ありふれた職業で世界最強 新生譚   作:虚無の魔術師

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pixivとかで設定見漁ってたらコメントの方でも荒れてるのが見えて調べてみたら、『ありふれ』自体ちょっと賛否両論?なのかもしれない。まぁ読んでみたらちょっと思うとこは多いけど、流石に人格否定や過激な発言までは控えるべきじゃないかな………と思う次第。


まぁ、私は『ありふれた職業で世界最強』はちゃんと好きなので。設定とか見れてなくて見落とすところもあると思いますが、ご愛顧のほどよろしくお願いします!それでは!


竜人姫の追憶・竜王の誓い

「────以上が、オレとファウストの因縁。オレが経験してきた全てだ」

 

 

四輪車での移動を止め、焚火の前に腰掛けて話に集中していた一同。ようやく話し終えたイクスが周りを見ると、その場は沈痛な、暗い空気が漂っていた。

 

流石のハジメも何かを言う様子はなく沈黙を貫いており、隣に腰掛けていた刃も苦々しく、そしてファウストへの苛立ちと怒りを顕にしていた。傍らで黙っていたウィルは、その悲惨さに声も出ない様子だった。

 

反応が様々だったのは、女性陣であった。ユエやシノにティオは悲しそうにしているが、そこまで取り乱してはいない。大変なのはシアやソーナ、ラナールである。イクスがファウストに裏切られ、アストレアすらも奪われたと知った時には、顔がグシャグシャになるほど大泣きしている。

 

 

「ぞ、ぞんなぁ〜、折角幸せになれだと思ったのにぃ、女神様すら奪われるなんで〜っ」

 

「ファウストって言ったわね!?酷い奴、悪党なんて言葉じゃ生温いわ!アイツこそ、真正の邪悪よ!!」

 

「ぅ、うぅ…………っ」

 

(涙脆いな、コイツら)

 

 

自分の生い立ちを聞いた時も大泣きしていたシアの事を思い出し、半ば呆れ気味なハジメ。まぁあんな過去を聞かされれば、泣くのは正常な判断だろう。感情の起伏が薄そうなシノやユエですら、悲しそうにしているのでもイクスの経験がどれだけ辛いものかは見て取れる。

 

 

「邪悪、それはそうだな。奴のような悪辣な外道は他にいない。だからこそ、何としても奴だけは滅ぼさなければならな────なんだ?ノイン」

 

「…………」

 

「止めろ、焼き魚はいい………というか食いかけを渡すな。お前が食え。止めろ、押し付けるな」

 

 

無言で焼き魚を押し付けるノインに、抵抗するイクス。彼女なりの優しさなのだろうが、イクスとしては遠慮したいものである。そんな騒動を尻目に、軽く咳き込んだハジメがイクスを見据える。

 

 

「それで?お前はファウストを殺すのが目的か?その女神の肉体ごと」

 

「………ハジメ」

 

「同情はするが、気遣いはしねぇ。コイツだって、それを理解してるはずだ」

 

「ああ、お前の言う通りだ。同情も哀れみの必要もない、ただ愚かな滅却者の有様という話だからな。何より、今は話し合いの方が生産的だ」

 

 

淡々と語るイクスにとって、合理的に応じてくれるハジメの対応の方が気楽なのだろう。既に冷静に話し合いを始める二人に戸惑いながらも、全員は聞き耳を立てて話を続けさせることにした。

 

 

「ならファウストは今、何を企んでる?このトータスに来て、わざわざ魔神連合なんて徒党を組む理由は?」

 

「魔神共を出し抜き、自分自身をより強力な魔神として昇華させる。或いは、その為の器を手に入れようとしているのだろう。奴のことだ、協力する気など毛頭ないと見るべきだな」

 

「………あの、気になったんですが」

 

 

二人が疑問と疑問をぶつけ合う中、ウィルが割って入った。突然のことに怪訝そうなハジメであったが、ウィルの疑問を聞いた瞬間、そのことについても気になった。

 

 

「ファウストという者は、何故器を欲しがるのですか?」

 

「………魔神として覚醒する為だろ?」

 

