスノール・デスマーチ』」」」」

 

 

空中に、無数の口が浮かぶ。それは淡々と同じ言葉を口にすると、大きく開いた口から魔力を収束させる。思わず飛び退こうとした咲夜は、魔力の狙いが清水であることに気付き、咄嗟に彼と愛子を庇おうとする。

 

────だが、彼は見た。自身の足元の影が蠢き、その口へ一斉に攻撃を仕掛けたことに。収束させていた魔力ごと影の触手に切断された口が、暴発に巻き込まれる。何が起きたのか、当惑する一同だが、その攻撃に見覚えがあった。

 

 

「っ!?これは────影!?」

 

「まさか、お前は!?」

 

 

ズルリと、影から這い出る黒い影。それはボロ布の黒衣を身に纏った魔導士であった。謎の男、ソロモン。少し前に対峙したはずの敵が、咲夜達を助けるような行動をしたのだ。

 

 

「ソロモン!?何故、お前が」

 

「………勘違いするな。貴様を助けたわけではない」

 

冷たく、冷酷に吐き捨てるソロモン。その瞳がふと、地面に倒れ伏す清水を見た。何の感情があったのかは分からない。しかし、次に咲夜を睨んだソロモンの瞳には、明確な感傷が秘められていた。

 

 

「────何故」

 

 

忌々しい、と言うよりも忌々しそうな声。

心の底から吐き捨てるような、憎しみに近しい恨み言を告げた男は、影に溶けて消えた。突然現れて、何がしたかったのか分からない。

 

だが、少なくとも────特定の相手にとっては不快なことには変わりなかったようだ。

 

 

「────全くしてやられたよ」

 

 

すると、近くの瓦礫から謎の男が姿を現す。白い画面を身に着けた、道化師のような男。姿形は分からない、白い仮面を身に纏う道化師ということしか。その道化師は愉快そうな声で捲し立てる。

 

 

「さっきの男………ソロモンだったけ。一体何のつもりなんだろうねぇ、彼。私の邪魔ばかりしてきて…………そんなに彼等が大事なのかな。何一つ分からないが、手出ししようにも不安要素が多い…………困ったものだ」

 

「まさか、お前が清水をッ!!」

 

「………………ああ、そうだけど………もういいよ?ソレにはもう興味はないし」

 

 

淡々と、清水を見る視線に感情はなかった。まるで使い捨ての道具を見るようなその目は、優花達も恐怖に身をすくませるほどに無機質だった。振り向いた彼は作り笑いのようなものを刻みながら、仰々しく一礼した。

 

 

「さて、改めまして。私はジョーカー・ブラック…………と、名乗っていたねぇ、確か。まぁ喋り方に関しては気にしないでくれ。一々人格を作り替えるのも、面倒でね。いや、君達に馴染みのある名は────ファウストと言ったほうが、分かりやすいかな?」

 

「ファウスト………!『混沌の魔神』か!」

 

「如何にも、と言いたいが………私には生憎、魔神と呼ぶほど完成された肉体は持ち得ていない。まぁ、それを補う程の知識と力、蓄えが私にはあるのだがね」

 

 

肩を竦め、軽口を叩くほどの余裕を見せるジョーカー・ブラックことファウスト。その余裕は大勢に囲まれているとは思えないほどのものだった。それどころか軽薄に笑い、指を鳴らして軽い調子で語り出している。

 

 

「今回は荒事をするつもりはない。君達に感謝を告げに来たのさ────実に素晴らしく、面白いものを見せてもらった!そこの『剣帝』の少年も『賢者』も、そして『錬成師』の君も!良い成長具合だ!私の見込み通りの成長を果たしてくれた!」

 

「見込み通り、か。やっぱりテメェが俺を奈落に落とした張本人だな?」

 

「正確には、共犯者だがね。ああ、その件については感謝されても、責められる謂れはないよ。君がそれほど強くなれたのも、私の実験のお陰なのだから」

 

「………ああ、感謝してるよ。お陰でテメェのドタマをぶち抜けそうだ。俺に殺されない事にも、感謝して欲しいな」

 

 

