ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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イクスの過去編始まりとなります。
少し長くなりますので、よろしく


第四章幕間 アステロイドの残響
滅却者の追想


────産まれた頃から、自分達の存在意義が分からなかった。哲学的な、自分の人生に意義を見いだせなかったからではない。本当に、自分たちが何の為に生きているのか、分からなかったのだ。

 

何度も、彼は仲間達に問い掛けた。答えは常に決まっていた。

 

 

『────より多くの人々の、世界の為だ。その為に、我々ナンバーズは生まれた』

 

『世界を滅ぼす厄災と戦う為に、我々は作られたのだ。ソレ以外の理由など、我々にはない。私情は慎め、X-193』

 

 

僅か十センチのカプセルから生まれた、遺伝子強化型量産戦士 『ナンバーズ』。それこそがイクスの、X-193の呼称であった。その場にいる銀髪の少年少女も、同じ『ナンバーズ』である。

 

 

────タリオン29。彼等の生まれた世界は、破滅の危機に陥っていた。魔神による襲撃、全人類の半数の虐殺。唯一生き延びた人類は魔神に対抗するための戦力を求めた。兵器、戦術爆撃、どれも通じない彼等が作り出した兵器────それこそが、『ナンバーズ』であった。

 

体内に特殊なエネルギー源であるエーテル炉心を組み込まれ、全身の至る所を人工素材で改良された人型兵器。人間を模倣しただけの量産人形。それこそが、脅威を討ち滅ぼせる存在だった。

 

 

その結果、作戦は成功。人類の半数を殲滅した魔神を撃退した人類は『ナンバーズ』を有効と判断。その後量産体制に入った『ナンバーズ』はタリオン29に生存する人類によって運用されることになった。

 

その主な用途は────他世界への遠征。魔神の被害を受けた世界に関与し、彼等を事前に助けるという活動である。無論、慈善活動ではなく、助けたことで恩を売るという露骨なまでの上層部の魂胆があるのだが。

 

 

そうして、X-193達も別世界への転移によって遠征をすることになった。その世界を襲っていた魔神を撃退することが目的だったが、彼等は知らなかった。

 

かつて自分達が撃退したのが、魔神ですらない────単なる眷属であったことに。そして改めて、魔神の恐ろしさを知ることになる。

 

 

 

「────本部!司令本部!応答を願う!至急応答を願う!」

 

「無駄だX-193!本部は答えない!我々は孤立した!」

 

「馬鹿な!既に前線が崩壊しかけているんだぞ!?今も仲間達が、殺されながら前線を守り続けている!この状況下で、司令本部は何をしている!?」

 

「逃げたんだ!奴等は!!オレ達消耗品に足止めをさせて、この世界から撤退した!オレ達は、完全に見捨てられた!」

 

 

────『第一次魔神殲滅作戦』、魔神の侵略を受ける世界の一つ『タオ08』にて魔神を滅ぼしに向かったナンバーズ達は、その圧倒的な脅威に蹂躙された。

 

カテゴライズされた魔神のコードネームは、『増殖』。無尽蔵に虫を増やし続ける虫の女王。当初は投入され、戦線を確立したナンバーズ達は、倒しても倒しても途絶えることのない物量に呑まれることになった。

 

 

その結果、作戦指揮を任された司令本部は緊急事態と判断して撤退。というよりも、功績目当てだった上層部のお偉いさんが遠足気分だったのも束の間、保身により作戦を放棄して逃げ帰ったのが現実だ。

 

それにより、上からの指示を失ったナンバーズの大隊は完全に崩壊。一方的に狩られる状況でありながら、誰も逃げることも出来ず、無限の虫に食い漁られていった。

 

 

「こっちだ!止まらずに走れ!!」

 

「はぁ………はぁ………何人、残ったんだ!?」

 

「分からない。きっと、もう私達だけかも………」

 

 

大量の虫相手に戦い続ける訳にもいかず、撤退するX-193達。既に自分を含めても四人しか残っていない。逃げ始めた時には、まだ十数人いたはずだ。

 

皆、喰われた。無数の虫に突進され、噛みつかれ、引き摺られて。少なくとも、その数によって反撃すら許されない。

 

今も尚追われながら逃げ続けるナンバーズ達。しかしそれもすくに意味を成さなくなる。後ろに弾幕を浴びせていた少女が、足を掴まれて無数の虫の元へ引き込まれたのだ。

 

 