「それなら、わざわざ器を探さなくても、女神の身体でも十分なのでは?そもそも女神の肉体でも満足できないなら、ファウストにとっての器とは何を示すのでしょう?」

 

「────聡いな。では、少し話をしよう」

 

 

ウィルの答えに、何人も静かに納得する。その様子を見たイクスは共有しておくべきか、と魔神に関する知識について語り始めた。

 

 

「魔神は人類の、世界の敵だ。奴等があらゆる生命体を滅ぼすのは、強迫概念でもある。負の感情で生命体そのものを否定し、彼等による平穏を拒絶する。世界を憎み、滅ぼすことを望む生命を厄災へと塗り替える────いわば、魔神とは意図的に生み出された天然の厄災だ」

 

「………意図的に。ということは、生み出してるものがいるの?」

 

「『破滅の意思』、『声』と我々は呼んでいる。ソレはあらゆる生命体に干渉し、望むならば力を与え、魔神化させている。我々も何度も追っていたが、その実体すら掴めていない。そもそも何者かの力か、或いは自然現象によるものかすら分からない」

 

 

実態もない、悪意の声。ハジメには心当たりしか、覚えしかなかった。ソレを、知っている。あの奈落で、一人絶望していた所に、心の隙間へと付け入るような不気味な声。悪意の蠱毒と呼べるような歪み切ったあの誘いに乗ってしまいそうな自分がいたことを思い出す。

 

 

「その、『破滅の意思』は色んな人を魔神にするってこと?でも、簡単に出来るものなの?世界を壊したいって思う人なんて滅多にいないでしょ?」

 

「基本的に、『破滅の意思』に抗えた者はいない。アレは心や道理を理解しているようだ。人間の場合、精神的に弱っているタイミングを狙い、言葉巧みに引き込もうとする。一度でも全てを呪えば魔神に出来るのだからな」

 

「────そうやって、絶望してる奴に憎しみを抱かせて化け物に変えるってか。胸糞悪い話だ」

 

 

不愉快そうに吐き捨てる刃。

それもそのはず、『声』は自らの手先を増やす為に相応しい人間を観測している。つまり、その人間が追い詰められてるのを理解しているのだ。それを見守り、追い詰められ過ぎて世界を憎んだ所で、手を差し伸べる。

 

まるで突然現れて助け出す女神のように────あまりにも悪辣で、最悪の所業である。

 

 

「『声』が相手を選ぶのは、その適性と負の感情を持ち合わせているか否かだ。つまり、魔神としての、厄災としての素養のある者を、『声』は選んでいる」

 

「なら、ファウストもそうってことか?」

 

「いや、もしそうだとしたらあの時のお前達のクラスメイトを狙うはずだ。奴はあくまであの青年を実験体として切り捨てた、『器』として不適格だったか。或いは…………」

 

 

イクスは本題を語る。

ファウストが女神アストレアの身体で納得していないのは、魔神としての適性がないからである。慈愛の女神は悪意と破滅とは対極の存在、その力は人間を有に超えたものであっても、ファウストの器としては不適格だろう。

 

だがもし、とイクスはある可能性を語る。それが現実であれば、既に手遅れ一歩に近いであろう可能性の話を。

 

 

「────既に奴が、『器』にある程度狙いを付けているか、だな」

 

 

◇◆◇

 

 

辺りも完全に夜の色に染まり、皆が寝静まった頃。

深く寝静まったシアやソーナ、ラナール。そんな傍らで壁にもたれかかり、咄嗟に反応できるような体勢で眠るハジメとイクス。周囲の見張りということで、ノインと交代したティオは焚き火の前で炎を見つめていた。

 

 

「────寝れないの?」

 

「む、ご主人様にユエ殿か。珍しい顔合わせじゃの」

 

「偶々、だ。お前のことが少し気になってな」

 

 

そう言って、刃はティオの隣に座り込む。ふと彼女の様子を窺った彼は、一息呑んでから問いかけた。

 

 

「────イクスの過去に、思うとこでもあったか」

 

「………まだ何も言うとらんじゃろうに」

 

「お前の顔を見てれば分かる。辛いことがあるなら、話してみろ。聞いてやる」

 

 