身構えていたハジメからドンナーを向けられても尚、ファウストは怖い怖いと笑っている。明確に舐められていることに舌打ちを漏らすハジメだが、迂闊に手出しは出来ない。ファウストは狡猾で悪辣、と聞いてる。彼が何かを用意している以上、不用意に動けば此方が追い込まれることになる。

 

 

「…………待って、ください」

 

 

そんな最中、震えた声が響いた。

清水の近くに寄り添っていた愛子が立ち上がって、ハジメ達の前に立ったのだ。小柄ながらも彼等の前に歩み出る彼女の姿に、誰もが口を出せない。

 

 

「貴方は………何がしたいんですか?」

 

「…………質問にしては、主語が無いな?君は教師だろう?ならば明確に、言葉にして欲しいものだ」

 

「どうして、清水くんを利用しようとしたんですか!?彼は、あんな事をしようとする人間じゃなかった!それを一方的に利用して、こんな風に切り捨てようとするなんて!」

 

「理由、ねぇ…………それ、必要かい?」

 

 

真剣に問い掛ける愛子に、ファウストは軽薄そうに肩を竦めている。それでも一切眼差しを揺るがせない愛子の様子に、流石にやれやれと呆れた様子だった。

 

少し考えた後に、彼は信じられない言葉を口にした。

 

 

「君達、料理はするかな?」

 

「…………突然、何を言って」

 

「するだろう?すると仮定して、話を続けるよ。料理の際、食材はちゃんと選ぶだろう?品種、生産地、腐ってないか、あらゆる条件に一致しているものを、選ばないかね?そういうものを、使わないかね?」

 

 

意味が分からない、と言わんばかり困惑した愛子も段々その意味を理解し始めた。彼が清水を利用しようと決めたのは、そのくらいの感覚だったのだ。巷の店に並んでいる良質な野菜を選んだ時の、そのくらいの考えで清水を巻き込み、利用し、傷付けたのだ。

 

 

「目に留まったから、理由はそれ以外ないよ。素晴らしい才能と適性を有していて、揺さぶりやすかった。だから、出来ることをやる為に利用した。充分使い切ったから捨てるのも吝かだし、処分しようとしたんだ。────ああ、欲しいなら好きに使ってくれ。私にはもう無用なものだし」

 

「…………どうして、ですか。どうして、貴方は────そんなことを!?」

 

 

張り裂けんばかりの怒声で、愛子はファウストへ投げ掛けた。他人をそこまで弄び、淡々と利用できる精神性。何か悲劇があったのか、何か理由があるのか、と話し合える可能性を期待しながら、少しでも可能性を信じて問い掛けた言葉に、

 

 

「人は如何にして、人であるのか。考えたことはないかね?」

 

 

ファウストは、笑ってそう聞き返した。当然ながら、愛子は困惑する。どうしていきなり、そんな哲学的な話になるのか。しかし無意味なことではなく、ファウストにとって重要なものであったらしい。

 

 

「かつて猿人であり、地球という星より産まれた無数の生物の一種が如何に霊長の長として確立し、星を代表する生命体となったか────それは、進化だ」

 

「度重なる情報の吸収と適合を重ねた、進化の系譜。数千年、数億の時を掛けた進化によって人間は産まれた────しかし、人間はそれ以降進化することはなかった。数という利点により、進化の必要性を失ったからだ。それは、実に嘆かわしいことだ。

 

 

 

だから、私は人を辞めようと思ったんだ」

 

「人を辞める?」

 

「分からないかな?私は有象無象の人間ではなく、究極の存在になりたいのさ!!」

 

 

嬉々として語るファウストの様子に、誰もが圧倒される。仮面越しに漏れ出す感情は、狂気と呼ぶ以外無かった。

 

 

「全てを手に入れ、全てを支配し、全てを理解し尽くす!指を振るだけで生命体の生き死にを操作し、口で告げるだけで世界を動かす!それほどまでの、究極で!至高で!絶対的な存在になる!────それが私の、唯一の望みなのさ」

 

「…………何、それ」

 