「ひッ!や、やだああああああッ!!」

 

「っ!?T-53!待ってろ!今助ける!!」

 

「駄目だ!T-52!戻れ────クソッ!」

 

 

少女と仲良かった少年のナンバーズが突貫していく。制止したX-193だが、直後無数の虫に呑まれた彼の姿に歯噛みする。その僅かな停止は、あまりにも大きな油断でもあった。

 

 

「しま────あああああッ!!?」

 

「X-193!逃げ────ッ!!?」

 

 

空から強襲した虫に食い付かれる仲間達。思わず助けようとしたX-193だったが、間に合わないことだけは理解できる。行き場のない感情を噛み砕いた彼は、すぐに森の中へと逃げ込んだ。

 

 

「────どうする?どうすればいい?」

 

 

装備していたマシンガンを連射し、グレネードランチャーの爆風で焼き払う。敵を一掃し、全力で逃げながらX-193は思案する。

 

司令本部はいない、命令する者はいない。仲間はもう全滅した。弾薬の消費は気にする必要はない、もうすぐ魔力がゼロになるだろうから。既に、この戦局は詰みであると理解した瞬間、何もかもがどうでもよく感じた。

 

 

「………これが、終わりか」

 

 

呆気ない最後だと、追い詰められたX-193は自嘲する。いっそのこと、自爆するのも悪くはないだろう。死ぬのならばせめて、多くの虫を犠牲にすれば、その虫に襲われる者も減る。だが、『増殖』の効果もあり、特に大きな意味はないことを思い出し、自爆装置を押すのは躊躇う。その一瞬が、X-193にとって大きな隙となった。

 

 

「────口を塞げ!男の戦士!」

 

 

────ボンッ!と、目の前に巨大な樹の実が落ちる。着地した途端に破裂したソレから噴き出した煙を見て、X-193はすぐに口を覆うマスクを展開した。

 

視界の奥では群がっていた虫が変化を起こす。空を飛んでいた虫達が、地面に落下してジタバタと身を捩る。恐らく催眠か混乱の異常をもたらすガスを吸った効果だろう。

 

トドメを刺すべきか、と迷っていると「此方だ!」と後ろから声が響く。後ろにあった巨大な大木の根の下から、声が聞こえる。X-193は前を確認することもせず、即座に穴の中へと入っていった。

 

降りた瞬間、X-193の前に一人の女性が立っていた。獣の耳と尻尾を有し、胸と腰だけを隠した部族的な女性。彼女は槍を片手にしながらX-193へ手を差し伸ばす。

 

 

「感謝は不要だ。戦士たる者、力を貸し合うのは当然のこと」

 

「────お前達は」

 

「ククルの民、戦士長 カティだ。お前は何と言う、男の戦士」

 

 

ククルの民、その単語は事前に知っていた。

この世界、タオ08に在住する原住民────大神樹を守護する獣人の部族だ。自分達が関与する前に全滅した、と司令本部は言っていたが、やはり当てにならない情報だった。

 

 

「…………X-193、早速だが生存者は?」

 

「え、えっくす?変な名前だな………まぁいい、部族の者は遠くに避難している。マトモに戦える戦士はボク以外いない。お前たちの方はどうだ?」

 

「オレ以外全員死んだ。生き残った者はいるかもしれないが、時間の問題だ」

 

 

互いの状況は、絶望的に等しかった。生き残りの仲間はゼロ。マトモに戦える者は、この場にいる二人以外いないという事実。そのことに歯噛みするカティを尻目に、X-193は静かに問い掛けた。

 

 

「これから、どうする気だ?」

 

「決まっている。ククルの戦士は逃げない、たとえ殺されようとも戦ってみせる。何匹でも道連れにして、女王に一矢報いる」

 

「無駄だ。アレが産み出している虫は、無尽蔵。計算の結果、一日に五万も生成している。最終的には三日後には、無数の虫がこの世界を食らい尽くし、滅ぼすだろう」

 

「────ならばこそ!クルルの戦士は戦う!決して邪悪に屈しはしない!!」

 

 

感情的に叫ぶカティに、X-193は冷徹に言葉をかける。自分の目的、魔神を殺す使命を果たすために。

 

 

「戦うなら、手を貸せ。オレは、ヤツを殺せる」

 

「…………何?」

 

「オレはナンバーズの最新型、最強のナンバーズとして開発された。唯一実用化されているオレには、魔神を殺す力がある」

 