思えば、イクスの過去────故郷の崩壊の話に過敏に反応していたように見えたティオ。無論、ティオ本人はそれを人なりには隠していたつもりだ。

 

ポツリポツリと、ティオは過去を語り出した。竜人族の姫君として生まれた彼女が体験した、族滅の悲劇を。

 

 

────数百年前、栄華を究めた竜人族の国。あらゆる種族と手を取り合い、共和してきた大国は同じく融和を願う大魔王と巫女の双子と共に、魔人族や人間族、全ての種族による平和を望んでいた。

 

だがそれを、エヒトは赦さなかった。

エヒトは人々に神託を下し、彼等を滅ぼすことを選んだ。大魔王と巫女の率いる魔人族は手出しできぬとして、彼等が滅ぼすことを選んだのは竜人族からであった。

 

世界で最も美しいとされた国は炎に包まれ、多くの同胞達が殺された。その際、まだ幼かったティオは磔にされた母 オルナの亡骸を見たことを忘れたことはない。

 

故郷と同胞、家族を奪われた理不尽と憎悪に身を焼かれそうになったティオだったが、その場に戻った父の言葉により踏み止まることが出来た。母と同族達を追い、戦場へと戻った父の姿を、彼女は忘れたことはなかった。

 

 

「────お前は、憎くなかったのか」

 

 

刃が問う。静かに、それでいて煮え滾るような怒りを秘めながら。家族を奪い、居場所を奪った神への、人間への怒りは無いのか、と。

 

 

「………理不尽は許せぬ。怒り自体ないわけではない。じゃが、妾は竜人。今を生きる人々に咎がないことは、理解しておるつもりじゃ」

 

「……………お前は、強いな」

 

「強いのはご主人様もじゃ。強く、優しいからこそ、妾は主と選んだのじゃ」

 

 

暴力以外しか選べなかった自分とは違う。そんな風に零す刃に、ティオは穏やかに微笑みかけた。突然の言葉に刃は居心地悪そうに、「…………ふん」と顔を反らした。微笑ましそうなティオとユエの視線から逃れるべく、刃はふと話題を変える。

 

 

「お前は、神を────クソッタレのエヒトとかいうゴミをブッ殺すのが目的だろ?」

 

「口が悪いのう、ご主人様………まぁ概ね間違ってはおらぬが。それだけが目的と言うと少し違う────生き別れた家族を、兄を探しておる」

 

「兄貴?兄弟がいんのか」

 

「うむ、ティア・クラルス。妾の兄であり、次期族長と名高かった妾の兄じゃ」

 

 

ティオは、血の繋がったもう一人の家族を話した。

自身と同じ竜人族であり、父の後を継ぐことが決定的であった武人であり、幼かったティオにとっての憧れ。

 

隠れ住んでいた竜人族の中でティオが外界へ姿を現したのは、刃を探すためでもあり、生き別れの兄を探すためでもあった。

 

 

「かつての戦争で姿を消したが、妾や亡き父も生きておると確信している。兄は、強く竜人族を率いる者として相応しい武人じゃ。必ずしや、生きておる」

 

「────兄貴、見つかるといいな」

 

「ん、応援する…………私も、探さなきゃいけない相手がいるから」

 

 

そう声を掛けていたユエの言葉に、刃もティオも思わず反応する。ユエが探す相手というのは初耳だったからである。特に隠すような話でもないと、素直に話し始めた。

 

 

「ウルの町で戦った魔人将が、私以外に吸血鬼の生き残りがいるって言ってた。あの口ぶり………、恐らく魔人族側に」

 

「探すのか?そいつを」

 

「一族は絶滅した。けど、一人だけ気掛かりな子がいる。その子がどうなったかだけは、知りたいから………」

 

「オレも力になる────頑張れよ、二人とも」

 

 

真夜中の中で、刃はそう宣言した。同時に決意を秘める。必ずユエの知る相手を探し出し、ティオの家族に再会させようと。

 

────それが、望まぬ再会になることは、誰も知る由もなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

かつて、王国のあった跡地。

無数の墓が積み上げられたその地は、竜人族が滅びたとされる場所。本来は一人ずつ墓に埋めて埋葬されるはずだったが、神敵とされて滅ぼされたこともあり巨大な穴に詰め込まれ、一つの巨大な墓だけで済まされていた。