「その点で言えば!魔神ほど素晴らしい存在はない!数多の命を魂という無限の情報を取り込み、より上位の存在として完成される!世界を滅ぼし、世界を支配し、世界を壊す!…………破滅の意思に支配されてるのは少しマイナスだが、それさえ超えれば生命体として素晴らしいことはない。故に、私は魔神を超えた存在に成りたいんだ。この世界にある全てを取り込み────場合によっては、君達の世界も必要になるかもしれないが、さしたる問題ではない。私にとって、それこそが全てなのだから」

 

「…………そんな、ことのために?」

 

 

悦楽に浸りながら語るファウストに愛子は震えた声で聞き返す。ゆらりと全身を揺らした彼女は、涙を堪え目の前の男を睨んでいた。教え子達を殺そうとし、道具のように利用したのが、そんなことの為だと知った愛子は湧き上がる怒りのままに、ファウストを糾弾した。

 

 

「貴方は────命を何だと思ってるんですか!!?」

 

「────替えの効く消耗品。それ以外の価値があるのかな?」

 

 

そんな愛子の必死の呼び掛けを、ファウストは鼻で笑った。本気でそう思っているのだ、彼にとって命というものは使い捨てて補充すればいいだけの部品でしかないのだ。文字通り虫を潰すような、感情の欠片もない眼差しを見て────畑山愛子は、完全にキレた。

 

 

「………私は」

 

「ん?」

 

「私は、貴方を────赦しませんッ!!!」

 

 

その叫びに、ファウストの顔から余裕の笑みが消えた。立ち尽くす愛子の両の眼が翡翠に光り輝き、何かを感じ取ったであろうファウストが無音で迫る。誰もが動けぬ速度で飛び掛かったファウストの手が、愛子の命を奪うよりも先に────ソレが動いた。

 

 

『ォォォォォォォォオオオオオオオオオンッ!!!!!』

 

 

巨腕が、ファウストを吹き飛ばす。

愛子を守るように踏み込んだのは、巨神兵器『エンキ』。幼子の魂が組み込まれた神造兵器は愛子の感情に呼応するように、咆哮を響かせる。迸る力は、刃が戦った時以上の出力であった。

 

 

「神造兵器か!悪いが、流石に分が悪い────なので逃げる!」

 

 

何も無い空間を切り裂いたファウストは、その中へと逃げ込む。剛腕を回避したファウストが虚空の中で安堵したのも束の間。ギギギ、という軋む音が虚空の中に響き渡った。冷や汗を滲ませたファウストが、後ろの光景に言葉を失う。

 

 

「う、嘘だろう!?」

 

 

閉ざされたはずの空間をこじ開け、腕を伸ばす『エンキ』。慌てて逃げようとしたファウストは巨大な掌に掴まり、「ぎゃっ!?」と情けない声を零した。

 

そのまま元の場所へ引き摺り戻した『エンキ』は片手に力を込める。凄まじい握力に、内側からの音が漏れ出す。メキ、メキキッ、という異音と共にファウストの声が聞こえる。

 

 

「あ、ばば………ッ、壊れ、壊れる………私の────」

 

 

グシャ、という音が響いた途端声は完全に消えた。

握り潰されたであろうファウストの気配は、捉えられなくなる。誰もが終わったと確信した────愛子と咲夜、ハジメに刃以外は。

 

 

 

──────爆裂する。『エンキ』の腕が、音もなく。

凄まじい力に内側から爆散した腕が、跡形もなく消し飛ぶ。フワリと浮かぶ人影は、指先に浮かぶ欠片を見て呟く。

 

 

「ふぅん、神の力でなければ破壊できない特殊な装甲か。何より相手の能力に適応する力、面白いが…………私好みではないな」

 

 

聞こえた声は、女の声だった。

凛とした、穏やかな声音。聴くものを魅了するほど優しいはずの声。しかし、その声は明確な悪意と狂気を滲ませたものであった。

 

地面に降り立つ人影は、道化師のものではなかった。透き通るほどの銀色の長髪を足元まで伸ばした美女。精巧すぎる顔立ちは美しいというよりと素晴らしいと体現するほどに、ある意味人間離れした姿をしていた。

 

そして何より────刃が感じる、強力な神の力。全身から溢れる神の力は、継承した刃のソレとは比類にならぬ。炉心、そう呼ぶ程の力に浸るその肉体は────紛うことなく、神そのものと見間違う程だ。