 

『フェイタル・トリガー』、ナンバーズで唯一Xモデルの個体にだけ与えられた力。その力こそ、唯一魔神に致命傷を与えうることができる。本来はそれで、魔神本体を撃破するのが作戦内容だった。

 

想定外は魔神に近付くための虫が多過ぎたこと、そして指揮系統が崩壊したことによる一気に全滅したことである。だからこそ、希望がないわけではない。

 

 

「戦士として勝ちたいのなら、力を貸せ」

 

 

◇◆◇

 

「────えっくす、お前は女王について何処まで知ってる?」

 

「………オレのことか?」

 

 

『増殖の魔神』のいるとされる、巨大な大神樹の元へと向かう道中。作戦の準備として焚き火の前で装備を整えていたX-193に、カティが問い掛ける。

 

 

「まず、お前達の持ってる情報から教えろ。話はそれからだ」

 

「『女王』、アレは突然現れて大神樹を襲い始めたんだ。戦士達が出張った時を狙われて、一瞬だった。それからだ、沢山の虫が私達を積極的に襲い始めたのは」

 

 

カティの話には違和感があった。

曰く、『女王』と虫は極力人を襲わなかったらしい。おそらく戦力を補充していたと思われるのだが、それにしても可笑しい所が目立つ。

 

そして、攻撃的になったのは大神樹に居座ってかららしい。ただ住処を手に入れて気性が荒くなったかと思ったが、X-193の結論としては違うものだった。

 

 

「成程な、観測されていた時より『増殖』の力が増しているのに納得がいった」

 

「?どういう意味だ?」

 

「『増殖』、もとい『女王』は、大神樹の生命力を吸い上げたんだろう。それで、あれだけの力を得たと考えられる」

 

 

自分達が守るはずの大神樹から力を奪っていたと聞き、カティは露骨なまでの怒りを顕にする。大樹を信仰していた部族である彼女からすれば、これが正しい反応だと思いながら、X-193は装備を組み立てていた。

 

 

(だが、気掛かりはまだある)

 

 

カティの話曰く、『女王』はすぐに攻撃を開始しなかった。本来、魔神は生命体に対して殺戮衝動を、世界に対して破壊衝動を抑えられない存在だ。それが、何故自らを抑えられたのか。

 

そして、まずは大神樹を襲いそこからエネルギーを吸い、力を蓄えた件も。魔神にしては何故か、理性的過ぎる行動である。今回の戦いからしても、『増殖』に知能があるとは思えない。

 

何か、自分では対処し切れない何かが蠢いてるとしか思えなかった。そんな嫌な予感を振り払い、今後の作戦に集中しようとX-193は考えを改めた。

 

 

◇◆◇

 

 

そして、数時間後。

変わり果てた大神樹の根元から秘密のルートを通り、他の虫たちに気付かれぬように侵入したX-193とカティ。二人は木々の隙間から覗き込み、神樹に根付く厄災を確認した。

 

 

「見つけたぞ、ヤツが『女王』だ」

 

「────アレが、『増殖』か」

 

 

明らかに異様なデカさの巨虫。背中に4対の翼があるが、あの巨体からしても最早飛行には使えまい。それほどまでの重量を有したように見える虫は、この木に根付く生命力をどれだけ吸ったかを確信させる。

 

 

「………『女王』め、どれだけ大神樹様から力を………!」

 

「落ち着け、これは好機だ。たらふく喰らったお陰で、奴は動けない。これなら一撃で仕留められる────『フェイタル・トリガー』」 

 

 

詠唱したX-193の全身に赤黒い光が宿る。ソレは全身を伝い、彼の両手へと移動していき、リボルバーマグナムへと収束していく。両手に握ったリボルバーマグナムはその力を蓄積させると、銃身を大きく展開して魔力を一気に充填させる。

 

 

「っ!不味い!気付かれたぞ!」

 

「構わない。纏めて撃ち抜く」

 

 

震動し、空気を歪ませるほどの魔力に『増殖』が気付いた。不愉快な程の金切り声が響いたかと思えば、無数の虫が空間に殺到する。女王を守る兵隊の大群に、危険を唱えるカティ。それに臆することなくX-193は引き金に力を込めた。

 

飛来した漆黒の弾丸は、全てを消し飛ばした。射線上にいた虫も、女王を守る盾となった虫も────その先にいた女王の頭部ごと。

 