 

その十字架のような巨大な墓、その上に突き立てられた竜骨。首として晒された竜人族の族長の遺骨を、見上げる者がいた。

 

 

「────父よ、我が父ハルガよ」

 

 

墓標の前に立つは、一人の男。黒髪と金色の瞳を有するその男は、鎧を身に纏っていた。赤に染まった黒い鎧、それは全て返り血であり、男がどれだけの強さかを証明しているようでもあった。薙刀と呼ぶべき巨大な武具を手にしながら、その男は墓標の前に立っていた。

 

 

「貴方は、厳しくも優しく竜人族を束ね上げた王であった。聡明な貴方であっても、竜人族の破滅は覆せなかった。故に貴方は僅かな生き残りを、自らの首と引き換えに逃してみせた」

 

 

男は、竜人族であった。

かつて族長の息子であり、後に竜人族を導く者として期待されていた王子。しかし、その夢見た光景は何一つなかった。あったのは、無数の同胞の亡骸と跡形もなくなった故郷。

 

彼はその地獄を生き永らえた。かつて父が信じたとおり、彼はその強さとカリスマ故に生き残った────生き残ってしまった。

 

 

「そして、貴方は────愚かだった」

 

 

結果、彼は怒りと憎悪に囚われた。

同胞達の亡骸の中で、這って生き延び、同族の血と肉を食らってまで生き延びた彼の目には、怨恨しかない。

 

 

「死に際にも、貴方は復讐を否定した。一族を絶滅させた相手を憎むことはなく、未来に託すことしか出来なかった。このオレに、憎しみを捨てよと唱えた────同族達の意思を継いだ、このオレに」

 

 

怒りと憎しみに突き動かされる狂気の妄執。

それこそが、彼をここまで強くした。その強さは大魔王に認められ、魔王の冠位を与えられるほどに。神を、人間を滅ぼす為に戦い続ける竜王の軍勢、『覇竜軍』を率いる魔王。

 

 

「あの世で見ているがいい、オレが竜人族の無念と屈辱を晴らす景色を────この世界に積み上げた、全ての人間の屍の山と神の首を」

 

 

『激龍怒轟』、魔王クレイド。

彼は怒れる竜を模した兜でその顔を覆い、墓標に背を向ける。人類殲滅に最も積極的で、苛烈なまでに人間を殺し尽くす魔王。何百、何千を殺そうとも、魔王の中から憎しみが消えることはない。

 

────神を殺し、人間を殺し尽くしても、怒れる竜の心が晴れることはない。憤怒の炎は全てを焼き尽くす────敵も、味方も、己自身も。

 

 

◇◆◇

 

 

一方、魔国ガーランド首都ライングレード。その中心に位置する、巨大魔王城『ウォードベルク』。そびえ立つ巨大な王城で、ある一つの変化が起きていた。

 

 

「────まさか、ラーヴァ殿とオーゼンハイト殿が討たれるとは予想外ですな」

 

「ああ、侵攻作戦の陣形と内容を修正する必要性がある。しかし、本当にあの二人が倒されるとは」

 

 

カッカッカッ、と廊下を歩きながら話す二人。大魔王直属の総司令 フリードと魔人将アゼル。魔人族のトップに位置する二人の話題は一つにあった。

 

ウルの町を襲撃した王域────ラーヴァとオーゼンハイトの死。元々王域は魔王直属の最強部隊として設立されたのだ。その二人が同時に墜ちたとなれば、魔人族側の戦意にも関わる。

 

何より、これからの作戦で二人は必要な戦力として数えられていた。その二人分の戦力を埋める必要性が出てきた。

 

 

「オーゼンハイト殿はともかく、ラーヴァ殿は王域に登り詰めた実力者であられる方。その一角が二人も落ちるのは、一大事でしょうなぁ。フリード様」

 

「…………貴公も余裕ではいられまい、アゼル。同じ王域が討たれたのだからな」

 

「グヒヒヒ!私を殺せるような者がいるのなら、恐ろしいですがねぇ!」

 