 

 

「あーあ、あの身体は割と多用していたんだよ?裏で暗躍するのに重宝してたのにさぁ………ま、いいか。暗躍用の身体の替えなんて、この世界にはいくらでもあるからね」

 

「お前………!その力は、神────だが、旧神でもない!何だ、お前は!!」

 

「ああ、これね────予備の器さ。私が魔神として完成された肉体を得るために、別世界の神から奪った肉対さ」

 

 

素晴らしいだろう?と、豊満な胸を持ち上げながらファウストは笑う。少なくとも美しさや性的興奮は誰も感じない。そこにあるのは他者から奪った肉体を平然と利用する、悪辣さしかない。

 

 

「さて、見逃してあげようかと思ったが………そこの先生のお陰で気が変わった」

 

「っ!愛子先生!」

 

「気配に既視感があると思ったが、『彼女』と同じあの世界の女神か。逃げ延びた、いや人間に転生していたと見るべきか?まぁどちらにしても、消えてもらったほうが早そうだ」

 

 

咲夜やハジメ、刃が庇おうとするのも意味がないほどの力の奔流が、世界を呑む。一方的な破壊を誰もが防げず、薙ぎ払われ、一掃される────直後のことだった。

 

 

 

「ヴェーレ────消滅(ゼスト)

 

 

空から飛来した数発の弾丸が、吹き荒れる力の奔流を消し去った。それは、吸い尽くすように完全に力そのものを消滅させていた。輝きを失った両目を伏せた愛子の前に立ったのは、かつて彼女の命を奪おうとした異世界の人間であった。

 

 

「……………まさか、貴女を庇うことになるとは」

 

「貴方は………」

 

「あの時の非礼は、後程。どうかご容赦を」

 

 

自身が撃ち抜こうとした相手を守ることに複雑そうな顔を浮かべるイクス。愛子も自分を助けた相手が、あの時自分の刃を襲った相手だと理解したのだろう。驚きながらも困惑を吐露する彼女に一礼したイクスは片手のリボルバーを強く握り締め、目の前の女性を────『彼女』の体を支配する男を、見据えた。

 

 

「────やぁ、イクス。会いたかったよ、我が友」

 

「────オレを友と、そう呼ぶか!ファウスト!」

 

 

馴れ馴れしく、邪悪な笑みを浮かべる女性 ファウストの挑発的な言葉に、青筋を立てたイクスがリボルバーの銃口を突きつける。

 

睨み合う二人を起点として、空気が張り詰める。世界そのものが火花を散らしているかのように、異様な熱と殺気がビリビリと周囲に撒き散らされていた。

 

 

「会いたかったか、それに関しては同調するぞ」

 

 

一切笑うことなく、鋭い敵意と戦意に身を宿したイクスがリボルバーの引き金に掛ける指への力を込め、両眼に怨恨に等しい殺気を迸らながら吼えた。

 

 

「あの時から、ずっと生きてきた!たった一人の生き残りとして、滅却者として戦い続けてきたのも!別の世界に逃げた貴様を、この手で葬る為だ!!お前に滅ぼされた世界の、仇を討つ為に!!」

 

「仇?おかしな話だ………あの世界が滅びたのは、私だけのせいかなぁ?そもそも、あの世界を滅ぼした魔神が解き放たれたのは、私がこうして魔神の力を手に入れられたのは────君のお陰だったはずだがねぇ、イクス」

 

「ああ!そうだ!仲間達を、あの世界を滅ぼした一因は────あの方に責を負わせたのは、他ならぬこのオレの咎だ!その咎を清算し、貴様を滅ぼすことこそが!貴様に奪われた我が主君、アストレア様の身体を取り返すことこそが!オレの使命だ!!」

 

 

ふぅん、それは大層なご使命だ、と肩を竦めるファウスト。しかし彼はすぐに笑みを深め、自身の身体を弄ぶ。片手で胸を掴みながら、もう片方の手で首を絞め上げる。それは明らかに、目の前に立つイクスへの挑発であった。

 

 