唯一魔神を殺すことが出来る、消滅を込めた弾丸。ソレが直撃すれば、大抵の魔神にはどうしようもない。防御も再生も、この弾丸に込められた力は抵抗すらも許さない。完璧な死を与える、魔弾であった。

 

女王は、声を発さない。そもそも頭部が失われたのだから、死んだことに気付いてないかもしれない。あまりにも一瞬過ぎて、カティは唖然としていた。

 

 

「……………終わった、のか?」

 

「ああ、これで『増殖』は死んだ。オレ達の勝ちだ」

 

「や、やった────」

 

 

生命反応も消失した、確実に殺せたことを伝えるとカティも最初は呆然としていた。しかしすぐに歓喜に破顔させると、隣にいたX-193を抱き締める。

 

 

「やった!やったんだ!やってくれたんだな!えっくす!!」

 

「…………騒ぎ過ぎだ」

 

「これが喜ばないことがあるか!私達が、戦士達が勝てなかった厄災に、打ち勝てたんだ!これで、私達の戦いが無駄でなかったと!」

 

 

柔らかい胸の感触を感じないように意識を別のことに向けていたX-193はあることに気付いた。周囲の空間に殺到していた虫が、消滅していないのだ。魔神の創造物、眷属は魔神が死んだ瞬間に同じように消滅するはずだ。

 

そして、頭を失った女王の身体が微かに動いたのを見たX-193は即座に身構える。

 

 

「ッ!カティ!まだ終わってない!」

 

「な、何………!?一体何が────」

 

 

即座に警戒を整えたカティとX-193の目の前で、女王の肉体が音を立てて動き始めた。そして、断面から膨張して現れたのは一際小さいが、それでも他の虫よりは大きな甲虫。ソレが発する魔力が、さっき殺した『増殖』とほぼ同一であることに、最悪な予感が的中した。

 

 

「自分自身を、新たな女王を『増殖』したのか────!?」

 

 

X-193は完全なミスを犯していた。

魔神は、生命体の敵対種。その存在は生物の痕跡を断絶し、世界を破滅に導く厄災の権化である。彼等には、生存本能など存在しない。あるのは、自分自身の存在かけて破滅を振り撒くこと。

 

そして、『増殖』が多くの命と力を取り込んだことも。蓄えたその力を多く使い、自分自身を生成することは簡単なことではない。しかしそれでも生き残った自分自身が世界を滅ぼすことを信じ、『増殖』はその賭けに躊躇なく身を差し出したのだ。

 

 

「っ!えっくす!もう一度、『ふぇいたる・とりがー』を!」

 

「っ!何をする気だ!?カティ!!」

 

「お前が女王に当てられるよう、囮を引き受ける!!」

 

「馬鹿な!無茶だ!死ぬつもりか!?」

 

「────勝つ為だ!託したぞ!!」

 

 

そう言って、カティは槍を手にして飛び降りていく。そんな彼女に無数の虫が殺到し、襲い掛かる。まさしく数の暴力、しかしカティはそんな虫の大群に臆することもなく、冷静に撃破して回りながら突き進む。

 

カティの囮を無駄にしない為にも、X-193はフェイタル・トリガーを発動する。再び力を収束させたリボルバー・マグナムを構えるが、ここで問題が発生する。

 

 

「ッ!動き回って────照準が!」

 

 

苦々しく吐き捨てるX-193の視線の先で、身軽になった女王が空間中を飛び回っていた。それと同時に、虫の大群が渦巻くこの空間────さっきは動けない的だからこそ、一を特定しておくことが出来た。だが、これでは確実に当てられない。

 

そうやって逃げるように飛び回っていた女王。しかし、そんな魔神の動きが停止する。真上から飛来した槍が、甲殻の隙間の肉を抉ったのだ。

 

────カティが槍を深く突き立てる。その前身は、ズタボロであった。片腕と片足は食い千切られ、全身の至る所の肉は噛み裂かれていた。出血で全身を濡らした少女は深く突き立てた槍で、『増殖』の動きを止めながら、叫ぶ。

 

 

「今だ!!やれぇ────ッ!!」

 

「ッ!!!」

 

 

赤黒い閃光が、魔神の頭ごと全身を貫通する。今度こそ、増殖する余裕も余力も与えず、たった一撃によって死滅させる。今度こそ、『タオ08』を支配していた魔神が討ち滅ぼされた。

 

 

◇◆◇

 

 