 

────『王域』三位、『悪食獣』アゼルは醜悪に歯を鳴らして笑う。それは魔人族故の慢心ではない、自分自身を信じ切った紛うことなき自信である。この様子ならば後れを取ることはないか、とフリードは納得することにした。

 

そして、唐突に二人が歩みを止める。彼等の視線の先には、多くの魔人族と魔物が動く光景────彼等が作業している、巨大な塊があった。

 

巨大な鋼鉄の舟。数十キロは優に超える巨体を誇るその戦艦は次に起こる戦争の為に用意した兵器。ある意味で、魔人族側の外法でもあった。 

 

 

「エルヴァルガンドゥの方舟…………進捗はどうだ?」

 

「砲身、もとい弩と炉心の接続は完了しました。後は全体的な外装と魔導防衛武装の装着だけであり…………試運転も考えれば、後数ヶ月で」

 

「理解した、次の決戦にてこの舟が戦争の鍵となる。励むように」

 

 

エルヴァルガンドゥの方舟。かつて南の大地で発掘された古代の遺物、数十億の人間が入れるほどの広大さを誇るソレは、現在兵器として改良されていた。大魔王の魔力を込めた魔導兵器として、この兵器は多くの人間を殺すことを想定されている。

 

 

「エルヴァルガンドゥの方舟………融和を掲げる象徴の一つが、人間族を滅ぼす兵器となるとはな」

 

 

────アクシア様も浮かばれぬな、という言葉をフリードは口にすることはない。それが他ならぬ魔人族の、大魔王への反意の言葉であることを理解している以上に、それを止められずにいる自分自身にそんなことを口にする資格はないと断じた。

 

 

「────激しく、同意します。フリード将軍」

 

「…………ルクシオンか。貴公ならば、当然のことだな」

 

「ええ、あの舟は元々大魔王様とアクシア様が和平の為に作られたもの。戦争に勝つためとはいえ、それを兵器として使わねばならない苦悩…………あの人を思うと、胸が張り裂けるあまりです」

 

 

────王域六位、『魔剣士』ルクシオン。少し前の事件で敗れたレヴィの空席を埋めるように王域へと格上げされた魔人族の青年。ラーヴァ同様、あのバベルの生き残りであり、アクシアの教え子の一人。

 

卓越した剣技と実力、そして彼にしか振るえぬとされる破壊の魔剣。それを見ても、王域の末端では収まらない勇士である。フリードも、ルクシオンは近い内に上位に格上げされるだろうと見立てていた。

 

何よりフリードが重宝するのは、彼が人格面から見ても好青年であることだ。命令に逆らったり、余計なことをしたりすることはなく、不和を作ることはない。アクシアを想いながらも、大魔王への忠誠を怠っていない。それだけでも充分賞賛に値する。

 

────ただ一人、『王域』には手の付けられぬ問題児がいるからこそ。

 

 

「────あらあら、皆様。御機嫌よう」

 

 

その瞬間、空気そのものが変質したように感じる。勘違いや誤認などではない、明らかに魔力が高鳴っているのだ。空気中に漂う魔力が、より強力な魔力の反応に共鳴するように震え上がる。

 

暗闇の廊下から姿を現したのは、紅い傘を差した金髪の美女。血のように染まった瞳を細め、慇懃無礼に微笑んだ彼女に敬意らしきものは感じない。

 

 

「アンリエスタ、魔力を鎮めろ。一般の者が当てられる」

 

「これは失礼…………しかし、魔力を抑えるのも疲れますの。そもそも、この程度の魔力で狂わされるような軟弱者、必要で?」

 

 

────王域二位、『紅狂皇女』アンリエスタ。数百年前に滅ぼされた吸血鬼、その王族の末裔であり、王域内でも最も苛烈な尖兵。その苛烈さは怒りの魔王クレイドに匹敵するとされており、彼女の向かった街には数日かけて血の雨が降り注ぐほどの惨劇が起こるとされている。

 

フリードが苦々しく思うのは、致命的なまでの協調性の無さである。プライドの高さと野心が目立つラーヴァですら、一定の協調性を保っていた。彼女には、それがない。自身の都合で周りを掻き乱し、それでも尚改めようとしないのは────王域二位に選ばれる程の、圧倒的な実力にあった。