「撃てるかい?この身体を、君の大事で大切な、守ると誓った女神様────いや、君の場合はご主人様だったかな?飼い犬君」

 

「────ファウストぉ!!」

 

「おっと怖い。君のような猟犬を、刺激するのはこれまでにしよう。折角の神の肉体、壊されるのは困るからね。もっと良いものを、新たなる魔神として新生する器を手に入れるまでは、必要なものだ」

 

 

そう言って、引き裂いた空間のヴェールに身を隠そうとするファウスト。その場から立ち去ろうとしているのだ、と誰もが理解した。

 

 

「では、ここでおさらばだ。私にもやることが多い…………最近、可愛い娘のような子に出会えてね。その子の手ほどきで忙しいんだ」

 

「逃がすと思っているのか!!」

 

「いいや、逃がすよ。君はそういう奴だ」

 

 

言うや否や、ファウストは片手から針を飛ばした。そのまま回避しようとしたイクスはその狙いが自分ではなく、後ろにいる愛子であることに気付き、即座に動く。片手で針を掴んだときには、ヴェールに包まれたファウストは既に手も出せない状況であった。

 

 

「やはり君は、何処までいってもお人好しだな────あの時と変わらず、御し易い」

 

「貴様ッ!!」

 

「また会おう諸君。次会う時はもっと成長してくれ、私の実験に付き合える程に────フハハハハハハハハッ!!」

 

 

世界に溶け込むように、消え去るファウスト。まるで存在自体が失われたような消え方に、誰もが痕跡すらも見つけられない。全員が生き残ったにも関わらず、勝利の余韻を感じれない終わり方であった。

 

 

◇◆◇

 

それから数日後。

魔人族による襲撃による町の被害は多いが、それでも犠牲者は少数に留まっていた。数人の犠牲者は出たが、魔人族の隊長クラス────それも大魔王直属の魔人将を撃退できたのだ。ウルの町の住人としては、奇跡としか言いようがない勝ち方であった。

 

それから町の復興作業が行われている中、ハジメや刃達も旅立とうとしていた。

 

 

「もう行くのか?」

 

「ああ、ここに居座ってる余裕もないしな。俺も刃も」

 

「………そういえば、そうだったな。無理はしないでくれよ」

 

 

ハジメは迷宮攻略を続けて神代魔法を集め、刃は残り四柱の旧神を探さなければならない。刃の方は次の神の居所が分からない為、ハジメに同行することにしたが。

 

ふと、ハジメと会話していた咲夜に刃が疑問を投げかけた。

 

「そうだ、清水はどうだ?無事だったんだろ?」

 

「ああ、ついさっき何とか歩けるようになってな。復興が終わる頃には、元の様子に戻れるだろう…………ほら、見ろ」

 

 

そう言っていると、後ろの方から騒ぎ声が聞こえてきた。

 

 

「ちょ、清水!流石に無理しすぎじゃないの!?」

 

「大丈夫………これくらい、平気だって」

 

 

棒を付いてよろけながら歩く清水。先の怪我により寝たきりであった清水だが、何とか歩けるまでに至れた。何より、今回の件もあって清水は周りと打ち解けられることが出来た。

 

これからの方針としては、清水の怪我が治るまでウルに滞在するらしい。彼が元気になって復興が終われば、次の街へと向かうのだとか。その事もあって周りの足を引っ張らないように、清水はリハビリに意欲的らしい。

 

懸命なことだと見送ろうとしたハジメだったが、そんな清水が駆け寄ってくる。咲夜に用があるのか、と適当に流そうとしていたハジメだったが、用があったのはハジメにらしい。

 

 

「なぁ………南雲」

 

「何だ?」

 

「…………正直に言うと、俺お前のことが羨ましかったんだ」

 

本心を吐露する清水に、ハジメは目を向けて見据える。その眼光に萎縮しながらも、清水は悔いるように語り出していた。

 

 

「同じオタクなはずなのに、お前だけ友達や他人に好かれて嫉妬してた。けど、分かってたんだ。同じオタクだったとしても、お前は人に優しく出来るやつだって………俺とは違う奴だったから、憧れてた」

 

「…………」

 