「────はぁッ、はぁッ………!」

 

 

勝利の余韻を感じる間もなく、X-193は走っていた。その腕に瀕死の女戦士を抱えながら、全速力で森の中を突き抜けていく。そんな彼等を追うのは、消滅間近であるはずの魔神の眷属。

 

『増殖』の虫達はその特有の再生力をもって、自壊にすら抗っていた。魔神自体は消滅の弾丸の効果を強く受けたからこそ、問答無用で消しされたが、虫達はその影響に及ばなかったのだ。

 

彼等は死ぬ直前まで、命を奪うことを是としていた。だからこそ、瀕死のカティに襲い掛かった虫達をX-193は押し退け、彼女を連れて逃げていた。生存者をほうっておくことは出来ない。何より、彼女があの虫達に喰われるのだけは、無性に嫌だった。

 

 

「ぅ………えっくす、か…………今度こそ、かった………んだな」

 

「………ああ、だから我慢しろ。あと少しで治療できる、それまで耐えろ」

 

 

それが無理であることは、カティにも分かっていた。X-193には致命傷を負った人間を治療する技術はない。それほどの医療設備も、既にこの世界にはない。それが出来た仲間も、虫に食われた。

 

それでも尚、X-193がそういう理由は明確にはない。彼自身、どうすれば良いのか分からなかったのだ。方法がないことは、詰みであることは本能的に理解している。だが、納得できない、したくない自分がいるのも事実だった。

 

 

「えっくす………きいて、くれるか」

 

「黙れ、喋るな」

 

「私は、もう………分かっている。だから、お前だけは…………生きろ…………私を置いていけば、きっと助かる…………」

 

「黙れ!喋るなと言っている!何とかすると、何とかなると言っている!!助けるから、死ぬ前に黙っていろ!!」

 

 

必死に叫び、走り続ける。カティから流れる血に目を背け、兎に角前を見据え続けるX-193。そうして走っている間、彼の姿を見たカティは穏やかに笑う。

 

 

「お前は、強い戦士だな………私が、生涯を共にするなら、お前が…………いい」

 

「ふざけたことを、言うな。オレは、ナンバーズだ。人の為に戦い、人の為に死ぬ道具。生涯なんて、オレ達には必要ない」

 

「……………」

 

「………カティ?」

 

 

返事がないことに困惑した瞬間、目の前から無数の銃弾が飛来した。思わず身を捩ったX-193だが、弾丸全ては此方に当たらず、後ろに飛び回っていた虫を消し飛ばしていった。

 

思わず前を見返すと、自分と同じ装束の集団が銃を構えていた。彼等も同じナンバーズであることは明白だ。生き残りが他にいたのかと思ったX-193は、彼等を率いる男を見て全てを理解した。

 

 

「増殖の魔神を単独撃破とは、見事だ。X-193」

 

「イプシロン、隊長」

 

 

Y-210、イプシロン。X-193と同様に、一個人のみしかいないYモデルのナンバーズ。その立ち位置は、ナンバーズの司令塔。Xがナンバーズ最強の魔神殺しに対して、Yはナンバーズを統括するブレインである。

 

 

「元帥閣下からの勅命により援護に来たが、作戦開始の前に魔神を消し去るとは、賞賛に値するぞ。流石は最強のナンバーズ」

 

「御託はいい!イプシロン!今すぐ医療設備の用意を!原住民が重傷だ!!早く手を尽くさなければ!」

 

「X-193」

 

ナンバーズの隊長は、静かに呟くだけだった。その様子にX-193は苛立ちを加速させた。急いでいるんだ、と言わんばかりに強く、反抗的に捲し立てる。

 

 

「何を呆けている!?まさかこの場において物資を出し渋るというのか!?彼女はこの世界の住人!救助対象だろうが!!」

 

「…………X-193」

 

「────もういい!どけ!オレが用意する!邪魔をするなら、たとえお前だろうと────!」

 

「X-193、よせ────彼女はもう死んでいる」

 

 

通り過ぎようとして肩を掴まれたX-193は、ようやく気付いた。抱き抱えていたカティは息一つしていなかった。微笑んだまま亡くなっていた彼女の姿に、X-193は膝を付いて崩れ落ちるしかなかった。

 

 

◇◆◇

 

『X-193、彼女の傷からして致命傷だった。あの傷を負った時点で、助からなかったのは明白だ。お前の不手際ではない』

 

 