 

 

「アンリエスタ、フリード将軍の………総司令の言葉に逆らう気か。魔力を抑えろと、仰られている」

 

「…………ああ、貴方は。大魔王様のお気に入りの代わりで選ばれたオマケですか。私、自分より弱い者の言葉は聞きませんの。口出ししないでくれます?」

 

「ならば尚の事、フリード将軍の言葉を無視するな。仮にも王域ならば、らしく振る舞うべきだろう」

 

「王域、と語りますか。貴方のような者が、私達と同じ立場であるように思うのは驕りに他なりませんね。一体どんな能天気な師を持ったのです?」

 

「────アクシア様を侮辱するか、貴様」

 

「────貴方こそ、私に楯突くので?」

 

 

止めようと割って入ったルクシオンに浴びせた罵倒、彼の恩師を揶揄する言葉に空気が一気にピリついた。背中の魔剣に手を添えるルクシオンに、アンリエスタが冷たく笑う。その気になれば、殺し合いになりかねない。しかし、フリードは動かなかった────動く必要が無かったからだ。

 

 

「双方、控えよ」

 

 

より、空間そのものが重みを増す。

今にも殺し合いを始めかねなかった二人の合間に、一人の大男が立っていたのだ。四本腕の異形、上半身は裸の上に布一枚縛ったようなものであり、目の紋様が描かれた布で顔を覆っている異様な姿。

 

 

「この場、大魔王様の膝元。同志の殺し合い、大魔王様、望まぬ。我、ナムシュカに免じ、控えよ。二度は、言わぬ」

 

 

────王域一位、『救世奉天』ナムシュカ。かつて映画を究めた魔人族最古の四大魔王の一人であり、この世界の神────エヒトやアルヴ、旧神とも違う交信を受け、悟りを究めた覚者。

 

魔人族というよりも、魔族に近しい存在でありながら神ではない何かに祈る祈り手。その実力は王域最強であり、現四大魔王にも劣らぬどころか拮抗し得る強者である。

 

 

「…………偉大なるナムシュカ様が言うならば、仕方ありませんわね。私も大人ですので、不備は認めてあげますわ。それでは」

 

 

自分よりも強いナムシュカの言葉に応じるように、深く一礼してから立ち去るアンリエスタ。当然彼女が礼を向けたのはナムシュカやフリードにであり、侮辱したルクシオン相手は見向きすらしなかった。

 

 

「ナムシュカ殿、感謝する」

 

「王域、筆頭として、当然の事。我、再び、瞑想へと。来る時、戦の開始までには、お呼び頂ければ」

 

 

仲裁に感謝したフリードに、ナムシュカは特に反応を示さず、断りを入れてからその姿を消した。最強である彼は常日頃から食事もせず、瞑想に耽っているのは知っている。食事をしなくても問題はないらしく、大魔王も何も言わないことから魔人族の大半も納得していた。

 

 

「自分も、鍛錬に戻ります。総司令、失礼致します」

 

「私も、そろそろお暇しますよぉ。それでは、またお会いしましょう。フリード様」

 

 

礼儀正しくお辞儀をしてから離れるルクシオンに、アゼルもグヒヒと笑いながら離れていった。一人残されたフリードは特に気にする様子もなく、ツカツカとある場所へと向かっていく。

 

自らの主、大魔王の居る玉座の間へと。

 

 

◇◆◇

 

「失礼します、大魔王様」

 

「───────」

 

 

玉座に座する大魔王は静かに目を閉ざしていた。眠っている訳ではないこと、フリードも理解している。大魔王の秘密を唯一知る者であるフリードは声を掛けることはなく、淡々と報告を続けた。

 

 

「計画されていた戦争の計画ですが、大幅に作戦内容を変更します。本来戦力として運用するはずだったエンキが強奪され、奪還も不可能であると報告を受けました。ですので、砲台として使用する予定であった『箱舟』を主軸に置いた作戦へと修正することに──────」

 

「────ラーヴァとオーゼンハイトは、死んだのだな」

 