「ずっと、仲良くなりたかった。けど、怖くて何も言い出せなかった。あの時、檜山達に傷付けられてる時も、怖くて何も出来なかった…………ごめん」

 

 

その謝罪は、清水がずっと言いたかったものだろう。周りの目ばかりを気にして、何も出来なかったという後悔故の。しかし。当のハジメは半ば呆れた様子だった。

 

 

「お前、咲夜から聞いてないのか?」

 

「…………え?」

 

「あの時、咲夜達を呼んだのはお前だろ?アイツがそう言ってたぞ?」

 

「────えッ!?」

 

 

清水は知らなかったが、あの時の経緯をハジメは咲夜から教えられていた。訓練の際、檜山達に過度な暴力を受けていたことに一番最初に気付いた清水、彼は慌てて咲夜に助けを求めに行ったのだ。そのお陰で、咲夜は檜山の暴挙を直前に防ぐ事に成功した。

 

自分に好意的な相手以外を極力認識していなかったハジメが、清水を認識したのもそれが一因であった。

 

 

「謝るのは、まぁ俺もだ。正直あの時からずっとお前のことっていうか、周りを気にしてなかった。…………あの時の礼を、改めて言わせてくれ」

 

「…………南雲」

 

「「「「……………」」」」

 

(お前等、言いたいことは分かるが黙ってろ)

 

 

ハジメなりに誠意を見せた感謝に、誰だコイツという視線が集まる。それをコソコソと諌めた刃であったが、ハジメには丸聞こえだった。人の事を何だと思ってんだ、と不満はあったが、自業自得なので文句自体言えない。

 

 

「まぁ、お前も今後頑張れよ、清水。お前や園部みたいな奴は、強くなれるだろうしな」

 

「あ、ああ!それと南雲!」

 

「…………何だよ?」

 

「二丁拳銃って、かっこいいよな」

 

「…………まぁな」

 

 

どこか嬉しそうに笑い、ハジメは軽く手を振った。これは悪くない友達ができたな、と彼なりに思い返す。戻ってきたハジメは親友や少女たちのニヤニヤとした笑顔に、少し居心地が悪そうであった。

 

 

そうしてウルの町から出たハジメ達、彼等はすぐに町を出ることなくある相手を探していた。そして、その相手はすぐ近くにいた。

 

 

「────待っていたぞ」

 

 

イクスとノイン。

先日の戦いでハジメ達を助けに入った彼等は、人気の無い町の外で静かに待機していた。腕を組んで物陰に寄りかかっていたイクスに対し、ノインはパンを頬張っていたが。

 

 

「早速だが、お前に聞きたいことがある」

 

「何が知りたい?」

 

「お前とファウストの関係だ。ファウストとは何があった?あの女は一体誰だ?全てを洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

 

ドンナーを突きつけるハジメの目には警戒が顕であった。ハジメの凶行に困惑しながら止めようとしたウィルを、隣にいた刃が制する。

 

彼としても、知りたかった。

そうでもなければ信用できない。背中を預けることは出来ないのは事実、それを理解したからこそイクスは否定の意思を見せなかった。

 

 

「話は長い。こんな場所で話していては一日も過ぎるぞ」

 

「じゃあ、車の中で話せ。一応言っておくが、下手な真似したら脳天をぶち抜くからな」

 

「良いだろう。元より、お前達とは協力するつもりだったからな」

 

 

魔力駆動四輪に乗り込んだハジメや刃達一行に続いて、乗り込むイクスとノイン。車両が走り出して、ウルの町を旅立つ。ブルル、と重音を響かせながら平原を疾走していく車内に沈黙が過る。

 

それから数秒後、イクスはポツリと語り出した。

 

 

「────オレ達は、使い捨ての消耗品だった」

 

 

後に、彼が語るはイクスが経験してきた記憶。

イクスと呼ばれた滅却者が、如何にして生まれたか。彼がどのように生き、どんな出会いをして────ここまで歩んできた軌跡。

 

────魔神殺しの殲滅者の、喪失と罪の物陰を。




次回、イクスの過去編────『アステロイドの残響』編になります。話の構成としては数話で済む内容ですが、イクスとファウストの因縁、そしてイクスの主 アストレアを語るお話です。


清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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