分かっている、とタリオン29に帰還したX-193は返した。しかしよろけるように歩くほど、調子を崩していたX-193にとって更に衝撃的なダメージが待っていた。

 

 

『────本日、タオ08に遠征に向かっていたナンバーズX-193が増殖の魔神を撃退しました!我々が到着した時点で、その世界は壊滅しておりましたが、世界への脅威を倒すことに成功したのです!』

 

 

表向きに、公表されたタオ08の戦い。それ全ての功績が、X-193のものとなっていた────当然、自分と共に戦ったカティの名前や存在は何一つ明かされていない。

 

どういうことだ、と司令本部に問い質したX-193は説明を受けた。現地の住人を死なせたと伝えれば、一部の団体からナンバーズへの批判を受けることになる。少しでも清廉潔白な様子に見せなければ、人類は一致団結できないというのだ。

 

────彼女(カティ)の死は、清廉ではないというのか。

度重なる仲間の喪失、自分達を一度見捨てた挙げ句綺麗事だけを流し続ける司令本部、そして戦友と呼んでも過言ではないカティの死に追い詰められたX-193は、外界と距離を置いた。

 

 

世間一般の英雄として姿を見せろ、という司令本部の命令すら聞かずに拠点内で訓練と改良に明け暮れる。少なくとも、自分以外の何もかもが嫌になっていた。司令本部も、それに従う他のナンバーズ達も。

 

 

それから一ヶ月後だった。

心を閉ざしていても尚、嫌いではなかった故郷が滅びたのは。

 

 

◇◆◇

 

 

「イプシロン!魔神が顕現したというのは本当か!?」

 

「ああ、────だが、事態は不味いことになっている」

 

 

緊急アラートと共に駆け付けたX-193に、イプシロンが頭を抱えながら溜息を吐く。手にした資料を片手に、彼は説明を始めた。

 

 

「顕現した魔神のコードネームは『結合』、奴は顕現した瞬間この世界の大半を取り込み、融合させた。報告が遅れたのも、それが理由だ」

 

「っ!?何だと!?司令本部はどうした!………まさか、逃げたわけじゃないだろうな!」

 

「────逃げる暇など無かったさ。元帥閣下は、『魔神を討ち滅ぼせ』と言い残し、取り込まれた。恐らく、この世界の人類全てが融合されただろう」

 

 

顕現の直後に、世界の大半を取り込んだ『結合』の魔神。電波やネットワークすらも、魔神の支配下にされた。その間に地上の全てが融合されてしまった。残ったのは、前線基地に待機していたX-193達を含む40人近くのナンバーズ。

 

 

「出るぞ!オレが撃ち抜くから、援護を「待て、X-193。お前は今回戦うな」────ッ!?何のつもりだ、イプシロン」

 

「取り込まれる際、仲間達の報告があった。奴は取り込んだ者の能力や記憶、力を引き継ぐという。お前が取り込まれれば、全てが終わりだ」

 

「っ!じゃあどうする気だ!?このまま『結合』に取り込まれるというのか!?」

 

「────半分正解だ」

 

 

淡々と答えたイプシロンに、X-193は思わず面食らう。まさか既に諦めているのかと思ったが、イプシロンの眼差しは鋭い決意と覚悟を秘めていた。

 

 

「今から全てのナンバーズを特攻させる。取り込まれる瞬間、エーテル炉心の活性化による連鎖爆発で生じた反物質崩壊帯を形成、それでヤツを消し去る」

 

「は…………?」

 

「エーテル炉心計41基と、基地全土に用意した反物質爆弾による大爆撃だ。我々を取り込んだ『結合』は一溜まりもない。仮に生き残ったとしても、崩壊する世界によって押し潰されるだろう」

 

「そういうことじゃない!そんなの、無茶だ!一体何の為に戦う!?もう守るべき人間は、誰も残ってないだろ!?上層部の、人間の命令の為に死ぬというのか!?」

 

「いや、守るべきものは残っている」

 

 

自暴自棄になったか、と叫ぶX-193を見据え、イプシロンは淡々と告げた。

 

 

「X-193、お前はこの世界から脱出し、他世界へと転移せよ」

 

「………………は?」

 

「元帥閣下が、提案されていたことだ。私を含めた40人全員も、賛同している。これは決定事項だ、反対は許さん────送致の準備はできている、連れて行け」

 

「な、なんだそれは…………っ!?お前等!?何をしている!離せ!!オレも戦う!誰が逃げるか!!」

 