 

淡々と、大魔王は呟いた。

突然の発言に驚くことなく、フリードは静かに首を縦に振る。そうか、と吟味するように口の中で転がした大魔王はその目に悲哀を宿していた。

 

 

「悲しいことだ。十数年、苦楽を共にした同胞がまた果てた。その一人はあの子の教え子、もう一人は俺を導いた方…………どれだけ日を経とうとも、喪失の傷が癒えることはない」

 

「………心中、お察し致します。陛下」

 

「────フリード、俺は迷っている」

 

 

大魔王に成った時から、ずっと側に立ち続けてきた忠臣に、大魔王は本心を吐露した。己のものではない憎しみと怨嗟に突き動かされながら、彼の根底には一つの大切な繋がりが残っていた。

 

 

「俺が何故、あの日人類の殲滅を掲げてから、こうも人間を滅ぼさないか分かるか?」

 

「────『解放者』の意志を継ぐ者達、『神殺し』でしょう」

 

「そうだ。数千年、我々は待ち続けた。だが、人類の中で『解放者』の意志を継ぐ者は現れなかった。いや、二人はいるな。一人は全ての神代魔法を手に入れたが、神殺しにまでは至れなかった」

 

 

魔神としての破壊衝動を、内に渦巻く数億もの同胞の苦悶と絶望、それ以上の憎悪を抑え込めたのは────大魔王となる前に、かつての仲間達と誓った約束であった。

 

長い時を生きる魔族として、神殺しを為す者を待ち続ける。自分達の意志を託せるものを待っていたアルヴァーンだが、それも限界が来ていた。

 

多くの同胞の死と、双子の妹の無残な死によって突きつけられた現実に、心が折れていたのだ。それこそ、皆との約束を踏みにじってしまうほどに。

 

 

「彼等の意志を、願いを汲んで俺は人類に可能性を期待し、見過ごしてきた。だが、それも我慢の限界だ。この数千年、彼等の期待した者が現れる片鱗がない。さっさと人類を滅ぼし、俺が神を滅ぼせばいいと思っていた。

 

 

そんな最中、彼等が現れた」

 

「ラーヴァとオーゼンハイト殿を殺した一同ですか」

 

「そうだ。片や迷宮を攻略し、神代魔法を二つ習得した者たち。もう片方は我々が待ち続け、数千年間現れることのなかった『剣帝』、神の継承者。此方も、既に二柱の神の力を受け継いでいる────彼等が、あの人達が願い、希望を託したのは『彼等』だと思わないか?」

 

 

それは、アルヴァーンにとって一つの希望であった。

彼等ならば、自分達の使命を、託していいかもしれないと。無限に広がる闇夜を彷徨い続けた大魔王が唯一見出すことの出来た、最後の光。

 

 

「もしそうだとしたら、彼等を見定める必要がある」

 

「ええ、仰る通りです。彼等が我々に盾突き、大魔王様に矛を向ける可能性がある以上」

 

「同胞達の無念を晴らす為にも、人間は滅ぼす。彼等が神殺しになるのならば、我が手元に加えておきたい。その為にも、まずは剪定するべきか」

 

 

彼等が意志を継ぐ、解放者の待ち望んだ者達であるか。事の次第によっては、かつての仲間の希望を自身の手で潰すことになる可能性を考慮した上で、アルヴァーンは忠臣へと語り掛けた。

 

 

「────フリード、考えがある。聞いてくれるか?」

 

 

戦争が始まってから、玉座を動くことはなかった大魔王が────遂に動く。




大魔王、始動────まぁすぐには動かないけど(コソッ)

今回で明らかになった事実としては、ティオの兄 ティアの存在。そして、ティアは今現在魔王クレイドとして人類虐殺を実行しているとのこと。

そして、王域全メンバーが出たことで大魔王勢力も本格的に動き出してくる頃合いになります。さて、次章はよく話題になるら辺のとこになると思います!それでは!

清水の今後について

  • 生存その1(生き残るけど戦えない)
  • 生存その2(護衛組の一人として戦う)
  • 死亡(無慈悲に死ぬ。全員曇る)
  • 意識不明の重体として途中退場
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