 

狼狽えるX-193を他のナンバーズが抑え込む。数人掛かりで引っ張られたX-193の抵抗は激しいが、同じナンバーズ達の力は異様に強かった。そのまま転移装置の中へと押し込まれたX-193は、起動準備の整ったカプセルに閉じ込められる。

 

 

「出せ!オレも戦う!仲間を、置いていけというのか!?一体オレに、何を望む!?」

 

「元帥閣下からのお言葉だ────生き残り、多くの人類を救え、と。お前の言う、存在理由とやらもその過程で見つけてみせろ、以上だ」

 

「隊長も甘いよねぇ…………ま、私達には心なんてないしね。機微のあるX-193の方がいいのは納得」

 

「じゃあね、X-193。オレ達死んでくるから、これからも頑張ってくれよー」

 

「ばいばーい」

 

「────ッ!止めろ、やめろやめろやめろ!!やめろぉおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

必死に叫ぶX-193の言葉も届かず、転移装置は起動した。仲間達を見捨てたくないと叫んでいたX-193は光りに包まれ、この世界とは別の世界へと飛ばされる。唯一、生き残りの受け入れを許可してくれた世界へと。

 

 

「────さて、行くぞ。ナンバーズ、最後の任務だ」

 

 

武器を整え、最後に取り残された四十一人が歩き出す。基地の外には、既に魔神が辿り着いている。誰もが死ぬのを理解しても、臆する者は一人としていない。それどころか、笑っている者すらいる。

 

ナンバーズは、人間のように生きられない。心を持てたとしても、恐怖や悲しみ、怒りを持たないのだ。それに近しい感情を真似ることしか出来ない。だからこそ、真の意味で感情の機微を持ち始めたX-193こそ、彼等ナンバーズにとっての希望であった。

 

 

「我等、ナンバーズ。人の為に生き、世界の為に戦い────仲間の為に死のう」

 

「「「「幸せに為に、未来の為に────いつか笑える人々の、仲間の為に」」」」

 

 

そして、彼等は特攻を始める。

魔神に取り込まれながらも戦い続ける彼等は同じ言葉を復唱しながら、内から発する高濃度のエーテル奔流を発する。

 

────その後、タリオン29は完全に消滅した。エーテルの連差爆発により魔神は瀕死に陥り、その数分後に発生した反物質崩壊帯によって。

 

 

────そして、誰も知らない。誰にも悟られることなく、滅び行くタリオン29へと降り立ったかげがあったことを。それは瀕死となった魔神にトドメを刺し、その力の大半を奪って世界を飛び去ったことを。

 

 

◇◆◇

 

 

────かつてを、思い出す。

 

『何故、オレは作られた?何故、オレ達は生きている?』

 

 

ずっと、X-193は疑問だった。自分達ナンバーズは人間の代わりに戦う戦力、消耗品だ。大勢の仲間が殺され、ナンバーズも自分一人になった。ならば、自分達は何の為に生きてきたのか。

 

魔神と戦い、魔神に殺されるだけに────自分達は生きてきたというのか。これから先もずっと、仲間を失い、魔神に殺されるまで戦い続けなければならないのか。

 

 

────なら、このまま生きることに意味はあるのか。

 

 

ナンバーズの中で人間に近しい感情を持ち得たことで、X-193は失意に満ちていた。いっそのこと死のうと何度考えたことか。虚無に近しい感情の中、世界を彷徨い続けていたX-193は────女神と出会った。

 

 

「────初めまして。私はアストレア、貴方は?」

 

 

銀髪の美女。花畑の中に立ち、此方に穏やかに微笑みかけた彼女の姿に、X-193は見惚れていた。立ち上がり、そう語り掛ける彼女の声を聞いた途端、X-193は気を失って倒れ込んだ。




起承転結で言ったら、起承らへん終了です。

ナンバーズは俗に言う強化人間で、この世界では核にも匹敵する未知の物質エーテルを動力源としたクローンであり、魔神打倒の為に量産されていました。 ナンバーズ達のいたタリオン29ではナンバーズの扱いで色々と人類がイザコザを起こしていました。

『神の理に反した忌むべき人形』や『人類の持つ最強の兵器』や『作り出したとはいえ、意志を持つ人間』という意見が交錯しているので。


さて、次回から過去編も盛り上がっていきます。これから彼はどのように変わっていくのか、楽しみですね。

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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